説明

エアバッグコーティング

【課題】エアバッグ用のモノリシックコーティング層として使用されるコーティング組成物を提供する。
【解決手段】コーティング組成物は複数種のウレタンをブレンドしたものであり、ウレタン成分のうちの少なくとも1つはガス保持性、他のものはエージング安定性の効果を有する。ガス保持性ウレタンは、ポリカーボネートとポリエーテルなどの少なくとも他のポリオールから合成された物であり、エージング安定性ウレタンは、100%ポリカーボネート系ポリウレタンである。得られるコーティング組成物は、単層としてエアバッグ織布に塗布した場合、ガス保持性及びエージング安定性に優れている。難燃性は添加剤によって組み込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
技術分野
本開示は、エアバッグ織布のためのモノリシック(monolithic)コーティングの使用に関する。この難燃性コーティング組成物は、過去において多層コーティング層を使用して達成されていた性質に匹敵する、エアバッグに望ましい性質、例えばガス保持性、難燃性及びエージング安定性を付与する。このコーティング組成物は、少なくとも2種の異なるウレタンからなるブレンドを組み込んでいる。このブレンドにおける第1のウレタンはガス保持性ウレタン化合物として働く。第2のウレタンはより柔軟な100%ポリカーボネートポリウレタンであって、エージング安定性ウレタン化合物として働く。本発明のコーティング組成物の主な利点は、単層として使用した場合でさえ、二層コーティングシステムの望ましい性質を達成することである。
【0002】
背景
歴史的に、エアバッグは、例えば織布を通しての空気の好ましくない透過を防ぐことによって、及び、程度はより低いものの、エアバッグを膨張させるのに使用されるホットガスに曝されることによる損傷からこの織布を保護することによって、それらの性能を高める一層又はそれ以上のポリマー材料の層でコーティングされていた。コーティングエアバッグの初期開発においては、ポリクロロプレンが一般的に好まれるポリマーであった。その後、ポリクロロプレンは殆ど例外なくシリコーン系材料によって代替された。
【0003】
エアバッグ、特に乗員室の側部に設置されるエアバッグに関するより新しい設計は、バッグが使用中により長く圧力を保つという要件を持ち込んだ。より長いガス保持時間という要件と、より低いコーティングレベルのシリコーンポリマーの使用は、本来的に潤滑性であるシリコーンのコーティングが、縫製した縫い目に応力がかかったときにエアバッグ織布におけるヤーンの位置をずらすことがあるという影響を強めた。このずれは、ずれたヤーンによって形成された穴を通しての膨張ガスの漏れをもたらし得る。
【0004】
過去においては、ガス保持性ポリマー(シリコーン含有ポリマーなど)の第1層を織布表面に塗布し、次に第2の保護層を第1層の上に塗布することによって、延長された圧力保持時間を達成していた。第2の保護層は、折畳まれて保管されているときにエアバッグコーティングがそれ自体に貼り付く(「ブロッキング」として知られている状態)のを防ぐと共に、第1のガス保持性層をエージング、磨耗などによるダメージから保護する。多くの状況下において、第2層は更に、このエアバッグの燃焼速度を最小にして、連邦自動車安全基準(FMVSS)302によって義務付けられている燃焼試験要件を満たすのを助ける。
【0005】
同一のポリマーネットワークにおいてシリコーンとそれとは別種のポリマーとを併用する様々なコーティングシステムが提唱されてきた。例としては、このようなシリコーン系コーティングシステムが、米国特許第6348543号、第6468929号、第6545092号、第6846004号及び米国特許出願公開第2005−0100692号に記載されており、これらは全てParkerに対するものであり、これらの全ては、本明細書に完全に述べられているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0006】
また、様々な多層コーティングシステムも提唱されてきた。この点に関しては、典型的な多層システムが、全てVeigaに対する米国特許第6239046号、第6641686号、第6734123号及び第6770578号に、並びに全てLiに対する米国特許第6177365号及び第6177366号に述べられており、これらの全ては本明細書に完全に述べられているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0007】
エアバッグの製造者は、適切なコーティング組成物の形成に関する多くの問題に対処するために、これら及び他の解決策を使用してきた。具体的には、エアバッグコーティングは、必要なガス保持性をエアバッグに提供することを要求される。また、このコーティングはエアバッグに難燃性を付与することも望ましい。この点に関して、典型的には難燃性添加剤を多層コーティングのトップ層に組み込むことによって難燃性を達成してきた。これは、織布接触層に難燃性添加剤を組み込むことによってガス保持性が損なわれることがあるためである。別の望ましい特性は、バッグを長期間に亘って折り畳んで保管する場合にコーティング組成物がそれ自体に貼り付き易くなる、所謂「ブロッキング」の回避である。最後に、別の望ましい特徴は、エアバッグコーティングがエージングに対して安定であるという必要性であり、コーティングが長時間並びに極端な熱及び/又は湿度の条件で劣化しないことを意味する。
【0008】
最もよく理解されているように、単層コーティング層はこれらの様々な問題を満たすには一般的には不十分であった。そのため、多層コーティングの使用が相対的に広く受け入れられていた。本開示のウレタン系コーティング組成物は、従来の多層コーティングのものに匹敵する性能特性を持つ、エアバッグ用のモノリシックコーティング層として使用され得る。したがって、本開示は従来技術に優る有用な進歩を提供する。
【0009】
概要
本開示は、エアバッグ用のモノリシックコーティング層として使用され得るコーティング組成物を提供することによって、既知の技術に優る利点及び代替物を提供する。好ましくは、これらコーティング組成物は、互いにブレンドされた少なくとも2種の異なるウレタン成分を含んでいる。これらのウレタン成分の少なくとも一方は、ポリカーボネートとポリエーテルなどの少なくとも他のポリオールとのハイブリッド(hybrid)であり、ガス保持性を提供する。他方のウレタン成分は、100%ポリカーボネート系ポリウレタンであり、エージング安定性を提供する。ガス保持性ウレタンは、高い破断引張り強度、高い破断伸び及び約800乃至約1200PSIの範囲内にある100%モジュラスを有していることを特徴としているであろう。得られたコーティング組成物(即ちブレンド)は、より高温の軟化点を有する製品をもたらすのと同時に、100%モジュラスが約1000PSI未満であるポリマーをもたらす。単層としてエアバッグ織布に塗布した場合、このコーティングは良好なガス保持性及びエージング安定性を持つエアバッグをもたらす。難燃性は添加剤によって組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、二層コーティングシステムと比較した、本コーティング組成物でコーティングしたエアバッグの経時的なリークダウン速度を示している。
【0011】
詳細な説明
ウレタンの製造
典型的で潜在的に好ましい実施に従って、本コーティング組成物を製造するために、2種の異なるウレタン成分をともにブレンドし、好ましくは水分散液にした。
【0012】
第1ウレタンは優れたガス保持性をもたらすように設計された(engineered)ものであり、そのようなものとして本明細書において「ガス保持性ウレタン」と呼ぶ。このガス保持性ウレタンは、高い破断引張り強度(例えば、少なくとも2500PSI)、高い破断伸び(例えば、少なくとも300%)、及びASTM D882規格試験法に従って測定して約1200PSI未満、より好ましくは約800乃至約1200PSIの100%モジュラスを有することを特徴とする。単なる例として、このような性質を提供する1つの典型的なガス保持ウレタンは80:20の比でのポリカーボネートとポリエーテルポリオールとの併用を使用して形成されたハイブリッドポリウレタンである。
【0013】
第2ウレタンはエージングに対する優れた耐性を提供するように設計されており、そのようなものとして本明細書において「エージング安定性ウレタン」と呼ぶ。典型的な実施では、第2ウレタンは100%ポリカーボネートポリオールを使用して合成されるものであり、100%ポリカーボネートポリマー主鎖を特徴としている。この用途で使用されるエージング安定性ウレタンは、100%モジュラスが、約800PSI未満である、より好ましくは約400PSI乃至約800PSIの範囲内にある、最も好ましくは約400乃至約675PSIであることを特徴としている。換言すると、得られるポリカーボネートポリウレタンは、ハイブリッドガス保持性ウレタンよりも柔らかい。
【0014】
ガス保持性ポリウレタンのエージング安定性ポリウレタンに対する比は、好ましくは重量で約80/20乃至約50/50の範囲内にある。1つの実施形態では、ガス保持性ポリウレタンのエージング安定性ポリウレタンに対する比は約63/37である。別の潜在的に好ましい実施形態では、ガス保持性ポリウレタンのエージング安定性ポリウレタンに対する比は60/40である。これらの比は、各々が少なくとも50%のガス保持性ポリウレタンを含んでおり、ガス保持性及びエージング安定性の特性の良好なバランスを示すコーティング調合物を提供する。
【0015】
上述した所望のポリウレタンを製造するために、出発材料、モル比及び反応条件をウレタン成分の各々の製造のために選択する。出発材料は、典型的には1又はそれ以上のポリオール、イソシアネート及び鎖延長剤を含む。ポリオール化合物のイソシアネート化合物に対するモル比は、好ましくはおよそ0.5:1乃至0.98:1である。
【0016】
ポリウレタンを製造するための好ましいポリオールは、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、シリコン系ジオール、オレフィン系ジオール、ポリエステルジオール及びこれらの組み合わせを含み、これらの構造を(I)乃至(VI)として以下に示す。1又はそれ以上のポリカーボネートポリオールを、本発明のコーティング組成物において使用されるエージング安定性ポリウレタン成分を製造するのに使用してもよい。2種以上のポリオールを代わりに使用してもよいが、1種のポリオールをガス保持性ポリウレタンのために使用してもよい。単なる例として、限定することなく、ポリカーボネートポリオールとポリエーテルポリオールとのブレンド(例えばそれぞれ約80/20乃至約50/50の比にある)を、本発明のコーティング組成物における一成分としての使用に適したガス保持性ポリウレタン化合物を製造するのに使用してもよい。
【0017】
ポリカーボネートポリオールは、以下の構造(I)及び(II)による構造を有する化合物を含む。
【化1】

【0018】
ここで、R及びR1は脂肪族基及び芳香族基からなる群より選択され、R2は4乃至10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基及び4乃至10個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基からなる群より選択され、nは2乃至20の整数である。1つの実施形態では、Rは(CH26であり、平均分子量(Mn)が約2000であるポリカーボネートポリオールをもたらす。
【0019】
典型的なポリエーテルポリオールは、以下の構造(III)による構造を有する化合物を含む。
【化2】

【0020】
ここで、nは5乃至68の整数である。1つの代表的なポリエーテルポリオールは、分子量(Mn)が400乃至4000であるポリプロピレングリコールである。また、この種類のポリオールに含まれるものはオレフィン系ジオールであり、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンコポリマーを有する化合物を含み、ここでコポリマーは末端及び/又は側鎖の位置にヒドロキシル基を有する。
【0021】
典型的なシリコン系ジオールは、以下の構造(IV)による化学構造を有する化合物を含む。
【化3】

【0022】
ここで、R1及びR4は、芳香族及び脂肪族基からなる群より独立して選択され、R2及びR3はメチル基、ヒドロキシル基、フェニル基及び水素からなる群より独立して選択される。
【0023】
典型的なポリエステル系ジオールは、その化学構造(V)及び(VI)を以下に示す2種の化合物を含む。
【化4】

【0024】
ここで、Rは2乃至10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基及び2乃至10個の炭素基を有する脂環式炭化水素基からなる群より選択され、nはポリオールに約1000乃至約2400のMnを与えるように選択される整数である。
【0025】
それらの色安定性及び熱安定性により、脂肪族イソシアネートが上述のポリオールとの反応に好ましいものであろう。適切な脂肪族イソシアネートは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソフォラン(isophorane)ジイソシアネート(IPDI)、水素化メチレンジフェニルジイソシアネート(HMDI)及びα,α,α',α'−テトラメチル−m−キシレンジイソシアネート(m−TMXDI)を含むが、これらに限定されない。
【0026】
ある状況においては、触媒を使用して高分子量ジオールとイソシアネート化合物との間の反応を促進することが望ましいであろう。適切な触媒は、三級アミン、有機スズ化合物及びこの目的のために知られている他の触媒を含む。
【0027】
典型的には、水系の(water-based)ポリウレタン分散液が、二段階合成を使用して製造される。第1段階は、末端にイソシアネート基を有する分子量が適度に(moderately)低い疎水性ポリウレタンオリゴマーの製造を含んでいる。この分子量が適度に低いオリゴマーは、NH−COOウレタン結合を生成する、多官能性(通常は二官能性)イソシアネートとポリヒドロキシ化合物との反応生成物である。このような反応を以下に示す。ここでは、ポリオール及びイソシアネートを包括的な構造を用いて表している。水系の(water-based)合成のためには、ポリヒドロキシ化合物の少なくとも1つが本質的にイオン性であり、典型的にはジヒドロキシ有機酸、例えばジメチロールプロピオン酸(DMPA)である。
【0028】
代表的な反応を以下に示す。
【化5】

【0029】
この合成反応に利用可能な広範な種類のポリヒドロキシ化合物は、ポリウレタンポリマーの多様性(versatility)をもたらす。
【0030】
ポリイソシアネートの選択反応性のために、ジヒドロキシ有機酸化合物の酸性官能基(functionality)は、一級又はさらに二級のヒドロキシル基と比較して、極端に低反応性である。この反応性の違いは、ポリオールからのヒドロキシル基(ジヒドロキシ有機酸からのヒドロキシル基を含む)と過剰なポリイソシアネートとを反応させて、上に示したイソシアネート末端ポリウレタンオリゴマーを生成することを可能にし、これはオリゴマー主鎖中に組み込まれた決定可能な(determinable)量のイオン性官能基を有する。上に示したように、イオン性官能基はカルボン酸基の存在に起因する。また、カルボン酸基の代わりに、硫酸基(SO3H)を有する化合物を代わりに用いてもよいことを理解すべきである。
【0031】
様々なポリヒドロキシ化合物のうちの1つと、ポリイソシアネート化合物の幾つかの選択肢のうちの1つとを組み合わせることによって、特定の要求パラメータ(これは、表面粘着を伴う極端に低いモジュラスから、引張り強度及び伸びが高い低モジュラスへ、引張りが高く極端に伸びが低く脆い極低モジュラスへ及ぶことがある)を満たすように設計性能特性を調整する能力がある。エアバッグコーティングの場合、コーティングに、比較的高い引張り強度、高い伸び及び低い粘着性を与えることが望ましい。
【0032】
上に示したイソシアネート末端ポリウレタンオリゴマーは、典型的にはかなり粘性である。その結果、このオリゴマーを希釈するには分散溶媒が必要である。最も多くの場合、この目的のためにN−メチルピロリドン(NMP)が使用される。
【0033】
所望のポリウレタン化合物の製造の第2段階は、疎水性(油性)オリゴマー中に存在するイオン性官能基を錯化して、水に分散可能な(親水性の)ウレタンプレポリマーを作り出すことを含んでいる。次に、親水性ウレタンプレポリマーを中程度の剪断(shear)条件下で分散してもよい。典型的には、このような錯化は揮発性三級アミン(以下に示した反応において、NEt3として表している)などの塩基の導入によって達成される。
【化6】

【0034】
マサチューセッツ州ピーボディーのStahl USA,Inc、ペンシルバニア州ピッツバーグのBayer MaterialScience,LLC及びマサチューセッツ州リンのるHauthaway Corporationは各々、1又はそれ以上の市販のガス保持性ウレタンを製造しており、これらは本発明のコーティング調合物における使用に適している。加えて、Stahl USA,Inc、Bayer LLC及びHauthaway Corporationは、その中に組み込まれる市販のエージング安定性ウレタンも製造している。
【0035】
添加剤
いったん分散すると、親水性ウレタンプレポリマー(反応生成物として上に示した)は多官能アミン化合物(これは、末端イソシアネート基と迅速に反応してポリウレア結合を生成し且つ鎖の生長を促進する)により延長される。こうして、ポリウレタン樹脂の分子量が更に増える。多官能アミン化合物は、少なくとも2個の一級アミン基を有するあらゆる有機分子、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジンを含む。また、この目的で使用され得るアミン化合物の種類にはかなりの多様性がある。これらの化合物の分子量は、約32(ヒドラジンの場合)から3000超(ポリエーテルアミンの場合)までに及ぶからである。導入するアミン化合物の量は、分散時に疎水性ウレタン化合物中に存在するイソシアネートの量に基づいて算出される。最も多くの場合、アミン化合物は、モル比でイソシアネート化合物の約75%乃至約95%の量で存在する。
【0036】
本明細書に記載したコーティング組成物は、エアバッグ織布及びエアバッグをコーティングするのに特に適している。このコーティング組成物は、1又はそれ以上の以下の任意の添加剤を含んでもよい:難燃剤、増粘剤、レオロジー変性剤、ブロッキング防止剤、着色剤又は顔料、熱又はUV安定剤、抗酸化剤、架橋剤、粘着促進剤、フィラー、燃焼性のための相乗剤、可塑剤、脱泡剤など。好ましくは、レオロジー変性剤及び増粘剤を添加して、コーティング調合物の粘度を約30000乃至約45000センチポイズ、より好ましくは約35000乃至約40000センチポイズに調節する。
【0037】
相乗剤
相乗剤は、エアバッグコーティング調合物の成分のいくつかの特徴を強める化合物である。所望量の相乗剤を、鎖延長段階中にウレタンを分散させているときにウレタンに組み込んでもよいし、ウレタンを製造してからウレタン分散液に後添加してもよい。
【0038】
いくつかの相乗剤は難燃性が多様である。これら難燃性相乗剤の多くは、単独で使用したときにはそれほど難燃性を示さない。しかし、これらの相乗剤は、コーティング組成物の約5重量%乃至約10重量%程度の少量で存在する場合であっても、難燃性コーティング組成物全体の有効性を高める。
【0039】
難燃性コーティング調合物において、相乗剤として金属酸化物をオルガノハロゲン系で使用することはかなり一般的である。これらのうち、3つの酸化物が特に有用であることがわかっている。これらは、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン及び亜アンチモン酸ナトリウムである。また、デカブロモジフェニルエタンを難燃剤として使用してもよい。
【0040】
エアバッグ織布への塗布
2種のポリウレタン化合物の各々を上に示した反応に従って合成し、その親水性プレポリマーへと転化し、必要又は所望に応じて界面活性剤、脱泡剤及び他の試薬と共に、水に分散させ、所望の分子量へと延長できるであろう。次に、2種の別々の分散液(即ち、ガス保持性ポリウレタン分散液及びエージング安定性ポリウレタン分散液)を剪断混合によってブレンドし、ブレンドコーティング組成物を作り出す。典型的なガス保持性ポリウレタンのエージング安定性ポリウレタンに対する比及び任意の添加剤の量は後の例において記載している。
【0041】
次に、2種のウレタン成分と添加剤とを組み込んだコーティング組成物を、フローティングナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、スプレーコーティング、含浸コーティング、カーテンコーティング、反転ロールコーティング、転写ロールコーティング及びスクリーンコーティングを含む任意の既知のコーティング方法により、エアバッグ織布に塗布する。次に、コーティングを、260°F乃至320°Fの範囲の温度、より好ましくは約300°Fの温度で、約2分間に亘って乾燥する。乾燥時のコーティング組成物のアドオン(add-on)重量は、好ましくは0.5oz/yd2乃至1.5oz/yd2であり、より好ましくは1.0oz/yd2(即ち34g/m2)未満であり、幾つかの実施形態では0.6oz/yd2(即ち20g/m2)未満であろう。
【0042】
コーティング組成物を単層のモノリシック層として塗布するので、製造はかなり単純である。第1コーティング層を塗布し、これを乾燥し、第2層を塗布し、これを乾燥するよりもむしろ、本発明の組成物は1回の塗布パス及び1回の乾燥パスを必要とする。また、各層の官能基同士の層間接着の発現及び維持することにおける技術的チャレンジは、本発明では必要ない。
【0043】
しかし、本発明のコーティング組成物のモノリシック層への使用は、所望に応じてブロッキング防止剤(例えばスプレータルク)を別途塗布することを排除しない。このような塗布は、別の即ち第2のコーティング層とは見なされないからである。
【0044】
例1
市販のウレタンを80:20のガス保持性ウレタン対エージング安定性ウレタンの乾燥ブレンド比で使用して、モノリシック層として使用するエアバッグコーティング組成物を調製した。コーティング組成物の成分を以下に示す。
【表1】

【0045】
得られたコーティング組成物は、粘度が約40000センチポイズであり、フローティングナイフコーターによって容易に広げることができた。フローティングナイフコーターを使用し、コーティング組成物を単層で、ワンピース(one-piece)のジャカード織サイドカーテンタイプのエアバッグの両外面に塗布した。エアバッグは、50×50のコンストラクションを有し、縦糸方向及び横糸方向の両方に420デニールのナイロン6,6ヤーンを使用した。ナイロン6、ポリエステル又はポリアミドとポリエステルとの組み合わせのヤーンも織布基材として使用することができる。
【0046】
次に、コーティングしたバッグを、オーブン中において約300°Fの温度で約2分間乾燥させた。コーティング組成物の乾燥状態でのアドオン重量(エアバッグの各面での)は約0.5oz/yd2即ち約17g/m2であった。
【0047】
例2−比較例
2層の別々のコーティング層を連続的にエアバッグ織布に塗布した比較例を作った。各コーティング層の成分を以下に示す。
【表2】

【0048】
織布接触コーティング組成物を、フローティングナイフコーターを使用し、単層でワンピースのジャカード織サイドカーテンタイプのエアバッグの両外面に塗布した。エアバッグは50×50のコンストラクションを有しており、縦糸及び横糸方向の両方に420デニールのナイロン6,6ヤーンを使用した。
【0049】
次に、コーティングした織布をオーブン中で約2分間に亘り約300°Fの温度で乾燥させた。第1層の乾燥状態でのアドオン重量(エアバッグの各面上)は約0.5oz/yd2即ち約17g/m2であった。
【表3】

【0050】
トップコート層組成物を、フローティングナイフコーターを使用して、織布接触層の上に塗布した。次に、コーティングした織布をオーブン中で約1.5分間に亘り約360°Fの温度で再度乾燥した。第2層の乾燥状態でのアドオン重量(エアバッグの各面上)は約1.0oz/yd2即ち約34g/m2であった。次に、ブロッキングを防ぐために、コーティングしたエアバッグ織布にタルクを軽くスプレーした。
【0051】
例の評価
例1及び例2を様々な性質について評価し、その分析の結果を以下に示した。適切な場合には、試験の記述に続いて括弧の中に規格試験法を載せている。
【表4】

【0052】
これらの結果は、本開示のモノリシックコーティング組成物が、燃焼性及び引張り強度の点で、標準的な二層コーティング組成物と同程度によく機能することを示している。
【0053】
上で説明したように、ガス保持性は、特に自動車のロールオーバーの際に、自動車の乗員を傷害から保護するのに重要である。ガス保持性は、エアバッグ(この場合、サイドカーテンのワンピース織布エアバッグ)を70kPaのピーク圧力まで膨らませた後、時間の関数として圧力保持率を記録することによって測定される。収縮時間を測定し、図1にプロットした。図1は、出発構造(材料、大きさ、形状及び体積)が同じであり、例1及び例2の調合物でコーティングした2つのエアバッグについてガス保持率を示している。例1における2種のウレタンの組み合わせはガス保持性の実質的な損失を示さなかった。単層コーティングは、コーティング重量が実質的に低いにも拘らず、二層コーティングと同様に機能した。
【0054】
次の評価段階は、エアバッグを様々なエージング条件に曝した後に、ガス保持性の性能を評価することであった。結果を以下の表1に示す。
【表5】

【0055】
第1セットの4つのエアバッグは、製造直後に、即ち「受け入れたままの(As Received)」状態で試験した(表1には「AR」というラベルで示している)。第2セットのエアバッグは、コーティングしたエアバッグを105℃で400時間に亘って加熱エージングすることによる環境試験に供した(表1には「105C HA」というラベルで示している)。第3セットのエアバッグは、コーティングしたエアバッグを70℃の温度及び95%の相対湿度に400時間に亘って曝すことによる環境試験に供した(表1には「70C RH」というラベルで示している)。第4セットのエアバッグは、コーティングされたエアバッグを400時間に亘ってサイクルエージングに曝すことによる環境試験に供した(表1には「CYC」というラベルで示している)。
【0056】
表1に示したように、エアバッグコーティングシステムから第2(トップ)コーティング層を取り除いたことは、本発明のコーティングシステムでコーティングしたエアバッグシステムに何ら影響がなかった。激しい環境試験後でも、本発明のコーティングシステムのガス保持性はそれほど減少しなかった。ガス保持性は「受け入れたまま」のサンプルと実質的に同程度(かつ許容できる範囲内)のままである。本発明のコーティングでモニターされた別の重要な性質は、上述のエージング条件に曝された後のエアバッグ自体の構造的一体性である。表1の最後の列は、受け入れたままの状態及びエージング後のクッションの破裂圧を示している。再び、エアバッグコーティングシステムから第2(トップ)コーティング層を取り除いたことは、本発明のコーティングシステムでコーティングされたエアバッグに何ら影響がなかった。これは、重要な性質であり、エアバッグの構造強度に何ら損失がないことを示している。
【0057】
例1及び例2を評価するのに使用される別の試験は、「ブロッキング試験」と呼ばれ、コーティングした織布の2つの部分を、互いに接触した状態(例えばエアバッグを保管した状態)で長期間の保管の後に、互いから分離するのに要する力を示す。“Test Method for Determining Blocking Resistance and Associated Characteristics of Automotive Trim Materials”と題された試験法SAE J912に従ってこの試験を行った。この試験方法は、時間、温度及び圧力の特定条件下で2つの材料を向き合わせて置いたときの、表面粘着性、色移り、エンボスの喪失及び表面損傷の程度を示すことを目的としている。
【0058】
ブロッキングについての実験室分析は、エアバッグ織布から50mm×75mmの2つの見本(swatch)を切り出し、50mm×50mmの領域を5lb(22N)の負荷下に100℃で48時間に亘りプレスし、25mm×50mmのエンドフラップを温度にも圧力にも曝さないでおくことを含む。試験期間の終わりに、22Nの負荷を解放し、50グラムの質量を下の方の織布見本に取り付ける。コーティングした2つの見本が完全に剥離するのに必要な時間を記録する。下の織布層から吊るした50gの錘を用いて織布を引き離すのに必要な時間が30秒より長い場合、そのコーティングシステムはブロッキング試験に不合格となる。
【0059】
明らかに、必要な分離剪断力が低いほど、コーティングはより好ましい。従来のエアバッグコーティングシステム(例えば例2のもの)では、耐ブロッキング性を向上させてパックした織布の部分同士の望ましくない接着の可能性を減らすために、ブロッキング防止剤(例えばタルク、シリカ、シリケートクレイ及びスターチパウダーなど)をコーティングした織布に塗布することがある。ブロッキング防止剤の塗布は本発明の範囲外ではない。このような塗布は第2コーティング層とはみなされないからである。
【表6】

【0060】
このように、例1の単層のウレタン系コーティングシステムは、例2の二層システムと同様に機能する。
【0061】
上で実証し且つ本明細書で説明したように、本明細書で説明した本発明の単層コーティングシステムは優れたガス保持性、ブロッキング防止性の特性、難燃性及びエージング安定性を与え、これらの性質を達成するのに二層のコーティング層を必要とする以前に開発されたコーティングシステムよりもこれらを進歩させる。
【0062】
本明細書に列挙した刊行物、特許出願及び特許を含む全ての参考文献は、あたかも各々の参考文献が、参照することにより本明細書に組み込まれるように個々に及び具体的に示され、かつ本明細書にその全体が記載されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
発明の説明との関連で(特に以下の特許請求の範囲との関連で)、用語「1つの("a" and "an")」及び「その(the)」並びに同様の指示概念の使用は、別段本明細書に示さない限り又は文脈上明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するように解釈されるべきである。用語「具備する(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」は、別段記載がない限り、制限のない用語(open-ended terms)(即ち「これを含むが、これに限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、別段本明細書に示さない限り、単にその範囲内にある各々の別個の値を個別に言及するのを省略する方法として役立つように意図したものであり、各々の別個の値はあたかもそれが個別に本明細書に記載されているかのように明細書に組み込まれている。本明細書で説明した全ての方法は、別段本明細書に示さない限り又は文脈上明らかに矛盾がない限り、任意の適切な順序で実施することができる。何れか及び全ての例、又は本明細書で提供される典型的な用語(例えば「such as」)の使用は、単に本発明をより明らかにするように意図したものであり、別段特許請求の範囲に記載しない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中の何れの用語も、特許請求の範囲に記載されていない構成要素が本発明の実施に必須であることを示していると解釈すべきではない。
【0064】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に記載しており、本発明を実施するための本発明者が知る最良の形態を含んでいる。好ましい実施形態の変形例は、上述の説明を読むことで当業者に明らかになるであろう。本発明者らは当業者が適切な変形例を採用することを予期し、本発明者らは本発明が本明細書で具体的に説明されたのとは別の方法で実施されることを意図している。従って、本発明は、適用可能な法規によって許されている限り、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載された内容の全ての変形例及び等価物を含んでいる。更に、別段本明細書に示さない限り又は文脈上明らかに矛盾しない限り、上で説明した構成要素の全ての可能な変形例における如何なる組み合わせも、本発明に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその一部に塗布されたモノリシックコーティング層を有するエアバッグ織布であって、前記モノリシックコーティング層は、(a)破断引張り強度が少なくとも2500psiであり、100%モジュラスが約1200psi未満であることを特徴とするガス保持性ウレタンと、(b)100%モジュラスが約800psi未満であり、100%のポリカーボネート主鎖を有することを特徴とするエージング安定性ウレタンとのブレンドを含むエアバッグ織布。
【請求項2】
前記ガス保持性ウレタンは、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、シリコン系ジオール、ポリエステルジオール及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリオールを使用して合成される請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項3】
前記エージング安定性ウレタンはポリカーボネートポリオールを使用して合成される請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項4】
前記ガス保持性ウレタンは少なくとも2種のポリオールを使用して合成される請求項2記載のエアバッグ織布。
【請求項5】
前記モノリシックコーティング層は、難燃剤、増粘剤、レオロジー変性剤、ブロッキング防止剤、着色剤、脱泡剤、顔料、熱安定剤、UV安定剤、抗酸化剤、架橋剤、粘着促進剤、フィラー、可塑剤及び相乗剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を更に含む請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項6】
前記モノリシックコーティング層の乾燥状態におけるアドオン重量が約0.5oz/yd2乃至約1.5oz/yd2である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項7】
前記モノリシックコーティング層の乾燥状態におけるアドオン重量が約0.5oz/yd2乃至約1.0oz/yd2である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項8】
前記モノリシックコーティング層の乾燥状態におけるアドオン重量が約0.5oz/yd2乃至約0.6oz/yd2である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項9】
(a)対(b)の乾燥状態の重量比が約80:20である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項10】
(a)対(b)の乾燥状態の重量比が約50:50である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項11】
(a)対(b)の乾燥状態の重量比が約63:37である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項12】
ワンピースの織布エアバッグである請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項13】
単層織布である請求項1記載のエアバッグ織布。
【請求項14】
前記エアバッグは合成ヤーンから作られている請求項1記載のエアバッグ。
【請求項15】
コーティングしたエアバッグを製造する方法であって、(a)エアバッグを準備し、(b)(i)破断引張り強度が少なくとも2500psiであり、100%モジュラスが約1200psi未満であることを特徴とするガス保持性ウレタンと(ii)ポリカーボネート主鎖を含むエージング安定性ウレタンとを含むコーティング組成物を準備し、(c)前記コーティング組成物を前記エアバッグの少なくとも一部に単層で塗布し、(d)前記コーティング組成物を乾燥することを含む方法。
【請求項16】
前記エアバッグはワンピースのジャカード織エアバッグである請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記エアバッグは製縫エアバッグである請求項15記載の方法。
【請求項18】
工程(c)における前記コーティング組成物の塗布を、フローティングナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、スプレーコーティング、含浸コーティング、カーテンコーティング、反転ロールコーティング、転写ロールコーティング及びスクリーンコーティングからなる群より選択される方法によって行う請求項15記載の方法。
【請求項19】
工程(d)を260°F乃至320°Fの温度で行う請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記モノリシックコーティング層の乾燥状態でのアドオン重量が約0.5oz/yd2乃至約1.5oz/yd2である請求項15記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−248678(P2010−248678A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−21388(P2010−21388)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(599060788)ミリケン・アンド・カンパニー (65)
【氏名又は名称原語表記】Milliken & Company
【Fターム(参考)】