説明

ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物

【課題】非窒素系溶媒溶解性とワニス安定性、低温乾燥/硬化性、低反り性、屈曲性、印刷適性、難燃性に優れ、かつ耐熱性、耐薬品性、電気特性、作業性及び経済性に優れるウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、ジオール化合物、脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体を必須の成分として生成されるウレタン結合を有するウレタン変性ポリイミド系樹脂、(B)ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、又はエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1種からなるエポキシ樹脂、(C)無機あるいは有機フィラー、(D)非ハロゲン系難燃剤を含むことを特徴とするウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性、耐熱性、柔軟性を有し、印刷機、ディスペンサー又はスピンコーターなどの塗布方法に適したウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物に関する。本発明のウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物は、電子部品のフレキシブルプリント配線基板のソルダーレジスト層、表面保護層、層間絶縁層又は接着層などに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
現在、フレキシブルプリント配線基板は、柔軟性や小スペース性を要する電子機器部品、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置用デバイス実装基板や、携帯電話、デジタルカメラ、携帯型ゲーム機などの基板間中継ケーブル、操作スイッチ部基板等に広く使用されている。
【0003】
ところで、フレキシブルプリント配線基板の構成要素であるソルダーレジスト層、表面保護層、層間絶縁層又は接着層は、溶液形態で塗布、印刷される場合が多いため、その材料として、溶媒可溶な閉環型ポリイミド系樹脂からなる組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、従来、ポリイミド系樹脂のワニス化のための溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン等の高沸点窒素系極性溶媒が用いられているため、乾燥/硬化時には200℃以上の高温長時間の硬化工程が必要となり、電子部材の熱劣化が生じる問題があった。また、基材へワニスを塗布した後、長期間放置すると、高沸点窒素系溶媒の吸湿によるインキ、塗膜の白化及びボイドが生じる場合があり、作業条件の設定が煩雑になる問題があった。さらに、ポリイミド系樹脂は一般的に高弾性率で硬いため、フィルム、銅箔などの基材に積層した場合、弾性率の差から反り等が発生するため、後工程上問題があった。また、硬化膜は柔軟性に欠け、屈曲性に劣る問題があった。
【0005】
一方、電子部品には難燃性が求められる場合が多いが、従来難燃剤として使用されてきたデカブロムエーテルに代表されるハロゲン含有化合物や三酸化アンチモンのような重金属化合物は規制の動きが高まっている。ポリイミド系樹脂はそれ自体比較的難燃性が高いが、さらにUL規格のような高い難燃性が求められる場合には、リン化合物、窒素化合物、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)などの非ハロゲン系難燃剤が使用される。しかしながらこれらの難燃剤はハロゲン系に比較して難燃性が十分でなく、また、リン酸エステルに代表されるリン系の難燃剤は耐加水分解性や耐熱性に劣る問題があった。
【0006】
非窒素系溶媒に可溶であり、樹脂を可撓化及び低弾性率化することにより低反り及び柔軟性を付与したポリイミド系樹脂としては、例えば、ポリシロキサン変性ポリイミド系樹脂が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0007】
これらのポリシロキサン変性ポリイミド系樹脂は、低弾性率化のため高価なジメチルシロキサン結合を有するジアミンを出発原料として用いており、経済性に劣る問題があった。また、ポリシロキサン共重合量の増加に伴い、密着性、耐溶剤性、耐薬品性が低下する問題があった。
【0008】
これらの欠点を改良するために、例えば、ポリカーボネート変性ポリイミド系樹脂を用いた組成物が提案されている(特許文献3〜5参照)。
【0009】
これらのポリカーボネート変性ポリイミド系樹脂は、ポリシロキサンに由来する欠点が改良されており、かつ良好な印刷適性を有するが、この樹脂から得られる組成物では、反りを低減するためにポリイミド系樹脂のポリカーボネート変性量を多くする必要があり、耐熱性が低下する傾向にあった。また、ワニス安定性が低く、保管中数日でワニスが固化する場合があった。さらに、一般に低反り性を得るために低弾性率化成分を導入する場合、相反して難燃性が低下する場合が多い。ここに提案されている組成物から得られる塗膜も十分な難燃性が得られなかった。
【0010】
非窒素系溶媒に可溶であり、樹脂を可撓化及び低弾性率化することにより低反り及び柔軟性を有し、かつUL規格による難燃性の基準を満足するポリイミド系樹脂組成物として、例えば、ポリカーボネート変性ポリイミド系樹脂に水和金属化合物を加えた組成物が提案されている(特許文献6〜8参照)。
【0011】
これらのポリカーボネート変性ポリイミド系樹脂組成物は、低反り性、屈曲性及び難燃性を有するが、反りを低減するために低弾性率化成分を導入する場合、相反して耐熱性及び難燃性が低下する場合が多い。
【0012】
ここに提案されている組成物は比較的厚いポリイミドフィルム基材を使用するテープキャリアーパッケージ(TAB、COF)用途向けであり、1mil以下の薄いポリイミドフィルム基材を使用するフレキシブルプリント配線基板(FPC)用途向けでは、十分な難燃性が得られなかった。また薄いポリイミドフィルム基材を使用した場合、低反り性も十分なものではなかった。
【0013】
特許文献9には、ポリシロキサン変性ポリイミド系樹脂に、非ハロゲン系難燃剤としての水和金属化合物、リン化合物、窒素化合物をフィラーとして使用したポリイミド系組成物が提案されている。このポリイミド系樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線基板用途として、半田耐熱性や印刷適性などの特性に加え、UL規格による難燃性の基準を満足することが期待されるが、上述したようにポリシロキサン化合物を共重合することによる問題があった。また、特許文献7〜8と同様、難燃効果の低い水和金属化合物が多量に含まれることにより、弾性率が高くなり、低反り性、柔軟性が低下してしまう問題があった。
【0014】
特許文献10には、上記の欠点を改良するために、特殊なモノマーを使用したシロキサンジアミン変性ポリイミド系樹脂組成物が提案されている。このポリイミド系樹脂組成物は無機難燃剤を含まず、低反り性を損なわないことが期待されるが、高価なモノマーを使用しており経済性に劣ることと、シロキサン化合物に起因する密着性等の問題があった。
【0015】
特許文献11、12には、非ハロゲン系難燃剤として、ジアルキルホスフィネート金属塩を使用したポリウレタン系樹脂組成物が提案されている。これらのポリウレタン系樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線基板用途として、半田耐熱性や印刷適性などの特性に加え、UL規格による難燃性の基準を満足することが期待されるが、水和金属化合物と同様、難燃剤は樹脂に相溶せずフィラーとして、かつ耐熱性が低いポリウレタンを難燃化するために、多量に配合されるため、低反り性、柔軟性は必ずしも十分なものではなかった。さらにポリウレタンであるため、ポリイミドに比較して空気中の分解温度が低く、実装時の耐熱性や、高度な耐熱用途に用いるには十分ではなかった。
【0016】
これらの欠点を改良するために、例えば、ポリイミド系樹脂に非ハロゲン系難燃剤であり、ポリイミド系樹脂に溶解するホスファゼンを配合した組成物が提案されている(特許文献13〜15参照)。これらのポリイミド系樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線基板用として、半田耐熱性や印刷適性などの特性に加え、難燃性、低反り性をも満足することが期待されるが、ホスファゼン系難燃剤単独で高度な難燃性を発揮させるには、多量の添加が必要になり、難燃剤のブリードが生じる問題があった。
【0017】
特許文献16には、非ハロゲン系難燃剤としてポリイミド系樹脂に溶解するホスフィン酸エステル(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フェナントレン−10−オキシド誘導体)やホスファゼン化合物を配合した組成物が提案されている。このポリイミド系樹脂組成物は、ホスフィン酸エステルやホスファゼン化合物を可塑剤として作用させるため、ホスフィン酸エステルを配合しない場合に比較して難燃性、低反り性に優れるが、耐熱性が低下するとともに、加熱時のタック、難燃剤のブリードが生じる問題があった。また、難燃剤が溶出するため耐薬品性に劣る問題があった。
【0018】
上記のように、これまでの従来技術では、(1)非窒素系溶媒溶解性とワニス安定性、(2)低温乾燥/硬化性、(3)低反り性、(4)屈曲性、(5)印刷適性、(6)難燃性、(7)耐熱性を同時に満足するソルダーレジスト層、表面保護層、層間絶縁層又は接着層として適用可能なポリイミド系樹脂組成物は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平7−304950号公報
【特許文献2】特開平8−333455号公報
【特許文献3】特開2001−302795号公報
【特許文献4】特開2003−138015号公報
【特許文献5】特開2007−84652号公報
【特許文献6】特開2008−133418号公報
【特許文献7】特開2009−96915号公報
【特許文献8】特開2009−185200号公報
【特許文献9】WO2005−116152号公報
【特許文献10】特開2009−275076号公報
【特許文献11】特開2007−270137号公報
【特許文献12】特表2009−526400号公報
【特許文献13】特開2005−47995号公報
【特許文献14】特開2002−235001号公報
【特許文献15】特開2008−297388号公報
【特許文献16】特開2009−280727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消するために創案されたものであり、その目的は、(1)非窒素系溶媒溶解性とワニス安定性、(2)低温乾燥/硬化性、(3)低反り性、(4)屈曲性、(5)印刷適性、(6)難燃性に優れ、難燃剤のブリードアウトを抑制し、(7)耐熱性、耐薬品性、電気特性、作業性及び経済性に優れるウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物及び該組成物から得られる電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(8)の構成からなるものである。
(1)(A)(a)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、(b)ジオール化合物、(c)脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体を必須の成分として生成されるウレタン結合を有するウレタン変性ポリイミド系樹脂、
(B)ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、又はエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1種からなる、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、
(C)無機あるいは有機フィラー、
(D)下記一般式[I]で表されるホスフィン酸塩、下記一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、又は少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうちの少なくとも1種の非ハロゲン系難燃剤、及び
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、
を含むことを特徴とするウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
(一般式[I]及び一般式[II]中、R及びRは互いに同じであっても異なってもよく、線状又は分岐状のC〜C10のアルキル及び/又はシクロアルキル及び/又はアリール及び/又はアラルキルであり、R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成しても良い。Rは線状又は分岐状のC〜C10のアルキレン、C〜C10のシクロアルキレン、C〜C10のアリーレン、C〜C10のアルキルアリーレン又はC〜C10のアリールアルキレンであり、Mm+は、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上の原子のカチオン及び/又はプロトン化した窒素塩基化合物であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、xは1〜4の整数である。)
(2)(b)ジオール化合物が、(b−1)ポリオキシアルキレングリコール、及び/又は(b−2)下記一般式[III]で表されるビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体を含むことを特徴とする(1)に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【0025】
【化3】

【0026】
(一般式[III]中、m、nは1以上の整数であって、同じであっても異なってもよい。RはC〜C20のアルキレン基であり、R及びRは水素もしくはC〜Cのアルキル基を表し、互いに同じであっても異なってもよい。)
(3)(F)硬化促進剤をさらに含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
(4)(G)イオンキャッチャーをさらに含むことを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
(5)(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂が、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒中で反応させて得られるものであることを特徴とする(1)から(4)のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
(6)揺変度で2.0以上のチクソトロピー性を有することを特徴とする(1)から(5)のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
(7)硬化して得られる被膜の、25℃にて引張り速度20mm/分で測定される破断伸びが20%以上であり、かつ25℃にてTHF(テトラヒドロフラン)溶剤に60分間浸漬した際の溶出量が10質量%以下であることを特徴とする(1)から(6)のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
(8)ソルダーレジスト層、表面保護層、層間絶縁層又は接着剤層を有する電子部品であって、前記層が(1)から(7)のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を硬化して得られるものであることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、従来同時に満足することが困難であった(1)非窒素系溶媒溶解性とワニス安定性、(2)低温乾燥/硬化性、(3)低反り性、(4)屈曲性、(5)印刷適性、(6)難燃性に優れ、難燃剤のブリードアウトを抑制し、かつ(7)耐熱性、耐薬品性、電気特性、作業性及び経済性に優れるウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物及び該組成物を乾燥硬化して得られる電子部品を提供することができる。従って、本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、被膜形成材料として、フレキシブルプリント配線基板などの各種電子部品用オーバーコートインキ、ソルダーレジストインキ、層間絶縁膜に有用である他、塗料、コーティング剤、接着剤等として電子機器の幅広い分野で使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、
(A)(a)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、(b)ジオール化合物、(c)脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体を必須の成分として生成されるウレタン結合を有するウレタン変性ポリイミド系樹脂、
(B)ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、又はエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1種の、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、
(C)無機あるいは有機フィラー、
(D)下記一般式[I]で表されるホスフィン酸塩、下記一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、又は少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうちの少なくとも1種の非ハロゲン系難燃剤、及び
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、
を含むことを特徴とする。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
(一般式[I]及び一般式[II]中、R及びRは互いに同じであっても異なってもよく、線状又は分岐状のC〜C10のアルキル及び/又はシクロアルキル及び/又はアリール及び/又はアラルキルであり、R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成しても良い。Rは線状又は分岐状のC〜C10のアルキレン、C〜C10のシクロアルキレン、C〜C10のアリーレン、C〜C10のアルキルアリーレン又はC〜C10のアリールアルキレンであり、Mm+は、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上の原子のカチオン及び/又はプロトン化した窒素塩基化合物であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、xは1〜4の整数である。)
【0032】
(A)成分を構成する(a)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体は、一般にイソシアネート成分やアミン成分と反応してポリイミド系樹脂を形成する。ポリカルボン酸誘導体は、芳香族、脂肪族、脂環族のいずれのものも使用できる。
【0033】
(a)成分の共重合量は、反応対象の全ポリアミン残基誘導体100モル%に対するモル比で30モル%以上90モル%以下であることが好ましく、35モル%以上85モル%以下であることが更に好ましい。共重合量が上記範囲未満では、難燃性、機械特性、耐熱性が得られず、上記範囲より多いと、後述する(b)成分を十分な量で共重合することができないため、低反り性や非窒素系溶媒への溶解性が低下するおそれがある。
【0034】
芳香族ポリカルボン酸誘導体としては、例えば、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,4−ブタンジオールビスアンヒドロトリメリテート、ヘキサメチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等のアルキレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ハイドロキノンビスアンヒドロトリメリテート、ハイドロキノンビスエチレンオキサイド付加物ジアンヒドロトリメリテート、4,4′−ビフェニレンビスアンヒドロトリメリテート、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0035】
また、脂肪族あるいは脂環族ポリカルボン酸誘導体としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ヘキサヒドロピロメリット酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物等が挙げられる。
【0036】
これらの3価又は4価のポリカルボン酸誘導体は、単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。耐熱性、透明性、密着性、溶解性、コスト面などを考慮すれば、ポリカルボン酸誘導体は、ピロメリット酸二無水物、トリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物が好ましく、トリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートが更に好ましい。
【0037】
トリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートを用いる場合、両者を併用することが非窒素系溶媒への溶解性の面で好ましく、両者のモル比は、25:75〜75:25の範囲が更に好ましい。
【0038】
(A)成分を構成する(b)ジオール化合物は、ポリイミド系樹脂に屈曲性、低反り性、溶解性等を付与する可撓性成分として共重合される。(b)成分を共重合することで、樹脂の弾性率が低下するとともに、重合溶媒として用いた非窒素系溶媒への溶解(ワニス)安定性が増大する。
【0039】
(b)成分の共重合量は、反応対象の全ポリアミン残基誘導体100モル%に対するモル比で10モル%以上70モル%以下であることが好ましく、15モル%以上65モル%以下であることが更に好ましい。共重合量が上記範囲より多いと、難燃性、機械特性、耐熱性が得られず、上記範囲未満では、低反り性や非窒素系溶媒への溶解性が低下するおそれがある。
【0040】
(b)成分の分子量は、好ましくは数平均分子量が500以上3000以下のものが用いられ、更に好ましくは800以上2000以下である。分子量が上記範囲未満になると、耐熱性、屈曲性や低反り性が不十分となり、上記範囲より大きくなると、変性反応が進行せず、溶解性が低下する場合がある。
【0041】
ジオール化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体、脂肪族/芳香族ポリエステルジオール類、脂肪族/芳香族ポリカーボネートジオール類、ポリブタジエンポリオール類、水添ポリブタジエンポリオール類、水添ポリイソプレンポリオール(出光石油化学(株)製の商品名エポール等)、ポリジメチルシロキサンジオール、ポリメチルフェニルシロキサンジオール等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシアルキレングリコール、ビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体、脂肪族/芳香族ポリエステルジオール類、脂肪族/芳香族ポリカーボネートジオール類であり、更に好ましくは、後述するポリオキシアルキレングリコール((b−1)成分)、一般式[III]で表されるビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体((b−2)成分)である。その他のジオール化合物としては、ビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール類が挙げられるが、これらは加熱時にウレタン結合が解離するため、好ましくない。
【0042】
脂肪族/芳香族ポリエステルジオール類としては、ジカルボン酸及びジオールを脱水縮合またはジカルボン酸の低級アルコールエステル化物とジオールとのエステル交換反応により得られるものや、ジオールを開始剤としてラクトン化合物を開環重合させて得られるもの、またはジオールとヒドロキシアルカン酸との縮合反応により得られるものである。
【0043】
ジカルボン酸成分としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、エイコサン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタンジカルボン酸、2−メチルオクタンジカルボン酸、3,8−ジメチルデカンジカルボン酸、3,7−ジメチルデカンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸や、オクテニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸のようなアルケニルコハク酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸といった脂肪族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0044】
ジオール成分としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、トリメチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エイコサンジオール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールAまたはビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物あるいはプロピレンオキサイド付加物等の芳香環含有ジオール、ダイマー酸の還元物等が挙げられる。
【0045】
ヒドロキシアルカン酸成分としては、具体的には、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシペンタン酸、5−ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。
【0046】
ラクトンとしては、γ− バレロラクトン、δ− バレロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、3−n−プロピル−δ−バレロラクトン、 6,6−ジメチル−δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクタイド等が挙げられる。
【0047】
脂肪族/芳香族ポリカーボネートジオール類としては、ジオールとカーボネート化合物とのエステル交換反応、環状炭酸エステル化合物を開環重合させて得られるもの、またはジオールとクロロ蟻酸エステル又はホスゲンとの反応により得られるものである。
【0048】
脂肪族/芳香族ポリカーボネートジオール類としては、含まれるアルキレン鎖の50モル%以上が炭素数6以上のアルキレン基であることが好ましく、90モル%以上が炭素数6以上のアルキレン基であることが更に好ましい。最も好ましくは、含まれるアルキレン鎖の50モル%以上が炭素数8以上のアルキレン基であるポリカーボネートジオールである。
【0049】
得られるウレタン変性ポリイミド系樹脂の結晶化抑制や溶解性の観点から、前記の脂肪族/芳香族ポリカーボネートジオール類は、その骨格中に複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートジオールが好ましい。同様に、側鎖を含むアルキレン基を有するポリカーボネートジオールが好ましい。
【0050】
(b−1)ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(ネオペンチルグリコール/テトラメチレングリコール)等が挙げられる。
【0051】
(b−1)成分の共重合量は、(b−1)成分とポリアミン残基誘導体からなるポリウレタンとしての質量がウレタン変性ポリイミド系樹脂の5質量%以上70質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上40質量%以下とすることが更に好ましい。共重合量が上記範囲未満では弾性率が充分に低下せず、積層した場合に反りが発生したり、非窒素系溶媒への溶解性が低下するため5℃〜30℃において1ヶ月以内に樹脂が析出してくるおそれがある。この傾向は特に、本発明で好ましく用いられるγ−ブチロラクトン、グライム類やシクロヘキサノンを溶媒として用いた場合に顕著である。一方、上記範囲を超えると、難燃性、機械特性、耐熱性が低下する場合がある。
【0052】
(b−2)ビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体は、下記一般式[III]で表されるものであり、変性ポリイミド系樹脂に、非窒素系溶媒溶解性、可撓性を付与する。ポリアルキレンオキサイドとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド等が挙げられる。好ましくは数平均分子量が200以上2000以下のものが用いられる。具体的にはビスフェノールAのポリエチレンオキサイド付加体(三洋化成工業(株)製の商品名ニューポールBPEシリーズ等)、ビスフェノールAのポリプロピレンオキサイド付加体(三洋化成工業(株)製の商品名ニューポールBPシリーズ、(株)ADEKA製の商品名BPXシリーズ等)などが挙げられる。
【0053】
【化3】

【0054】
(一般式[III]中、m、nは1以上の整数であって、同じであっても異なってもよい。RはC〜C20のアルキレン基であり、R及びRは水素もしくはC〜Cのアルキル基を表し、互いに同じであっても異なってもよい。)
【0055】
(b−2)成分の共重合量は、(b−2)成分とポリアミン残基誘導体からなるポリウレタンとしての質量がウレタン変性ポリイミド系樹脂の10質量%以上75質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上70質量%以下とすることが更に好ましい。共重合量が上記範囲未満では、非窒素系溶媒への溶解性が低下するため、5℃〜30℃において1ヶ月以内に樹脂が析出してくるおそれがある。この傾向は特に、本発明で好ましく用いられるγ−ブチロラクトン、グライム類やシクロヘキサノンを溶媒として用いた場合に顕著である。一方、上記範囲を超えると、難燃性、機械特性、耐熱性が低下する場合がある。
【0056】
(A)成分を構成する(c)脂肪族ポリアミン残基誘導体としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族ポリアミンが用いられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートである。脂肪族ポリアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、リジンジアミン等が挙げられる。好ましくはヘキサメチレンジアミンである。
【0057】
(A)成分を構成する(c)芳香族ポリアミン残基誘導体としては、芳香族ポリイソシアネート、芳香族ポリアミンが用いられる。 芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジメチルジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジエチルジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジメトキシジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4′−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4′−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4′−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、4,4′−[2,2ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、3,3′又は2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−又は2,2′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジエトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート等が挙げられる。耐熱性、密着性、溶解性、コスト面などを考慮すれば、芳香族ポリイソシアネートは、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、3,3′又は2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネートが好ましく、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートが更に好ましい。
【0058】
芳香族ポリアミンとしては、例えば、ジフェニルメタン−2,4′−ジアミン、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジメチルジフェニルメタン−2,4′−ジアミン、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジエチルジフェニルメタン−2,4′−ジアミン、3,2′−又は3,3′−又は4,2′−又は4,3′−又は5,2′−又は5,3′−又は6,2′−又は6,3′−ジメトキシジフェニルメタン−2,4′−ジアミン、ジフェニルメタン−4,4′−ジアミン、ジフェニルメタン−3,3′−ジアミン、ジフェニルメタン−3,4′−ジアミン、ジフェニルエーテル−4,4′−ジアミン、ベンゾフェノン−4,4′−ジアミン、ジフェニルスルホン−4,4′−ジアミン、トリレン−2,4−ジアミン、トリレン−2,6−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ナフタレン−2,6−ジアミン、4,4′−[2,2ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジアミン、3,3′又は2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジアミン、3,3′−又は2,2′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジアミン、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジアミン、3,3′−ジエトキシビフェニル−4,4′−ジアミン等が挙げられる。耐熱性、密着性、溶解性、コスト面などを考慮すれば、芳香族ポリアミンは、ジフェニルメタン−4,4′−ジアミン、トリレン−2,4−ジアミン、m−キシリレンジアミン、3,3′又は2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジアミンが好ましく、ジフェニルメタン−4,4′−ジアミン、トリレン−2,4−ジアミンが更に好ましい。
【0059】
(c)脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体は、単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体の比率は特に制限はなく、(b)ジオール化合物量との兼ね合いで、溶解性、低反り性が損なわれない範囲で適宜設定して構わない。
【0060】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂においては、脂肪族ポリアミン残基誘導体、芳香族ポリアミン残基誘導体のほかに、低反り性、耐熱性、難燃性を損なわない範囲で必要に応じ、さらに脂環族ポリアミン残基誘導体を共重合しても構わない。具体的には、脂環族ポリアミン残基誘導体としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、ノルボヌレンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。耐熱性、密着性、溶解性、コスト面などを考慮すれば、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0061】
さらに、3官能以上のポリアミン残基誘導体を用いてもよく、経日変化を避けるために必要なブロック剤で安定化したものを使用してもよい。3官能以上のポリアミン残基誘導体が3官能以上のポリイソシアネートである場合、ブロック剤としては、アルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。これらの3官能以上のポリイソシアネートは単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。イソシアネート過剰で重合した場合、重合終了後に樹脂末端のイソシアネート基をアルコール類、ラクタム類、オキシム類等のブロック剤でブロックすることもできる。
【0062】
なお、(A)成分においては、目的とする性能を損なわない範囲で必要に応じ、さらに脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸類を共重合しても構わない。脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタンジカルボン酸、2−メチルオクタンジカルボン酸、3,8−ジメチルデカンジカルボン酸、3,7−ジメチルデカンジカルボン酸、9,12−ジメチルエイコサン二酸、フマル酸、マレイン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等が挙げられ、脂環族ジカルボン酸としては、例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4′−ジシクロヘキシルジカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸、スチルベンジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸類は、単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。耐熱性、密着性、溶解性、コスト面などを考慮すれば、ジカルボン酸類は、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、イソフタル酸が好ましい。
【0063】
また、(A)成分においては、(b)ジオール化合物のほかに、目的とする性能を損なわない範囲で必要に応じ、さらに他の可撓性成分を共重合しても構わない。例えば、カルボキシ変性アクリロニトリルブタジエンゴム類や、カルボキシ変性ポリジメチルシロキサン類といったポリシロキサン誘導体等が挙げられる。
【0064】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂は、酸無水物基を有するポリカルボン酸成分とイソシアネート成分から脱炭酸により生成する方法(イソシアネート法)、または酸無水物基を有するポリカルボン酸成分とアミンを反応させアミック酸にした後、閉環させる方法(直接法)などの公知の方法で製造される。工業的には、ウレタン変性が可能なイソシアネート法が有利である。
【0065】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂をイソシアネート法で製造する場合、(a)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体と、(b)ジオール化合物の配合量は、酸無水物基数、カルボン酸基数、及び水酸基数とイソシアネート基数との比率が、イソシアネート基数/(酸無水物基数+カルボン酸基数+水酸基数)=0.80〜1.20となるようにすることが好ましい。前記範囲を外れると、ウレタン変性ポリイミド系樹脂の分子量を高くすることが困難になり、耐熱性、屈曲性が低下したり、塗膜が脆い場合がある。
【0066】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂の重合反応は、好ましくはエーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒の存在下に、例えばイソシアネート法では遊離発生してくる炭酸ガスを反応系より除去しながら加熱縮合させることにより行う。
【0067】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(エチルジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、トリエチレングリコールジエチルエーテル(エチルトリグライム)等のグライム類が挙げられ、エステル系溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(エチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート等が挙げられ、ケトン系溶媒としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられ、芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ等が挙げられる。これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0068】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂のワニスを製造するには、重合後、そのままワニスとして用いることができるように、生成するウレタン変性ポリイミド系樹脂を溶解する溶媒を選択して用いることが好ましい。この場合、溶媒置換などの煩雑な操作が無くなり、安価に製造することが可能となる。溶媒の沸点は140℃以上230℃以下であることが好ましい。140℃未満では、重合反応中に溶媒が揮発するおそれがある他、例えば、スクリーン印刷を行う場合、溶媒の揮発が早く版詰まりをおこす可能性がある。230℃を超えると、低温乾燥/硬化性を付与することが困難になる。比較的高揮発性であって、低温乾燥/硬化性を付与でき、かつワニス安定性に優れ、効率良く均一系で反応を行うためには、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム、エチルカルビトールアセテートが好ましい。
【0069】
溶媒の使用量は、生成するウレタン変性ポリイミド系樹脂の0.8〜5.0倍(質量比)とすることが好ましく、0.9倍〜2.0倍とすることがより好ましい。使用量が上記範囲未満では、合成時の粘度が高すぎて、攪拌不能により合成が困難となる傾向があり、上記範囲を超えると、反応速度が低下する傾向がある。
【0070】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂の製造方法としては、イソシアネート法の場合、例えば(1)(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を一度に使用し、一括して反応させて、ウレタン変性ポリイミド系樹脂を得る方法、(2)(a)成分及び/又は(b)成分と、過剰量の(c)成分とを反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタン変性オリゴマーを合成した後、(a)成分及び/又は(b)成分を追加して反応させてウレタン変性ポリイミド系樹脂を得る方法、(3)過剰量の(a)成分及び/又は(b)成分と、(c)成分を反応させて末端にカルボン酸基及び/又は酸無水物基及び/又は水酸基を有するウレタン変性オリゴマーを合成した後、(c)成分を追加して反応させてウレタン変性ポリイミド系樹脂を得る方法、が挙げられる。
【0071】
イソシアネート法の場合、反応温度は60〜200℃とすることが好ましく、100〜180℃とすることがより好ましい。反応温度が上記範囲未満では、反応時間が長くなり過ぎ、上記範囲を超えると、反応中に、モノマー成分の分解が生じる場合がある。また、三次元化反応が生じてゲル化が起こり易い。反応温度は多段階で行ってもよい。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件、特に反応濃度により適宜選択することができる。
【0072】
イソシアネート法の場合、反応を促進するためにトリエチルアミン、ルチジン、ピコリン、ウンデセン、トリエチレンジアミン(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン)等のアミン類、リチウムメチラート、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムブトキサイド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物あるいはチタン、コバルト、スズ、亜鉛、アルミニウムなどの金属、半金属化合物などの触媒の存在下に行ってもよい。
【0073】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂の対数粘度は、好ましくは0.1dl/g以上2.0dl/g以下であり、更に好ましくは0.2dl/g以上1.8dl/g以下である。対数粘度が上記範囲未満では、耐熱性が低下したり、塗膜が脆い場合がある。またペーストのタック性が強く版離れが悪くなるおそれがある。一方、上記範囲より大きいと、溶媒に溶解しにくくなり、重合中に不溶化しやすい傾向にある。また、ワニスの粘度が高くなり、ハンドリングが困難になったり、基材との密着性が低下するおそれがある。さらに、ペーストの不揮発分濃度を高くすることができなくなり、厚膜形成が困難になるおそれがある。モノマー比、重合温度といった重合条件を適宜調整することで、この範囲の対数粘度のウレタン変性ポリイミド系樹脂を得ることができる。
【0074】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは20℃以上であり、更に好ましくは60℃以上である。上記温度未満では、耐熱性が不足し、また樹脂がブロッキングするおそれがある。上限は特に限定されないが、溶剤溶解性の観点から300℃以下が好ましい。モノマー比などの重合条件を適宜調整することで、この範囲のガラス転移温度のウレタン変性ポリイミド系樹脂を得ることができる。
【0075】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂を硬化させることにより、被膜形成後の膜諸特性を向上させ、さらに低反り性や柔軟性を付与するため、(B)ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、又はエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1種からなる、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下、(B)可撓性エポキシ樹脂という)を含有する。
【0076】
(B)可撓性エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン(株)製の商品名jER871、新日鐵化学(株)製の商品名YD−171、DIC(株)製の商品名エピクロンTSR−601、EXA−4850、EXA−4816等のダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、ダイセル化学工業(株)製の商品名エポリードPB4700、PB3600等のエポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0077】
特にビスフェノールAタイプのエポキシをポリオキシアルキレングリコール変性及び/又はアルキレンジオール変性したエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプのエポキシにアセタール結合を介してポリオキシアルキレングリコール及び/又はアルキレンジオールを導入したエポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエンが好ましく、ビスフェノールAタイプのエポキシをアルキレンジオール変性したエポキシ樹脂、ビスフェノールAタイプのエポキシにアセタール結合を介してポリオキシアルキレングリコールを導入したエポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエンが更に好ましい。
【0078】
ポリオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(ネオペンチルグリコール/テトラメチレングリコール)等が挙げられ、アルキレングリコールとしては、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0079】
エポキシ化ポリブタジエンには、末端水酸基ブタジエンの末端水酸基をエポキシ化した末端変性と、内部の2重結合を変性した内部変性の2種類があるが、エポキシ基の量が多い内部変性のものが、耐熱性、硬化性に優れるため好ましい。また、内部変性には1,2−ポリブタジエン構造と1,4−ポリブタジエン構造を有するものがあるが、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂との相溶性の点から、1,4−ポリブタジエン中の不飽和二重結合部分をエポキシ化したエポキシ化ポリブタジエンが好ましい。
【0080】
(B)可撓性エポキシ樹脂の使用量は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂100質量部に対して20〜100質量部が好ましく、25〜80質量部が更に好ましい。(B)可撓性エポキシ樹脂の配合量が上記範囲未満では、半田耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、低反り性、柔軟性が低下する傾向にあり、上記範囲を超えると、機械特性、耐熱性、ワニス安定性及びウレタン変性ポリイミド系樹脂との相溶性が低下する傾向にある。
【0081】
(A)成分に(B)成分を加えた合算使用量は、ウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物の不揮発分全体を100質量%とした場合、好ましくは40〜90質量%である。更に好ましくは45〜80質量%である。
【0082】
(B)可撓性エポキシ樹脂には、希釈剤としてさらに、1分子中にエポキシ基を1個だけ有するエポキシ化合物を含んでいても構わない。
【0083】
(B)可撓性エポキシ樹脂の添加方法としては、あらかじめ添加する(B)可撓性エポキシ樹脂を(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂に含まれる溶媒と同一の溶媒に溶解してから添加してもよく、また直接、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂に添加してもよい。
【0084】
なお、本発明においては、目的とする性能を損なわない範囲で必要に応じ、(B)可撓性エポキシ樹脂以外に、他のエポキシ樹脂を併用しても構わない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いても構わない。
【0085】
また、本発明においては、目的とする性能を損なわない範囲で必要に応じ、エポキシ樹脂の他に、ポリイソシアネート、シアネートエステル,オキセタン、アクリレートといった公知慣用の硬化系を併用しても構わない。
【0086】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、塗工、印刷時の作業性及び被膜形成後の膜特性を向上させるため、(C)無機あるいは有機フィラーを含有する。
【0087】
(C)無機あるいは有機フィラーとしては、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂中に分散してチキソトロピー性を付与できるものであればよく、特に制限はない。このような無機フィラーとしては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、酸化タンタル(Ta)、ジルコニア(ZrO)、窒化硅素(Si)、チタン酸バリウム(BaO・TiO)、炭酸バリウム(BaCO)、チタン酸鉛(PbO・TiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、酸化ガリウム(Ga)、スピネル(MgO・Al)、ムライト(3Al・2SiO)、コーディエライト(2MgO・2Al・5SiO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、チタン酸アルミニウム(TiO−Al)、イットリア含有ジルコニア(Y−ZrO)、硅酸バリウム(BaO・8SiO)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸カルシウム(CaSO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO)、硫酸バリウム(BaSO)、有機ベントナイト、カーボン(C)などを使用することができ、これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。得られるペーストの色調、機械特性、チキソトロピー性付与の点から、シリカ微粒子が好ましい。
【0088】
無機フィラーとしては、平均粒子径50μm以下、最大粒子径100μm以下の粒子径をもつものが好ましく、平均粒子径20μm以下が更に好ましく、平均粒子径10μm以下が最も好ましい。ここでいう平均粒子径(メジアン径)は、レ−ザ回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて、体積基準で求められる。平均粒子径が50μmを超えると十分なチキソトロピー性を有する組成物が得られにくくなり、得られる塗膜の屈曲性が低下する。最大粒子径が100μmを超えると塗膜の外観、密着性が不十分となる傾向にある。
【0089】
有機フィラーとしては上記したウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液中に分散してチキソトロピー性を付与できるものであればよく、ポリイミド樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子等が挙げられる。
【0090】
(C)無機あるいは有機フィラーの使用量は、ウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物の不揮発分全体を100質量%とした場合、好ましくは0.5〜25質量%である。更に好ましくは2〜15質量%、特に好ましくは3〜12質量%とされる。無機あるいは有機フィラーの配合量が0.5質量%未満では、印刷性が低下する傾向にあり、25質量%を超えると、塗膜の屈曲性などの機械特性が低下する傾向にある。
【0091】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、難燃性、耐熱性等の特性をより一層向上するため、(D)下記一般式[I]で表されるホスフィン酸塩、下記一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、又は少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうちの少なくとも1種の非ハロゲン系難燃剤を含有する。
【0092】
【化1】

【0093】
【化2】

【0094】
(一般式[I]及び一般式[II]中、R及びRは互いに同じであっても異なってもよく、線状又は分岐状のC〜C10のアルキル及び/又はシクロアルキル及び/又はアリール及び/又はアラルキルであり、R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成しても良い。Rは線状又は分岐状のC〜C10のアルキレン、C〜C10のシクロアルキレン、C〜C10のアリーレン、C〜C10のアルキルアリーレン又はC〜C10のアリールアルキレンであり、Mm+は、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上の原子のカチオン及び/又はプロトン化した窒素塩基化合物であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、xは1〜4の整数である。)
【0095】
ホスフィン酸塩としては、例えば、ジメチルホスフィン酸Al、メチルエチルホスフィン酸Al、ジエチルホスフィン酸Alなどのジアルキルホスフィン酸Al塩、フェニルホスフィン酸Al、ジフェニルホスフィン酸Alなどのアリールホスフィン酸Al塩、メチルフェニルホスフィン酸Alなどのアルキルアリールホスフィン酸Al塩、1−ヒドロキシ−1H−ホスホラン−1−オキシドAl塩、2−カルボキシ−1−ヒドロキシ−1H−ホスホラン−1−オキシドAl塩などの置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸のAl塩、これらのAl塩に対応するZn塩、Ca塩の他、他の金属等が挙げられる。
【0096】
ジホスフィン酸塩としては、例えば、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)Al塩などのアルカンビス(ホスフィン酸)Al塩、エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)Al塩などのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)Al塩、これらのAl塩に対応するZn塩、Ca塩の他、他の金属塩等が挙げられる。
【0097】
すなわち、一般式[I]、一般式[II]において、R及びRは、好ましくは互いに同じであっても異なってもよく、線状もしくは分岐状のC〜C10のアルキル基及び/又はシクロアルキル基及び/又はアリール基及び/又はアラルキル基であり、特に好ましくは互いに同じであっても異なってもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基又はフェニル基である。
【0098】
及びRが結合して隣接するリン原子とともに形成する環は、環を構成するヘテロ原子として前記リン原子を有するヘテロ環であり、通常4〜20員ヘテロ環、好ましくは5〜16員ヘテロ環が挙げられる。前記リン原子を有するヘテロ環はビシクロ環であっても良く、また置換基を有していても良い。
【0099】
は、線状又は分岐状のC〜C10のアルキレン基、C〜C10のシクロアルキレン基、C〜C10のアリーレン基、C〜C10のアルキルアリーレン基又はC〜C10のアリールアルキレン基であり、好ましくは、アルキレン基としてはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−オクチレン基、n−ドデシレン基、あるいはシクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基、シクロヘキサジメチレン基、あるいはアリーレン基としてはフェニレン基、又はナフチレン基、あるいはアルキルアリーレン基としはメチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert−ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、又はtert−ブチルナフチレン基、あるいはアリールアルキレン基としてはフェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、又はフェニルブチレン基等が挙げられる。
【0100】
m+は、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上の原子のカチオン及び/又はプロトン化した窒素塩基化合物であり、好ましくは、Mg、Ca、Al、Ti、Znイオンである。
【0101】
ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩には、これらのホスフィン酸の多価塩及び/又はジホスフィン酸の多価塩の重合物又は縮合物も含まれる。
【0102】
ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩の平均粒子径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。平均粒子径が10μmを超えると十分な難燃性を発現するための使用量が増加し、絶縁信頼性、屈曲性、密着性、外観等が悪化する恐れがある。このような好ましいホスフィン酸塩として、具体的には例えば、クラリアントジャパン(株)社製、商品名エクソリットOP935、OP930として市販されている、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが挙げられる。
【0103】
ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩の平均粒子径(メジアン径)は、レ−ザ回析・散乱式粒度分布測定装置を用いて、体積基準で求められる。
【0104】
少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物において、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とは、アミノ基と−N=C=N−又は−N=C(−N<)で表されるユニットを有する化合物であり、アミノ基含有トリアジン類(メラミン、メラム、メレム、メロン、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のアミノ基含有1,3,5−トリアジン類、3−アミノ−1,2,4−トリアジン等のアミノ基含有1,2,4−トリアジン類等)、アミノ基含有トリアゾール類(2,5−ジアミノ−1,3,4−トリアゾール等のアミノ基含有1,3,4−トリアゾール類など)等の環状シアナミド誘導体、グアニジン類(グアニジン、グアニジン誘導体(ジシアンジアミド、グアニル尿素等))等の非環状シアナミド誘導体などが挙げられる。好ましいシアナミド誘導体は、アミノ基含有1,3,5−トリアジン類、グアニジン又はその誘導体であり、特にメラミン又はメラミンの縮合生成物である。これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0105】
上記シアナミド誘導体と反応させるリン酸類とは、非縮合リン酸(オルトリン酸、メタリン酸、亜リン酸(ホスホン酸)、次亜リン酸(ホスフィン酸)など)、ポリリン酸などの無機リン酸である。ポリリン酸としては、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸などの縮合リン酸類が含まれる。
【0106】
少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物として好ましいのは、メラミンの縮合生成物、メラミン又はメラミンの縮合生成物とリン酸の反応生成物、メラミン又はメラミンの縮合生成物とリン酸縮合物の反応生成物及びメラミン又はメラミンの縮合生成物とシアヌル酸の反応生成物のうちの少なくとも1種を含むものであり、更に好ましくは、メラミンポリホスフェート、メレムポリホスフェート、メラムポリホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンシアヌレートであり、最も好ましいのは、縮合度が2以上、特に10以上50以下のより長い鎖長を有するメラミンポリホスフェート及びメラミンシアヌレートである。これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0107】
少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物の平均粒子径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。平均粒子径が10μmを超えると十分な難燃性を発現するための使用量が増加し、絶縁信頼性、屈曲性、密着性、外観等が悪化する恐れがある。このような好ましい少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物として、具体的には例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名MELAPURE 200、MC25、ブーデンハイム社製の商品名BUDIT 3141CA、日産化学工業(株)製の商品名PHOSMEL−200、(株)三和ケミカル製の商品名MPP−A、堺化学工業(株)製の商品名STABIACE MC−5F、MC−5S、MC−2010N等が挙げられる。
【0108】
好ましくは、一般式[I]で表されるホスフィン酸塩及び一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩のうち少なくとも1種と、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物及び少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうち少なくとも1種を併用することで相乗効果が発揮され、より難燃効果を高めることができる。さらに好ましくは、一般式[I]で表されるホスフィン酸塩及び一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩のうち少なくとも1種と、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物を併用する。
【0109】
一般式[I]で表されるホスフィン酸塩及び一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩のうち少なくとも1種と、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物及び少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうち少なくとも1種との配合割合については、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物中のリン含有率及び必要とする難燃性が達成できれば、特に限定はされないが、質量比でホスフィン酸系化合物:シアナミド誘導体反応生成物=100:0〜20:80の範囲で用いるのが好ましい。ホスフィン酸系化合物が両成分合計量の20%未満になると、UL94V−0レベルの高度な難燃性が得られないおそれがある。なお、ホスフィン酸系化合物とは、一般式[I]で表されるホスフィン酸塩及び一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩を意味する。また、シアナミド誘導体反応生成物とは、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物及び少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物を意味する。
【0110】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物中のリン含有率は1.4〜7.0質量%を満たすことが好ましく、この範囲になるように(D)成分の添加量を調節する。より好ましくは1.6質量%以上6.8質量%以下であり、更に好ましくは2.0質量%以上6.0質量%以下である。リン含有率が1.4質量%未満だと良好な難燃性が得られない恐れがあり、また、7.0質量%を越えると塗膜の機械特性、耐熱性、密着性や絶縁特性が低下する恐れがある。
【0111】
本発明においては、目的とする性能を損なわない範囲で難燃性をより向上させるために、BCA(10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)、HCA(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)、HCA−HQ(10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)、環状フェノキシホスファゼン、環状シアノフェノキシホスファゼン、環状ヒドロキシフェノキシホスファゼン、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、クレジルビス(2,6−キシレニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルホスフェート、ジメチルメチルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、ジエチル−N,N―ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルホスフェート、ジエチルホスフィネート、フェニルホスフィネート、ジフェニルホスフィネート、有機ホスフィンオキサイド、リン酸アミド、赤燐、等のリン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、トリアジン、サクシノグアナミン、トリグアナミン、メレム、メラム、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、硫酸グアニルメラミン、硫酸メレム、硫酸メラム、硼酸メラミン等の窒素系難燃剤、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、芳香族スルフォンイミド金属塩、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ等の水和金属系難燃剤、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、スズ酸亜鉛等無機系難燃剤/難燃助剤、シリコーンパウダー等の等の難燃剤/難燃助剤、等の非ハロゲン系難燃剤を併用しても構わない。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いても構わない。これらのなかで、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂ワニスに溶解する非フィラー型(BCA、ホスファゼン化合物、リン酸エステル類等)の非ハロゲン系難燃剤については、添加により耐熱性、耐薬品性の低下、加熱時のタック、難燃剤のブリード等の生じる恐れがあるため、併用の際は注意が必要である。
【0112】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂の反応性を補填し、その硬化被膜形成後の膜諸特性を向上させ、さらに低反り性や柔軟性を付与するため、(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体を含有する。
【0113】
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂と同様、(B)可撓性エポキシ樹脂の硬化剤として作用するため、溶剤溶解性に優れるものが好ましい。また、アルケニル基の炭素数が8未満の場合、低反り性や柔軟性の付与が不十分になる恐れがあるとともに、ポリカルボン酸誘導体の沸点が低下し、硬化条件で揮発を生じる恐れがある。一方、アルケニル基の炭素数が20以上になると塗膜の相溶性が低下する恐れがあるため、添加する際は注意が必要である。
【0114】
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体としては、例えばオクテニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、テトラデセニル無水コハク酸、ペンタデセニル無水コハク酸、オクタデセニル無水コハク酸等が挙げられる。これらの炭素数8以上のアルケニル基及び酸無水物基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体は、単独でも二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0115】
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体の使用量は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂100質量部に対して1〜60質量部が好ましく、5〜40質量部が更に好ましく、10〜30質量部が特に好ましい。(E)成分の酸無水物の配合量が上記範囲未満では、半田耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐湿性が低下する傾向にあり、上記範囲を超えると、低反り性、機械特性、耐熱性、ワニス安定性及びウレタン変性ポリイミド系樹脂との相溶性が低下する傾向にある。
【0116】
なお、本発明においては、目的とする性能を損なわない範囲で必要に応じ、(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体以外に、他の酸無水物基を有する2価及び/又は4価の芳香族及び/又は脂肪族ポリカルボン酸誘導体を併用しても構わない。例えば、芳香族ポリカルボン酸誘導体としては、無水フタル酸、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,4−ブタンジオールビスアンヒドロトリメリテート、ヘキサメチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリストリメリテート等のアルキレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、アルキルスチレン−無水マレイン酸共重合物等、脂肪族ポリカルボン酸誘導体としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物等が挙げられる。
【0117】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、密着性、耐薬品性、耐熱性等の特性をより一層向上するため、(F)硬化促進剤をさらに含有することができる。
【0118】
(F)硬化促進剤としては、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂、(B)可撓性エポキシ樹脂、及び(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体の間の硬化反応を促進できるものであればよく、特に制限はない。
【0119】
(F)硬化促進剤の具体例としては、例えば、イミダゾール誘導体、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のグアナミン類、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、尿素、尿素誘導体、メラミン、多塩基ヒドラジド等のポリアミン類、これらの有機酸塩および/またはエポキシアダクト、三フッ化ホウ素のアミン錯体、エチルジアミノ−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−S−トリアジン,2,4−ジアミノ−6−キシリル−S−トリアジン等のトリアジン誘導体類、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N−ベンジルジメチルアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、ヘキサ(N−メチル)メラミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノフェノール)、テトラメチルグアニジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)等の三級アミン類、これらの有機酸塩及び/又はテトラフェニルボロエート、ポリビニルフェノール、ポリビニルフェノール臭素化物、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス−2−シアノエチルホスフィン等の有機ホスフィン類、トリ−n−ブチル(2,5−ジヒドロキシフェニル)ホスホニウムブロマイド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボロエート等の四級ホスホニウム塩類、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリブチルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩類、前記ポリカルボン酸無水物、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボロエート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、2,4,6−トリフェニルチオピリリウムヘキサフルオロホスフェート、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の商品名イルガキュアー261、(株)ADEKA製の商品名オプトマ−SP−170等の光カチオン重合触媒、スチレン−無水マレイン酸樹脂、フェニルイソシアネートとジメチルアミンの等モル反応物や、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネートとジメチルアミンの等モル反応物等が挙げられる。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いても構わない。好ましくは潜在硬化性を有する硬化促進剤であり、DBU、DBNの有機酸塩及び/又はテトラフェニルボロエートや、光カチオン重合触媒等が挙げられる。
【0120】
(F)硬化促進剤の使用量は、(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。20質量部を超えると、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物の保存安定性や塗膜の耐熱性が低下しやすく、0.1質量部未満では、硬化性が低下する場合がある。
【0121】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、高温高湿度下の絶縁信頼性をより一層向上するため、(G)イオンキャッチャーをさらに含有することができる。
【0122】
(G)イオンキャッチャーとしては、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物の硬化塗膜中にppmオーダーで存在する不純イオンや加水分解性塩素を捕捉してフレキシブルプリント配線基板の絶縁不良を低減させ、その絶縁信頼性を向上するものであれば特に制限はなく、有機系イオン交換樹脂、無機イオン交換体(ゼオライト、リン酸ジルコニウム、水和硝酸ビスマス、酸化アンチモン、マグネシウムアルミニウム系ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト等)が挙げられる。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いても構わない。耐熱性や耐薬品性等を考慮すると無機イオン交換体を用いるのが好ましい。また捕捉するべきイオンは陽イオンも陰イオンもあるので、両イオン交換タイプの無機イオン交換体を用いるか、あるいは陽イオン交換タイプの無機イオン交換体と陰イオン交換タイプの無機イオン交換体を併用するのが好ましい。
【0123】
両イオン交換タイプの無機イオン交換体としては、アンチモン−ビスマス系のものやジルコニウム−ビスマス系のものを用いることができ、例えば前者として、東亞合成(株)製の商品名IXE−600、IXE−633、IXE−680等が挙げられ、後者として、東亞合成(株)製の商品名IXE−6136等が挙げられる。また非アンチモン−ビスマス系のものとして、同じく東亞合成(株)製の商品名IXE−2116等が挙げられる。陽イオン交換タイプの無機イオン交換体としては、ジルコニウム系のものやアンチモン系のものを用いることができ、例えば前者として、東亞合成(株)製の商品名IXE−100、IXE−150、後者として、東亞合成(株)製の商品名IXE−300等が挙げられる。陰イオン交換タイプの無機イオン交換体としては、ビスマス系のものやマグネシウム−アルミニウム系のものを用いることができ、例えば前者として東亞合成(株)製の商品名IXE−500、IXE−550、後者として東亞合成(株)製の商品名IXE−700F、IXE−770、協和化学工業(株)製の商品名DHT−4A、堺化学工業(株)製の商品名STABIACE HT−1、HT−P等が挙げられる。アンチモンやビスマスといった重金属類を含まないIXE−2116、IXE−100、IXE−700F、IXE−770は、イオン交換能も高く各種耐めっき性に影響を与えないため更に好ましい。
【0124】
(G)イオンキャッチャーの使用量は、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物の全量に対して1.0〜15.0重量%の範囲が好ましい。(G)イオンキャッチャーの使用量が1.0重量%未満であると、イオン捕捉率が50%以下になって、十分な効果を得られなくなるおそれがある。また使用量が15.0重量%程度になるとイオン捕捉率は80%以上になるが、(G)イオンキャッチャーの配合量をこれ以上増量してもイオン捕捉率は高まらず、コストに問題が生じると共に、耐熱性、耐薬品性、低反り性や屈曲性に問題が生じるおそれがある。また陽イオン交換タイプのものと陰イオン交換タイプのものとを併用する場合、陽イオン交換タイプと陰イオン交換タイプのイオンキャッチャーの比率は、20:80〜60:40の重量比の範囲に設定するのが好ましい。
【0125】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物には、更に必要に応じて、着色顔料、染料、重合禁止剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤/密着性付与剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、遮光剤、消光剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、老化防止剤、可塑剤、相溶化剤のような公知慣用の添加剤類を添加することができる。
【0126】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、前述した(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分、(G)成分、及び溶剤、さらに必要に応じその他の配合成分を配合し、ロールミル、ビーズミル、ミキサー等で均一に混合することにより得られる。十分な分散が得られる方法であれば特に制限はない。3本ロールによる複数回の混練が好ましい。
【0127】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、後述するB型粘度計での粘度が25℃で50dPa・s〜2000dPa・sの範囲が好ましく、100dPa・s〜1200dPa・sの範囲が更に好ましい。粘度が50dPa・s未満であると、印刷後のペーストの流れ出しが大きくなるとともに膜厚が薄膜化する傾向がある。粘度が2000Pa・sを超えると印刷の際、ペーストの基材への転写性が低下しカスレが発生するとともに、印刷膜中のボイド及びピンホールが増加する傾向がある。
【0128】
揺変度(チキソトロピー性)も重要であり、本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物の揺変度は後述する測定方法において2.0以上が好ましく、2.2以上が更に好ましい。上限は10.0以下が好ましく、9.0以下が更に好ましい。揺変度が2.0未満では印刷後のペーストの流れ出しが大きくなるとともに膜厚が薄膜化する傾向がある。10.0を超えるとペーストがフローしなくなる傾向にある。揺変度は、揺変度付与剤としての(C)成分の添加量で調整することができる。
【0129】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を硬化して得られる被膜は、25℃にて引張り速度20mm/分で測定される破断伸びが20%以上であり、かつ25℃にてTHF(テトラヒドロフラン)溶剤に60分間浸漬した際の溶出量が10質量%以下であることが好ましい。破断伸びが20%未満では、柔軟性、屈曲性が低下する傾向があり、溶出量が10質量%を超えると、耐熱性、耐薬品性の低下、加熱時のタック、難燃剤のブリード等の生じるおそれがある。
【0130】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、例えば、ソルダーレジストとしては次のようにして硬化し、硬化物を得る。即ち、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板(FPC)、チップオンフィルム(COF)などに、スクリーン印刷法、スプレーコート法、ロールコート法、静電塗装法、カーテンコート、ディップコート法等の方法により5〜80μmの膜厚で本発明の組成物を塗布し、塗膜を60〜120℃で予備乾燥させた後、120〜200℃で本乾燥させる。乾燥は空気中でも不活性雰囲気中でもよい。
【0131】
このようにして得られた本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、被膜形成材料として、半導体素子や各種電子部品用オーバーコートインキ、ソルダーレジストインキ、層間絶縁膜に有用である他、塗料、コーティング剤、接着剤等としても使用できる。
【実施例】
【0132】
本発明の効果を示すために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、実施例に記載された特性値は以下の方法によって測定されたものである。
【0133】
<対数粘度>
ウレタン変性ポリイミド系樹脂を、ポリマー濃度が0.5g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、30℃にてウベローデ型粘度管により溶液粘度を測定した。対数粘度は以下の式をもって定義した。
(対数粘度)=(lnηrel)/C
ln:自然対数
ηrel:溶媒落下時間測定による純溶媒に対する溶液の粘度比(−)
C:溶液の濃度(g/dl)
【0134】
<連続印刷性>
ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を、実施例10に記載の方法で30分連続スクリーン印刷した際の、ペーストからの樹脂析出、粘度上昇を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)○:かすれ、樹脂析出、インク粘度上昇認められず
×:かすれ、樹脂析出、インク粘度上昇あり
【0135】
<揺変度(チキソ比)>
ブルックフィールドBH型回転粘度計を用いて、次の手順で測定した。広口型遮光瓶(100ml)にウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を入れ、恒温水槽を用いて液温を25℃±0.5℃に調整した。ついで、ガラス棒を用いて12〜15秒かけて40回撹拌した後、所定のローターを設置して、5分静置した後、20rpmで3分回転させたときの目盛りを読み取った。粘度は、この目盛りに換算表の係数をかけて算出した。同じく25℃、2rpmで測定した粘度の値から次式に従って計算した。
揺変度=粘度(2rpm)/粘度(20rpm)
【0136】
<組成物のポットライフ>
ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を、密閉下、5℃×1ヶ月放置した後、樹脂の析出やゲル化の有無を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)○:異常なし
△:析出物あり、又は粘度の増加
×:固化
【0137】
<リン含有率>
湿式分解・モリブデンブルー比色法により測定した。ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を165℃×2時間硬化させて得られた試料を、試料中のリン濃度にあわせて適当量、三角フラスコに量りとり、硫酸3ml、過塩素酸0.5mlおよび硝酸3.5mlを加え、電熱器で半日かけて徐々に加熱分解した。溶液が透明になったら、さらに加熱して硫酸白煙を生じさせ、室温まで放冷し、この分解液を50mlメスフラスコに移し、2%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび0.2%硫酸ヒドラジン溶液2mlを加え、純水にてメスアップし、内容物をよく混合した。沸騰水浴中に10分間フラスコをつけて加熱発色した後、室温まで水冷し、超音波にて脱気し、溶液を吸収セル10mmに採り、分光光度計(波長830nm)にて空試験液を対照にして吸光度を測定した。先に作成しておいた検量線からリン含有量を求めた。
【0138】
<難燃性>
ポリイミドフィルムを基材として、得られた積層フィルム(実施例1を参照)について、UL94規格に従い難燃性を評価した。難燃性はUL規格でVTM−2以上が好ましく、VTM−0が最も好ましい。
【0139】
<5%重量減少温度>
ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を165℃×2時間硬化させて得られた試料を、約15mg採取し、空気雰囲気下(20ml/分)、昇温速度10℃/分で常温から100℃まで加熱し30分保持した後、昇温速度10℃/分で600℃まで、アルミニウムパン上で加熱し、150℃から350℃における重量減少率を求めた。
使用装置;島津製作所製示差熱・熱重量同時測定装置DTG−60
【0140】
<破断伸び>
ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を165℃×2時間硬化させて得られたフィルム状試料を幅10mmに切り出し、25℃でサンプル長40mm、引張り速度20mm/分にて引張り試験し、破断伸びを算出した。
使用装置;オリエンテック製テンシロンRTM−100
【0141】
<低反り性>
ポリイミドフィルムを基材として、得られた積層フィルム(実施例1を参照)を10cm×10cmに切り出した。25℃、65%で24時間調湿したサンプルを下に凸の状態で水平なガラス板に載せ、四隅の高さの平均を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)◎:高さ2mm未満
○:高さ10mm未満
△:高さ20mm未満
×:高さ20mm以上
【0142】
<屈曲性>
ポリイミドフィルムを基材として、得られた積層フィルムについて、JIS−K5400に準じて評価を行った。心棒の直径は2mmとし、クラック発生の有無を確認した。
【0143】
<半田耐熱性>
銅箔を基材として、得られた積層フィルムを、JIS−C6481に準じて260℃の半田浴に30秒間浸漬し、剥がれや膨れ等の外観異常の有無を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)○:外観異常なし
△:わずかに外観異常あり
×:全面外観異常あり
【0144】
<加熱時ブリード、タック試験>
ポリイミドフィルムを基材として、得られた積層フィルムを100mm×100mmに切り出し、200℃の加熱オーブン中で100時間放置し、目視と表面を指触してタック感の有無を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)○:ブリード物、タック感なし
△:わずかにブリード物、タック感あり
×:顕著なブリード物、タック感あり
【0145】
<鉛筆硬度>
銅箔を基材として、得られた積層フィルムについて、JIS−K5400に準じて評価を行った。鉛筆硬度は2H以上が好ましく、3H以上がさらに好ましい。
【0146】
<溶出率>
PETフィルムを基材として、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を乾燥後の厚さ15μmになるよう塗布した。80℃で10分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、165℃で2時間加熱して積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを100mm×25mmに切り出し、25℃でTHF(テトラヒドロフラン)溶液に60分間浸漬し、浸漬前後の質量変化から溶出物の質量分率を算出した。
【0147】
<耐薬品性>
ポリイミドフィルムを基材として、得られた積層フィルムを、10%HCl、10%NaOH、イソプロパノール、メチルエチルケトンの各溶媒に各10秒間浸漬し、剥がれや溶解等の外観異常の有無を以下の判定基準に基づいて評価した。
(判定)○:全ての溶媒に浸漬しても外観異常なし
△:少なくとも一種の溶媒に浸漬した場合にわずかに外観異常あり
×:少なくとも一種の溶媒に浸漬した場合に全面外観異常あり
【0148】
<線間絶縁抵抗>
東洋紡製2層CCL(商品名バイロフレックス、銅箔18μm、基材20μm)からサブトラクティブ法で銅回路(L/S=50/50)の櫛型パターンを作成し、1%硫酸洗浄した後、水洗乾燥した。回路上にウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物を全面印刷し、165℃×2時間硬化させ試験基板を得た。(実施例10を参照)。直流電圧100V印加時の線間絶縁抵抗を測定した。
(判定)○:10の10乗Ω以上
△:10の8乗Ω以上10の10乗Ω未満
×:10の8乗未満
【0149】
<耐マイグレーション性>
東洋紡製2層CCL(商品名バイロフレックス、銅箔18μm、基材20μm)からサブトラクティブ法で銅回路(L/S=70/70)の櫛型パターンを作成し、1%硫酸洗浄した後、水洗乾燥した。回路上にウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物を全面印刷し、165℃×2時間硬化させ試験基板を得た。(実施例10を参照)。この試験基板の電気絶縁性を以下の基準にて評価した。
測定条件:温度85℃、湿度85%RH、印加直流電圧50V、1000時間。
(判定)○:絶縁抵抗値10の9乗Ω以上、銅のマイグレーションなし
△:絶縁抵抗値10の8乗Ω以上、銅のマイグレーションあり
×:絶縁抵抗値10の8乗未満、銅のマイグレーションあり
【0150】
製造例1
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた4ツ口2リットルセパラブルフラスコに、トリメリット酸無水物(純度99.9%、トリメリット酸含有量0.1%);166.0質量部、ビスフェノールAのポリプロピレンオキサイド付加体(三洋化成工業(株)製の商品名ニューポールBP−5P、分子量533);86.3質量部、ポリプロピレングリコール(三洋化成工業(株)製の商品名サンニックスPP2000、分子量2000);108質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート;84.1質量部、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート;125.1質量部、γ−ブチロラクトン;493.5質量部、及び触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン;1.5質量部を仕込み、窒素気流下、液内温30℃から160℃まで昇温し5時間反応させた後、γ−ブチロラクトンを246.8質量部加えて希釈し、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の濃褐色ウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−1を得た。
【0151】
製造例2
表1に記載した原料を使用し、実施例1と同様に重合した後、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の濃褐色ウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−2を得た。
【0152】
製造例3
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた4ツ口2リットルセパラブルフラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンジオールセバケート(クラレ(株)製の商品名クラレポリオールP−2050、分子量2000);426.0質量部、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート;250.3質量部、γ−ブチロラクトン;575.0質量部を仕込み、窒素気流下、液内温30℃から80℃まで昇温し2時間反応させた。さらにトリメリット酸無水物(純度99.9%、トリメリット酸含有量0.1%);81.9質量部、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート;174.8質量部を仕込み、80℃で2時間反応させた。γ−ブチロラクトン;287.5質量部及び触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン;1.5質量部を仕込み、窒素気流下、液内温80℃から120℃まで昇温し6時間反応させた後、γ−ブチロラクトンを431.2質量部加えて希釈し、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の濃褐色ウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−3を得た。
【0153】
製造例4
表1に記載した原料を使用し、製造例3と同様に重合した後、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の濃褐色ウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−4を得た。
【0154】
製造例5
表1に記載した原料を使用し、製造例3と同様に重合した後、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の薄黄色ウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−5を得た。
【0155】
製造例6
表1に記載した原料を使用し、製造例1と同様に重合した後、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の濃褐色ポリイミド系樹脂溶液A−6を得た。
【0156】
製造例7
表1に記載した原料を使用し、製造例3と同様に重合した後、室温まで冷却することで不揮発分40質量%の薄黄色ポリカーボネートウレタン系樹脂溶液A−7を得た。
【0157】
【表1】

【0158】
実施例1
製造例1で得られたウレタン変性ポリイミド系樹脂溶液A−1の樹脂分37.8質量部に対して、エピクロンEXA4850−150(DIC(株)製ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂)22.6質量部を加え、γ−ブチロラクトンで希釈した。さらに、フィラーとしてアエロジル300(日本アエロジル(株)製親水性ヒュームドシリカ微粒子)を2.1質量部、非ハロゲン系難燃剤としてエクソリットOP935(クラリアントジャパン(株)製ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩)を10.2質量部、PHOSMEL−200(日産化学工業(株)製ポリリン酸メラミン・メラム・メレム)を10.2質量部、酸無水物としてリカシッドDDSA(新日本理化(株)製ドデセニル無水コハク酸)を7.7質量部、硬化促進剤としてU−CAT5002(サンアプロ(株)製)を0.7質量部、イオンキャッチャーとしてIXE−100、IXE−700F(東亞合成(株)製)を各3.0質量部、消泡剤としてフローレンAC−326F(共栄社化学(株)製)を1.4質量部、レベリング剤としてBYK−358(ビックケミー(株)製)を1.3質量部加え、まず粗混練りし、次いで高速3本ロールを用いて3回混練りを繰り返すことで、均一にフィラーが分散しチキソトロピー性を有する、本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を得た。γ−ブチロラクトンで粘度を調整したところ、溶液粘度が280ポイズ、揺変度は2.8であった。次に、厚さ18μmの電解銅箔の光沢面に、得られたウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を乾燥後の厚さ15μmになるよう塗布した。80℃で10分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、165℃で2時間加熱して積層フィルムを得た。また、得られた積層フィルムの銅箔を塩化第二鉄溶液でエッチング除去することにより、フィルムを得た。同様に厚さ25μのポリイミドフィルム(カネカ製アピカルNPI)に得られたウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を乾燥後の厚さ15μmになるよう塗布、乾燥加熱し、積層フィルムを得た。得られた組成物、積層フィルムの詳細と評価結果を表2に示す。
【0159】
実施例2〜9
表2に記載した原料を使用し、実施例1と同様なウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物、積層フィルムを得た。得られた組成物、積層フィルムの詳細と評価結果を表2に示す。
【0160】
実施例10
東洋紡製2層CCL(商品名バイロフレックス、銅箔18μm、基材20μm)からサブトラクティブ法で得られた銅回路(L/S=50/50)上に、実施例3で得られたウレタン変性ポリイミド系樹脂組成物をSUSメッシュ版(株式会社ムラカミ製150メッシュ、乳剤厚30μm)で、印刷速度7cm/秒にて所定パターンを印刷し、80℃で10分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、165℃で2時間加熱して、ウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物からなるカバーレイ(被膜)を施したフレキシブルプリント配線板を得た。被膜の厚みは15μmであった。得られたフレキシブルプリント配線板は、柔軟性、屈曲性に優れたものであった。
【0161】
比較例1〜9
表3に記載した原料を使用したほかは、実施例1と同様な操作でウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物、積層フィルムを得た。得られた組成物、積層フィルムの詳細と評価結果を表3に示す。
【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
表1、表2、表3に示す結果から明らかなように、本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物から形成した硬化塗膜は、低温硬化可能であり、反りが少なく、屈曲性、難燃性、耐熱性、耐薬品性、電気特性、基材への密着性に優れていた。これに対して、比較例1、6,7では(E)成分が本発明の範囲を外れており、比較例2〜4では(D)成分が本発明の範囲を外れている。また、比較例5、7では(B)成分が本発明の範囲を外れている。また、比較例8、9では(A)成分が本発明の範囲を外れているため、これらのウレタン変性ポリイミド系樹脂難燃樹脂組成物から形成した硬化塗膜は、いずれも各特性において劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物は、被膜形成材料として、フレキシブルプリント配線基板などの各種電子部品用オーバーコートインキ、ソルダーレジストインキ、層間絶縁膜に有用である他、塗料、コーティング剤、接着剤等として電子機器の幅広い分野で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)酸無水物基を有する3価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、(b)ジオール化合物、(c)脂肪族ポリアミン残基誘導体及び/又は芳香族ポリアミン残基誘導体を必須の成分として生成されるウレタン結合を有するウレタン変性ポリイミド系樹脂、
(B)ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、アルキレンジオール変性エポキシ樹脂、又はエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1種からなる、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、
(C)無機あるいは有機フィラー、
(D)下記一般式[I]で表されるホスフィン酸塩、下記一般式[II]で表されるジホスフィン酸塩、少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とリン酸類との反応生成物、又は少なくとも1つのアミノ基を有するシアナミド誘導体とシアヌル酸類との反応生成物のうちの少なくとも1種の非ハロゲン系難燃剤、及び
(E)酸無水物基及び炭素数8以上のアルケニル基を有する2価及び/又は4価のポリカルボン酸誘導体、
を含むことを特徴とするウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(一般式[I]及び一般式[II]中、R及びRは互いに同じであっても異なってもよく、線状又は分岐状のC〜C10のアルキル及び/又はシクロアルキル及び/又はアリール及び/又はアラルキルであり、R及びRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成しても良い。Rは線状又は分岐状のC〜C10のアルキレン、C〜C10のシクロアルキレン、C〜C10のアリーレン、C〜C10のアルキルアリーレン又はC〜C10のアリールアルキレンであり、Mm+は、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上の原子のカチオン及び/又はプロトン化した窒素塩基化合物であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、xは1〜4の整数である。)
【請求項2】
(b)ジオール化合物が、(b−1)ポリオキシアルキレングリコール、及び/又は(b−2)下記一般式[III]で表されるビスフェノールのポリアルキレンオキサイド付加体を含むことを特徴とする請求項1に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【化3】

(一般式[III]中、m、nは1以上の整数であって、同じであっても異なってもよい。RはC〜C20のアルキレン基であり、R及びRは水素もしくはC〜Cのアルキル基を表し、互いに同じであっても異なってもよい。)
【請求項3】
(F)硬化促進剤をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【請求項4】
(G)イオンキャッチャーをさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ウレタン変性ポリイミド系樹脂が、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒中で反応させて得られるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【請求項6】
揺変度で2.0以上のチクソトロピー性を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【請求項7】
硬化して得られる被膜の、25℃にて引張り速度20mm/分で測定される破断伸びが20%以上であり、かつ25℃にてTHF(テトラヒドロフラン)溶剤に60分間浸漬した際の溶出量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物。
【請求項8】
ソルダーレジスト層、表面保護層、層間絶縁層又は接着剤層を有する電子部品であって、前記層が請求項1から7のいずれか一項に記載のウレタン変性ポリイミド系難燃樹脂組成物を硬化して得られるものであることを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2012−144653(P2012−144653A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4672(P2011−4672)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】