説明

ウレタン発泡成形体の製造方法

【課題】 原料の粘度の好適な範囲において、磁性フィラーを磁場配向させると共に、所望の硬化反応速度で発泡成形可能なウレタン発泡成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 発泡ウレタン樹脂原料と磁性フィラーとを有する混合原料を、磁場中で発泡成形することにより、ポリウレタンフォームからなる基材中に該磁性フィラーが互いに連接して配向されているウレタン発泡成形体を製造するウレタン発泡成形体の製造方法において、該発泡ウレタン樹脂原料に配合される触媒は、酸を含まず、かつ、樹脂化の活性化エネルギーと泡化の活性化エネルギーとの比(樹脂化活性化エネルギー/泡化活性化エネルギー)が1以上であるアミン系触媒を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材や振動吸収材等として用いられるウレタン発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン発泡成形体は、吸音材、振動吸収材等として、自動車等の様々な分野で用いられている。ウレタン発泡成形体は、内部に多数のセル(気泡)を有する。このため、ウレタン発泡成形体の熱伝導率は小さい。したがって、発熱を伴うエンジン、モーター等の周囲に配置した場合、ウレタン発泡成形体に熱が蓄積され、エンジン、モーター等の温度上昇を招くおそれがある。このような問題を解消するためには、ウレタン発泡成形体の放熱性を向上させる必要がある。例えば、特許文献1、2には、配向した磁性フィラーを有するウレタン発泡成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−230544号公報
【特許文献2】特開2009−51148号公報
【特許文献3】特開平1−168717号公報
【特許文献4】特開平6−179735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1、2に記載のウレタン発泡成形体は、ポリオール原料とポリイソシアネート原料とからなる発泡ウレタン樹脂原料に、磁性フィラーを混合した混合原料を、磁場中で発泡成形して製造される。発泡ウレタン樹脂原料に磁性フィラーを配合すると、粘度が上昇する。混合原料の粘度が大きいと、磁場中で発泡成形した場合に、磁性フィラーが配向しにくくなるおそれがある。
【0005】
また、ポリオール原料とポリイソシアネート原料とを、各々、高圧で噴射して、原料同士を衝突させることにより、両原料を混合する方法がある(衝突攪拌法)。衝突攪拌法によると、連続生産が可能になる。このため、衝突攪拌法は、ウレタン発泡成形体の大量生産に好適である。衝突攪拌法を利用して、すなわち、ポリオール原料、ポリイソシアネート原料のいずれかに予め磁性フィラーを配合して、両原料を高圧で噴射して衝突させることにより、上記混合原料を製造することができる。しかし、上述したように、ポリオール原料等に磁性フィラーを配合すると、粘度が上昇する。原料の粘度が大きくなると、ポンプや配管、ホース等への負荷が大きくなるため、原料の圧送が難しくなる。このため、ポリオール原料等に予め磁性フィラーを配合した場合には、衝突攪拌法を用いることができない。
【0006】
磁性フィラーの配合による原料の粘度上昇を抑制するためには、例えば、原料の温度を高くすればよい。しかし、原料の温度を上げると、発泡成形における硬化反応の速度が大きくなる。このため、発泡成形の初期段階において、磁性フィラーが配向するための時間を、確保することができない。
【0007】
この場合、例えば、硬化反応の進行を遅くする触媒を用いることが考えられる。通常、硬化反応の遅延触媒としては、上記特許文献3、4に記載されているように、蟻酸等の酸が用いられる。しかし、遅延触媒を用いると、硬化反応の進行が全体として遅くなるため、生産性が低下してしまう。また、本発明者が検討したところ、磁性フィラーを配合した原料に、酸を添加すると、原料の粘度が上昇してしまうことが明らかになった。したがって、磁性フィラーの配合による原料の粘度上昇を抑制する、という観点では、酸を用いることは望ましくない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、原料の粘度の好適な範囲において、磁性フィラーを磁場配向させると共に、所望の硬化反応速度で発泡成形可能なウレタン発泡成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、ウレタン発泡成形体の発泡成形における、発泡反応および硬化反応について説明する。図1に、発泡成形における発泡反応および硬化反応の推移を模式的に示す。図1中、細実線で示すように、発泡成形の開始と共に、まず、発泡反応が進行する。発泡反応の速度は、前半に大きく、後半に小さくなる。一方、図1中、太実線で示すように、硬化反応の速度は、前半に小さく、反応熱による温度上昇に伴い、後半に大きくなる。セル構造が良好なウレタン発泡成形体を得るためには、発泡反応と硬化反応とが、バランスのとれた速度で進行する必要がある。通常、発泡、硬化の反応速度の調整には、アミン系の触媒が用いられる。
【0010】
ここで、原料の温度を上げると、硬化反応の速度が大きくなる。すなわち、図1中、一点鎖線(a)で示すように、硬化反応の推移は直線に近くなる。こうなると、磁性フィラーを配合して磁場中で発泡成形を行った場合に、磁性フィラーが配向するための時間を確保することができない。その結果、得られるウレタン発泡成形体の物性が、変化してしまう。したがって、原料の温度を高くした場合においても、磁性フィラーを確実に配向させるためには、図1中、点線(b)で示すように、前半には硬化反応の速度を小さくし、反応熱による温度上昇に伴い、後半に硬化反応の速度を急激に大きくすることが望ましい。
【0011】
このような検討をふまえて、本発明者は、触媒の活性化エネルギーに着目した。活性化エネルギーを持つ触媒は、温度依存性を有する。すなわち、活性化エネルギーを持つ触媒を用いると、温度に応じて、発泡反応または硬化反応の速度を変化させることができる。活性化エネルギーには、樹脂化(ゲル化)の活性化エネルギーと泡化(ブロー化)の活性エネルギーとがある。本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、樹脂化の活性化エネルギーが泡化の活性化エネルギー以上であるアミン系触媒を用いると、磁性フィラーを配合した場合において、好適な硬化の反応速度を実現できる、という知見を得た。
【0012】
このような知見に基づいてなされた本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、発泡ウレタン樹脂原料と磁性フィラーとを有する混合原料を、磁場中で発泡成形することにより、ポリウレタンフォームからなる基材中に該磁性フィラーが互いに連接して配向されているウレタン発泡成形体を製造するウレタン発泡成形体の製造方法であって、該発泡ウレタン樹脂原料は、触媒を有し、該触媒は酸を含まず、かつ、樹脂化の活性化エネルギーと泡化の活性化エネルギーとの比(樹脂化活性化エネルギー/泡化活性化エネルギー)が1以上であるアミン系触媒を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法によると、触媒として、樹脂化と泡化との活性化エネルギー比(樹脂化活性化エネルギー/泡化活性化エネルギー)が1以上であるアミン系触媒を用いる。樹脂化の活性化エネルギーが、泡化の活性化エネルギーの同等以上であるため、硬化反応における温度依存性が大きい。すなわち、所定の温度で発泡成形を行った場合に、前半において硬化反応の速度を小さくし、後半において反応熱による温度上昇に伴い、硬化反応の速度を急激に大きくすることができる。これにより、磁性フィラーを含有する混合原料を磁場中で発泡成形する際に、粘度上昇を抑制するために混合原料の温度を高くした場合でも、磁性フィラーを確実に配向させることができる。また、発泡反応の速度と硬化反応の速度とのバランスがとれることにより、セル構造が良好なウレタン発泡成形体を得ることができる。
【0014】
混合原料の温度を上げることができるため、混合原料の粘度の上昇を抑制することができる。また、混合される前のポリオール原料、ポリイソシアネート原料についても、温度を上げることができる。これにより、ポリオール原料等に磁性フィラーを配合しても、粘度上昇を抑制することができる。したがって、磁性フィラーを配合したポリオール原料等を圧送しても、ポンプや配管、ホース等に対する負荷は小さい。よって、磁性フィラーが配合されたポリオール原料、ポリイソシアネート原料の混合に、上述した衝突攪拌法を用いることができる。さらに、本発明のウレタン発泡成形体の製造方法によると、触媒として、酸を含有しない。このため、酸の配合による、原料の粘度上昇を招くおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発泡成形における発泡反応および硬化反応の推移を示す模式図である。
【図2】実施例における発泡試験の様子を示す模式図である。(a)は原料攪拌時の様子を、(b)は反応途中の様子を、(c)は反応完了時の様子を、各々示す。
【図3】実施例における鉄球落下試験の様子を示す模式図である。(a)は原料攪拌直後の様子を、(b)は反応途中の様子を、(c)は反応完了時の様子を、各々示す。
【図4】実施例1、参考例の各発泡ウレタン樹脂原料における、発泡反応および硬化反応の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例において、ウレタン発泡成形体の製造に使用した磁場発生装置の斜視図である。
【図6】同磁場発生装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の二つのウレタン発泡成形体の製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法によると、発泡ウレタン樹脂原料と磁性フィラーとを有する混合原料を、磁場中で発泡成形することにより、ポリウレタンフォームからなる基材中に該磁性フィラーが互いに連接して配向されているウレタン発泡成形体を製造する。
【0018】
発泡ウレタン樹脂原料は、ポリオール、ポリイソシアネート等の既に公知の原料から調製すればよい。ポリオールとしては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類等の中から適宜選択すればよい。
【0019】
また、ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類等)等の中から適宜選択すればよい。
【0020】
発泡ウレタン樹脂原料は、触媒として、酸を含まず、かつ、樹脂化活性化エネルギー/泡化活性化エネルギーの値が1以上であるアミン系触媒を含む。
【0021】
触媒としての酸は、主に硬化反応を遅延させるために使用される。例えば、蟻酸、クエン酸、ブチル酸、2エチルヘキサン酸等が挙げられる。発泡ウレタン樹脂原料は、これらの酸を含まない。
【0022】
樹脂化の活性化エネルギー(ΔEGell)と泡化の活性化エネルギー(ΔEBlow)との比(ΔEGell/ΔEBlow)が1以上であるアミン系触媒としては、例えば、N,N,N′,N′−テトラメチルヘキサン−1、6−ジアミン、N,N,N′,N′′,N′′−ペンタメチル−ジエチレントリアミン、N,N,N′,N′′,N′′′,N′′′−ヘキサメチルトリエチレン−テトラアミン、N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等が挙げられる。また、市販されている以下の商品を使用してもよい。東ソー(株)製「TOYOCAT(登録商標)−B41」、「TOYOCAT−F22」、「TOYOCAT−MR」、「TOYOCAT−D60」、「TOYOCAT−NP」、「TOYOCAT−DT」、「TOYOCAT−ETS」、「TOYOCAT−ET」。なかでも、N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジンを含むものが望ましい。N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジンのΔEGellは6.4Kcal/molであり、ΔEBlowは4.5Kcal/molである。よって、ΔEGell/ΔEBlowの値は約1.42である。活性化エネルギーの測定は、例えば、東洋曹達研究報告 第28巻 第1号(1984)「ポリウレタン生成反応における第3級アミンの触媒作用」(荒井昭治、他三名)に記載された方法に準じて行えばよい。
【0023】
また、発泡反応および硬化反応の速度を調整するために、発泡ウレタン樹脂原料は、酸以外であれば、ΔEGell/ΔEBlowが1以上のアミン系触媒に加えて、他の触媒を含有してもよい。例えば、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等のアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫等の有機金属系触媒が挙げられる。
【0024】
さらに、発泡ウレタン樹脂原料は、発泡剤、整泡剤、架橋剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤等を適宜含有してもよい。例えば、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン類、COガス等が挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはジエチレングリコール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が好適である。
【0025】
磁性フィラーは、磁場中での発泡成形の際に、磁力線に沿って互いに連接して配向するものであればよい。磁性フィラーには、磁化特性に優れた材料を用いることが望ましい。例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼等の強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAs等の反強磁性体、およびこれらを用いた合金類が挙げられる。なかでも、熱伝導率が比較的大きく加工性に優れるという観点から、ステンレス鋼、銅鉄合金等が好適である。ここで、ステンレス鋼は、防錆性能に優れ、ポリウレタンフォームとの接合強度も高い。また、銅鉄合金は、銅および鉄の共晶合金であり、例えば特公平3−064583号公報に記載されているような半硬質磁性銅鉄合金が望ましい。このような銅鉄合金は、細かく粉砕しても銅と鉄の剥離を生じない。このため、銅が有する大きな熱伝導率と鉄が有する磁性との2つの特徴を合わせ持つ。よって、配合量が同じ場合でも、他の磁性材料と比較して、熱伝導性をより向上させることができる。
【0026】
また、磁性フィラーの熱伝導率をより大きくするという観点から、磁性フィラーとして、非磁性体からなる熱伝導性粒子と、上記強磁性体等からなる磁性粒子と、を複合化した複合粒子を用いてもよい。複合粒子は、例えば、熱伝導性粒子の表面に、磁性粒子をバインダーにより付着させて、製造することができる。
【0027】
磁性フィラーの形状、大きさ等は、特に限定されるものではない。例えば、繊維状、柱状、薄片状、球状、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)等の種々の形状を採用することができる。また、磁性フィラーの大きさ(最大長さ)は、分散性、配向性、発泡成形に使用する装置等を考慮して決定すればよい。例えば、分散性や磁化特性を考慮すると、最大長さを10μm以上とするとよい。また、後に詳しく説明するが、衝突攪拌法により混合原料を製造する場合には、磁性フィラーの最大長さを500μm以下とすることが望ましい。
【0028】
ウレタン発泡成形体の熱伝導性をより向上させる、という観点から、発泡ウレタン樹脂原料に、磁性フィラーに加えて、熱伝導率の大きな熱伝導性フィラー等を混合してもよい。
【0029】
混合原料の温度は、磁性フィラーの配合による粘度上昇を抑制するという観点から、40℃以上であることが望ましい。混合原料は、例えば、発泡ウレタン樹脂原料および磁性フィラーを、プロペラ等を用いて機械的に攪拌して製造することができる。また、発泡ウレタン樹脂原料の成分に、磁性フィラーを添加して、予め二種類の原料(ポリオール原料、ポリイソシアネート原料)を調製しておき、両原料を混合して製造してもよい。
【0030】
例えば、本発明のウレタン発泡成形体の製造方法を、上記発泡ウレタン樹脂原料として、上記触媒、発泡剤、およびポリオールを含むポリオール原料と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート原料と、を調製し、該ポリオール原料および該ポリイソシアネート原料の少なくとも一方に、上記磁性フィラーを配合する原料調製工程と、該ポリオール原料と該ポリイソシアネート原料とを各々圧送してミキシングヘッドへ供給し、両原料を該ミキシングヘッド内で混合して上記混合原料とする混合工程と、該混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティに磁場をかけながら発泡成形する発泡成形工程と、を有するように構成することができる。
【0031】
本構成によると、ミキシングヘッド内において、ポリオール原料とポリイソシアネート原料とを、各々高圧で噴射して衝突させることにより混合する態様(衝突攪拌法)を採用することができる。本態様(衝突攪拌法)によると、連続生産が可能になる。よって、本態様は、大量生産に好適である。また、本態様によると、機械的に攪拌する方法と比較して、混合するごとに必要であった容器の洗浄工程が不要となり、歩留まりも向上する。よって、製造コストを低減することができる。
【0032】
本態様では、磁性フィラーが予め配合されたポリオール原料、ポリイソシアネート原料を、各々、高圧発泡装置のミキシングヘッドに設けられた噴射孔から、高圧で噴射して衝突させる。仮に、磁性フィラーの大きさが、噴射孔の孔径よりも大きいと、磁性フィラーの接触により、噴射孔に傷が付きやすい。これにより、ミキシングヘッドの耐久性が低下するおそれがある。また、磁性フィラーの大きさが大きい程、磁性フィラーが、ポリオール原料等において沈降しやすくなる。このため、均一な混合が難しい。よって、本態様を採用する場合には、磁性フィラーの最大長さは、ポリオール原料およびポリイソシアネート原料が噴射される噴射孔の孔径よりも、小さいことが望ましい。こうすることで、ミキシングヘッドに対する負荷を低減し、高圧発泡装置の高寿命化を図ることができる。また、磁性フィラーの沈降が抑制されると共に、ポリオール原料等における粘度の上昇も低減することができる。
【0033】
発泡成形は、混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、所定の磁場中で行えばよい。磁場は、磁性フィラーを配向させる方向に形成すればよい。例えば、磁性フィラーを直線状に配向させる場合、発泡型のキャビティ内の磁力線が、キャビティの一端から他端に向かって略平行になるよう形成することが望ましい。このような磁場を形成するためには、例えば発泡型を挟むように、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。よって、発泡成形を制御しやすい。
【0034】
また、磁場を構成する磁力線は閉ループを形成していることが望ましい。こうすることで、磁力線の漏洩が抑制され、キャビティ内に安定した磁場を形成することができる。磁場は、混合原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。混合原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけると、磁性フィラーが配向しにくいため、所望の熱伝導性を得ることが難しい。なお、発泡成形を行う時間のすべてにおいて磁場をかける必要はない。
【0035】
例えば、キャビティ内における磁力分布を考慮せずに、一対の対向する磁石を用いて発泡成形を行った場合には、磁石の外周に近いほど外側に逃げる磁力線が多くなる。このため、磁石の拡径方向に沿って磁束密度は小さくなる。また、磁石間の間隔が大きくなると、磁石との距離に応じて磁束密度に差が生じやすい。磁束密度が均一でなく、磁場勾配のある磁場中で発泡成形を行うと、混合原料中の磁性フィラーが、磁力線に沿って不要な方向に移動して、所望の配向状態が得られない。したがって、磁場の磁束密度は、キャビティの一端から他端に向かう磁力方向、および該磁力方向に対する垂直方向において、略同じであることが望ましい。つまり、キャビティ内の磁束密度は略均一であることが望ましい。例えば、キャビティ内の磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。
【0036】
ウレタン発泡成形体中の磁性フィラーの配合量は、発泡反応に対する影響、熱伝導性の向上効果等を考慮して、決定すればよい。例えば、発泡反応を阻害せず、所望の物性を有するウレタン発泡成形体を得るためには、磁性フィラーの配合量を、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の、10体積%以下とすることが望ましい。5体積%以下とするとより好適である。一方、熱伝導性の向上効果を得るためには、磁性フィラーの配合量を、0.5体積%以上とすることが望ましい。1体積%以上とするとより好適である。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0038】
<発泡ウレタン樹脂原料の調製>
下記表1に示す原料を、同表に示す質量割合で配合して、発泡ウレタン樹脂原料を調製した。すなわち、まず、ポリオール成分のポリエーテルポリオール(平均分子量6000、官能基数3、OH価28mgKOH/g)と、発泡剤の水と、架橋剤のジエチレングリコールと、触媒と、シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング(株)製)と、を混合して、ポリオール原料を調製した。次に、調製したポリオール原料に、ポリイソシアネート成分のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、NCO=29〜33質量%)を加えて混合し、発泡ウレタン樹脂原料とした。ここで、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との配合比(POL:ISO)は、両者の合計質量を100%として、POL:ISO=78.5:21.5とした。
【0039】
表1中、触媒A〜Eについては、以下の通りである。
触媒A:70%ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、30%ジプロピレングリコール
触媒B:N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジン
触媒C:33%トリエチレンジアミン、67%ジプロピレングリコール
触媒D:トリエチルアミン
触媒E:2エチルヘキサン酸
【表1】

【0040】
<粘度測定>
上記ポリオール原料に磁性フィラー(三菱マテリアル電子化成(株)製、軟磁性扁平粉「JEM−S」、平均粒子径約20μm)を混合して、40℃下での粘度を測定した。測定結果を、上記表1にまとめて示す。表1中、粘度が4000cP以下の場合を○印で、4000cPを超えた場合を×印で示す。表1に示すように、実施例1〜3、および比較例1、2については、40℃下においても、粘度が4000cP以下であった。しかし、比較例3については、粘度が4000cPよりも大きくなった。この理由は、比較例3のポリオール原料については、酸(触媒E)の配合量が多かったためと考えられる。
【0041】
<発泡反応および硬化反応の進行>
実施例1の発泡ウレタン樹脂原料について、40℃下での発泡反応および硬化反応の進み方を調べた。また、比較のため、磁性フィラーを配合せずに、良好なウレタン発泡成形体が得られる従来の発泡ウレタン樹脂原料(参考例)について、22℃下での発泡反応および硬化反応の進み方を調べた。参考例の原料および配合割合を、表2に示す。
【表2】

【0042】
[発泡反応]
発泡反応の進み方を調べるために、上記二つの発泡ウレタン樹脂原料について、次の発泡試験を行った。発泡試験は、実施例1の発泡ウレタン樹脂原料については40℃下で、参考例の発泡ウレタン樹脂原料については22℃下で、行った。図2に、発泡試験の様子を模式的に示す。図2中、(a)は原料攪拌時の様子を、(b)は反応途中の様子を、(c)は反応完了時の様子を、各々示す。
【0043】
まず、図2(a)に示すように、発泡ウレタン樹脂原料51を構成するポリオール原料とMDIとを、発泡型50に注入して、攪拌羽根52により攪拌した。ここで、攪拌開始時を、反応開始時とした。また、攪拌を終えた発泡ウレタン樹脂原料の高さを、反応開始高さ(H)とした。次に、図2中、一点鎖線で示すように、予め任意の高さ(HII)、(HIII)を設定しておき、反応開始から、発泡ウレタン樹脂原料51が各々の設定高さに膨張するまでの時間を、測定した。最後に、図2(c)に示すように、反応完了時のウレタン発泡成形体53の高さ(HIV)、および反応開始から反応完了までの時間を測定した。そして、測定された時間(反応時間)に対して、次式(1)により算出される発泡率を、プロットした(後出図4の「発泡反応」参照)。
発泡率(%)=任意高さ(H〜HIV)/反応完了時高さ(HIV)×100・・・(1)
[硬化反応]
硬化反応の進み方を調べるために、上記二つの発泡ウレタン樹脂原料について、次の鉄球落下試験を行った。鉄球落下試験は、実施例1の発泡ウレタン樹脂原料については40℃下で、参考例の発泡ウレタン樹脂原料については22℃下で、行った。図3に、鉄球落下試験の様子を模式的に示す。(a)は原料攪拌直後の様子を、(b)は反応途中の様子を、(c)は反応完了時の様子を、各々示す。
【0044】
まず、図3(a)に示すように、ポリオール原料とMDIとを発泡型50に注入し、攪拌羽根(図略)により攪拌して、発泡ウレタン樹脂原料51を調製した。ここで、攪拌開始時を、反応開始時とした。また、測定数に応じて、直径約11mm、重さ約5.5gの鉄球54を準備した(図3では、鉄球54を五つ示している)。次に、図3(b)、(c)中、白抜き矢印で示すように、反応開始から任意の時間ごとに、鉄球54を落下させた。この際、図3(b)に示すように、発泡ウレタン樹脂原料51が硬化していない状態では、鉄球54は発泡型50の底に沈む。しかし、発泡ウレタン樹脂原料51の硬化が進行するに従って、図3(c)に示すように、鉄球54は、発泡ウレタン樹脂原料51の途中にとどまるようになる。そして、硬化が完了すると、鉄球54は、沈まずに、ウレタン発泡成形体53の上面に載る。
【0045】
鉄球54を落下させる度に、発泡型50の底面から鉄球54までの高さ(沈降高さ;H)を測定した。また、その時の発泡高さ(H)を測定した。そして、鉄球を落下した時間(反応時間)に対して、次式(2)により算出される硬化率を、プロットした(後出図4の「硬化反応」参照)。
硬化率(%)=沈降高さ(H)/発泡高さ(H)×100・・・(2)
[測定結果]
図4に、実施例1、参考例の各発泡ウレタン樹脂原料における、発泡反応および硬化反応の経時変化をまとめて示す。図4中、実施例1については実線で、参考例については点線で示す。実施例1の発泡ウレタン樹脂原料については、40℃下で反応を進行させた。にも関わらず、図4に示すように、発泡、硬化のいずれの反応についても、参考例の22℃下における発泡、硬化反応と同じように進行した。すなわち、反応温度が異なっていても、両者における硬化反応開始のタイミングは、略同じであった。このように、N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジン(触媒B)を含む実施例1の発泡ウレタン樹脂原料によると、温度を40℃に上げても、適切な硬化反応速度で、発泡成形を行うことができることが確認された。
【0046】
<成形性の評価>
実施例1〜3、比較例1〜3の各発泡ウレタン樹脂原料に磁性フィラーを配合して、磁場中で発泡成形した場合における成形性を評価した。まず、温度40℃の各発泡ウレタン樹脂原料に、磁性フィラー(同上)を混合して、混合原料を製造した。磁性フィラーの配合量は、製造するウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の1.2体積%とした。
【0047】
次に、各混合原料を、アルミニウム製の発泡型(後述する図5、図6参照。キャビティは直径100mm×厚さ20mmの円筒形。)に注入し、密閉した。続いて、発泡型を磁場発生装置に設置して、発泡成形を行った。図5に、磁場発生装置の斜視図を示す。図6に、同磁場発生装置の断面図を示す。図5、図6に示すように、磁場発生装置1は、一対の電磁石部2U、2Dと、ヨーク部3と、を備えている。
【0048】
電磁石部2Uは、芯部20Uとコイル部21Uとを備えている。芯部20Uは、強磁性体製であって、上下方向に延びる円柱状を呈している。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に配置されている。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に巻装された導線210Uにより、形成されている。導線210Uは、電源(図略)に接続されている。
【0049】
電磁石部2Dは、発泡型4を挟んで、上記電磁石部2Uの下方に配置されている。電磁石部2Dは、上記電磁石部2Uと同様の構成を備えている。すなわち、電磁石部2Dは、芯部20Dとコイル部21Dとを備えている。コイル部21Dは、芯部20Dの外周面に巻装された導線210Dにより、形成されている。導線210Dは、電源(図略)に接続されている。
【0050】
ヨーク部3は、C字状を呈している。ヨーク部3のC字上端は、電磁石部2Uの芯部20U上端に接続されている。一方、ヨーク部3のC字下端は、電磁石部2Dの芯部20D下端に接続されている。
【0051】
発泡型4は、上型40Uと下型40Dとを備えている。発泡型4は、電磁石部2Uの芯部20Uと電磁石部2Dの芯部20Dとの間に、介装されている。上型40Uは、角柱状を呈している。上型40Uの下面には、円筒状の凹部が形成されている。同様に、下型40Dは、角柱状を呈している。下型40Dの上面には、円筒状の凹部が形成されている。上型40Uと下型40Dとは、互いの凹部の開口同士が向き合うように配置されている。上型40Uと下型40Dとの間には、上記凹部同士が合体することにより、キャビティ41が区画されている。キャビティ41には、前述したように、混合原料が充填されている。
【0052】
導線210Uに接続された電源および導線210Dに接続された電源を、共にオンにすると、上方の電磁石部2Uの芯部20Uの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Uに、上方から下方に向かって磁力線L(図6に点線で示す)が発生する。また、下方の電磁石部2Dの芯部20Dの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Dに、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。また、芯部20U下端はN極であり、芯部20D上端はS極である。このため、芯部20Uと芯部20Dとの間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。以上説明したように、電磁石部2U、2D間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。下方の電磁石部2Dの芯部20D下端から放射された磁力線Lは、ヨーク部3を通って、上方の電磁石部2Uの芯部20U上端に流入する。このように、磁力線Lは閉ループを構成するため、磁力線Lの漏洩を抑制することができる。
【0053】
前述したように、発泡型4は、芯部20Uと芯部20Dとの間に介装されている。このため、発泡型4のキャビティ41内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線Lにより一様な磁場が形成されている。具体的には、キャビティ41内の磁束密度は、約200mTであった。また、キャビティ41内における磁束密度の差は、±3%以内であった。発泡型4を磁場発生装置1に設置した後、最初の約2分間は、磁場をかけながら発泡成形を行った。続く約5分間は、磁場をかけないで、発泡成形を行った。発泡成形が終了した後、脱型して、円柱状のウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体を、発泡ウレタン樹脂原料の番号と対応させて、番号付けした。
【0054】
得られたウレタン発泡成形体の成形性を、硬化速度および磁性フィラーの配向性の観点から評価した。評価結果を、上記表1にまとめて示す。表1中、成形性が良好の場合を○印で、不良の場合を×印で示す。表1に示すように、実施例1〜3については、成形性が良好であった。すなわち、実施例1〜3によると、発泡、硬化反応の速度バランスがよく、所望のセル構造を有するウレタン発泡成形体が得られた。また、得られたウレタン発泡成形体の断面を、目視で観察したところ、磁性フィラーが互いに連接して配向していた。
【0055】
一方、触媒として、N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジン(触媒B)を含まない比較例1については、硬化反応の速度が大きすぎて、磁性フィラーが配向し終わる前に、硬化が進んでしまった。このため、比較例1のウレタン発泡成形体については、所望の配向状態が得られなかった。また、比較例2については、硬化反応の速度が小さすぎて、ウレタン発泡成形体において、所望のセル構造が形成されなかった。また、比較例2によると、生産性も低い。なお、比較例3については、混合原料の粘度は高かったものの、発泡、硬化反応の速度バランスはよく、所望の配向状態を有するウレタン発泡成形体が得られた。
【0056】
以上より、本発明のウレタン発泡成形体の製造方法によると、粘度上昇を抑制しつつ、磁性フィラーが互いに連接して配向されているウレタン発泡成形体を得られることが、確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法によると、磁性フィラーを配合した場合に、原料粘度の好適な範囲において、所望の硬化反応速度で発泡成形を行うことができる。製造されたウレタン発泡成形体は、自動車、電子機器、建築等の幅広い分野において用いることができる。例えば、路面の凹凸に起因する騒音を低減するための防音タイヤ、エンジンの騒音を低減するために車両のエンジンルームに配置されるエンジンカバーやサイドカバー、OA(Office Automation)機器や家電製品のモーター用吸音材、パソコン等の電子機器の放熱性吸音材、家屋の内外壁用吸音材等に好適である。
【符号の説明】
【0058】
1:磁場発生装置
2U、2D:電磁石部 20U、20D:芯部 21U、21D:コイル部
210U、210D:導線 3:ヨーク部 4:発泡型 40U:上型 40D:下型
41:キャビティ L:磁力線
50:発泡型 51:発泡ウレタン樹脂原料 52:攪拌羽根
53:ウレタン発泡成形体 54:鉄球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ウレタン樹脂原料と磁性フィラーとを有する混合原料を、磁場中で発泡成形することにより、ポリウレタンフォームからなる基材中に該磁性フィラーが互いに連接して配向されているウレタン発泡成形体を製造するウレタン発泡成形体の製造方法であって、
該発泡ウレタン樹脂原料は、触媒を有し、
該触媒は酸を含まず、かつ、樹脂化の活性化エネルギーと泡化の活性化エネルギーとの比(樹脂化活性化エネルギー/泡化活性化エネルギー)が1以上であるアミン系触媒を含むことを特徴とするウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記アミン系触媒は、N,N′,N′−トリメチルアミノエチルピペラジンを含む請求項1に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記混合原料の温度は、40℃以上である請求項1または請求項2に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記発泡ウレタン樹脂原料として、前記触媒、発泡剤、およびポリオールを含むポリオール原料と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート原料と、を調製し、該ポリオール原料および該ポリイソシアネート原料の少なくとも一方に、前記磁性フィラーを配合する原料調製工程と、
該ポリオール原料と該ポリイソシアネート原料とを各々圧送してミキシングヘッドへ供給し、両原料を該ミキシングヘッド内で混合して前記混合原料とする混合工程と、
該混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティに磁場をかけながら発泡成形する発泡成形工程と、
を有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ミキシングヘッド内において、前記ポリオール原料と前記ポリイソシアネート原料とを、各々高圧で噴射して衝突させることにより混合する請求項4に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−30417(P2012−30417A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170201(P2010−170201)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000219668)東海化成工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】