説明

エアバッグ用織物およびエアバッグ用織物の製造方法

【課題】動的な低通気特性に優れ、ひいては内圧保持特性に優れたエアバッグ用織物を提供する。
【解決手段】合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて測定される平均動的通気度(ADAP)が500mm/s以下であり、かつ同規定に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が1.5以下であることを特徴とするエアバッグ用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全意識の向上に伴い、自動車の事故が発生した際に乗員の安全を確保するために、種々のエアバッグが開発されるに伴いその有効性が認識され、急速に実用化が進んでいる。
【0003】
エアバッグは、車両が衝突してから極めて短時間に車内で膨張展開することで、衝突の反動で移動する乗員を受け止め、その衝撃を吸収して乗員を保護するものである。この作用上、袋を構成する布帛の通気量は小さいことが求められている。また、近年、更なる乗員拘束性向上を目的にエアバッグが膨張展開し、乗員を受け止める際にバッグ内圧を一定以上に保つために、布帛に対してガスが当たったときの布帛からのガス漏れ防止の要求も高まっている。
【0004】
従来、布帛の通気量を小さくする手段として、エアバッグ用織物に樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けた、コート布が提案されている。
【0005】
しかし、樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けると、布帛の厚みが増し、収納時のコンパクト性が悪化し、エアバッグ用織物としては不適当であった。また、このような樹脂塗布工程やフィルムの貼り付け工程が増えることによって、製造コストが上がるという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、近年、樹脂加工を施さず、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成フィラメント糸を高密度に製織することで布帛の通気量を小さくするノンコート布が提案されており、例えば、低通気性を実現する手段として、300〜400dtexの繊度を有する合成フィラメント糸を用い、対称な織物組織を有する織物を使用する手段が開示されている(特許文献1参照)。この手段によれば、試験差圧500Paで10L/dm・min以下の通気量を達成する。
【0007】
また例えば、熱気収縮率6〜15%のポリアミドフィラメント糸からなる織物に、60〜140℃の温度範囲内で水浴中での処理を実施したノンコート布を使用する手段が開示されている(特許文献2参照)。この手段によっても、試験差圧500Paで10L/dm・min未満の通気量を達成している。
【0008】
また、マルチフィラメント糸の単繊維の断面形状を扁平断面化することで、低通気性およびバッグ収納コンパクト性を改善したエアバッグ用基布が開示されている。(特許文献3および4参照)。この手段によれば、試験差圧125Paで0.2cc/cm/sec以下および試験差圧19.6kPaで0.7L/cm/min以下の通気量を達成している。
【0009】
しかし、これらの手段で達成している低通気量は、差圧を一定に保った状態でのいわば静的な通気特性であるが、エアバッグが機能する際の実際の布帛の膨張・通気挙動は瞬時に当てられる高圧ガスや乗員の接触により決定され、あるいは大きく影響を受け、内圧保持性等、静的な通気特性では十分に評価しきれない特性もあると考えられる。内圧保持性は、乗員がエアバッグに接触後も衝突のエネルギーを吸収して乗員を保護する上で重要である。
【0010】
そこでASTM D6476には、動的な通気特性に関する評価方法が定められている。しかし上記の手段では、動的な通気特性としては未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−137245号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平4−281062号公報(請求項1及び2、段落0026)
【特許文献3】特開2003−171841(請求項3)
【特許文献4】特開2005−281933(請求項4)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ASTM D6476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、動的な低通気特性に優れ、ひいては内圧保持特性に優れたエアバッグ用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて測定される平均動的通気度(ADAP)が500mm/s以下であり、かつ同規定に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が1.5以下であることを特徴とするエアバッグ用織物である。
【0015】
また本発明は、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法であって、製織においてタテ糸張力を0.11〜0.34cN/本・dtexに調整して製織し、20〜65℃で精練し、80〜150℃で熱セットすることを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、動的な低通気特性に優れ、ひいては内圧保持特性に優れたエアバッグ用織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のエアバック用織物は合成繊維マルチフィラメント糸からなる。合成繊維マルチフィラメント糸を構成する合成繊維としては例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維等を用いることができる。なかでも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましい。
【0018】
ポリアミド系繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維を挙げることができる。ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は耐衝撃性に特に優れており、好ましい。
【0019】
また、ポリエステル系繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0020】
また、合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
また、合成繊維の単繊維の断面形状としては、丸断面の他に、扁平断面のものを用いてよい。かかる扁平断面形状としては、幾何学的に真の楕円形の他、例えば、長方形、菱形または繭形でもよいし、左右対称の他、左右非対称型でもよい。また、これらを組み合わせた形状のものでもよい。さらに、上記を基本形として、突起や凹みあるいは部分的に中空部があるものであってもよい。
【0022】
合成繊維フィラメント糸を構成する合成繊維フィラメントの単繊維繊度としては、2dtex以下とすることが好ましい。2dtex以下とすることで、後述する動的な低通気特性に優れたエアバッグ用織物を得ることができる。そのメカニズムを、次に記載する。
【0023】
すなわち、単繊維繊度2dtex以下とし、よって従来よりも多数のフィラメントで合成繊維マルチフィラメント糸を構成すると、繊維の充填化効果がより一層向上して、低通気特性が得られるだけでなく、その織物に圧縮ガスが当たる際に、マルチフィラメント糸内の単繊維フィラメント同士が動き易く、マルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がり、マルチフィラメント糸内の通気を発生させるような微細な空隙を埋めるだけでなく、織物の目合い部の空隙も効果的に封止することができる。また、単繊維繊度を2dtex以下とすることで、合成繊維マルチフィラメント糸の剛性を低下させる効果が得られるため、エアバッグの収納性も向上させることができる。
【0024】
また、合成繊維フィラメントの単繊維繊度の下限値としては、1dtex以上とすることが好ましい。そうすることで、インフレーターから放出される高温ガスの熱により合成繊維フィラメントが溶融するのを防ぐことができる。
【0025】
合成繊維フィラメントの単繊維の引張強度としては、エアバッグ用織物として要求される機械的特性を満足するためと製糸操業面から、タテ糸およびヨコ糸ともに8.0〜9.0cN/dtexが好ましく、より好ましくは8.3〜8.7cN/dtexである。
【0026】
合成繊維フィラメント糸の総繊度としては、100〜700dtexが好ましく、より好ましくは200〜500dtex、さらに好ましくは300〜400dtexである。100dtex以上とすることで、前述のような封止効果を効率良く得ることができ、また織物の強度を維持できる。また、700dtex以下とすることで、収納時のコンパクト性や柔軟性を維持できる。また、単繊維繊度1〜2dtexの合成繊維で総繊度700dtexを越えるマルチフィラメント糸を得るには単繊維数を多くしなければならないが、一度の紡糸で得ることが極めて困難であるため、2〜3本の糸条(総繊度の小さいマルチフィラメント糸)を合糸して形成した繊維糸条とする必要が生じ、生産性を損ないコストが高くなる。
エアバッグ用織物の繊維に関しては、総繊度、単繊維繊度をともに小さくすることが長年に渡り検討され続けてきたが、本発明のように総繊度100〜700dtexの範囲で2dtex以下の単繊維繊度を有するポリアミド繊維が実際に開示された例はなく、このようなポリアミド繊維を用いてエアバッグ用の布帛を構成した場合に具備される特性についても当然開示された例はない。これは、従来の検討では、エアバッグ用織物の特性向上が3〜4dtex程度まで単繊維繊度を小さくすると飽和する傾向にあったことに加え、単繊維数が100本以上で2dtex以下の単繊維繊度を有する産業用のポリアミド繊維を直接紡糸延伸法にて安定して製造することが極めて困難であったことによる。本発明者らは、後述の方法にて単繊維数が100本以上で2dtex以下のポリアミド繊維マルチフィラメント糸を得る方法、および該ポリアミド繊維マルチフィラメント糸から構成されたエアバッグ用織物が有する特性について鋭意検討した。その結果、総繊度は同じで単繊維繊度のみ異なるポリアミド繊維を同じ方法によってエアバッグ用織物とした場合に比べ、単繊維繊度を2dtex以下とすることで後述する動的な低通気性が向上することを究明したものである。なお単繊維繊度が1dtex未満のエアバッグ用に適したポリアミド繊維は、本明細書に記載した方法を用いても得ることは困難である。
【0027】
また、織物のカバーファクター(CF)は、1800〜2300とすることが好ましい。カバーファクターを1800以上とすることで、低通気性を得ることができる。また、2300以下とすることで、コンパクト収納性を向上させることができる。
【0028】
ここで、織物のカバーファクター(CF)とは、タテ糸あるいはヨコ糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、タテ糸総繊度をDw(dtex)、ヨコ糸総繊度をDf(dtex)、タテ糸の織密度をNw(本/2.54cm)、ヨコ糸の織密度をNf(本/2.54cm)としたとき次の式で表される。
CF=(Dw×0.9)1/2×Nw+(Df×0.9)1/2×Nf 。
【0029】
本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6476に基づいて測定される平均動的通気度(ADAP)が500mm/s以下であることが重要であり、好ましくは400mm/s以下、より好ましくは300mm/s以下である。そうすることで、エアバッグが膨張展開して乗員を受け止める際に、織物からのガス漏れを極力抑え、エアバッグの内圧を保持することができる。当該測定は、テストヘッドに充填した圧縮空気を瞬時に解放して布帛の試料に当て、刻々変化する圧力に応じた通気度(動的通気度)を測定し、最大圧力に達した後の上限圧力(UPPER LIMIT)〜下限圧力(LOWER LIMIT)の範囲内の動的通気度の平均通気量を算出するものである。最大圧力達成後の空気の漏れを測定するこの方法は、エアバッグ展開後から、乗員を拘束し、乗員拘束を終えるまでの内圧保持性を表しており、ある一点の圧力下における通気度を測定する、静的な通気度とは全く異なるものである。本発明の平均動的通気度(ADAP)の測定条件は圧縮空気の圧力を、最大圧力が100±5kPaになるように調整し、平均動的通気度を算出する下限圧力を30kPa、上限圧力を70kPaと、実際の乗員拘束時のエアバッグの内圧の領域に設定した。
【0030】
また、本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6476に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が1.5以下であることが重要であり、好ましくは1.4以下、より好ましくは1.3以下である。動的通気度曲線指数(Exponent)は、上記平均動的通気度の測定で得られる圧力−動的通気度曲線から得られる曲線指数Eであり、TEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350により算出される。本発明者等は、動的通気度曲線指数とエアバッグの膨張展開後に乗員を受け止めた際のバッグ内圧保持性との関係を鋭意検討したところ、動的通気度曲線指数が1.5以下であることがバッグ内圧保持性に重要であることを見出した。
【0031】
動的通気度曲線指数について詳細に説明する。動的通気度曲線指数が1.0であると、バッグ内圧の変化に拘らず一定の通気度を示す。動的通気度曲線指数が1.0より大きいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が上昇することを示す。動的通気度曲線指数が1.0より小さいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が低下することを示す。一般的に、平均動的通気度が小さければ小さいほど、動的通気度曲線指数は大きくなる。つまり、空気が通過できる流路があると、その流路がバッグ内圧の増加に伴い、拡大し通気度が上昇することを意味する。エアバッグの展開においては、乗員が膨らんだエアバッグに当たると、バッグ内部の圧力に増加が生じ、圧力増加が通気度の増加を引き起こすことから、動的通気度曲線指数が高い織物は、低い織物に比べて、インフレーターガスのロスが大きくなる。
【0032】
本発明のエアバッグ用織物特徴は、小さな平均動的通気度であるにも拘らず、動的通気度曲線指数が小さいことである。
【0033】
次に、本発明のエアバッグ用織物を構成する好ましい形態であるポリアミドマルチフィラメント糸の製造方法と、エアバッグ用織物を製造する方法について説明する。
【0034】
ポリアミドマルチフィラメント糸は溶融紡糸をベースに以下の方法で製造する。
【0035】
まず、前記したポリアミドチップをエクストルーダー型紡糸機へ供給し、軽量ポンプにより紡糸口金へ配し、290〜300℃で溶融紡糸する。この際、紡糸口金の孔スペックは、単繊維繊度のバラツキを小さくして製織中の毛羽の発生を抑制するために、背面圧を少なくとも60kg/cm以上に設計することが好ましく、80〜120kg/cmとすることがより好ましい。また、同心円上に吐出孔を配列させ、その列数は好ましくは2〜8列、より好ましくは3〜6列である。列数が少なすぎると単繊維間距離が小さくなりすぎ、紡糸中に単繊維同士が衝突し、悪い場合は融着するし、多すぎると冷却斑による単繊維間の物性斑が大きくなるため好ましくない。また、最外周に配列した各吐出孔を同心円として結んだときの直径は、徐冷筒(加熱筒)や環状冷却装置の内径より小さくするが、好ましくは8〜25mm、より好ましくは10〜20mm小さくすればよい。徐冷筒は、溶融紡糸直後の糸を徐冷することで強伸度低下を防止するために設置されているものであり、一般的には冷却前の筒内雰囲気温度を溶融状態で押し出された糸の結晶化温度より高くするために加熱しているか、断熱材を用いて保温している。そのため加熱筒や保温筒などともいう。最外周の孔の位置が徐冷筒(加熱筒)や環状冷却装置に近すぎると、固化前の糸条が装置と接触しやすくなり紡糸が不安定になるし、遠すぎる場合は糸条の冷却が不十分になり、高強度・高伸度のポリアミドマルチフィラメント糸を得難くなる。
【0036】
口金より吐出された紡出糸条には水蒸気を付与することが好ましい。ポリアミド繊維の溶融紡糸では、口金直下に不活性ガス、中でも水蒸気を滞留させることが一般的であるが、特に産業用のポリアミド繊維の機械的特性が水蒸気によって変化するといったことは開示されたことはない。驚くべきことに、本発明の環状冷却装置を用いた単繊維繊度の小さい高強度ポリアミドマルチフィラメント糸の製造においては、水蒸気が強度および伸度をともに向上させ、さらに繊度斑を低下させる効果があることを究明した。水蒸気の吹出し孔は直径0.5〜5mmで長さが1〜10mm程度の公知のものを用いればよい。水蒸気量を過度に多くすると、強度および伸度の低下と繊度斑の悪化、毛羽や糸切れの増大を引き起こすことになるため、吹出し圧力は100〜600Paが好ましく、200〜400Paであるとより好ましい。吹出し圧力は静圧値であり、孔へ流入する蒸気の静圧を静圧測定装置で測定すればよい。
水蒸気を付与された糸条は、円筒状の徐冷筒と円筒状の環状冷却装置を順次通過させることで冷却固化を完了させる。徐冷筒内径は環状冷却装置内径と同じにして、筒内の徐冷筒と環状冷却装置の接触箇所での空気流の乱れを防止することが好ましく、好ましくは30〜150mm、より好ましくは50〜100mm、さらに好ましくは50〜80mmの長さで筒内の雰囲気温度が250〜350℃となるように加熱した後、環状冷却装置を用いて冷却することが好ましい。徐冷筒を用いることで口金面の保温性を高めるとともに糸の変形を緩やかにすることで、タフネス性に優れたポリアミド繊維を得ることができるが、徐冷筒の長さが前記範囲であると、ポリアミド繊維の長手方向の太さ斑がより均一になる。単繊維繊度が1.5dtex未満の場合は、徐冷筒を使用せずに環状冷却装置を設置して、紡出糸条をより早く冷却させ始めることで糸長手方向の太さ斑が極端に悪化するのを防ぐこともできるが、その場合は、口金面を保温して高強度・高伸度のポリアミドマルチフィラメント糸を得るため、環状冷却装置の最上部から100mm以内の一定の長さで、100〜250℃の熱風を吹き出すようにすることが好ましい。
【0037】
環状冷却装置による糸条の冷却においては、ポリアミドをガラス転移点まで十分に冷却できるように10〜50℃の冷却風を用いることが好ましい。環状冷却装置の基本構成は公知のものを用いればよい。例えば、多数の毛細管状の孔を有する多孔質の部材から筒体を構成し、冷却筒内部に送られた冷却風が冷却風の吹出箇所から糸条方向へ整流されつつ吹き出されるようにすればよい。また、冷却風速を調節するために、例えば、冷却筒エレメントのエア導入部にパンチング状のプレートやメッシュなど多孔質部材を設置することが好ましい。本発明のエアバッグ用基布を構成する高強度・高伸度な単繊維繊度の小さいポリアミドマルチフィラメント糸を得るには、以下の特徴を有する構成とすることが好ましい。
【0038】
冷却風は吐出孔群の外周側から中心側へ吹き出すようにする。この構成とすることで、ポリエステル系に比べ、冷却難度の高いポリアミドマルチフィラメント糸を充分に冷却するだけの冷却風を供給することができる。中心側から外周側へ吹き出す構成とした場合、本発明のポリアミドマルチフィラメント糸を得るには単繊維が必要以上に外側へ張り出すため、あるいは過度に長い冷却設備が必要となるため、設備の大型化を招くことになり好ましくない。
【0039】
冷却筒の長さは、従来提案されている環状冷却設備より相当に長く、冷却風の吹出し長さが600〜1200mmの範囲にすることが好ましく、より好ましくは800〜1000mmである。600mm以上であれば本発明のポリアミドマルチフィラメント糸を充分に冷却することができ、良好な機械的特性および毛羽品位等を得ることができる。1200mm以下であれば、設備自体が長くなりすぎず好ましい。
【0040】
冷却筒内と大気圧との差圧は、好ましくは500〜1200Paであり、より好ましくは600〜1100Pa、さらに好ましくは800〜1000Paとなるように加圧して冷却風を送風することが好ましい。差圧は冷却筒へ流入する気体の静圧値を静圧測定装置で測定した値である。従来の横吹出し冷却装置を用いた場合、冷却風を弱めてマルチフィラメント糸の機械的特性が低下すると毛羽品位も悪化する傾向にあった。ところが環状冷却装置を用いた場合、該差圧が本発明のポリアミドマルチフィラメント糸の物性に与える影響は小さく、例えば200Pa程度でも延伸倍率の調整のみで機械的特性を調節することができるが、意外にも500Pa以上とすることで毛羽の発生が著しく抑えられることがわかった。また、1200Pa以下とすると、風速が大きくなりすぎず、糸同士の接触を防ぎやすくなるため好ましい。
【0041】
また、該装置長手方向に対する冷却風の風速は不均一で、上部側風速Vを10〜30m/分、下部側風速Vを40〜80m/分とし、VがVより小さく、V/Vが2〜3であることが好ましい。より好ましいVとVの範囲はそれぞれ15〜25m/分、50〜70m/分である。装置長手方向で少なくとも2段階の大きな風速比率変更を行い、前記風速範囲とすることで、糸長手方向の太さ斑が悪化することなく繊維物性を向上させることができる。特に上部側で徐冷効果を生み出すことによって、繊維のタフネス性が向上し、同一強度とした場合の伸度が2〜5%程度変化する。このような風速比率の変更に関しては、冷却風吹出し部の最上部から全長の10〜50%程度の位置で変更させることが好ましく、より好ましくは15〜45%である。その手段としては、冷却筒の外筒と多孔質部材からなる整流筒の間で、比率を変更したい位置にドーナツ状の多孔質部材を設置することで、該位置を境界に筒中の上下間にさらに差圧を与え、上下の風速を変更する手段や、冷却装置自体を2段構成としてそれぞれの筒内と大気圧との差圧を調節する手段などが考えられるが、いずれの方法を用いても問題はない。
【0042】
従来の横吹出し冷却設備を用いて総繊度200〜700dtex、単繊維繊度1〜2dtexのポリアミド繊維を製造しようとした場合は、紡出部での糸揺れが激しくなりすぎ、単繊維同士の接触を抑えることができなかったのに対し、前記した本発明の方法では、糸条固化前の冷却風の風速を小さくしても冷却風と紡出糸条との距離が近いため、冷却不足とはならず、かつエアがぶつかりあって下降気流を形成し、冷却風の水平方向速度成分を大きく低下させることができるため、糸揺れを抑えながら製糸可能になるものと推察される。
【0043】
その後、得られた冷却糸条は公知の方法で油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、延伸した後巻き取ることができる。油剤は公知の油剤を用いることができるが、引き取りロール上での単糸巻き付きを抑制するために、その付着量は0.3〜1.5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0重量%である。
【0044】
また、引き取りロールの回転速度で定義される紡糸速度が500〜1000m/分であることが好ましく、より好ましくは700〜900m/分である。紡糸速度が500m/分以上であると、最終的な生産速度も充分となり、安価にポリアミド繊維を製造できる。1000m/分以下とすると、糸切れや毛羽の多発を防ぐことができ好ましい。
【0045】
これら前記した方法で得られた紡出糸は、公知の方法を用いて延伸や弛緩熱処理、および巻取り等を行うことができ、例えば、2〜3段で100〜250℃の多段延伸熱処理を施した後、1〜10%で50〜200℃の弛緩熱処理を施すこと等が可能である。
また、糸条に付与する交絡は織機の種類や製織速度にあわせ適宜選択することができるが、本発明による方法であれば過度に交絡を施す必要はなく、15〜30個/mの交絡数が得られるように、交絡付与装置の種類や付与条件を変更すればよい。15個/mを大きく下回っても30個/mを上回っても、高次工程通過性は悪化する傾向となる。同様に交絡の強度も公知の範囲のものとすればよい。
【0046】
こうして、従来提案された方法では製糸できなかった総繊度200〜700dtexで単繊維繊度が1〜2dtexのエアバッグ用に適したポリアミドマルチフィラメント糸を、好ましくは強度8〜9cN/dtex、伸度20〜25%、沸騰水収縮率4〜10%で糸斑なく、安価にかつ優れた製糸性や毛羽品位で得ることが可能となる。すなわち、直接紡糸延伸法により、製糸速度3000m/分以上で、より好ましくは3500m/分以上で、かつ8糸条以上の多糸条同時延伸法を用いて効率良く生産することができる。
【0047】
本発明のエアバッグ用織物は、まず、前述した素材および繊度のタテ糸を整経して織機にかけ、同様にヨコ糸の準備をする。かかる織機としては例えば、ウォータージェットルーム、エアージェットルームおよびレピアルームなどが使用可能である。中でも生産性を高めるためには、高速製織が比較的容易なウォータージェットルームを用いるのが好ましい。
【0048】
次に、製織において低平均動的通気度および小さな動的通気度曲線指数のエアバッグ用織物を得るためにタテ糸張力を0.11〜0.34cN/本・dtexに調整して行うことが好ましく、より好ましくは0.15〜0.28cN/本・dtexである。タテ糸張力を0.11cN/本・dtex以上とすることで、織物を構成するマルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間空隙を減少させ、平均動的通気度を低減させることができる。また、0.34cN/本・dtex以下とすることで、前述のように織物に圧縮ガスが当たる際にマルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がる遊びを残し、動的通気度曲線指数を下げることができる。タテ糸張力を0.11cN/本・dtex未満とすると、マルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間空隙を増加させ、平均動的通気度を上昇させるだけでなく、目的の織密度に調整できない場合がある。
【0049】
タテ糸張力を上記範囲内に調整する具体的方法としては、織機のタテ糸送り出し速度を調整する他、ヨコ糸の打ち込み速度を調整する方法が挙げられる。タテ糸張力が製織中に実際に上記範囲内となっているかどうかは、例えば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーとの中間において、タテ糸一本当たりに加わる張力を張力測定器で測り、その値をタテ糸の繊度(dtex)で割ることで確認することができる。
【0050】
製織工程に次いで、必要に応じて、精練、熱セット等の加工を施す。
【0051】
精練加工における精練温度としては、20〜65℃が好ましく、より好ましくは30〜55℃である。20℃以上とすることで、製織後の織物に残留した歪みを除去し、マルチフィラメント糸内の単繊維フィラメント同士を動き易くさせ、マルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がることができるため、低通気度の織物を得ることができる。一方、65℃以下とすることで、マルフィラメントの大きな収縮を抑制し、動的通気度曲線指数を下げることができる。製織された織物を構成するマルチフィラメント糸は互いに交差するマルチフィラメント糸に拘束されているため、自由に収縮することができない。65℃以上の高温で精練加工した場合、マルチフィラメント糸は自由に収縮できないため、単繊維繊度が小さくなると共に、単繊維が整列するように再配列する場合がある。その場合、平均動的通気度が大きくなるだけでなく、マルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がる遊びがなくなるため、動的通気度曲線指数が上昇する。
【0052】
熱セット加工においても、精練工程と同じく、製織後の織物に残留した歪みを除去させ、マルチフィラメント糸の大きな収縮を抑制できる熱セット温度に設定することが好ましい。具体的には、80〜150℃が好ましく、より好ましくは100〜120℃である。80℃以上とすることで、動的通気度曲線指数を下げることができる。一方、150℃以下とすることで、平均動的通気度を下げることができる。
【0053】
本発明のエアバッグ用織物は、袋状に縫製し、インフレーターなどの付属機器を取り付けてエアバッグとすることができ、運転席用、助手席用および後部座席用、側面用エアバッグなどに使用することができる。
【実施例】
【0054】
[測定方法]
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0055】
(1)総繊度:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0056】
(2)単繊維数:JIS L1013(1999) 8.4の方法で算出した。
【0057】
(3)単繊維繊度:総繊度を単繊維数で除することで算出した。
【0058】
(4)強度・伸度:JIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0059】
(5)沸騰水収縮率:原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さL0を測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温湿度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さL1を測定した。それぞれの長さL0およびL1から次式により沸騰水収縮率を求めた。
沸騰水収縮率=[(L0−L1)/L0]×100(%)
(6)繊度斑:ツェルベガー・ウースター(Zellweger USTER)社製のウースター・テスター・モニターC(USTER TESTER MONITOR C)を用いてハーフ値を測定した。INEATモードを使用して、糸条速度25m/分にて125mの測定を行った。
【0060】
(7)毛羽評価:得られた繊維パッケージを500m/分の速度で巻き返し、巻き返し中の糸条から2mm離れた箇所にヘバーライン社製レーザー式毛羽検知機“フライテックV”を設置し、検知された毛羽総数を10万mあたりの個数に換算して表示した。
【0061】
(8)風速:KANOMAX社製アネモマスターを各測定点で冷却風吹出部に密着させ測定した。測定点は冷却風吹出部を構成する筒体の上端部より0、50、100mmの位置と100mm以上は100mm毎に筒体の下端部まで、それぞれ円周方向に90度ずつ角度を変え4点測定し、この4点の風速平均を冷却風吹出部上端部からの各距離での風速とした。次いで、上下風速を設備的対応で変更した場合は、該変更位置で上部側と下部側に線引きし、意図的な風速比率変更を行わない場合は、上端部より300mmの位置で上部側と下部側に線引きし、区間風速積分を各有効冷却長で除することによってVとVをそれぞれ求めた。
例えば、筒体上端部よりammの位置の風速をV、冷却風吹出し長さをLとすると、350mmの位置で意図的に風速比率を変更させた場合の算出法は下記のとおりとなる。
=[50(V+2V50+V100)+100(V100+V200)+150(V200+V300)]/2/350
=[150(V400+V500)+100(V500+V600)+・・・]/2/(L−350)
なお、・・・は600mm以降で最大測定点まで同様に計算して足しあわせることを意味する。
【0062】
(9)織物厚さ
JIS L 1096:1999 8.5に則り、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0063】
(10)タテ糸・ヨコ糸の織密度
JIS L 1096:1999 8.6.1に基づき測定した。
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5か所について2.54cmの区間のタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0064】
(11)平均動的通気度・動的通気度曲線指数
ASTM D6476に基づいて測定した。
TEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350を用い、テストヘッドは200cmを用いた。また、テストヘッドに充填する圧縮空気の圧力(START PRESSURE)は、織物にかかる最大圧力が100±5kPaになるように調整した。
【0065】
テストヘッドに充填した圧縮空気を解放して布帛の試料に当て、経時的に圧力および通気度を測定し、得られた圧力−動的通気度曲線において最大圧力到達後の上限圧力(UPPER LIMIT:70kPa)〜下限圧力(LOWER LIMIT:30kPa)の範囲内の動的通気度の平均値を平均動的通気度(ADAP)として求めた。
また、得られた圧力−動的通気度曲線から、FX3350より動的通気度曲線指数(Exponent)を算出した。
【0066】
(12)タテ糸張力
金井工機(株)製チェックマスター(登録商標)(形式:CM−200FR)を用い、織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分において、タテ糸一本当たりに加わる張力を測定した。この値を使用したタテ糸の繊度(dtex)で割り、算出した。
【0067】
[実施例1〜3]
液相重合で得られたナイロン66チップに酸化防止剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマ重量に対し、銅として68ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマチップ100重量部に対してそれぞれカリウムとして0.1重量部となるよう添加吸着させ、バッチ式固相重合装置を用いて固相重合させて硫酸相対粘度が3.8のナイロン66ペレットを得た。得られたナイロン66ペレットをエクストルーダーへ供給し、計量ポンプにより総繊度が表1の糸条を2本得るように吐出量を調節して紡糸口金に配し、295℃で溶融紡糸した。ここで、硫酸相対粘度は試料2.5gを96%濃硫酸25ccに溶解し、25℃恒温槽の一定温度下において、オストワルド粘度計を用いて測定した値である。各紡糸口金は、表1に示す単繊維数の糸条を2糸条得ることのできる数、即ち表1に示す単繊維数の2倍の吐出孔が直径0.22mmで4つの同心円上に配置され、最外周の吐出孔群を同心円状に結んだときの直径は、加熱筒および冷却筒の内径より14mm小さいものを用いた。実施例2および3では、直径2mmで深度が4mmの孔を均等間隔に12個有する円状の水蒸気吹き出し装置から、260℃に加熱した水蒸気を、表1の圧力で糸条吐出面の下方50mmの位置から斜め60℃方向に吹き出させた。さらに口金直下には300℃に加熱した表1の長さの徐冷筒を設け、表1および表2の冷却風吹出し長さを有する円筒状の環状冷却装置を用いて、20℃の冷却風を冷却筒内と大気圧との差圧が表1の値となるように加圧して送風し、紡出糸条を冷却固化せしめた。冷却筒の冷却風吹出部を構成する筒体としては、厚さ4.6mmで濾過精度40μmの孔を有するフェノール樹脂含浸セルロースリボンを螺旋状に巻き付け筒状に成形した富士フィルター製“フジボン”を用いた。また、冷却筒の冷却風吹出部の上端から350mmの位置に、筒内上下での冷却風の速度を変更させるようにドーナツ状で開口率22.7%のパンチングプレートを配置した。冷却固化された糸条には、次に平滑剤等を有する非水系油剤を付与し、紡糸引き取りローラに捲回し、紡出糸条を引き取った。引き続き、連続して糸条を延伸・熱処理ゾーンに供給し、直接紡糸延伸法によりナイロン66繊維を製造した。この際、最も回転速度の大きい延伸ローラの回転速度(以下、延伸速度)を3600m/分の一定速度とし、引取速度と延伸速度比で表される総合延伸倍率が表1に示される値となるように引き取りローラの回転速度を調節した。
【0068】
引き取られた糸条は、引き取りローラと給糸ローラの間で5%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラと第1延伸ローラの間で該ローラ間の回転速度比が2となるように1段目の延伸、第1延伸ローラと第2延伸ローラの間で2段目の延伸を行った。引き続き、第2延伸ローラと弛緩ローラとの間で6%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、巻き取り機にて巻き取った。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラが40℃、第1延伸ローラが140℃、第2延伸ローラは230℃、弛緩ローラが150℃となるように設定した。また、原糸付着油分量が1.0重量%となるように非水系油剤の付与量を調整した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.35MPaで一定とした。
【0069】
冷却筒内の上部側および下部側平均風速測定値を含む繊維製造条件と得られたナイロン66繊維の特性を表1に示す。
【0070】
上記方法を用いて製糸したナイロン66繊維の内50kgを500m/分の速度で巻き返し、レーザー式毛羽検知器を用いて繊維パッケージ内に存在する毛羽を調べた結果も同様に表1に示す。
【0071】
実施例1〜3では、十分な機械的特性を有し、毛羽の少ない単糸繊度1〜2dtexのポリアミド繊維を得ることができた。
【0072】
【表1】

【0073】
[参考例1〜3]
1500mmの長さを有する横吹出し冷却装置から30m/分の冷却風を均一に吹き出させ、延伸速度3600m/分で、2糸条が得られるようにした紡糸口金は、吐出孔間隔の最小値が7.5mmとなるように配列したものを用いて、表2の条件でナイロン66繊維を製造した。
【0074】
得られた繊維特性、および毛羽評価結果を表2に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
[実施例4]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例1のナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度1.8dtex、フィラメント数192、総繊度350dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度22.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0077】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織密度が56本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が63本/2.54cmの平織物を製織し生機を得た。
【0078】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を0.28cN/本・dtexとなるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0079】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、55℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0080】
[実施例5]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0081】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、製織時のタテ糸張力を0.34cN/本・dtexとなるように調整した以外は実施例4と同様にして生機を得た。
【0082】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、実施例4と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0083】
[比較例1]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0084】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、製織時のタテ糸張力を0.42cN/本・dtexとなるように調整した以外は実施例4と同様にして生機を得た。
【0085】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、実施例4と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0086】
[比較例2]
(タテ糸・ヨコ糸)
ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度4.9dtex、フィラメント数72、総繊度350dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0087】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例4と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0088】
(精練・セット熱工程)
上記生機に、実施例4と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0089】
【表3】

【0090】
[実施例6]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0091】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織密度が59本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が59本/2.54cmの平織物を製織し生機を得た。
【0092】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を0.34cN/本・dtexとなるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0093】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、65℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0094】
[比較例3]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0095】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例6と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0096】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、80℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0097】
[比較例4]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0098】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例6と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0099】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、65℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で180℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0100】
[実施例7]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例4で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0101】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織密度が62本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が56本/2.54cmの平織物を製織し生機を得た。
【0102】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を0.34cN/本・dtexとなるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0103】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、60℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で150℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0104】
[比較例5]
(タテ糸・ヨコ糸)
比較例1で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0105】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例7と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0106】
(精練・セット熱工程)
上記生機に、実施例7と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0107】
[実施例8]
実施例2のナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度1.7dtex、フィラメント数136、総繊度235dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度22.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0108】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織密度が72本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が72本/2.54cmの平織物を製織し生機を得た。
【0109】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を0.34cN/本・dtexとなるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0110】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、65℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0111】
【表4】

【0112】
[比較例6]
(タテ糸・ヨコ糸)
参考例2のナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度3.3dtex、フィラメント数36、総繊度235dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0113】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例8と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0114】
(精練・セット熱工程)
上記生機に、実施例8と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0115】
[実施例9]
実施例3のナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数384、総繊度470dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度22.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0116】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸の織密度が53本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が53本/2.54cmの平織物を製織し生機を得た。
【0117】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を0.28cN/本・dtexとなるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0118】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、65℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させた後、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0119】
[比較例7]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例9で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0120】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、製織時のタテ糸張力を0.38cN/本・dtexとなるように調整した以外は実施例9と同様にして生機を得た。
【0121】
(精練・熱セット工程)
上記生機に、実施例9と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【0122】
[比較例8]
(タテ糸・ヨコ糸)
参考例3のナイロン6・6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度6.5dtex、フィラメント数72、総繊度470dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0123】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例9と同様の織物構成、製織条件にて製織し生機を得た。
【0124】
(精練・セット熱工程)
上記生機に、実施例9と同様の精練・熱セット加工を施し、エアバッグ用織物を得た。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のエアバッグ用織物は、特に運転席用、助手席用、側面衝突用サイドエアバッグなどに好適に用いることができる。ただし、その適用範囲がこれらに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて測定される平均動的通気度(ADAP)が500mm/s以下であり、かつ同規定に基づいて測定される動的通気度曲線指数(Exponent)が1.5以下であることを特徴とするエアバッグ用織物。
【請求項2】
前記合成繊維マルチフィラメント糸を構成する合成繊維フィラメントの単繊維繊度が2dtex以下である、請求項1記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
前記動的通気度曲線指数(Exponent)が1.4以下である、請求項1または2記載のエアバッグ用織物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のエアバッグ用織物を製造する方法であって、製織においてタテ糸張力を0.11〜0.34cN/本・dtexに調整して製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法。
【請求項5】
精練において20〜65℃の温度下で精練を行う、請求項4記載のエアバッグ用織物の製造方法。
【請求項6】
熱セットにおいて織物幅方向に緊張させないように織物幅を固定させ温度80〜150℃で熱セットする、請求項4または5記載のエアバッグ用織物の製造方法。

【公開番号】特開2009−256860(P2009−256860A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57535(P2009−57535)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】