説明

エアバッグ

【課題】拘束部をより迅速に展開できるとともに、膨張ガスを効率よく利用して拘束性能を向上したエアバッグを提供する。
【解決手段】膨張ガスを導く筒状の導管部25の一端側を自動車11の車室21の上部に位置して車体14に取り付ける。導管部25の他端側と連通し、導管部25により導いた膨張ガスにより乗員Dとインストルメントパネル部12との間に膨張展開する袋状の拘束部26を設ける。導管部25に逆止弁27を設ける。逆止弁27は、導管部25から拘束部26への膨張ガスの流入を許容するとともに、拘束部26から導管部25側への膨張ガスの逆流を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室の被保護物と対向しない位置で車体に取り付けられるエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両においては、車室のスペースをより広く取る、すなわちルーミネスを達成するために、インストルメントパネル部の高さを相対的に低くすることがある。このような場合、例えば袋状のエアバッグの収納スペースをインストルメントパネル部に充分に取ることが容易でないため、エアバッグを例えば車両の天井(ルーフ部)に収納することにより、エアバッグの収納スペースを確保した構成が知られている。そして、この構成では、自動車の衝突などの際に、インフレータから膨張ガスを供給して、乗員の前方にエアバッグ本体部を天井から下方へと膨張展開させ、乗員に加わる衝撃を緩和するようになっている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−534321号公報 (第16−19頁、図2)
【特許文献2】特表2005−527413号公報 (第11頁、図1B)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前方衝突などの際、乗員は前屈みとなるため、天井から吊り下げるエアバッグの場合、このような乗員を拘束する位置は基部である天井部分から下方へと相当距離だけ離間された箇所である。また、このようなエアバッグの受圧面(支え面)は、天井ではなく、車体の比較的下方のインストルメントパネル部やステアリングホイール(ハンドル)などとなる。
【0005】
したがって、このようなエアバッグの場合、乗員を拘束する位置(拘束部位)と、天井に取り付ける位置(取付部位)との関係として、乗員が拘束される際に、膨張ガスが取付部位側に移動して上太りになり、下側の拘束部位側が痩せてしまっては好適な拘束性能を得ることができない。
【0006】
また、取付部位は、拘束部位に膨張ガスを供給する機能及び支持する機能(天井と受圧面とがエアバッグを支える箇所となる)を有するものの、その機能以外の余剰な部分は必要でなく、それらの機能を満たす限りで膨張ガスを消費しないことが重要である。すなわち、取付部位は、膨張ガスを瞬時に大量に拘束部位に送る輸送能力が必要であるものの、膨張してしまうと膨張ガスの無駄となる。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、拘束部をより迅速に展開できるとともに、膨張ガスを効率よく利用して拘束性能を向上したエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のエアバッグは、一端側が車両の車室内の車体に取り付けられ、被保護物に対向しない位置に位置して、一端側から他端側へと膨張ガスを導く筒状の導管部と、この導管部の他端側と連通し、この導管部により導かれた膨張ガスにより被保護物とこの被保護物の前方の構造物との間に膨張展開する袋状の拘束部と、前記導管部から前記拘束部への膨張ガスの流入を許容するとともに、この拘束部から前記導管部側への膨張ガスの逆流を阻止するガス流規制手段とを具備したものである。
【0009】
請求項2記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、導管部は、一端側が車室の上部で車体に取り付けられ、拘束部は、前記導管部により導かれた膨張ガスによって下方へと膨張展開するものである。
【0010】
請求項3記載のエアバッグは、請求項1または2記載のエアバッグにおいて、導管部は、複数設けられ、ガス流規制手段は、前記導管部のそれぞれに対応して設けられているものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のエアバッグによれば、被保護物に対向しない位置に位置する筒状の導管部によって袋状の拘束部へと膨張ガスを導くことにより、膨張ガスの流速を大きくして拘束部をより迅速に展開できるとともに、拘束部に流入した膨張ガスはガス流規制手段によって導管部への逆流が阻止されるため、この膨張ガスが被保護物を拘束しない導管部を膨張させることがなく、膨張ガスを効率よく拘束部の膨張展開に利用して拘束性能を向上できる。
【0012】
請求項2記載のエアバッグによれば、請求項1記載のエアバッグの効果に加え、導管部の一端側を車室の上部で車体に取り付けるとともに、拘束部が導管部により導かれた膨張ガスによって下方へと膨張展開することにより、被保護物の上方のスペースを有効に利用し、車室のスペースを広く取ることができる。
【0013】
請求項3記載のエアバッグによれば、請求項1または2記載のエアバッグの効果に加え、導管部を複数設け、これら導管部のそれぞれに対応してガス流規制手段を設けることにより、膨張ガスを拘束部へと、より迅速に導くことができ、より安定的で迅速な展開が可能になるとともに、車体に対してより強固に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のエアバッグの一実施の形態の展開状態を模式的に示す側面図である。
【図2】同上エアバッグの被保護物の拘束状態を模式的に示す側面図である。
【図3】同上エアバッグを模式的に示す斜視図である。
【図4】同上エアバッグの展開挙動を(a)ないし(c)の順に模式的に示す説明図である。
【図5】同上エアバッグの逆止弁を示す斜視図であり、(a)は拘束部への膨張ガスの流入を許容する状態を示し、(b)は導管部への膨張ガスの逆流を阻止した状態を示す。
【図6】本発明のエアバッグの他の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のエアバッグの一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1ないし図5において、10はエアバッグ装置で、このエアバッグ装置10は、移動体である車両としての自動車11の例えば助手席Sの被保護物としての乗員Dの前方に位置する構造物としてのインストルメントパネル部12の上方にウインドシールドであるフロントガラス13を介して位置する車体14の被設置部としてのルーフ部15の内側に配置され、助手席乗員用のエアバッグ装置10を構成している。なお、以下、前後方向、両側方向、及び上下方向は、それぞれエアバッグ装置10を自動車に取り付けた状態における自動車の直進方向を基準として説明する。
【0017】
そして、このエアバッグ装置10は、エアバッグモジュールとも呼び得るもので、例えばナイロン布帛などの単数、あるいは複数の基布にて構成されたエアバッグ19、このエアバッグ19にガスを供給する図示しないインフレータ、これらエアバッグ19とインフレータとなどを保持して車体14側に取り付けられる図示しない取付部材、及びインフレータの動作を制御する図示しない制御手段などを備えている。さらに、このエアバッグ装置10は、自動車11の車室21の上部である天井を構成するルーフ部15に取り付けられ、センサなどを備えた制御装置に電気的に接続して構成される。
【0018】
取付部材は、略箱状に形成され、下側を開口部である矩形状の突出口とし、内側が、折り畳んだエアバッグ19を収納するエアバッグ収納部とされている。また、この取付部材は、エアバッグ19を収納した通常の状態で車体14側の内装部材である図示しない内装パネルにより覆われている。
【0019】
また、インフレータは、種々の形状とすることが可能であるが、内部に点火器及び薬剤が収納され、図示しないコネクタを介して伝えられる制御手段からの電気信号により、点火器が薬剤を燃焼させ、ガス噴射口から膨張用のガスを急速に供給するようになっている。さらに、これらインフレータは、ガス噴射口からエアバッグ19の内側へと膨張ガスを供給可能となっている。
【0020】
そして、エアバッグ19は、基布を縫製、接着あるいは溶着などにより接合することで形成され、ルーフ部15に一端側である上端側が取り付けられた円筒状の導管部25を上端部に有し、展開状態でこの導管部25から下側へと延びインストルメントパネル部12と乗員Dとの間に位置する袋状の拘束部26と、導管部25の下端部に設けられたガス流規制手段としての逆止弁27とを一体的に有している。
【0021】
導管部25は、非接触部、非膨張部、あるいは非保護部などとも呼び得るもので、長尺の円筒状に形成されている。この導管部25は、断面積、すなわち膨張ガスの通過方向である上下方向に対して交差(直交)する方向の面積が、拘束部26よりも小さく設定されている。換言すれば、この導管部25は、拘束部26よりも前後左右方向に細く形成されている。また、この導管部25の下端部は、拘束部26の内部に挿入されて突出し、この拘束部26の内部と連通している。さらに、この導管部25は、膨張ガスが通過することにより、所定の円筒状に展開するものの、所定の円筒状となった後は、それ以上膨張しないように構成されている。そして、この導管部25は、エアバッグ19の展開状態で、乗員Dの頭部Hよりも上方の位置、すなわち乗員Dに対向しない位置、換言すれば乗員Dとインストルメントパネル部12との間に位置しない位置で車室21の内部に突出しており、上下方向に沿って直線状となっている。
【0022】
また、拘束部26は、エアバッグ本体部、メイン部、膨張部、あるいは保護部などとも呼び得るもので、例えば四角形状の底面31と、この底面31の4辺からそれぞれ上方へと立ち上げられた拘束面32、対向面33及び側面34,34と、底面31の上方に対向する天面35とを有する袋状に形成されている。また、天面35は底面31及び導管部25の断面積よりも面積が大きい例えば四角形状に形成され、前後左右方向の中央部に導管部25が挿入接続されている。したがって、拘束部26は、上側から下側へと徐々に幅寸法が小さくなるように側面34,34が傾斜している。そして、この拘束部26は、導管部25よりも容量が大きく、展開状態で導管部25に対して前後左右方向に膨出する大きさを有し、拘束面32が乗員Dの腹部Aないし頭部Hに亘って対向し、対向面33がインストルメントパネル部12及びフロントガラス13に対向する。
【0023】
さらに、逆止弁27は、導管部25を通過する膨張ガスの圧力により拘束部26側へと開くとともに、拘束部26の内圧により導管部25の下端部に押し付けられることで導管部25の下端部を閉塞するようになっている。したがって、この逆止弁27は、導管部25から拘束部26への膨張ガスの流入を許容する一方で、拘束部26から導管部25側への膨張ガスの逆流を阻止するように構成されている。この逆止弁27は、任意に構成できるが、例えば導管部25の端末(下流端)に設けたブリッジ部27aなどを用いることができる。このブリッジ部27aは、導管部25の両側を連結する帯状に設けられている。したがって、このブリッジ部27aの側方には、導管部25を通過した膨張ガスが拘束部26内へと流入する開口部27b,27bが形成されている。
【0024】
次に、エアバッグ装置10の展開挙動を説明する。
【0025】
このエアバッグ装置10の動作の概略としては、自動車11の衝突などの際に、制御装置がインフレータを作動させ、このインフレータから膨張ガスを噴射させると、この膨張ガスが折り畳み状態の導管部25内に導入され、この導管部25を円筒状に展開させるとともに、この導管部25及び逆止弁27を通過した膨張ガスによって、折り畳み状態でエアバッグ収納部に収納されたエアバッグ19の拘束部26の内圧が高まって膨張展開する(図4(a)ないし図4(c))。具体的に、逆止弁27では、導管部25を通過した膨張ガスの圧力によりブリッジ部27aが拘束部26内へと突出するように押圧され、開口部27b,27bが開口して、拘束部26内への膨張ガスの流入を許容する(図5(a))。そして、導管部25が細い管状に形成されているため、この導管部25から逆止弁27(開口部27b,27b)を介して拘束部26に流入する膨張ガスの流速が相対的に速く、エアバッグ19が迅速に初期展開する。この展開したエアバッグ19は、天井から下方へと垂れ下がるように突出し、乗員Dの前方に位置する。
【0026】
このとき、図1に示すように、導管部25は、乗員Dの頭部Hよりも上方にて車室21内に突出し、乗員Dと対向していない。また、拘束部26は、拘束面32が乗員Dの腹部Aないし頭部Hの前方に亘って対向し、対向面33がインストルメントパネル部12及びフロントガラス13に当接または対向する。さらに、拘束部26が展開を完了すると、流入した膨張ガスによって拘束部26の内圧が高まることにより、逆止弁27が導管部25の下端部を閉塞し、拘束部26から導管部25側への膨張ガスの逆流を阻止する。具体的に、逆止弁27では、ブリッジ部27aが導管部25の内側へと反転され、開口部27b,27bを狭めることにより、導管部25への膨張ガスの逆流を阻止する(図5(b))。
【0027】
このため、図2に示すように、エアバッグ19は、衝撃により前方へと移動してきた乗員Dに対して拘束部26がフロントガラス13側へと傾きながら反力を与えて拘束し、衝撃を緩和する。なお、エアバッグ19は、拘束部26の対向面33の下部がインストルメントパネル部12に支持されて受圧面を形成するので、エアバッグ19の位置が定まり、好ましい拘束が行われる。
【0028】
なお、図示しないが、乗員Dの拘束時、拘束部26からエアバッグ19外への膨張ガスの排出を許容するベントホールを設けておくことで、乗員Dを拘束して押し戻す(跳ね返す)力を抑制でき、より好適に乗員Dを受け止めることができる。このベントホールは、乗員Dを拘束したときのエアバッグ19内の圧力のピークをカットできればよいので、導管部25のガス流路断面積に比べて非常に小さい開口面積のものが設定される。
【0029】
このように、本実施の形態によれば、乗員Dに対向しない位置に位置する細い筒状の導管部25によって袋状の拘束部26へと膨張ガスを導くことにより、膨張ガスの流速を大きくして拘束部26をより迅速に展開できるとともに、拘束部26に流入した膨張ガスは逆止弁27によって導管部25への逆流が阻止されるため、この膨張ガスが乗員Dに対向せずこの乗員Dを拘束しない導管部25を膨張させることがなく、すなわち、導管部25がエアバッグ19の容量の一部を構成することがなく、膨張ガスを導管部25で無駄遣いすることがなく、膨張ガスを効率よく拘束部26の膨張展開に利用して拘束性能を向上でき、かつ、エアバッグ19の全体の容量を抑制でき、インフレータの出力を大きくする必要がないなど、エアバッグ装置10の軽量化及び低コスト化が可能になる。
【0030】
また、導管部25は、インフレータが配置されたルーフ部15から直管状に拘束部26に接続することにより、例えばピラーに導管部を設けてルーフ部内のエアバッグに対して膨張ガスを供給してカーテンエアバッグのように展開させる構成などと比較して、インフレータからエアバッグ19までの距離を抑制でき、エアバッグ19の初期展開及び乗員Dの初期拘束をより早めることができる。
【0031】
さらに、導管部25の一端側を車室21の上部で車体14に取り付けるとともに、拘束部26が導管部25により導かれた膨張ガスによって下方へと膨張展開することにより、乗員Dの上方のスペースを有効に利用し、インストルメントパネル部12を低くすることができるなど、車室21のスペースを広く取ることができる。
【0032】
そして、エアバッグ19は、展開状態で導管部25によってルーフ部15に吊り下げられ、導管部25を必要以上に硬くすることなく展開後の形状を安定させることができるため、前方へと傾きながら乗員Dを拘束するなど、前後方向の動きに自由度が高く、乗員Dへの衝撃を緩和させながら適切な反力で乗員Dを拘束できる。
【0033】
なお、上記の一実施の形態において、図6に示す他の実施の形態のように、拘束部26に対して導管部25を複数、例えば左右対称な位置に一対設け、これら導管部25のそれぞれに逆止弁27を設けるようにしてもよい。この場合には、膨張ガスを拘束部26へと、複数の導管部25からより迅速に導くことができ、より安定的で迅速な展開が可能になるとともに、エアバッグ19を車体14に対してより強固に固定できる。
【0034】
また、上記の各実施の形態において、エアバッグ19は、例えば乗員Dの側方のドアや、コンソールボックスなどに導管部25の一端側を接続し、この導管部25を乗員Dに対向しない位置に位置させ、乗員Dに対向する位置、換言すれば乗員Dとインストルメントパネル部12などの構造物との間などに拘束部26を膨張展開させるように構成してもよい。
【0035】
さらに、上記の各実施の形態において、エアバッグ19は、例えば運転席乗員用のエアバッグ、あるいは後席乗員用のエアバッグなどとして用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ルーフ部に取り付けられる例えば助手席乗員用のエアバッグとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
11 車両としての自動車
12 構造物としてのインストルメントパネル部
14 車体
19 エアバッグ
21 車室
25 導管部
26 拘束部
27 ガス流規制手段としての逆止弁
D 被保護物としての乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が車両の車室内の車体に取り付けられ、被保護物に対向しない位置に位置して、一端側から他端側へと膨張ガスを導く筒状の導管部と、
この導管部の他端側と連通し、この導管部により導かれた膨張ガスにより被保護物とこの被保護物の前方の構造物との間に膨張展開する袋状の拘束部と、
前記導管部から前記拘束部への膨張ガスの流入を許容するとともに、この拘束部から前記導管部側への膨張ガスの逆流を阻止するガス流規制手段と
を具備したことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
導管部は、一端側が車室の上部で車体に取り付けられ、
拘束部は、前記導管部により導かれた膨張ガスによって下方へと膨張展開する
ことを特徴とした請求項1記載のエアバッグ。
【請求項3】
導管部は、複数設けられ、
ガス流規制手段は、前記導管部のそれぞれに対応して設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112300(P2013−112300A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262778(P2011−262778)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】