説明

エアバッグ用基布

【課題】軽量小型のエアバッグであって、高圧下での通気性が抑制されるため膨張効率に優れ、かつ、高圧ガス流入に耐える耐バースト性に優れるエアバッグ、および、それを構成するエアバッグ用基布を提供すること。
【解決手段】合成繊維織物からなり、引張り試験における引張強力が経緯方向共に500N/cm以上であり、300N/cm負荷における伸び率が経緯方向の合計で40%以上であり、最大引張り抵抗度が経緯方向の合計で90cN/dtex以上であり、負荷縫目通気度(特定の縫目に1,500N/15cmの引張り負荷を付与した後の50kPa差圧下の通気度)が、経緯方向の負荷後の通気度の平均で2000mm/s以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の衝突事故において乗員拘束により乗員保護を図るための、あるいは、車外の歩行者などが乗物と接触する事故において、乗物表面に歩行者との空隙を確保することにより歩行者の保護を図るための、事故時に袋が空気やガスにより膨張して衝撃吸収機能を果たすエアバッグとそれを構成する基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗員保護のために乗物へのエアバッグの搭載が普及し、乗物中でのエアバッグ搭載場所が増えてきている。たとえば、運転席用および助手席用の前面衝突エアバッグに加えて、膝を守るニーエアバッグが搭載されている。さらには、側面衝突用にサイドカーテンエアバッグやサイドインパクトエアバッグが搭載され、歩行者保護のために車外に膨張展開する歩行者保護エアバッグなどの装着も拡がってきている。一方で、省エネルギーの観点から、車両の軽量化が望まれている。そのため、収納容積が小さく小型軽量なエアバッグが望まれている。
【0003】
これまで、エアバッグを軽量化するために、低繊度の繊維からなる、単位面積あたりの重量が小さい基布を用いることが提案されている(下記特許文献1参照)。しかしながら、単純に低繊度の繊維を用いた場合、基布の機械特性の低下が起こる。さらに、エアバッグの要求特性には、より高速衝突対応に、より高速展開にとの要求の高まりがあり、これらに応えきれなかった。すなわち、低繊度であって高強度の繊維を用いたとしても、高強度繊維の特性が合わず、この基布を用いたエアバッグは高圧下での通気性を抑制しきれず、エアバッグ特性を発揮できなかった。また、基布加工条件によっても急速な高圧ガス流入に耐えられず、エアバッグ特性を発揮できないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/22967号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、軽量小型のエアバッグであって、高圧下での通気性が抑制されるため膨張効率に優れ、かつ、高圧ガス流入に耐える耐バースト性に優れるエアバッグを提供することである。さらには、膨張時の膨張サイズが大きく、一層収納性に優れたエアバッグ、および、それを構成するエアバッグ用基布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の特性を有する基布により、高圧下での通気性が抑制され、また、高圧ガス流入に耐える耐バースト性が向上すること、さらには、膨張時の膨張サイズが大きく、展開時の乗員拘束面積を確保しながら、折り畳まれて収納された状態では一層収納容積を抑えられたエアバッグが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
(1)合成繊維織物からなり、引張り試験における引張強力が経緯方向共に500N/cm以上であり、300N/cm負荷における伸び率が経緯方向の合計で40%以上であり、最大引張り抵抗度が経緯方向の合計で90cN/dtex以上であり、負荷縫目通気度(特定の縫目に1,500N/15cmの引張り負荷を付与した後の50kPa差圧下の通気度)が、経緯方向の負荷後の通気度の平均で2000mm/s以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
(2)織物の目付けが200g/m2以下であることを特徴とする上記1項に記載のエアバッグ用基布。
(3)織物のカバーファクターが2100以上であることを特徴とする上記1または2項に記載のエアバッグ用基布。
(4)織物構成糸の織縮み率が経緯合わせて8%以上であることを特徴とする上記1〜3項のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
(5)織物構成糸の総繊度が200から420dtexであることを特徴とする上記1〜4項のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
(6)上記1〜5項のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布を少なくとも一部に用いて形成されるエアバッグ。
(7)上記6項に記載のエアバッグを含んでなるエアバッグ装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の基布により構成されたエアバッグは、高圧下でエアやガス漏れが少なく、膨張ガスを供給するインフレーターの容量をいたずらに大きくする必要がない。また、高圧ガス展開で破袋バーストせず信頼性が高い。さらに、収納時に軽量小型ながら、膨張時のサイズが大きく、乗員保護の保護面積が確保できている。したがって、軽量小型エアバッグとして優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の基布に用いられる合成繊維は、高強力高密度織物に適した、柔軟で高強力な繊維が好ましい。ストアードガス方式のインフレーターのように火薬の熱の影響がほとんどないエアバッグの場合には、高強力繊維が用いられる。さらに、推薬によるインフレーターによって展開するエアバッグの場合には、高強力繊維であって、かつ、耐溶融性の繊維が用いられる。
【0010】
耐溶融性の合成繊維としてポリアミド繊維を用いることができる。たとえば、主としてポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなるポリアミド6・6繊維が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維とはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミド6・6繊維を指すが、本発明で用いるポリアミド6・6繊維は融点が250℃未満とならない範囲で、ポリアミド6、ポリアミド6I、ポリアミド610およびポリアミド6Tなどを共重合あるいはブレンドしていてもよい。
【0011】
他の合成繊維としては、耐溶融性は劣るがポリエステル繊維を用いることができる。たとえば、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維が好ましい。リン化合物を含有させることにより、ポリエステルの難燃性を向上させることも好ましい。エチレンテレフタレートに共重合し得る成分としては、従来公知の酸成分、グリコール成分いずれをもあげることができるが、なかでも2官能性リン化合物を共重合させることにより、ポリエステルの難燃性を向上させ、エアバッグの燃焼試験に合格させることが好ましい。
なお、かかる繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用される各種添加剤を含んでいても良い。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤および難燃剤などを含有せしめることができる。
【0012】
本発明の基布は、その織物組織を構成する構成糸の総繊度が200から420dtexであることが好ましい。さらに好ましくは210から370dtexであり、特に好ましくは220から320dtexである。総繊度が大きいほど基布の引張強力が大きくなり、エアバッグの耐バースト性に寄与しうる。一方、総繊度が小さければ小さいほど織物は軽量となる。
【0013】
本発明の基布は軽量基布であり、織物としての単位面積当たり重量(以下、目付けと呼称する)は200g/m2以下が好ましい。より好ましくは185g/m2以下であり、一層好ましくは175g/m2以下であり、最も好ましくは160g/m2以下である。最小限の機械特性のためには135g/m2以上が好ましい。本発明の基布は高密度織物が基本であり、目付けを小さくするには主に構成糸の繊度を細くすることによって小さくすることができる。
【0014】
本発明の基布は、引張強力が経緯方向ともに500N/cm以上であることが好ましい。より好ましくは550N/cm以上であり、一層好ましくは、600N/cm以上である。引張強力が強ければ強いほどエアバッグの耐バースト性に寄与しうる。基布の引張強力を強くする要素は、織物の構成糸の引張り破断荷重(強力)が大きく、かつ、織密度が高いことが一義的な要素である。構成糸の引張り破断荷重(強力)は繊度の大きさと引張強力(強度)で決まる。また、収納性が良い基布である要請から、柔軟な合成繊維から構成するため、実質的に引張り強力の上限は経緯方向ともに900N/cmが好ましい。
【0015】
本発明の基布の構成糸において、その引張強力は7.5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは8.5cN/dtex以上であり、特に好ましくは9.5cN/dtex以上である。高品位な高密度の織物を構成しうる合成繊維として、その構成糸としての引張強力の実質的な上限は11cN/dtexである。
【0016】
本発明の基布は、織物のカバーファクターが2100以上であることが好ましい。より好ましくは2200から2500である。ここで、カバーファクターは((経総繊度(dtex))1/2×経織密度(本/2.54cm)+(緯総繊度(dtex))1/2×緯織密度(本/2.54cm))であらわされるものである。カバーファクターが大きければ大きいほど高密度織物であって、基布の引張強力が大きくなる。
【0017】
本発明の基布は、300N/cm負荷における引張り伸び率(以後、「中間伸度」と言う場合がある)が経緯合わせて40%以上であることが好ましい。300N/cm負荷における伸び率が経緯方向で合わせて40%以上で大きければ大きいほど、エアバッグがガス圧で膨張する際の展開サイズが大きく、乗員保護面積を確保することができる。膨張率が大きいことにより、展開時の乗員保護面積を確保しながら、折り畳んで収納している時点でのエアバッグの大きさを小さくしておくことができる。また、あらかじめ、展開サイズを見込んで展開ガス量を減らしておくこともできる。
【0018】
この300N/cmの負荷における引張り伸び率は、構成糸の引張り伸び率が大きいことに加えて、主に織縮み率を大きくすることによって大きくすることができる。織縮み率は、経緯方向の合計で8%以上が好ましい。より好ましくは10%以上であり、一層好ましくは11%以上である。高密度織物において織縮み率の上限は引張り負荷による通気増大を防ぐためなどにより、上限は15%である。構成糸繊度と織密度の織設計において、繊度が細いほど織縮み率を大きくする傾向があり、構成糸が細い繊度であって、高密度織物であることと、織物加工方法を適切に組合せることによって、引張り負荷での通気度を増大させず、膨張率の大きな基布を得ることができる。高強力繊維からなる基布において、構成糸の引張り伸び率には、実施可能な高強力繊維の物性としての範囲があり、基布の構成糸の引張り伸び率は15%から35%が好ましい。基布としての引張り伸び率は、織縮み率と構成糸の引張り伸び率などによって決まってくるため、基布の300N/cm負荷における引張り伸び率の経緯合計の上限は、実質的に60%である。
【0019】
織物の加工条件において、合成繊維の収縮に任せた熱緩和加工をすれば、織縮み率が大きくなる。しかしながら、自由な縮み加工で織縮み率を大きくした場合は、基布に対する引張り負荷によって通気度が増大し、エアバッグとしては、高圧展開の際のガスリークとなって不都合である。織物を熱緊張加工する適切な方法によって、基布の引張り負荷後の通気度を抑制することができる。
【0020】
本発明の基布は、縫目に1,500N/15cmの引張り負荷を付与した後の50kPa差圧下の通気度(本明細書において「負荷縫目通気度」と言う)が、経緯方向のそれぞれの負荷後の通気度の平均で2000mm/s以下である。ここで、縫目は1350dtexの撚り糸である縫製糸にて50回/10cmで15cm本縫いしたものである。基布の縫目の負荷後の通気度の平均は小さい方が良く、通気ゼロが望ましいが、2000mm/s以下であれば、エアバッグ展開において、展開ガスを十分に生かし、基布の膨張率を生かして大きく展開できる。より好ましくは1600mm/s以下であり、一層好ましくは1300mm/s以下である。基布の縫目の引張り負荷後の通気度抑制は、織物加工方法を適切に組合せることによりでき、織物を熱緊張加工する方が有利である。さらには、織密度が高い方が有利であり、カバーファクターが2100以上が好ましい。また、単糸繊度が細い方が縫目負荷後通気の抑制に寄与する。構成糸の織縮み率は小さいことが有利である。
【0021】
本発明の基布は、最大引張り抵抗度が経緯方向の合計で90cN/dtex以上であることが好ましい。ここで、引張り抵抗度R(cN/dtex)は、引張り試験における「荷重−伸び曲線」の接線勾配であり、以下の式で定義される。
R=F/(L’/L)/(d×D)
(ここで、Fは引張り試験の伸び率に応じた引張荷重(cN/2.54cm)、Lは基布試料の引張り試験長、L’は、引張荷重点における「荷重−伸び曲線」の接線の伸び軸での切片から、引張荷重点より伸び軸に下ろした垂線と伸び軸との交点までの2点間の試料伸びである。dは構成糸の総繊度(dtex)、Dは織密度(本/2.54cm)である。)
【0022】
基布の引張り試験による「荷重−伸び曲線」から、伸びに応じて引張り抵抗度が得られ、「引張り抵抗度−伸び曲線」が得られる。「引張り抵抗度−伸び曲線」は伸び(伸度)に応じて引張り抵抗度が上昇してゆき、最大値を経て破断に到る。基布の引張り抵抗度が大きいことにより、エアバッグの高圧ガス展開によるガスリークを少なくすることができる。基布の経緯方向の「引張り抵抗度−伸び曲線」における最大引張り抵抗度を、経緯方向で合計し、最大引張り抵抗度合計が90cN/dtex以上であれば、エアバッグのガス利用効率に優れる。エアバッグをガス膨張、展開し、さらに、乗員が突入して最大圧になった際にも基布の伸び率は少なく、ガスリークが抑制されている。特に、推薬ガスで展開する場合、高温の膨張ガスは、最大圧で基布の縫目を開こうとし、ガスが縫目を通過すると、細繊度のエアバッグでは溶融して破袋してしまうため、基布が高負荷領域で伸びに対する抵抗が大きいことが、破袋を防止するために重要である。また、高負荷領域でガスリークが少ないことにより、展開サイズを大きくすることにも寄与する。最大引張り抵抗度合計は、より好ましくは98cN/dtex以上であり、一層好ましくは105cN/dtex以上であり、最も好ましくは120cN/dtex以上である。基布の他の物性を適切な範囲にするためには、上限は150cN/dtex以下である。
【0023】
基布の最大引張り抵抗度を大きくするには、構成糸の「荷重−伸び曲線」が立ち上がっていて、高強度であることが寄与する。構成糸の強度は7.5cN/dtex以上で大きいほど好ましい。構成糸の強度が大きいほど、基布の最大引張り抵抗度が大きくなる傾向がある。基布の最大引張り抵抗度は、基布の「荷重−伸び曲線」の破断に近い後半の抵抗度の挙動であり、構成糸の強度が大きければ、より一層破断に近い伸び率まで最大引張り抵抗度が上昇してゆく。さらに、基布の最大引張り抵抗度は、基布加工によっても影響を受ける。織物を熱緊張加工する適切な方法によって、基布の最大引張り抵抗度を下げることなく維持することができる。
【0024】
本発明において合成繊維の単糸繊度は、0.5から8.0dtexが好ましい。より好ましくは0.8から7.0dtexである。一層好ましくは、1.0から4.0dtexである。単糸繊度が0.5dtex以上あれば、製織工程などでの単糸切れに由来する織物欠陥などを回避できる。単糸繊度が8.0dtex以下で小さいほど織物の折畳み嵩高さが小さくエアバッグ収納性が良好な織物となる。さらに、4.0dtex以下であれば、細いことにより、織物表面での通気抑制に寄与する。
【0025】
本発明において合成繊維の原糸の沸水収縮率は10.0%以下が好ましく、より好ましくは8.0%以下であり、さらに、織物の乾燥、熱セット過程での収縮力が発現するように温度、滞留時間、張力を制御することで、織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮率を5.0%以下の低い収縮率に抑えることができる。基布を構成する合成繊維の沸水収縮は、収縮しきっていることも好ましい。ポリアミド6・6繊維の場合、沸水処理による吸水で見かけ上マイナスの収縮率すなわち伸張が観察されることも好ましいため、基布を構成する糸の沸水収縮率は、マイナス4.5%以上であることが好ましい。沸水収縮率はマイナス4.5から5.0%が好ましい。より好ましくはマイナス4.0から3.0%であり、さらに好ましくはマイナス3.0から2.5%である。一方、本発明の合成繊維の原糸の沸水収縮率は4%以上が好ましい。より好ましくは5%以上。一層好ましくは6%以上である。合成繊維の原糸の沸水収縮率が4%以上の場合の適切な収縮力を基布加工で利用することで、基布の負荷後の通気度抑制に寄与する。
【0026】
本発明におけるエアバッグ用基布は、油剤成分の含有量が0.01から2.0重量%であることが好ましい。0.05から1.5重量%がより好ましい。一層好ましくは0.1から0.7重量%である。ここにいう油剤成分とは、有機溶媒ヘキサンにて織物から抽出されるものであり、合成繊維織物の重量に対する抽出物の重量の百分率である。油剤成分の含有量が0.01重量%以上であれば、織物基布の引裂き強力を維持、向上させることができる。 油剤成分の含有量が2.0重量%以下であれば、エアバッグ用織物が燃焼性試験(FMVSS302)において不合格になることが無い。
これら油剤成分は、繊維製造工程、製織加工工程で付与された工程油剤に由来して残存するものでもよい。
【0027】
なお、上記する以外に、本発明の効果を損なわない範囲であれば、織物原糸には原糸製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用される各種添加剤が含まれていてもよい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料および難燃剤などを含有せしめることができる。
【0028】
本発明の基布においては、合成繊維をウォータージェット、エアジェット、レピア織機や多相織機などで製織して織物にすることができる。織物組織としては、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織や組織混合した織物、多軸織などの織物が使用されるが、これらの中でも、特に機械的特性に優れ、また地薄な面から平織物が好ましい。さらに、袋織でバッグ形状を織製する織物でも良い。
【0029】
製織にあたって、経糸などに集束性向上のための油剤成分を付与してもよい。ここで付与された油剤成分は、最終的にエアバッグ用基布に含有されてもよい。
次いで、過剰な油剤成分や汚れの除去のために精練洗浄することができる。精練工程では、温水浴でアルカリ洗浄や界面活性剤洗浄が行われる。むしろ、精練せずにエアバッグ用織物に仕上げるのが好ましい。ウォータージェット織機によって油剤成分が概ね脱落し、油剤成分付着量が適度になった織物を精練せずにエアバッグ用織物に仕上げることがより好ましい。本発明に必要な含有物の量を制御しやすいし、経済的でもある。最終的に、平滑剤および帯電防止剤を主成分とした整経油剤や製織工程油剤が油剤成分として織物に含有されることが好ましい。
【0030】
精練工程では、適度な精練温度を選定したり、あるいは、精練を実施しないことが好ましい。精練中は、織物幅と経糸方向の送りについてそれぞれ収縮量や張力を制御し、織物が収縮するに任せず張力をかけながら加工することが好ましい。織物原糸の性状、特に収縮率により適宜条件選定すればよい。
【0031】
次いで、織物を乾燥し、熱固定を行って寸法安定性の良いエアバッグ用織物に仕上げることができる。織物の乾燥および熱固定では織物幅と経糸方向の送りについてそれぞれ収縮量や張力を制御することが好ましい。たとえば、テンターなどが用いられる。基布の負荷後の通気度抑制のためには、加熱処理の温度を選定し、加熱処理しながらも収縮するに任せず張力をかけながら加工することが好ましい。加工前後における織物の経緯の平均縮み率を、製織に用いる織糸の沸水収縮率の値の50%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、40%以下である。一層好ましくは35%以下である。すなわち、たとえば、織物の加工時縮み率が6%以下や4%以下あるいは2%以下である。織糸とする合成繊維によるが、加工前後における織物の経緯の平均縮み率は、−10%程度まで、すなわち10%伸長までが好ましい。引き続いて、加熱処理後に張力をかけながら急冷することが好ましい。
【0032】
本発明のエアバッグ用基布は、織物に樹脂やエラストマーをコーティングして基布としてもよいが、エアバッグの軽量化のため、実質的に樹脂やエラストマーのコーティング無しに織物をそのまま用いることが好ましい。織物に最終的にカレンダー加工を施しても良いが、引裂き強力の低下を招かぬ必要があり、好ましくはカレンダー加工を施さずに用いることができる。
【0033】
本発明のエアバッグ用基布は裁断縫製されて、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、後部座席用エアバッグ、側面用エアバッグ、膝部用エアバッグ、カーシート間エアバッグ、側面用カーテン状エアバッグ、後部ウィンドウ用カーテンバッグ、歩行者保護エアバッグなどに適宜使用することができる。さらに、上記エアバッグにおいては、インフレーター取り付け口やベントホール部分などに用いられる補強布またはバッグ展開形状を規制する部材を、該エアバッグ用基布と同一基布とすることができる。またエアバッグの縫製にあたっては、打抜き、溶断、または裁断によって形成された1枚もしくは複数枚のかかるエアバッグ用織物片を用い、その周縁部を縫製してエアバッグを形成することができ、さらには周縁部の縫製が、一重または二重ラインの縫製で構成されたエアバッグを形成することができる。
【0034】
また、本発明のエアバッグ用基布は、袋織物として織製され、接結部の外周を裁断されてエアバッグとして使用することができる。
本発明のエアバッグモジュールは、上記のエアバッグとガス発生装置である火薬または推薬を用いたインフレーターや高圧ガスボンベを用いたインフレーターと組み合わせてエアバッグモジュールとすることができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例および参考例によって本発明を更に詳細に説明する。
実施例中のエアバッグ用基布の特性評価などについては下記の方法にて実施した。
(1)織物の目付け:(g/m2
10cm×10cmの試料を用い、JIS L1096:2010 8.3.2 A法に準じて行なった。
【0036】
(2)構成糸の総繊度:(dtex)
JIS L1096:2010 附属書H.7に準じて、基布を分解し、経緯の構成糸につき試料長を25cmとして計測した。コーティング布であっても基布を分解して構成糸を取り出した。
【0037】
(3)構成糸の引張り強力:(cN/dtex)
JIS L1013:2010 8.5.1の引張り強さの評価法に準じ、8回/10cmの撚り掛けをし、つかみ間隔25cmで引張り速度30cm/分の引張り試験を実施した。
(4)構成糸フィラメント数:
基布の断面写真から構成単糸本数を数えた。
【0038】
(5)織物のカバーファクター(CF):
以下の式より求めた。
CF=(Dw)1/2×Tw+(Df)1/2×Tf
(ただし、Dwは経方向の構成糸の総繊度(dtex)、Dfは緯方向の構成糸の総繊度(dtex)、Twは経糸織密度(本/2.54cm)、Tfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。)
【0039】
(6)基布の引張強伸度:
JIS L1096:2010 8.14.1 a)A法(ストリップ法)において、30mm×340mmの試料をラベルドストリップ法で採取し、つかみ間隔200mmで200mm/分の低速伸長引張り試験を行った。基布の引張り強さの評価で基布引張強力(N/cm)を求めた。中間伸度(%)は、得られた「荷重−伸び曲線」において、300N/cm荷重における伸度を経方向、緯方向それぞれについて求めた。さらに、「荷重−伸び曲線」の接線の傾きを出し、接線の傾きを織繊度(すなわち、構成糸繊度×織密度)で除した引張抵抗(cN/dtex)を伸び率に応じて描いた「引張り抵抗度−伸長曲線」を得て、最大引張り抵抗度(cN/dtex)を求めた。経方向、緯方向それぞれの最大引張り抵抗度を足し合わせて合計最大引張り抵抗度とした。
【0040】
(7)織密度:
JIS L1096:2010 附属書FA.2方法E(テーパー形デンシメータ)に準じて行なった。
(8)織縮み率:(%)
JIS L1096:2010 8.7 B法により実施した。
【0041】
(9)コーティング量:(g/m2
基布から正確に10cm角の試験片を採取し、およそ5mm角以下に刻み、ヘキサンを用い、25℃で5分間洗浄を2回繰り返し、風乾後に熱風乾燥機にて105℃で12時間乾燥する。溶媒で合成繊維を溶解する。ポリアミド繊維であれば、90%蟻酸250mlを用いて常温の一夜で溶解し、溶解しない架橋シリコーン膜を濾別する。濾別したシリコーン膜を溶媒で良く洗い、水洗いした後、105℃で熱風乾燥し、絶乾質量w(g)を測定する。コーティング量(g/m2)を(w/0.01)から求める。また、シリコーン溶解剤でシリコーン膜を溶解して、残った合成繊維織物を濾別してコーティング量を求める方法も可能である。
【0042】
(10)負荷縫目通気度(膨張部と非膨張部の境界部の通気度):(mm/s)
サンプル基布を縦28cm×横15cmで2枚切り出し、コート布であればコート面を互いに向かい合わせで、横辺から1cmの縫い代を取り、1350dtexの撚り糸である縫製糸にて50回/10cmで本縫いにて横辺に沿って縫製、すなわち、15cmの縫製を行い、縫い糸両端を結ぶ。その後、A&D社製引っ張り試験機において、縫目に対して1500Nの荷重を100mm/minの速度にてかけた後、一旦取り出し、10時間後に動的通気度を測定した。動的通気度はTEXTEST社製FX3350を用い、充填圧300kPa、充填容量400ccにて測定を実施し、50kPa時の通気度(mm/s)を測定した。
【0043】
(11)エアバッグ製袋:
国際公開第99/28164号パンフレットの記載に従ってエアバッグを縫製した。コート布であればコート面を互いに向かい合わせで前面背面パネル布を縫合した。ただし、外周縫製は、縫糸が235dtex/2×3、運針数が5.0針/cmの2列二重環縫いとした。ベントホールは設けなかった。得られたエアバッグにガス導入口を設けたリテーナを挿入した。
【0044】
(12)展開サイズ比:
上記(11)項に述べたエアバッグを用い、圧縮空気で50kPaを印加し、展開サイズを比較した。正面からバッグ展開の様子を観察し、バッグの外形の最大値を求めた。後述する比較例1における外形最大投影面積を100とし、相対的な投影面積比を求め、展開サイズ比とした。
【0045】
(13)シールバースト圧:(kPa)
上記(11)項のエアバッグで、ベントホールを設けず、縫製部は基布にシール剤を挟んだ。縫製位置で、両面粘着型の粘着シールを幅8mmで帯状に貼付し、基布で挟んだ。ただし、コーティング基布の場合はコート面側に、粘着シールを貼付し、基布で粘着シールを挟んだ。粘着シールは、可撓性基材がアクリル樹脂発泡体、その両面に塗布した粘着剤がシリコーン系であるもの(住友スリーエム社製粘着テープGT7112の両面粘着型耐熱品、厚み1.2mm)を用いた。次いで、裁断片を重ね合わせ、粘着シールを挟んだ状態で重量6kgのローラーにて圧着した。縫合位置は、粘着シールの帯に沿ったその中央とした。さらに、バッグ中央部にガス圧センサーを取り付けた。エアバッグ展開装置(Cold Gas System;Microsys Technologies Inc.製)にエアバッグを設置し、およそ30kPaの圧縮空気でエアバッグを膨張させた後に、1Lタンクにチャージした12MPaの圧縮空気をエアバッグ中に開放し、バッグのバースト圧力を計測した。
【0046】
(14)インフレーターバースト:
上記(11)項のエアバッグで、ベントホールを設けず、インフレーターはパイロ型で、28.3Lタンク圧が210kPaの出力のものを用いた。エアバッグの破袋(バースト)の有無を観察した。
○:破袋(バースト)有り
×:破袋(バースト)無し
【0047】
[実施例1]
ポリアミド6・6繊維のフィラメント糸で、繊度235dtex、フィラメント数72本、引張強度10.0cN/dtex、沸水収縮率7.0%を有する織糸を用いた。この織糸を撚糸せず、糊付けすることも無しに、ウォータージェット織機にて製織し、平織物を得た。得られた織物を精練すること無しに、80℃で熱風乾燥し、次いでピンテンターを用いて、緯糸方向は2.5%の幅出し、経糸方向は2.5%のオーバーフィードで180℃で1分間加熱後、緊張急冷することにより熱固定した。得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。300N/cm負荷での伸度が大きく、引張り抵抗も大きい。
コールドガスによるエアバッグの展開サイズは、比較例1に示す470dtex繊維からなるエアバッグに比べて大きく膨らむことが分かった。また、コールドガス展開におけるガスリークの影響は見られず、また、シールバッグのバースト圧も高い。インフレーター展開によるバーストは観測されなかった。これらの評価結果も表1に示す。
【0048】
[実施例2]
製織後の熱固定を、緯方向は幅入れせず幅寸法変化0%、経方向はオーバーフィードで4.0%の条件で行ったことを除いて実施例1と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。やや張力緩和した条件での加工となり、基布の中間伸度が少々大きくなり、展開サイズは大きい。また、コールドガスリークは少なく、インフレーター展開でもバッグバーストは無い。
【0049】
[実施例3]
繊度が300dtexで引張り強度8.8cN/dtex、沸水収縮率7.0%の織糸を製織した以外は実施例1と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。基布引張強力が大きいが基布の中間伸度が少々小さくなり、展開サイズは十分だがわずかに小さい。一方、コールドガス展開のリークの影響は見られず、シールバッグのバースト圧は高い。また、インフレーター展開でバッグバーストは無い。
【0050】
[実施例4]
製織、精練後の熱固定を、緯方向は幅出しで3.0%、経方向はオーバーフィードで1.5%の条件で行ったことを除いて実施例3と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。より張力緊張した条件での加工となり、基布の中間伸度が少々小さくなり、展開サイズは十分だがわずかに小さい。一方、コールドガス展開のリークの影響は見られず、シールバッグのバースト圧は高い。また、インフレーター展開でバッグバーストは無い。
【0051】
[実施例5]
製織、精練後の熱固定を、緯方向は幅入れせず幅寸法変化0%、経方向はオーバーフィードで4.0%の条件で行ったことを除いて実施例3と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。やや張力緩和した条件での加工となり、基布の中間伸度が少々大きくなり、展開サイズは大きい。コールドガス展開のガスリークの影響はみられない。また、基布の引張り抵抗がやや低下するものの、インフレーター展開でもバッグバーストは無い。
【0052】
[実施例6]
整経時に油分を1.5%付与し、実施例1と同様に製織し、精練すること無しに、熱固定し、液状付加反応型シリコーンエラストマーで20g/m2ナイフコーティングした。加硫は、200℃×30秒間で幅出し1%、オーバーフィード1%で行った。織物の目付けは145g/m2で、コーティング量は20g/m2であり、コーティングも含めたエアバッグ用基布全体の目付けは165g/m2となった。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。
展開サイズは大きく、コールドガス展開でガスリークの影響は見られず、インフレーター展開でもバッグバーストは無い。
【0053】
[比較例1]
ポリアミド6・6繊維のフィラメント糸で、繊度470dtex、フィラメント数72本、引張強度8.3cN/dtex、沸水収縮率7.0%を有する織糸を用いた。この織糸を撚糸せず、糊付けすることも無しに、ウォータージェット織機にて製織し、平織物を得た。得られた織物を精練すること無しに、80℃で熱風乾燥し、次いでピンテンターを用いて、緯糸方向は4.0%の幅出し、経糸方向は4.0%のオーバーフィードで180℃で1分間加熱後、緊張急冷することにより熱固定した。得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。
基布強力は高く、シールバッグのバースト圧は十分高い。インフレーター展開でもバッグバーストは無かった。しかし、基布の重量は重く、中間伸度が小さいため、バッグ展開サイズが小さい。これらの評価結果も表1に示す。
【0054】
[比較例2]
ポリアミド6・6繊維のフィラメント糸で、繊度235dtex、フィラメント数72本、引張強度8.3cN/dtex、沸水収縮率7.0%を有する織糸を用いた。実施例1のように製織し、熱固定を、緯方向は幅入れせず幅寸法変化0%、経方向はオーバーフィードで4.0%の条件で行った。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。張力緩和した加工条件となり、基布の中間伸度が大きいが、通気度が増えている。ガスリークで展開サイズは小さい。また、基布の引張り強度不足でシールバッグのバースト圧が低い。インフレーター展開でもバーストした。
【0055】
[比較例3]
製織後の熱固定を、緯方向は幅出しで2.5%、経方向はオーバーフィードで2.5%の条件で行った以外は比較例2と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。基布の中間伸度は大きいが、ガスリークがあり、展開サイズが小さい。シールバッグ展開では、バースト圧はそれなりに出ている。しかし、引張り抵抗が低くインフレーター展開ではホットガスリークからバーストしてしまった。
【0056】
[比較例4]
ポリアミド6・6繊維のフィラメント糸で、繊度235dtex、フィラメント数72本、引張強度10.0cN/dtex、沸水収縮率4.0%を有する織糸を用いた。実施例1のように製織し、熱固定を、緯方向は幅入れせず幅寸法変化0%、経方向はオーバーフィードせず織物長変化0%の条件で行った。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。基布の中間伸度が小さく、バッグ展開サイズが小さい。一方、シールバースト展開では、ガスリークの影響は無く、バースト圧は高圧であった。インフレーター展開ではバッグバーストは無かった。
【0057】
[比較例5]
製織後の熱固定を、緯方向は幅入れで4.0%、経方向はオーバーフィードで4.0%の条件で行ったことを除いて実施例1と同様に実施した。得られたエアバッグ用基布の特性および評価結果を表1に示す。張力緩和した加工条件となり、基布の中間伸度が大きいものの、通気度が高く、展開サイズは小さい。また、シールバースト展開では、ガスリークの影響は無く、バースト圧は高圧であった。インフレーター展開ではホットガスリークからバッグバーストした。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、乗物用、すなわち、乗物に搭載して乗員安全用、歩行者安全用に用いるエアバッグとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維織物からなり、引張り試験における引張強力が経緯方向共に500N/cm以上であり、300N/cm負荷における伸び率が経緯方向の合計で40%以上であり、最大引張り抵抗度が経緯方向の合計で90cN/dtex以上であり、負荷縫目通気度(特定の縫目に1,500N/15cmの引張り負荷を付与した後の50kPa差圧下の通気度)が、経緯方向の負荷後の通気度の平均で2000mm/s以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
織物の目付けが200g/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
織物のカバーファクターが2100以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
織物構成糸の織縮み率が経緯合わせて8%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
織物構成糸の総繊度が200から420dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布を少なくとも一部に用いて形成されるエアバッグ。
【請求項7】
請求項6に記載のエアバッグを含んでなるエアバッグ装置。

【公開番号】特開2013−23784(P2013−23784A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159956(P2011−159956)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】