説明

エアバッグ用織物およびエアバッグ

【課題】軽量でありながら高強力であり、気密性の高いエアバッグを得ることのできる低通気性ノンコート織物を提供する。
【解決手段】ノンコートのエアバッグ用織物であって、総繊度が350dtex以上、単糸繊度が3.5dtex以下、強度が9cN/dtex以上である繊維糸条からなる平織物であり、下記式1より算出されるカバーファクターが850以下、目付けが190g/m以下、引張強力が700N/cm以上、該引張強力をカバーファクターで除して得られる強力指数が0.9以上、および19.6kPa時の通気度が0.75L/cm/分以下であるエアバッグ用織物である。CF=Nw×√Dw+Nf×√Df(式1)(ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)、Dw,Dfは、経糸および緯糸の繊度(dtex)を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグに用いられる織物に関し、さらに詳しくは、軽量でありながら高強力であり、かつ気密性の高いエアバッグを得ることのできる低通気性ノンコート織物およびそれから得られるエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員安全保護装置としてエアバッグの装着が急速に進み、自動車の前面衝突時の前部座席着座者(運転者、助手席者)保護用、側面衝突時の座席シートに内蔵された胸部および大腿部保護用または側部窓に沿って展開するよう窓上部の天井内に装着された頭部保護用、あるいは前面衝突時および後突時の後部座席着座者保護用など、その装着数も増えてきている。
【0003】
これらの安全装置(以下、モジュールと称す)は、エアバッグを展開し膨張させるガス発生器(以下、インフレーターと称す)、乗員と当接して乗員の衝突エネルギーを吸収あるいは緩和する袋体のエアバッグ、これらを連結する金属などの部品、電気信号伝達用の配線、車内に装着し易いように装置の上面部を被覆し意匠性も考慮された樹脂成型品など、多くの構成部品からなる。その結果、車内に搭載された各モジュールの重量も多くなり、モジュールの構成部品を、軽く、小さくすることが求められてきた。
【0004】
これらの要求に対応するため、軽い材料、少ない裁断パーツから構成されたエアバッグが開発されている。たとえば、コーティング樹脂を用いない、いわゆるノンコート基布もその1つであり、従来使用されている総繊度940dtexや700dtexより細い470dtexや350dtex、235dtexの糸を用いたエアバッグ用織物が実用化されている。しかし、細い糸を用いた織物は、目付けが軽くなり、通気性も低くはなるものの、エアバッグ用基布として要求される引張強力、引裂き強力などの物理的特性が不足する傾向にある。逆に、これらの物理特性を満足するために太い糸を用いると、十分な物理特性は得られ易いが、低通気性を得ようとすると織物の目付けが重くなり、軽量なエアバッグが得られ難くい。
【0005】
このように、低通気性、軽量性および高強力という性能を同時に得ようとするのは非常に難しいが、これらを満たす織物の開発が求められているのである。
【0006】
たとえば、特許文献1には、繊度210d(235dtex)以下で、糸強度が10g/d(8.85cN/dtex)以上の高強度糸を用いたオックスフォード織のエアバッグ用基布が提案されており、軽量で高強力な織物が得られている。ここでは、経糸および緯糸に糸を2本以上並べて織るオックスフォード織を用いるが、平織に比較して引張強力や引裂き強力が高くなる傾向にあり、また、糸の交差点が少なく柔軟となる。その半面、織物自体の組織ずれや縫製部の縫い目開きが大きくなり、エアバッグからのガス漏れを抑えることが難しくなる。したがって、乗員がエアバッグに当接した際、エアバッグがその衝撃エネルギーを吸収するための十分な内圧を蓄えることが難しい場合があり、また、インフレーターのガス温度によっては、拡大した縫い目孔が軟化さらには溶融して、隣接する縫い目が連通して大きな欠損部を生じ、最終的にエアバッグの縫合部で破断する場合も考えられる。
【0007】
また、特許文献2には、高い引張強力、低い通気性を有するエアバッグ用基布が開示されているが、実施例に記載された基布の目付けは215g/m以上であり、軽量であるとは言えない。
【0008】
さらに、特許文献3には、低目付け、低通気性であるエアバッグ用織物が提案されているが、織物の強力については言及されていない。実施例から推定すると、この織物が高強力であるとは考えられず、本発明の目的とする、軽量、高強力でありながら低通気性である織物は得られていないと思われる。
【0009】
特許文献4には、繊維糸条の繊度と織物状態での経糸および緯糸の幅との関係およびカバーファクターを特定することにより、優れた空気遮蔽性と柔軟性を兼備する織物が開示されている。ここでは、低通気性を得るために、織物状態での糸条の広がり具合に着目しているものの、得られた織物の力学的な特性については言及しておらず、同時に成立し難い特性である低通気性、高強力、軽さを満たすための方策は何ら示唆していない。
【0010】
また、特許文献5には、織組織を特定した高強力、低目付けのノンコート織物が開示されている。すなわち、経糸および、または緯糸として格子状に複数本の糸条を並べて織り込んだリップストップ織によるものである。しかし、リップストップ織は、格子を形成する複数本の経糸と緯糸の交差点での組織が緻密ではなく、織物全体としての通気性は、十分には低くならない。したがって、本発明の目的とする、低通気、高強力、低目付けのいずれをも満足する特性を有する織物は到底得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−33336号公報
【特許文献2】特開2005−281933号公報
【特許文献3】特開2001−32144号公報
【特許文献4】特開平10−37039号公報
【特許文献5】特開平7−82629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、軽量でありながら高強力であり、気密性の高いエアバッグを得ることのできる低通気性ノンコート織物およびそれから得られるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、ノンコートのエアバッグ用織物であって、総繊度が350dtex以上、単糸繊度が3.5dtex以下、強度が9cN/dtex以上である繊維糸条からなる平織物であり、下記式1より算出されるカバーファクターが850以下、目付けが190g/m以下、引張強力が700N/cm以上、該引張強力をカバーファクターで除して得られる強力指数が0.9以上、および19.6kPa時の通気度が0.75L/cm/分以下であるエアバッグ用織物に関する。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df (式1)
(ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)、Dw,Dfは、経糸および緯糸の繊度(dtex)を表す)
【0014】
前記繊維糸条の単糸繊度が3.0dtex以下であることが好ましい。
【0015】
前記通気度が0.50L/cm/分以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記記載のエアバッグ用織物からなるエアバッグに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非常に軽量でありながら高強力であり、且つ低通気性であるノンコート織物を得ることができる。さらに、このノンコート織物を用いることにより、高い耐圧性と気密性とをもつエアバッグを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエアバッグ用織物はノンコートであり、総繊度が350dtex以上、単糸繊度が3.5dtex以下、強度が9.0cN/dtex以上である繊維糸条からなる平織物であり、カバーファクターが850以下、目付けが190g/m以下、引張強力が700N/cm以上、該引張強力をカバーファクターで除して得られる強力指数が0.900以上、および19.6kpa時の通気度0.75L/cm/分以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の織物を構成する繊維糸条について、その総繊度は350dtex以上であり、400dtex以上であることが好ましい。糸の総繊度が350dtexより小さいと、糸強度を高めても糸強力の絶対値ならびに織物強力が高くなりにくく、十分なエアバッグの耐圧強度が得られない。また、総繊度が大きすぎると、織物の強力は高まるものの、織物の厚さ、目付けが大きくなり、軽量な織物が得られ難い。したがって、総繊度は940dtex以下であることが好ましく、700dtex以下であることがより好ましく、500dtex以下であることがさらに好ましい。
【0020】
前記繊維糸条の単糸繊度は、3.5dtex以下であり、3.0dtex以下であることが好ましく、2.5dtex以下であることがより好ましい。単糸繊度を3.5dtex以下にすることにより、織物の柔軟性が向上しエアバッグの折畳み性が改良され、また、通気性を低くすることができる。単糸繊度が小さ過ぎると、紡糸工程、製織工程などで単糸切れが起こり易くなり、織物物性にも影響を与え易くなるため、0.5dtex以上であることが好ましい。
【0021】
また、その強度は9.0cN/dtex以上である。糸の強度が9.0cN/dtexより小さいと、高い糸強力および高い織物強力が得られない。糸の強度は9.5cN/dtex以上であることが好ましい。糸強度は高い方が好ましいが、13.0cN/dtex以下であることが好ましい。13.0cN/dtexをこえると、紡糸の延伸工程で著しく毛羽が発生し易く、延伸工程および巻取り工程や製織工程でのトラブル原因となり易く、良好な品質の織物が得られにくい傾向にある。
【0022】
本発明の織物は、目付けが190g/m以下である。目付けが190g/mをこえると、軽量化という本発明の目的を達成することができない。目付けは180g/m以下であることが好ましい。目付けが小さくなりすぎると、織物の高い強力が得られにくく、引裂き強力など他の物理特性が低くなる傾向にあるため、150g/m以上であることが好ましい。
【0023】
前記織物は、平織組織からなる平織物である。平織以外の織組織、たとえば、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、摸紗織など、平織より経糸と緯糸の交差数が少ない織組織は、柔軟性に富み、引裂強力などの特性が向上する傾向にあるが、織物組織としての緻密さが不足して通気性が高くなり、とりわけ高圧時の低通気性を得ることができない。
【0024】
また、その引張強力は700N/cm以上である。引張強力が700N/cmより小さいと、エアバッグの形状や展開条件によっては、展開時の衝撃やバッグ内圧により発生する内部応力に耐えられず、外周合部などで破損してしまう。引張強力は715N/cm以上であることが好ましく、高ければ高いほどよい。
【0025】
本発明の織物は、その織構造の緻密さを示す指数であるカバーファクターが850以下であり、825以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。経糸および緯糸にそれぞれ繊度の異なる糸を用いる場合は、経糸および緯糸それぞれの繊度毎にカバーファクターを算出し、合計することで織物全体のカバーファクターを求めることができる。
【0026】
カバーファクターが850をこえると、緻密な構造になり低い通気性が得られ易いが、織物の目付けが大きくなり、さらに粗硬になり易く、本発明の目的である軽量の織物が得られない。また、カバーファクターが低くなると、織物の目付けは小さく、薄くなって折畳み性も向上する傾向にあるものの、織物構造が緻密でなくなり、通気性が高くなる。そのため、カバーファクターは、650以上であることが好ましく、675以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。
【0027】
ここでいうカバーファクター(CF)は、織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度N(本/cm)と太さD(dtex)との積で求められ、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)
Dw,Dfは、経糸および緯糸の太さ(dtex)
【0028】
さらに、本発明の織物は、引張強力を前記カバーファクターで除して得られる強力指数、すなわち、織物構造の緻密さに対する引張強さが0.900以上である。この強力指数は、0.925以上であることが好ましく、0.950以上であることがより好ましい。
【0029】
前記強力指数は、高強力、低通気性および軽量性のいずれの特性をも満足するものとして、鋭意検討した結果見出されたものであって、繊維糸条強度の下限、織物のカバーファクターの上限と共に、強力指数の下限を規定することにより、相反する前記特性(高強力、低通気性および軽量性)を有する織物を得ることができる。
【0030】
この強力指数が0.900より小さいと、織物構造の緻密さに対する引張強力が低くなるだけでなく、単糸繊度が3.5dtex以下である場合、強力指数が小さくなるほど高圧時の通気性は高くなる傾向にあり、本発明の目的である軽量、高強力で低通気性の織物が得られない。この強力指数は高いほどよいが、高過ぎると織物構造の緻密さに対する引張強力が異常に高い特性を持つものとなり、たとえば、引裂強力が低下するなど、物理特性への影響が懸念される。そのため、強力指数は1.5以下であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の織物は、19.6kPa時の通気度が0.75L/cm/分以下であり、0.50L/cm/分以下であることが好ましい。本発明のエアバッグは、このノンコート織物を用いるため、織物の通気性が0.75L/cm/分をこえるとエアバッグ膨張時のガス漏れが多くなり、軽量で小型のインフレーターから発生するガスをエアバッグの膨張に有効に活用しようとするモジュール設計に対して、乗員の衝撃を吸収、緩和するために必要なバッグ内圧レベルに到らず、衝突安全装置としての機能を十分に発現できない。通気性は低いほどよいが、不通気性を付与されたコーティング織物並みの通気度ゼロは確保できないため、可能な限りゼロに近い値、たとえば0.05L/cm/分以上であればよい。
【0032】
また、繊維糸条単糸の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型などから選定すればよい。必要に応じて、これらの混繊、合糸、併用、混用(経糸と緯糸で異なる)などを用いればよく、紡糸工程、織物の製造工程、あるいは織物の物性などに支障のない範囲で適宜選定すればよい。
【0033】
本発明で使用される高強度繊維糸条は、延伸工程で通常の強度糸より高い倍率で延伸されることが多く、紡糸工程で単糸切れ(毛羽)が比較的多く発生し易い。これらの糸を用いて織布を作成すると、整経などの準備工程および製織工程で小さな毛羽が誘因となり毛羽同士が絡まって、最終的には経糸を損傷させ易くなる。このような製織時の経糸損傷を抑える手段として、1)繊維糸条の単糸同士を交絡させる、2)物理的あるいは化学的な被覆加工を施すなどの方策を採ることが好ましい。
【0034】
前記交絡法は、インターレースとよばれるもので、紡糸時あるいは整経時などに、空気、蒸気などの高圧気体の噴射により単糸同士を交絡させるものである。糸の総繊度、単糸繊度などに応じて、交絡度合いを適宜選定すればよいが、たとえば、交絡箇所を10〜40個/m程度とする。また、必要に応じて、精練などの後工程で除去することが容易で、かつ単糸同士を弱く密着させるナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの接着性材料を交絡時に高圧気体と同時に噴射、付与することも好ましい。
【0035】
また、前記被覆加工としては、たとえば、甘撚りと呼ばれる20〜150回/m程度の加撚、細い糸を高強度繊維糸条の周囲に巻き付ける捲回加工およびカバリング加工などの物理的な方法、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類などの加工剤による糊付け加工と呼ぶ化学的な方法、あるいは両法の併用などがあげられる。
【0036】
また、前記繊維糸条は、材料としては天然繊維、化学繊維、合成繊維、無機繊維など、形状としては長繊維フィラメント、短繊維を用いた紡績糸、長繊維フィラメントと紡績糸の混合糸、各種の嵩高加工糸など、とくに限定されるものではない。たとえば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合によって得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含む含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリサルフォンアミド系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、ポリケトン系繊維、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、レーヨン、綿、麻、ケナフ繊維などのセルロース系繊維、絹、プロミックスなどの蛋白質系繊維、ポリ乳酸エステル、琥珀酸エステルに代表される生分解性繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチールに代表される金属系繊維などがあげられ、適宜、1種または2種以上を選定すればよい。なかでも、汎用性があり、製織工程での加工性、織物物性などの点において、合成繊維長繊維が好ましい。物理特性、耐久性、耐熱性などの点から、ナイロン66繊維およびポリエステル系繊維が好ましく、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維およびナイロン6繊維が好ましい。
【0037】
これらの繊維糸条には、紡糸性、加工性および耐久性などを改善するために、通常使用されている各種の添加剤、たとえば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0038】
本発明はノンコート織物に関するものであるが、通気性、引裂き強力、耐ホツレ性、滑脱抵抗力、縫い目ズレなどの物理特性を改良するために、織物表面の全てを被覆しない程度に、少量の樹脂、ゴムなどの各種被覆材料を付与してもよい。たとえば、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂またはこれらの変性樹脂などの1種または2種以上を、繊維重量に対し5%未満付与してもよい。
【0039】
前記材料の付与方法は、1)コーティング法(ナイフ、ブレード、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびリップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、および、5)ラミネート法などがあげられる。なかでも、少量の材料が付与できる点で、浸漬法、印捺法が好ましい。
【0040】
また、前記材料には、主たる材料の他、加工性、接着性、レベリング性、湿潤性、表面特性、貯蔵安定性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、たとえば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、乳化剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を選択、混合してもよい。
【0041】
前記材料の液体としての性状は、塗布量、塗布法、材料の加工性や安定性、要求される特性などに応じて、無溶媒型、溶媒型、水分散型、水乳化型、水溶性型などから適宜選定すればよい。なかでも、水分散、水乳化、水溶性などの水性タイプが、作業環境の点で好ましい。
【0042】
また、前記材料には織物との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加してもよいし、予め織物表面にプライマー処理などの前処理を施してもよい。さらに、前記材料の物理特性を向上させたり、耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与するため、前記材料を織物に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを、熱風処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などにより行ってもよい。
【0043】
本発明の織物の製造は、通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機を用いて行うことができる。たとえば、織機としては、シャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機などがあげられる。織機の回転数も、繊維糸条の太さ、断面形状や材質、製織する織物設計、織機の機幅、などに応じて適宜選定すればよいが、たとえば、500〜1200rpmとすればよい。
【0044】
本発明のエアバッグの仕様、形状および容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
【0045】
また、乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、本発明のエアバッグには、一個または複数の排気穴、たとえば、直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積の穴、またはこれらの排気性能に相当するスリットを設けてもよい。また、エアバッグ内圧の上昇レベルに応じて排気性能を可変型とすることのできる膜または弁などを設けてもよい。さらに、この排気穴の周囲には、補強布を接合、積層してもよい。
【0046】
さらに、乗員側へのエアバッグの突出抑制や膨張時の厚みの制御のために、エアバッグ内側に吊り紐やガス流調整布あるいは多重構造となる小さな内袋、エアバッグ外側にフラップと呼ばれる帯状布または抑え布などを設けてもよい。
【0047】
本発明のエアバッグは、本発明の織物を所望の形状に裁断した少なくとも1枚の基布(以下、単に基布と称する)を接合することによって得られる。エアバッグを構成する基布の枚数は1枚または2枚以上である。エアバッグを構成する基布のすべてが、前記織物からなることが好ましい。
【0048】
前記基布同士の接合、基布と補強布や吊り紐との接合、他の裁断基布同士の固定などは、主として縫製によって行われるが、部分的に接着や溶着などを併用したり、製織あるいは製編による接合法を用いてもよく、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の衝撃吸収性能などを満足するものであればよい。
【0049】
裁断基布同士の縫合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えばよい。また、縫い糸の太さは、700dtex(20番手相当)〜2800dtex(0番手相当)、運針数は2〜10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目針間の距離を2mm〜8mm程度とした多針型ミシンを用いればよいが、縫合部の距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合してもよいし、1枚ずつ縫合してもよい。
【0050】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸またはフィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0051】
さらに、必要に応じて、外周縫合部など縫い目からのガス抜けを防ぐために、シール材、接着剤または粘着材などを、縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布または積層してもよい。
【0052】
また、使用するインフレーター特性に応じて、インフレーターのガス噴出口周囲に熱ガスから保護するための耐熱保護布や力学的な補強布を設けてもよい。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、たとえば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料を用いてもよいし、エアバッグ本体と同じか本体基布より太い糸を用いて別途作成した織物をそのまま用いてもよいし、織物表面の片面もしくは両面に耐熱性被覆材を施したものを用いてもよい。
【0053】
エアバッグを収納する際の折畳み法も、運転席用バッグのように中心から左右、上下対称の屏風折り、あるいは中心に向かって外周の多方位から押し縮める折り方、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折りなどにより折畳めばよい。
【0054】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、たとえば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、センターバッグ、後部座席着座者保護用(前突、後突)、後突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備など多用途に適用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用織物およびエアバッグ特性の性能評価の方法を以下に示す。
【0056】
(1)織物の目付け
JIS L−1096(8.4.2)に規定された方法により、基布の単位面積当たりの質量を求めた。
【0057】
(2)引張強力
JIS L−1096(8.12.1A法、ストリップ法)に規定された方法により、織物の経方向と緯方向の引張強力を求め、経と緯の平均値を算出した。
【0058】
(3)通気度
高圧通気度測定装置(コスモ計器社製)を用い、織物の幅方向の左、右および中央の三ヶ所から試料を採取して、19.6kPa時の通気度を測定し、これらの平均値を算出した。
【0059】
(4)エアバッグの重量
得られたエアバッグを折り畳み、重量を測定し、比較例2を100とした相対値で表した。
【0060】
(5)バッグの展開試験
エアバッグの展開試験は、ダイセル社製インフレーター(型式ZA、2ステージ型、出力160kpa/220kpa)、固定金具、樹脂製ケースを用いてモジュールを組み立て実施した。モジュールは100℃にて予め約5時間加熱し、予熱後直ちに展開試験を行い、展開時の膨張状態ならびに展開後のエアバッグ外周縫製部の状態を観察した。
【0061】
(6)運転席用エアバッグの作成法
評価に使用した運転席用エアバッグの作成法を以下に示す。
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ640mmである円形の本体パネルを2枚裁断した。一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、および、該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気孔φ30mmを2箇所(左右一対)設けた。
【0062】
また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と、織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/mを塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布Aをノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気孔補強布として、前記コート基布から外径90mm、内径30mmの環状布Bを2枚裁断した。3枚のノンコート環状布Aをインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫合し、その上から同一形状のコート環状布A1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布(コート基布の場合はコート面側)に円形に縫い合わせた。また、それぞれの排気孔には環状布Bを1枚重ね合わせ、本体パネルに縫い付けた。環状布A、環状布Bの各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせた。
【0063】
インフレーター取付け口の周囲には、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設けた。環状補強布A、Bの本体パネルへの縫い付けには、上糸として5番手糸(1400dtex相当)、下糸として8番手糸(940dtex相当)を用いて、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、2枚の本体パネルは、環状補強布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目間距離2.4mm、縫い代を20mmとして二重環縫い2列にて縫合し、内径φ600mmの円形エアバッグを作成した。外周部縫製の縫い糸および運針数は、前記本縫いと同じ仕様を用いた。
【0064】
実施例1
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の470dtex/180f(糸強度9.5cN/dtex、単糸繊度2.6dtex)を用いて平織物を作成した。ついで、精練、セットを行い、織密度が経および緯いずれも19.3本/cmである本発明のノンコート織物を得た。得られた織物特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグを作製し、その展開試験を行って、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。
【0065】
表1に示すように、得られた本発明の織物は軽量、高強力で通気性も低い。この織物を用いて作成したエアバッグは、やはり軽量で、その展開の挙動は円滑であり、展開後の外周縫製部の縫い目の拡張や破損などは見られなかった。
【0066】
実施例2
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の400dtex/192f(糸強度9.8cN/detx、単糸繊度2.1dtex)を用いて平織物を作成した。ついで、精練、セットを行い、織密度が経および緯いずれも20本/cmである本発明のノンコート織物を得た。
【0067】
表1に示すように、得られた本発明の織物は軽量、高強力で通気性も低い。この織物を用いて作製したエアバッグは、やはり軽量で、その展開の挙動は円滑であり、展開後の外周縫製部の縫い目の拡張や破損などは見られなかった。
【0068】
比較例1
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の470dtex/72f(糸強度8.5cN/dtex、単糸繊度6.5dtex)を用いた以外は、実施例1と同様にしてノンコート織物を得た。得られた織物は通気性が高く、強力係数も低いものであった。また、これを用いて作製したエアバッグの展開試験では、エアバッグの本体からのガス抜けが多く、さらに、外周縫製部の一部が破損したため、十分な膨張がえられなかった。
【0069】
比較例2
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の470dtex/72f(糸強度8.5cN/dtex、単糸繊度6.5dtex)を用いて平織物を作成した。ついで、精練、セットを行い、織密度が経および緯いずれも20.9本/cmであるノンコート織物を得た。この織物は高強力ではあるが、目付けが大きく、通気性もやや高めである。これを用いて作製したエアバッグの展開試験では、外周縫製部の損傷は無いものの、ガス抜けがやや多いものであった。また、得られたエアバッグは軽量とは言えない。
【0070】
比較例3
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の350dtex/108f(糸強度8.5cN/dtex、単糸繊度3.2dtex)を用いて平織物を作成した。ついで、精練、セットを行い、織密度が経および緯いずれも24.4本/cmであるノンコート織物を得た。得られた織物は、軽量で通気性も低いが、引張強力が低く強度指数も小さい。これを用いて作製したエアバッグは、重量は軽いが、展開試験において膨張時の内圧に十分に耐えることができず、外周縫製部から一部破断した。
【0071】
比較例4
経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の235dtex/72f(糸強度9.5cN/dtex、単糸繊度3.3dtex)を用いて平織物を作成した。ついで、精練、セットを行い、織密度が経および緯いずれも27.6本/cmであるノンコート織物を得た。得られた織物は、極めて軽量ではあるが、高強度糸を用いたにもかかわらず引張強力が低かった。その結果、強力指数が小さくなり、高圧時の通気性がやや高くなった。また、作製したエアバッグは、重量は軽いが、展開試験の膨張時の内圧に十分に耐えることができず、外周縫製部が大きく破断した。
【0072】
比較例5
糸強度が8.5cN/dtexである繊維糸条を用いた以外は、実施例2と同様にしてノンコート織物を作成した。得られた織物は、軽量で通気性も低いが、引張強力が小さかった。また、作製したエアバッグは、重量は軽く、展開挙動には問題が無かったが、膨張時の内圧に耐える強力が十分でなく、外周縫製部の一部が破損した。
【0073】
比較例6
織組織を格子間隔が0.5吋であるリップストップ織とした以外は、実施例2と同様にしてノンコート織物を作成した。得られた織物は、軽量で高強力ではあるが、通気性が高かった。また、作製したエアバッグは、重量は軽いものであったが、通気性が高いため、十分な膨張状態が得られなかった。さらに、外周縫製部の縫い目開きが大きく一部が破断した。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンコートのエアバッグ用織物であって、総繊度が350dtex以上、単糸繊度が3.5dtex以下、強度が9cN/dtex以上である繊維糸条からなる平織物であり、下記式1より算出されるカバーファクターが850以下、目付けが190g/m以下、引張強力が700N/cm以上、該引張強力をカバーファクターで除して得られる強力指数が0.9以上、および19.6kPa時の通気度が0.75L/cm/分以下であるエアバッグ用織物。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df (式1)
(ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/cm)、Dw,Dfは、経糸および緯糸の繊度(dtex)を表す)
【請求項2】
前記繊維糸条の単糸繊度が3.0dtex以下である請求項1記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
前記通気度が0.50L/cm/分以下である請求項1または2記載のエアバッグ用織物。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のエアバッグ用織物からなるエアバッグ。

【公開番号】特開2010−203023(P2010−203023A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53236(P2009−53236)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】