説明

ウレタン系光学部材の製造方法

【課題】25℃(常温)にて固体の芳香族ポリイソシアネートとポリチオール化合物を用いて、曇りがなく透明性に優れかつ生産性の高いウレタン系光学部材の製造方法を提供する。
【解決手段】融点が25℃以上である芳香族ポリイソシアネート化合物と、ポリチオール化合物とを含む混合物を硬化させるウレタン系光学部材の製造方法であって、該芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させた後、該ポリチオール化合物と混合して混合液を得、該混合液の液温を、芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ該硬化物の分解温度以下に制御した状態で、該混合液を、加熱することなく硬化させるウレタン系光学部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン系光学部材の製造方法に関する。詳しくは、25℃(常温)で固体である芳香族ポリイソシアネートとポリチオールを用いたウレタン系光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、ガラスに比べて軽量であり、加工性に優れ、割れにくく安全性が高いなどの利点から、眼鏡レンズなどの光学部材に使用されている。
例えば、エピチオ基を有する化合物とポリイソシアネート化合物やポリチオール化合物などを原料モノマーとし、これらを重合反応させることにより高屈折率、高アッベ数で、透明性に優れた眼鏡用プラスチックレンズが得られることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、芳香族ポリイソシアネートを用いた例として、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びポリチオールを含む光学材料用重合組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−330701号公報
【特許文献2】国際公開第2009/098887号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、固体の芳香族ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物を常温で混合した場合は非相溶であるために、その樹脂は固形分を含んだものとなる。また、固体の芳香族ポリイソシアネート化合物を単に加熱融解させ、ポリチオールと混合した後、通常のプラスチックレンズ製造における低温からの昇温ではその工程で不透明な樹脂となる。特許文献1及び2に記載のポリイソシアネートは、常温においては共に液状の材料であり、常温にて固体の芳香族ポリイソシアネート化合物を用いた光学材料に関しては何ら記載がない。
本発明では、常温にて固体の芳香族ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物を用いて、曇りがなく透明性に優れかつ生産性の高いウレタン系光学部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、常温にて固体の芳香族ポリイソシアネート化合物を加熱融解させた後、特定のポリチオール化合物と混合し、得られた混合液を加熱することなく、該混合液の液温を該芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ得られる硬化物の分解温度以下に制御した状態で硬化させることにより短時間で硬化させることができ、曇りのない透明な樹脂が得られることを見出し本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)のウレタン系光学部材の製造方法に関する。
(1)芳香族ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを含む原料モノマー混合物を硬化させるウレタン系光学部材の製造方法であって、該芳香族ポリイソシアネート化合物の融点が25℃以上であり、該ポリチオール化合物が、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、及び4,8−、4,7−又は5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンから選ばれる少なくとも一つ以上の化合物であり、かつ下記工程1及び工程2を有することを特徴とするウレタン系光学部材の製造方法。
工程1:該芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させる工程
工程2:工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物と、該ポリチオール化合物を混合して混合液を得、該混合液を加熱することなく硬化させて硬化物を得る工程であって、該混合液の液温を、該芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ該硬化物の分解温度以下に制御した状態で硬化させる工程
(2)前記芳香族ポリイソシアネート化合物が、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニル、1,5−ナフタレンジイソシアネート及び2,6−ナフタレンジイソシアネートから選ばれる1種以上の化合物である、前記(1)に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
(3)前記工程2において、反応射出成形を用いる前記(1)又は(2)に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
(4)前記工程2において、予め前記芳香族ポリイソシアネート化合物の融点以上の温度に加熱したポリチオール化合物を用いる前記(1)〜(3)のいずれかに記載のウレタン系光学部材の製造方法。
(5)ウレタン系光学部材がプラスチックレンズである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、常温にて固体である芳香族ポリイソシアネート化合物を原料として使用しても、曇りのない透明性に優れたウレタン系光学部材を短時間で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ポリイソシアネート化合物]
本発明において、原料である常温にて固体の芳香族ポリイソシアネート化合物としては、その融点が25℃以上である芳香族ポリイソシアネート化合物であり、少なくとも以下の芳香族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。なお、本明細書において、単に「芳香族ポリイソシアネート化合物」というときは、融点が25℃以上である芳香族ポリイソシアネート化合物を意味するものとする。
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、及び2,6−ナフタレンジイソシアネートなどを用いることができる。これらの芳香族ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
上記例示の中でも、低融点でハンドリングが行いやすいという観点から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルを用いることが好ましく、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0009】
また、ポリイソシアネート化合物として、芳香族ポリイソシアネート化合物に加えて脂肪族、脂環式ポリイソシアネート化合物、常温で液体の芳香族ポリイソシアネート化合物を本発明の効果を阻害しない範囲で用いることができる。
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、メシチレントリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネートなどを用いることができ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ビスイソシアネートメチルジシクロへプタンなどを用いることができる。
常温で液体の芳香族ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートなどを用いることができる。
これらの脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物及び常温で液体の芳香族ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0010】
[ポリチオール化合物]
本発明において、原料であるポリチオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、及び4,8−、4,7−又は5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンから選ばれる少なくとも一つ以上の化合物を用いる。これらのポリチオール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。これらのポリチオール化合物を用いることにより、透明性の高い高屈折率のウレタン系光学部材を創出することができる。
【0011】
また、上記以外のポリチオール化合物を本発明の効果を阻害しない範囲で使用することもできる。例えば、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジクロロネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジブロモネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトアセテート)、4,5−ビスメルカプトメチル−1,3−ジチアン、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオールなどを用いることができる。これらのポリチオール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0012】
ポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の配合割合は、NCO基/SH基のモル比が通常0.5〜2.0となる割合であれば硬化反応が進行するが、中でも0.95〜1.05となる割合が好ましい。NCO基/SH基のモル比が0.95以上であれば未反応のNCO基がほぼ残らず、1.05以下であれば未反応のSH基がほぼ残らない。この範囲であれば未反応基の少ない理想的なポリマーを得ることが出来る。
【0013】
また、本発明において、上記ポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物以外の原料モノマーを用いることができ、一般的にプラスチックレンズの原料モノマーとして用いられるものであれば特に制限はない。
【0014】
本発明において、特に制限はなく公知の添加剤を使用することができるが、添加剤としては、例えば硬化触媒、紫外線吸収剤、離型剤などが挙げられる。
[硬化触媒]
硬化触媒としては、有機錫化合物が好ましく例えば、ジブチル錫ジアセテ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド、モノメチル錫トリクロライド、トリメチル錫クロライド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫フロライド、ジメチル錫ジブロマイドなどを用いることができる。これらの硬化触媒は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
硬化触媒の配合割合は、ポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の合計100質量部に対し、通常0.001〜1.00質量部の範囲である。上記範囲内であれば、硬化速度の調整が容易である。
【0015】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホニックアシッド、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン及び2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどの各種ベンゾフェノン系化合物;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどの各種ベンゾトリアゾール化合物;ジベンゾイルメタン、4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタンなどを用いることができる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
紫外線吸収剤の配合割合は、ポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の合計100質量部に対し、通常0.01〜10.00質量部の範囲である。より好ましい範囲は0.05〜1.00であり、配合割合が0.05以上であれば十分な紫外線吸収効果が得られ、1.00以下であれば樹脂が著しく着色することがない。
【0016】
[離型剤]
離型剤としては、例えば、イソプロピルアシッドフォスフェート、ブチルアシッドフォスフェート、オクチルアシッドフォスフェート、ノニルアシッドフォスフェート、デシルアシッドフォスフェート、イソデシルアシッドフォスフェート、トリデシルアシッドフォスフェート、ステアリルアシッドフォスフェート、プロピルフェニルアシッドフォスフェート及びブチルフェニルアシッドフォスフェートなどのリン酸モノエステル化合物;ジイソプロピルアシッドフォスフェート、ジブチルアシッドフォスフェート、ジオクチルアシッドフォスフェート、ジイソデシルアシッドフォスフェート、ビス(トリデシルアシッドフォスフェート)、ジステアリルアシッドフォスフェート、ジプロピルフェニルアシッドフォスフェート、ジブチルフェニルアシッドフォスフェート及びブトキシエチルアシッドフォスフェートなどのリン酸ジエステル化合物などを用いることができる。これらの離型剤は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
離型剤の配合割合は、ポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の合計100質量部に対し、通常0.01〜1.00質量部の範囲である。上記範囲内であれば離型促進を効果的に発揮することができ、作業に無理が生じない。
【0017】
[ウレタン系光学部材の製造方法]
本発明のウレタン系光学部材の製造方法は、下記工程1及び工程2を有することを特徴とする。
工程1:芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させる工程
工程2:工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物と、該ポリチオール化合物を混合して混合液を得、該混合液を加熱することなく硬化させて硬化物を得る工程であって、該混合液の液温を該芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ該硬化物の分解温度以下に制御した状態で硬化させる工程
【0018】
(工程1)
工程1において、芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させる方法としては、常温で固体の芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させて固体から液体にすることができれば特に限定されない。
工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物は、成形体の発泡を防止の観点から、脱泡することが好ましい。脱泡方法としては、特に制限はないが、例えば、減圧攪拌脱気法等が挙げられる。なお、後述する工程2において混合液の温度の低下を防ぐ観点から、工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物を、工程2の前に、工程1の加熱温度よりも高い温度に加温保持することもできる。
【0019】
(工程2)
工程2において、工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物、ポリチオール化合物及び必要に応じた添加剤を混合し、混合液を得る。混合順序や混合方法は原料を均一に混合することができれば特に限定されないが、例えば、調合タンクによる攪拌混合法により混合液を得ることが好ましい。
ポリチオール化合物は、混合液の温度の低下を防ぐ観点から、芳香族ポリイソシアネート化合物と混合する前に、予め該芳香族ポリイソシアネート化合物の融点以上の温度に加熱しておくことが好ましい。加熱したポリチオール化合物は、成形体の発泡を防止の観点から、脱泡することが好ましい。脱泡方法としては、特に制限はないが、例えば、減圧攪拌脱気法等が挙げられる。
工程2において、前記混合液を加熱することなく硬化させて硬化物を得ることにより、本発明のウレタン系光学部材を製造することができる。
ここで、硬化とは、原料モノマー混合物の重合により実質的に流動性がなくなっていることを意味する。例えば、粘度が10,000Pa・s以上であれば、実質的に流動性がなくなり、原料モノマー混合物が硬化したと判断することができる。なお、完全に反応を終了させるために、得られた硬化物を加温することができる。
【0020】
工程2では、前記で得られた混合液を、加熱することなく、その液温を芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ得られる硬化物の分解温度以下に制御した状態で硬化させることを特徴とする。
前記混合液を加熱することなく、その液温を前記の温度範囲に制御することにより、曇りがなく透明な硬化物を得ることができ、反応が暴走的に起こることによって、硬化物の物性が低下するのを抑えることができる。
前記混合液の液温は、使用する原料の種類にもよるが、60〜150℃が好ましく、70〜120℃がより好ましい。前記混合液を加熱することなく硬化させる方法としては、該混合液を室温(25℃)で放置する方法等が挙げられる。
芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度とは、融解した芳香族ポリイソシアネートが再結晶化する温度である。
硬化物の分解温度とは、硬化物が加熱により分解する温度のことである。その温度は、熱分析装置による熱重量測定などで確認することができる。
【0021】
ここで、工程2を行うための方法としては、前記攪拌混合法により調合した混合液を型に注入する方法、反応射出成形(Reaction Injection Molding:RIM成形)法などが挙げられる。この中で、反応射出成形は、前記工程1から工程2を連続して行うことができ、好ましい。
工程2では、混合液を30分以内に硬化させることができ、芳香族ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを混合開始してから、混合液が硬化するまでの時間としては、具体的には2〜30分、さらには3〜20分のように短時間で混合液を硬化させることができる。
【0022】
上述の本発明の製造方法によれば、常温にて固体の芳香族ポリイソシアネート化合物を原料として使用しても、曇りがなく透明性に優れたウレタン系光学部材を効率よく製造することができる。
本発明により得られたウレタン系光学部材は、眼鏡やカメラなどの各種プラスチックレンズや発光ダイオード(LED)などの各種の用途に使用することができる。特に、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学材料として好適である。
【実施例】
【0023】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。実施例及び比較例において、下記の方法により物性評価を行った。
(1)外観
原料を混合した後、室温で放置している間の混合物の外観を目視により観察し、また、硬化後に得られた硬化物を暗室内、蛍光灯下で目視により観察し、それぞれの外観の色及び透明性を評価した。
○:白濁は認められない。
×:白濁が認められる。
【0024】
(2)最大温度
室温で放置している間の混合物の表面温度を温度センサー(HA−200E:アンリツ社製)にて測定を行い、観察された最高温度を最大温度とした。なお、この最大温度により、混合液の温度が硬化物の分解温度以下か否かを評価した。なお、ここでの分解温度は、熱重量損失が5%となる温度のことを示す。熱重量損失は、示差熱天秤装置(リガク社製、TG−8120)にて測定した。
【0025】
[実施例1]
予め60℃で加熱融解、脱泡した4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(融点40℃)13.49gに、離型剤(ブトキシエチルアシッドフォスフェート)0.01g、ジメチル錫ジクロライド0.04gを溶解させた。
得られたMDI溶液を60℃にて加温保持し、高速攪拌しながら、予め60℃で加熱、脱泡した2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン(DMMD)7.4g及びペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)(PETMA)4.08gを加え、さらに高速攪拌混合し混合液を得た。この混合液を室温(25℃)で放置して硬化物を得た。前記MDI溶液に、DMMD及びPETMAを混合開始してから、混合液が硬化するまでの時間は、20分であった。室温放置時の混合物及び得られた硬化物について、外観及び硬化状態を観察し、最大温度を測定した。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
混合液が硬化するまで間に、MDIの析出は見られなかったことから、混合液の液温は、MDIの析出温度以上であったことを確認した。また、混合物の表面温度は、55〜120℃の範囲で推移し、示差熱天秤装置(リガク社製、Tg−8120)による、熱重量損失測定の結果、硬化物の分解温度は240℃であったことから、混合液の液温は、硬化物の分解温度以下であったことを確認した。なお、硬化物は完全に反応を完了させるため、硬化後、120℃で10時間加温した。
【0026】
[実施例2]
あらかじめ150℃で加熱融解、脱泡した1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)(融点130℃)2.1gと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(融点40℃)10.0gに、離型剤(ブトキシエチルアシッドフォスフェート)0.01g、ジメチル錫ジクロライド0.03gを溶解させた。
得られたNDIとMDIの混合溶液を130℃にて加温保持し、高速攪拌しながら、予め50_GoBack_GoBack℃で加熱、脱泡した2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン(DMMD)7.4g及びペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)(PETMA)4.08gを加え、さらに高速攪拌混合し、混合液を得た。この混合液を室温で放置して硬化物を得た。前記NDI溶液に、PETMAを混合開始してから、混合液が硬化するまでの時間は、10分であった。実施例1と同様に、室温放置時の混合物及び得られた硬化物について、外観及び硬化状態を観察し、最大温度を測定した。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。また、混合物の表面温度は、90〜150℃の範囲で推移していた。硬化物の分解温度は240℃であった。
実施例1と同様の方法により、混合液の液温は、NDI及びMDIの析出温度以上、硬化物の分解温度以下の範囲に制御されていたことを確認した。なお、硬化物は完全に反応を完了させるため、硬化後、120℃で10時間加温した。
【0027】
[比較例1]
あらかじめ60℃で加熱融解、脱泡したMDI13.49gに離型剤(ブトキシエチルアシッドフォスフェート)0.01g、ジメチル錫ジクロライド0.04gを溶解させた。
得られたMDI溶液を45℃にて加温保持し、高速攪拌しながら、予め40℃で加熱、脱泡したDMMD7.4g、及びPETMA4.08gを加え、さらに高速攪拌混合し、混合液を得た。この混合液を室温放置したところ、混合物の液温がMDIの析出温度以下となり白濁化し、白濁の硬化物を得た。前記MDI溶液に、DMMD及びPETMAを混合開始してから、混合液が硬化するまでの時間は、60分であった。実施例1と同様に、室温放置時の混合物及び得られた硬化物について、外観及び硬化状態を観察し、最大温度を測定した。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。また、混合物の表面温度は、40〜45℃の範囲で推移していた。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法によれば、25℃(常温)で固体の芳香族ポリイソシアネート化合物を原料として使用しても、曇りがなく透明性に優れかつ生産性よくウレタン系光学部材を得ることができるため、本発明は眼鏡レンズ、カメラレンズ等のプラスチックレンズの分野において特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを含む原料モノマー混合物を硬化させるウレタン系光学部材の製造方法であって、該芳香族ポリイソシアネート化合物の融点が25℃以上であり、該ポリチオール化合物が、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、及び4,8−、4,7−又は5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカンから選ばれる少なくとも一つ以上の化合物であり、かつ下記工程1及び工程2を有することを特徴とするウレタン系光学部材の製造方法。
工程1:該芳香族ポリイソシアネート化合物をその融点以上の温度にて加熱融解させる工程
工程2:工程1で加熱融解させた芳香族ポリイソシアネート化合物と、該ポリチオール化合物とを混合して混合液を得、該混合液を、加熱することなく硬化させて硬化物を得る工程であって、該混合液の液温を、該芳香族ポリイソシアネート化合物の析出温度以上かつ該硬化物の分解温度以下に制御した状態で硬化させる工程
【請求項2】
前記芳香族ポリイソシアネート化合物が、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニル、1,5−ナフタレンジイソシアネート及び2,6−ナフタレンジイソシアネートから選ばれる1種以上の化合物である、請求項1に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程2において、反応射出成形を用いる請求項1又は2に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記工程2において、予め前記芳香族ポリイソシアネート化合物の融点以上の温度に加熱したポリチオール化合物を用いる請求項1〜3のいずれかに記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【請求項5】
ウレタン系光学部材がプラスチックレンズである、請求項1〜4のいずれかに記載のウレタン系光学部材の製造方法。

【公開番号】特開2013−60488(P2013−60488A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198236(P2011−198236)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】