説明

エアトラップチャンバ

【課題】濾過手段内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができるエアトラップチャンバを提供する。
【解決手段】内部に所定容量の収容空間Sを有するとともに、当該収容空間S内に血液を導入する導入口5aa及び当該収容空間Sから血液を導出する導出口5abがそれぞれ形成されたエアトラップチャンバ本体5aと、エアトラップチャンバ本体5a内で導出口5abを覆って形成されるとともに、収容空間S内の血液を濾過して当該導出口5abから導出させ得る網目Aが形成された濾過手段5bとを具備したエアトラップチャンバにおいて、濾過手段5bは、網目Aが同一水平面内において不均一に形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液を体外循環させるための血液回路に接続され、体外循環中の血液の除泡を図るためエアトラップチャンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療時においては、採取した患者の血液を体外循環させて再び体内に戻すための血液回路が用いられている。かかる血液回路は、血液浄化器としてのダイアライザと接続される動脈側血液回路及び静脈側血液回路から主に構成され、その途中には、血液ポンプが配設されるとともに、体外循環中の血液の除泡を図るためのエアトラップチャンバが接続されている。
【0003】
従来のエアトラップチャンバは、例えば特許文献1で開示されているように、内部に所定容量の収容空間を有するとともに、当該収容空間内に血液を導入する導入口及び当該収容空間から血液を導出する導出口がそれぞれ形成されたエアトラップチャンバ本体と、該エアトラップチャンバ本体内で導出口を覆って形成されるとともに、収容空間内の血液を濾過して当該導出口から導出させ得るメッシュ(網目)が形成されたフィルタ(濾過手段)とを有して構成されていた。
【0004】
より具体的には、かかる従来のエアトラップチャンバは、収容空間内に血液がスパイラル状に導入されるよう導入口が形成されており、かかるスパイラル状の流れによる乱流効果でエアトラップチャンバ本体内における血液の滞留を防止するよう構成されていた。加えて、従来のエアトラップチャンバにおいては、支柱間にメッシュ(網目)を有する鐘形成形型のフィルタ(濾過手段)を有しており、そのフィルタ(濾過手段)が形成する窓(網目)がスパイラル方向に傾斜して形成されることにより、スパイラル状に導入された血液の円滑な流れを保持し得るよう構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−309975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のエアトラップチャンバにおいては、エアトラップチャンバ本体内に導入される血液の流れをスパイラル状にすることにより、乱流を生じさせることができ、血液の滞留を防止し得る構成とされているものの、濾過手段の網目を通過した血液に及ぼされる乱流効果が低減してしまうという問題があった。すなわち、従来のエアトラップチャンバの如く濾過手段の網目をスパイラル方向に傾斜させて形成しても、必ずしも血液の乱流方向と網目の傾斜方向とが一致するものではなく、濾過手段の網目を通過した後に血液のスパイラル状の流れが保持されず、乱流効果が低減してしまうのである。
【0007】
しかるに、従来のエアトラップチャンバにおいては、濾過手段の網目が同一水平面内で略均等に形成されていることから、当該濾過手段の網目を通過した後の血液の流れが同一水平面内で互いに打ち消し合ってしまい、濾過手段内で流れが弱まって淀みが生じ易くなってしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、濾過手段内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができるエアトラップチャンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、内部に所定容量の収容空間を有するとともに、当該収容空間内に血液を導入する導入口及び当該収容空間から血液を導出する導出口がそれぞれ形成されたエアトラップチャンバ本体と、該エアトラップチャンバ本体内で前記導出口を覆って形成されるとともに、前記収容空間内の血液を濾過して当該導出口から導出させ得る網目が形成された濾過手段とを具備したエアトラップチャンバにおいて、前記濾過手段は、前記網目が同一水平面内において不均一に形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のエアトラップチャンバにおいて、前記濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、高さ方向に亘って網目が螺旋状に塞がれて成ることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のエアトラップチャンバにおいて、前記濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、その天面から下方に向かって突起部を垂下させて成ることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つのエアトラップチャンバが接続されたことを特徴とする血液回路である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、濾過手段は、網目が同一水平面内において不均一に形成されたので、当該濾過手段の網目を通過した後の血液の流れが同一水平面内で互いに打ち消し合ってしまうのを回避することができ、濾過手段内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、高さ方向に亘って網目が螺旋状に塞がれて成るので、濾過手段内で乱流をより確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより一層確実に抑制することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、その天面から下方に向かって突起部を垂下させて成るので、濾過手段内における上部の淀みも確実に防止することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、濾過手段内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができるエアトラップチャンバを有した血液回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るエアトラップチャンバが適用される血液回路を示す模式図
【図2】同エアトラップチャンバを示す外観図
【図3】同エアトラップチャンバにおける濾過手段を示す正面図
【図4】同エアトラップチャンバにおける濾過手段内の血液の流れを示す縦断面図
【図5】同エアトラップチャンバにおける濾過手段内の血液の流れを示す横断面図
【図6】同エアトラップチャンバにおける濾過手段内の血液の流れを示す解析結果
【図7】本発明の他の実施形態に係るエアトラップチャンバにおける濾過手段を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るエアトラップチャンバは、透析治療時に用いられる血液回路の途中に接続されたもので、当該血液回路は、血液流路を構成する可撓性チューブから成り、患者の血液を体外循環させ得るものである。本実施形態において適用される血液回路は、図1に示すように、先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続された動脈側血液回路1と、先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続された静脈側血液回路2とから主に構成されており、これら動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2の基端がダイアライザ3(血液浄化器)の血液導入口3a及び血液導出口3bにそれぞれ接続され得るよう構成されている。
【0019】
ダイアライザ3は、略円筒状の筒体における左右両端面に血液導入口3a及び血液導出口3bがそれぞれ形成されるとともに、側面に透析液導入口3c及び透析液導出口3dがそれぞれ形成されたものである。このダイアライザ3内には複数の中空糸膜(血液浄化膜)が配設されており、該中空糸膜内部が血液導入口3a及び血液導出口3bを連通して、血液回路(動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2)中を流れる血液を流通させ得る血液流路を成している一方、中空糸膜の外周面と筐体の内周壁との間の空間が透析液導入口3c及び透析液導出口3dを連通して、透析装置本体6から供給された透析液を流通させ得る透析液流路を成している。
【0020】
ダイアライザ3内の中空糸膜には複数の微少孔が形成されているため、血液が血液流路を通過し、透析液が透析液流路を通過する際、中空糸膜を介して血液中の不要物(老廃物)が透析液側に透析除去することができるよう構成されている。なお、透析液導入口3c及び透析液導出口3dは、それぞれ透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を介して透析装置本体6と接続されており、所望濃度に調製された透析液をダイアライザ3内に導入し得るようになっている。
【0021】
しかるに、動脈側血液回路1の途中には、他の部位より若干大きな内径で、且つ、軟質の樹脂から成る大径可撓性チューブが接続されており、該大径可撓性チューブにしごき型の血液ポンプ4が配設されている。すなわち、血液ポンプ4は、血液回路の一部を構成する大径可撓性チューブをしごきつつ回転駆動することにより、動脈側穿刺針aから採取された患者の血液を、血液回路及びダイアライザ3内で流通させ、静脈側穿刺針bから患者の体内に戻す作用を奏するものである。
【0022】
一方、静脈側血液回路2の途中(すなわち、血液回路におけるダイアライザ3より下流側)には、除泡のためのエアトラップチャンバ5が接続されている。かかるエアトラップチャンバ5は、図2に示すように、内部に所定容量(20ml程度)の液体(液体)を収容し得る収容空間Sを有するとともに、収容空間S内に血液を導入する導入口5aa及び収容空間Sから血液を導出する導出口5abがそれぞれ形成されたエアトラップチャンバ本体5aと、該エアトラップチャンバ本体5a内で導出口5abを覆って形成されるとともに、収容空間S内の血液を濾過して当該導出口5abから導出させ得る網目A(図3参照)が形成された濾過手段5bとを有して構成されている。
【0023】
エアトラップチャンバ本体5aは、ハウジングHの上部に上部キャップC1が取り付けられるとともに、ハウジングHの下部に下部キャップC2が取り付けられて成るもので、上部キャップC1に導入口5aaが形成され、下部キャップC2に導出口5abが形成されている。本実施形態に係る導入口5aaは、ハウジングHの断面における内壁面が成すプロフィルの接線方向に形成されており、導入口5aaから導入された血液(他の液体も含む:以下、同様)が収容空間S内においてスパイラル状に流動し得るようになっている。
【0024】
しかるに、エアトラップチャンバ本体5aは、導入口5aaから内部の収容空間Sに血液を導入させつつ導出口5abから導出させる際、上部に空気層及び下部に液溜まり層が形成されるものとされているので、液溜まり層中の血液に含有した気泡が空気層側に放出されることにより除泡がなされるようになっている。なお、図中符号L3は、先端が開口したオーバーフローラインを示しており、符号7はエアトラップチャンバ本体5aの上部(空気層側)から透析装置本体6内の圧力検出センサ(不図示)まで延設された圧モニタラインを示している。
【0025】
濾過手段5bは、所定の樹脂で成形され、図3に示すように、下方に開口したカップ状の形状を有するとともに、側面に複数の網目Aが形成されて成るものであり、外観は、円錐の頂部を略平面にした形状とされている。より具体的には、濾過手段5bは、開口して成る複数の網目Aと、上下方向に延びて周方向に隣り合う網目Aを画成する画成部Dとを有して成り、画成部Dで画成された網目Aが高さ方向に複数形成されつつ周方向に対して複数列に亘って形成されて成るものである。しかして、導入口5aaから収容空間S内に導入された血液は、濾過手段5bの網目Aを通過する過程で濾過されて、血液中に含まれる血液凝固塊や異物等を捕捉し得るものとされている。
【0026】
ここで、本実施形態に係る濾過手段5bは、図3〜5に示すように、高さ方向(図中上下方向)に亘って網目Aが螺旋状(スパイラル状)に塞がれて成るものとされている。すなわち、上下方向及び周方向に亘って規則的(上下左右に亘って直線状の列を成す如く)に網目Aが形成されたものを仮定し、そのうち網目Aが形成されない部位(開口させない部位B)を高さ方向に亘って螺旋状に設定したものとされているのである。
【0027】
このような実施形態に係る濾過手段5bによれば、高さ方向(図中上下方向)に亘って網目Aが螺旋状(スパイラル状)に塞がれて成る(言い換えるならば、開口させない部位Bがスパイラル状に設定して成る)ので、同一水平面内において網目Aが不均一に形成されるのである。したがって、濾過手段5bの網目Aを通過した後の血液の流れが同一水平面内で互いに打ち消し合ってしまうのを回避することができ、濾過手段5b内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができる。
【0028】
特に本実施形態によれば、高さ方向(図中上下方向)に亘って網目Aが螺旋状(スパイラル状)に塞がれて成るので、図4、5に示すように、網目Aを通過した血液は、下方に向かって螺旋状(スパイラル状)に流れることとなり、導出口5abから導出されることとなる。しかるに、濾過手段5b内における同一水平面内の液体(血液)の流れを解析した結果、図6で示す如きものとなった。
【0029】
かかる解析は、所定のシミュレーションにて得られたもので、導入口5aaから200ml/minの流速で密度1050kg/m、粘度0.0035Pasの物性値を有する液体を導入させるとともに、導出口5ab側の相対圧力を0とした場合を想定している。この解析結果からも分かるように、同一水平面内において網目Aが不均一に形成されることにより、乱流(スパイラル状の乱流)を生じさせることができ、淀みを抑制することができるのである。
【0030】
また、本実施形態によれば、濾過手段5bは、所定の樹脂を成形して成るとともに、高さ方向に亘って網目Aが螺旋状に塞がれて成るので、濾過手段5b内で乱流をより確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより一層確実に抑制することができる。なお、本実施形態においては、導入口5aaがハウジングHの断面における内壁面が成すプロフィルの接線方向に形成されることにより、血液を収容空間S内でスパイラル状に流動させているが、かかる形態のものに限らず、例えば導入口5aaがハウジングHの中心に向かって形成されたもの(すなわち、導入口5aaにてスパイラル状に血液を導入させないもの)等に適用してもよい。
【0031】
しかるに、上記の如きエアトラップチャンバ5を血液回路(本実施形態においては静脈側血液回路2)に接続させたので、濾過手段5b内で乱流を確実に生じさせて淀みが生じてしまうのをより確実に抑制することができるエアトラップチャンバ5を有した血液回路を提供することができる。なお、静脈側血液回路2に接続されたものに限らず、エアトラップチャンバ5を動脈側血液回路1に接続させたものとしてもよく、或いは動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2のそれぞれに設けてもよい。
【0032】
さらに、上記の如きエアトラップチャンバ5の濾過手段5b(所定の樹脂を成形して成るとともに、網目Aが同一水平面内において不均一に形成されたもの)を前提として、図7に示すように、濾過手段5bの天面から下方に向かって突起部5cを垂下させて成るものとしてもよい。この場合、濾過手段5b内における上部の淀みも確実に防止することができる。
【0033】
以上、本実施形態に係るエアトラップチャンバについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば同一水平面内において網目Aがランダムに塞がれて成る(開口させない部位を同一水平面内においてランダムに設定した)もの、或いは画成部Dを所定角度傾斜させて成るもの等としてもよい。また、本実施形態においては、血液を体外循環させるための血液回路に接続されているが、血液を流通させ得る他の流通路に接続されたものとしてもよい。なお、本実施形態に係るエアトラップチャンバ本体は、上部に導入口5aa及び下部に導出口5abが形成されているが、下部に導入口及び導出口がそれぞれ形成されたもの等としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
網目が同一水平面内において不均一に形成された濾過手段を有したエアトラップチャンバであれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 動脈側血液回路
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ
4 血液ポンプ
5 エアトラップチャンバ
5a エアトラップチャンバ本体
5aa 導入口
5ab 導出口
5b 濾過手段
6 透析装置本体
S 収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に所定容量の収容空間を有するとともに、当該収容空間内に血液を導入する導入口及び当該収容空間から血液を導出する導出口がそれぞれ形成されたエアトラップチャンバ本体と、
該エアトラップチャンバ本体内で前記導出口を覆って形成されるとともに、前記収容空間内の血液を濾過して当該導出口から導出させ得る網目が形成された濾過手段と、
を具備したエアトラップチャンバにおいて、
前記濾過手段は、前記網目が同一水平面内において不均一に形成されたことを特徴とするエアトラップチャンバ。
【請求項2】
前記濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、高さ方向に亘って網目が螺旋状に塞がれて成ることを特徴とする請求項1記載のエアトラップチャンバ。
【請求項3】
前記濾過手段は、所定の樹脂を成形して成るとともに、その天面から下方に向かって突起部を垂下させて成ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエアトラップチャンバ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つのエアトラップチャンバが接続されたことを特徴とする血液回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90675(P2013−90675A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233211(P2011−233211)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】