説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグ装置のインフレータに金属製の案内筒を設けることなく、複数のガス噴出し口から放射状に噴き出すガスを案内してエアバッグ内へ供給し、かつ、そのガスからのエアバッグの保護をより確実に行えるようにすること。
【解決手段】ガスの導入により車壁を覆うように膨張展開可能なエアバッグと、ガスを前記エアバッグ内に供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、前記インフレータがシリンダータイプインフレータであり、前記インフレータのガス噴出し口を囲い、前記エアバッグ内に向かって開口するような布帛部材からなる案内筒を備え、前記布帛部材が非溶融繊維を50%以上含むことを特徴とするエアバッグ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され、インフレータから供給されるガスによりエアバッグを膨張展開させて乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時や緊急時等に運転席や助手席の乗員等を保護するため、例えばステアリングホイールやインストルメントパネル部に、膨張展開可能なエアバッグを備えたエアバッグ装置を搭載した自動車が広く普及している。また、近年では、後席を含む乗員の保護機能をより高めるため、車両内側の側方窓部に沿って、その全体を覆うようにカーテン状にエアバッグを展開させる側面用のサイドエアバッグ装置(いわゆるカーテン状エアバッグ)も知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載されたエアバッグ装置は、車両側部のルーフレール部等にエアバッグを取り付け、インフレータからのガスにより、車両の開口部を内側から塞いで車壁を覆うようにエアバッグを膨張展開させ、前後席の乗員の主に頭部を保護する。また、このエアバッグ装置では、シリンダータイプのインフレータを使用し、その円筒状の本体部外周に金属製の案内筒(案内筒部)を固定して一端部の複数のガス噴出し口を囲い、案内筒の先端開口部をエアバッグ内に挿入して、エアバッグのガス導入口にインフレータを取り付けている。エアバッグ装置は、この案内筒により、ガス噴出し口から例えば放射状に噴き出すガスをエアバッグ内のインナーチューブに案内し、それらを介してエアバッグ内にガスを供給してエアバッグを膨張展開させる。特にインフレータの噴き出しガスを放射状方向にすることは、車両衝突事故以外で、例えば車両火災などでエアバッグが損傷してガス噴出してしまった場合に、インフレータが一方向に発射してしまうことを阻止できるので重要である。
【0004】
ここで、エアバッグのガス導入口は、通常、エアバッグを構成する基布の端部を縫製するなどして筒状に形成され、その内側にインフレータの一端部が案内筒とともに挿入されて、その外側から固定手段により固定することで、インフレータがガス導入口に取り付けられる。従って、このような従来のエアバッグ装置では、案内筒は、インフレータのガス噴出し口から噴き出すガスの圧力を緩和し、或いは、基布に直接噴射されて高温ガスが当たるのを防止して、エアバッグを保護するための機能を有する。そのため、案内筒には、これら各機能を確保すべく、上記のように、金属製の部材を用いるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、このような金属製の案内筒では、その製造コストが高くなることに加えて、インフレータの外周にカシメて固定する必要もある等、インフレータへの取り付けの手間や時間も増加する傾向がある。その結果、エアバッグ装置の製造コストが増加するとともに、そのインフレータ周りの構造も複雑になる。さらには、金属製部品の重量が重過ぎるという問題も生じる。従って、この従来のエアバッグ装置のように、インフレータの複数のガス噴出し口を囲うように金属製の案内筒を設けることなく、エアバッグ内にガス噴出し口からガスを供給しつつ、その放射状に噴き出すガスからエアバッグを確実に保護することが求められている。
【0006】
そこで、インフレータのガス噴出し口を囲い、エアバッグ内に向かって開口するようにインフレータに複数回巻回され、巻回方向に対して糸目が斜交して配置されたエアバッグ基布からなる布状部材を案内筒とし、エアバッグのガス導入口に挿入されている構成が提案されている(特許文献2参照)。近年、インフレータのガス発生を推薬のみからなるガス発生方式とするパイロ型インフレータを用いることで、圧縮ガスを用いるストアドガス型インフレータや圧縮ガスと加熱薬剤を併用するハイブリッド型インフレータに比べて、インフレータの重量や容量を減量する試みがなされている。しかし、発生熱量が多く、高温ガスが噴出すため、エアバッグ基布からなる布状部材で溶融が生じ、エアバッグの破袋にまで及んだり、取付け口でエアバッグが破袋するという問題があった。また、普及が進んだ前方安全のためのエアバッグのインフレータに比べて、側方安全のためのエアバッグ、たとえばカーテン状エアバッグでは、頭部など人体拘束部位とエアバッグとの距離が短く、より高速でガス流入して展開することが要求されるため、インフレータの瞬時のガス噴出し圧力をいっそう高める要求がある。このため、カーテン状エアバッグでは取付け口付近でエアバッグが破袋するという問題があり、とりわけパイロ型インフレータでは顕著に問題となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3689845号公報
【特許文献2】特開2009−214615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、エアバッグ装置のシリンダータイプインフレータに金属製の案内筒を設けることなく、複数のガス噴出し口から放射状に噴き出すガスを案内してエアバッグ内へ供給し、かつ、そのガスからのエアバッグの保護をより確実に行えるようにすることである。特に、ガス噴出し口から放射状に噴き出すインフレータであり、推薬のみでガス発生するパイロ型インフレータを用いたエアバッグ装置の改良である。さらには、エアバッグ装置全体を軽量化し、収納性をコンパクトにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インフレータ噴出し口に特定の布帛部材からなる案内筒を設けることで、収納性低下することなく、かつ、より軽量基布からなるエアバッグが破袋することなく展開し、衝撃緩和機能を果たすことを見出し、発明したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)ガスの導入により車壁を覆うように膨張展開可能なエアバッグと、ガスを前記エアバッグ内に供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、前記インフレータがシリンダータイプインフレータであり、前記インフレータのガス噴出し口を囲い、前記エアバッグ内に向かって開口するような布帛部材からなる案内筒を備え、前記布帛部材が非溶融繊維を50%以上含むことを特徴とするエアバッグ装置。
(2)エアバッグのガス導入口にインナーチューブが挿入されており、案内筒からエアバッグ内にガスを導入する前記(1)に記載のエアバッグ装置。
(3)案内筒がインナーチューブを兼ねている前記(2)に記載のエアバッグ装置。
(4)非溶融繊維が天然植物繊維、天然動物繊維、再生セルロース繊維および半合成セルロース繊維から選ばれた少なくとも一種である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(5)非溶融繊維が天然植物繊維である前記(4)に記載のエアバッグ装置。
(6)インフレータが推薬のみでガス発生するパイロ型インフレータである前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(7)案内筒の単位面積当たり重量が1200g/m2以下である前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(8)案内筒を構成する布帛部材が複数枚積層されている前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(9)案内筒を構成する布帛部材の単位面積当たり重量が500g/m2以下である前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(10)エアバッグが500−100dtexの総繊度を有する合成繊維布帛からなる前記(1)〜(9)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
(11)総繊度が320−120dtexである前記(10)に記載のエアバッグ装置。
(12)エアバッグが180g/m2以下の単位面積当たり重量を有する合成繊維布帛からなる前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エアバッグ装置のインフレータに金属製の案内筒を設けることなく、複数のガス噴出し口から放射状に噴き出すガスを案内してエアバッグ内へ供給できる。さらに、推薬のみで構成されるインフレータを用いる場合のガスからのエアバッグの保護をより確実に行うことができる。また、エアバッグ装置全体を軽量化し、収納性をコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のエアバッグ装置の一例の要部を模式的に示す正面図である。
【図2】図1のエアバッグのガス導入口付近を示す部分拡大図である。
【図3】本発明で用いられる案内筒の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明のエアバッグ装置の別の一例の要部を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
このエアバッグ装置は、例えば自動車の運転席や助手席から車両後方側の後席まで、車両側方内側の所定範囲にエアバッグを展開させる側面用のエアバッグ装置(サイドエアバッグ装置)であり、車両の衝突時や横転時等に車両内の乗員を保護する。また、以下の実施形態では、車両側部上方のルーフレール部等から、エアバッグをカーテン状に膨張展開させ、前後席の乗員の主に頭部を保護する頭部保護エアバッグ装置を例に採り説明する。
【0014】
図1は、本発明のエアバッグ装置の一例の要部を模式的に示す正面図であり、広げた状態のエアバッグの概略形状を示す図である。また、図では、エアバッグの内部を透視して内部構成も示している(見えない部分は破線で示す)。
【0015】
なお、この図1では、後述するインフレータ40側(図では横長なエアバッグ10の右側)が車両における後方側(リアピラー側)、その逆側(図ではエアバッグ10の左側)が車両における前方側(フロントピラー側)である。また、本実施形態のエアバッグ装置1では、エアバッグ10は、車両側部上方(図ではエアバッグ10の上側)のルーフレール部等(図示せず)に配置及び収納され、収納された状態から下方等に向かってカーテン状に展開する。これにより、エアバッグ10は、車両内側の側方窓部(図では紙面奥側に位置)(図示せず)に沿って、その全体を覆うように膨張展開し、車両の窓部開口を塞いで、乗員と車壁等との間に膨張展開するようになっている。
【0016】
具体的には、このエアバッグ装置1は、図示のように、ガスの導入(流入)により車壁を覆うように膨張展開可能なエアバッグ10と、その一端側(ここで、車両後方側)に接続され、エアバッグ10内にガスを供給するインフレータ40とを備えている。また、エアバッグ装置1は、非動作時に、これらエアバッグ10やインフレータ40を所定状態で収納する、車両内側に設けられたエアバッグカバー(図示せず)及び、エアバッグ10やインフレータ40を車両に固定する固定手段(図示せず)等、従来と同様な他の構成を備えている。
【0017】
エアバッグ10は、覆うべき車両側方窓部の形状等に応じた形状の横長な略袋状をなし、上縁に沿って、車両のルーフレール部に取り付けられる複数(図では6つ)の上部取付片11を有する。また、エアバッグ10には、車両前方側に向かって突出する前部取付片12が形成され、その先端部(突出端部)が車両のフロントピラー部に取り付けられる。エアバッグ10は、各取付片11、12が、車両内の所定位置にボルト等からなる固定手段により固定されて車両に取り付けられ、膨張前の状態では、それら車両各部に設けられたエアバッグカバー内等に収納・配置される。その際、エアバッグ10は、各取付片11、12側(上縁側)に向かって順に折り畳まれ、或いは、下縁側から上縁側に車内側に向けて巻き付けられる等、下方向等に膨張展開可能な状態で収納される。一方、インフレータ40が作動すると、エアバッグ10は、収納状態から膨張してエアバッグカバーを押し開き、主に車両の下方向に向かってカーテン状に膨張展開する。
【0018】
このようなエアバッグ10は、例えば織布を裁断等して形成した2枚の同形状の基布を重ね合わせ、又は対称形状の1枚の基布を折り重ねて、縁部に沿って互いに縫製や接着する等、対向する基布同士を所定位置で気密状態に接合し、その間に膨張可能な気室(隔室)を形成することで略袋状に形成される。あるいは、織機上にて袋織することにより、二重織による膨張基布部と基布同士を接合する接結組織と一重織による非膨張基布部を織製し、膨張可能な気室(隔室)を有する前記と同様な形状が形成される。すなわち、袋織では、基布の接合部は、接結組織、または、接結組織および非膨張基布部からなるものである。
【0019】
また、エアバッグ10には、内側接合部23〜26が気室内の所定位置に1又は複数配置され(本例では23〜26の4箇所)、各気室31、32の厚さ方向(図では紙面に直交する方向)の膨張を抑制し、その膨張厚さや形状等を規制するための規制手段として、或いは、気室31、32の内部を区画してガス流路部や膨張部を形成するための隔壁等として機能し、エアバッグ10は各目的に応じた所定形状に形成される。
【0020】
加えて、このエアバッグ装置1では、エアバッグ10の一端側(ここでは車両後方側)の上部で、基布を外側に向かって突出させ、それらを接合する外縁接合部22間に基布同士を接合しない部分を設けて、略筒状のガス導入口13を形成している。即ち、ガス導入口13は、後部気室32の一部がエアバッグ10の外に向かって開放された、気室の内外を連通させる開口部であり、インフレータ40からのガスをエアバッグ10内に導入し、気室に供給及び流入させるガス流入口(供給口)として機能する。
【0021】
ここで、インフレータ40は、略円筒状をなすシリンダータイプのガス発生装置であり、その長手方向の一端部(図ではエアバッグ10内の先端部)に、周方向に沿って複数のガス噴出し口42(図2参照)が形成された小径部41が、同芯状に突出して設けられている。発生したガスはガス噴出し口から放射状に噴き出すようになる。このエアバッグ装置1では、エアバッグ10のガス導入口13に、インフレータ40の小径部41側の一端部を挿入し、環状のクランプ(バンド)45により、インフレータ40の外周にエアバッグ10を挟んで締め付け固定する。
【0022】
このようにして、ガス導入口13にインフレータ40を取り付け、インフレータ40の複数のガス噴出し口42から放射状に噴き出すガスを、ガス導入口13から導入してエアバッグ10内に供給し、気室に流入させて各気室31、32を膨張させる。その際、ここでは、エアバッグ10内に配置したインナーチューブ50と、インフレータ40噴出し口を覆いガスをインナーチューブを介してエアバッグに案内する案内筒60とにより、インフレータ40が発生するガスを、エアバッグ10内の所定位置に向けて供給する。
【0023】
インナーチューブ50は、ガス導入口13(インフレータ40)からのガスを後部気室32及び前部気室31に案内する案内部材であり、ガス導入口13に接続され、そこから後部気室32の上部及び連結部33内を通り、前部気室31まで延びるように、エアバッグ10内に配置されている。また、このエアバッグ装置1では、インナーチューブ50を略筒状に形成して、その一端部をガス導入口13内まで延長して配置し、クランプ45により、エアバッグ10と共にインフレータ40の外周に挟み付けて固定している。案内筒がインナーチューブを兼ねてもよく、ガス噴出し口を囲う案内筒の開口端がエアバッグ内の気室の付近にあって、ガスを気室に導くように構成することも好ましい。
【0024】
本発明では、案内筒60を構成する布帛部材は非溶融繊維を50%以上含む。非溶融繊維とすることでインフレータから噴出す推薬の反応ガスの熱で案内筒自身が溶融破壊して、案内筒の外側や周囲に存在するインナーチューブ、およびエアバッグのガス導入口の基布に推薬反応の残渣が到達して溶融破壊することを防止できる。本発明で用いる非溶融繊維は加熱により溶融しない繊維であればどのような繊維でもよいが、天然植物繊維、天然動物繊維、再生セルロース繊維および半合成セルロース繊維から選ばれた少なくとも一種の繊維であることが好ましい。天然植物繊維は、綿、麻などであり、天然動物繊維は羊毛などの獣毛や絹糸である。再生セルロース繊維はキュプラレーヨン、ビスコースレーヨンなどであり、半合成セルロース繊維はアセテートなどである。液晶紡糸などによるアラミド繊維は溶融しない繊維であるが、剛直であり加工しにくく高価であるという点がある。むしろ、初期引張抵抗が25GPa以下の柔軟な繊維を用いることが好ましい。また、無機繊維の中には防炎用途に向く素材があるが、重量が重くなるため、あるいは、炭素繊維などは剛直で加工しにくくなるため、有機繊維であることが好ましい。
【0025】
布帛部材からなる案内筒60の構成布帛として、特に、天然植物繊維、例えば綿布が好ましい。さらに、案内筒60として、単位面積当たり重量が1200g/m2以下であることが好ましい。単位面積当たり重量が1200g/m2以下であればエアバッグ装置の軽量化に寄与するし、案内筒の存在するインフレータ取付け部が大きく膨らむことなく収納の邪魔になり難い。また、単位面積当たり重量が200g/m2以上であれば案内筒として機械強度を満たす。案内筒60を構成する布帛部材は、インフレータ噴出し方向に対して引張り破断伸度がエアバッグ基布の破断伸度よりも低いことが好ましい。インフレータのガス噴出しに対して、エアバッグ基布よりも膨らまないことでエアバッグ基布への圧力負担を緩和できる。特に、案内筒として設置した布帛のインフレータガス噴出し方向に対する引張り破断伸度の値が25%以下であることが好ましい。布帛部材は織物、編物、不織布の形態のいずれでも良いが、特に織物と不織布が好ましい。織物や不織布であることにより、インフレータ噴出し方向に対して引張り破断伸度を抑えられる。布帛部材は、布帛を複数枚重ねて用いられてもよい。また、1枚であっても複数枚であっても単位布帛が、単位面積当たり重量が500g/m2以下100g/m2以上であることが好ましい。単位布帛の単位面積当たり重量が500g/m2以下であれば、インフレータ吹き出し口周囲を覆うように設置することが容易である。100g/m2以上であれば、布帛のコシがありインフレータに取り付けるまでの取扱い性がよい。
案内筒はその形状を布帛の縫製によって形成しても良いし、袋織で形成しても良い。さらに、インフレータ上で布帛を積層したり巻きつけたものをクランプで締めて最終的な形状を形成することもできる。
【0026】
図2は、この案内筒60を含む図1のインフレータガス導入口付近を示す部分拡大図であり、インフレータ40からのガス噴出し口付近を、図2に示している。
図3は布帛部材からなる案内筒を示している。
案内筒60は、インフレータ40の複数のガス噴出し口42の全体を外周から囲うとともに、一端部(開放端部)がエアバッグ10内に向かって開口するように配置される。
【0027】
エアバッグ装置1は、このインフレータ40の複数のガス噴出し口42を、周囲に配置された案内筒60とともに、エアバッグ10のガス導入口13に挿入してインナーチューブ50内に配置し、それらをまとめて、クランプ45により、インフレータ40の外周に挟み付けて固定する。このようにして、インフレータ40のガス噴出し口42と、インナーチューブ50及びエアバッグ10(ガス導入口13)との間に、筒状をなす布帛部材からなる案内筒60を配置する。
【0028】
エアバッグ装置1は、この案内筒60により、複数のガス噴出し口42から径方向外側に向かって放射状に噴き出すガスを受け、その圧力を始めに受ける案内筒60の開口端側に向かって案内する。これにより、インフレータ40が発生するガスを、インナーチューブ50内に向かって整流して案内し、それらを介してエアバッグ10の気室31および32にガスを供給して流入させる。従って、案内筒60は、インフレータ40からのガスを案内する案内部材としての機能を有する。併せて、案内筒60は、ガス噴出し口42から噴き出すガスを受けて圧力を緩和し、或いは、ガスがエアバッグ10やインナーチューブ50に直接噴射されて当たるのを防止してダメージを軽減する等、それらを保護する保護部材としても機能する。
【0029】
本実施形態の案内筒60は、ノンコート布帛部材を使用してもよいが、耐熱性のある樹脂やゴム(例えばシリコーン樹脂又はゴム)等の耐熱性材料の被覆層が設けられた布帛部材を使用してもよい。このような場合、案内筒60に、コーティング又はラミネート等の表面処理(被覆層形成処理)により、一方又は両方の面に耐熱性材料を被覆して形成された布帛部材を使用する。従って、案内筒60は、少なくとも一方の面に耐熱性材料の被覆層を有する。加えて、案内筒60は、この耐熱性材料の被覆層が内側になるようにインフレータ40の外周に同面を内周(ガス噴出し口42)側に向けて配置される。少なくとも一方の面に耐熱性材料の被覆層を設けるのが、より望ましい。
【0030】
本発明のエアバッグ10の基布は、100−500dtexの織糸総繊度からなる基布を用いることができる。より好ましくは120−320dtexである。織糸総繊度が小さいほうが高密度であっても軽量基布となり、エアバッグ装置を軽量コンパクト化するのに有用である。エアバッグ基布の織物密度は、カバーファクターが2000−2500の高密度織物が好ましい。ここでいうカバーファクターは織糸の総繊度(dtex)の平方根に織密度(本/2.54cm)を掛けて、経緯方向につき足し合わせたものである。軽量化のためのエアバッグ基布の単位面積当たり重量は200g/m2以下が好ましい。より好ましくは180g/m2以下である。機械特性を満たすには100g/m2以上であることが好ましい。より好ましくは150g/m2以上である。
【0031】
以上のように構成されるエアバッグ装置1(図1参照)は、所定の状態に折り畳まれたエアバッグ10がインフレータ40や案内筒60等とともに、ルーフレール部やフロントピラー部に取付及び収納されて車両に搭載される。その後、エアバッグ装置1は、所定の衝撃を検知した時等にインフレータ40を作動させてガスを発生させ、ガス噴出し口42から噴き出すガスを、案内筒60及びインナーチューブ50により案内してエアバッグ10内に供給する。
【0032】
これにより、各気室31、32内にガスを流入させて膨張させ、エアバッグ10を、その折り畳み形状を解消させつつ、車両に取り付けられた取付片11、12側から、車両の下方向等に向かってカーテン状に膨張展開させる。このようにして、エアバッグ10を、乗員と車両側面の車壁等との間に膨張展開させ、膨張した気室31および32により乗員を受け止めて、主に頭部を中心にして乗員を保護する。
【0033】
別の実施形態を図4に示す。エアバッグのガス導入口がエアバッグの中央部に設けられ、インナーチューブによって前部気室31と後部気室32の両方にガスが振り分けられている。
【0034】
以上述べたように、本発明によれば、エアバッグ装置1のインフレータ40に、従来のように金属製の案内筒を設けることなく、複数のガス噴出し口42から放射状に噴き出すガスを案内してエアバッグ10内へ供給できるとともに、そのガスからのエアバッグ10等の保護をより確実に行うことができる。また、金属製の案内筒が不要になることに起因して、その分の製造コストを低減でき、かつ、インフレータ40周りを中心に、エアバッグ装置1の構造を比較的簡単にすることもできる。更に、金属に代わる布帛部材を著しく多量に必要としないため、インフレータ40周りをいたずらに太らせること無く収納性に優れる。とりわけエアバッグ10の基布に軽量布帛を用いることができ、エアバッグ装置のいっそうの軽量コンパクト化に寄与する。
【実施例】
【0035】
次に、実施例および比較例によって本発明を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[実施例1]
総繊度が470dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる、単位面積あたり重量が200g/m2の布帛にシリコーンを30g/m2塗布した基布を用い、図1に示したエアバッグを縫製した。エアバッグ最前方の気室には、ガス圧の取り出し口を設け、展開ガス圧を観測するようにした。案内筒には、綿布織物で単位面積当たり重量300g/m2のものを2枚筒状に縫製したものを用い、ガス噴出しの方向に対して織り糸方向が平行するように設置した。シリンダー型インフレータは、放射状吹き出し口を有するもので、推薬のみでガス発生するパイロ型インフレータであり、30Lタンクでの出力圧が250kPaのものを用いてエアバッグ装置を組み立てた。このとき、組み立てたエアバッグ装置において、ガス噴出し方向のそれぞれの布帛の引張り破断伸度は、エアバッグ基布で29%であるのに対して案内筒の綿布織物は8%であった。エアバッグをルーフレール部に収納可能なような蛇腹の折り畳みを行い、折り畳みを維持するためにテープで5箇所止めた。インフレータに着火して展開させたところ、破袋することなく、着火後15ミリ秒以降には最高70kPaのガス圧がかかり充分な保護機能を果たせることが判った。展開後に案内筒の綿布はガス噴出し口を中心に炭化していたが、エアバッグ基布に損傷は見られなかった。
【0036】
[実施例2]
エアバッグ基布として、総繊度が235dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる、単位面積あたり重量が145g/m2の布帛にシリコーンを20g/m2塗布した基布を用いた以外は実施例1と同様に実施した。このとき、組み立てたエアバッグ装置において、ガス噴出し方向のそれぞれの布帛の引張り破断伸度は、エアバッグ基布で27%であるのに対して案内筒の綿布織物は8%であった。インフレータに着火して展開した結果、破袋することなく、15ミリ秒以降には最高70kPaのガス圧がかかり充分な保護機能を果たせることが判った。展開後に案内筒の綿布はガス噴出し口を中心に炭化していたが、エアバッグ基布に損傷は見られなかった。
【0037】
[比較例1]
案内筒部分としてエアバッグ基布と同一の布帛を用い、織糸がインフレータのガス噴出し方向に対してバイアス方向になるように3回巻きつけて用いた以外は実施例1と同様に実施した。このとき、ガス噴出し方向の引張り破断伸度は、エアバッグ基布で29%であるのに対して案内筒部は35%であった。インフレータ展開では、案内筒部が溶融し、エアバッグ基布も溶融してエアバッグは破袋し展開しなかった。
【0038】
[比較例2]
案内筒部分としてエアバッグ基布と同一の布帛を用い、織糸がインフレータのガス噴出し方向に対してバイアス方向になるように6回巻きつけて用いた以外は実施例2と同様に実施した。このとき、ガス噴出し方向の引張り破断伸度は、エアバッグ基布で27%であるのに対して案内筒部は35%であった。インフレータ展開では、案内筒部の布帛が内側から5巻きまで溶融状態が観測された。エアバッグは、案内筒部付近からガス導入口にかけて破袋し、展開しなかった。
【0039】
[参考例]
インフレータに従来用いられているハイブリッド型(総モル数2.1molで、高圧ガスはアルゴン85%以上であり、推薬が0.3mol)で30Lタンクでの出力圧が220kPaのものを用い、案内筒部分としてエアバッグ基布と同一の基布を織糸がインフレータのガス噴出し方向に対してバイアス方向になるように3回巻きつけて用いた以外は実施例1と同様に実施した。組み立てたエアバッグ装置において、ガス噴出し方向のそれぞれの布帛の引張り破断伸度は、エアバッグ基布で29%であるのに対して案内筒部は35%であった。インフレータに着火して展開した結果、破袋することなく、15ミリ秒以降には最高60kPaのガス圧がかかり充分な保護機能を果たせることが判った。従来インフレータでは、ガス噴出し熱量が比較的少ないため、展開後のインフレータのガス噴出し口付近では、案内筒部まででガス噴出しによる布帛溶融が留まり、エアバッグ基布に損傷は見られなかった。ハイブリッド型インフレータの重量が重いため、エアバッグ装置として実施例1の2倍の重量となった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、車両事故などにおける人体保護のためのエアバッグ装置において、エアバッグ装置全体を軽量化し、収納性をコンパクトにするために適したエアバッグ装置が提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1 エアバッグ装置
10 エアバッグ
11 上部取付片
12 前部取付片
13 ガス導入口
22 エアバッグ外縁接合部
23〜26 エアバッグ内側接合部
31 前部気室
32 後部気室
40 インフレータ
41 インフレータ小径部
42 インフレータガス吹き出し口
45 クランプ(バンド)
50 インナーチューブ
60 案内筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの導入により車壁を覆うように膨張展開可能なエアバッグと、ガスを前記エアバッグ内に供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置であって、前記インフレータがシリンダータイプインフレータであり、前記インフレータのガス噴出し口を囲い、前記エアバッグ内に向かって開口するような布帛部材からなる案内筒を備え、前記布帛部材が非溶融繊維を50%以上含むことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
エアバッグのガス導入口にインナーチューブが挿入されており、案内筒からエアバッグ内にガスを導入する請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
案内筒がインナーチューブを兼ねている請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
非溶融繊維が天然植物繊維、天然動物繊維、再生セルロース繊維および半合成セルロース繊維から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
非溶融繊維が天然植物繊維である請求項4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
インフレータが推薬のみでガス発生するパイロ型インフレータである請求項1〜5のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
案内筒の単位面積当たり重量が1200g/m2以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
案内筒を構成する布帛部材が複数枚積層されている請求項1〜7のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
案内筒を構成する布帛部材の単位面積当たり重量が500g/m2以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
エアバッグが500−100dtexの総繊度を有する合成繊維布帛からなる請求項1〜9のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
総繊度が320−120dtexである請求項10に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
エアバッグが180g/m2以下の単位面積当たり重量を有する合成繊維布帛からなる請求項1〜11のいずれか一項に記載のエアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−131644(P2011−131644A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291115(P2009−291115)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】