説明

エアバッグ用基布、それからなるエアバッグ、およびエアバッグ用基布の製造方法

【課題】軽量、柔軟で、かつ、被覆材と基布との密着性に優れ、車両横転対応の側突衝突保護用のエアバッグにも適用できるエアバッグ用基布およびエアバッグ、ならびにエアバッグ用基布の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布であって、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下、付着量が10〜30g/mであり、2枚の基布間に該水性ポリウレタン樹脂の層を有する積層布において、該水性ポリウレタン樹脂と基布面との剥離強度が14N/cm以上であるエアバッグ用基布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護用として実用されているエアバッグ用基布およびエアバッグに関し、さらに詳しくは、側部衝突保護用に適した柔軟、軽量で且つ基布との密着性に優れた樹脂被膜を有するエアバッグ用基布およびそれからなるエアバッグ、ならびにそのエアバッグ用基布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員安全保護装置として多くのエアバッグ装置が実用化され、前部衝突時の運転席保護用および助手席保護用、側部衝突時の胸部および大腿部・腰部保護用(座席シートに内蔵)、および車体側部の頭部保護用(窓上部の天井内に装着)など、その装着部位も増えてきている。
【0003】
これらの安全装置(以下、モジュールと称す)は、エアバッグを展開、膨張させるガス発生器(以下、インフレーターと称す)、乗員の衝突による慣性エネルギーを吸収して衝撃を緩和する袋体のエアバッグ、これらを連結する金属または樹脂などの締結部材、電気信号伝達用の配線、装置上側部を被覆し意匠性も考慮された樹脂ケース、など多くの構成部品からなり、車内各部に搭載された各モジュールの重量総計は少なくないものである。そこで、モジュール構成部品を軽く、コンパクトにする努力がなされており、エアバッグも軽くすることが求められている。
【0004】
ここで、側部衝突保護用などの高い気密性を要求されるエアバッグにおいては、基布の表面に気密性を付与する被覆材、たとえば、耐熱性に優れるシリコーン樹脂などを施したコーティング基布が用いられている。
【0005】
このコーティング基布の軽量化を図るため、コーティング材料の付与量を少なくすることが試みられている。しかし、付与量を少なくすると、コーティング基布としての軽量化は図られるものの、不通気性が確保し難くなり、また、基布との密着性なども不足する傾向にある。とくに、側部衝突時に車体が横転しても十分な乗員保護性能を確保できるようにエアバッグの気密性を極めて高めた仕様においては、縫合部からのガス抜け防止に用いる目止め剤(シール剤や接着剤)などとの密着性が不安定になり易く、場合によってはコーティング層と基布との間で剥離が生じることもあった。そのため、従来のシリコーン樹脂と比較して基布と密着し易い樹脂、たとえばポリウレタン樹脂などをコーティングする技術が検討されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、車両の窓部側方に展開させる側部用エアバッグの製造法として、その外周部の接合面に熱可塑性ポリウレタンのコーティング層を形成すると共に、これらの接合面のコーティング面同士を合わせて熱溶融により接合する方法が提案されている。この方法は、エアバッグ外周縫合部にポリウレタン樹脂層を有する材料を介在させ、該樹脂を熱溶融させて縫合部の気密性を高めるものである。しかしながら、樹脂の溶融点が低い場合は外周縫合部の耐久気密性が不足し易く、該縫合部を密着させるためには比較的多くの樹脂層が必要とされ、軽量化の目的を達成することができない。
【0007】
また、特許文献2には、ポリカーボネート型ウレタン樹脂とポリエーテル型ウレタン樹脂との混合物を3〜10g/m塗布し、軽量なエアバッグ用基布を提供する技術が公開されている。この方法によれば、被覆材の塗布量が少なく、軽い基布が得られるものの、従来のコーティング基布が有する不通気性(通気度がゼロ)を確保することができない。また、樹脂層が薄いため基布との密着性も不安定になり易く、車両横転対応の側部衝突保護用のエアバッグに使用することは難しい。
【0008】
さらに、特許文献3には、ウレタン樹脂を含む、軟化点が120℃以上である熱可塑性樹脂を用いて、基布表面に平均厚さ10μm以下の被膜を繊維間の接点を埋めるように密着形成させたエアバッグ用基布が開示されている。この文献は、基布のホツレ防止と低通気性を目的としているが、この「樹脂被膜が、繊維間の接点を埋める如く密着形成されている」状態とするには浸漬法が前提となるため、通気性の低減効果が少なく、低通気性という目的を達成することができない。
【0009】
以上のように、前記特許文献のいずれの方法でも、軽量、柔軟でありながら、基布と被覆材との密着性に優れたエアバッグ用基布およびエアバッグを得ることはできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−129380号公報
【特許文献2】特開2001−329468号公報
【特許文献3】特開平9−240405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エアバッグ用基布として用いられる従来のコーティング基布より軽く、柔軟で、且つ被覆材と基布との密着性に優れ、車両横転対応の側突衝突保護用のエアバッグにも適用できるエアバッグ用基布およびエアバッグ、ならびにそのエアバッグ用基布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、基布の被覆材として流動開始温度の高いポリウレタン樹脂を使用することにより、少ない被覆量であっても基布との密着性に優れ、気密性および不通気性を向上することができることを見いだし、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布であって、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下、付着量が10〜30g/mであり、2枚の基布間に該水性ポリウレタン樹脂の層を有する積層布において、該水性ポリウレタン樹脂と基布面との剥離強度が14N/cm以上であるエアバッグ用基布に関する。
【0014】
前記水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が、180℃以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記エアバッグ用基布からなるエアバッグに関する。
【0016】
また、本発明は、前記エアバッグ用基布からなる側部衝突保護用エアバッグに関する。
【0017】
さらに、本発明は、少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布の製造方法であって、流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下の水性ポリウレタン樹脂を付着量10〜30g/mで基布に付与する工程、および、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度以上の温度で熱処理をする工程を含むエアバッグ用基布の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、軽量、柔軟でありながら、被覆材と基布との密着性に優れるエアバッグ用基布およびその製造方法を提供することができる。このエアバッグ用基布は、とくに側部衝突保護用のエアバッグとして用いるのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のエアバッグ用基布は、少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有しており、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下、付着量が10〜30g/mであり、2枚の基布間に該水性ポリウレタン樹脂の層を有する積層布において、該水性ポリウレタン樹脂と基布面との剥離強度が14N/cm以上である。
【0020】
本発明では、水性のポリウレタン樹脂を使用する。何らかの有機溶剤に溶解あるいは分散されたものは作業環境の面から好ましくないためである。水性ポリウレタン樹脂は、強制乳化型および自己乳化型のいずれでもよく、水溶液、水乳化液、水分散液または水懸濁液などの形態で存在する。なかでも、水溶性または自己乳化性のものが、乳化剤を使用する必要がないという点で好ましい。このような樹脂は、構成分子中に、水酸基、エチレンオキサイド基またはエチレングリコールなどの親水性基を導入することにより得ることができる。
【0021】
本発明で使用される水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度は160℃以上であり、180℃以上であることが好ましい。流動開始温度が160℃以上であることにより、エアバッグ用基布の被覆材として要求される耐久性、耐熱性を十分に保有することができるが、160℃より低いと、耐久後の不通気性が低下する。ここで、流動開始温度とは、融点測定ユニットを装着した顕微鏡観察により測定される温度をいい、具体的には、融点測定ユニットにセットした試料を昇温速度約20℃/分で加熱した時、樹脂が流動を開始した温度をいう。また、流動開始温度は、220℃以下であることが好ましい。220℃より高いと、樹脂が硬くなる傾向にある。
【0022】
また、前記ポリウレタン樹脂は、その乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下であり、2.5MPa以下であることが好ましい。乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下であることにより、基布に塗布された状態で柔軟な特性を発現するが、3MPaをこえると、柔軟な特性が発現し難い。ここで、乾燥後とは、シート状またはフィルム状にした樹脂被膜を100℃で3時間、熱乾燥させた後の状態をいう。また、乾燥後の100%モジュラスは、0.5MPa以上であることが好ましい。0.5MPaより小さいと、樹脂の柔軟性には優れるものの、被覆層としての耐揉性、耐摩耗性などが不足する傾向にある。
【0023】
本発明のエアバッグ用基布は、基布の少なくとも片面表面に前記水性ポリウレタン樹脂を10〜30g/m有している。15〜25g/m有していることが好ましい。基布の両面に有する場合は、両面の合計付与量が10〜30g/mとなるようにする。付与量がこのように少量であっても、前記水性ポリウレタン樹脂を使用することにより、基布重量、柔軟性、不通気性、塗布面の磨耗強さ、さらに縫合部の目止め剤(シール剤)との密着性など、エアバッグ用基布として求められる全ての特性を満足させることができる。付与量が10g/mより少ないと、基布重量は軽くなるものの、不通気性、塗布面の磨耗強さ、および目止め剤との密着性などが不足し、付与量が30g/mをこえると、基布重量が重くなり、柔軟性も不足する。
【0024】
また、本発明のエアバッグ用基布は、2枚の基布間に前記水性ポリウレタン樹脂の層を有する積層布とした場合に、ポリウレタン樹脂と基布面との剥離強度が14N/cm以上である。剥離強度は、16N/cm以上であることが好ましく、18N/cm以上であることがさらに好ましい。剥離強度が14N/cm以上であれば、基布と被覆材との密着性が高く、車体横転対応の側部衝突保護用エアバッグで必須要件とされる縫合部の気密性を確保することができる。剥離強度が14N/cm未満であると、基布と被覆材との密着性が不足し、高い気密性のあるエアバッグが得られない。
【0025】
前記剥離強度は、JIS K6404−5に準じて測定すればよい。具体的には、以下のようにして測定することができる。まず、基布表面に水性ポリウレタン樹脂を塗布し、その上にもう1枚基布を重ね、80℃で2分間乾燥する。その後、加熱プレス装置にて、圧力98kPaにて1分間、加圧加熱して積層布を得る。得られた積層布から、幅5cmの試料を裁断し、測定速度100mm/分にて、2枚の基布が180度になるようにT字剥離して、その剥離強度を測定する。このとき、基布に塗布される樹脂の塗布厚が0.1mm程度であることが、安定した剥離モードで測定することができる点で好ましいが、とくに限定されるものではない。またこれは、本発明で使用される水性ポリウレタン樹脂の塗布厚が0.1mmであることを指すものではなく、水性ポリウレタン樹脂の塗布厚が0.1mmに満たない場合であっても、他のウレタン系の樹脂を塗布して、全体として0.1mm程度の樹脂層とすることで、同様に安定した状態で測定することができる。
【0026】
前記水性ポリウレタン樹脂の粘度は、その固型分や、付与法に応じて最適な範囲を選定することができる。なかでも、25℃において、0.1〜200Pa・sであることが好ましい。25℃における粘度が0.1Pa・sより低いと樹脂の基布への浸透が大きくなり、得られる基布が硬くなる傾向にあり、200Pa・sをこえると、付与加工時の取扱い性が悪くなる傾向にある。また、その固型分は、前記水性ポリウレタン樹脂溶液を安定に作成、保存できる範囲であればよく、20〜70%であることが好ましく、30〜60%であることがさらに好ましい。
【0027】
その数平均分子量は、得られる樹脂特性、水性化の難易度、溶液の安定性などに応じて選定することができる。なかでも、5千〜50万であることが好ましく、1万〜40万であることがより好ましい。分子量が5千より小さいと、得られる樹脂被膜が脆くなる傾向にあり、50万をこえると樹脂被膜が硬くなる傾向にある。
【0028】
前記水性ポリウレタン樹脂溶液が、水分散液または水乳化液の場合、その樹脂固型分の粒子径は、溶液の均一性、乾燥後の樹脂被膜特性の均一性などが向上する点で、平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。
【0029】
また、前記水性ポリウレタン樹脂から得られる被膜の破断伸度は、200〜2000%であることが好ましい。破断伸度が200%より小さいと、樹脂被膜が硬くなると共にタフネスが小さくなり、展開試験などの挙動に追随し難い傾向にあり、2000%をこえると、樹脂被膜の粘稠性が高くなり、被覆面同士が密着し易くなる傾向にある。
【0030】
前記水性ポリウレタン樹脂のポリオール成分としては、たとえば、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオールなどがあげられる。なかでも、耐熱性、耐加水分解性などの物理特性が高い点で、ポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
【0031】
一般に、ポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタン樹脂から得られる被膜は、耐熱性などの前記物理特性に優れるものの、モジュラスが高く、硬いものになる傾向がある。そこで、耐熱性を保持しつつ、モジュラスの低い、柔らかな樹脂被膜を得るために、ポリカーボネートポリオールを用いる場合は、融点が20℃以下の(以下、低融点ポリカーボネートポリオールと称す)ものを使用することが好ましい。なかでも、10℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがさらに好ましい。また、融点が20℃をこえると、これから構成されるポリウレタン樹脂から得られる被膜のモジュラスが高くなり、柔軟性に劣る傾向にある。
【0032】
低融点ポリカーボネ−トポリオールは、一般的に、1)ポリオールとクロルカルボン酸との反応、2)ポリオールとホスゲンの反応、3)ポリオールと環状カーボネートとの反応、4)ジカーボネート化合物の縮合反応、などにより得られる化合物の中から低融点のものを選べばよい。
【0033】
低融点ポリカーボネートポリオールに用いられるポリオール化合物としては、たとえば、HO−R−OHで示されるジオール類、すなわち、脂肪酸ジオール、脂環式ジオール、または芳香族ジオールなどがあげられる。なかでも、炭素数が少なく、得られるポリウレタン樹脂の被膜が柔らかいという点で、アルキレンジオール(炭素数=2〜6)、アルキレングリコール(炭素数=2〜6)、キシリレンジオールなどの1種または2種以上の混合物、あるいは2種以上の共重合物などが好ましい。また、必要に応じて、カプロラクトンなどとの共重合物であるポリカーボネート/ポリエステルのポリオールを用いてもよい。
【0034】
低融点ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、要求される樹脂被膜特性に応じて選定すればよい。なかでも、数平均分子量は500〜3000であることが好ましく、800〜2000であることがより好ましい。数平均分子量が500より小さいと、得られる樹脂被膜の伸びが低くなる傾向にあり、3000をこえると樹脂被膜が硬くなる傾向にある。
【0035】
低融点ポリカーボネートとしては、たとえば、ETERNACOLL UHC50(宇部興産社製品)、デュラノール T5652,T5651,T4672,T4671(以上、旭化成ケミカルズ社製品)、プラクセル CD205(ダイセル化学社製品)、Oxymer N112(Perstorp社製品)などの市販品を使用することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また、ポリオール成分として、ポリカーボネートポリオールの単独での使用に比較して、柔軟性、基布への密着性、耐摩耗性などの樹脂被膜特性の向上が認められる場合には、他のポリオール、たとえば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどをポリカーボネートポリオールの使用量をこえない範囲で使用してもよい。
【0037】
本発明で使用される水性ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネートは、通常のポリウレタン樹脂に用いられるもののなかから選定すればよい。なかでも、適度なモジュラスを有し、柔軟性がより高く、物理特性にも優れるポリウレタン樹脂を得ることができる点で、芳香族を除く、脂肪族または脂環式のポリイソシアネートを用いることが好ましい。
【0038】
好ましいポリイソシアネートとしては、たとえば、メチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート、リジンイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネートなどの脂環式イソシアネートなどがあげられる。なかでも、得られる樹脂被膜の柔軟性の点で1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートが、また、樹脂被膜の耐久性の点でジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。なお、前記ジイソシアネート化合物と、低分子量のポリオール類やアミン類を末端基がイソシアネートとなるように作成したポリウレタンプレポリマー類などを用いてもよい。
【0039】
ここで、ポリイソシアネートとして、たとえば、トリレンジイソシアネート、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどに代表される芳香族イソシアネートを用いると、得られる樹脂被膜のモジュラスが高くなり、硬い被膜となる場合が多い。そのため、樹脂特性に大きな影響を与えない範囲、たとえば、過半とならない範囲で、これら芳香族ポリイソシアネートを配合することが好ましい。
【0040】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分の配合は、得られる樹脂被膜の特性に応じて選定すればよく、とくに限定されない。なかでも、重量比で、ポリオール成分/ポリイソシアネート成分=1.5/1〜1/1.5であることが好ましい。この範囲外であると、反応効率が低下する傾向にある。
【0041】
本発明に用いる水性ポリウレタン樹脂には、第3成分として、分子内にカルボキシル基と水酸基とを有する化合物(以下、第3成分と称す)を含んでいてもよい。この第3成分は、得られる水性ポリウレタン樹脂の物性を向上させる上で好ましい。また、さらに架橋剤などを併用することにより、その樹脂の分子構造を網目状とすることができ、樹脂被膜の磨耗性などの物理特性を改善することができるため好ましい。
【0042】
第3成分の分子内に存在するカルボキシル基により、得られる水性ポリウレタン樹脂にアニオン性を持たせることができるため、基布への化学的な濡れ性が高まり、密着性の向上が期待できる。前記カルボキシル基の数は1個でも複数でもよく、とくに限定されない。なかでも、反応性が高くなる点で、2個以上であることが好ましい。また、第3成分の分子内に水酸基が存在することが、反応性の点で好ましい。前記水酸基の数は、1個でも2個でもよく、とくに限定されない。なかでも、反応性が高まる点で、2個以上であることが好ましい。
【0043】
前記第3成分としては、たとえば、ジオキシ安息香酸、ジオキシマレイン酸、ジメチロール吉草酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールピロピオン酸などのカルボン酸含有物およびこれらの誘導体、またはこれらを共重合させて得られるポリエステルポリオールなどの1種または2種以上をあげることができる。なかでも、得られる樹脂被膜の柔軟性の点で、ジメチロールプロピオン酸が好ましい。
【0044】
また、その配合量は、樹脂被膜の特性に応じて選定すればよく、また、架橋剤などを併用する場合は、その架橋剤と同量の配合にすることができる。ポリオ−ル成分およびポリイソシアネート成分の配合量100重量部に対する第3成分の配合量は、1〜25重量部であることが好ましく、2〜20重量部であることがより好ましい。第3成分が1重量部より少ないと樹脂の基布への濡れ性が不足して、密着性が低くなる傾向にあり、25重量部をこえると得られる樹脂被膜が硬くなる傾向にある。
【0045】
さらに、本発明の樹脂配合成分として架橋剤を使用することが、樹脂の網目構造を十分なものとし、樹脂の物理特性ならびに熱流動性などの熱的特性を向上させることができるため好ましい。架橋剤としては、通常の樹脂架橋に用いられる化合物の中から選定すればよいが、なかでも、樹脂物性が硬くならず、耐加水分解性も低くなる点でポリカルボジイミド化合物が好ましい。ポリカルボジイミド化合物は、カルボキシル基やアミノ基などの活性水素と高い反応性を有する物質として、ポリウレタン樹脂をはじめポリエステル樹脂などに使用されている。
【0046】
ポリカルボジイミド化合物は、カルボジイミド化触媒を使用して、ジイソシアネートとの脱炭酸縮合反応により作成された、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有するポリマーである。モノカルボジイミド化合物は、反応基が少ないことから反応率が低く、また、水分との反応性もあり安定性に欠けるため、あまり適していない。
【0047】
ポリカルボジイミド化合物の数平均分子量は、1000〜5000程度であることが好ましい。たとえば、商品名として、カルボジライト(日清紡ケミカルズ社製品)、Emafix(大日精化工業社製品)、Stabaxol(平泉洋行社製品)、AQD−2050B(サンユーペイント社製品)、などとして販売されているものなどから、1種または2種以上を選定することができるが、これらに限定されない。
【0048】
また、その配合量は、ポリオール成分およびポリイソシアネート成分の配合量100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましく、2〜10重量部であることがより好ましい。配合量が1重量部より少ないと、樹脂被膜の物理特性が不足し、基布との密着性が低下し易くなる傾向にあり、20重量部をこえると、モジュラスが高くなり柔軟性を損ない易い傾向にある。
【0049】
また、前記水性ポリウレタン樹脂単独で用いるよりも好ましい特性が得られる場合は、該樹脂と相溶性のある樹脂またはゴム、たとえば、水性シリコーン系樹脂またはゴム、水性ハロゲン含有系樹脂またはゴム、水性ポリアミド系樹脂、水性ポリエステル系樹脂、水性エポキシ系樹脂、水性ビニル系樹脂などの水性樹脂またはゴム、またはこれらの変性樹脂またはゴムなどの1種または2種以上を、該水性ポリウレタン樹脂の25重量部以下で混合して用いてもよい。これらの水性ポリウレタン樹脂以外の樹脂またはゴムは、とくに限定されず、通常、エアバッグ用基布に使用されている材料であればよく、耐熱性、磨耗性、基布との密着性、難燃性、不粘着性などを満足するものであればよい。
【0050】
また、本発明の製造方法は、少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布であって、流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下の水性ポリウレタン樹脂を付着量10〜30g/mで基布に付与する工程、および、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度以上の温度で熱処理をする工程を含んでいる。
【0051】
使用した水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度以上の温度で熱処理をすることにより、基布と樹脂被膜との密着をより強固なものとすることができる。これは、流動開始温度以上の温度で樹脂が加熱されることで、基布上に付与された樹脂が基布面上で流動し易くなり、樹脂層が均一に再配置されると共に、基布への濡れ性も良くなり、密着性が向上するものと考えられるためである。流動開始温度より低い温度で熱処理した場合は、密着性が不安定となり、剥離強度も低くなる。
【0052】
熱処理の温度は、流動開始温度以上であればよい。好ましくは、流動開始温度より5〜50℃高い範囲であり、熱処理装置の性能、得られる基布特性などから適宜選定すればよい。50℃より高いと、樹脂の流動が多くなって基布内部に浸透し、逆に基布の柔軟性や不通気性が損なわれる傾向にある。
【0053】
流動開始温度以上での加熱時間は、得られる前記水性ポリウレタン樹脂の物理特性、該樹脂と基布との密着性、およびエアバッグ用基布の物理的特性などを勘案し、熱処理温度に応じて選定すればよい。加熱時間は、たとえば、30秒〜3分の間とすることができ、1〜2分であることが好ましい。
【0054】
前記水性ポリウレタン樹脂は、後述する各種方法により基布表面に付与される。付与された樹脂成分は、少なくとも基布の片面表面に存在すればよく、基布を構成する繊維糸条の交差部およびその間隙部、および、繊維糸条の単糸の間隙部などいずれに介在させてもよい。
【0055】
水性ポリウレタン樹脂の付与方法としては、1)コーティング法(ナイフ、ブレード、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびリップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、5)ラミネート法、6)噴霧・噴射法などがあげられる。なかでも、付与量の設定範囲が広い点で、コーティング法が好ましい。
【0056】
また、前記樹脂には、主たる樹脂またはゴム材料の他、加工性、基布への接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤あるいは助剤、たとえば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、湿潤剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、防炎化剤、可塑剤などの1種または2種以上を選択して混合してもよい。
【0057】
前記ポリウレタン樹脂の性状は、付与量、付与法、材料の加工性や安定性、要求される特性などに応じて、水乳化型、水溶性型などの液状物から適宜選定すればよく、必要に応じて、粉体、ビーズ、薄膜、フィルムなどの固体状、あるいは樹脂分のみの無溶媒液体状のものを適用してもよい。
【0058】
また、前記樹脂には、基布との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加してもよいし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施してもよい。さらに、物理特性を改良したり、耐熱性、老化防止性、耐熱性などを付与するため、前記樹脂を基布に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱風処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などにより行ってもよい。
【0059】
本発明で使用される基布は、織物、編物、組物、不織布、シート状物、ネット状物、あるいはこれらの複合物、積層物など、要求性能を満たす材料であればいずれでもよい。
【0060】
前記基布が織物の場合、その織構造の緻密さを示す指数であるカバーファクターが、750以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましい。なお、経糸および緯糸にそれぞれ繊度の異なる繊維糸条を用いる場合は、経糸および緯糸それぞれの繊度毎にカバーファクターを算出し、合計することで織物全体のカバーファクターが求められる。
【0061】
ここでいうカバーファクター(CF)とは、織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度N(本/cm)と太さD(dtex)の平方根との積で求められ、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)
Dw,Dfは、経糸および緯糸の太さ(dtex)
【0062】
前記織物は、平織、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの組合せ、連続または断続した複合組織など、とくに限定されない。なかでも、織物構造の緻密さ、ならびに物理特性の経と緯の方向性が少ない点で平織が好ましい。また、必要に応じて、経糸、緯糸の二軸以外に斜め60度や45度を含む3軸、4軸などの多軸設計としてもよく、その場合の糸の配列は本来の経糸または緯糸と同様の配列に準じればよい。
【0063】
前記織物の製造は、通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機から適宜選定すればよく、たとえばシャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機などから選定したものを用いればよい。
【0064】
前記基布が編物の場合は、シングルトリコット編、シングルコード編、シングルアトラス編などの経編、通常の経編に緯糸を挿入した緯糸挿入型の経編、平編、ゴム編、パール編などの緯編、などの編組織を単独またはそれらを組み合わせた二重組織などからなるものがあげられる。
【0065】
また、前記基布が不織布の場合は、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、メルトブロー法、抄紙法などにより製造されたものがあげられる。
【0066】
本発明で使用される基布を構成する繊維糸条の繊度は、工業用途で使用されているものから適宜選定すればよい。なかでも、200〜1000dtexであることが好ましく、250〜700dtexであることがより好ましい。200dtex未満ではエアバッグに求められる袋体としての強度が得られにくい傾向にあり、1000dtexより太くなると基布重量や基布厚さが増大しエアバッグの収納性が悪くなるおそれがある。
【0067】
また、前記繊維糸条の単糸繊度は、0.5〜6dtexの範囲にあればよく、0.5〜4dtexであることはより好ましい。単糸繊度を小さくすることにより、織物の通気性が下がり、柔軟性も向上しエアバッグの折畳み性が改良される。さらに単糸の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、花弁形、中空、その他の異形など、繊維糸条の紡糸および織物の製造、さらには得られる織物の物性に支障のない範囲で適宜選定すればよい。また、繊維糸条の強度は、5.4cN/dtex以上であることが好ましく、8cN/dtex以上であることがより好ましく、9cN/dtex以上であることがさらに好ましい。
【0068】
前記基布は、目付けが190g/m以下、引張強力が650N/cm以上であることが好ましく、目付けと引張強力がこの範囲であれば、軽くて物理特性に優れた材料として用いることができる。なお、ここでいう目付けは、前記水性ポリウレタン樹脂を付与する前の未加工状態の基布重量をいう。
【0069】
前記基布を構成する繊維糸条は、天然繊維、化学繊維、無機繊維など、とくに限定されるものではない。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、などの単独またはこれらの共重合(三元共重合も含む)、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸との複合型共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合により得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンに代表される含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PSS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、綿、麻、ケナフ繊維などのセルロース系繊維、絹、羊毛などの天然繊維、ポリ乳酸、琥珀酸に代表される生分解性繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維などから、1種または2種以上を選定することができる。なかでも、汎用性があり、織物の製造工程への適用性、織物物性に優れる点で、合成長繊維(フィラメント)が好ましい。そのなかでも、物理特性、耐久性、耐熱性などの点で、ナイロン66繊維が好ましく、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維およびナイロン6繊維が好ましい。
【0070】
前記繊維糸条には、紡糸性や加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種添加剤、たとえば、紡糸油剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0071】
また、本発明は、前記エアバッグ用基布からなるエアバッグ、とくには側部衝突保護用エアバッグである。本発明のエアバッグは、前記エアバッグ用基布から裁断して得られる1枚または複数枚からなる本体パネルの外周、本体パネルと各種パーツ、および、各種パーツ同士などを接合して得られる。この接合は、縫製、接着、溶着など、いずれの方法によってもよい。縫製の場合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなど、通常のエアバッグに適用される縫い仕様により行うことができる。縫製糸の太さは、30番手(470dtex相当)〜0番手(2800dtex相当)であることが好ましく、運針数は2〜10針/cmであることが好ましい。複数列の縫い目線を必要とする場合は、縫い目線間の距離は2〜10mm程度として、多針型ミシンにより一度の、あるいは1本針ミシンにより複数回の縫製により行ってもよい。
【0072】
縫製糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているもののなかから適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド繊維系、高分子ポリオレフィン繊維系、含フッ素繊維系、ビニロン繊維系、芳香族ポリアミド系、PBO繊維系、PPS繊維系、カーボン繊維系、ガラス繊維系、スチール繊維系などがあげられ、これらの紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント片撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれであってもよい。
【0073】
接合が、接着または溶着による場合は、要求される縫合部の強さに応じて接合法を選定すればよい。接着の場合、たとえば、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、酢酸ビニル系、シアノアクリレート系、フェノールまたはレゾルシン系、含ハロゲン系などの樹脂系接着剤またはゴム系接着剤を用いることができる。溶着の場合は、縫合該当部の基布同士のみを重ね合わせて高周波、超音波などの高エネルギー溶着機により溶着することができる。このとき、基布同士の間に熱溶融性材料、たとえば、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系などのホットメルト樹脂、あるいはポリウレタン系、ポリオレフィン系などの反応性ホットメルト樹脂などを挟んだ状態で溶着させることにより基布の損傷を軽減させることができる。
【0074】
本発明のエアバッグは、使用するインフレーターの特性により、必要に応じてインフレーターの取付け口周囲やガス噴出孔周縁の本体パネルや補助パネルの表面上に、耐熱保護布や力学的な補強布を設けてもよい。これらの保護布や補強布は、本体パネルに用いた基布から裁断したパーツ、本体パネルと同一素材からなる太繊度糸を用いた高目付け基布から裁断したパーツ、基布自体が耐熱性の材料、たとえば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド系繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料からなる基布から裁断したパーツなどを用いればよく、使用する枚数も、要求される耐熱性、補強効果などにより1枚あるいは複数枚とすればよい。
【0075】
本発明のエアバッグの仕様、形状および容量などは、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能あるいはインフレーター出力などに応じて選定すればよい。
【0076】
また、エアバッグに乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、1箇または複数個の排気孔、たとえば直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積の孔、またはこれらの排気性能に相当するスリット、膜、弁などを設けてもよい。前記排気孔の周囲には、熱ガス排気による変形を抑えるために補強パーツを用いてもよい。さらに、エアバッグの膨張初期において乗員側への突出を抑制したり、エアバッグ本体膨張部の厚みを制御するために、袋内部に形状制御用吊り紐を設けることが好ましい。また、袋内部にインフレーターから噴出するガス流路を制御するガス流路調整パーツ、さらにはエアバッグ本体の膨張形状を制御するために袋外部にフラップと呼ぶ帯状パーツなどを設けてもよい。
【0077】
エアバッグを収納する際の折畳みも、運転席用バッグのように中心から左右および上下対称の屏風折り、あるいはエアバッグの外周から中心に向かって多方位から押し縮める多軸折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折りなどにより折畳めばよい。
【0078】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、たとえば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、後部座席保護用(エアーベルト用袋体、乗員間に装備されるセンターバッグなどを含む)、追突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足首保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、歩行者保護用など、乗用車、商用車、バス・トラック、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、ヘリコプター、遊園地の遊具、非常時非難用具など、多用途に適用することができる。なかでも、とくに高い気密性を要求される側部衝突保護用エアバッグとして好適に使用することができる。
【0079】
実施例
以下、実施例に基づき本願発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用基布およびエアバッグの性能評価の方法を以下に示す。
【0080】
(1)樹脂被膜の100%モジュラス
水性ポリウレタン樹脂溶液をガラス板上に設けた枠内に流し込み、110℃で3時間乾燥させて樹脂被膜を作成し、JIS K−7311に規定された方法により100%モジュラスを求めた。
【0081】
(2)樹脂被膜の破断伸度
上記(1)に準じて作成した水性ポリウレタン樹脂被膜について、JIS K−7311に規定された方法により破断伸度を求めた。
【0082】
(3)樹脂被膜の流動開始温度
上記(1)に準じて作成した水性ポリウレタン樹脂被膜の一片を用い、融点測定ユニット(ジャパンテック社製品)を装着した光学顕微鏡にて、昇温速度約20℃/分にて加熱した時の樹脂の流動開始温度を測定した。
【0083】
(4)基布の目付けおよび塗布量
JIS L−1096の8.4.2法に規定された方法により、樹脂組成物の塗布前後の基布の単位面積当たりの重量を求めた。塗布量は、塗布前後の基布重量の差から求めた。
【0084】
(5)基布の通気度
JIS L−1096の8.27.1A法(フラジール法)に準じて通気特性を評価し、N=3の平均値を通気度とした。なお、評価は、初期品に加え、120℃×250時間で熱処理した耐久品についても実施した。
【0085】
(6)剥離強度
1枚の基布表面に水性ポリウレタン樹脂を、固型分を換算して乾燥後の厚さがほぼ0.1mmとなるように塗布した。その上に他の基布を重ね、80℃で2分間乾燥し、ついで、それぞれの温度に設定した加熱プレス装置にて、圧力98kPaにて1分間、加圧加熱した。作成した積層布から、幅5cmの試料を裁断し、測定速度100mm/分にて、2枚の基布が180度となるようにT字剥離して、剥離強度を測定した。N=3の平均値を剥離強度とした。
【0086】
(7)基布の折畳み厚さ
20cm四方の基布を縦、横にそれぞれ1回ずつ折って基布が4枚折り重なった状態に折畳み、その上に、厚さ10mm、10cm四方のガラス板を載せた。さらに、500gの錘を積載し、1分後の基布厚さを測定した。実施例1を100としたときの相対値で表している。
【0087】
(8)エアバッグの気密性試験
準備した基布から、外径が540mmの円形で、円形の外縁部にガス注入口として高さ100mm、幅50mmの開口部を設けたフラスコ形のパーツを2枚裁断した。ここで、開口部は、その中心線と基布の糸軸方向が一致する位置に設けた。2枚の一方の基布の樹脂面上の外周縫合部にウレタン系の反応性ホットメルト樹脂(日本エヌエスシー社製品、ボンドマスター170−7254)を塗布し、その上に他方の基布の樹脂面を重ね合せて該ホットメルト樹脂の厚さが0.6mmとなるように圧着した。塗布部形状は、500mmを中心とした幅10mmの円形状(縫い代20mm)であった。さらに、円形の中心部であって、開口部の真下でガス流に平行となる中央位置に、幅10mm、長さ100mmの中心接合部を配置した。この中心接合部の接合には、前記ホットメルト樹脂を使用し、同様に厚さが0.6mmとなるように圧着した。なお、ガス注入用の開口部周辺にも、縫い代が20mmとなるように裁断片の外縁に沿って前記ホットメルト樹脂を塗布した。塗布後、室温で24時間放置し、ホットメルト樹脂を硬化させた。ついで、外周および中央接合部を、上糸および下糸いずれもナイロン66繊維の1400dtex(5番手糸相当)の縫い糸により、運針数35針/cm、本縫い1列にて、前記ホットメルト樹脂塗布部の中央を縫製した。得られたエアバッグの開口部をエアバッグ用破裂試験機に取り付け、高圧窒素ガスを内圧100kPまで急激に注入してガスの供給を停止し、縫合部のシール部の破壊状態、ならびに、エアバッグの気密性(内圧の保持性)を観察した。
【0088】
なお、膨張時、前記中央接合部には外周縫合部よりも大きな応力が作用するため、この中央接合部で剥離が発生しているかどうかを見ることにより、基布とそれを被覆しているポリウレタン樹脂との密着性を確認することができる。つまり、この中央接合部において剥離が発生していない場合には、外周縫製部においても剥離は発生していないと考えられ、ここからのガスリークはないとすることができる。
【0089】
また、気密性は、エアバッグの内圧が低減していく速さを基準にして評価し、内圧が早く下がり萎むのが早い場合を気密性が悪い、内圧がなかなか抜けない状態を気密性が高いとしている。
【0090】
以下、実施例および比較例で用いたポリウレタン樹脂溶液の組成を示す。
(樹脂1)
ポリカーボネートポリオール(融点−5℃、旭化成ケミカルズ社製、ポリカーボネートジオール、商品名デュラノールT5651、分子量1000)と、脂環式ポリイソシアネート(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)とを合わせて100部(ポリカーボネートジオール/ポリイソシアネート=100/110)、ジメチロールプロピオン酸8部、ポリカルボジイミド(日清紡ケミカルズ社製、商品名カルボジライトSV−02、分子量1720)5部から得られる水性ポリウレタン樹脂(固型分35%、溶液粘度(25℃)20Pa・s、分子量1万8千、水溶液)。乾燥後の樹脂被膜の流動開始温度:180℃。破断伸度:1330%。
【0091】
(樹脂2)
樹脂1において、架橋剤であるカルボジイミド化合物を重合成分として含まない水性ポリウレタン(固型分35%、溶液粘度(25℃)18Pa・s、分子量1万3千、水溶液)。乾燥後の樹脂被膜の流動開始温度:125℃。破断伸度:1520%。
【0092】
(樹脂3)
パスコールJK−831N(明成化学社製、融点が45℃であるポリカーボネートポリオールおよび脂肪族ポリイソシアネートからなるポリウレタン樹脂溶液)100部、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)5部から得られる水性ポリウレタン樹脂溶液(固型分30%、溶液粘度(25℃)14Pa・s、分子量1万、水溶液)。乾燥後の樹脂被膜の流動開始温度:140℃。破断伸度:1010%。
【0093】
実施例1
経糸、緯糸いずれもナイロン66繊維の470dtex/136f(強度8.6cN/dtex)を用いて平織物を作成し、精練、セットを行い、経、緯の織密度がいずれも18本/cmである基布を得た。ついで、この基布の片面に、樹脂1を、ナイフコーティング法にて付与量20g/mとなるように塗布した後、乾燥および190℃で1分間熱処理を行い、本発明のエアバッグ用基布を得た。得られた基布の引張強力は、675N/cmであった。重量は、樹脂付与前(目付け)が175g/m、樹脂付与後が195g/mであった。
【0094】
この基布を使用して性能評価を行った。表1に示すように、樹脂被膜の100%モジュラスは小さく、柔らかいものであった。また、表2に示すように、得られたエアバッグ用基布は軽量であり、それから得られたエアバッグについては、接合部での樹脂剥がれもなく、高い気密性を示した。
【0095】
比較例1
樹脂の付与量を5g/mとした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布およびエアバッグを作成した。樹脂付与後の基布重量は180g/mであった。表2に示すように、基布重量や折畳み厚さは小さくなるが、樹脂被膜の付与量が少ないため不通気性が低下した。また、気密性試験では中心接合部の樹脂剥れが発生し、気密性も不足した。
【0096】
比較例2
樹脂として樹脂2を用い、樹脂付与後の加熱温度を150℃とした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布およびエアバッグを作成した。表1に示すように、樹脂被膜の100%モジュラスが小さく、柔らかな樹脂となるため、得られた基布の折畳み性もややよくなる。しかし、樹脂付与後の加熱温度を樹脂の流動開始温度より高くしても、流動開始温度自体が低いため、耐久試験後の不通気性に劣っている。さらに、基布と樹脂の剥離強度もやや低くなり、エアバッグとしての気密性も高くない。
【0097】
比較例3
樹脂として樹脂3を用い、樹脂付与後の加熱温度を150℃とした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布およびエアバッグを作成した。樹脂の100%モジュラスが高いため、エアバッグ用基布の折畳み厚さが大きくなった。
【0098】
比較例4
樹脂付与後の熱処理温度を150℃とした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布およびエアバッグを作成した。熱処理温度が樹脂の流動開始温度より低いため、樹脂と基布との剥離強度が十分でなく、気密性試験において中心接合部の樹脂剥れが発生し、気密性が不足した。
【0099】
比較例5
樹脂の付与量を35g/mとした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布およびエアバッグを作成した。基布の不通気性、剥離強度およびエアバッグの気密性などには問題がなかったが、樹脂付与量が多いため基布の折畳み厚さが大きくなり、軽量、コンパクトなエアバッグを得ることができなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布であって、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下、付着量が10〜30g/mであり、2枚の基布間に該水性ポリウレタン樹脂の層を有する積層布において、該水性ポリウレタン樹脂と基布面との剥離強度が14N/cm以上であるエアバッグ用基布。
【請求項2】
前記水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が、180℃以上である請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1または2記載のエアバッグ用基布からなるエアバッグ。
【請求項4】
請求項1または2記載のエアバッグ用基布からなる側部衝突保護用エアバッグ。
【請求項5】
少なくとも基布の片面表面に水性ポリウレタン樹脂を有するエアバッグ用基布の製造方法であって、流動開始温度が160℃以上、乾燥後の100%モジュラスが3MPa以下の水性ポリウレタン樹脂を付着量10〜30g/mで基布に付与する工程、および、該水性ポリウレタン樹脂の流動開始温度以上の温度で熱処理をする工程を含むエアバッグ用基布の製造方法。

【公開番号】特開2011−168131(P2011−168131A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32598(P2010−32598)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】