説明

エアバッグ

【課題】織糸の太さを異ならせた基布相互を接着させる構成としていても、良好な接着強度を確保して外周壁を構成できるエアバッグを提供すること。
【解決手段】エアバッグ11において、可撓性を有した織布からなる外周壁12が、織糸の太さを異ならせた太糸基布30と、細糸基布31と、を、連ならせるとともに、太糸基布30と細糸基布31とを、間にコーティング層28を介在させてヒートプレスを施すことにより、接着させて、構成される。コーティング層28が、太糸基布30側に、先に、コーティング層28を形成するコーティング剤を塗布させて、形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有した織布からなる外周壁を有するエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグとしては、ガス漏れ防止用のコーティング層となる未加硫ゴムや熱可塑性ポリウレタン等を、外周壁を構成する2枚の基布の全面にそれぞれ塗布し、2枚の基布の外周縁相互を、加硫接着やヒートシールにより接着させて、袋状としているものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−129380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のエアバッグでは、基布を構成する織糸の太さには言及していないが、織糸の太さを異ならせた太糸基布と細糸基布とを接着させる場合、両者の接着面の凹凸が、織糸の太さの差分だけ異なることから、良好な接着強度を得難い。特に、一方の基布のみにコーティング層を設けて、他方の基布をコーティング層に重ねてコーティング層を溶融させることにより2枚の基布を接着させる場合、織糸の太さが異なる基布では、良好な接着強度を得難い。そのため、織糸の太さを異ならせた基布相互を使用し、かつ、一方の基布のみにコーティング層を設けて他方の基布を接着させる場合、接着強度を高めて接着させる点に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、織糸の太さを異ならせた基布相互を接着させる構成としていても、良好な接着強度を確保して外周壁を構成できるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグは、可撓性を有した織布からなる外周壁を有するエアバッグであって、
外周壁が、織糸の太さを異ならせた太糸基布と、細糸基布と、を、連ならせるとともに、太糸基布と細糸基布とを、間にコーティング層を介在させてヒートプレスを施すことにより、接着させて、構成され、
コーティング層が、太糸基布側に、先に、コーティング層を形成するコーティング剤を塗布させて、形成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態であるエアバッグが使用されるサイド用エアバッグ装置の車両搭載状態を示すシートの側面図である。
【図2】実施形態のエアバッグを使用するエアバッグ装置の概略横断面図であり、図1のII−II部位に対応する。
【図3】実施形態のエアバッグの正面図である。
【図4】実施形態のエアバッグの概略断面図であり、図3のIV−IV部位に対応する。
【図5】実施形態のエアバッグを構成する基布を並べた平面図である。
【図6】実施形態のエアバッグの製造工程を説明する図である。
【図7】実施形態のエアバッグの製造工程を説明する図であり、図6の後の工程を示す。
【図8】エアバッグ用基布の剪断強さを測定する試験片の概略図である。
【図9】太糸基布と細糸基布との接着態様を説明する概略図である。
【図10】太糸基布と細糸基布との接着態様を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、図1,2に示すように、シート1のシートバック2における車外側O(実施形態の場合、右側)の側面2aに配置されるサイド用のエアバッグ装置Sに使用されるエアバッグ11を例に採り説明する。なお、実施形態において、上下、前後、及び、左右の方向は、特に断らない限り、車両の上下、前後、及び、左右の方向に一致するものである。
【0009】
シートバック2には、図1に示すように、略上下方向に沿ってシートフレーム3が、配設され、エアバッグ装置Sは、後述するインフレーター8のボルト8dをナット9止めされて、シートバック2のシートフレーム3に固定されている(図2参照)。また、図2に示す符号を付した部材としては、4はクッション、5,6は装飾布等からなる表皮である。さらに、クッション4の右側の縁部4aは、エアバッグ装置Sの前方側から車外側Oにかけてを覆っている。この縁部4aは、エアバッグ11の膨張時に、エアバッグ11に押されて、クッション4の中央部4bから分離することとなる。また、クッション4には、エアバッグ11の膨張時に縁部4aの中央部4bからの分離位置を一定とするために、凹部4cが、設けられている。
【0010】
エアバッグ装置Sは、エアバッグ11と、エアバッグ11内に挿入されるように配設されてエアバッグ11に膨張用ガスを供給するインフレーター8と、を備えて構成されている。
【0011】
インフレーター8は、下端側に膨張用ガスを吐出させるガス吐出口8bを設けた略円柱状の本体8aと、本体8aを挟持して保持する略円筒状のリテーナ8cと、を備えて構成されている。リテーナ8cには、シートフレーム3側に突出して、シートフレーム3にナット9止めされるボルト8dが、配設されている(図1,2参照)。ボルト8dは、上下に離れた2箇所に、配設されている。
【0012】
エアバッグ11は、図1に示すごとく、膨張完了形状を、シート1に着座した乗員Mの腰部Wから胸部Bにかけてのエリアを保護可能に、上下方向に延びる略楕円板状として、構成されている。エアバッグ11は、図3,4に示すように、膨張完了時に車内側(シートバック2側)に配置される車内側壁部14と、車外側に配置される車外側壁部15と、を備えて構成され、実施形態の場合、車内側壁部14と車外側壁部15との外周縁相互を、周縁結合部20を形成するように、縫合糸Tを用いて縫着(結合)させて構成されている。実施形態の場合、エアバッグ11は、車内側壁部14と車外側壁部15とを後縁側で相互に連結させたような外形形状のエアバッグ用基布24(図7のA参照)から、構成されており、このエアバッグ用基布24を中央で折り返して、対応する周縁相互を、縫合糸Tを用いて縫着させて、形成されている。すなわち、車内側壁部14と車外側壁部15との外周縁相互を縫着させる周縁結合部20は、エアバッグ11において、膨張完了時における後縁側と、後上端側に形成されるインフレーター8挿入用の開口18bと、を除いた略全域にわたって、形成されている。
【0013】
また、エアバッグ11は、図3,4に示すように、膨張完了時に乗員Mの腰部Wを保護する腰部保護部16と、腰部保護部16の上側に配置されて乗員Mの胸部Bを保護する胸部保護部17と、を備えている。胸部保護部17の後端付近における車内側壁部14の領域は、インフレーター8によってシートフレーム3に取り付けられる取付部18を構成しており、この取付部18には、インフレーター8の各ボルト8dを突出させる2つの取付孔18a,18aが、上下に形成されている。また、取付部18の上端側となる胸部保護部17の後上端側には、インフレーター8を挿入させるための開口18bが、形成されている。また、実施形態の場合、腰部保護部16と胸部保護部17とは、周縁結合部20から連なるように形成される区画結合部21によって、相互に区画されている。区画結合部21は、側方からみて後上り状に傾斜して形成されるとともに、エアバッグ11の内部にインフレーター8を収納させた状態で、先端21aを、インフレーター8のガス吐出口8bより上側となる位置に、配置させるように構成されている(図3参照)。また、この区画結合部21の先端21aは、インフレーター8との間に僅かに隙間を設けるように、構成されている。すなわち、実施形態のエアバッグ11では、インフレーター8のガス吐出口8bから吐出される膨張用ガスGは、図3に示すように、まず、腰部保護部16内に流入して腰部保護部16を膨張させ、その後、区画結合部21の先端21aとインフレーター8との間の隙間から、胸部保護部17内に流入して胸部保護部17を膨張させることとなる。そのため、実施形態のエアバッグ11では、エアバッグ11の膨張初期に、腰部保護部16が、迅速に、内圧を高められて膨張することとなり、その後、胸部保護部17が、内部に膨張用ガスを流入させ、腰部保護部16より内圧を低くして膨張することとなる。
【0014】
また、実施形態のエアバッグ11の外周壁12(車内側壁部14及び車外側壁部15)を構成するエアバッグ用基布24は、実施形態の場合、織糸の太さを異ならせた太糸基布30と、細糸基布31と、を、連ならせるようにして、構成されている。実施形態のエアバッグでは、図3,5に示すように、膨張時の内圧が高い腰部保護部16の部位を構成する腰部用基布25が、太い織糸で織成した太糸基布30から構成され、胸部保護部17の部位を構成する胸部用基布26と、区画結合部21と周縁結合部20における区画結合部21より下側の下側部位20aとを補強する補強布27と、が、細い織糸で織成した細糸基布31から構成されている。
【0015】
太糸基布30及び細糸基布31は、実施形態の場合、ともに、ポリアミド繊維からなるポリアミド糸を平織で織って、形成されている。具体的には、太糸基布30としては、470dtex(423デニール)のナイロン66合糸からなる織糸を、平織(経糸:53(40〜80)本/in、緯糸:53(40〜80)本/in)により織成したカバーファクター(K)=2173(1200〜2400)のものが、使用されている。細糸基布31としては、350dtex(315デニール)のナイロン66合糸からなる織糸を、平織(経糸:59(40〜80)本/in、緯糸:59(40〜80)本/in)により織成したカバーファクター(K)=2098(1200〜2400)のものが、使用されている。
【0016】
なお、実施形態では、エアバッグ用基布24(太糸基布30,細糸基布31)として、ナイロン66合糸からなる織糸を平織により織成したものを使用しているが、織糸に使用する使用するポリアミド繊維(ポリアミド糸)としては、ナイロン66の他、例えば、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミドやアラミド等の芳香族ポリアミド(アラミド)等が例示できる。これらのうちで、耐熱性と汎用性の見地から、ナイロン66を使用することが好ましい。さらに、織糸としては、ポリアミド繊維の種類により異なるが、通常、200〜700dtexの合糸を使用する。なお、基布の織成の態様も、平織に限られるものではなく、斜文織や朱子織等により織成した基布を使用してもよい。
【0017】
また、エアバッグ用基布24のカバーファクター(K)は、1200〜2400の範囲内とすることが、好ましい。カバーファクター(K)は、下記計算式から算出されるもので、カバーファクター(K)が低い又は高いということは、経糸,緯糸の糸密度及び/又は経糸,緯糸の繊度が相対的に低いこと又は高いことを意味している。
【0018】
K=NW×DW0.5+NF×DF0.5
但し、NW:経糸密度(本/in)、DW:経糸繊度(デニール)
NF:緯糸密度(本/in)、DF:緯糸繊度(デニール)
カバーファクター(K)(糸密度及び/又は繊度)が1200未満で低ければ、エアバッグ用基布24が、所定の機械的強度を得難く、さらに、糸ずれが発生して織目の形態が崩れる虞れが生ずるためである。逆に、カバーファクター(K)(糸密度及び/又は繊度)が2400を超えて高ければ、エアバッグ用基布24の剛性が高すぎるとともに、基布自体が厚くなって、エアバッグ11の折り畳み作業性や収納性に問題が生じやすくなるためである。
【0019】
実施形態の場合、胸部保護部17を構成する胸部用基布26は、エアバッグ用基布24における上半分程度の領域を構成するもので、下縁26aを、区画結合部21より上方に位置させて、補強布27の後述する上側部位27bと隣接するように、構成されている(図3,4参照)。腰部保護部16を構成する腰部用基布25は、エアバッグ用基布24における下半分程度の領域を構成するもので、上縁25aを、胸部用基布26の下縁26aより上方に位置させて構成されるとともに、平らに展開した状態で、左右の中央付近に、取付部18の部位を構成する突出部25bを有して、左右の全域にわたって、胸部用基布26と重なる領域を、有している(図5参照)。補強布27は、周縁結合部20の下側部位20a及び区画結合部21に沿うような略帯状とされており、実施形態の場合、車内側壁部14側と車外側壁部15側との両方にわたって、形成されている。詳細に説明すれば、補強布27は、図5に示すように、平らに展開した状態の腰部用基布25の下縁側を全域にわたって覆い可能に略W字形状とされる下側部位27aと、下側部位27aの両端側から略直線状に延びて区画結合部21の領域を覆う2つの上側部位27b,27bと、を備えている。
【0020】
そして、実施形態のエアバッグ用基布24は、胸部用基布26と腰部用基布25とを、相互に重なる領域(平らに展開して相互に重ねた状態においての胸部用基布26の下縁26aと腰部用基布25の上縁25aとの間の領域と、突出部25bの領域)において、コーティング層28を介在させてヒートプレスを施すことにより、相互に接着させて、太糸基布30からなる腰部用基布25と、細糸基布31からなる胸部用基布26と、を、連ならせて構成されている。ちなみに、実施形態のエアバッグ11では、腰部用基布25と胸部用基布26とをコーティング層28を介在させて接着させる接着領域29Aは、区画結合部21を跨がず、胸部保護部17の領域のみに、形成されている。換言すれば、腰部用基布25と胸部用基布26とは、胸部保護部17の領域内において、縫合糸による縫着を用いず、コーティング層28(接着領域29A)による相互の接着のみによって、相互に結合されている。実施形態の場合、この接着領域29Aは、胸部保護部17の表面積(車内側壁部14及び車外側壁部15における胸部保護部17の領域の表面積の和)の1/3程度(詳細には、950cm2/2840cm2)の領域に、形成されている。
【0021】
また、実施形態のエアバッグ用基布24では、補強布27も、全面にわたって、コーティング層28を介在させてヒートプレスを施すことにより、腰部用基布25に接着されている。すなわち、実施形態では、コーティング層28は、腰部用基布25と胸部用基布26とを接着させる接着領域29Aと、腰部用基布25と補強布27とを接着させる接着領域29Bと、を、連ならせるようにして、形成されている(図6のB参照)。
【0022】
コーティング層28は、実施形態の場合、腰部用基布25において、胸部用基布26若しくは補強布27を重ねられる領域のみに、形成されるもので、実施形態では、エアバッグ用基布24とともにリサイクルできるようなポリアミド系エラストマー(PAエラストマー)から、形成されている。実施形態の場合、コーティング層28は、引張強さ(ASTM D638)を3000〜15000MPa(望ましくは、6000〜12000MPa)の範囲内に設定されるとともに、破断伸度(ASTM D638)を200%以上に設定され、曲げ弾性率(ASTM D790(ISO 178))を200MPa以下に設定され、平衡吸水率(ASTM 570:20℃×65%R)を2%以下に設定されるブロック共重合タイプのPAエラストマーを、分散液(エマルション)又は溶液としたコーティング剤CMを、腰部用基布25に塗布して、形成されている。ブロック共重合タイプのPAエラストマーとしては、ポリアミド(PA)ブロックをハードセグメントとし、ポリエーテル(PE)ブロックをソフトセグメントとする下記構造式で示されるPEBA(ポリエーテルブロックポリアミド)を、好適に使用できる。
【0023】
【化1】

【0024】
ポリエーテルとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。また、ソフトセグメントを、脂肪族ポリエステルジオール等のポリエステルブロックとしてもよい。
【0025】
実施形態のエアバッグ11では、PAエラストマーとして、PEBAで、融点(ASTM D3418)を160℃に設定され、引張強さ(ASTM D638)を9380MPaに設定され、破断伸度(ASTM D638)を450%に設定され、曲げ弾性率(ASTM D790(ISO 178))を84MPaに設定され、平衡吸水率(ASTM 570:20℃×65%R)を1.2%に設定される上市品を、使用している。
【0026】
そして、実施形態の場合、コーティング層28は、上記PAエラストマーの分散液(エマルション)からなるコーティング剤CMを、腰部用基布25の片面(接着面側であって、膨張完了時の内周面)に、スクリーン印刷により塗布することにより、形成されている。なお、エマルションに分散させるPAエラストマーの粒径は、通常、0.05〜5μm(望ましくは0.2〜5μm、さらに望ましくは0.2〜1μm)に設定されている。また、PAエラストマーの塗布量(乾量基準)は、20〜100g/m2(望ましくは、30〜80g/m2)に設定されている。20g/m2未満では、腰部用基布25と胸部用基布26若しくは補強布27との良好な接着性能が得難く、逆に、100g/m2を超えれば、コーティング層28が厚すぎて、接着部位が硬くなってしまい、エアバッグ11をコンパクトに折り畳んで収納させる折り畳み作業性が良好ではないためである。実施形態のエアバッグ用基布24では、コーティング層28を形成するPAエラストマーの塗布量は、40g/m2に設定されている。
【0027】
なお、コーティング層28の形成方法は、スクリーン印刷に限られるものではなく、ナイフコート(ダイコート)、コンマコート、リバースコート等により形成してもよい。しかしながら、実施形態の場合、コーティング層28は、腰部用基布25に部分的に形成される構成であることから、スクリーン印刷によりコーティング層28を形成することが、好ましい。
【0028】
そして、実施形態では、コーティング層28を施した腰部用基布25に、補強布27と胸部用基布26とを、それぞれ、重ね、180℃に昇温させた加熱板により1分間、20MPaの圧力でプレスすることにより、コーティング層28を溶融させ、腰部用基布25と、補強布27,胸部用基布26と、を、接着させて、エアバッグ用基布24を形成している。
【0029】
次に、実施形態のエアバッグ11の製造について説明する。予め、太糸基布素材を裁断して、腰部用基布25を準備し、細糸基布素材を裁断して、胸部用基布26と補強布27とを準備しておく。そして、図6のA,Bに示すように、腰部用基布25の内周面側のエリアに、コーティング剤CMをスクリーン印刷により塗布し、乾燥させて、コーティング層28を形成する。次いで、図7のAに示すように、コーティング層28を覆うように、腰部用基布25に、胸部用基布26と補強布27とを、それぞれ、重ね、ヒートプレスを施して、腰部用基布25に、胸部用基布26と補強布27とを接着させる。具体的には、図示しないヒートプレスの支持台上に、上面側にコーティング層28を配置させた腰部用基布25を載せ、コーティング層28を覆うように、上方から、腰部用基布25に、胸部用基布26と補強布27とをそれぞれ重ねる。そして、180℃に昇温させた加熱板を、腰部用基布25と胸部用基布26、腰部用基布25と補強布27、が、それぞれ重なっている領域に、上方から押し当て、20MPaの圧力で1分間プレスすることにより、コーティング層28を溶融させて、腰部用基布25と、補強布27,胸部用基布26と、をそれぞれ接着させ、エアバッグ用基布24を、形成する。
【0030】
その後、エアバッグ用基布24を二つ折りして、周縁結合部20と区画結合部21とを形成するように、縫合糸を用いて縫着させれば、図7のBに示すように、エアバッグ11を製造することができる。そして、このようにして製造したエアバッグ11の内部に、開口18bを介して、インフレーター8を挿入させる。このとき、インフレーター8のボルト8dは、取付孔18aから突出され、インフレーター8の本体8aの上端側の部位が、開口18bから突出されることとなる。その後、エアバッグ11を折り畳んで、エアバッグ11から突出しているインフレーター8のボルト8d,8dを、シートフレーム3にナット9止めすれば、エアバッグ装置Sをシート1のシートバック2に取り付けることができる。シート1は、エアバッグ装置Sを取り付けた後、クッション4や表皮5,6等を取り付けて組み立てが完了されて、車両に搭載されることとなる。また、シート1を車両に搭載する際には、インフレーター8の本体8aから延びるハーネス8eを、車両の所定のエアバッグ作動回路に結線させることとなる。
【0031】
エアバッグ装置Sが車両に搭載された後、所定の信号がハーネス8eを経てインフレーター8の本体8aに入力されれば、ガス吐出口8bから膨張用ガスが吐出され、エアバッグ11が、図2の二点鎖線で示すように、クッション4の縁部4aを中央部4bから分離させるように押して開かせ、図1の二点鎖線で示すように、大きく展開膨張することとなる。
【0032】
そして、実施形態のエアバッグ装置Sのエアバッグ11では、外周壁12を構成しているエアバッグ用基布24が、織糸の太さを異ならせた太糸基布30からなる腰部用基布25と、細糸基布31からなる胸部用基布26と、を、連ならせるとともに、腰部用基布25と胸部用基布26とを、間にコーティング層28を介在させてヒートプレスを施すことにより、接着させて、構成されている。
【0033】
しかしながら、実施形態のエアバッグ装置Sのエアバッグ11では、コーティング層28を形成するコーティング剤CMが、太糸基布30からなる腰部用基布25側に塗布されて、腰部用基布25にコーティング層28が形成されていることから、腰部用基布25と胸部用基布26との良好な接着強度を確保することができ、織糸の太さを異ならせた基布(太糸基布30,細糸基布31)相互であっても、接着強度を高めて接着させることができる。
【0034】
以下に、コーティング層を介在させて相互に接着させたエアバッグ用基布の剪断強さを測定した試験結果について説明をする。試験は、図8に示すように、20mm幅で長さを165mmに設定された帯状の2枚の試験片TP1,TP2を使用して行なわれる。具体的には、試験片TP1,TP2の一方の端縁側に、コーティング剤を塗布して30mmの長さのコーティング層CLを形成し、このコーティング層CLの上に他方の試験片TP1,TP2の端縁を重ねて、ヒートプレスを施すことにより、試験片TP1,TP2の端縁相互を、コーティング層CLを介して相互に接着させる。そして、試験は、各試験片TP1,TP2を、それぞれ、コーティング層CLから35mm離れた固定ポイント(換言すれば、固定ポイント間の離隔距離が100mm)で、固定具により固定させ、固定具を相互に離隔させるように、50mm/分の速度で引っ張ることにより、行なわれた。
【0035】
一方の試験片TP1は、実施形態のエアバッグ11を構成する太糸基布30と同一の基布(470dtex(423デニール)のナイロン66合糸からなる織糸を、平織(経糸:53本/in、緯糸:53本/in)により織成したカバーファクター(K)=2173のもの)から、構成され、他方の試験片TP2は、実施形態のエアバッグ11を構成する細糸基布31(350dtex(315デニール)のナイロン66合糸からなる織糸を、平織(経糸:59本/in、緯糸:59本/in)により織成したカバーファクター(K)=2098のもの)から、構成されている。また、コーティング層CLは、実施形態のエアバッグ11のコーティング層28を構成するPAエラストマー(融点(ASTM D3418)を160℃に設定され、引張強さ(ASTM D638)を9380MPaに設定され、破断伸度(ASTM D638)を450%に設定され、曲げ弾性率(ASTM D790(ISO 178))を84MPaに設定され、平衡吸水率(ASTM 570:20℃×65%R)を1.2%に設定されるPEBA)のエマルションからなるコーティング剤を、試験片TP1若しくは試験片TP2に、40g/m2塗布させて、形成されている。また、ヒートプレス条件は、実施形態のエアバッグ11と同様であり、80℃で1分間、20MPaの加圧で行なわれる。
【0036】
そして、本試験では、下記4タイプの試験片に関して、試験を行なった。
【0037】
1:太糸基布からなる試験片TP1にコーティング層CLを形成し、細糸基布からなる試験片TP2をコーティング層CLに重ねてヒートプレスして試験片TP1,TP2相互を接着させたもの(試験例1)
2:細糸基布からなる試験片TP2にコーティング層CLを形成し、太糸基布からなる試験片TP1をコーティング層CLに重ねてヒートプレスして試験片TP1,TP2相互を接着させたもの(試験例2)
3:細糸基布からなる試験片TP2を2枚使用し、一方にコーティング層CLを形成して、他方を重ね、ヒートプレスを施して試験片TP2,TP2相互を接着させたもの(参照例1)
4:太糸基布からなる試験片TP1を2枚使用し、一方にコーティング層CLを形成して、他方を重ね、ヒートプレスを施して試験片TP1,TP1相互を接着させたもの(参照例2)。
【0038】
その結果、細糸基布側にコーティング層を形成した試験例2の剪断強さ(3回試験の平均値)が420Nであったのに対し、太糸基布側にコーティング層を形成した試験例1の剪断強さ(3回試験の平均値)が563Nであり、34%程度剪断強さが上昇していた。ちなみに、細糸基布相互を接着させた参照例1の剪断強さ(3回試験の平均値)は、711Nで、試験例1より高く、太糸基布相互を接着させた参照例2の剪断強さ(3回試験の平均値)は、130Nで、試験例2より低かった。
【0039】
試験例1,2の剪断強さの違いは、参照例1,2の測定結果も考慮して、下記に示すような理由に起因するものと推測される。太い織糸から形成される太糸基布30は、図9に示すように、細い織糸から形成される細糸基布31と比較して、表面の凹凸が大きいが、太糸基布に先にコーティング剤を塗布してコーティング層CLを形成する場合、溶融したコーティング剤が凹凸の大きな太糸基布30の織糸間に入り込み、かつ、細糸基布との接着面側となる表面を平滑にするようにして、コーティング層が形成されることとなる。そして、この表面が平滑なコーティング層CLに、細糸基布31を重ねてヒートプレスしても、細糸基布31は、太糸基布30と比較して表面の凹凸が小さいことから、溶融したコーティング剤が細糸基布31の織糸間に侵入しやすく、コーティング層CLを介して、細糸基布31を、密接に太糸基布30に接着させることができる(図9参照)。逆のパターンとして、細糸基布31に先にコーティング剤を塗布してコーティング層CLを形成する場合、コーティング層CLは、図10に示すように、同様に、コーティング剤を細糸基布31の織糸間に侵入させつつ、表面を平滑として、形成されることとなる。そして、この表面が平滑なコーティング層CLに、太糸基布30を重ねてヒートプレスすれば、太糸基布30は表面の凹凸が大きいことから、溶融したコーティング剤が太糸基布30の織糸間に侵入し難く、太糸基布30を、コーティング層CLを介して細糸基布31に密接に接着させ難くなってしまう(図10参照)。
【0040】
そして、実施形態のエアバッグ11では、外周壁12を構成しているエアバッグ用基布24を、織糸の太さの異なる太糸基布30(腰部用基布25)と、細糸基布31(胸部用基布26)と、を、間にコーティング層28を介在させてヒートプレスを施すことにより、接着させ、胸部保護部17の領域で連ならせるように構成しているが、コーティング層28が、太糸基布30(腰部用基布25)側に、先にコーティング剤CMを塗布させて形成されていることから、腰部用基布25と胸部用基布26とを、良好な接着強度で、コーティング層28により接着させることができる。そのため、エアバッグ11の膨張時に、胸部保護部17を構成する車内側壁部14及び車外側壁部15(外周壁12)に張力が作用することとなっても、腰部用基布25と胸部用基布26とが、コーティング層28を剪断させるようにずれることを防止して、腰部用基布25と胸部用基布26との良好な接着状態を維持させることができる。その結果、実施形態のエアバッグ11では、胸部保護部17の領域内において、腰部用基布25と胸部用基布26とを、コーティング層28による接着のみにより結合させる構成であっても、腰部用基布25と胸部用基布26との結合状態(接着状態)を良好に維持させることができることから、膨張した胸部保護部17によって、乗員Mの胸部Bを好適に保護することができる。
【0041】
したがって、実施形態のエアバッグ11では、織糸の太さを異ならせた基布(太糸基布30,細糸基布31)相互を接着させる構成としていても、良好な接着強度を確保して外周壁12を構成することができる。
【0042】
また、実施形態のエアバッグ11では、太糸基布30(腰部側基布25)のみに、コーティング層28を設ければよいことから、腰部側基布(太糸基布)と胸部側基布(細糸基布)との両方にコーティング層を設けて、コーティング層相互を溶着させる場合と比較して、胸部側基布(細糸基布)へのコーティング層の形成工程(コーティング剤の塗布工程)が不要となり、製造工数を低減させることが可能となる。
【0043】
さらに、実施形態のエアバッグ11では、太糸基布30及び前記細糸基布31が、ともに、ポリアミド繊維から、形成され、コーティング層28が、ポリアミド系エラストマーのエマルションを塗布して形成されている。すなわち、実施形態のエアバッグ11では、エアバッグ11を構成するエアバッグ用基布24(太糸基布30及び前記細糸基布31)と、コーティング層28と、が、ポリアミド系として、同種の材料から形成されていることから、エアバッグを小片に分断して溶融等させれば、容易にポリアミドの再生材料として利用でき、リサイクルに好適である。勿論、このような点を考慮しなければ、エアバッグ用基布とコーティング剤とを、同種の材料から形成しなくともよく、例えば、エアバッグ用基布を、ポリエステル繊維等から、形成してもよい。
【0044】
なお、実施形態のエアバッグ11では、コーティング層28は、腰部用基布25において、胸部用基布26と補強布27とが重ねられる領域のみに、形成されているが、腰部保護部からのガス漏れを防止するように、コーティング層を、腰部用基布の全面にわたって形成するような構成としてもよい。
【0045】
また、実施形態では、サイド用エアバッグ装置のエアバッグを例に採り説明したが、本発明を適用可能なエアバッグは、これに限られるものではなく、頭部保護用のエアバッグや、膝保護用のエアバッグ等に、適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
8…インフレーター、
11…エアバッグ、
12…外周壁、
24…エアバッグ用基布、
25…腰部用基布、
26…胸部用基布、
28…コーティング層、
30…太糸基布、
31…細糸基布、
CM…コーティング剤、
S…エアバッグ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有した織布からなる外周壁を有するエアバッグであって、
前記外周壁が、織糸の太さを異ならせた太糸基布と、細糸基布と、を、連ならせるとともに、前記太糸基布と前記細糸基布とを、間にコーティング層を介在させてヒートプレスを施すことにより、接着させて、構成され、
前記コーティング層が、前記太糸基布側に、先に、前記コーティング層を形成するコーティング剤を塗布させて、形成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記太糸基布及び前記細糸基布が、ともに、ポリアミド繊維から、形成され、
前記コーティング層が、ポリアミド系エラストマーのエマルションを塗布して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
可撓性を有した織布からなる外周壁を有し、
前記外周壁が、織糸の太さを異ならせた太糸基布と、細糸基布と、を、連ならせて構成されるエアバッグの製造方法であって、
前記外周壁が、前記太糸基布に、コーティング剤を塗布して、コーティング層を形成し、
該コーティング層に、前記細糸基布を重ねてヒートプレスを施すことにより、前記太糸基布と前記細糸基布とを接着させて、形成されることを特徴とするエアバッグの製造方法。
【請求項4】
前記太糸基布及び前記細糸基布が、ともに、ポリアミド繊維から、形成され、
前記コーティング剤が、ポリアミド系エラストマーのエマルションからなることを特徴とする請求項3に記載のエアバッグの製造方法。
【請求項5】
前記コーティング層が、スクリーン印刷により形成されることを特徴とする請求項3又は4に記載のエアバッグの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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