説明

ウレタン樹脂積層体、定着ロール、定着ベルト、画像定着装置、プラテン用透明板、画像読取装置および画像形成装置

【課題】各層の接着性に優れたウレタン樹脂積層体の提供。
【解決手段】少なくとも一方の表面における水の接触角が0度以上90度以下である基材と、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層3Aと、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層3Bと、をこの順に且つ各層が接するよう備えるウレタン樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂積層体、定着ロール、定着ベルト、画像定着装置、プラテン用透明板、画像読取装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に、自己修復性を示す材料を保護層として設けることで、該保護層の表面で発生した傷を修復しようとする技術が試されている。
【0003】
例えば、光透過性基材の一面側に、当該光透過性基材側から順にハードコート層及び復元性層を設けたハードコートフィルムであって、当該ハードコート層は、バインダー成分を含むハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、当該復元性層は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する有機イソシアネート、ヒドロキシ変性アクリレートやヒドロキシ変性メタクリレート及びポリカプロラクトン含有多官能アルコールとを反応させることによって得られたウレタンアクリレートやウレタンメタクリレートを含む復元性層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなるハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、樹脂フィルムよりなる基材上に自己修復性を有する軟質樹脂層を設け、その上に含フッ素樹脂硬化被膜よりなる反射防止層が形成されて構成されているペン入力装置用表面材が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、ジイソシアネートモノマーをイソシアヌレート変性させた化合物等の1分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機イソシアネートとポリカプロラクトン変性アルキル(メタ)アクリレートとを反応させて得られる放射線硬化性のウレタン(メタ)アクリレートを構成成分として含有する放射線硬化型組成物を硬化させて得られる樹脂層、および複数の反射防止膜よりなる反射防止層を有する反射防止フィルタが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、透明基材上に、光透過性の低屈折率層を構成層の一つとして有する2層以上からなる反射防止積層体であり、該低屈折率層は、バインダー成分を硬化させて形成された低屈折率層内の表面付近に、レベリング剤としてのブロック共重合体を固定させた硬化層であり、該ブロック共重合体は、ラジカル重合性単量体を重合成分として構成されるブロック(A)と、ケイ素元素やフッ素元素を含む重合成分から構成されるブロック(B)とから成るAB型のブロック共重合体である反射防止積層体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、組成物がナノ粒子、フッ素化合物、および該組成物を硬化させる化合物を含み、該組成物は支持膜の第1面に隣接し並びに接着剤が支持膜の第2面に隣接する物品であって、フッ素化合物がフッ化ポリエーテル等および、フッ化ポリエーテルが組み込まれるポリウレタンからなり、ナノ粒子が表面処理されたナノ粒子、表面未処理のナノ粒子およびそれらの混合物の、分散体から選択される物品が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、基体、透明樹脂層及び透明導電層がこの順に積層された構成を有し、透明樹脂層は、その面方向に屈折率が異なる領域(第1の領域及び第2の領域)を複数有している透明導電体が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−031527号公報
【特許文献2】特開2006−119772号公報
【特許文献3】特開2006−138879号公報
【特許文献4】特開2008−009347号公報
【特許文献5】特開2007−023270号公報
【特許文献6】特開2007−273408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、各層の接着性に優れたウレタン樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち請求項1に係る発明は、
少なくとも一方の表面における水の接触角が0度以上90度以下である基材と、
分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層と、
分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層と、
をこの順に且つ各層が接するよう備えるウレタン樹脂積層体である。
【0012】
請求項2に係る発明は、
前記外側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、前記内側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、が重複している請求項1に記載のウレタン樹脂積層体である。
【0013】
請求項3に係る発明は、
前記外側ウレタン樹脂層、前記内側ウレタン樹脂層および前記基材が何れも透明性を示し、
前記外側ウレタン樹脂層と前記内側ウレタン樹脂層との屈折率が異なり、
且つ前記外側ウレタン樹脂層の膜厚は、前記外側ウレタン樹脂層側から入射した光が該外側ウレタン樹脂層の外側表面で反射した反射光(L1)の位相に対し、前記外側ウレタン樹脂層と前記内側ウレタン樹脂層との界面で反射した反射光(L2)の位相が逆転する膜厚である請求項1または請求項2に記載のウレタン樹脂積層体である。
【0014】
請求項4に係る発明は、
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記基材が円筒形状である画像形成装置用の定着ロールである。
【0015】
請求項5に係る発明は、
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記基材がベルト形状である画像形成装置用の定着ベルトである。
【0016】
請求項6に係る発明は、
第1の回転体と、
前記第1の回転体に接触して記録媒体を挟み込む挟込領域を形成する第2の回転体と、を有し、
前記第1の回転体および前記第2の回転体の少なくとも一方が、請求項4に記載の定着ロールまたは請求項5に記載の定着ベルトである画像定着装置である。
【0017】
請求項7に係る発明は、
静電潜像保持体と、
前記静電潜像保持体表面上に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
前記静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する請求項6に記載の画像定着装置と、
を備える画像形成装置である。
【0018】
請求項8に係る発明は、
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記外側ウレタン樹脂層、前記内側ウレタン樹脂層および前記基材が何れも透明性を示す原稿読取装置用のプラテン用透明板である。
【0019】
請求項9に係る発明は、
請求項8に記載のプラテン用透明板と、
前記プラテン用透明板の前記外側ウレタン樹脂層側の表面に設置された読取原稿を前記プラテン用透明板の反対側から読み取る原稿読取部と、
を有する原稿読取装置である。
【0020】
請求項10に係る発明は、
請求項9に記載の原稿読取装置と、
前記原稿読取装置で読み取られた画像情報に基づいて記録媒体上に画像を形成する画像形成部と、
を有する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有しない場合に比べ、各層の接着性に優れたウレタン樹脂積層体が提供される。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、外側ウレタン樹脂層における自己修復性が発現される温度領域と内側ウレタン樹脂層における自己修復性が発現される温度領域とが重複していない場合に比べ、内側ウレタン樹脂層にまで達する深さの深い傷に対しても効率的に傷の修復が行われるウレタン樹脂積層体が提供される。
【0023】
請求項3に係る発明によれば、外側ウレタン樹脂層と内側ウレタン樹脂層との屈折率が異なり、且つ外側ウレタン樹脂層の膜厚が、外側ウレタン樹脂層側から入射した光が該外側ウレタン樹脂層の外側表面で反射した反射光(L1)の位相に対し、外側ウレタン樹脂層と内側ウレタン樹脂層との界面で反射した反射光(L2)の位相が逆転する膜厚であるとの要件を満たさない場合に比べ、外側ウレタン樹脂層側から入射した光の反射光を抑制し得るウレタン樹脂積層体が提供される。
【0024】
請求項4に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有しない場合に比べ、各層の接着性に優れた画像形成装置用の定着ロールが提供される。
【0025】
請求項5に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有しない場合に比べ、各層の接着性に優れた画像形成装置用の定着ベルトが提供される。
【0026】
請求項6に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有する定着ロールまたは定着ベルトを用いない場合に比べ、定着部材における外側および内側ウレタン樹脂層の剥れが抑制された画像定着装置が提供される。
【0027】
請求項7に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有する定着ロールまたは定着ベルトを備えた画像定着装置を用いない場合に比べ、長期にわたり優れた画質の定着画像が得られる画像形成装置が提供される。
【0028】
請求項8に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有しない場合に比べ、各層の接着性に優れた原稿読取装置用のプラテン用透明板が提供される。
【0029】
請求項9に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有するプラテン用透明板を用いない場合に比べ、プラテン用透明板における外側および内側ウレタン樹脂層の剥れが抑制された原稿読取装置が提供される。
【0030】
請求項10に係る発明によれば、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層との間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層を有するプラテン用透明板を備えた原稿読取装置を用いない場合に比べ、長期にわたり優れた画質の画像が得られる画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る定着ベルトの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る定着ベルトの断面図である。
【図3】本実施形態に係る定着ベルトを用いた画像形成装置を示す概略構成図である。
【図4】本実施形態に係る定着ベルトを用いた画像定着装置を示す概略構成図である。
【図5】本実施形態に係る定着ベルトを用いた他の画像定着装置を示す概略構成図である。
【図6】本実施形態に係る画像形成装置の全体構成図である。
【図7】本実施形態に係る画像形成装置におけるプラテン用透明板および操作パネル部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のウレタン樹脂積層体、画像形成装置用の定着ロールおよび定着ベルト、画像定着装置、プラテン用透明板、画像読取装置並びに画像形成装置の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
本実施形態に係るウレタン樹脂積層体は、少なくとも一方の表面における水の接触角が0度以上90度以下である基材と、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層と、をこの順に且つ各層が接するよう備える。
【0034】
基材の保護を目的として、該基材の表面に自己修復性を示すウレタン樹脂層を形成する場合がある。その際、前記自己修復性を示すウレタン樹脂層に離型性や防汚染性を付与する観点から、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含むウレタン樹脂層を適用した場合、該ウレタン樹脂層と基材との接着性が得られなかったり、ウレタン樹脂層形成用の塗布液が基材表面ではじかれてしまい前記ウレタン樹脂層の形成が行えない場合があった。
【0035】
これに対し、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体は、基材と、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層と、の間に、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層が介在する。上記内側ウレタン樹脂層の表面に上記外側ウレタン樹脂層が積層されることで、前述の離型性や防汚染性を付与しつつ、且つ両者の親和性によって優れた接着性をも得られる。
また、外側ウレタン樹脂層および内側ウレタン樹脂層はいずれも自己修復性を示すため、外側ウレタン樹脂層の擦り傷等の傷がより深くなった場合であっても該傷が修復され、永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。
【0036】
更に、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体における基材は、少なくとも前記内側ウレタン樹脂層が形成される表面の水の接触角が前述の範囲である。水の接触角の数値が上記範囲である基材であれば、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含む内側ウレタン樹脂層との親和性が得られ、優れた接着性が得られる。また、内側ウレタン樹脂層形成用の塗布液が基材表面ではじかれてしまうことも抑制され、内側ウレタン樹脂層の形成が効率的に行われる。
尚、水の接触角が前述の範囲である基材と分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含む内側ウレタン樹脂層との相関関係のメカニズムは明らかではないものの、以下のように推察している。つまりフッ素原子を含有しない樹脂の接触角は90度未満であり、水の接触角が前述の範囲である基材と表面エネルギーが似ている為に基材への濡れ性が向上し、そのために接着性があがるものと考えられる。
【0037】
−自己修復性の定義−
ここで、自己修復性とは、応力によってできた歪を応力の除荷時に復元する性質を指し、具体的に本明細書においては、使用温度の下、下記測定方法によって求められる「戻り率」が80%以上であることを表す。
【0038】
・戻り率の測定方法
測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用い、ポリイミドフィルムに内側ウレタン樹脂層形成用の塗布液または外側ウレタン樹脂層形成用の塗布液を塗布し重合してサンプル用の樹脂層を形成し、スライドガラスに接着剤で固定し、上記測定装置にセットする。サンプル用樹脂層に特定の測定温度(使用温度)で0.5mNまで15秒間かけて荷重をかけていき0.5mNで5秒間保持する。その際の最大変位を(h1)とする。その後、15秒かけて0.005mNまで除荷していき、0.005mNで1分間保持したときの変位を(h2)として、その温度での戻り率〔{(h1−h2)/h1}×100(%)〕を計算する。
本明細書に記載の戻り率は、該方法によって測定したものである。
【0039】
−自己修復温度−
尚、本実施形態における内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層において自己修復性が発現される温度(即ち上記戻り率が80%以上となる温度:自己修復温度)は、該内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を形成する樹脂が層として形成された後の形態を保持しうる温度域であれば、いかなる温度であってもよい。従って、前記戻り率の測定方法における“特定の測定温度”は、上記温度域のいかなる温度をも対象とする。
【0040】
特に、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を、例えば画像形成装置における定着部材(定着ロールや定着ベルト等)に適用する場合であれば、内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層における自己修復温度は80℃以上280℃以下であることが好ましく、120℃以上250℃以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を、例えば画像読取装置におけるプラテン用透明板に適用する場合であれば、内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層における自己修復温度は0℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0041】
また、外側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、内側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、は重複していることが好ましい。両者の自己修復温度の温度領域が重複していることで、より深い傷に対してもより効率的に傷の修復が行われる。
【0042】
−ウレタン樹脂積層体の温度−
本実施形態に係るウレタン樹脂積層体における内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層は、自己修復性が発現される温度(自己修復温度)以外の温度環境におかれた場合であっても、より長い時間(例えば前記戻り率の測定方法と同じ条件で荷重をかけ傷をつけた場合であれば、1分間を超える時間)をかけることで、好適に傷の修復が行われる。
但し、より効率的に傷の修復を行う観点から、ウレタン樹脂積層体の内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層が、前述の自己修復性を発現する温度(即ち前記戻り率が80%以上となる温度:自己修復温度)となる環境で使用することが好ましい。
【0043】
例えば、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を画像形成装置における熱定着方式の定着部材(定着ロールや定着ベルト等)に適用する場合であれば、該定着部材は加熱され温度が上昇した状態(例えば160℃以上200℃以下の温度に加熱される)で使用される。そのため、該加熱によって前記定着部材が到達する温度域において自己修復性を発現する内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を適用することで、より効率的に傷の修復を行い得る。
【0044】
また、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を画像形成装置の画像読取装置におけるプラテン用透明板に適用する場合であれば、該画像形成装置本体から生じる熱によってプラテン用透明板に熱が付与される(例えば20℃以上50℃以下の温度に加熱される)。そのため、画像形成装置本体から生じる熱によってプラテン用透明板が到達する温度域において自己修復性を発現する内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を適用することで、より効率的に傷の修復が行われる。
【0045】
−基材における水の接触角−
本実施形態における基材は、少なくとも前記内側ウレタン樹脂層が形成される表面が前述の範囲の水の接触角を有する。更に該接触角は、10度以上60度以下であることが特に好ましい。
尚、上記接触角は、基材の材質や該基材への表面処理等により調整される。
【0046】
[測定方法]
上記水の接触角は、基材の表面に注射器で1μlの水滴をおとし、その液滴の接線と基材表面とのなす角度を接触角として測定する。具体的には、θ/2法や接線法、カーブフィッティング法など、公知のどの手法を用いてもよい。
【0047】
−反射防止層−
本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を構成する前記外側ウレタン樹脂層、内側ウレタン樹脂層および基材が何れも透明性を示す場合には、外側ウレタン樹脂層および内側ウレタン樹脂層の屈折率と、外側ウレタン樹脂層の厚さを調整することで、該外側ウレタン樹脂層側から入射した光の反射光を抑制する構成としてもよい。即ち、外側ウレタン樹脂層と内側ウレタン樹脂層との屈折率が異なり、且つ外側ウレタン樹脂層の膜厚を、外側ウレタン樹脂層側から入射した光が該外側ウレタン樹脂層の外側表面で反射した反射光(L1)の位相に対し、外側ウレタン樹脂層と内側ウレタン樹脂層との界面で反射した反射光(L2)の位相が逆転する膜厚に調整することで、外側ウレタン樹脂層および内側ウレタン樹脂層に反射防止層としての役割を担わせてもよい。
【0048】
尚、前記透明性とは、可視光領域の光を透過する性質をいい、本明細書においては、少なくとも本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を介しても反対側が視認しうる程度に透明であることをさす。
【0049】
また、外側ウレタン樹脂層および内側ウレタン樹脂層の屈折率は、各ウレタン樹脂層単体の膜(90μm膜厚)を調製し、アタゴ社製デジタルアッベ屈折計DR−A1により測定される。本明細書に記載の数値は該方法にて測定したものである。
【0050】
高分子の屈折率は一般的にその分子構造や分子鎖の凝集状態によって変化するため、外側ウレタン樹脂層および内側ウレタン樹脂層における前記屈折率を調整する方法としては、例えばウレタン樹脂の材料としての(メタ)アクリル酸モノマーの種類や嵩高さ、極性を変える等の方法が挙げられる。
【0051】
ついで、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体の構成について説明する。
【0052】
<ウレタン樹脂積層体>
−内側ウレタン樹脂層−
内側ウレタン樹脂層は、分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す。
【0053】
内側ウレタン樹脂層に用いる材料としては、特に限定されるものではないが、例えばアクリル樹脂と、イソシアネートと、を重合して形成されるウレタン樹脂が好適に挙げられる。
【0054】
(a)アクリル樹脂
内側ウレタン樹脂層用のウレタン樹脂を構成する前記アクリル樹脂としては、ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂が望ましい。
該アクリル樹脂を形成するためのモノマーとしては、まずヒドロキシル基を有するモノマーとして、例えば、(1)(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミン等のヒドロキシ基を有するエチレン性モノマー等が挙げられる。また、(2)(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシ基を有するエチレン性モノマーを用いてもよい。更に、ヒドロキシル基を有しないモノマーとして、(3)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の前記モノマー(1)および(2)と共重合し得るエチレン性モノマーを併用してもよい。
【0055】
尚、内側ウレタン樹脂層の自己修復性を制御するための制御方法として、上記アクリル樹脂における炭素数が10未満の側鎖ヒドロキシル基(短側鎖ヒドロキシル基)の量、および炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基(長側鎖ヒドロキシル基)の量を調整する方法が挙げられる。
特に、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を、例えば画像形成装置における定着部材(定着ロールや定着ベルト等)等の温度が高い環境で用いる場合には、炭素数が10未満の側鎖ヒドロキシル基(短側鎖ヒドロキシル基)の含有モル量〔A〕および炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基(長側鎖ヒドロキシル基)の含有モル量〔B〕の比(〔A〕/(〔A〕+〔B〕))が80%以上(但し前記炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基を含有しない場合を含む)であるアクリル樹脂を用いることが好ましい。更に、上記比(〔A〕/(〔A〕+〔B〕))は90%以上であることがより好ましい。
【0056】
アクリル樹脂に長側鎖ヒドロキシル基を含有させる場合には、アクリル樹脂を形成するためのモノマーとして、ε−カプロラクトンを3−5モル(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルに付加してなるものが好ましい。
アクリル樹脂は1種のみでもよいし2種以上を用いてもよい。
【0057】
本実施形態における上記アクリル樹脂の合成方法は、前述のモノマーを混合し、通常のラジカル重合やイオン重合等を行った後、精製することによって合成される。
【0058】
(b)イソシアネート
内側ウレタン樹脂層用のウレタン樹脂を構成するイソシアネートは、前記アクリル樹脂同士を架橋する架橋剤として機能する。特に制限されるものではないが、イソシアネートとしては例えば、メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が好ましく用いられる。またヘキサメチレンジイソシアネートの多量体である、イソシヌアレート型、ビュレット型、アダクト型等を用いてもよい。イソシアネートは1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。さらにある特定温度までは反応しないよう官能基をブロック化したイソシアネートを用いてもよい。
尚、上記イソシアネートの含有量(i)としては、前記アクリル樹脂のヒドロキシル基量(ii)に対する比(i)/(ii)が0.1以上3以下であることが好ましく、更には1以上1.5以下であることがより好ましい。
【0059】
−外側ウレタン樹脂層−
外側ウレタン樹脂層は、分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す。
【0060】
外側ウレタン樹脂層に用いる材料としては、特に限定されるものではないが、例えばアクリル樹脂と、イソシアネートと、を重合して形成されるウレタン樹脂において、更にフッ素原子を含有させた重合体が好適に挙げられる。具体的には、ウレタン樹脂の重合の際にフッ素原子を含有するアクリル樹脂を用いる方法等が挙げられる。
【0061】
(a')アクリル樹脂
外側ウレタン樹脂層用のウレタン樹脂を構成する前記アクリル樹脂としては、ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂が望ましい。
該アクリル樹脂を形成するためのモノマーとしては、前記外側ウレタン樹脂層用のウレタン樹脂において列挙したモノマーがそのまま挙げられる。
【0062】
尚、外側ウレタン樹脂層の自己修復性を制御するための制御方法として、上記アクリル樹脂における炭素数が10未満の側鎖ヒドロキシル基(短側鎖ヒドロキシル基)の量、および炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基(長側鎖ヒドロキシル基)の量を調整する方法が挙げられる。
特に、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を、例えば画像形成装置における定着部材(定着ロールや定着ベルト等)等の温度が高い環境で用いる場合には、炭素数が10未満の側鎖ヒドロキシル基(短側鎖ヒドロキシル基)の含有モル量〔A〕および炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基(長側鎖ヒドロキシル基)の含有モル量〔B〕の比(〔A〕/(〔A〕+〔B〕))が80%以上(但し前記炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基を含有しない場合を含む)であるアクリル樹脂を用いることが好ましい。更に、上記比(〔A〕/(〔A〕+〔B〕))は90%以上であることがより好ましい。
【0063】
(フッ素原子を含有するアクリル樹脂)
また、フッ素原子を含有するアクリル樹脂としては、モノマーとして、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルエチレン等を、前述のモノマーに加えて重合させて得られた共重合体が挙げられる。
上記フッ素原子の含有量は、全ウレタン樹脂の5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0064】
尚、本実施形態における上記アクリル樹脂の合成方法は、前述のモノマーを混合し、通常のラジカル重合やイオン重合等を行った後、精製することによって合成される。
【0065】
(b')イソシアネート
外側ウレタン樹脂層用のウレタン樹脂を構成するイソシアネートは、前記アクリル樹脂同士を架橋する架橋剤として機能する。特に制限されるものではないが、イソシアネートとしては例えば、メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が好ましく用いられる。またヘキサメチレンジイソシアネートの多量体である、イソシヌアレート型、ビュレット型、アダクト型等を用いてもよい。イソシアネートは1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。さらにある特定温度までは反応しないよう官能基をブロック化したイソシアネートを用いてもよい。
尚、上記イソシアネートの含有量(i)としては、前記アクリル樹脂のヒドロキシル基量(ii)に対する比(i)/(ii)が0.1以上3以下であることが好ましく、更には1以上1.5以下であることがより好ましい。
【0066】
・内側および外側ウレタン樹脂層の形成方法
ついで、本実施形態における内側および外側ウレタン樹脂層の形成方法について一例を挙げて説明する。
例えば、前記(a)アクリル樹脂と(b)イソシアネートとを混合し減圧下で脱泡した内側ウレタン樹脂層形成用の塗布液を基板表面(水の接触角が前述の範囲である表面)にキャストし、加熱(例えば85℃で30分、160℃で1時間)して硬化させる。
尚、ブロック化された(b)イソシアネートを用いる場合には、ブロックが外れる温度以上に加熱して硬化する。また、減圧脱泡のかわりに超音波を用いたり、混合液を放置して脱泡する等の方法によって行ってもよい。
【0067】
次いで、前記(a')フッ素原子を含有するアクリル樹脂と(b')イソシアネートとを混合し減圧下で脱泡したのち前記内側ウレタン樹脂層の表面にキャストして、加熱(例えば85℃で30分、160℃で1時間)して硬化させる。
ブロック化されたイソシアネートを用いる場合には、前述の通り、ブロックが外れる温度以上に加熱して硬化する。また、減圧脱泡のかわりに超音波を用いたり、混合液を放置して脱泡する等の方法によって行なってもよい。
【0068】
・自己修復性の制御
内側および外側ウレタン樹脂層において、戻り率の数値を前述の範囲に制御する、即ち自己修復性を有するウレタン樹脂層とするための制御方法は、アクリル樹脂における長側鎖ヒドロキシル基の量および短側鎖ヒドロキシル基の量の制御、架橋剤の種類および量等を制御することにより調整される。例えば、架橋密度を大きくすることによって戻り率は大きくなる傾向にある。
【0069】
前記内側ウレタン樹脂層の厚さとしては、特に限定されるものではないが10μm以上100μm以下が好ましい。
また外側ウレタン樹脂層の厚さとしては、特に限定されるものではないが10μm以上100μm以下が好ましい。
【0070】
−基材−
基材としては、少なくとも前記内側ウレタン樹脂層が形成される側の表面における水の接触角が前述の範囲であることを満たすものであれば、特に制限なく適用される。また、基材は単層構造であっても積層構造であってもよく、積層構造である場合には内側ウレタン樹脂層が形成される側の表面を構成する層の水の接触角が前述の範囲であればよい。
【0071】
基材としては多様な材料のものが挙げられ、例えば、プラスチック材料、金属材料、非磁性金属材料、ゴム材料、透明材料等が挙げられる。
【0072】
・プラスチック材料
プラスチック材料としては、一般にエンジニアリングプラスチックと呼ばれるものが挙げられ、例えばポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、全芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)などが挙げられる。
【0073】
上記プラスチック材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体は、例えば画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ベルト等において適用される。
尚、定着ベルトとして用いる場合には、前記プラスチック材料の中でも熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、などが好ましい。
また、上記プラスチック材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体は、例えば画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ロール等において適用される。
【0074】
・金属材料
金属材料としては、各種金属や合金材料が挙げられ、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、銅、アルミ、鉄や、これらの合金などが挙げられる。
【0075】
上記金属材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体は、例えば画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ベルト等において適用される。
尚、定着ベルトとして用いる場合には、前述のプラスチック材料や前記金属材料を複数積層してもよい。
また、上記金属材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体は、例えば画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ロール等において適用される。
【0076】
・非磁性金属材料
非磁性金属材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、ベリリュウム、アンチモン、およびこれらの合金(これらを含む合金)等の非磁性金属材料が挙げられる。
【0077】
上記非磁性金属材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体としては、例えば前述のプラスチック材料や金属材料等による層(基層)の上に更に上記非磁性金属材料の層(発熱層)を積層し、更に該発熱層上に内側および外側ウレタン樹脂層(保護層)を積層した態様で、電磁誘導方式の画像定着装置における定着ベルト等として適用される。
【0078】
・ゴム材料
ゴム材料としては、例えば、ウレタンゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)などが挙げられる。該シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0079】
上記ゴム材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体としては、例えば前述のプラスチック材料や金属材料等による層(基層)の上に更に上記ゴム材料の層(弾性層)を積層し、更に該弾性層上に内側および外側ウレタン樹脂層(保護層)を積層した態様で、画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ベルト等において適用される。
【0080】
また、上記ゴム材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体としては、例えば前述のプラスチック材料や金属材料等による円筒状芯材の上に更に上記ゴム材料の層(弾性層)を積層し、更に該弾性層上に内側および外側ウレタン樹脂層(保護層)を積層した態様で、画像形成装置の画像定着装置に用いられる定着ロール等において適用される。
【0081】
・透明材料
透明材料としては、例えば、ガラス、アクリル板、ポリカーボネート板等が挙げられる。
上記透明材料の基材を用いたウレタン樹脂積層体は、例えば画像読取装置に用いられるプラテンガラス等のプラテン用透明板等において適用される。
【0082】
次いで、本実施形態に係るウレタン樹脂積層体を、定着ベルト、定着ロール、プラテン用透明板として用いる場合の態様について説明する。
【0083】
<定着ベルト>
図1は、定着ベルトを示す斜視図(一部、断面で表わしている)であり、図2は、図1において矢印Aの方向から見た、定着ベルトの端面図である。
図1および図2に示すように、定着ベルト1は、基材2と、基材2の表面に積層された内側ウレタン樹脂層3Aと、外側ウレタン樹脂層3Bと、を有する無端状のベルトである。
【0084】
定着ベルト1における基材2に用いられる材質としては、耐熱性の材料が好ましく、前述の通りプラスチック材料や金属材料等が挙げられる。
【0085】
また、定着ベルト1における基材2では、前記プラスチック材料や金属材料による基層上に弾性層を設けてもよい。弾性層の材料としては、前述のゴム材料が挙げられる。
【0086】
更に、定着ベルト1を電磁誘導方式の画像定着装置に用いる場合には、基材2として前記プラスチック材料や金属材料による基層上に発熱層を設けてもよい。発熱層の材料としては、前述の非磁性金属材料が挙げられる。
【0087】
定着ベルト1に前記弾性層を設ける場合、該弾性層の厚さは、100μm以上3000μm以下の範囲が好ましい。
更に、前記発熱層を設ける場合、該発熱層の厚さは、5μm以上20μm以下の範囲が好ましい。
【0088】
<定着ロール>
次いで定着ロールについて、図4を参照して説明する。図4に示す定着ロール610としては、その形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、円筒状の芯材611上に、内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層からなる保護層613を備えてなる。また、図4に示す通り、芯材611と保護層613との間に弾性層612を有していてもよい。
【0089】
定着ロール610における芯材611に用いられる材質としては、耐熱性の材料が好ましく、前述の通りプラスチック材料や金属材料等が挙げられる。尚、図4に示す定着装置72では外径φ25mm、肉厚0.5mm、長さ360mmの円筒体で構成されている。
【0090】
弾性層612に用いられる材質としては、前述のゴム材料が挙げられる。
尚、弾性層612の厚みとしては、3mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.5mm以下の範囲であることがより好ましい。図4に示す定着装置72では、ゴム硬度が35°(JIS−A)のHTVシリコーンゴムを72μmの厚さで芯材に被覆している。
【0091】
保護層613の厚み(内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層の層厚)としては、好ましくは5μm以上1000μm以下、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0092】
定着ロール610を加熱する加熱源としては、例えばハロゲンランプ660が用いられ、上記芯材611の内部に収容する形状、構造のものであれば特に制限はなく、目的に応じて選択される。ハロゲンランプ660により加熱された定着ロール610の表面温度は、定着ロール610に設けられた感温素子690により計測され、制御手段によりその温度が一定に制御される。感温素子690としては、特に制限はなく、例えば、サーミスタ、温度センサなどが挙げられる。
【0093】
<画像形成装置、画像定着装置>
次に、前記定着ベルトおよび前記定着ロールを用いた画像形成装置について説明する。図3は、前記定着ベルトを定着装置の加圧ベルトとして備え、且つ前記定着ロールを定着装置の定着ロールとして備えたタンデム式の、画像形成装置の要部を説明する模試図である。
【0094】
具体的には、画像形成装置101は、感光体79(静電潜像保持体)と、感光体79の表面を帯電する帯電ロール83と、感光体79の表面を露光し静電潜像を形成するレーザー発生装置78(静電潜像形成手段)と、感光体79表面に形成された潜像を、現像剤を用いて現像し、トナー像を形成する現像器85(現像手段)と、現像器85により形成されたトナー像が感光体79から転写される中間転写ベルト86(中間転写体)と、トナー像を中間転写ベルト86に転写する1次転写ロール80(一次転写手段)と、感光体79に付着したトナーやゴミ等を除去する感光体清掃部材84と、中間転写ベルト86上のトナー像を記録媒体に転写する2次転写ロール75(二次転写手段)と、記録媒体上のトナー像を定着する定着装置72(定着手段)と、を含んで構成されている。感光体79と1次転写ロール80は、図3に示すとおり感光体79直上に配置していてもよく、感光体79直上からずれた位置に配置していてもよい。
【0095】
さらに、図3に示す画像形成装置101の構成について詳細に説明する。
画像形成装置101においては、感光体79の周囲に、反時計回りに帯電ロール83、現像器85、中間転写ベルト86を介して配置された1次転写ロール80、感光体清掃部材84が配置され、これら1組の部材が、1つの色に対応した現像ユニットを形成している。また、この現像ユニット毎に、現像器85に現像剤を補充するトナーカートリッジ71がそれぞれ設けられており、各現像ユニットの感光体79に対して、帯電ロール83の(感光体79の回転方向)下流側であって現像器85の上流側の感光体79表面に画像情報に応じたレーザー光を照射するレーザー発生装置78が設けられている。
【0096】
4つの色(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)に対応した4つの現像ユニットは、画像形成装置101内において水平方向に直列に配置されており、4つの現像ユニットの感光体79と1次転写ロール80との転写領域を挿通するように中間転写ベルト86が設けられている。中間転写ベルト86は、その内面側に以下の順序で反時計回りに設けられた、支持ロール73、支持ロール74、および駆動ロール81により張力を付与しつつ支持されて駆動され、ベルト駆動装置90を形成している。尚、4つの1次転写ロールは支持ロール73の(中間転写ベルト86の回転方向)下流側であって支持ロール74の上流側に位置する。また、中間転写ベルト86を介して駆動ロール81の反対側には中間転写ベルト86の外周面を清掃する転写清掃部材82が駆動ロール81に対して接触するように設けられている。
【0097】
また、中間転写ベルト86を介して支持ロール73の反対側には用紙供給部77から用紙経路76を経由して搬送される記録用紙の表面に、中間転写ベルト86の外周面に形成されたトナー像を転写するための2次転写ロール75が、支持ロール73に対して接触するように設けられている。
【0098】
また、画像形成装置101の底部には記録媒体を収容する用紙供給部77が設けられ、用紙供給部77から用紙経路76を経由して2次転写部を構成する支持ロール73と2次転写ロール75との接触部を通過するように、記録媒体が供給される。この接触部を通過した記録媒体は、更に定着装置72の接触部を挿通するように不図示の搬送手段により搬送され、最終的に画像形成装置101の外へと排出される。
【0099】
次に、図3に示す画像形成装置101を用いた画像形成方法について説明する。トナー像の形成は各現像ユニット毎に行なわれ、帯電ロール83により反時計方向に回転する感光体79表面を帯電した後に、レーザー発生装置78(露光装置)により帯電された感光体79表面に潜像(静電潜像)を形成し、次に、この潜像を現像器85から供給される現像剤により現像してトナー像を形成し、1次転写ロール80と感光体79との接触部に運ばれたトナー像を矢印C方向に回転する中間転写ベルト86の外周面に転写する。尚、トナー像を転写した後の感光体79は、その表面に付着したトナーやゴミ等が感光体清掃部材84により清掃され、次のトナー像の形成に備える。
【0100】
各色の現像ユニット毎に現像されたトナー像は、画像情報に対応するように中間転写ベルト86の外周面上に順次重ね合わされた状態で、2次転写部に運ばれ2次転写ロール75により、用紙供給部77から用紙経路76を経由して搬送されてきた記録用紙表面に転写される。トナー像が転写された記録用紙は、更に定着装置72の接触部を通過する際に加圧加熱されることにより定着され、記録媒体表面に画像が形成された後、画像形成装置外へと排出される。
【0101】
−定着装置(画像定着装置)−
図4は、本実施形態に係る画像形成装置101内に設けられた定着装置72の概略構成図である。図4に示す定着装置72は、回転駆動する回転体としての定着ロール610と、定着ベルト620(加圧ベルト)と、定着ベルト620を介して定着ロール610を加圧する圧力部材である圧力パッド640とを備えて構成されている。尚、圧力パッド640は、定着ベルト620と定着ロール610とが相対的に加圧されていればよい。従って、定着ベルト620側が定着ロール610に加圧されても良く、定着ロール610側が定着ベルト620に加圧されてもよい。
【0102】
定着ロール610の内部には、挟込領域において未定着トナー像を加熱する加熱手段の一例としてのハロゲンランプ660が配設されている。加熱手段としては、ハロゲンランプに限られず、発熱する他の発熱部材を用いてもよい。
【0103】
一方、定着ロール610の表面には感温素子690が接触して配置されている。この感温素子690による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ660の点灯が制御され、定着ロール610の表面温度が設定温度(例えば、150℃)に維持される。
【0104】
定着ベルト620は、内部に配置された圧力パッド640とベルト走行ガイド630と、図示しないエッジガイドによって回転自在に支持されている。そして、挟込領域Nにおいて定着ロール610に対して加圧された状態で接触して配置されている。
【0105】
圧力パッド640は、定着ベルト620の内側において、定着ベルト620を介して定着ロール610に加圧される状態で配置され、定着ロール610との間で挟込領域Nを形成している。圧力パッド640は、幅の広い挟込領域Nを確保するためのプレ挟込部材641を挟込領域Nの入口側に配置し、定着ロール610に歪みを与えるための剥離挟込部材642を挟込領域Nの出口側に配置している。
【0106】
さらに、定着ベルト620の内周面と圧力パッド640との摺動抵抗を小さくするために、プレ挟込部材641および剥離挟込部材642の定着ベルト620と接する面に低摩擦シート680が設けられている。そして、圧力パッド640と低摩擦シート680とは、金属製のホルダ650に保持されている。
【0107】
さらに、ホルダ650にはベルト走行ガイド630が取り付けられ、定着ベルト620がスムーズに回転するように構成されている。すなわち、ベルト走行ガイド630は、定着ベルト620内周面と摺擦するため、静止摩擦係数の小さな材質で形成されている。また、ベルト走行ガイド630は、定着ベルト620から熱を奪い難いように熱伝導率の低い材質で形成されている。
【0108】
そして定着ロール610は、図示しない駆動モータにより矢印C方向に回転し、この回転に従動して定着ベルト620は、定着ロール610の回転方向と反対の方向へ回転する。すなわち、定着ロール610が図4における時計方向へ回転するのに対して、定着ベルト620は反時計方向へ回転する。
【0109】
未定着トナー像を有する用紙Kは、定着入口ガイド560によって導かれて、挟込領域Nに搬送される。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上のトナー像は挟込領域Nに作用する圧力と、定着ロール610から供給される熱とによって定着される。
【0110】
上記定着装置72では、定着ロール610の外周面に倣う凹形状のプレ挟込部材641により挟込領域Nが確保される。
【0111】
また、定着装置72では、定着ロール610の外周面に対し突出させて剥離挟込部材642を配置することにより、挟込領域Nの出口領域において定着ロール610の歪みが局所的に大きくなるように構成されている。この構成により、定着後の用紙Kが定着ロール610から剥離する。
【0112】
また、剥離の補助手段として、定着ロール610の挟込領域Nの下流側に、剥離部材700が配設されている。剥離部材700は、剥離バッフル710が定着ロール610の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に定着ロール610と近接する状態でホルダ720によって保持されている。
【0113】
以下、定着装置72に使用される定着ベルト620および定着ロール610以外の部材について詳細に説明する。
【0114】
定着ベルト620の内部に配置された圧力パッド640は、上述したように、プレ挟込部材641と剥離挟込部材642とで構成され、バネや弾性体によって定着ロール610を、例えば32kgfの荷重で押しつけるようにホルダ650に支持されている。定着ロール610側の面は、定着ロール610の外周面に倣う凹状曲面で形成されている。また、それぞれの材質は耐熱性を具備するもので構成することが好ましい。
【0115】
尚、定着ベルト620の内部に配置された圧力パッド640は、定着ベルト620を介して定着ロール610を加圧し、定着ベルト620と定着ロール610との間に、未定着トナー像を保持する用紙Kが通過する挟込領域Nが形成する機能を有していれば形状や材質に特に制限はなく、さらには圧力パッド640に加え、定着ロール610に対して加圧しつつ回転する加圧ローラなどを並設してもよい。
【0116】
プレ挟込部材641には、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性エラストマーや板バネ等の弾性体が用いられ、これらの材質の中でも、シリコーンゴムが好ましい。該シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。硬度の点からJIS−A硬度10から40°のシリコーンゴムが好適に用いられる。弾性体の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて選択される。定着装置72では、幅10mm、厚さ5mm、長さ320mmのシリコーンゴムを用いている。
【0117】
剥離挟込部材642は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド等の耐熱性を有する樹脂、または鉄、アルミニウム、SUS等の金属で形成されている。剥離挟込部材の形状としては、挟込領域Nにおける外面形状が一定の曲率半径を有する凸状曲面に形成されている。そして、本実施の形態の定着装置72では、定着ベルト620は、圧力パッドにより定着ロール610に40°の巻き付き角度でラップされ、8mm幅の挟込領域Nを形成している。
【0118】
低摩擦シート680は、定着ベルト620内周面と圧力パッド640との摺動抵抗(摩擦抵抗)を低減するために設けられ、摩擦係数が小さい材質が適している。
【0119】
この低摩擦シート680の材質としては、金属、セラミックス、樹脂等各種材料が採用されるが、具体的には、耐熱性樹脂であるフッ素樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の他、6−ナイロンあるいは6,6−ナイロンのナチュラル材や、これらにカーボンやガラス繊維等を添加した材料が用いられる。
【0120】
この中でも定着ベルト620との接触面側が、定着ベルト620内面との摺動抵抗が小さくかつ潤滑剤が保持される表面に微細な凹凸形状を有するフッ素樹脂シートが好ましい。
【0121】
具体的には、シンタード成型したPTFE樹脂シート、テフロン(登録商標)を含浸させたガラス繊維シート、またガラス繊維にフッ素樹脂からなるスカイブフィルムシートを加熱融着サンドした積層シートやあるいはフッ素樹脂シートに筋状の凹凸を設けたもの等が用いられる。
【0122】
尚、低摩擦シート680は、プレ挟込部材641や剥離挟込部材642と別体に構成しても、プレ挟込部材641や剥離挟込部材642と一体的に構成しても、いずれでもよい。
【0123】
さらに、ホルダ650には、定着装置72の長手方向に亘って潤滑剤塗布部材670が配設されている。潤滑剤塗布部材670は、定着ベルト620内周面に対して接触するように配置され、潤滑剤を供給する。これにより、定着ベルト620と低摩擦シート680との摺動部に潤滑剤を供給し、低摩擦シート680を介した定着ベルト620と圧力パッドとの摺動抵抗を低減する。
【0124】
潤滑剤としてはシリコーンオイルが好ましく、シリコーンオイルとしてはジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩およびヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、スルホン酸変性シリコーンオイル等が用いられるが、濡れ性に優るアミノ変性シリコーンオイルがより好ましい。
尚、定着装置72では、潤滑剤塗布部材670により定着ベルト620内周面に潤滑剤を供給しているが、潤滑剤塗布部材および潤滑剤を用いない形態としてもよい。
【0125】
また、メチルフェニルシリコーンオイルあるいはフッ素オイル(パーフルオロポリエーテルオイル、変性パーフルオロポリエーテルオイル)などを使用することも好適である。尚、シリコーンオイル中に酸化防止剤を添加してもよい。その他固形物質と液体とを混合させた合成潤滑油グリース、例えばシリコーングリス、フッ素グリス等、さらにはこれらを組み合わせたものも用いられる。定着装置72では、粘度300csのアミノ変性シリコーンオイル(KF96:信越化学(株)製)を用いている。
【0126】
また、ベルト走行ガイド630は、上述したように、定着ベルト620の内周面と摺擦するため、摩擦係数が低く、かつ、定着ベルト620から熱を奪い難いように熱伝導率が低い材質が適しており、PFAやPPS等の耐熱性樹脂が用いられる。
【0127】
尚、本実施形態の画像形成装置101では、定着装置72の定着ベルト620として前述の定着ベルトを用いているが、中間転写ベルト86として前述の定着ベルトが用いられてもよい。
【0128】
−定着装置(画像定着装置)の別の態様−
ついで、さらに別の態様の定着装置について説明する。
図5は、別の態様の定着装置の概略構成図であり、加熱源を備えた定着ベルト(前述の定着ベルト)と加圧ロール(前述のロール)と備えた定着装置を用いた形態である。
【0129】
図5は、前述の定着ベルトを定着ベルトとして備え、且つ前述のロールを加圧ロールとして備えた定着装置である。
【0130】
図5に示す定着装置900は、定着ベルトとしての定着ベルト920と、回転駆動する回転体の一例としての加圧ロール910とを備えて構成されている。定着ベルト920は、上述した定着ベルト620と同様に構成されている。
【0131】
そして、定着ベルト920が用紙Kのトナー像保持面側に配置されるとともに、定着ベルト920の内側には、加熱手段の一例としての抵抗発熱体であるセラミックヒータ820が配設され、セラミックヒータ820から挟込領域Nに熱を供給するように構成している。
【0132】
セラミックヒータ820は、加圧ロール910側の面がフラットに形成されている。そして、定着ベルト920を介して加圧ロール910に加圧される状態で配置され、挟込領域Nを形成している。したがって、セラミックヒータ820は圧力部材としても機能している。挟込領域Nを通過した用紙Kは、挟込領域Nの出口領域(剥離挟込部)において定着ベルト920の曲率の変化によって定着ベルト920から剥離される。
【0133】
さらに、定着ベルト920内周面とセラミックヒータ820との間には、定着ベルト920の内周面とセラミックヒータ820との摺動抵抗を小さくするため、低摩擦シート680が配設されている。この低摩擦シート680は、セラミックヒータ820と別体に構成しても、セラミックヒータ820と一体的に構成してもよい。
【0134】
一方、加圧ロール910は定着ベルト920に対向するように配置され、図示しない駆動モータにより矢印D方向に回転し、この回転に従動して定着ベルト920が回転するように構成されている。加圧ロール910は、コア(円柱状芯金)911と、コア911の外周面に被覆した耐熱性弾性層912と、さらに耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による離型層913とが積層されて構成され、必要に応じて各層はトナーのオフセット対策としてカーボンブラックなどの添加により半導電性化されている。
【0135】
また、剥離の補助手段として、定着ベルト920の挟込領域Nの下流側に、剥離部材700を配設してもよい。剥離部材700は、剥離バッフル710が定着ベルト920の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に定着ベルト920と近接する状態でホルダ720によって保持されている。
【0136】
未定着トナー像を有する用紙Kは、定着入口ガイド560によって導かれて、定着装置900の挟込領域Nに搬送される。用紙Kが挟込領域Nを通過する際には、用紙K上のトナー像は、挟込領域Nに作用する圧力と、定着ベルト920側のセラミックヒータから供給される熱とによって定着される。
【0137】
ここで、本実施形態における定着装置900においては、加圧ロール910は、両端部の外径が中央部の外径よりも大きい逆クラウン形状(フレア形状)に形成されるとともに、定着ベルト920も、内面に凹凸形状を有し、この凹凸形状は挟込領域においては前記加圧ロール910の表面形状に沿った形状に広がり変形するように構成されている。こうして構成することによって、用紙が挟込領域を通過するに際して、加圧ロール910による用紙への中央部から両端部に向かって幅方向に引張力が作用することによって用紙が伸びるのとともに定着ベルト920の表面幅方向の長さも伸びる。
【0138】
尚、加熱源としてはセラミックヒータ820以外に、定着ベルト920内部に設けたハロゲンランプであったり、あるいは定着ベルト920内部あるいは外部に設けた電磁誘導コイルによる電磁誘導発熱を利用したものであったりしてもかまわない。
【0139】
また、定着ベルト920内部にフラットな圧力部材に加え加圧ロール910に対して加圧しつつ回転する加圧ローラなどを並設してもよい。
【0140】
<プラテン用透明板>
本実施形態に係るプラテン用透明板は、透明性を示す基材と、基材の表面に積層された内側ウレタン樹脂層と、外側ウレタン樹脂層と、を有する。
【0141】
プラテン用透明板における基材に用いられる材質としては、前述の通り透明材料等が挙げられる。
透明材料による基材の厚さとしては、特に限定されるものではない。
【0142】
<原稿読取装置および画像形成装置>
次いで、本実施形態に係る原稿読取装置および画像形成装置について、図を参照して説明する。
【0143】
図6には、本実施形態の一例としての原稿読取装置を備えた電子写真方式の画像形成装置が示されている。
画像形成装置110は、上下方向(矢印V方向)の下側から上側へ向けて、記録用紙Pが収容される用紙収容部112と、用紙収容部112の上に設けられ用紙収容部112から供給される記録媒体の一例としての記録用紙Pに画像形成を行う画像形成部114と、画像形成部114の上に設けられ読取原稿Gを読み取る原稿読取装置116と、画像形成部114内に設けられ画像形成装置110の各部の動作を制御する制御部120と、を含んで構成されている。尚、以後の説明では、画像形成装置110の装置本体110Aの上下方向を矢印V方向、水平方向を矢印H方向と記載する。
【0144】
・用紙収容部
用紙収容部112は、サイズの異なる記録用紙Pが収容される第1収容部122、第2収容部124、および第3収容部126が設けられている。第1収容部122、第2収容部124、および第3収容部126には、収容された記録用紙Pを画像形成装置110内に設けられた搬送路128に送り出す送り出しロール132が設けられており、搬送路128における送り出しロール132よりも下流側には、記録用紙Pを一枚ずつ搬送するそれぞれ一対の搬送ロール134および搬送ロール136が設けられている。また、搬送路128における記録用紙Pの搬送方向で搬送ロール136よりも下流側には、記録用紙Pを一旦停止させるとともに、決められたタイミングで後述する二次転写位置へ送り出す位置合せロール138が設けられている。
【0145】
搬送路128の上流側部分は、画像形成装置110の正面視において、矢印V方向に向けて用紙収容部112の左側から画像形成部114の左側下部まで直線状に設けられている。また、搬送路128の下流側部分は、画像形成部114の左側下部から画像形成部114の右側面に設けられた排紙部115まで設けられている。さらに、搬送路128には、記録用紙Pの両面に画像形成を行うために記録用紙Pが搬送および反転される両面搬送路129が接続されている。
【0146】
両面搬送路129は、画像形成装置110の正面視において、搬送路128と両面搬送路129との切り替えを行う第1切替部材131と、画像形成部114の右側下部から用紙収容部112の右側まで矢印V方向(図示の下向きが−V、上向きが+V)に直線状に設けられた反転部133と、反転部133に搬送された記録用紙Pの後端が進入するとともに矢印H方向における図示の左側に搬送される搬送部137と、反転部133と搬送部137との切り替えを行う第2切替部材135と、を有している。そして、反転部133には、一対の搬送ロール142が間隔をあけて複数箇所に設けられており、搬送部137には、一対の搬送ロール144が間隔をあけて複数箇所に設けられている。
【0147】
第1切替部材131は、三角柱状の部材であり、駆動手段(図示省略)によって先端部が搬送路128または両面搬送路129のいずれか一方に移動されることで、記録用紙Pの搬送方向を切り替えるようになっている。同様に、第2切替部材135は、正面視で三角柱状の部材であり、図示しない駆動手段によって先端部が反転部133または搬送部137のいずれか一方に移動されることで、記録用紙Pの搬送方向を切り替えるようになっている。尚、搬送部137の下流側端部は、搬送路128の上流側部分にある搬送ロール136の手前側に案内部材(図示省略)により接続されている。また、画像形成部114の左側面には、折り畳み式の手差給紙部146が設けられており、手差給紙部146から送り込まれる記録用紙Pの搬送経路が、搬送路128の位置合せロール138の手前に接続されている。
【0148】
・原稿読取装置
原稿読取装置116は、読取原稿Gを1枚ずつ自動で搬送する原稿搬送装置(原稿搬送部)152と、原稿搬送装置152の下側に配置され1枚の読取原稿Gが載せられる原稿置台の一例としてのプラテン用透明板154と、原稿搬送装置152によって搬送された読取原稿Gまたはプラテン用透明板154に載せられた読取原稿Gを読み取る読取手段の一例としての原稿読取部156とが設けられている。尚、本実施形態ではプラテン用透明板154として、前述の本実施形態に係るプラテン用透明板を用いる。
【0149】
原稿搬送装置152は、一対の搬送ロール153が複数配置された自動搬送路155を有しており、自動搬送路155の一部は読取原稿Gがプラテン用透明板154上を通るように配置されている。また、原稿読取部156は、プラテン用透明板154の左端部に静止した状態で原稿搬送装置152によって搬送された読取原稿Gを読み取り、または矢印H方向に移動しながらプラテン用透明板154に載せられた読取原稿Gを読み取るようになっている。
【0150】
・操作パネル
図7に示す通り、画像形成装置110におけるプラテン用透明板154の矢印Z方向手前側には、操作者によって操作される操作部の一例としての操作パネルが設けられている。
操作パネル200は、操作ボタン部204および表示パネル206を含んで構成されており、操作ボタン部204および表示パネル206は、装置本体110Aの上部に取り付けられた板材の一例としてのプラテンカバー202の上面に露出されている。即ち、プラテンカバー202は、操作パネル200の外郭を形成している。また、操作ボタン部204は、コピー操作などの各種の操作指示が入力される操作ボタンやテンキーが複数設けられており、表示パネル206は、操作条件の設定、操作状態といった各種のメッセージ等を表示するようになっている。そして、操作パネル200は、プラテン用透明板154に対する操作者による操作側に配置されている。尚、表示パネル206は、操作者が触れることで設定が変更されるタッチパネルであってもよい。
【0151】
・画像形成部
画像形成部114は、原稿読取装置116の下側に設けられトナー(現像剤)を用いて画像を形成する画像形成部の一例としての画像形成ユニット150を有している。画像形成ユニット150は、後述する感光体162、帯電部材164、露光装置166、現像装置172、転写ユニット170、およびクリーニング装置173を含んで構成されている。また、転写ユニット170は、後述する中間転写ベルト168、一次転写ロール167、補助ロール169、および二次転写ロール171を含んで構成されている。
【0152】
画像形成部114における装置本体110Aの中央には、潜像保持体である円筒状の感光体162が設けられている。感光体162は、駆動手段(図示省略)によって矢印+R方向(図示の時計回り方向)に回転すると共に光照射によって形成される静電潜像を保持するようになっている。また、感光体162の上側で且つ感光体162の外周面と対向する位置には、感光体162の表面を帯電するコロトロン方式の帯電部材164が設けられている。
【0153】
感光体162の回転方向における帯電部材164よりも下流側で且つ感光体162の外周面と対向する位置には、露光装置166が設けられている。露光装置166は、図示しない半導体レーザ、f−θレンズ、ポリゴンミラー、結像レンズ、および複数のミラーを有しており、画像信号に基づき半導体レーザから出射されたレーザ光をポリゴンミラーで偏向走査し、帯電部材164により帯電された感光体162の外周面に照射(露光)して、静電潜像を形成するようになっている。尚、露光装置166は、レーザ光をポリゴンミラーで偏向走査する方式に限らず、LED(Light Emitting Diode)方式であってもよい。
【0154】
感光体162の回転方向で露光装置166の露光光が照射される部位よりも下流側には、感光体162の外周面に形成された静電潜像を決められた色のトナーで現像して可視化させる回転切り替え式の現像装置172が設けられている。
【0155】
現像装置172は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)、第1特別色(E)、第2特別色(F)の各トナー色にそれぞれ対応する6つの現像器(符号を省略する)が、周方向に(図示の反時計回り方向にこの順番で)並んで配置された構成となっており、モータ(図示省略)によって中心角で60°ずつ回転することで、現像処理を行う各現像器が切り替えられ、感光体162の外周面と対向するようになっている。尚、Y、M、C、Kの4色の画像形成を行う場合は、第1特別色(E)および第2特別色(F)を使用しないため、Kに対応する現像器からYに対応する現像器への回転角度が180°となる。
【0156】
各現像器には、原稿読取装置116の下側に設けられた供給部の一例としてのトナーカートリッジ178Y、178M、178C、178K、178E、178Fからトナー供給路(図示省略)を経由して供給されるトナーおよびキャリアから成る現像剤(図示省略)が充填されている。また、各現像器には、外周面が感光体162の外周面と対向する現像ロール174が設けられている。現像ロール174は、回転し得るよう設けられた円筒状の現像スリーブと、該現像スリーブの内側に固定された複数の磁極から成る磁性部材とで構成されている。そして、現像装置172は、現像スリーブが回転することで現像剤(キャリア)の磁気ブラシを形成すると共に、感光体162の外周面に形成された潜像(静電潜像)に応じたトナーを付着させて現像を行う。尚、トナーカートリッジ178E、178Fには、例えば、Y、M、Cに比べて淡色のトナーが充填される。
【0157】
一方、転写ユニット170は、感光体162の外周面に形成されたトナー画像が転写される中間転写ベルト168が設けられている。中間転写ベルト168は、無端状のベルトであり、感光体162の回転方向で現像装置172よりも下流側であり且つ感光体162の下側に配置されている。また、中間転写ベルト168は、制御部120により回転駆動される駆動ロール161、中間転写ベルト168に張力を付与するための張力付与ロール165、中間転写ベルト168の裏面に接触して従動回転する複数の搬送ロール163、および後述する二次転写位置において中間転写ベルト168の裏面に接触して従動回転する補助ロール169に巻き掛けられている。そして、中間転写ベルト168は、駆動ロール161が回転することにより、矢印−R方向(図示の反時計回り方向)に周回移動するようになっている。
【0158】
また、中間転写ベルト168を挟んで感光体162の反対側には、感光体162の外周面に形成されたトナー画像を中間転写ベルト168に一次転写させる一次転写ロール167が設けられている。一次転写ロール167は、感光体162と中間転写ベルト168とが接触する位置(これを一次転写位置とする)から中間転写ベルト168の移動方向下流側に離れた位置で、中間転写ベルト168の裏面に接触している。そして、一次転写ロール167は、電源(図示省略)から通電されることにより、接地されている感光体162との電位差で感光体162のトナー画像を中間転写ベルト168に一次転写するようになっている。
【0159】
さらに、中間転写ベルト168を挟んで補助ロール169の反対側には、中間転写ベルト168上に一次転写されたトナー画像を記録用紙Pに二次転写させる二次転写ロール171が設けられており、二次転写ロール171と補助ロール169との間が記録用紙Pへトナー画像を転写する二次転写位置とされている。二次転写ロール171は、接地されると共に中間転写ベルト168の表面に接触しており、電源(図示省略)から通電された補助ロール169と二次転写ロール171との電位差で、中間転写ベルト168のトナー画像を記録用紙Pに二次転写するようになっている。
【0160】
また、中間転写ベルト168を挟んで駆動ロール161の反対側には、中間転写ベルト168の二次転写後の残留トナーを回収するクリーニングブレード159が設けられている。クリーニングブレード159は、開口部が形成された筐体(図示省略)に取り付けられており、クリーニングブレード159の先端部で掻き取られたトナーが、筐体内に回収されるようになっている。
【0161】
中間転写ベルト168の周囲で搬送ロール163と対向する位置には、中間転写ベルト168の表面に付されたマーク(図示省略)を検知することで中間転写ベルト168上の予め定めた基準位置を検出し、画像形成処理の開始タイミングの基準となる位置検出信号を出力する位置検出センサ183が設けられている。位置検出センサ183は、中間転写ベルト168に向けて光を照射すると共にマークの表面で反射された光を受光することで、中間転写ベルト168の移動位置を検出するようになっている。
【0162】
一方、感光体162の回転方向で一次転写ロール167よりも下流側には、中間転写ベルト168に一次転写されずに感光体162の表面に残留した残留トナー等を清掃するクリーニング装置173が設けられている。クリーニング装置173は、感光体162表面に接触するクリーニングブレードおよびブラシロールにより残留トナー等を回収する構成となっている。
【0163】
また、感光体162の回転方向でクリーニング装置173の上流側(一次転写ロール167よりも下流側)には、感光体162の外周面に一次転写後に残留したトナーの除電を行うコロトロン181が設けられている。さらに、感光体162の回転方向でクリーニング装置173の下流側(帯電部材164よりも上流側)には、クリーニング後の感光体162の外周面に光を照射して除電を行う除電装置175が設けられている。
【0164】
そして、二次転写ロール171によるトナー画像の二次転写位置は、前述の搬送路128の途中に設定されており、搬送路128における記録用紙Pの搬送方向(図示の矢印A方向)で二次転写ロール171よりも下流側には、二次転写ロール171によってトナー画像が転写された記録用紙Pにトナー画像を定着させる定着装置190が設けられている。定着装置190は、加熱により定着を行う定着ロール192と、定着ロール192へ向けて記録用紙Pを加圧する加圧ロール194とを有している。尚、搬送路128における記録用紙Pの搬送方向で定着装置190よりも下流側には、排紙部115または反転部133へ向けて記録用紙Pを搬送する搬送ロール139が設けられている。
【実施例】
【0165】
以下、実施例を交えて本発明を詳細に説明するが、以下に示す実施例のみに本発明は限定されるものではない。尚、以下に示す「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0166】
・実施例1
<プラテン用透明板の作製>
プラテン用ガラス基材(フロートガラス、水の接触角28度、厚さ1.8mm)上に、以下の方法により内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を形成した。
【0167】
<アクリル樹脂プレポリマーA1の合成>
短側鎖ヒドロキシル基となるモノマーであるヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、側鎖ヒドロキシル基における炭素数:3)286.8部と、ブチルメタクリレート(BMA)313.2部と、重合開始剤(過酸化ベンゾイル、BPO)27部と、酢酸ブチル60部と、からなるモノマー溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で110℃に昇温した酢酸ブチル300部中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。さらに酢酸ブチル135部とBPO3部とからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。尚、反応中は常に110℃に保持して攪拌し続けた。こうして長側鎖ヒドロキシル基を含まないアクリル樹脂プレポリマーA1を合成した。
【0168】
<内側ウレタン樹脂層A1の形成>
下記A液と下記B液とを、下記の割合で混合したのち、下記C液をさらに加え10分間減圧下で脱泡し、塗布液を得た。この塗布液を前記プラテン用ガラス基材にキャストして、85℃で1時間、さらに130℃で30分硬化して30μmの膜厚の内側ウレタン樹脂層A1を形成した。
・A液(上記アクリル樹脂プレポリマーA1液、44.2%、水酸基化206)
:113部
・B液(ポリオール、ダイセル化学工業社製、プラクセル208、水酸基化138
ポリカプロラクタンジオール[炭素数が約42の基を有する]):149.6部
・C液(イソシアネート、旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTKA100
化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体)
:138.2部
【0169】
<アクリル樹脂プレポリマーA2の合成>
上記<アクリル樹脂プレポリマーA1の合成>において、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)286.8部の代わりに、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)228.8部とプラクセルFM3(ダイセル化学社製、化合物名:ラクトン変性メタアクリレート、側鎖ヒドロキシル基における炭素数:21)207.7部とを用い、またブチルメタクリレート(BMA)313.2部の代わりにCHEMINOX FAMAC6(ユニマテック株式会社製、化合物名:2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、フッ素原子含有)950.4部を用いたこと以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1の合成に記載の方法により、アクリル樹脂プレポリマーA2を合成した。
【0170】
<外側ウレタン樹脂層A2の形成>
さらに、上記<内側ウレタン樹脂層A1の形成>において、アクリル樹脂プレポリマーA1液:113部の代わりに、上記アクリル樹脂プレポリマーA2液(44.0%、水酸基価89):113.6部を用い、且つB液(プラクセル208、水酸基価138)の量を64.6部に、C液(デュラネートTKA100)の量を59.7部に変更して得た塗布液を用い、<内側ウレタン樹脂層A1の形成>に記載の条件により前記内側ウレタン樹脂層A1上に30μmの膜厚の外側ウレタン樹脂層A2を形成し、プラテン用透明板を得た。
【0171】
−戻り率の測定−
まず、上記<内側ウレタン樹脂層A1の形成>に記載の方法において、塗布液をプラテン用ガラス基材上にキャストするのではなくポリイミドフィルム上にキャストして、ポリイミドフィルム上に内側ウレタン樹脂層A1のみを形成した内側ウレタン樹脂層サンプルA1を得た。
更に、上記<外側ウレタン樹脂層A2の形成>に記載の方法において、塗布液を内側ウレタン樹脂層A1上にキャストするのではなくポリイミドフィルム上にキャストして、ポリイミドフィルム上に外側ウレタン樹脂層A2のみを形成した外側ウレタン樹脂層サンプルA2を得た。
【0172】
前記内側ウレタン樹脂層サンプルA1および外側ウレタン樹脂層サンプルA2を用い、且つ測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用いて、前述の方法により内側および外側ウレタン樹脂層の室温(23℃)での戻り率を求めた。該戻り率、および自己修復性を示す(即ち戻り率が前述の範囲を満たす)温度を、下記表1に示す。
【0173】
−屈折率の測定−
まず、上記<内側ウレタン樹脂層A1の形成>に記載の条件によって、塗布液をプラテン用ガラス基材上ではなくテフロン(登録商標)板上にキャストして硬化し、その後テフロン(登録商標)板から内側ウレタン樹脂層A1を剥がして、内側ウレタン樹脂層A1単体膜(90μm厚)を得た。
更に、上記<外側ウレタン樹脂層A2の形成>に記載の条件によって、塗布液を内側ウレタン樹脂層A1上ではなくテフロン(登録商標)板上にキャストして硬化し、その後テフロン(登録商標)板から外側ウレタン樹脂層A2を剥がして、外側ウレタン樹脂層A2単体膜(90μm厚)を得た。
【0174】
前記内側ウレタン樹脂層A1単体膜および外側ウレタン樹脂層A2単体膜を用いて、前述の方法により、内側および外側ウレタン樹脂層の屈折率を求めた。得られた内側および外側ウレタン樹脂層の屈折率を、下記表1に示す。
【0175】
【表1】



【0176】
・比較例1(内側ウレタン樹脂層を設けない態様)
実施例1において内側ウレタン樹脂層A1を形成せずに、プラテン用ガラス基材上に直接外側ウレタン樹脂層A2を形成した以外は、実施例1に記載の方法によりプラテン用透明板を形成した。
【0177】
[評価]
以下の方法により、実施例1および比較例1のプラテン用透明板について各種評価試験を行なった。結果を下記表2に示す。
−傷の修復性の評価−
直径3cmの筒の一端からスチールウールを円形状に突出させた擦り部材を準備し、HEIDON摩擦試験機を用いて前記擦り部材のスチールウール部分をプラテン用透明板の外側ウレタン樹脂層に接触させ、室温(23℃)にて荷重20gをかけ10mm/secの速さで3cmの幅を往復100回走査して擦りテストを行った。その後、プラテン用透明板表面についた目視で確認し得る傷の数を数えて以下のようにグレード評価した。
◎:全く傷なし
○:傷が1本以上10本未満で、24時間後までにすべての傷がきえた
×:傷が10本以上、または24時間経過後も傷がきえなかった
【0178】
−各層の接着性の評価−
ウレタン樹脂層にプラテン用ガラス基材まで至る切口(切りキズ)をいれた後、ウレタン樹脂層表面に該切口をまたぐように(表面から見て前記切口の切れ目方向と直交して交差するように)セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を貼り付け、該セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を片側からはがし(前記切れ目方向と直行する方向にはがし)、以下のグレード評価をした。
○;ガラス基材からウレタン樹脂層がはがれない
×;ガラス基材からウレタン樹脂層がはがれた
【0179】
−反射防止性の評価(反射率の測定)−
HITACHI社製 U4100分光光度計を用いて、プラテン用透明板に550nmの波長の光を照射したときの反射率を測定した。
【0180】
【表2】



【0181】
・実施例2
<定着ロールの作製>
定着ロール用アルミ芯管(水の接触角65度)上に、以下の方法により内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を形成した。
【0182】
<アクリル樹脂プレポリマーB1の合成>
前記<アクリル樹脂プレポリマーA1の合成>において、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、ブチルメタクリレート(BMA)と、の比率(モル比)を5:1に変更したこと以外は、アクリル樹脂プレポリマーA1の合成に記載の方法により、アクリル樹脂プレポリマーB1を合成した。
【0183】
<内側ウレタン樹脂層B1の形成>
前記アクリル樹脂プレポリマーB1に対し、アクリル樹脂プレポリマーの水酸基と等量のイソシアネート量に相当するデュラネートTPA−B80E(イソシアネート、旭化成ケミカルズ社製)を配合し、塗布液を得た。この塗布液をフローコートで前記定着ロール用アルミ芯管上に塗布して80℃で1時間、さらに180℃で1時間硬化して30μmの膜厚の内側ウレタン樹脂層B1を形成した。
【0184】
<アクリル樹脂プレポリマーB2の合成>
上記<アクリル樹脂プレポリマーB1の合成>において、ブチルメタクリレート(BMA)の代わりにCHEMINOX FAMAC6(ユニマテック株式会社製、化合物名:2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、フッ素原子含有)を用いたこと以外は、アクリル樹脂プレポリマーB1の合成に記載の方法により、アクリル樹脂プレポリマーB2を合成した。
【0185】
<外側ウレタン樹脂層B2の形成>
さらに、上記<内側ウレタン樹脂層B1の形成>において、アクリル樹脂プレポリマーB1の代わりに、上記アクリル樹脂プレポリマーB2を用いて得た塗布液を用い、<内側ウレタン樹脂層B1の形成>に記載の条件により前記内側ウレタン樹脂層B1上に30μmの膜厚の外側ウレタン樹脂層B2を形成し、定着ロールを得た。
【0186】
・比較例2(内側ウレタン樹脂層を設けない態様)
実施例2において、用いた定着ロール用アルミ芯管(水の接触角65度)の代わりに、表面にPFAをコートしたアルミ芯管(水の接触角112度)を用い、実施例2に記載の内側ウレタン樹脂層B1形成用の前記塗布液を塗布したが、表面ではじかれてムラなく塗布されなかった。
【0187】
・実施例3
<定着ベルトの作製>
100μm厚のポリイミドフィルムにシリコーンゴムを3mm塗布した定着ベルト用基材(水の接触角88度)上に、以下の方法により内側ウレタン樹脂層および外側ウレタン樹脂層を形成した。
【0188】
<アクリル樹脂プレポリマーC1の合成>
前記<アクリル樹脂プレポリマーB1の合成>において、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とブチルメタクリレート(BMA)とを比率(モル比)5:1で用いることに代えて、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とブチルメタクリレート(BMA)とサイラプレーンFM0711(シリコーン側鎖、チッソ株式会社)とを比率(モル比)を4:1:1で用いたこと以外は、アクリル樹脂プレポリマーB1の合成に記載の方法により、アクリル樹脂プレポリマーC1を合成した。
【0189】
<内側ウレタン樹脂層C1の形成>
前記アクリル樹脂プレポリマーC1に対し、アクリル樹脂プレポリマーの水酸基と等量のイソシアネート量に相当するデュラネートTPA−B80E(イソシアネート、旭化成ケミカルズ社製)を配合し、塗布液を得た。この塗布液をフローコートで前記定着ベルト用基材上に塗布して80℃で1時間、さらに180℃で1時間硬化して30μmの膜厚の内側ウレタン樹脂層C1を形成した。
【0190】
<アクリル樹脂プレポリマーC2の合成>
上記<アクリル樹脂プレポリマーC1の合成>において、ブチルメタクリレート(BMA)の代わりにCHEMINOX FAMAC6(ユニマテック株式会社製、化合物名:2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、フッ素原子含有)を用いたこと以外は、アクリル樹脂プレポリマーC1の合成に記載の方法により、アクリル樹脂プレポリマーC2を合成した。
【0191】
<外側ウレタン樹脂層C2の形成>
さらに、上記<内側ウレタン樹脂層C1の形成>において、アクリル樹脂プレポリマーC1の代わりに、上記アクリル樹脂プレポリマーC2を用いて得た塗布液を用い、<内側ウレタン樹脂層C1の形成>に記載の条件により前記内側ウレタン樹脂層C1上に30μmの膜厚の外側ウレタン樹脂層C2を形成し、定着ベルトを得た。
【0192】
【表3】



【0193】
[評価]
以下の方法により、実施例2の定着ロールおよび実施例3の定着ベルトについて接着性の評価試験を行なった。結果を下記表4に示す。
【0194】
−各層の接着性の評価−
実施例2の定着ロールおよび実施例3の定着ベルトをそれぞれ電子写真方式の画像形成装置に装着し5000枚画出ししたのちに、ウレタン樹脂層に基材(定着ロール用アルミ芯管または定着ベルト用基材)まで至る切口(切りキズ)をいれた後、ウレタン樹脂層表面に該切口をまたぐように(表面から見て前記切口の切れ目方向と直交して交差するように)セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を貼り付け、該セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を片側からはがし(前記切れ目方向と直行する方向にはがし)、以下のグレード評価をした。
○;基材からウレタン樹脂層がはがれない
×;基材からウレタン樹脂層がはがれた
【0195】
【表4】



【符号の説明】
【0196】
1 無端ベルト
2 基材
3 表面層
72 定着装置
75 2次転写ロール
78 レーザー発生装置
79 感光体
80 1次転写ロール
83 帯電ロール
85 現像器
86 中間転写ベルト
101 画像形成装置
110 画像形成装置
116 原稿読取装置
150 画像形成ユニット(画像形成部)
152 原稿搬送装置(原稿搬送部)
154 プラテン用透明板(原稿置台)
156 原稿読取部(読取手段)
178 トナーカートリッジ(供給部)
200 操作パネル(操作部)
202 プラテンカバー(板材)
610 定着ロール
620 無端ベルト
900 定着装置
910 加圧ロール
920 定着ベルト
K 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面における水の接触角が0度以上90度以下である基材と、
分子構造中にフッ素原子を有しないウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す内側ウレタン樹脂層と、
分子構造中にフッ素原子を有するウレタン樹脂を含み且つ自己修復性を示す外側ウレタン樹脂層と、
をこの順に且つ各層が接するよう備えるウレタン樹脂積層体。
【請求項2】
前記外側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、前記内側ウレタン樹脂層における前記自己修復性が発現される温度領域と、が重複している請求項1に記載のウレタン樹脂積層体。
【請求項3】
前記外側ウレタン樹脂層、前記内側ウレタン樹脂層および前記基材が何れも透明性を示し、
前記外側ウレタン樹脂層と前記内側ウレタン樹脂層との屈折率が異なり、
且つ前記外側ウレタン樹脂層の膜厚は、前記外側ウレタン樹脂層側から入射した光が該外側ウレタン樹脂層の外側表面で反射した反射光(L1)の位相に対し、前記外側ウレタン樹脂層と前記内側ウレタン樹脂層との界面で反射した反射光(L2)の位相が逆転する膜厚である請求項1または請求項2に記載のウレタン樹脂積層体。
【請求項4】
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記基材が円筒形状である画像形成装置用の定着ロール。
【請求項5】
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記基材がベルト形状である画像形成装置用の定着ベルト。
【請求項6】
第1の回転体と、
前記第1の回転体に接触して記録媒体を挟み込む挟込領域を形成する第2の回転体と、を有し、
前記第1の回転体および前記第2の回転体の少なくとも一方が、請求項4に記載の定着ロールまたは請求項5に記載の定着ベルトである画像定着装置。
【請求項7】
静電潜像保持体と、
前記静電潜像保持体表面上に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
前記静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する請求項6に記載の画像定着装置と、
を備える画像形成装置。
【請求項8】
基材と内側ウレタン樹脂層と外側ウレタン樹脂層とを有する請求項1に記載のウレタン樹脂積層体が用いられ、且つ前記外側ウレタン樹脂層、前記内側ウレタン樹脂層および前記基材が何れも透明性を示す原稿読取装置用のプラテン用透明板。
【請求項9】
請求項8に記載のプラテン用透明板と、
前記プラテン用透明板の前記外側ウレタン樹脂層側の表面に設置された読取原稿を前記プラテン用透明板の反対側から読み取る原稿読取部と、
を有する原稿読取装置。
【請求項10】
請求項9に記載の原稿読取装置と、
前記原稿読取装置で読み取られた画像情報に基づいて記録媒体上に画像を形成する画像形成部と、
を有する画像形成装置。

【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45090(P2013−45090A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185242(P2011−185242)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】