説明

エアゾール組成物

【課題】本発明は、エアゾール組成物の一成分にテトラフルオロプロペンを使用したときに、エアゾール組成物からの噴射物が噴射対象物に付着しやすくするエアゾール組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のエアゾール組成物は、テトラフルオロプロペンと、ジメチルエーテル、二酸化炭素、プロパンの群から選ばれる液化ガスとを含むことを特徴とする。テトラフルオロプロペンは、例えば、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体又はシス体、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペンである。本発明のエアゾール組成物は、比較的安全に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射した際に噴射物が対象物に付着しやすく、対象物を蒸発潜熱により冷却させるエアゾール組成物、特には、対象物を虫とした場合に蒸発潜熱により虫を致死させるエアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、殺虫薬剤の安全性への懸念から殺虫薬剤の使用量が少ない殺虫スプレー向けのエアゾール組成物が検討されている。特許文献1では、ジメチルエーテルとの水との凍結体を形成するエアゾール組成物を利用し冷却により虫を致死させる発明が開示されている。
【0003】
また、特許文献4では、ペンタンと、沸点が0℃以下且つ20℃における蒸気圧が0.3MPa以下の液化ガスに加え、ペンタンの空気中での気化を抑制する成分を含むエアゾール組成物を利用し冷却により虫を致死させる発明が開示されている。特許文献5には樹脂組成物、溶剤及び噴射剤を含むドクガ類防除用エアゾールが開示されている。このエアゾールを使用して葉面上のドクガ類の幼虫を樹脂組成物で固着または粘着捕獲し、葉切除を行うことが開示されている。
【0004】
他方、特許文献2及び3では、噴射剤として20未満の低GWP値を有するテトラフルオロプロペン(例えば、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体の場合、GWP値は6)を含むエアゾールが開示されている。
【特許文献1】特開2004−168948号公報
【特許文献2】特表2007−535611号公報
【特許文献3】国際公開2007/24664号のパンフレット
【特許文献4】国際公開2008/81751号のパンフレット
【特許文献5】特開2005−333974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアゾールからの噴射物が対象物を持続的に冷却させるためには、蒸発(気化)して対象物の熱を奪う成分(以降、「冷却成分」と表記する場合あり)を対象物に付着させる必要がある。特に対象物が虫の場合、虫の熱を奪うことで冷却して致死させようとしても、対象物への冷却成分の付着が十分でなく、虫の周囲の温度が急速に冷却されただけでは、虫が一時的に仮死状態となるだけで、十分な殺虫効果を発揮させることが難しい。
【0006】
他方、エアゾールからの噴射物は、大気中に放出されることになるで、エアゾール組成物に含まれる化合物には環境負荷の小さい、例えば、GWP値の低いものを使用する必要がある。特許文献2及び3では、噴射剤として低GWP値を有するテトラフルオロプロペンを含むエアゾールが開示されている。この場合、噴射剤の気化時に蒸発潜熱により噴射される対象物の周囲環境が冷却されることがあっても、冷却成分の対象物への付着が十分ではなく、対象物を持続的に冷却させることが難しく、対象物が虫の場合は、十分な殺虫効果を得ることが難しい。
【0007】
本発明は、エアゾール組成物の一成分にテトラフルオロプロペンを使用したときに、エアゾール組成物からの噴射物が噴射対象物に付着しやすくするエアゾール組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエアゾール組成物は、テトラフルオロプロペンと、ジメチルエーテル、二酸化炭素及びプロパンの群から選ばれる少なくとも一つの液化ガスとを含むことを特徴とする。
【0009】
テトラフルオロプロペンは、例えば、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体(大気圧下での沸点が−19℃)、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのシス体(大気圧下での沸点が9℃)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(大気圧下での沸点が−27℃)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(大気圧下での沸点が2℃)である。
【0010】
これらテトラフルオロプロペンは、微燃または難燃性であり安全性は高いとの利点を発揮する。さらには、GWP100がいずれも10未満で、ペンタン等の炭化水素類に匹敵する値であり、地球温暖化に及ぼす影響はきわめて小さいものである。その中でもテトラフルオロプロペンが、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体が好ましい。さらには噴射特性の観点から前記中沸点が0℃未満のものを選択することが好ましい。
【0011】
ジメチルエーテルの大気圧下での沸点は、−23.6℃、二酸化炭素の大気圧下での沸点は−78℃、プロパンの大気圧下での沸点は−42℃であり、ジメチルエーテルと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの組合せを除いて、ジメチルエーテル又は二酸化炭素若しくはプロパンの方が、エアロゾール組成物から蒸発しようとする力(蒸気圧)が大きいので、これらより低沸点の物質は主たる噴射剤として機能する。
【0012】
テトラフルオロプロペンは噴射剤として機能するジメチルエーテル又は二酸化炭素若しくはプロパンに押し出されるようにして微小な液滴状で対象物に付着し冷却成分として機能する。そして、テトラフルオロプロペンか気化していくことによって、対象物から熱を奪い、対象物を冷却する。
【0013】
ジメチルエーテルと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの組合せの場合、前記したものと逆に作用し、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが主の噴射剤として機能し、ジメチルエーテルが冷却成分として機能する。
【0014】
前記テトラフルオロプロペンの中では、対象物への付着性と付着後の冷却効率の観点、そして、GWP値の低さから1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体を使用することが好ましい。
【0015】
また、本発明のエアゾール組成物は、エアゾール組成物からの噴射物の対象物への付着性を向上させるために、さらに、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂及びα−澱粉からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むものとしてもよい。これらの樹脂はいずれも生分解性が高く環境に対する負荷が小さいものである。
【0016】
同様の観点から、さらに、炭素数1〜3の低級アルコール、界面活性剤(好ましくは非イオン性界面活性剤)及び炭素数10以上の高級アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つを含むものとしてもよい。
【0017】
前記樹脂、前記アルコール、前記界面活性剤を含有することで、これらが冷却成分を含んで対象物にゼリー状、又はシャーベット状に付着し、対象物を持続的に冷却することに奏功するので好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の好ましい態様のエアゾール組成物を用いて対象物を噴射すると、冷却成分の蒸発潜熱により対象物を効率的に冷却することができる。特に噴射の対象物を、虫とした場合は、虫を蒸発潜熱により殺虫薬剤を使用せずに虫を致死させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のエアゾール組成物中に含まれるテトラフルオロプロペン(以下、「A成分」と表記する場合がある)と、ジメチルエーテル、二酸化炭素及びプロパンの群から選ばれる液化ガス(以下、「B成分」と表記する場合がある)とは、その合計量がエアゾール組成物中で、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは75〜99.8質量%、さらに好ましくは80〜99.5質量%である。
【0020】
A成分の沸点がB成分の沸点より高い場合、A成分/B成分の質量比は、5/95〜75/25、好ましくは20/80〜50/50とすることが好ましい。A成分の質量比が5/95より小さい場合、A成分は冷却成分として冷却対象物を十分冷却しないことがある。他方、A成分が質量比で75/25超では、噴射距離が十分に得られないことがある。
【0021】
A成分の沸点がB成分の沸点より低い場合、例えば、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(A成分)とジメチルエーテル(B成分)との組合せの場合、B成分/A成分の質量比は、5/95〜75/25、好ましくは20/80〜50/50とすることが好ましい。B成分の質量比が5/95より小さい場合、B成分が冷却成分として冷却対象物の十分冷却しないことがある。他方、B成分が質量比で75/25超では、噴射圧が高いものとなりやすい。噴射圧が高いと、対象物が蚊のように軽いものの場合に、対象物を吹き飛ばしてしまうこともある。
【0022】
本発明のエアゾール組成物に含まれることのあるポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂、α−澱粉(以下、これらを「C成分」と表記する場合がある)は、エアゾール組成物中に0.05〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%含ませてもよい。C成分が20質量%超では、エアゾール組成物からの噴射物が吹き付けられ対象物や、意図せずに吹き付けられた物に、C成分が過度に付着し、後での清掃に手間がかかるようになる。
【0023】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は、200〜6000、好ましくは400〜3000である。また、前記ポリビニルピロリドンの数平均分子量は、500〜40000、好ましくは1000〜10000である。さらには、前記ポリビニルアルコールの数平均分子量は、1000〜50000、好ましくは2000〜10000である。
【0024】
本発明のエアゾール組成物に含まれることのある炭素数1〜3の低級アルコール、界面活性剤、炭素数10以上の高級アルコール(以下、これら組成物を「D成分」と表記することがある。)は、エアゾール組成物中に0.05〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%含ませてもよい。0.05質量%未満では、冷却対象物にシャーベット状に付着させる効果が低く、30質量%超では、対象物の冷却効果が小さくなることがある。
【0025】
前記炭素数1〜3の低級アルコールは、直鎖状又は分岐鎖状のアルコールであり、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、又はこれらの混合物等が例示される。
【0026】
界面活性剤には、非イオン性のもの、陰イオン性のもの、陽イオン性のもの、又は両イオン性のものが使用され、例えば、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン等が例示される。
【0027】
炭素数10以上の高級アルコールは、直鎖状又は分岐鎖状のアルコールであり、オクタノール、ノニルアルコール、デカノール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリンアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等が例示される。
【0028】
また、炭素数1〜3の低級アルコール、界面活性剤、炭素数10以上の高級アルコールの中から複数採用し、例えば、炭素数1〜3の低級アルコールと界面活性剤との組成物、炭素数1〜3の低級アルコールと炭素数10以上の高級アルコールとの組成物としてもよい。 この場合、低級アルコール/<界面活性剤又は高級アルコール>の質量比は、例えば、1/1〜10/1、好ましくは2/1〜5/1とされる。
【0029】
本発明の前記に挙げた成分の他に本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤、香料、消臭剤、着色剤、水等が加えられることがある。また、噴射対象物が敏捷性の大きな虫等の場合、殺虫効果を増強するために本発明の殺虫用エアゾール組成物は、さらに殺虫薬剤等を微量含むことがある。
【0030】
また、エアゾール組成物の各種用途に応じて、各用途に対応する有効成分が導入されることもある。
【0031】
溶剤としては、前記D成分の一要素としてあげた低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が導入されることがある。
【0032】
本発明のエアゾール組成物は、周知の方法により、エアゾール容器に充填し、エアゾールとされる。充填されたエアゾールは、25℃において、好ましくは0.1〜0.7MPa、より好ましくは0.2〜0.6MPaに調整され、ガス状にあったものは液化される。
【0033】
エアゾール容器は、汎用の容器を適宜使用され、ブリキ、ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム、ポリエチレンテレフタレート等による容器が使用され、噴射装置部のバルブは、ベーパータップ径が0.001〜0.3mm、ステム径・ハウジング径が0.5mm以上のものが好ましい。また、噴射装置部のボタンは、噴射口径が0.3mm以上のもので、メカニカルブレークアップ機構が付いていないストレート噴射タイプのものや、噴射口が複数あるものであってもよい。また、噴射ノズルを有するものとしてもよい。
【0034】
噴射対象物が虫の場合、虫の具体例としては、蚊、ハエ、蛾、虻等の飛翔性虫、ゴキブリ、ダニ、蚤、虱、蟻等の家屋害虫、コクゾウムシ、コクヌスト等の貯穀害虫等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明では、エアゾール組成物からの噴射物を対象物に付着させ蒸発潜熱により対象物を冷却する。この原理を活用することで、虫を致死させる殺虫剤以外に、瞬間冷却剤、冷却スプレー、剥離剤等に活用してもよい。
【実施例】
【0036】
表1に示した組成の各成分を噴射口径が1.58mmφ、噴射量が2.65g/秒のエアゾール容器に充填してエアゾールを調製し、以下の評価を行った。
【0037】
<噴射特性と殺虫効果の評価>
金網(4mm目)で作製された直径45mm、高さ30mmの円筒にクロゴキブリの雌成虫を1匹放入れ、同じ金網で作製された蓋をする。ゴキブリに対して50〜60cmの距離からクロゴキブリに向けてエアゾールを5秒間噴射した。これを5回繰り返した。
【0038】
5回ともクロゴキブリが致死したものを「優」、1回でもクロゴキブリが致死したものを「良」、クロゴキブリが致死しなかったものを「不」として評価した。結果を表1に合わせて示す。
【0039】
また、この評価時に合わせて、エアゾールに噴射状態を確認した。この評価結果を合わせて表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロプロペンと、ジメチルエーテル、二酸化炭素及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも一つの液化ガスとを含むことを特徴とするエアゾール組成物。
【請求項2】
テトラフルオロプロペンが、1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのトランス体またはシス体であることを特徴とする請求項1に記載のエアゾール組成物。
【請求項3】
さらに、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、シリコーン樹脂及びα−澱粉からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエアゾール組成物
【請求項4】
さらに、炭素数1〜3の低級アルコール、界面活性剤及び炭素数10以上の高級アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエアゾール組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のエアゾール組成物を含む殺虫用エアゾール組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のエアゾール組成物からの噴射物を虫に付着させ蒸発潜熱により虫を致死させることを特徴とする殺虫方法。

【公開番号】特開2010−77033(P2010−77033A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244365(P2008−244365)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】