説明

エアバッグ用基布

【課題】水分散された顔料を混合した水分散されたポリマー溶液を少ない量を付与した場合でも、水滴付与後の色むらが起こりにくいエアバッグ用基布を提供する。
【解決手段】合成繊維製織編物に反応性化合物、水分散された樹脂組成物及び水分散性顔料が付与されて熱処理されたエアバッグ用基布であって、顔料を水分散させるための界面活性剤が有する水分散に寄与する官能基を反応性化合物で反応させる。合成繊維製織編物に顔料および熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物が0.1〜8.0g/m2付与され、水滴を付与する前後の色変化率が10%以下であるエアバッグ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤により水分散された顔料と水分散可能な樹脂を織編物に付与し、樹脂塗布量が少ない状況で生じやすい、加工時の色むらおよび乾燥後の水濡れによる色変化が起きにくいエアバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車安全部品の一つとして急速に装着率が向上しているエアバッグは、自動車の衝突事故の際、衝撃をセンサーが感知し、インフレータから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させて、運転者や同乗者の身体が衝突した方向へ飛び出した際、特に頭部がハンドル、フロントガラス、ドアガラス等に衝突することを防止し保護するものである。従来より、エアバッグにはクロロプレン、クロルスルフォン化オレフィン、シリコーンなどの合成ゴムを被覆したコーティング織物が、耐熱性、ガス遮断性(低通気度)、難燃性が高いという理由により使用されている。また、コート剤の有無、コート剤の塗りムラ等を判別するため樹脂組成物に着色剤を添加することが行われている。
【0003】
しかしながら、これらの合成ゴム等の樹脂は、従来より有機溶剤で溶液化したものをコーティング剤として使用していたが、有機溶剤が気化し、特に職場の環境が悪くなる問題があり、現在では無溶剤系のシリコーンが主に使用されている。しかし無溶剤系のシリコーンはコート剤に占める固形分の割合が100%であるため、コート量を少なくすることに限界があり、10g/m以下を付与することは技術的に困難であった。樹脂の付着量が多いため、近年要求されているエアバッグの軽量化、コンパクト化を達成させることが難しい課題があった。
【0004】
有機溶剤を使わないでコート量を少なくする手段としては、水分散可能な樹脂を用い含浸処理する方法がある(例えば、特許文献1、および特許文献2を参照)。これらの水分散された樹脂を織編物等に付与する場合、特許文献には記載はないが、通常は溶液中での分散性を考慮して水分散性の顔料が使用される。しかし、水分散可能な樹脂の付着量を低減させた際に水分散性の顔料のむらが目立ちやすくなる問題があった。また、乾燥された布に新たに水が付着した際には、再度顔料が水に分散するため、色むらが発生してしまうことが課題として残っていた。
【0005】
樹脂の付与量を出来るだけ少なく、具体的には8g/m以下とした場合は基布の表面に存在する樹脂が少なくなるため色むらが目立ちやすくなる。また、乾燥後の基布において、水が存在すると顔料が移動しやすく、少し移動しただけでも色むらが顕著になる。このように、水分散された樹脂の付与量を少なくしつつかつ、色むらを抑えることは困難であった。
【0006】
特許文献3には、シリコーン水性エマルジョンに、界面活性剤の存在下で水分散させた固体粉末を使用するに際し、その固体粉末の添加量を0.1質量部以上、5質量部未満である技術が開示されている。しかし、このシリコーン水性エマルジョンは付着量が8g/m以上であり、さらにこのシリコーン水性エマルジョンは低塗布量化すると自己消火性とはならず、自動車用エアバッグで求められる燃焼性試験(JIS D 1201水平法)がクリアできないという問題がある。燃焼速度が80mm/min以下、特に自消性のであって、低塗布量でありながら水が付着しても色むらが発生しにくいコート布に関する技術は開示されていない。
【0007】
このように、水分散可能な樹脂において付着量が少ないものは色むらが目立ちやすく、特にリサイクルに適した非架橋のものは、熱による乾燥後も樹脂自身が水により再分散する場合も有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−327350号公報
【特許文献2】特表2003−183983号公報
【特許文献3】特開2001−287609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記従来の問題点、課題を解決することにあり、水分散された顔料を含む水分散可能な樹脂を織編物に付与した場合でも、通気度が低く、かつ色むらが起きにくいエアバッグ用基布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決することができる本発明のエアバッグ用基布は、以下の構成よりなる。
(1)顔料および反応性化合物、さらに水分散可能な熱可塑性樹脂を含む水系樹脂組成物を合成繊維織編物に付与した後、熱処理することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
(2)顔料が界面活性剤を用いて水分散されており、水分散された液中に界面活性剤と反応する反応性化合物を含むことを特徴とする、上記(1)に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
(3)界面活性剤が水酸基を含んでおり、反応性化合物が水酸基と反応する反応基を有し、この反応基の数平均官能基数が2以上であることを特徴とする、上記(1)、(2)いずれか1つに記載のエアバッグ用基布の製造方法。
(4)界面活性剤がノニオン系であることを特徴とする、上記(1)〜(3)いずれか1つに記載のエアバッグ用基布の製造方法。
(5)合成繊維織編物に顔料および熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物が0.1〜8.0g/m付与されており、
下記式(1)で算出される水滴を付与する前後の色変化率が10%以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。

色変化率=(|付与後のL値―付与前のL値|+|付与後のa値―付与前のa値|+|付与後のb値―付与前のb値|1/2/(付与前のL+付与前のa+付与前のb1/2×100・・・式(1)
(6)JIS D1201水平法で測定される燃焼性試験での燃焼速度が80mm/min以下であることを特徴とする上記(5)に記載のエアバッグ用基布。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアバッグ用基布は、顔料を水分散させるために使用している「界面活性剤」の化学的な構造に着目し本発明に到達したものである。具体的には界面活性剤が有する水分散に寄与する官能基、すなわち極性を持つ部分、特に水酸基に着目したものである。この「水分散に寄与する官能基」を反応性化合物で反応させることで、乾燥時において顔料の動きを抑えると同時に、乾燥後に生じる水滴による色むらを低減することが可能となる。このため、樹脂付着量を低減させても、乾燥後の水濡れによる色変化が起きにくいエアバッグ用基布を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用する合成繊維としては特に素材を限定するものではないが、例えばナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維のような芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維が使用される。他の例としては全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニン・ベンゾビス・オキサゾール繊維(PBO繊維)、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルケトン繊維等が挙げられる。ただし、経済性を勘案するとポリエステル繊維、ポリアミド繊維が特に好ましい。また、これらの繊維はその一部または全部が再利用された原材料より得られるものでもよい。また、これらの合成繊維には原糸製造工程や後加工工程での工程通過性を向上させるために、各種添加剤を含有していても何ら問題はない。添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤等が挙げられる。また、この合成繊維は原着糸や製糸後染色したものであっても何ら問題はない。また、合成繊維の単糸の断面は通常の丸断面の他、異形断面であっても何ら差し支えない。合成繊維は、マルチフィラメント糸として使用され製織されることが破断強度、破断伸度等の観点から好ましい。
【0013】
また、これらの合成繊維には、原糸製造工程や後加工工程での工程通過性を向上させるために、各種添加剤を含有していても何ら問題はない。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤等が挙げられる。また、この合成繊維は、原着糸や製糸後染色したものでもよい。また、合成繊維の単糸の断面は、通常の丸断面のほか、異形断面であってもよい。合成繊維は、マルチフィラメント糸にして経糸と緯糸に用い、これらから製織することが、破断強度、破断伸度等の観点から好ましい。
【0014】
本発明において、使用する布は織物、編物のどちらであっても構わないが、低い通気度を得ることや、布の強伸度等の機械特性から、織物である事が好ましい。織物の製織方法は特に限定するものではないが、織物物性の均一性を勘案すると平織りが良い。使用する糸は、経糸・緯糸は単一でなくてもよく、例えば太さや糸本数、繊維の種類が異なっても何ら差し支えはない。
【0015】
本発明におけるエアバッグ用基布は、公知の方法で作成した布に、公知の方法で水分散された樹脂混合剤を付与することによって製造される。付与の方法については特に制限はないが、少ない付与量で低い通気度を得るためには布の片面にコーティングする方法が好ましい。コーティング方法については特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、コスト面や塗工後の織物柔軟性を勘案するとナイフコーティングを用いることが好ましい。
【0016】
本発明において、水分散された樹脂組成物としては、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリアミド系樹脂を使用することができる。ここでいう水分散された樹脂とは水に対して溶解するものはもちろんだが、コロイド状態、あるいはエマルジョン状態で分散するものでも良く特に制限はない。
【0017】
水分散された樹脂組成物はエラストマー樹脂であることが、通気度の観点から好ましい。さらに水分散しつつ、エラストマー性を達成させるために、エーテル結合を含むことが好ましい。
【0018】
使用する水分散樹脂組成物は、熱可塑性樹脂が好ましい。エアバッグ用基布において自動車用途に要求される難燃性試験FMVSS302法での評価結果で合格することが必要であるが、基布に塗布する樹脂の付着量を低減させた際に、熱硬化性樹脂であるシリコーンでは燃焼速度が速くなる傾向にある。基布に塗布する樹脂の付着量が多い場合は樹脂の燃焼性がエアバッグ用基布の燃焼速度を決定するが、樹脂の付着量を低減させると、燃焼試験時の樹脂の挙動と基布の挙動との関係で燃焼速度が決まるようになる。すなわち、熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂を用いた場合、基布を構成する繊維、例えばナイロン66が熱可塑性樹脂であるために、燃焼性試験時の挙動が異なり火種を維持し続ける現象が生じる。これにより、燃焼速度が速くなると考えられる。樹脂組成物に熱可塑性樹脂を用いると、基布を構成する繊維(熱可塑性)とが燃焼時に同じような挙動を示すため、自己消火性を達成しやすくなる。なお、本発明でいう熱可塑性樹脂とは、DSC測定において融解による吸熱ピークが観測される樹脂を意味する。
【0019】
本発明の、基布に付与される水分散された樹脂混合剤に混合される反応性化合物は顔料を分散させている分散剤に含まれる極性を有する官能基と反応するものであれば特に制限はない。分散剤により水に分散されている顔料はノニオン系の界面活性剤で分散されたものが多く、界面活性剤に用いられる官能基としては、例えば水酸基が挙げられる。界面活性剤で水分散された顔料を用いて塗布された基布では、熱による乾燥後もその顔料の周辺にノニオン系界面活性剤が残っていると考えられる。本発明は、次に示す推定されるメカニズムに着目し到達したものである。
(1)乾燥工程においては、完全に乾燥するまでは、顔料および界面活性剤が移動することが可能なため、工程内において色むらを生じる可能性が考えられる。「顔料を分散させている界面活性剤」を乾燥時において反応性化合物と反応、固定させることで顔料の移動を抑える。
(2)乾燥後の布において水が付着した場合において、顔料周辺に存在する界面活性剤が水との親和性を発揮してしまい、擦れや浸透により、顔料が移動する現象が生じてしまうが、反応性化合物が界面活性剤と反応、固定することで顔料の移動を抑える。
【0020】
反応効率の観点から、1分子中の反応性化合物が有する、「極性を有する官能基」数は、数平均官能基数が2以上であることが好ましい。より好ましくは2.4以上であり、さらには3.0以上が好ましい。ただし数平均官能基数が多すぎるとエアバッグ基布自体の風合いが硬くなるので10以下が好ましい。
【0021】
本発明において、反応性化合物は「極性を有する官能基」と反応するものであれば特に制限は無いが、ノニオン系界面活性剤に多く用いられる水酸基との反応を考慮すると、低温反応性やコストの観点から、官能基としてイソシアネート基を有していることが好ましい。イソシアネート基を有する反応性化合物の混合量はコート剤の固形分100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましい。1未満であれば界面活性剤の固定効果が少なく、色むらを抑える効果が低減するため好ましくない。また、40質量部を超えると混合液とした場合に発泡しやすくなるため好ましくない。より好ましくは2〜30質量部であり、さらに好ましくは3〜20質量部である。また、イソシアネート基は水と反応して二酸化炭素を発生させることが考えられるため、反応触媒を混合しないか、あるいは添加しても反応性固形物に対して重量比で0.5%以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明の基布に付与される水分散された樹脂混合剤に顔料が含有されることが必要である。染料等他の発色剤と比較し、顔料は少量でも発色性がよいため、添加量を少なくすることが出来る。添加量が多いと水分散された樹脂混合剤が形成する樹脂膜の強度が低くなりやすいため、出来る限り添加量は少ないほうが好ましい。顔料の色は、赤色系、橙色系、青色系、緑色系、黄色系、黒色系、灰色系など特に制限無く、またそれらを混合して使用しても構わない。顔料は無機顔料または有機顔料のいずれでもよいが、分散性から有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、縮合アゾ系、イソインドリノン系、フタロシアニン系、スレン系、ベンズイミダゾロン系、キナクドリン系、ハロゲン化銅フタロシアニン系、銅フタロシアニン(β)系などが使用できる。顔料の含有量は所望の色目に合わせて調整すればよいが、顔料成分が少ないと表裏を判断しにくくなり、一方、多すぎると樹脂の膜強度が弱くなり通気度が高くなりやすい。顔料の添加量は固形分換算で水分散された樹脂組成物の固形分の100質量部に対して、顔料を0.001〜5.0質量部混合することが好ましく、より好ましくは0.05〜3.0質量部であり、特に好ましくは0.01〜1.0質量部である。水分散された樹脂混合剤に用いる顔料は水分散可能なものが好ましい。
【0023】
本発明の基布は水分散された樹脂混合剤が乾燥後の質量で0.1〜8.0g/m付与されている事が好ましい。樹脂混合剤が0.1g/m未満であれば、繊維間の隙間を埋める割合が少なくなり通気度が高くなってしまうため好ましくなく、また、8.0g/mを超えると風合いが硬くなりやすいため好ましくない。より好ましくは2〜7g/mであり、さらには3〜6g/mが一層好ましい。
【0024】
乾燥後の質量とは、水分散された樹脂混合剤を塗布し乾燥した後の織編物の質量を、JIS L1096 8.4.2により測定した値から、塗布前の織編物の質量を同じくJIS L1096 8.4.2により測定した値を減算することにより求めたものである。なお、本発明において塗布前の織編物とは、まさに水分散された樹脂混合剤を付与する前の段階における、水分散された樹脂混合剤の付与以外の工程を終えた織物を意味し、通常は、熱処理による収縮加工や熱セットなどが施されているものである場合が多い。特定の溶剤で、織編物だけを溶かし出して、残った塗布物の重量から算出してもよいし、塗布物のみ溶かし出して、残った織編物の重量から算出して求めても良い。さらには織物を構成する原糸の繊度、織密度から想定される樹脂塗布前の織物の質量を求めても良い。
【0025】
本発明の基布は100kPa差圧下での初期の通気度が0.001〜1.00L/cm/minであることが好ましい。通気度が0.001L/cm/min未満の場合は、水分散された樹脂混合剤を多く付与しなくてはならならず、風合いも硬くなりやすい事から好ましくない。通気度が1.00L/cm/minを超えると、エアバッグの設計の自由度が低くなる事や、カーテンエアバッグとしての性能を満たすことが困難とあるため、好ましくない。より好ましくは、0.002〜0.5L/cm/minであり、さらには0.003〜0.03L/cm/minであることが一層好ましい。
【0026】
本発明において、基布の通気度の評価は、100kPa差圧下での通気度を用いている。なぜなら、通常のエアバッグの展開時には30〜50kPaの力がかかっているが、インフレータの火薬による熱の影響もあるため、100kPa差圧下での通気度を評価することが適当であるためである。
【0027】
本発明範囲で無い、有機溶剤系や無溶剤系のコート剤を用いる場合、使用する顔料は親水性でないものを使用することが多く、あるいは樹脂混合剤自身が親水性でないため水を付与しても色が変化する可能性は低い。しかし一般的には、水分散された樹脂組成物を織編物に付与する場合は水分散された顔料を使用するために、樹脂付与された織編物に水が付着すると水に再分散してしまい、色むらが発生しやすくなる。しかし本発明では水分散された樹脂混合剤には顔料の再分散を抑制する反応性化合物を混合しているため、色むらが発生しにくいという効果がある。
【0028】
本発明のエアバッグ用基布は水滴付与する前後の色目について、下記式(1)で算出される水滴を付与する前後の色変化率が10%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエアバッグ用基布であることが好ましい。
色変化率=(|付与後のL値―付与前のL値|+|付与後のa値―付与前のa値|+|付与後のb値―付与前のb値|1/2/(付与前のL+付与前のa+付与前のb1/2×100・・・式(1)
好ましくは8%以下であり、さらには5%以下であることが一層好ましい。
【0029】
本発明のコーティング方法は特に制限されるものではなく従来公知の方法が採用される。塗布量を薄くするたまには、特にナイフコートが好ましい。コーティング方法に応じた粘度とするために増粘剤を使用することがあるが、本発明の基布に付与される水分散された樹脂混合剤にはカルボキシメチルセルロースなどの親水性の高い増粘剤は含まないほうが好ましい。親水性増粘剤を含む樹脂混合剤が塗布されたコート布は水に触れたときに親水性増粘剤が水を含みやすく、色落ちしやすくなる傾向にある。これを抑えるために反応性化合物を増やす事である程度制御できるが、反応性化合物が多すぎるとコート液が発泡しやすくなり、コートが困難となり、コートが出来たとしても均一塗布が難しいため好ましくない。本発明のために、粘度調整を行う方法としては熱可塑性樹脂の水分散液濃度を高くすることが好ましい。
【0030】
本発明のエアバッグ用基布を製造する方法として、水分散された樹脂組成物に水分散性顔料と反応性化合物を混合して合成繊維織編物に付与した後、熱処理することが好ましい。反応性化合物は基布に樹脂を付与する直前まで水分散された樹脂組成物とは混合しないほうが、目的外の反応が生じにくく、目的とする反応性化合物と界面活性剤との反応が進むため好ましい。目的とする、顔料を分散させている界面活性剤に含まれる官能基、例えば水酸基と反応性化合物との反応を高めるために合成繊維織編物に水分散された樹脂混合物を付与した後、熱処理することが好ましい。
【0031】
本発明のエアバッグ用基布は燃焼性試験において、80mm/min以下が好ましく、より好ましくは40mm/min以下、さらに好ましくは自己消火性である。一般的にシリコーンなどの架橋タイプのコート布ではシリコーンの塗布量が25g/m以上でないと自己消化性とはならず、それ以下の塗布量では自己消火性が生じにくくなる。特に10g/mを下回ると、自己消火性が達成しにくくなる。本発明は使用する水分散可能な樹脂が熱可塑性であるため、燃焼性試験により自己消火性を示す傾向があるため好ましい。
【0032】
本発明のエアバッグ用基布を構成する合成繊維織編物は、式2で示すカバーファクター(CF)が1,800〜2,500であることが好ましい。1,800を下回ると、少ない塗布量で低い通気度を得ることが困難となるため好ましくない。また、2,500を超えると織物作成時の織機上操業性が悪くなりやすいだけでなく、織物の柔軟性が少なくなることから好ましくない。好ましくは2,000〜2,450であり、さらには2,050〜2,400が一層好ましい。
CF=[経糸密度(本/2.54cm)×√(経糸繊度(dtex)×0.9)]
+[緯糸密度(本/2.54cm)×√(緯糸繊度(dtex)×0.9)]
・・・(式2)
【実施例】
【0033】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例中における各種評価は、下記の方法にしたがって測定した。
【0034】
(1)L値、a値、b
ミノルタ製スペクトロメーター CM3700dを用い、光源をD65、視野10°としてn=3の平均値とした。
なお、水滴の付与方法としては、基布の下にタオルをひいて、樹脂が付着した面を上にして、約3ccの水を基布上に垂らし直径約2cmの略円形状に水滴を存在させた。水滴を付与して24時間室温に放置して乾燥させた。その略円形状の部分を水滴付与面として測定した。
【0035】
(2)通気度
100kPa差圧下での通気度を高圧通気度測定機(OEMシステム(株)製)を用いて測定した。なお、ランダムに5箇所を測定し平均値を求めた。
【0036】
(3)塗布量
樹脂付与された織編物の重量からベースとなる織編物の重量を差し引いて求めた。重量の測定方法はJIS L 1096に準拠した。
【0037】
(4)燃焼性
JIS D 1201 水平法記載の方法に準拠して測定した。樹脂付与面を下に向けて着炎させ、n=5を測定し、燃焼速度の最大値(mm/min)を燃焼性とした。燃焼距離が38mmの標線まで達しないものは自己消火性(自消性)とした。
【0038】
実施例1
総繊度が400dtex、108フィラメントのポリアミド66繊維を平織りにてウオータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度58本/2.54cm、緯密度56本/2.54cmの織物を得た。酸化防止剤(チバ・ジャパン社製、IRGANOX1010)をポリマー比0.8質量%になる量を加えて、ポリアミド6とポリエチレングリコール−プロピルアミン付加物(数平均分子量:600)とアジピン酸がモル比で2.5:1:1となるように重合した熱可塑性ポリマー(Mw:90,000)を用いて、固形分濃度が25質量%の水系樹脂分散液を作製した(pH7.2)。次いで、フタロシアニングリーン顔料(御国色素社製、DY−4;固形分濃度 25質量%)を該水系樹脂分散液100gに対して、0.4g混合した。続けて、日本ポリウレタン社製のアクアネート210(ポリイソシアネート)を2.5g追加し、攪拌した。この樹脂混合物の水系分散液を上記織物の片面にナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を4.1g/mにした。このコート布の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0039】
実施例2
総繊度が350dtex、144フィラメントのポリアミド66繊維を平織りにてウオータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度58本/2.54cm、緯密度57本/2.54cmの織物を得た。酸化防止剤(チバ・ジャパン社製、IRGANOX1010)をポリマー比1.4質量%になる量を加えて、ポリアミド6とポリエチレングリコール−プロピルアミン付加物(数平均分子量:900)とアジピン酸がモル比で2.1:1:1となるように重合した熱可塑性ポリマー(Mw:150,000)を用いて、固形分濃度が5質量%の水系樹脂分散液を作製した(pH7.1)。次いで、フタロシアニンブルー顔料(御国色素社製、DY−12;固形分濃度 25質量%)を該水系分散液100gに対して、1.2g混合した。続けて、日本ポリウレタン社製のアクアネート130(ポリイソシアネート)を0.1g追加し、攪拌した。この樹脂混合物の水系分散液を上記織物の片面にナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を1.9g/mにした。このコート布の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0040】
実施例3
総繊度が470dtex、144フィラメントのポリアミド66繊維を平織りにてウオータージェットルームにて製織後、沸水にて収縮加工し、110℃で乾燥仕上げをし、経密度48本/2.54cm、緯密度48本/2.54cmの織物を得た。酸化防止剤(チバ・ジャパン社製、IRGANOX1330)をポリマー比0.4質量%になる量を加えて、ポリアミド6とポリエチレングリコール−プロピルアミン付加物(数平均分子量:600)とアジピン酸がモル比で2.9:1:1となるように重合した熱可塑性ポリマー(Mw:130,000)を用いて、固形分濃度が10質量%の水系樹脂分散液を作製した(pH6.8)。次いで、実施例1、2で使用したそれぞれの顔料を該水系分散液100gに対して、それぞれ0.02g混合した。続けて、日本ポリウレタン社製のアクアネート210を該水系樹脂分散液に対して0.1g追加し、攪拌した。この樹脂混合物の水系分散液を上記織物の片面にナイフコートにて塗布し、乾燥後の樹脂量を8.1g/mにした。このコート布の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0041】
比較例1
ポリイソシアネートの代わりにカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬製7A)を3g添加した以外は実施例1に従った。乾燥後の樹脂量は5.0g/mであった。
【0042】
比較例2
ポリイソシアネートの量を12gに変更して添加した以外は実施例1に従った。混合液が2hで発泡してしまったためコーティングは行わなかった。
【0043】
比較例3
ポリイソシアネート添加しなかった以外は実施例1に従った。乾燥後の樹脂量は5.2g/mであった。
【0044】
比較例4
ポリアミド系の水分散液の代わりに水系のシリコーンエマルション(熱硬化性)を使用した以外は比較例3に従った。乾燥後の樹脂量は8.5g/mであった。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1は、エアバッグ用基布として好ましいものであった。実施例2は実施例1と比較し、カバーファクターが低めである事や、水分散された樹脂液の濃度が低いため基布に浸み込み、基布表面に存在する樹脂の量が少なくなったため通気度がやや高めであり、色変化率もやや高めではあった。実施例3は反応性化合物の割合がやや少なめであったため、色変化率がわずかだが高めであった。一方、比較例1は、通気度等の性能は良好であるが、増粘剤が添加されているだけで反応性化合物が添加されていないため、水滴が付与した場合の色変化率が大きい。比較例3も反応性化合物が添加されていないため、水滴が付与された場合の色変化率が大きい。比較例4はシリコーンエマルションを使用しているため燃焼性が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のエアバッグ用基布に好適な織編物は、水分散形の樹脂を使用しているにもかかわらず、水に対しての色変化が小さく、少ない塗布量でも燃焼性に優れているため、製造時の取り扱い性がよく、少ない樹脂量のため低コストで生産することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料および反応性化合物、さらに水分散可能な熱可塑性樹脂を含む水系樹脂組成物を合成繊維織編物に付与した後、熱処理することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項2】
顔料が界面活性剤を用いて水分散されており、水分散された液中に界面活性剤と反応する反応性化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項3】
界面活性剤が水酸基を含んでおり、反応性化合物が水酸基と反応する反応基を有し、この反応基の数平均官能基数が2以上であることを特徴とする、請求項1〜2いずれか1項に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項4】
界面活性剤がノニオン系であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項5】
合成繊維織編物に顔料および熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物が0.1〜8.0g/m付与されており、
下記式(1)で算出される水滴を付与する前後の色変化率が10%以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
色変化率=(|付与後のL値―付与前のL値|+|付与後のa値―付与前のa値|+|付与後のb値―付与前のb値|1/2/(付与前のL+付与前のa+付与前のb1/2×100・・・式(1)
【請求項6】
JIS D1201水平法で測定される燃焼性試験での燃焼速度が80mm/min以下であることを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ用基布。

【公開番号】特開2012−148727(P2012−148727A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10478(P2011−10478)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】