説明

エアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キット

【課題】高い精度で所望の色合いに調色されたエアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キットを提供すること。
【解決手段】本発明のエアゾール缶の製造方法は、エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための液体注入装置2を用いて、複数種類の原色充填用エアゾール缶3に対して、それぞれ、原色塗料を充填する工程(ステップS4)と、液体注入装置2を用いて、複数種類の原色充填用エアゾール缶3に対して、それぞれ、空気を充填し、各原色充填用エアゾール缶3内の内部気圧を1気圧よりも大きくする工程(ステップS6)と、空気及び原色塗料が充填された各原色充填用エアゾール缶3から、原色塗料を所望量だけ噴出させ、混合塗料を得る工程(ステップS9)と、液体注入装置2を用いて、混合塗料を、圧縮ガスが充填済みの調色充填用エアゾール缶6に充填する工程(ステップS10)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キットに関し、より特定的には、所望の色合いに調色された塗料が充填されたエアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮ガスが充填済みのエアゾール缶に対して、所望の色合いに配色した調色済みの塗料を充填するための装置として、特許文献1〜3に開示されている注入装置がある。
【特許文献1】特許第3273251号公報
【特許文献2】特許第4148711号公報
【特許文献3】特許第4145347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
たとえば、自動車用の補修塗料を調色して、エアゾール缶に充填し、傷などの補修に使用する場合、少しでも色合いが実際のボディの色と異なれば、ムラが生じることとなり、好ましくない。そのため、調色の精度は高くなければならない。自動車用の補修塗料の場合、原色の配合比率は、1/10〜1/100グラム単位であることが多い。しかし、実際の作業現場において、1/10〜1/100グラム単位で調色するのは困難である。このことは、自動車用の補修塗料に限らずに言えることである。
【0004】
それゆえ、本発明の目的は、高い精度で所望の色合いに調色されたエアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような特徴を有する。本発明は、色が異なる複数種類の原色塗料を混合した混合塗料を、圧縮ガスが予め充填されているエアゾール缶に充填して、調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造するための方法であって、エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための液体注入装置を用いて、複数種類の原色充填用エアゾール缶に対して、それぞれ、原色塗料を充填する工程と、液体注入装置を用いて、複数種類の原色充填用エアゾール缶に対して、それぞれ、空気を充填し、各原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を1気圧よりも大きくする工程と、空気及び原色塗料が充填された各原色充填用エアゾール缶から、原色塗料を所望量だけ噴出させ、混合塗料を得る工程と、液体注入装置を用いて、混合塗料を、圧縮ガスが充填済みの調色充填用エアゾール缶に充填する工程とを備える。
【0006】
好ましくは、各原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を1気圧よりも大きくする工程では、各原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を、略5気圧以下とするとよい。
【0007】
好ましくは、原色充填用エアゾール缶及び/又は調色充填用エアゾール缶におけるステムの内壁は、一段下がっているとよい。
【0008】
また、本発明は、色が異なる複数種類の原色塗料を混合した混合塗料を、圧縮ガスが予め充填されているエアゾール缶に充填して、調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造するためのエアゾール缶製造キットであって、エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための液体注入装置と、液体注入装置を用いて、原色塗料及び1気圧以上の空気が充填される複数の原色充填用エアゾール缶と、空気及び原色塗料が充填された各原色充填用エアゾール缶から、原色塗料を所望量だけ噴出させて得た混合塗料を、液体注入装置を用いて、充填される調色充填用エアゾール缶とを備え、調色充填用エアゾール缶は、圧縮ガスが充填済みである。
【0009】
好ましくは、原色充填用エアゾール缶及び/又は調色充填用エアゾール缶におけるステムの内壁は、一段下がっているとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気が充填されて内部気圧が1気圧よりも大きくなった原色充填用エアゾール缶が得られる。したがって、原色充填用エアゾール缶に取り付けられた噴射用ボタンを押す力を調整することによって、噴出される原色塗料の量を微調整することが可能となる。そのため、所望の分量で配合された混合塗料が得られる。当該混合塗料は、液体注入装置を用いて、圧縮ガスが充填されている調色充填用エアゾール缶に充填される。よって、高い精度で所望の色合いに調色された塗料が充填されたエアゾール缶が提供されることとなる。
【0011】
また、原色充填用エアゾール缶は、密閉された状態であるので、原色塗料に含まれる溶剤の揮発を防止することが可能となる。したがって、原色塗料が元々入っていた容器に、原色塗料を保管している場合と比べ、原色塗料に含まれる溶剤と色成分との割合を、原色塗料が製造された段階のまま保持しておくことが可能となる。そのため、調色時に、溶剤の揮発による配合精度の低下を防止することができる。よって、高い精度で所望の色合いに調色された塗料が充填されたエアゾール缶が提供されることとなる。
【0012】
原色充填用エアゾール缶の内部気圧を1気圧よりも大きく略5気圧以下とすれば、原色塗料の噴出を微調整することが可能となる。好ましくは、原色充填用エアゾール缶の内部気圧を略2気圧以上略4気圧以下とすれば、原色塗料の噴出量をより微調整しやすくなる。
【0013】
原色充填用エアゾール缶及び/又は調色充填用エアゾール缶におけるステムの内壁を一段下げることによって、液体注入装置の注入口先端がステムの内側に入ることとなるので、注入口先端から塗料が漏れることを防止することができる。
【0014】
本発明のこれらおよび他の目的、特徴、局面、効果は、添付図面と照合して、以下の詳細な説明から一層明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態で用いられるエアゾール缶製造キット1を示す図である。図1において、エアゾール缶製造キット1は、液体注入装置2と、原色充填用エアゾール缶3と、容器4と、重量計測器5と、調色充填用エアゾール缶6とを備える。
【0016】
液体注入装置2は、エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための装置である。液体注入装置2は、特許第4148711号公報に開示されている液体注入装置である。液溜め部24は、エアゾール缶に充填したい塗料を収容するための部材である。レバー21を回転させることによって、ピストン22が押し下がる。ピストン22は、液溜め部24の内壁に密閉する大きさを有している。ピストン22が押し下がることによって、液溜め部24に収容されている塗料が、注入口先端26から押し出される。液溜め部24は、シリンダ幅調整筒29及びシリンダ台23を貫通している。シリンダ幅調整筒29の内部にバネ(図示せず)が入っており、ピストン22が押し下がると、液溜め部24が間隙28だけ押し下がり、ピストン22の押し下げが解除されると液溜め部24が押し上がる構造になっている。エアゾール缶は、そのステム30が注入口先端26と当接するように、台27に載置される。液溜め部24が押し下がることによって、注入口先端26がステム30を押し下げ、エアゾール缶のバルブが解放する。これにより、コック25を開いて、液溜め部24に収容されている塗料をエアゾール缶に充填することができる。
【0017】
原色充填用エアゾール缶3は、圧縮ガス及び塗料が充填されていない空のエアゾール缶である。原色充填用エアゾール缶3は、複数存在する。容器4は、原色塗料を混合した混合塗料を入れるための容器である。重量計測器5は、容器4に入れられる塗料の重量を計測するための計りである。調色充填用エアゾール缶6は、圧縮ガスが充填済みのエアゾール缶である。本実施形態で用いられるエアゾール缶の構造としては、周知のあらゆるエアゾール缶の構造を用いることができる。
【0018】
図2は、所望の色合いに調色された調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造する際の工程図である。以下、図2を参照しながら、調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造する工程について説明する。
【0019】
まず、配合原色比率表などを閲覧して、原色の配合比率を決定する(ステップS1)。次に、使用する複数種類の原色塗料を準備する(ステップS2)。次に、準備された複数種類の原色塗料を充填するための原色充填用エアゾール缶3を準備する(ステップS3)。次に、液体注入装置1の液溜め部24に1種類の原色塗料を収容して、1本の原色充填用エアゾール缶3に対して、当該原色塗料を充填する(ステップS4)。原色充填用エアゾール缶3に対して充填される原色塗料の量は、調色に必要な量を考慮して、適宜決定される。再利用を考慮して、原色充填用エアゾール缶3に対して、多めの原色塗料が充填されてもよい。
【0020】
1本の原色充填用エアゾール缶3に対して、1種類の原色塗料の充填が完了した後、液体注入装置2の液溜め部24を洗浄したり、交換したりして、再び、ステップS4の工程に戻る(ステップS5)。調色に必要な全ての原色に対して、原色充填用エアゾール缶3への充填が完了したら、ステップS6の工程に進む。
【0021】
ステップS6において、原色が充填済みのそれぞれの原色充填用エアゾール缶3に対して、液体注入装置1を用いて、空気を充填する。この際、液体注入装置1の液溜め部24には、塗料などを入れずに、空気のみを入れておく。したがって、液体注入装置1は、原色充填用エアゾール缶3のバルブを押し下げて、原色充填用エアゾール缶3に空気を充填することとなる。また、レバー21を複数回押し下げて、所望量の空気を原色充填用エアゾール缶3に充填する。原色充填用エアゾール缶3に充填される空気は、原色充填用エアゾール缶3の内部気圧が1気圧よりも大きくなる量であればよい。好ましくは、原色充填用エアゾール缶3の内部気圧は、1気圧よりも大きくかつ略5気圧以下であればよい。より好ましくは、原色充填用エアゾール缶3の内部気圧は、略2気圧以上略4気圧以下であればよい。
【0022】
次に、圧縮空気及び原色塗料が充填された各原色充填用エアゾール缶3に対して、細長いノズルが取り付けられた噴射用ボタン(図示せず)が取り付けられる(ステップS7)。
【0023】
次に、重量計測器5の上に容器4を載置する(ステップS8)。次に、圧縮空気及び原色塗料が充填された各原色充填用エアゾール缶3の噴射ボタン(図示せず)を押して、所望の量の原色塗料を噴出させる(ステップS9)。この際、各原色充填用エアゾール缶3の内部気圧は、1気圧よりも大きい、好ましくは、略5気圧以下であるので、噴射ボタンをゆっくり押せば、内部の原色塗料が一滴単位で噴出される。したがって、必要な配合量を高い精度で容器4内に入れることが可能となる。また、原色充填用エアゾール缶3は、密閉されているので、内部の原色塗料のための溶剤が気化することが防止される。したがって、溶剤の気化によって、使用分量に比した色合いの相違という問題も生じなくなる。
【0024】
ステップS9において、必要な原色塗料が容器内に入れられて、原色塗料を混合した混合塗料が得られる。次に、液体注入装置1の液溜め部24に当該混合塗料を入れ、圧縮ガスが充填済みの調色充填用エアゾール缶6を適切にセットして、当該混合塗料を調色充填用エアゾール缶6に充填する(ステップS10)。これにより、調色済みの塗料が充填されたエアゾール缶が製造されることとなる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、内部気圧が1気圧よりも大きくなるように空気が充填された色充填用エアゾール缶を用いて、配合に必要な塗料の量を微調整することができる。したがって、高い精度で所望の色合いに調色された混合塗料が得られる。当該混合塗料が、液体注入装置を用いて、圧縮ガスが充填された調色充填用エアゾール缶に充填される。よって、高い精度で所望の色合いに調色されたエアゾール缶の製造方法及びエアゾール缶製造キットが提供されることとなる。
【0026】
なお、原色充填用エアゾール缶の内部気圧が1気圧以下となり、原色塗料が噴出しなくなったら、再度、液体注入装置を用いて、原色充填用エアゾール缶に空気を充填すれば、原色充填用エアゾール缶の内部気圧が1気圧よりも大きくなるので、原色塗料の噴出が可能となる。
【0027】
なお、本発明で用いられる液体注入装置は、上記の例に限られるものではない。たとえば、特許第4145347号公報に開示されているように、トリガータイプのピストン押進機構を備える液体充填装置であってもよい。すなわち、エアゾール缶のバルブを解放して、液体をエアゾール缶に充填することができる装置であれば、如何なる液体注入装置であっても、本発明に利用することが可能である。
【0028】
なお、本発明で用いられる原色充填用エアゾール缶及び/又は調色充填用エアゾール缶のステムは、塗料が充填しやすいように、内壁が一段下がっているとよい。ステムは、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよいし、特に原材料は限定されない。図3は、内壁が一段下がったステム30及び液体注入装置26の注入口先端26の構造を示す拡大断面図である。図3に示すように、ステム30の先端は、内壁が一段下がるように、堀込まれており、段差部31を有する。これにより、注入口先端26の注入路26aがステム30の内部に入ることとなるので、塗料の漏れが格段に防止される。
【0029】
(実施例)
特許第4148711号公報に開示されている液体注入装置を用いて、原色充填用エアゾール缶及び調色充填用エアゾール缶を製造した。液溜め部の内容量は、約40mlとした。内容量が300mlの原色充填用エアゾール缶に対して、原色塗料を200ml注入した。さらに、液溜め部内の空気を5回または6回分、すなわち、200mlの空気または240mlの空気を液体注入装置を用いて、原色充填用エアゾール缶に充填した。これにより、内部の空気が約3倍または約3.4倍に圧縮されたこととなるので、内部気圧が約3気圧または約3.4気圧の原色充填用エアゾール缶が得られた。
【0030】
また、内容量が330mlの原色充填用エアゾール缶に対して、原色塗料を250ml注入した。さらに、液溜め部内の空気を5回または6回分、すなわち、200mlの空気または240mlの空気を液体注入装置を用いて、原色充填用エアゾール缶に充填した。これにより、内部の空気が約3.5倍または約4倍に圧縮されたこととなるので、内部気圧が約3.5気圧または約4気圧の原色充填用エアゾール缶が得られた。
【0031】
これらの原色充填用エアゾール缶を用いて、原色塗料を噴射したところ、1滴単位で原色塗料を噴射することが可能となり、精度良く混合塗料を得ることができ、所望の配合率に調色された調色充填用エアゾール缶が得られた。
【0032】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、塗装業等の産業分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態で用いられるエアゾール缶製造キット1を示す図
【図2】所望の色合いに調色された調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造する際の工程図
【図3】内壁が一段下がったステム30及び液体注入装置26の注入口先端26の構造を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0035】
1 エアゾール缶製造キット
2 液体注入装置
3 原色充填用エアゾール缶
4 容器
5 重量計測器
6 調色充填用エアゾール缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色が異なる複数種類の原色塗料を混合した混合塗料を、圧縮ガスが予め充填されているエアゾール缶に充填して、調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造するための方法であって、
エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための液体注入装置を用いて、複数種類の原色充填用エアゾール缶に対して、それぞれ、前記原色塗料を充填する工程と、
前記液体注入装置を用いて、複数種類の前記原色充填用エアゾール缶に対して、それぞれ、空気を充填し、各前記原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を1気圧よりも大きくする工程と、
前記空気及び前記原色塗料が充填された各前記原色充填用エアゾール缶から、前記原色塗料を所望量だけ噴出させ、前記混合塗料を得る工程と、
前記液体注入装置を用いて、前記混合塗料を、前記圧縮ガスが充填済みの調色充填用エアゾール缶に充填する工程とを備えることを特徴とする、エアゾール缶の製造方法。
【請求項2】
各前記原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を1気圧よりも大きくする工程では、各前記原色充填用エアゾール缶内の内部気圧を、略5気圧以下とすることを特徴とする、請求項1に記載のエアゾール缶の製造方法。
【請求項3】
前記原色充填用エアゾール缶及び/又は前記調色充填用エアゾール缶におけるステムの内壁は、一段下がっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエアゾール缶の製造方法。
【請求項4】
色が異なる複数種類の原色塗料を混合した混合塗料を、圧縮ガスが予め充填されているエアゾール缶に充填して、調色済み塗料が充填されたエアゾール缶を製造するためのエアゾール缶製造キットであって、
エアゾール缶のバルブを解放して液体を当該エアゾール缶に充填するための液体注入装置と、
前記液体注入装置を用いて、前記原色塗料及び1気圧以上の空気が充填される複数の原色充填用エアゾール缶と、
前記空気及び前記原色塗料が充填された各前記原色充填用エアゾール缶から、前記原色塗料を所望量だけ噴出させて得た前記混合塗料を、前記液体注入装置を用いて、充填される調色充填用エアゾール缶とを備え、
前記調色充填用エアゾール缶は、前記圧縮ガスが充填済みである、エアゾール缶製造キット。
【請求項5】
前記原色充填用エアゾール缶及び/又は前記調色充填用エアゾール缶におけるステムの内壁は、一段下がっていることを特徴とする、請求項4に記載のエアゾール缶製造キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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