説明

ウレタン製ベルトの洗浄方法及び洗浄剤

【課題】ウレタン製ベルトの金属接触禍を防止する手段として、ウレタン樹脂に特殊配合する必要のない対策を提供する。
【解決手段】金属不活性剤及び/又は酸化防止剤を溶媒に溶解した洗浄剤を用いて、金属と接して使用されるウレタン製ベルトを洗浄する。洗浄を、工場出荷前及び/又はメンテナンス時に伴い行なう。ウレタン製ベルトが、ウレタン樹脂配合剤として金属不活性剤及び酸化防止剤を含まない。ウレタン製ベルトが接する金属が、銅あるいは真鍮である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン製ベルトの洗浄に関する。特に、金属と接する部分に使用されるウレタン製ベルトの洗浄に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン製ベルトの老化防止、特に、銅害などの金属との接触によって発生する劣化防止対策として、金属不活性剤を添加配合したウレタンプレポリマ−を用いて製造したウレタン製ベルトが知られている。例えば、特許文献1(特開平7−186296号公報)には、グリコ−ル化合物とジイソシアネ−ト化合物からなる液状ウレタンプレポリマ−に硬化剤として少なくとも一種以上のジアミン化合物によって硬化される熱硬化性ポリウレタンエラストマ−において、該ウレタンプレポリマ−100重量部に対して、有機カルボン酸化合物0.05〜5重量部とフェノ−ル系老化防止剤もしくは非汚染性アミン系老化防止剤もしくは該老化防止剤の混合物を0.1〜10重量部を配合した伝動ベルトウレタン組成物が開示されている。特許文献2(特開2000−81093号公報)には、ポリウレタン中に耐光安定剤とヒドラジン化合物の構造中にヒンダードフェノール構造を有する金属不活性剤を添加したポリウレタン製ベルトが開示されている。
これらのウレタン樹脂配合による対策は、特殊配合としてそれぞれの劣化原因ごとに配合種を増やす必要がある。一方、全配合に金属不活性剤などを添加すれば配合によらず銅害対策が可能であるが、多くの対策を要しない(銅などとの接触がない)用途にも高価な添加剤を使う事となり、無駄な配合を施すこととなり、配合工程や管理、製造費が増すこととなる。
【0003】
【特許文献1】特開平7−186296号公報
【特許文献2】特開2000−81093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ウレタン製ベルトの金属接触禍あるいは酸化劣化を防止する手段として、ウレタン樹脂に特殊配合する必要のない対策を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
具体的な、構成は次のとおりである。
(1)金属不活性剤及び/又は酸化防止剤を溶媒に溶解した洗浄剤を用いて、金属と接して使用されるウレタン製ベルトを洗浄することを特徴とするウレタン製ベルトの洗浄方法。
(2)洗浄が、工場出荷前及び/又はメンテナンス時に伴い行われることを特徴とする(1)記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
(3)ウレタン製ベルトが、ウレタン樹脂配合剤として金属不活性剤及び酸化防止剤を含まないことを特徴とする(1)又は(2)記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
(4)ウレタン製ベルトが接する金属が、銅あるいは真鍮であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
(5)ウレタン製ベルトが接する金属が、銅あるいは真鍮を含有するプーリであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
(6)ウレタン製ベルトが、硬貨搬送用ベルトであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
(7)金属不活性剤が、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドあるいは、2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【0006】
(8)金属不活性剤及び/又は酸化防止剤を溶媒に溶解したことを特徴とするウレタン製ベルト洗浄剤。
(9)金属不活性剤が、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドあるいは、2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
であることを特徴とする(8)記載のウレタン製ベルト洗浄剤。
(10)溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランのいずれかであることを特徴とする(8)又は(9)記載の洗浄剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ウレタン樹脂に金属不活性剤や酸化防止剤などを添加せずとも銅害などの金属との接触による劣化や対候劣化を抑制することができる。汎用のウレタン製ベルトを金属接触箇所や屋外に使用することができる。硬貨搬送用ベルトや真鍮製プーリなどに使用できるので、用途別に多品種生産をする必要が少なくなる。ベルトの生産性、コストを低減化できる。
初期設置時及びメンテナンス時にベルト表面を拭き洗浄、浸漬洗浄などの簡便な方法により洗浄を実施することができる。
金属不活性剤や酸化防止剤をエタノールなどの溶媒に溶かした洗浄液を用いるので、安全に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明は、金属不活性剤あるいは酸化防止剤を溶解した溶液を洗浄剤として用いて、汎用のウレタン製ベルトを用途に応じた出荷時や、メンテナンス時などに拭き洗浄等の洗浄を施すことにより、銅や真鍮と接触によって発生するウレタン製ベルトの劣化を防止するものである。
【0009】
[ウレタン製ベルト]
ウレタン製のベルトは、通常の伝動ベルトや搬送に用いられるベルトに適用することができる。金属不活性剤や酸化防止剤を配合していない汎用のウレタン製ベルトを用いることができる。
金属と接触するベルトして、硬貨搬送用ベルト、銅製や真鍮製の駆動プーリやアイドリングプーリなどのプーリと組み合わせて用いられる伝動用ベルトなどがある。
ウレタンと接触して金属害が発生する金属は、銅、真鍮など銅を含む金属が中心である。
【0010】
[洗浄剤]
本発明に用いる洗浄剤として、金属不活性剤や酸化防止剤を溶媒に溶解した洗浄剤を用いる。
金属不活性剤などの添加量は、1から3重量%が好ましい。なお、溶媒に溶解する範囲で多い方がより高い効果が期待できるが、効果とコストの面から1〜3重量%で十分である。
酸化防止剤は、老化防止剤とも称され、その他紫外線吸収剤、紫外線安定剤を用いることができる。
本発明の洗浄剤は、金属不活性剤などをウレタン製ベルトの表面付着あるいは表層部へ浸透させることにより銅などの金属イオンを不活性化してウレタン樹脂との反応を抑えることを意図したものである。特に、エタノール等のウレタン樹脂表層部に浸透しやすい溶媒を用いることにより、金属不活性剤などをウレタン表層部に移行させ、保持効果を高めることができる。また、メンテナンス時に行う洗浄作業では、ベルト表面に付着している金属粉の除去もするので、金属イオンそのものを減少させることができる。酸化防止剤等も同様に作用する。
【0011】
<金属不活性剤>
金属不活性剤としては、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド(チバガイギー社製“IRGANOX”、MD 1024)あるいは2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Crompton社製 Naugard XL-1)などを用いることができる。
【0012】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (チバガイギー社製“IRGANOX”、1010FF)、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (チバガイギー社製“IRGANOX”、1035FF)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート (チバガイギー社製“IRGANOX”、1076DWJ)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド] (チバガイギー社製“IRGANOX”、1098)、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,C7-C9側鎖アルキルエステル (チバガイギー社製“IRGANOX”、1135)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート] (チバガイギー社製“IRGANOX”、245DWJ)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン (チバガイギー社製“IRGANOX”、3114)、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン (チバガイギー社製“IRGANOX”、3790)、N-フェニルベンゼンアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物 (チバガイギー社製“IRGANOX”、5057)、トリス(2,4-tert-ブチルフェニル)フォスファイト (チバガイギー社製“IRGAFOS”、168FF)、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン-6-イル]オキシ]エチル]アミン (チバガイギー社製“IRGAFOS”、12)、ビス[2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルエステル亜りん酸 (チバガイギー社製“IRGAFOS”、38)などを用いることができる。
<その他配合剤>
金属不活性剤や酸化防止剤の他、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などを添加することができる。
【0013】
<溶剤>
金属不活性剤を溶かすことができ、乾燥性が良く、ウレタン製ベルトに悪影響を及ぼさない溶媒であれば使用できる。
特に、ウレタンと親和性の高い溶剤ほど、金属不活性剤などの添加剤をウレタン中に浸透させることができ劣化防止については良い効果が期待できる。金属不活性剤或いは酸化防止剤の溶解媒体に要求される基本特性は、(1)金属不活性剤或いは酸化防止剤を溶解する溶剤、(2)洗浄後に長時間残留しない揮発性の高い溶剤、(3)ウレタンとの親和性のある溶剤を、備えていることが好ましい。これらの性質は、複数の溶媒を組み合わせて満足することも可能なので、単独の溶媒がすべてを満たす必要はない。
例えば、限定するものではないが、溶媒例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、などが挙げられる。
【0014】
[洗浄方法]
洗浄方法は、金属と接触する面を中心に洗浄液を用いて、拭きとり、浸漬などの手法に行うことができる。
金属害は、銅イオンがポリウレタン(特に エーテル成分)へアタックしてラジカルを発生させることにより、連鎖的に劣化が進行するものと考えられている。したがって、ウレタン製ベルトの表面に付着した銅などの金属成分を除去すること、銅などの金属とウレタンが直接接触する機会を少なくするためにベルト表面や表層部に金属不活性剤をリッチに付着させること、さらには、ベルト表層部に金属不活性剤を浸透させることが望ましい。
エタノールは、ウレタンを膨潤し、金属不活性剤をウレタン表層部へ移送し易いので適当な溶剤である。
【0015】
酸化防止剤を配合した洗浄剤による洗浄は、紫外線に暴露される部分に使用されるウレタン製ベルトに適用すると効果的である。酸化防止剤もウレタンベルト表面や表層部にリッチに付着させることによって、作用効果を発揮することができる。
【実施例】
【0016】
<ウレタン樹脂>
トリレンジイソシアナートおよびポリテトラメチレングリコづレからなるNCO%=4.2のウレタンプレポリマー100重量部に対しメチレンビス(o-クロロアニリン)12重量部、可塑剤を20重量部、有機脂肪酸を0.4重量部添加したウレタン配合を用いた。
【0017】
<ベルト>
ポリエステルからなる心線を抗張体とする背面が平坦なウレタンVベルトを成形した。
【0018】
<試験方法>
(1)実施例1
金属不活性剤(Ciba製IRGANOX MD−1024)の2wt%エタノール溶液を調整。
調整した金属不活性剤のエタノール溶液を紙ウエスに染みこませ、ウレタンVベルト背面を4回拭き取った。
このウレタンVベルトをφ15mmの銅パイプに背面がパイプに接するよう巻き付け、90゜Cに設定した送風穴乾燥機内で静置。
以降、1日毎にベルトをパイプから取り外して状態の確認と金属不活性剤のエタノール溶液での拭き取りを行った。
【0019】
(2)比較例1
金属不活性剤無添加のエタノールを用いた場合の比較例として、「金属不活性剤のエタノール溶液」の代わりに「エタノール」を用いた他は(1)と同じにした。
【0020】
(3)比較例2
拭き取りを行わなかった場合の比較例として、拭き取り作業を行わず、銅パイプヘ巻き付け、90℃放置、毎日確認を実施した。
【0021】
<結果>
比較例1および比較例2は2日後にクラックが発生したが、実施例1は2日後でクラック発生せず、8日後にクラックが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不活性剤及び/又は酸化防止剤を溶媒に溶解した洗浄剤を用いて、金属と接して使用されるウレタン製ベルトを洗浄することを特徴とするウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項2】
洗浄が、工場出荷前及び/又はメンテナンス時に伴い行われることを特徴とする請求項1記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項3】
ウレタン製ベルトが、ウレタン樹脂配合剤として金属不活性剤及び酸化防止剤を含まないことを特徴とする請求項1又は2記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項4】
ウレタン製ベルトが接する金属が、銅あるいは真鍮であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項5】
ウレタン製ベルトが接する金属が、銅あるいは真鍮を含有するプーリであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項6】
ウレタン製ベルトが、硬貨搬送用ベルトであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項7】
金属不活性剤が、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドあるいは、2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のウレタン製ベルトの洗浄方法。
【請求項8】
金属不活性剤及び/又は酸化防止剤を溶媒に溶解したことを特徴とするウレタン製ベルト洗浄剤。
【請求項9】
金属不活性剤が、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドあるいは、2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
であることを特徴とする請求項8記載のウレタン製ベルト洗浄剤。
【請求項10】
溶媒が、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランのいずれかであることを特徴とする請求項8又は9記載の洗浄剤。

【公開番号】特開2009−227823(P2009−227823A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75280(P2008−75280)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】