説明

ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法

【課題】ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂を製造するにあたり、分散系が安定すると共に、凝集物の生成が抑制され、また、得られる複合樹脂の強度や伸度が向上し、かつ、この複合樹脂を用いた皮膜の吸水率を抑えることを目的とする。
【解決手段】ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体とを、予め混合分散した(メタ)アクリル系単量体混合液を、反応容器中の水系媒体に添加して乳化重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系重合体は、有用な高分子として広く利用されている。この(メタ)アクリル系重合体を製造するにあたり、製造環境の点、及び使用上の安全面から、水系で重合反応を行う乳化重合法がよく用いられる。
【0003】
しかし、乳化重合は、乳化剤を用いるため、得られる樹脂組成物の物性や耐水性に悪影響を与える場合がある。それを解決するために、無乳化剤乳化重合や反応性乳化剤を使用する方法や、自己分散性樹脂による方法などにより、物性や耐水性を向上させる手法が行われている。
【0004】
また、ウレタン樹脂は、自己分散性樹脂として製造可能な代表的な樹脂であり、基材への密着性、耐摩耗性、耐寒性に優れた樹脂として有用であるが、耐候性や耐溶剤性の欠点を補うため、近年、アクリル樹脂との複合による機能化が行われている。
【0005】
ウレタン樹脂は、ジオールと多価イソシアネートとを重縮合させてなる樹脂であり、(メタ)アクリル系重合体とは異なる性質を有しており、複合することで双方の樹脂の利点を活かすものとすることができる。(メタ)アクリル系重合体とウレタン樹脂との複合樹脂を得るには、両者を単純に混合する方法(いわゆるポリマーブレンド)の他に、ウレタン樹脂と(メタ)アクリル系重合体とは重合の仕方が違うため、予め重合させたウレタン樹脂のエマルジョンにアクリル系単量体を添加して、ウレタン樹脂をシードとしてアクリル系単量体の重合を行う方法が知られている。
【0006】
また、反応容器に仕込んだウレタンの水分散体に、アクリル系単量体を加えてシード重合してウレタン−アクリル系重合体の粒子内混合物のエマルジョンを得、次いで、さらにこのエマルジョンに、アクリル系単量体を添加して、前記の粒子内混合物をシードとして重合したウレタン樹脂とアクリル樹脂との複合エマルジョンが知られている(特許文献1、請求項1、[0007])。
【0007】
さらに、芯部を構成するアクリル系重合体と殻部を構成するウレタン系重合体からなる複合樹脂が知られている(特許文献2)。そして、この複合樹脂の製造方法としては、反応容器に仕込んだウレタン系重合体のエマルジョンに、アクリル系単量体を添加して乳化重合する方法、反応容器に仕込んだアクリル系重合体の存在下に、ラジカル重合基を有するウレタン系プレポリマーや、ウレタン系重合体をウレタン系単量体に溶解したものを添加して重合する方法等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−120304号公報
【特許文献2】特開平9−111132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を採用すると、乳化剤を用いずに、安定的なエマルジョンを得ることができるものの、アクリル樹脂単独の場合に比べ、吸水率が大きくなったり、強度が不十分となったり、重合中に凝集物が発生しやすいという問題が生じることがある。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法のうち、ウレタン系重合体のエマルジョンにアクリル系単量体を添加して乳化重合をする場合は、特許文献1の場合と同様に、凝集物が発生しやすく強度が不十分となる傾向がある。また、アクリル系重合体の存在下にラジカル重合基を有するウレタン系プレポリマーを添加する場合、シード重合によるものとは性質が異なる樹脂が得られる傾向がある。さらに、アクリル系重合体の存在下に、ウレタン系重合体をウレタン系単量体に溶解したものを添加して重合させようとしても、分散系が安定せず、重合が安定しない場合がある。
【0011】
そこでこの発明は、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂を製造するにあたり、分散系が安定すると共に、凝集物の生成が抑制され、また、得られる複合樹脂の強度や伸度が向上し、かつ、皮膜の吸水率を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体とを混合した(メタ)アクリル系単量体混合液を、反応容器中の水系媒体に添加して乳化重合することにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる製造方法によると、乳化重合時の反応系を安定させることができるので、分散系が安定し、また、凝集物の生成が抑制される。また、得られる複合樹脂の強度や伸度を向上させることができ、かつ、この複合樹脂を用いた皮膜の吸水率を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体とを混合した(メタ)アクリル系単量体混合液を用いて、反応容器中の水系媒体に添加して乳化重合することにより、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂を製造する方法である。なお、この発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」を示す。
【0015】
上記(メタ)アクリル系単量体は、(メタ)アクリル基を有する単量体である。その中でも、主成分として用いる単量体としては、ウレタン樹脂の末端と反応するのを防止するため、イソシアネート基に対して反応性を有さない単量体、すなわち、活性水素基を含まない単量体が好ましい。他方、乳化重合の安定化のためには、親水性基(水酸基、カルボキシル基、エーテル基等)を有する単量体を併用することが好ましい。
【0016】
上記の(メタ)アクリル系単量体のうち(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸s−ペンチル、(メタ)アクリル酸1−エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチルブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸t−ペンチル、(メタ)アクリル酸3−メチルブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸4−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−ヘプチル、(メタ)アクリル酸3−ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸3,3,5−トリメチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸テトラコシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチルが挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素原子数が1〜24の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、とりわけアルキル基の炭素原子数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0017】
上記の親水性基を有する単量体としては、以下の単量体を例示することができる。カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−アクリロイルオキシプロピオン酸等があげられる。
【0018】
また、水酸基を有する単量体としては、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。
【0019】
さらに、エーテル基含有単量体としては、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0020】
上記親水性基含有単量体の含有割合は、単量体混合物に含有される単量体の全量を100重量部としたとき、0.5重量部以上がよく、1重量部以上が好ましい。0.5重量部より少ないと、乳化重合の安定性が十分に向上しない傾向がある。一方、含有割合の上限は、20重量部がよく、15重量部が好ましい。20重量部より多いと、重合中にゲル化しやすくなり、重合が困難となる場合がある。
【0021】
これらの成分は1種類のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
また、上記の(メタ)アクリル系単量体混合液には、(メタ)アクリル系単量体とともに、重合性二重結合を有するその他の単量体を含んでいてもよい。このようなその他の単量体としては、エステル基含有ビニル単量体、スチレン誘導体、ビニルエーテル系単量体が挙げられる。
【0023】
上記エステル基含有ビニル単量体の具体例としては、炭素原子数が1〜8の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル類、酢酸ビニル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、(メタ)アクリル酸ビニル等の疎水性ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、ラジカル重合性不飽和基含有シリコンマクロモノマー等の不飽和基含有マクロモノマー等が例示される。
【0024】
上記(メタ)アクリル系単量体は、使用する(メタ)アクリル系単量体から得られる重合体のガラス転移温度(Tg)が、−80℃以上となるように選択するのが好ましく、−65℃以上となるように選択するのがより好ましい。−80℃より低い(メタ)アクリル系単量体組成では、反応が困難となるという問題点を生じるおそれがある。一方、ガラス転移温度(Tg)の上限は、110℃が好ましく、80℃がより好ましい。110℃を超えると、最低造膜温度が高くなり、本願発明で得られる複合樹脂を用いても、均一な皮膜が形成されないことがある。
【0025】
また、上記スチレン誘導体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン等があげられる。さらに、上記ビニルエーテル系単量体の具体例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が例示される。
【0026】
さらにまた、得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂から形成される皮膜の強度及び伸びを向上させるため、上記(メタ)アクリル系単量体混合液には、ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体に加え、ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体を、添加してもよい。これから得られる複合樹脂を、多価ヒドラジド化合物により架橋すると効果的である。
【0027】
上記ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体としては、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセチルアセトン(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は複数種をあげることができる。
【0028】
このケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体の含有割合としては、上記(メタ)アクリル系単量体に含まれる全単量体を100重量部としたとき、0.1重量部以上がよく、0.3重量部以上が好ましい。0.1重量部より少ないと、添加による効果が十分得られない場合がある。一方、使用量の上限としては、30重量部がよく、20重量部が好ましい。30重量部より多いと、反応系が不安定となり、重合を阻害する場合がある。
【0029】
上記ウレタン樹脂は、ジオール成分と多価イソシアネート化合物とを反応させた重合体であって、上記(メタ)アクリル系単量体と混合可能な平均粒子径及び分子量を有するものであり、水分散性のものが好ましい。このようなウレタン樹脂としては、市販のウレタン水性エマルジョンをそのまま用いてもよい。具体的には、大日本インキ化学工業(株)製:ハイドランHW−301、HW−310、HW−311、HW−312B、HW−333、HW−340、HW−350、HW−375、HW−920、HW−930、HW−940、HW−950、HW−970、AP−10、AP−20、ECOS3000、三洋化成工業(株)製:ユープレンUXA−3005、ケミチレンGA−500、第一工業製薬(株)製:スーパーフレックス110、スーパーフレックス150、スーパーフレックス260S、スーパーフレックス210、スーパーフレックス420、スーパーフレックス500M、アデカ社製:アデカボンタイターUHX−210、アデカボンタイターUHX−280等の市販品を用いてもよい。
【0030】
上記ジオール成分とは、1分子中に2つのヒドロキシル基を有する有機化合物をいい、具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオール類、又はこれらのジオール類の少なくとも一種と、アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸の少なくとも一種とを重縮合して得られるポリエステルジオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンジオール、ポリテトラメチレンエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等のポリエーテルジオール類、その他、ポリブタジエンジオール、水添ポリブタジエンジオール、ポリアクリル酸エステルジオール等があげられる。
【0031】
上記多価イソシアネート化合物とは、1分子中に少なくとも2つのイソシアネート基を有する有機化合物をいい、脂肪族、脂環式、芳香族等の多価イソシアネート化合物を用いることができる。このような多価イソシアネート化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート等をあげることができる。これらの内で、脂肪族又は脂環式のイソシアネートは黄変が少ない点で好適である。
【0032】
上記ウレタン樹脂を製造するウレタン生成反応は、無溶媒下でも行うことができるが、反応を均一に行うために、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類、その他のイソシアネート基に対して不活性で水との親和性の大きい有機溶媒を使用してもよい。
【0033】
また、イソシアネート基に対して反応性のない、すなわち、活性水素基を含まない上記(メタ)アクリル系単量体やその他の単量体をこのウレタン樹脂の製造の際に存在させてもよい。この場合、この上記(メタ)アクリル系単量体やその他の単量体によって反応系が希釈されて反応を均一に行うことができる。このウレタン生成反応は、50〜100℃
程度で、0.5〜20時間程度行えばよい。
【0034】
上記ウレタン生成反応における、ジオール成分と多価イソシアネート化合物との使用割合は、特に限定されるものではないが、当量比で、ジオール成分:多価イソシアネート化合物=1:1.1〜2がよく、1:1.2〜1.9が好ましい。
【0035】
多価イソシアネート化合物の割合を、上記範囲より高くすると、水分散の際に残存するイソシアネートと水との反応により、炭酸ガスの発生が顕著に起こり、発泡及び凝集が起こるという問題点を生じる場合がある。一方、上記範囲より少なくすると、生成されるウレタンプレポリマーが高粘度化してしまい、ゲル状になることがあり、作業上問題になる場合がある。
【0036】
上記ウレタン樹脂の製造に使用される触媒としては、一般にウレタン化反応に使用される触媒が使用できる。具体例としては、ジブチル錫ジラウレートやジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の有機アミン又はその塩等があげられる。
【0037】
上記のウレタン樹脂の重量平均分子量は500以上であるとよく、1000以上であると好ましい。重量平均分子量が500未満であると、得られる複合樹脂を用いて製造した皮膜が硬くなり、所望の物性(伸度等)が得られ難くなるおそれがある。一方で、50万以下であるとよく、10万以下であると好ましい。50万より大きいと、シードそのものの粘度が高くなり、ゲル化したり、安定な(メタ)アクリル系単量体混合液が得られなくなったりする場合がある。
【0038】
上記のウレタン樹脂を後述する水系媒体に分散させて、ウレタン樹脂エマルジョンを生成させると、上記(メタ)アクリル系単量体を混合して得られる、上記(メタ)アクリル系単量体混合液を水分散液とすることができる。この水分散液は、(メタ)アクリル系単量体の乳化重合反応にそのまま供与することができ、乳化重合時の反応系をより安定させることが可能となり、得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂エマルジョンの分散系を安定化させることができる。また、この場合、乳化重合時に生じやすい凝集物の生成を抑制させることが可能となる。
【0039】
上記ウレタン樹脂エマルジョンを生成する場合、ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入しておくと、自己分散性樹脂としてエマルジョン化が可能となり好ましい。また、必要に応じて、乳化剤を用いると、エマルジョンをより安定化させることができ、好ましい。
【0040】
上記乳化剤は、通常、重合モノマー全量に対して、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲で用いられる。この乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤を用いることができる。そして、これらの乳化剤は、1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0041】
上記のアニオン性界面活性剤の具体例としては、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリル燐酸エステル等の非反応性界面活性剤、及びアルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば三洋化成(株)製:エレミノール(登録商標)JS−2、例えば花王(株)製:ラテムル(登録商標)S−180A、S−180等があげられる。)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(例えば第一工業製
薬(株)製:アクアロン(登録商標)HS−10,HS−5,BC−10,BC−5等があげられる)、α−スルホ−ω−(1−(ノニルフェノキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩(例えば旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(登録商標)SE−10,SE−1025A等があげられる)、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(例えば第一工業製薬(株)製:アクアロン(登録商標)KH−10等があげられる)、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩(例えば旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(登録商標)SR−10,SR−1025等があげられる)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(例えば花王(株)製:ラテムル(登録商標)PD−104等があげられる)等の反応性界面活性剤等があげられる。
【0042】
上記のカチオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等の非反応性界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
上記のノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピルブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非反応性界面活性剤、α−ヒドロ−ω−(1−アルコキシメチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル))(旭電化工業(株)製:アデカリアソープER−10,ER−20,ER−30,ER−40)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬(株)製:アクアロンRN−20,RN−30,RN−50)、ポリオキシアルキルアルケニルエーテル(花王(株)製:ラテムルPD−420,PD−430,PD−450)等の反応性界面活性剤等があげられる。
【0044】
さらに、上記乳化剤としては、上記したもの以外に、両イオン性成分として、両イオン性の界面活性剤を用いることができる。
【0045】
上記両イオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−ラウリル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−ステアリル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ステアリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ステアリルヒドロキシスルホベタイン等の非反応性界面活性剤があげられる。
【0046】
上記ウレタン樹脂エマルジョン中の水分散体の平均粒子径は、30nm以上であると好ましく、50nm以上であるとより好ましい。30nm未満では小さすぎて、水分散液の粘度が高くなり、流動性が低下するおそれがある。一方、1500nm以下であると好ましく、1000nm以下であるとより好ましい。1500nmを超えると、得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の平均粒子径が大きくなり、保存中に分離・沈降するおそれがある。このような条件を満たすウレタン樹脂エマルジョンの例としては、前述した市販されている水分散性ウレタン樹脂があげられる。
【0047】
上記水系媒体としては、水や、水とメタノール、エタノール等の水と相溶可能な有機溶媒との混合溶液等を用いることが出来る。この中でも、環境的な側面から水を用いるのが好ましい。
【0048】
上記ウレタン樹脂エマルジョンの固形分含有率は、10重量%以上であるとよく、25重量%以上であると好ましい。10重量%より少ないと。(メタ)アクリル系単量体との分散液の濃度が低くなり、結果として得られる複合樹脂分散液の濃度が低くなって、塗布後の乾燥のために、時間やエネルギーが多く必要となり、作業性が悪化するおそれがある。一方、上限は、70重量%がよく、60重量%が好ましい。70重量%より多いと、分散液の粘度が高くなり、作業性が悪化する傾向がある。
【0049】
なお、上記ウレタン樹脂の生成を有機溶媒環境下で行った場合、有機溶媒から上記水系媒体に転相させて、有機溶媒を除去しておくと、その後の乳化重合を阻害しなくなるので望ましい。
【0050】
次に、上記(メタ)アクリル系単量体混合液は、上記ウレタン樹脂又はウレタン樹脂エマルジョンと、1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体とを混合することによって得られる。
【0051】
上記ウレタン樹脂エマルジョンを用いる場合は、得られる(メタ)アクリル系単量体混合液は、(メタ)アクリル系単量体混合エマルジョンとなる。なお、上記ウレタン樹脂を用いる場合であっても、(メタ)アクリル系単量体の混合前、混合時、又は混合後に、水系媒体を加えて、エマルジョン化してもよい。
【0052】
上記のエマルジョン化をする場合、分散性を向上させるため、乳化剤を用いるのが好ましい。この乳化剤としては、上記した乳化剤と同様の乳化剤を用いることができる。
【0053】
また、この乳化剤の含有量は、上記(メタ)アクリル系単量体に対して、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上が好ましい。0.05重量%未満であると、乳化分散が十分に行われず、添加後の反応が不安定となる可能性が高くなる。一方、上限は、10重量%が好ましく、5重量%がより好ましい。10重量%を超えると、乳化剤により、生成する皮膜の耐水性や吸水性が悪くなる傾向が生じるおそれがある。
【0054】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液中の、上記ウレタン樹脂と上記(メタ)アクリル系単量体との混合比(ウレタン樹脂/(メタ)アクリル系単量体)は、重量比で、1/99以上であると好ましく、5/95以上であるとより好ましい。1/99未満であると、ウレタン樹脂量が少なくなり過ぎて、強度向上や伸度改良の効果を十分に得られなくなるおそれがある。一方、上限は、80/20が好ましく、60/40がより好ましい。80/20を超えると、上記(メタ)アクリル系単量体が不足して、得られる皮膜の吸水性が悪化するおそれがある。
【0055】
なお、上記ウレタン樹脂のウレタン生成反応時に、(メタ)アクリル系単量体を添加する場合、上記(メタ)アクリル系単量体混合液を製造する際に使用される(メタ)アクリル系単量体の使用量は、上記ウレタン生成反応時に使用した(メタ)アクリル系単量体量を差し引けばよい。
【0056】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液が水系媒体に分散された分散液でない場合は、上記水系媒体や、必要に応じて乳化剤等を加えて分散させ、(メタ)アクリル系単量体分散液としてもよい。分散させることにより、後述する乳化重合反応において、(メタ)アクリル系単量体の水系媒体中への分散がより容易となり、分散系を安定させることができる。そして、分散系の安定により、乳化重合時に生じやすい凝集物の生成を抑制することができる。
【0057】
上記の(メタ)アクリル系単量体混合液又は、(メタ)アクリル系単量体分散液の固形分濃度は、30重量%以上であるとよく、40重量%以上であると好ましい。30重量%未満であると、得られる複合樹脂の固形分濃度が低くなり、皮膜を形成させる際に、乾燥のためのエネルギーや時間が多く必要となり、作業上の問題点が生じるおそれがある。一方、上限は、80重量%がよく、70重量%が好ましい。80重量%を超えると、上記の混合液や分散液の粘度が高くなり、流動性が低下するおそれがある。
【0058】
上記の(メタ)アクリル系単量体混合液又は(メタ)アクリル系単量体分散液は、水系媒体に添加されることにより、乳化重合が開始される。この水系媒体としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0059】
上記水系媒体中に、乳化剤を含んでいると、乳化重合の反応系を安定させることができるので好ましい。ここで用いる乳化剤としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0060】
上記の反応容器中の水系媒体に含まれる上記乳化剤の量は、上記(メタ)アクリル系単量体に対して0.05重量%であると好ましく、0.1重量%以上であるとより好ましい。0.05重量%未満であると、反応系での分散が十分にされず、反応系が不安定となる可能性が高くなる。一方で、上記(メタ)アクリル系単量体に対して10重量%以下であると好ましく、5重量%以下であるとより好ましい。10重量%を超えると、乳化剤により、得られる皮膜の耐水性や吸水性が悪化するおそれがある。
【0061】
上記の(メタ)アクリル系単量体混合液又は(メタ)アクリル系単量体分散液を上記反応容器中の水系媒体に添加する方法として、連続的に添加する方法、逐次的に添加する方法、一括して添加する方法等が挙げられる。このうち、連続的又は逐次的に添加する方法であると、生じる反応熱を制御しやすく、反応条件を安定させやすくなるので好ましい。
【0062】
上記乳化重合において、ラジカル重合開始剤は、前もって上記水系媒体に加えてもよく、上記の(メタ)アクリル系単量体混合液又は(メタ)アクリル系単量体分散液の滴下にあわせて、ラジカル重合開始剤を滴下してもよく、その両方を行ってもよい。
【0063】
このラジカル重合開始剤としては、慣用のラジカル重合開始剤を用いればよく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ系開始剤、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤、t−ブチルハイドロパーオキサイドやジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系開始剤を用いることができる。また、有機過酸化物系開始剤や過硫酸塩系開始剤と、アスコルビン酸、ロンガリット又は亜硫酸金属塩等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤も好ましく用いられる。上記ラジカル重合開始剤の使用量は、上記(メタ)アクリル系単量体及び上記その他の単量体の合計量に対して、0.01〜5重量%程度、好ましくは0.05〜2重量%程度とすればよい。
【0064】
上記乳化重合の重合温度は10〜90℃で行うのがよく、30〜70℃で行うとより好ましい。この重合は、通常、発熱が終了した後、40〜90℃程度に30分〜3時間程度維持することによって、ほぼ完了する。これにより、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の水性エマルジョンが得られる。
【0065】
上記ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体を用いる場合、乳化重合後に、末端に複数のヒドラジド基を有する化合物(下記式(1)、以下、「多価ヒドラジド化合物」と称することがある。)を添加すると、自己架橋性が発現する点で好ましい。このようにすることにより、得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂から形成される皮膜の強度や伸びの向上、得られる多価ヒドラジド化合物を含むウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液が自己架橋性を有しつつ、安定的に長期保存が可能である。
【0066】
【化1】

【0067】
なお、上記式(1)中、Rは、直接結合、炭素数1〜8の2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基、アルケニレン基等)、又は下記式(2)で表される基を示す。
【0068】
【化2】

【0069】
上記末端にヒドラジド基を複数有する化合物(多価ヒドラジド化合物)としては、分子中に2個ヒドラジド基を有するヒドラジン誘導体があげられる。具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジドカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等があげられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アジピン酸ジヒドラジド及び1,3−ビス(ヒドラジドカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインが水への溶解性が良好である点から好ましく、さらにアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0070】
このような多価ヒドラジド化合物の使用量は、上記のケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体の使用量に対し、0.1倍当量以上が好ましく、0.3倍当量以上がより好ましい。0.1倍当量より少ないと、架橋不足となり、所望の効果が十分得られない場合がある。一方、使用量の上限は1.5倍当量が好ましく、1.2倍当量がより好ましい。1.5倍当量より多いと、未反応で残留する多価ヒドラジド化合物が、塗膜欠陥(ブツ、フクレ等)の原因となる場合がある。
【0071】
なお、多価ヒドラジド化合物の添加時期は、乳化重合終了後であれば、特に限定されず、例えば、乳化重合が終了し、未反応単量体の除去後、分散液の移送中やその前後、あるいは、酸化防止剤、充填剤、安定剤等の各種助剤添加時やその前後、などがあげられる。
【0072】
なかでも、本発明の特徴である保存安定性を活かしつつ、使用の利便性を考慮すると、未反応単量体の除去後や、生成分散液の移送中又はその前後に添加するのが、多価ヒドラジド化合物の均一な分散・溶解と、それによる皮膜形成時の均一な架橋構造形成の点で好ましい。
【0073】
この発明にかかる製造方法で得られたウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂から形成される皮膜は、十分な強度及び伸度が得られ、また、耐水性も優れている。
【0074】
特に、上述のように、ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体を共重合させ、かつ、これと多価ヒドラジド化合物を併用すると、架橋構造形成による皮膜の強度の向上を図ることができて好ましい。このとき、吸水率も改良される傾向となる。
【0075】
この発明にかかる製造方法で得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の破断強度は、通常、1MPa以上であり、3MPa以上であると好ましい。1MPa未満であると、皮膜の強度が弱く、保護膜等としての効果が不十分となるおそれがある。なお、この破断強度は、テンシロン(商品名)等の引張強度測定機等によって測定することができる。
【0076】
この発明にかかる製造方法で得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の伸度は、10%以上とすることができ、100%以上とすることが好ましい。10%未満であると、得られる皮膜が脆くなるという問題点を生じるおそれがある。なお、この伸度は、テンシロン(商品名)等の引張強度測定機等によって測定することができる。
【0077】
この発明にかかる製造方法で得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の吸水率は、30%以下とすることができ、20%以下とすることが好ましい。30%を超えると、皮膜の耐水性が不足するおそれがある。なお、この吸水率は、後述する耐水性評価方法にしたがって測定することができる。
【0078】
この発明にかかるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂は、接着剤、積層体、繊維加工用処理剤、フォーム(発泡層)形成剤、不織布用結合剤、塗料、インキ、シーリング剤、コーティング剤、化粧料等の構成成分の一部又は全部として使用することができる。また、このウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂は、押出成形や発泡成形等の成形や、塗工、浸漬、噴霧等により、皮膜を形成させることができる。そして、この皮膜を、製品の表面に貼り付けたり、製品表面にこの皮膜を形成させることにより、皮膜を有する物品を得ることができる。
【0079】
このように、製品の表面に皮膜を設けることにより、表面意匠性の向上、表面保護、耐水・耐薬品性の向上のような特徴を発揮することができる。例えば、塗料組成物として用いる場合には、この発明にかかる製造方法で得られるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂水性分散液に、必要に応じて、顔料成分、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、可塑剤等の公知の添加剤を配合し、配合固形分は、20〜70重量%程度で用いることができる。この塗料は、木質材、金属、ガラス、布、皮革(合成皮革を含む)、紙、プラスチック等の各種の基材に対して適用することができる。
【実施例】
【0080】
以下、この発明を、実施例を用いてより具体的に示す。なお、この発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
【0081】
[強度、伸度の測定方法]
得られたウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液を、ポリプロピレン樹脂製テストプレート(日本テストパネル(株)製:標準試験片)上に皮膜厚が200μmとなるように、テープにてギャップを作成した上、ガラス棒を用いて塗布し、室温で3日間乾燥した。得られた皮膜を0.5cm幅の短冊形となるように切り出し、試験片とした。これを、オートコムC型万能機((株)キーエスイー製)を用いて、23℃、50%RHの測定雰囲気下、クロスヘッドスピード200mm/min、チャック間隔20mmの条件で、引張試験を行い、最大強度(MPa)及び最大伸度(%)を測定した。
【0082】
[耐水性試験]
得られた皮膜を3cm×3cmに切り出して試験片とする。この試験片を23℃/50
%RHにてイオン交換水に1日、3日、7日間それぞれ浸漬後、試験片を取り出し、面積を測定して面積膨潤率を算出し、重量を測定して吸収率を算出し、また、取り出された試験片を105℃×3時間乾燥させて重量を測定し、溶出率を算出した。
・吸水率(%)=(浸漬後重量−浸漬前重量)/浸漬前重量×100
・膨潤率(%)=(浸漬後面積−浸漬前面積)/浸漬前面積×100
・溶出率(%)=(乾燥後重量−浸漬前重量)/乾燥前重量×100
【0083】
[粘度測定]
約500mlのウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液を、気泡が混入しないように採取し、試験温度25℃±1℃にて、JIS K 7117に規定する単一円筒回転粘度計:BM型粘度計((株)トキメック製)を用いて測定した(JIS K 6828に準拠)。
【0084】
[pH測定]
約500mlのウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液を、気泡が混入しないように採り、試験温度25℃±1℃にて、JIS Z 8802に規定するpH計に、JIS Z 8805に規定するガラス電極を取り付けて測定した(JIS K 6828に準拠)。
【0085】
[固形分測定]
アルミニウム箔の皿に、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液1gを塗り広げ、正確に秤量する。秤量後、室温で12時間以上放置した後、105℃±2℃に保った恒温槽の中心部で180±5分間乾燥した後、デシケーターの中で放冷し、その質量を秤量し、以下、下記の式に従って算出した(JIS K 6828に準拠)。
・固形分(%)=(乾燥後の試料の質量/乾燥前の試料の質量)×100
【0086】
[平均粒子径測定]
ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液を、フィルター(アドバンテック社製:DISMIC−25cs)でろ過したイオン交換水で10000倍に希釈する。それを測定用セルに充填し、動的光散乱法(大塚電子(株)製:ELS−8000を使用)にて、平均粒子径を測定した。
なお、ウレタンの水分散液についても、同様の方法で平均粒子径を測定した。
【0087】
<原材料>
[ウレタン樹脂]
・大日本インキ化学(株)製:ハイドランHW−920…平均粒子径365nm、固形分50.0重量%、ポリエステル系無黄変タイプ、以下「HW−920」と称する。
・大日本インキ化学(株)製:ハイドランHW−930…平均粒子径200nm、固形分50.0重量%、ポリエステル系無黄変タイプ、以下「HW−930」と称する。
・大日本インキ化学(株)製:ハイドランHW−940…平均粒子径336nm、固形分50.6重量%、ポリエステル系無黄変タイプ、以下「HW−940」と称する。
【0088】
[(メタ)アクリル系単量体]
・メタクリル酸メチル…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・アクリロニトリル…ダイヤニトリックス(株)製、以下「AN」と略する。
・アクリル酸エチル…三菱化学(株)製、以下「EA」と略する。
・アクリル酸ブチル…三菱化学(株)製、以下「BA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)製、以下「MAA」と略する。
・イタコン酸…磐田化学工業(株)製、以下「IA」と略する。
【0089】
[ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体]
・N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド…日本化成(株)製:ジアセトンアクリルアミド、以下、「DAAm」と略する。
【0090】
[多価ヒドラジド化合物]
・アジピン酸ジヒドラジド…大塚化学(株)製:以下、「ADH」と略する。
【0091】
[ラジカル重合開始剤]
・過硫酸カリウム…(株)ADEKA製、以下「KPS」と略する。
・無水重亜硫酸ナトリウム…(有)戸川化学工業所、以下「SBS」と略する。
[乳化剤]
・アデカリアソープER−30…(株)ADEKA製、以下「ER−30」と略する。
【0092】
(実施例1〜9)
表1,4に記載の種類及び量のウレタン樹脂に、表1〜4に記載の種類及び量の(メタ)アクリル系単量体を添加・混合し、(メタ)アクリル系単量体混合液を調製した。次いで、それらに乳化剤を、(メタ)アクリル系単量体総量に対して3重量%を加え、さらに、液全体の固形分が55重量%となるようにイオン交換水を添加し、(メタ)アクリル系単量体混合液エマルジョンを得た。
また、攪拌翼を有する容積1リットルの反応容器に、水を20重量部添加した。次いで、この反応容器の撹拌翼を60rpmで回転させて撹拌しつつ、60℃に昇温した。そして、上記(メタ)アクリル系単量体混合液エマルジョンを、3.5時間かけて連続的に滴下し、また同時に、5重量%KPS水溶液及び10重量%SBS水溶液を連続滴下し、乳化重合反応を行った。3.5時間後の滴下終了時からさらに、60℃で2時間保持して、重合を完結させた。
得られたウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液について、上記の各種測定を行った。その結果を表1,4に示す。
【0093】
(実施例10)
DAAmを加え、かつ、アクリル系モノマーの使用量を表1とした以外は、実施例3と同様にして、ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液を得た。
得られたウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の分散液に、アジピン酸ジヒドラジドを表1に記載の量だけ添加した。その結果を表1に示す。
【0094】
(比較例1,2,8,13,15)
表2〜4に記載の種類及び量のウレタン樹脂、又は表2〜4に記載の種類及び量の(メタ)アクリル系単量体のみで構成されるエマルジョンのどちらか一方のみを用いて、上記の各種測定を行った。その結果を表2〜4に示す。
【0095】
(比較例3〜7,12,14,16)
表2〜4に記載の種類及び量のウレタン樹脂と、表2〜4に記載の種類及び量の(メタ)アクリル系単量体のみで構成されるエマルジョンを、表2〜4に記載の重量比でブレンドしたものを用いて、上記の各種測定を行った。その結果を表2〜4に示す。
【0096】
(比較例9〜11)
(メタ)アクリル系単量体混合液として、(メタ)アクリル系単量体のみを加え、ウレタン樹脂を加えなかったものを用い、また、反応容器に表3に記載のウレタン樹脂を加えた以外は、実施例1に記載の方法にしたがって、乳化重合を行った。
得られたウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂のエマルジョンについて、上記の各種測定を行った。その結果を表3に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体とを、予め混合分散した(メタ)アクリル系単量体混合液を、反応容器中の水系媒体に添加して乳化重合するウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項2】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液の上記反応容器中の水系媒体中への添加を、連続的又は逐次的に行う請求項1に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項3】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液が水系媒体に分散されたものである請求項1又は2に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項4】
上記ウレタン樹脂は、水系媒体に分散された水分散体であり、かつ、その水分散体の平均粒子径が30nm以上1500nm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項5】
上記反応容器中の水系媒体は、上記の(メタ)アクリル系単量体混合液中に含まれる(メタ)アクリル系単量体に対して、0.05重量%以上10重量%以下の乳化剤を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項6】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液中の、ウレタン樹脂と(メタ)アクリル系単量体との混合比が、重量比で1/99〜80/20である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項7】
上記(メタ)アクリル系単量体混合液は、ウレタン樹脂と1種又は複数種の(メタ)アクリル系単量体に加え、ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体を、全単量体100重量部に対して、0.1〜30重量部含有させた混合液であり、かつ、乳化重合後に、末端に複数のヒドラジド基を有する化合物を加える請求項1乃至6のいずれか1項に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項8】
上記ケト基又はアルデヒド基に基づくカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する重合性単量体は、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセチルアセトン(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は複数種である請求項7に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項9】
上記ウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂が水性分散液として生成される請求項1乃至8のいずれか1項に記載のウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂の製造方法。
【請求項10】
コーティング剤又は接着剤の構成成分として含有される請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂。
【請求項11】
皮膜、又は物品を構成する皮膜の原料として用いられる請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法で製造されるウレタン−(メタ)アクリル複合樹脂。

【公開番号】特開2010−163612(P2010−163612A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284976(P2009−284976)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】