説明

エアゾール組成物

【課題】 潤滑性、防錆性及び浸透性を有するだけでなく、摺動部の微小なクリアランスに浸透して高い潤滑性を発揮することが可能なエアゾール状組成物を提供する。
【解決手段】 ベースオイルに少なくとも潤滑性向上剤及び防錆剤と低沸点炭化水素系溶剤とが配合されると共に、フラーレンなどの直径が0.7nmから200nmであるナノカーボン粒子を0.0002〜0.5質量%含有し、エアゾール状に噴霧して使用する潤滑・防錆・浸透性のエアゾール組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の摺動部などにエアゾール状に噴霧して、潤滑剤、防錆剤、浸透剤などとして使用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエアゾール製品には、潤滑性、防錆性あるいは浸透性などを目的としたものがあり、液状製品から固体潤滑剤を含む製品など様々であるが、使い勝手が良いため非常に多くの分野で利用されている。また、上記各性能のうち単一の性能を特に向上させたエアゾール製品、また複数の性能をバランスよく向上させたエアゾール製品も知られている。
【0003】
現在一般的に使用されている潤滑性、防錆性及び浸透性を兼ね備えたエアゾール製品は、汎用的に用いられ、安価であると言う利点がある。しかし、これらのエアゾール製品はオイル状であるため、潤滑性を特に必要とする箇所に使用することが難しい場合があった。そこで近年では、潤滑性、防錆性及び浸透性を備えながら、更に特定の性能に優れたエアゾール製品が提供されている。
【0004】
例えば、特開平01−103083号公報には、フッ素グリースをフッ素系希釈剤で希釈してエアゾール化したものが、細部への浸透性に優れる組成物として提案されている。しかし、このエアゾール組成物は、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いているため、金属同士の高荷重条件で要求される潤滑性が得られないという問題がある。また、グリース状組成物をエアゾール基剤として用いることから、フッ素系希釈剤が揮発した後の浸透性及び潤滑部位への再導入性が確保されないことも懸念される。
【0005】
また、特開2007−002290号公報には、防錆性向上添加剤を高濃度に配合することにより、高い防錆性を確保できるエアゾール組成物が記載されている。しかしながら、このエアゾール組成物は、粉末状又はペレット状の防錆性向上添加剤を含むために摺動部の微小なクリアランスに浸透することが難しく、十分な浸透性が確保されないという問題がある。
【0006】
更に、特開2000−033457号公報には、固体潤滑剤と有機樹脂成分を含み、潤滑性に優れるエアゾール組成物が記載されている。しかし、有機樹脂成分を含むため、その有機樹脂成分が乾燥した場合には、固体潤滑成分が微小な摺動部位に浸透することができず、要求される潤滑性が確保されないという問題がある。
【0007】
尚、潤滑性を特に向上させたオイル状のエアゾール製品は、オイル状ゆえに浸透性は要求される水準を満たしうる場合があるが、極圧添加剤などの潤滑性向上剤を多く配合しなければならないことから、摺動面及びその周辺の非鉄金属等を腐食させたり、鉄に錆を生じさせたりする可能性がある。
【0008】
一方、潤滑性を向上させるために、二硫化モリブデン(MoS)やグラファイトなどの固体潤滑剤を配合したエアゾール製品は、上述した特許文献にも記載されているように、配合した固体潤滑剤の効果により性能の向上が見られる。しかしながら、その固体潤滑剤の分散状態や粒子系によっては、摺動面などの潤滑部位の微小なクリアランスに浸透し難いという欠点がある。
【0009】
【特許文献1】特開平01−103083号公報
【特許文献2】特開2007−002290号公報
【特許文献3】特開2000−033457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、優れた潤滑性、防錆性及び浸透性を有するだけでなく、摺動部の微小なクリアランスに浸透することが可能であり、高い潤滑性を発揮することができる、エアゾール製品として好適なエアゾール組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供するエアゾール組成物は、エアゾール状に噴霧して使用する潤滑・防錆・浸透性の組成物であって、ベースオイルに少なくとも潤滑性向上剤及び防錆剤と低沸点炭化水素系溶剤とが配合されると共に、直径が0.7nmから200nmであるナノカーボン粒子を0.0002〜0.5質量%含有していることを特徴とする。
【0012】
上記本発明によるエアゾール組成物において、前記ナノカーボン粒子は、フラーレン、カーボンナノチューブ、ナノダイヤからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、更には、前記フラーレンはC60及び/又はC70であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オイル状であって且つフラーレン等のナノカーボン粒子を配合することで、非常に微小なクリアランスにも浸透することができるため、優れた潤滑性と防錆性と共に、優れた浸透性をも同時に兼ね備えたエアゾール組成物を提供することができる。従って、本発明のエアゾール組成物は、エアゾール状に噴霧して使用することで簡単に適用でき、通常の摺動部への使用だけでなく、更に微小なクリアランスを有する摺動部や防錆対象物への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のエアゾール組成物は、一般的なエアゾール製品に用いられている浸透性を考慮したベースオイルに、潤滑性向上剤及び防錆剤を配合し、更に浸透性を向上させるため低沸点炭化水素系溶剤を配合すると共に、フラーレンなどの直径がナノサイズの微小なナノカーボン粒子が配合されている。従って、通常の摺動部よりも微小なクリアランスにも浸透して、優れた潤滑性や防錆性を発揮するものである。
【0015】
フラーレンは1985年に発見され、1991年に米国のATTベル研究所がフラーレンにカリウムを添加して超伝導を作り出してから、その特徴が注目を集めている。フラーレンには、C60と呼ばれる炭素数60のサッカーボール型の構造をした物質をはじめ、C70、C76、C78、C240、C540などの高次の構造を持った物質が存在する。また、フラーレンは、電気的特性、水素吸蔵特性、機械的特性、光学的特性といった性能を有しており、これらの特性を利用してリチウムイオン電池、燃料電池用水素貯蔵、次世代ディスプレイ、キャパシタ、耐摩耗材料、抗がん剤、エイズ治療薬など、広範囲な分野への応用が期待されている。
【0016】
本発明においてフラーレンのようなナノカーボン粒子に注目したのは、その多機能性と球状構造である。ナノカーボン粒子は、直径がナノサイズ(ナノメートルのオーダー)という非常に小さい構造を有しており、例えば、フラーレンのC60の直径は約0.7nmである。このようにナノサイズのナノカーボン粒子は、極めて微小なクリアランスにも浸透することができ、その摺動面において回転することで特に優れた潤滑性を発揮するものと考えられる。
【0017】
本発明のエアゾール組成物で用いるナノカーボン粒子としては、上記したフラーレンのほかに、カーボンナノチューブ、ナノダイヤがあり、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのナノカーボン粒子の中では球状構造のフラーレンが好ましく、フラーレンの中でもC60(炭素数60)あるいはC70(炭素数70)が特に好ましい。
【0018】
本発明のエアゾール組成物中におけるナノカーボン粒子の配合量は、組成物全体の0.0002〜0.5質量%であることが好ましく、0.0004〜0.2質量%が更に好ましい。ナノカーボン粒子の配合量が0.0002質量%未満では、目的とする潤滑性が得られない。また、配合量が0.5質量%を超えると、エアゾール組成物中での沈降が懸念されるため、再分散性を考慮する必要がることに加え、原価のコストアップとなるため好ましくない。
【0019】
また、ナノカーボン粒子の直径は、0.7nmから200nmの範囲が好ましい。エアゾール組成物に配合された状態のナノカーボン粒子は、通常は凝集した状態で分散していることが多く、凝集が大きくなり過ぎると、微小なクリアランスに浸透して潤滑特性を発揮する効果が得られなくなる恐れがある。そのため、エアゾール組成物中におけるナノカーボン粒子の凝集が懸念される場合には、再分散させた上で使用することが望ましい。
【0020】
本発明のエアゾール組成物に用いるベースオイルとしては、パラフィン系やナフテン系などの鉱物油のほか、合成炭化水素(PAO)、合成エステル油、エーテル油、ポリアルキレングリコール油(PAG)、シリコーンオイル、フッ素オイル、動植物油などから適宜選択することができる。また、低沸点炭化水素系溶剤としては、浸透性の向上のために一般的に使用されているものであれば任意に選択して使用できる。例えば、第一石油類や第二石油類のパラフィン類などを用いることができる。
【0021】
また、潤滑性向上剤としては、二硫化モリブデン(MoS)やグラファイトなどの通常の固体潤滑剤や、油性向上剤、極圧添加剤、摩擦調整剤などを適宜配合することができる。更に、防錆剤についても、一般的に使用されている成分を任意に選択して配合することができる。尚、上記した潤滑性向上剤、防錆剤及び低沸点炭化水素系溶剤の配合量は、それぞれ要求される性能に応じて任意に定めることができる。
【0022】
本発明のエアゾール組成物には、上記した潤滑性向上剤及び防錆剤以外にも、従来から潤滑組成物などに通常配合されている添加剤、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、ハードケーキ防止剤、沈降防止剤、その他各種の添加剤を任意に選択して配合することができる。尚、これら各種の添加剤の配合量についても、それぞれ要求される性能に応じて任意に定めることができる。
【0023】
更に、本発明のエアゾール組成物は、エアゾール状に噴霧するための噴射剤を含むものである。噴射剤としては、上記ベースオイルなどの各成分と相溶するものであれば良く、エアゾール製品に一般的に使用されているもの、例えば、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテルなどの液化ガス、炭酸ガスや窒素ガスなどの圧縮ガスを使用することができる。尚、噴射剤の比率は、要求される性能に応じて任意に選択することができる。
【0024】
本発明のエアゾール組成物は、エアゾール缶に充填して市販される。エアゾール缶及びバルブやボタンについては、目的とする性能を確保するため、任意に選択することができる。例えば、エアゾール缶としては、エアゾール製品の荷姿として一般的な20mlから1リットルの缶体がある。また、バルブやボタンについては、使用用途に応じて、どの角度でも噴射可能なバルブ及び噴射状態を確保するためのボタン等を任意に選択することが可能である。
【実施例】
【0025】
ベースオイルとして高精製鉱油である出光興産(株)製のダイアナフレシアW−90(商品名)を用い、低沸点炭化水素系溶剤として日本油脂(株)製のNAS−3(商品名)と、ナノカーボン粒子としてフロンティアカーボン(株)製のフラーレンであるナノムミックス(nanom mix)ST−F(商品名;C60/C70の混合物)を配合すると共に、その他添加剤として一般的に使用されている酸化防止剤、防錆剤、潤滑性向上剤、腐食防止剤を選択して配合した。
【0026】
その際、上記した各成分の配合組成(質量%)を変え、試料1〜4の各オイル状基液組成物を得た。また、ナノカーボン粒子を含まない以外は上記と同様にして、試料5の各オイル状基液組成物を得た。これらのオイル状基液組成物に噴射剤として液化石油ガスを加え、それぞれ下記表1に示す組成を有する試料1〜5のエアゾール組成物を製造した。
【0027】
【表1】

【0028】
上記した試料1〜5の各エアゾール組成物について、潤滑性、浸透性及び防錆性の評価試験を実施し、得られた結果を下記表2に示した。尚、潤滑性、浸透性及び防錆性の評価試験において、下記する評価基準はいずれも、従来から一般的とされている基準よりも厳しい基準に設定した。
【0029】
即ち、潤滑性試験は、SRV試験機を使用し、品番SUJ−2の試験片を用いて、試験荷重400N、試験温度100℃、摺動速度50Hz、振幅幅1.5mmの条件で実施した。潤滑性の評価基準は、得られた摩擦係数が0.10以下のものを◎、0.10を超え0.14未満のものを△、0.14以上のものを×とした。
【0030】
また、浸透性試験は、硝子板浸透性試験により実施した。即ち、50mm×50mm×0.5mmの2枚の透明な硝子板を約2cmずらして重ね合わせ、クリップで固定した後、2枚のガラス板の段差に向けてエアゾールを噴霧し、室温にて10分経過後に、2枚の硝子板の間に浸透したエアゾールの最も長い距離を測定して浸透距離とした。浸透性の評価基準は、浸透距離が14cm以上のものを◎、10cmを超え14cm未満のものを△、10cm以下のものを×とした。
【0031】
更に、防錆性試験は、JIS Z2371に準拠した塩水噴霧試験により実施した。即ち、JIS Z2371に準拠して試験片を準備し、設定した塗布方法によりエアゾール組成物を均一に塗布して試験をおこなった。防錆性の評価基準は、50%発錆時間が120h以上のものを◎、48hを超え120h未満のものを△、48h以下のものを×とした。
【0032】
【表2】

【0033】
上記の結果から、本発明のエアゾール組成物である試料1〜3は、摩擦係数が0.10以下、浸透距離が14cm以上、50%発錆時間が120h以上であり、潤滑性、浸透性及び防錆性の全てについて優れた性能を兼ね備えていることが分かった。
【0034】
一方、比較例である試料4は、ナノカーボン粒子の配合量が少な過ぎるため、浸透性と防錆性には優れていたが、潤滑性は一般的な水準に止まった。また、試料5では、ナノカーボン粒子を全く含まないため、潤滑性、浸透性及び防錆性のいずれもが一般的な水準である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール状に噴霧して使用する潤滑・防錆・浸透性の組成物であって、ベースオイルに少なくとも潤滑性向上剤及び防錆剤と低沸点炭化水素系溶剤とが配合されると共に、直径が0.7nmから200nmであるナノカーボン粒子を0.0002〜0.5質量%含有していることを特徴とするエアゾール組成物。
【請求項2】
前記ナノカーボン粒子が、フラーレン、カーボンナノチューブ、ナノダイヤからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のエアゾール組成物。
【請求項3】
前記フラーレンが、C60及び/又はC70であることを特徴とする、請求項2に記載のエアゾール組成物。

【公開番号】特開2009−215483(P2009−215483A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62300(P2008−62300)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】