説明

エアバッグ用基布及びその製造方法

【課題】軽量でかつ基布を構成する糸の滑脱抵抗が高く、縫製部の目ずれや裁断線からのホツレが少ないエアバッグ用基布を提供する。
【解決手段】合成繊維からなる織布であって、経糸1および緯糸2の何れか一方又は両方に、基本組材に用いられている合成繊維より50℃以上融点の低い繊維を、重量混合比0.5〜5.0%で織機上にて交織し、製織後に低融点繊維の融点より高い温度で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグに用いる基布とその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、軽量でかつ基布を構成する糸の滑脱抵抗が高く、縫製部の目ずれや裁断線からのホツレ(解れ)が少ないエアバッグ用基布、及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員安全保護装置としてエアバッグの装着が急速に進み、自動車の前部衝突時の運転者保護用、助手席者保護用のエアバッグ、座席シートに内蔵された側部衝突時の胸部及び大腿部・腰部保護用、または側部窓に沿って展開するよう窓上部の天井内に装着された側部衝突時の頭部保護用エアバッグなど、その装着数も増えてきている。
【0003】
これらの安全保護装置(以下、モジュールと記す)は、エアバッグを展開、膨張させるガス発生器(以下、インフレーターと記す)、乗員と当接して乗員の衝突エネルギーを吸収、緩和する袋体のエアバッグ、これらを連結する金属などの部品、電気信号伝達用の配線、車内に装着し易いように装置上部を被覆し意匠性も考慮された樹脂成型品、など多くの構成部品から成り、車内各部に搭載された各モジュールの重量合計は少なくないものになる。
【0004】
そこで、モジュールを構成する部品を、軽く、コンパクトにする努力がなされている。この内、エアバッグの軽量化を図るため、エアバッグ本体を構成する布帛、例えば織物に細い糸を用いて織物の重量を軽くすることは検討されてきた。
【0005】
例えば、従来使用されていた940dtexや700dtexの糸より細い470dtexや350dtexの糸を用いた織物から作成されたエアバッグが実用化されており、さらに、特許文献1(特開2000−153743号公報)には繊度200〜250d(222〜278dtex)の糸を用いたエアバッグ用基布が提案されている。
【0006】
しかし、これらの細い糸を用いた織物は、従来の太い糸を用いた織物に比較して、基布重量は軽くなるものの、引張強力、引裂強力などの物理特性が低下し、織物が薄くなって縫製部の目ずれや裁断時のホツレ、加工時の織物の目ずれなども発生し易くなる傾向にあった。特に、ガス温度の高いインフレーターの場合には、縫製部の穴が縫い糸によって拡大し、この拡大した穴から熱ガスが抜ける際に、縫い目周囲が軟化、溶融し易くなり、場合によっては溶融した縫い目が連続し、縫製部の溶融破断を生じることもあった。
【0007】
そのため、織物の裁断時のホツレの発生を抑える試みについて提案されている。例えば、特許文献2(特開平6−286547号公報)には経糸及び緯糸の何れか一方又は両方に低融点糸を適宜の間隔で織り込み、低融点糸の溶融する温度で加熱し、低融点糸を高融点糸に融着する方法が開示されている。
【0008】
しかし、この提案については、裁断時のホツレに限定したものであり、また、低融点糸を基本組材の一部として用いることで、強度特性を損なう恐れがある。また、交織する間隔に関しての言及が乏しく、その間隔を細かくすることで基布の硬化がすすみ、収納性を悪くする恐れがある。
【0009】
また、特許文献3(特開平10−266040号公報)には、合成繊維からなるノンコートエアバッグ用織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部に高融点繊維と低融点繊維を合撚または合糸した糸条を用い、製織後に低融点繊維の融点以上の温度で熱セットする方法が開示されている。
【0010】
この文献での提案についても、特に加工時の目ずれや裁断時のホツレに限定したものであり、また、その製造工程において、合撚または合糸を必要としており、どちらも工程を増やすことで経済性を欠くものとなる。また、合撚の場合は、基本組材を構成する糸に撚りが加わることでの性能の変化が見逃せないものとなる。また、合糸の場合はその形態のため、生産時の安定性を欠き、著しく生産性を損ねるものとなる。
【特許文献1】特開2000−153743号公報
【特許文献2】特開平6−286547号公報
【特許文献3】特開平10−266040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エアバッグ用基布として用いられている従来の基布より軽く、かつ軽量基布の一般的な仕様である布帛構造において、従来の基布では不足していた糸の滑脱抵抗が高く、縫製部の目ずれや裁断時のホツレが少ないエアバッグ用基布とその製造方法を提案するものであり、前記した先行技術では到底得ることの出来ない優れた特性を有する基布および該基布を用いたエアバッグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エアバッグに用いられる基布の少なくとも経糸及び緯糸のいずれかに基本組材に用いられる合成繊維より融点の低い繊維を交織することにより、軽量ではありながらエアバッグ用基布として求められる物理特性に優れた、上記課題を解決する基布を提供する。
【0013】
すなわち、本発明は、合成繊維の織布からなるエアバッグ用基布であって、経糸及び緯糸の何れか一方又は両方に、基本組材に用いられている合成繊維より50℃以上融点の低い繊維が重量混合比0.5〜5.0%の範囲で織機上にて交織されてなり、製織後に前記低融点繊維の融点より高い温度で熱処理されてなることを特徴とする。
【0014】
前記エアバッグ用基布において、前記低融点繊維の糸条が前記基本組材の糸条と同口にて交織されてなるものが好ましい。
【0015】
また、本発明は、経糸及び/又は緯糸として、前記基本組材の糸条複数本と前記低融点繊維の糸条1本とを繰り返し単位にして、前記低融点繊維の糸条が基本組材の糸条の複数本毎に配されてなるものとする。
【0016】
さらに、本発明は、合成繊維の織布からなるエアバッグ用基布の製造方法であって、経糸及び緯糸の何れか一方又は両方に、基本組材の糸条に用いられている合成繊維より50℃以上融点の低い繊維の糸条を、重量混合比0.5〜5.0%の範囲で前記基本組材の糸条と織機上にて交織し、製織後に低融点繊維の融点より高い温度で熱処理することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明は、前記のエアバッグ用基布の製造方法において、経糸及び/又は緯糸として、前記基本組材の糸条複数本と前記低融点繊維の糸条1本とを繰り返し単位にして、基本組材の糸条の複数本毎に前記低融点繊維の糸条を基本組材の糸条と同口にて交織する。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明により、軽量でありながら、滑脱抵抗に優れ、縫製部の目ずれや裁断線からのホツレが少なく、しかも強度等の物理特性や収納性を損なうことがないエアバッグ用基布の提供でき、さらに、該基布を用いた軽量エアバッグをも提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、合成繊維からなるエアバッグ用織布であり、このエアバッグ用布帛においては、織物を構成する経糸及び/又は緯糸に基本組材の糸条に用いられている合成繊維に比べ融点が50℃以上低い繊維(低融点繊維ともいう)を重量混合比0.5〜5.0%にて製織することが肝要である。このように製織された基布を前記低融点繊維の融点以上の温度で熱処理を施し、低融点繊維のみを溶融させることで、経糸もしくは緯糸さらには組織交錯点で両者が熱接着し、基布組織からのホツレ(解れ)作用に対する抵抗力を極めて高くすることができる。
【0020】
本発明のエアバッグ用基布を構成する低融点繊維の糸条は、合成繊維フィラメントが、汎用性があり、基布の製造工程、基布物性などの点から好ましい。例えば、ポリアミド系多元共重合繊維、ポリエステル系多元共重合繊維、ポリオレフィン系共重合繊維、ポリビニールアルコール系共重合繊維、ポリウレタン系共重合繊維などから適宜選定すればよいが、なかでもポリアミド系繊維が性能上好ましい。
【0021】
これらの繊維糸条には紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用さている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの一種または二種以上を使用してもよい。
【0022】
これらの低融点繊維の糸条の太さは、20dtex以上、好ましくは50dtex以上であることが必要であり、20dtex未満では高融点繊維の交錯点接着による滑脱抵抗力を十分に向上させることができない場合がある。低融点繊維の糸条の太さの上限は、得られる基布特性、性量により選定すればよいが、柔軟な基布を得る上で300dtex以下が好ましく、更に言うと170dtex以下であることがより好ましい。
【0023】
これらの低融点繊維の融点については、好ましくは基本組材をなす糸条に用いられる繊維の融点より50℃以上低いことが望ましい。さらに好ましくは100℃以上低いことが好ましい。融点の差が50℃より少ない場合、熱処理にて基本組材の糸条まで溶融する恐れがある。かつ、熱処理の温度が低融点繊維の融点を若干しか上回らないため、繊維を完全に溶融させるために長い時間が必要になってしまう。
【0024】
本発明のエアバッグ用基布を構成する基本組材の繊維の糸条についても、合成繊維フィラメントが、汎用性があり、基布の製造工程、基布物性などの点から好ましい。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合によって得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含む含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維、などから適宜、一種または2種以上を選定すればよいが、物理特性、耐久性、耐熱性などの点からナイロン66繊維を用いることは好ましい。また、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維、ナイロン6繊維も好ましい。
【0025】
これらの基本組材の繊維糸条には、紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの一種または二種以上を使用してもよい。また、カラミ織を製織する上で望ましい場合には、加撚、嵩高加工、捲縮加工、捲回加工、糊付け加工、などの加工を施してもよい。さらに、糸条の形態は、長繊維フィラメント以外に、短繊維の紡績糸、これらの複合糸などを用いても良い。
【0026】
これらの基本組材に用いる繊維糸条の太さは、200dtex以上好ましくは230dtex以上であることが必要であり、200dtex未満ではエアバッグに必要とされる力学特性を十分に満たすことができない場合がある。基本組材の繊維糸条の太さの上限は、得られる基布特性、性量により選定すればよいが、軽量な基布を得る上で1000dtex以下が好ましく、更に言うと500dtex以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、本発明において基本組材の糸条の繊維と低融点繊維がいずれもナイロン系のポリマーであることが、物理特性、耐久性、耐熱性などの点から特に好ましい。
【0028】
本発明では、エアバッグ用基布の経糸及び緯糸の何れか一方又は両方を構成する糸条における低融点繊維の重量混合比は0.5〜5.0%で製織することが好ましい。さらに好ましくは1.5〜3.0%で製織することが特に好ましい。重量混合比が0.5%より少ない場合は、縫製部の目ずれを低減する効果が少なくなる恐れがある。また、重量混合比を5%より多くした場合は、基布そのものの柔軟性を損ない収納性などを低くする恐れがある。
【0029】
本発明においては、低融点繊維は、製織時に該低融点繊維の糸条が基本組材の糸条と同口にて交織することが好ましい。合撚や合糸の場合、工程を増やすことで経済性を欠くものとなる。また、合撚の場合は、基本組材を構成する糸に撚りが加わることでの性能の変化が見逃せないものとなる。また、合糸の場合は、同配列内の低融点繊維の糸条と基本組材の糸条が製織時に不規則なねじれ形態になり、性能が不安定なものになる。かつ、生産時の安定性を欠き、著しく生産性を損ねるものとなる。また、同口でない場合、溶融後に基本組材が目的の構造でなくなるため、性能の変化が見逃せないものとなる。
【0030】
したがって、エアバッグ用基布の製織の際、経糸及び/又は緯糸として、前記基本組材の糸条複数本と前記低融点繊維の糸条1本とを繰り返し単位にして、基本組材の糸条の複数本毎に前記低融点繊維の糸条を基本組材の糸条と同口にて交織するのが、製織時のねじれ形態を伴わず、前記重量混合比を前記範囲にして、かつ強度等の物理特性や収納性を損なわないようにする上で特に好ましいものとなる。
【0031】
本発明の基布は、織物構造の緻密さ、物理特性や性能の均等性を確保する為に平織が好ましいが、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの複合組織などいずれでも良い。場合によっては、経糸、緯糸の二軸以外に、斜め60度などを含む多軸設計としても良く、その場合の糸の配列は、経糸または緯糸と同じ配列に準じれば良い。
【0032】
本発明に使用されるエアバッグ用基布の製造は、通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機から適宜選定すればよく、例えばシャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機、などから選定すればよい。
【0033】
本発明では気密性を確保する為に、基布の少なくとも片面に不通気加工により被覆材を施すことは好ましく、例えば、基布の片面に塗布量10g/m以上または厚さ10μ以上の材料を用いれば良い。被覆材は、通常、エアバッグ用基布に使用されている材料であれば良く、耐熱性、摩耗性、基布との密着性、難燃性、不粘着性、などを満足するものであれば良い。例えば、シリコーン系樹脂またはゴム、ポリウレタン系樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性も含む)、フッ素系樹脂またはゴム、塩素系樹脂またはゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂などの1種または2種以上を用いれば良い。
【0034】
該被覆材の付与方法は、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイ、リップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリー、グラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、5)ラミネート法、などの加工法によればよい。
【0035】
また、被覆材には主たる材料の他、加工性、接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延罪、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤、などの一種または二種以上を選択、混合しても良い。
【0036】
被覆材の液体としての性状は、塗布量、塗布法、材料の加工性や安定性、被覆材として要求される特性などに応じて、無溶媒型、溶媒型、水分散型、水乳化型、水溶性型、などから適宜選定すればよい。
【0037】
被覆材は、基布の少なくとも片面の表面、基布を構成する糸束の間隙部あるいは、繊維単糸の間隙部など、いずれに介在させてもよい。また、被覆材には基布との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加しても良いし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施しても良い。さらに、該被覆材の物理特性を向上させたり、耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与するため、被覆材を織物に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱風処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などにより行ってもよい。
【0038】
本発明になるエアバッグの仕様、形状、容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
【0039】
また、エアバッグに乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、一個または複数の排気穴、例えば直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積に穴、またはこれらの排気性能に相当するスリット、膜、弁などを設けてもよく、排気部の周囲には、補強布を接合、積層しても良い。さらに、乗員側へのエアバッグの突出を抑制したりや膨張時の厚みを制御するためにエアバッグ内側に吊り紐、ガス流調整布、あるいはエアバッグ外側にフラップと呼ぶ帯状布、抑え布などを設けても良い。
【0040】
エアバッグ本体を構成する裁断基布の枚数は、1枚または複数枚のどちらでもよく、エアバッグの接合部、例えば、外周部、補強布や吊り紐の固定などは、縫製、接着、溶着、製織、製編あるいはこれらの併用など、いずれの方法によってもよく、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の衝撃吸収性能などを満足するものであればよい。例えば、接合部を縫合により接合する場合、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫い、などの通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えばよい。また、縫い糸の太さは700dtex(20番手相当)〜2800dtex(0番手相当)、運針数は2〜10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目線間の距離は2.2mm〜8mm程度として、多針型ミシンを用いればよいが、縫製部距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の裁断基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合しても良いし、一枚づつ縫合しても良い。
【0041】
また、場合によっては、外周縫合部などからの縫い目からのガス抜けを防ぐため、シール材、接着剤、粘着材、などを縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布、積層してもよい。
【0042】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0043】
また、使用するインフレーターの特性によっては、インフレーター噴出口周囲に熱ガスから保護するための耐熱保護布や力学的な補強布を設けても良い。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料を用いても良いし、エアバッグ本体と同じか本体用基布より太い糸を用いて別途作成した織物を用いても良いし、該織物に耐熱性被覆材を施したものを用いても良い。
【0044】
エアバッグを収納する際の折畳み法も、運転席用バッグのように中心から左右、上下対称の屏風折り、あるいは中心に向かって多方位から押し縮める折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折り、などにより折畳めばよい。
【0045】
本発明は、従来のエアバッグ用基布とは異なる構成から成る織物であって、目付けの低い、しかも織物の縫製部の目ずれ、組織ずれの少ない基布ならびに該基布を用いたエアバッグを提供するものであり、各種の乗員保護用バッグ、例えば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、後部座席保護用、追突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備、または、衣料用途や他の産業資材など多用途に適用しても良い。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づき本願発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用基布およびエアバッグ特性の性能評価の方法を以下に示す。
【0047】
(1)滑脱抵抗
ASTM D6479に規定された方法により、織物からの糸の滑脱抵抗性について、経方向と緯方向からそれぞれn=3で測定し、これらの総平均値を滑脱抵抗力(N)として算出した。
【0048】
(2)エアバッグの展開試験および展開後の縫い目部の状態
エアバッグの展開試験は、ダイセル社製インフレーター(型式ZA、2ステージ型、出力160kpa/220kpa)、固定金具、樹脂製ケースを用いてモジュールを組み立て実施した。モジュールは100度で約5時間予熱した後、展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態ならびに展開後のエアバッグ外周縫製部の状態を観察した。
【0049】
評価に使用した運転席用エアバッグの作成法を以下に示す。
【0050】
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ690mmである円形の本体パネルを2枚裁断し、一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、ならびに該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置にφ30mmの排気孔を2箇所(左右一対)開口した。また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と、織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/mを塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口の補強布として、外径210mm、内径67mmの第1の環状布をノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気孔補強布として、前記コート基布から外径90mm、内径30mmの第2の環状布を2枚裁断した。
【0051】
そして、3枚の前記ノンコート基布の第1の環状布をインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫製し、その上から同一形状の前記コート基布の第1の環状布1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の第1の環状布による補強布を本体パネルに円形に縫い合わせた。また、それぞれの排気孔には、前記コート基布の第2の環状布を1枚重ね合わせて本体パネルに縫い付けた。前記第1の環状布、第2の環状布の各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせた。インフレーター取付け口の周囲には、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設けた。環状布による補強布の本体パネルへの縫い付けには、上糸を5番手糸(1400dtex相当)、下糸を8番手糸(940dtex相当)として、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、2枚の本体パネルは、環状布による補強布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目線間2.4mm、縫い代を20mmとして二重環縫い2列にて縫合し、内径φ650mmの円形エアバッグを作成した。外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸の組み合わせを用いた。
【0052】
上記条件でのエアバッグの展開時の挙動および展開後の外周縫製部の縫い目部の状態を肉眼で判定した。
【0053】
(3)収納性
(2)と同様のエアバッグをモジュール化する際と同様の形状で折りたたみ、2kgfの荷重をかけた際の厚みを確認し判定した。
【0054】
[実施例1]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本(基本組材)の糸条Aとして470dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして56dtex/10f(融点:110℃)を用いて、図1に示すように、経糸1には基本の糸条Aのみを配し、緯糸2には基本の糸条Aの4本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して平織物10を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aの4本目と融点の低い糸条Bの1本を、同口(同口2本入れ)で製織した。そして、経21本/cm、緯26本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が高く、展開時の挙動および展開後のエアバッグの外周に問題はなかった。また、収納性についても良好であった。
【0055】
[実施例2]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本の糸条Aとして350dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして56dtex/10f(融点:110℃)を用いて、図2に示すように、緯糸2には基本の糸条Aのみを配し、経糸1には基本の糸条Aの3本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して平織物10を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aの3本目と融点の低い糸条Bを同口で製織した。そして、経32本/cm、緯24本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が高く、展開時の挙動および展開後のエアバッグの外周に問題はなかった。また、収納性についても良好であった。
【0056】
[実施例3]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本の糸条Aとして470dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして78dtex/10f(融点:110℃)を用いて、図3に示すように、経糸1、緯糸2ともに基本の糸条Aの4本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して平織物10を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aの4本目と融点の低い糸条Bを同口で製織した。そして、経23本/cm、緯23本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行った。次いで、無溶剤シリコーン樹脂(東レ・ダウ社製、二液付加反応型)を塗布量25g/mにて付与し、180℃×1分間熱処理してエアバッグ用コート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が高く、展開時の挙動および展開後のエアバッグの外周には問題はなかった。また、収納性についても良好であった。
【0057】
[比較例1]
経糸1、緯糸2にいずれもナイロン繊維の470dtex/136f(融点:260℃)の糸条を用いて、図4に示すような平織物10を作成した。経21本/cm、緯21本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が低く、展開試験にて外周部から大きく破損した。また、収納性については良好であった。
【0058】
[比較例2]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本の糸条Aとして350dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして33dtex/10f(融点:110℃)を用いて、図5に示すように、経糸1には基本の糸条Aのみを配し、緯糸2には基本の糸条Aの4本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して平織物を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aの24本目と融点の低い糸条Bを同図のように同口で製織した。そして、経24本/cm、緯25本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が低く、展開試験にて外周部から大きく破損した。また、収納性については良好であった。
【0059】
[比較例3]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本の糸条Aとして470dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして110dtex/20f(融点:110℃)を用いて、図6に示すように、経糸1には基本の糸条Aのみを配し、緯糸2には基本の糸条Aの1本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して平織物10を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aと融点の低い糸条Bを同口で製織した。そして、経21本/cm、緯42本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:180℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。表1に示すように、得られた基布は滑脱抵抗力が高く、展開時の挙動および展開後のエアバッグの外周には問題はなかった。しかしながら、基布は硬く収納性は良好な結果を得られなかった。
【0060】
[比較例4]
経糸、緯糸にいずれもナイロン繊維の糸条で、基本の糸Aとして470dtex/136f(融点:260℃)、融点の低い糸条Bとして56dtex/10f(融点:245℃)を用いて、経糸1には基本の糸条Aのみを配し、緯糸2には基本の糸条Aの4本および融点の低い糸条Bの1本を繰り返し単位として配列して図1に示す平織物を作成した。その際、同図示のように基本の糸条Aの4本目と融点の低い糸条Bを同口で製織した。そして、経21本/cm、緯26本/cmの密度にて生機を作成した。その後、精練、セット(温度:255℃)を行いエアバッグ用ノンコート基布を得た。しかしながら、基本組材も溶融、硬化しておりエアバッグを作成できなかった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護装置としての各種のエアバッグに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【図2】実施例2の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【図3】実施例3の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【図4】比較例1の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【図5】比較例2の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【図6】比較例3の基布の織構造を示す組織拡大図である。
【符号の説明】
【0063】
A…基本組材の糸条、B…融点の低い糸条、1…経糸、2…緯糸、10…布帛。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維の織布からなるエアバッグ用基布であって、経糸及び緯糸の何れか一方又は両方に、基本組材に用いられている合成繊維より50℃以上融点の低い繊維が重量混合比0.5〜5.0%の範囲で織機上にて交織されてなり、製織後に前記低融点繊維の融点より高い温度で熱処理されてなることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
前記低融点繊維の糸条が前記基本組材の糸条と同口にて交織されてなる請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
経糸及び/又は緯糸として、前記基本組材の糸条複数本と前記低融点繊維の糸条1本とを繰り返し単位にして、前記低融点繊維の糸条が基本組材の糸条の複数本毎に配されてなる請求項1又は2に記載のエアバッグ用布帛。
【請求項4】
合成繊維の織布からなるエアバッグ用基布の製造方法であって、経糸及び緯糸の何れか一方又は両方に、基本組材の糸条に用いられている合成繊維より50℃以上融点の低い繊維の糸条を、重量混合比0.5〜5.0%の範囲で前記基本組材の糸条と織機上にて交織し、製織後に低融点繊維の融点より高い温度で熱処理することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項5】
経糸及び/又は緯糸として、前記基本組材の糸条複数本と前記低融点繊維の糸条1本とを繰り返し単位にして、基本組材の糸条の複数本毎に前記低融点繊維の糸条を基本組材の糸条と同口にて交織する請求項4に記載のエアバッグ用布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−18901(P2010−18901A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179215(P2008−179215)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】