説明

エアバッグ用基布およびエアバッグ

【課題】軽量・柔軟で収納性が高く、空気遮蔽性、耐熱性および難燃性を満足し、樹脂と布帛との接着性に優れ、目ズレやホツレの起き難いエアバッグ用基布およびそれからなるエアバッグを提供する。
【手段】基布の少なくとも片側表面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布であって、該樹脂がフッ素系界面活性剤10〜120ppmを含有するエアバッグ用基布である。前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキル含有オリゴマーおよびパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備され、車両の衝突事故時、瞬時に膨出して乗員を保護するエアバッグに関し、さらに詳しくは、軽量・柔軟で収納性が高く、空気遮蔽性、耐熱性および難燃性を満足し、樹脂と布帛との接着性に優れ、目ズレやホツレの起き難いエアバッグ用基布およびエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種交通機関、とくに自動車の事故発生の際に乗員の安全を確保するためのエアバッグ装置が種々開発されており、その有用性により、自動車においては非常に高い割合で装備されるようになってきた。このエアバッグ装置は、車両の衝突などにおける急激な減速状態を検知するセンサー、センサーより信号を受けて高圧ガスを発生するインフレーター、インフレーターからの高圧ガスにより膨出・展開し、乗員に与える衝撃を緩和するエアバッグ、および、エアバッグ装置が正常に機能しているか否かを判断する診断回路より構成されている。
【0003】
このエアバッグに使用される材料は、非常に様々である。たとえば、ポリアミドなどの高強力長繊維織物にクロロプレンゴムなどの耐熱性エラストマーをコーティング処理した布帛材料があげられる。耐熱性エラストマーを布帛表面に塗布することにより、ポリアミド繊維布帛のみでは不足する耐熱性や難燃性、空気遮蔽性などの性能の向上を図っている。このコーティング処理は、布帛の目ズレやホツレの防止にも大きく役立っている。
【0004】
しかし、布帛にコーティング処理を施すことにより、布帛材料が硬化してしまい、コンパクトに折り畳み難く、収納性の面では問題がある。また、耐熱性や難燃性、空気遮蔽性を満足するためには、布帛の単位面積あたりの耐熱性エラストマー塗布量が50g/m以上にもなり、エアバッグの重量が大きくなってしまうという問題もあった。
【0005】
このような問題点を解消するために、耐熱性エラストマーの塗布量を抑えたエアバッグ用基布が検討されている。たとえば、特許文献1には、エラストマー樹脂が、織物を構成する織糸部1.0に対して、織物目合い部に3.0以上の膜厚比で偏在しているエアバッグが開示されている。これにより収納性については改善されるものの、樹脂と織物との接着性の面については十分とは言えず、さらに、20g/m以下の低塗布量とした場合、この様に樹脂が偏在している状態では、難燃性を満足することは困難である。
【0006】
また、特許文献2には、繊維布帛からなるエアバッグ用基布において、該布帛の少なくとも片面が樹脂で被覆されており、かつ該布帛を構成する少なくとも一部の単糸が該樹脂で包囲されており、かつ該布帛を構成する少なくとも一部の単糸が該樹脂で包囲されていないことを特徴とするエアバッグ用基布が開示されている。これは、収納性を改善しながら、樹脂と織物との接着性を向上させたものであるが、難燃性の点では不十分であると言わざるを得ないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2853936号公報
【特許文献2】特開2004−124321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来のエアバッグ用基布の欠点に鑑み、軽量・柔軟で収納性が高く、空気遮蔽性、耐熱性および難燃性を満足し、樹脂と布帛との接着性に優れ、目ズレやホツレの起き難いエアバッグ用基布およびそれからなるエアバッグを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、合成繊維織物の少なくとも一方の面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、樹脂にある特定の界面活性剤を微量添加することによって、樹脂の塗布量を極少量としながらも、難燃性、接着性、空気遮蔽性および目ズレやホツレが起き難いエアバッグ用基布を得ることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は、基布の少なくとも片側表面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布であって、該樹脂がフッ素系界面活性剤10〜120ppmを含有するエアバッグ用基布に関する。
【0011】
前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキル含有オリゴマーおよびパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0012】
前記樹脂が、塗布量25g/m以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記のエアバッグ用基布からなるエアバッグに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂に微量のフッ素系界面活性剤を添加させることで、樹脂の塗布量が極少量であっても、優れた難燃性および基布との接着性を有するエアバッグ用基布を提供することができる。
【0015】
樹脂の塗布量を極少量とすることができるため、軽量・柔軟で収納性の高いエアバッグを提供することができ、エアバッグ装置自体の軽量化にも寄与する。これにより、自動車の低燃費化を可能とし、地球環境の保護にも貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のエアバッグ用基布は、基布の少なくとも片側表面が樹脂で被覆されており、該樹脂がフッ素系界面活性剤10〜120ppmを含有することを特徴としている。このように微量のフッ素系界面活性剤をコーティング樹脂に添加することによって、理由は明らかにはなっていないが、難燃性を著しく向上させることができる。
【0017】
本発明に用いられる樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂およびフッ素樹脂などの含ハロゲン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、オレフィン樹脂およびシリコーン樹脂などがあげられ、これらは単独または併用して使用することができる。なかでも、可撓性、耐熱性および耐候性に優れる点で、シリコーン樹脂が好ましい。
また、本発明に用いられる樹脂には、ゴム弾性を有するものも含まれ、例えば、クロロプレンゴム、ハイバロンゴムおよびフッ素ゴムなどの含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン三元共重合ゴム、ニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどがあげられる。なかでも、可撓性、耐熱性および耐候性に優れる点で、シリコーンゴムが好ましい。
【0018】
前記シリコーン樹脂としては、とくに限定されず、たとえば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、メチルビニルシリコーン樹脂、アルキッド変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、および、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、トリメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、などがある。なかでも、硬化後にゴム弾性を有し、強度、伸び等に優れ、コスト面でも有利という理由により、メチルビニルシリコーンゴムが好ましい。
【0019】
前記樹脂は、通常市販されているものを用いればよく、そのタイプは、無溶剤型、溶剤希釈型、水分散型などとくに限定されない。また、硬化剤、接着向上剤、充填剤、補強剤、顔料、難燃助剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
また、シリコーン樹脂を使用する場合には、シリコーン樹脂硬化後の粘着性低減やシリコーン樹脂の補強などを目的として、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂など、他の高分子材料を含んでいてもよい。
【0021】
前記樹脂の粘度は、その固型分や、付与法に応じて最適な範囲を選定することができる。なかでも、25℃において、0.1〜200Pa・sであることが好ましい。25℃における粘度が0.1Pa・sより低いと樹脂の基布への浸透が大きくなり、得られる基布が硬くなる傾向にあり、200Pa・sをこえると、付与加工時の取扱い性が悪くなる傾向にある。
【0022】
前記樹脂に配合するフッ素系界面活性剤としては、とくに限定されないが、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキル含有オリゴマーおよびパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなる群から選択される1種または2種以上であることが、該界面活性剤の添加量も少なくなり、かつ樹脂の保存安定性の点で好ましい。
【0023】
前記フッ素系界面活性剤は、樹脂中に、10〜120ppmとなるように添加する。この添加量は、25〜100ppmであることが好ましく、50〜100ppmであることがより好ましく、50〜80ppmであることがとくに好ましい。添加量が10ppmより少ないと、樹脂を塗布する際に均一とならず、樹脂を後述する塗布量にて塗布した場合、難燃性が低下してしまう。また、添加量が120ppmをこえると、樹脂が十分に架橋されず、基布との接着性が低下する。
【0024】
前記樹脂は、基布の少なくとも片側表面に、コーティング方式などにより塗布される。なかでも、塗布用ナイフと台(ベッド)の間に基布を挟みこんだ状態でコーティングを行う、いわゆるナイフオンベッド方式であることが好ましい。
【0025】
その塗布量は、25g/m以下であることが好ましく、20g/m以下であることがより好ましい。塗布量が25g/mをこえると、エアバッグとした場合の重量が大きくなりすぎる傾向にある。また、下限値は、10g/mであることが好ましい。塗布量が10g/mよりも少なくなると、得られるエアバッグ用基布が難燃性や空気遮蔽性の点で劣るおそれがある。
【0026】
本発明で使用される基布は、織物、編物、組物、不織布、シート状物、ネット状物、あるいはこれらの複合物、積層物など、要求性能を満たす材料であればいずれでもよい。
【0027】
本発明で使用される基布を構成する繊維糸条の繊度は、工業用途で使用されているものから適宜選定すればよい。なかでも、155〜700dtexであることが好ましく、235〜470dtexであることがより好ましい。総繊度が155dtexより小さいと、布帛の強度を維持することが困難となる傾向にあり、総繊度が700dtexをこえると、布帛の厚みが増大し、エアバッグの収納性が悪くなる傾向にある。
【0028】
また、前記繊維糸条の単糸繊度は、0.5〜7.3dtexの範囲にあればよく、0.5〜4.0dtexであることがより好ましい。単糸繊度を小さくすることにより、織物の通気性が下がり、柔軟性も向上しエアバッグの折り畳み性が改良される。
【0029】
前記基布が織物の場合、その織構造の緻密さを示す指数であるカバーファクターが、700以上であることが好ましく、750以上であることがより好ましい。
【0030】
ここでいうカバーファクター(CF)とは、織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度N(本/cm)と太さD(dtex)の平方根との積で求められ、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)
Dw,Dfは、経糸および緯糸の太さ(dtex)
【0031】
前記織物は、平織、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの組合せ、連続または断続した複合組織など、とくに限定されない。なかでも、織物構造の緻密さ、ならびに物理特性の経と緯の方向性が少ない点で平織が好ましい。また、必要に応じて、経糸、緯糸の二軸以外に斜め60度や45度を含む3軸、4軸などの多軸設計としてもよく、その場合の糸の配列は本来の経糸または緯糸と同様の配列に準じればよい。
【0032】
前記織物の製造は、通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機から適宜選定すればよく、たとえばシャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機などから選定したものを用いればよい。
【0033】
前記基布が編物の場合は、シングルトリコット編、シングルコード編、シングルアトラス編などの経編、通常の経編に緯糸を挿入した緯糸挿入型の経編、平編、ゴム編、パール編などの緯編、などの編組織を単独またはそれらを組み合わせた二重組織などからなるものがあげられる。
【0034】
また、前記基布が不織布の場合は、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、メルトブロー法、抄紙法などにより製造されたものがあげられる。
【0035】
単糸の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、花弁形、星型、その他の異形や、中空など、繊維糸条の紡糸および織物の製造、さらには得られる織物の物性に支障のない範囲で適宜選定すればよい。なかでも、生産性やコストの点で丸断面であることが好ましく、エアバッグの収納性という点では扁平断面であることが好ましい。
【0036】
繊維糸条の構成要素および形態も特に限定されるものではなく、例えば、構成要素としては、フィラメント糸、紡績糸などが、また形態としては、混紡糸、混繊糸、交撚糸、捲回糸などがあげられる。
本発明で使用される繊維糸条は、上記のような構成要素および形態の組み合わせにより自由に設定することができる。なかでも、生産性、コスト面、機械的強度に優れ、また、単糸の広がりにより低通気性が得られやすいという点で、無撚あるいは甘撚のフィラメント糸が好ましい。
【0037】
また、繊維糸条の強度は、5.4cN/dtex以上であることが好ましく、8.0cN/dtex以上であることがより好ましい。繊維糸条の強度が5.4cN/dtexより小さいと、エアバッグとしての物理的特性を満足することが困難になるおそれがある。
【0038】
前記基布は、目付けが190g/m以下、引張強力が経方向、緯方向ともに650N/cm以上であることが好ましく、目付けと引張強力がこの範囲であれば、軽くて物理特性に優れた材料として用いることができる。なお、ここでいう目付けは、コーティング樹脂を付与する前の未加工状態の基布重量をいう。
【0039】
前記基布を構成する繊維糸条は、天然繊維、化学繊維、無機繊維など、とくに限定されるものではない。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、などの単独またはこれらの共重合(三元共重合も含む)、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸との複合型共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合により得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンに代表される含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PSS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、綿、麻、ケナフ繊維などのセルロース系繊維、絹、羊毛などの天然繊維、ポリ乳酸、琥珀酸に代表される生分解性繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維などから、1種または2種以上を選定することができる。なかでも、汎用性があり、織物の製造工程への適用性、織物物性に優れる点で、合成長繊維(フィラメント)が好ましい。そのなかでも、物理特性、耐久性、耐熱性などの点で、ナイロン66繊維が好ましい。
【0040】
前記繊維糸条には、紡糸性や加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種添加剤、たとえば、紡糸油剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0041】
また、本発明は、前記エアバッグ用基布からなるエアバッグである。本発明のエアバッグは、前記エアバッグ用基布から裁断して得られる1枚または複数枚からなる本体パネルの外周、本体パネルと各種パーツ、および、各種パーツ同士などを接合して得られる。この接合は、縫製、接着、溶着など、いずれの方法によってもよい。縫製の場合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなど、通常のエアバッグに適用される縫い仕様により行うことができる。縫製糸の太さは、30番手(470dtex相当)〜0番手(2800dtex相当)であることが好ましく、運針数は2〜10針/cmであることが好ましい。複数列の縫い目線を必要とする場合は、縫い目線間の距離は2〜10mm程度として、多針型ミシンにより一度の、あるいは1本針ミシンにより複数回の縫製により行ってもよい。
【0042】
縫製糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているもののなかから適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド繊維系、高分子ポリオレフィン繊維系、含フッ素繊維系、ビニロン繊維系、芳香族ポリアミド系、PBO繊維系、PPS繊維系、カーボン繊維系、ガラス繊維系、スチール繊維系などがあげられ、これらの紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント片撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれであってもよい。
【0043】
接合が、接着または溶着による場合は、要求される接合部の強さに応じて接合法を選定すればよい。接着の場合、たとえば、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、酢酸ビニル系、シアノアクリレート系、フェノールまたはレゾルシン系、含ハロゲン系などの樹脂系接着剤またはゴム系接着剤を用いることができる。溶着の場合は、接合該当部の基布同士を重ね合わせて高周波、超音波などの高エネルギー溶着機により溶着することができる。このとき、基布同士の間に熱溶融性材料、たとえば、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系などのホットメルト樹脂、あるいはポリウレタン系、ポリオレフィン系などの反応性ホットメルト樹脂などを挟んだ状態で溶着させることにより基布の損傷を軽減させることができる。
【0044】
本発明のエアバッグは、使用するインフレーターの特性により、必要に応じてインフレーターの取付け口周囲やガス噴出孔周縁の本体パネルや補助パネルの表面上に、耐熱保護布や力学的な補強布を設けてもよい。これらの保護布や補強布は、本体パネルに用いた基布から裁断したパーツ、本体パネルと同一素材からなる太繊度糸を用いた高目付け基布から裁断したパーツ、基布自体が耐熱性の材料、たとえば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド系繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料からなる基布から裁断したパーツなどを用いればよく、使用する枚数も、要求される耐熱性、補強効果などにより1枚あるいは複数枚とすればよい。
【0045】
本発明のエアバッグの仕様、形状および容量などは、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能あるいはインフレーター出力などに応じて選定すればよい。
【0046】
また、エアバッグに乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、1個または複数個の排気孔、たとえば直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積の孔、またはこれらの排気性能に相当するスリット、膜、弁などを設けてもよい。前記排気孔の周囲には、熱ガス排気による変形を抑えるために補強パーツを用いてもよい。さらに、エアバッグの膨張初期において乗員側への突出を抑制したり、エアバッグ本体膨張部の厚みを制御するために、袋内部に形状制御用吊り紐を設けることが好ましい。また、袋内部にインフレーターから噴出するガス流路を制御するガス流路調整パーツ、さらにはエアバッグ本体の膨張形状を制御するために袋外部にフラップと呼ぶ帯状パーツなどを設けてもよい。
【0047】
エアバッグを収納する際の折り畳みも、運転席用バッグのように中心から左右および上下対称の屏風折り、あるいはエアバッグの外周から中心に向かって多方位から押し縮める多軸折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折りなどにより折り畳めばよい。
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例における各種評価は下記の方法に従って測定した。
【0049】
(1)通気性:エアバッグ用基布の空気遮蔽性を評価するもので、JIS L 1096 8.27.1 A法(フラジール形法)にしたがって測定した。
【0050】
(2)接着性:樹脂と基布との接着性を評価するもので、JIS L−1096の8.17.2B法(スコット法)に準じて、基布の樹脂塗布面に対する摩耗強さにより評価した。摩耗強さの評価条件は、2枚の試験片の樹脂塗布面同士を合わせた1対を試験機に固定して試験したこと以外は、規定された方法に準じ、摩耗回数を500回として試験後の樹脂塗布面(摩耗面)の状態を観察した。
観察した摩耗面の状態を次の5段階評価基準により判定し、4級以上を合格とした。

<摩耗面に対する評価基準>
1級:塗布膜が全面剥離している
2級:塗布膜が部分的に剥離している
3級:塗布膜が一部剥離している
4級:塗布膜が僅かに剥離している
5級:塗布膜に全く変化がない
【0051】
(3)難燃性:FMVSS302に規定される方法により燃焼速度[mm/分]を測定した。
【0052】
[実施例1]
丸断面、繊維糸条の強度8.5cN/dtexのナイロン66繊維、470dtex/72フィラメントの糸を経糸および緯糸として製織し、経糸と緯糸の織密度がともに18本/cmの平織の織物(目付け175g/m、引張強力650N/cm(経方向、緯方向ともに))を得た。次いでこの織物を経糸と緯糸の織密度がともに18本/cmを保持するようにして、定法により精練、熱セットを行った。粘度15Pa・s(25℃)の無溶剤系シリコーン樹脂(メチルビニルシリコーンゴム)にフッ素系界面活性剤であるパーフルオロアルキル含有オリゴマー(明成化学工業株式会社製)を25ppm添加したコーティング樹脂を用いて、得られた基布の片側表面に、ナイフオンベッドコーティング法にて付着量が12g/mとなるように塗布した。次いで、乾燥および熱処理を行い、本発明のエアバッグ用基布を得た。
【0053】
[実施例2]
フッ素系界面活性剤の添加量を50ppmとした以外は、実施例1と同様にして本発明のエアバッグ用基布を得た。
【0054】
[実施例3]
フッ素系界面活性剤の添加量を100ppmとした以外は、実施例1と同様にして本発明のエアバッグ用基布を得た。
【0055】
[実施例4]
フッ素系界面活性剤をパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(明成化学工業株式会社製)とした以外は、実施例2と同様にして本発明のエアバッグ用基布を得た。
【0056】
[比較例1]
フッ素系界面活性剤の添加量を150ppmとした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0057】
[比較例2]
フッ素系界面活性剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0058】
[比較例3]
フッ素系界面活性剤を添加しなかったこと、および、塗布量を30g/mとしたこと以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0059】
実施例および比較例にて得られたエアバッグ用基布について、評価した結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
コーティング樹脂にフッ素系界面活性剤を添加した実施例1〜4は、樹脂の塗布量が少ないにもかかわらず、難燃性に優れており、接着性も良好であった。
【0062】
フッ素系界面活性剤を多量に添加した比較例1は、難燃性には優れていたが、接着性に劣るものであった。比較例2は、フッ素系界面活性剤を添加しなかったため、十分な難燃性が得られなかった。比較例3も同様にフッ素系界面活性剤を添加しなかったが、基布への樹脂塗布量が多いため、難燃性および接着性は良好であった。しかし、樹脂の塗布量を多くしたことで、得られたエアバッグ用基布の目付けおよび厚みが増し、エアバッグ製造に際して重要となる軽量性および収納性の点で劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の少なくとも片側表面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布であって、該樹脂がフッ素系界面活性剤10〜120ppmを含有するエアバッグ用基布。
【請求項2】
前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキル含有オリゴマーおよびパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなる群から選択される1種または2種以上である請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記樹脂が、塗布量25g/m以下である請求項1または2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のエアバッグ用基布からなるエアバッグ。

【公開番号】特開2012−6508(P2012−6508A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144914(P2010−144914)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】