説明

エアバランサー

【課題】吊荷を所望停止位置へ昇降した際に吊荷が惰性で昇降することを防ぐエアバランサー。
【解決手段】ケース5内の固定軸11に支持されてロープ18を巻き付けるドラム15と、ケース5内に供給された第1のエアの圧力をドラム15がロープ18を巻き付ける回転力に変換する変換機構10,11a,19,20と、固定軸11に回転可能に支持されてドラム15と連結されて一体的に回転する回転部材30と、回転部材30に接触して回転を抑制する回転抑制部材32a,32bと、ケース5内に供給された第2エアの圧力によって回転抑制部材32a,32bを退避させ回転部材30との接触を解除する解除機構36a,36b,42と、ケース5内に第1エアが供給されているとき又はケース5から第1エアが排出されているときのみ、第2エアをケース5内に供給するための空気回路を備えた制御モジュール4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバランサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吊荷がフックから外れた場合等にワイヤロープやフックが急速に巻き取られて跳ね上がることを防止するためのブレーキ機構を備えたエアバランサーが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】米国特許5848781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら従来のエアバランサーは、吊荷を昇降した際に、吊荷が瞬時に停止せず惰性で昇降してしまうという問題があった。
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、吊荷を所望の停止位置へ昇降した際に吊荷が惰性で昇降することを防止するエアバランサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明は、
ケース内の固定軸に支持されており、ロープ部材を巻き付けるための回転ドラムと、
前記ケース内に供給された第1のエアの圧力を、前記回転ドラムがロープ部材を巻き付けるための回転力に変換する変換機構と、
前記固定軸に回転可能に支持されており、前記回転ドラムと連結されて一体的に回転する回転部材と、
前記回転部材に接触して回転を抑制する回転抑制部材と、
前記ケース内に供給された第2のエアの圧力によって前記回転抑制部材を退避させ前記回転部材と前記回転抑制部材との接触を解除する解除機構と、
前記ケース内に前記第1のエアが供給されているとき又は前記ケースから前記第1のエアが排出されているときのみ、前記第2のエアを前記ケース内に供給するための空気回路を備えた制御モジュールと、
を有することを特徴とするエアバランサーを提供する。
【0005】
また本発明のエアバランサーは、
前記解除機構は、
前記第2のエアが供給されるシリンダ部材と、
前記シリンダ部材に保持されており、前記第2のエアの圧力によってスライドして前記回転抑制部材を押し退けるピストン部材と、
を含むことが望ましい。
また本発明のエアバランサーは、
前記回転抑制部材を付勢して前記回転部材に接触させる弾性部材と、
前記弾性部材を前記ケース内に固定する固定部材と、を有し、
前記ケース内における前記弾性部材の固定位置を前記固定部材によって変更することで、前記弾性部材の付勢力が調整可能であることが望ましい。
【0006】
また本発明のエアバランサーは、
前記制御モジュールは、前記第2のエアを前記ケース内に常時供給するための切替用空気回路をさらに備え、
前記制御モジュールにおける前記空気回路と前記切替用空気回路を切り替えて使用するための切り替え手段を有することが望ましい。
【0007】
また本発明のエアバランサーは、
前記回転ドラムの端面に外周側へ回動可能に設けられた掛止部材と、
前記回転ドラムの回転速度が所定値に達するまで前記掛止部材の回動を制限する制限部材と、
前記回転ドラムの外周側に設けられた被掛止部材と、
を含むロック機構を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吊荷を所望の停止位置へ昇降した際に吊荷が惰性で昇降することを防止するエアバランサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るエアバランサーを添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るエアバランサーの構成を示す部分断面図である。
図1に示すように本発明の実施形態に係るエアバランサー1は、不図示の荷物(吊荷)を吊るして昇降するためのエアバランサー本体2と、エアバランサー本体2を操作するための操作ハンドル3と、操作ハンドル3の操作に基づいてエアバランサー本体2の動作を制御する制御モジュール4とからなる。なお、制御モジュール4の給気口4aには、エアバランサー1の動力として圧縮空気(エア)を供給するための不図示のコンプレッサが接続されている。
【0010】
エアバランサー本体2のケース5は、横配置した略円筒形状のケース本体6と、これを両側から封じるエンドキャップ7及びエンドキャップ8とからなり、エンドキャップ7及びエンドキャップ8にはそれぞれ給気口7a,8aが形成されており、制御モジュール4からのエアホース4b,4cが接続されている。なお、ケース本体6の上側には、エアバランサー本体2を例えば作業現場の天井に設けられたレール等に吊り下げるための上フック9が備えられている。
【0011】
ケース5内には、エンドキャップ7からエンドキャップ8まで水平方向へ貫通して固定軸11が設けられている。この固定軸11は、ボールねじナット10を備え該ボールねじナット10と共にボールねじ機構を構成するボールねじシャフト部11aと、スピンドル部11bとからなる。また、固定軸11のボールねじシャフト部11aには、後述のドラム15と跳ね上がり防止装置17が回転可能に備えられており、ドラム15はボールねじナット10に対して固定され、また跳ね上がり防止装置17はドラム15に対してシャフト13a,13b(図1においてシャフト13aは不図示)によって固定されている。このため、ボールねじナット10、ドラム15、及び跳ね上がり防止装置17は、ボールねじシャフト部11aにおいて該ボールねじシャフト部11aのねじ溝の軌道に沿って一体的に回転しながら軸方向へ移動することができる。固定軸11のスピンドル部11bには、後述の惰性動作防止装置16がベアリング12を介して回転可能に備えられている。
【0012】
上記ドラム15は、外周面に螺旋状の溝が形成された円柱部材であって、ワイヤロープ18の一端が固定され当該溝に沿って巻き付けられている。ドラム15のエンドキャップ7側端面には、固定軸11と同心のスラストベアリング19が設けられており、このスラストベアリング19が後述するピストン20の凸条部20aと当接することで摩擦抵抗が小さくなり、ドラム15はピストン20に対して回転可能となっている。
ワイヤロープ18の他端は、ドラム15の回転によって繰り出し、繰り戻し可能にケース本体6の下方より外部へ露出しており、荷物を吊るすための下フック21が備えられている。
【0013】
ケース5内には、ケース本体6に内接する略円板状のピストン20が、エンドキャップ7と対向して第1空気室22を形成するように固定軸11の軸方向へスライド可能に設けられている。そしてピストン20のドラム15側端面には、ドラム15のスラストベアリング19と当接する円環状の凸条部20aが形成されている。ケース本体6とエンドキャップ7の間、ケース本体6とピストン20の間、ピストン20と固定軸11のボールねじシャフト部11aの間、及び固定軸11とエンドキャップ7の間には、それぞれ密閉部材(パッキン)23a,23b,23c,23dが配置されており、第1空気室22は気密に保たれている。
【0014】
以上の構成により、エンドキャップ7の給気口7aから第1空気室22へエアが供給された際には、ピストン20がエアの圧力によって押されてエンドキャップ8側へスライドする。これによりドラム15は、ピストン20に押されることとなり、ボールねじナット10、跳ね上がり防止装置17、及び惰性動作防止装置16とともに回転しながらエンドキャップ8側へ移動する。このときワイヤロープ18は回転するドラム15に巻き取られ、下フック21は吊荷とともに上昇することとなる。
一方、第1空気室22内のエアが給気口7aより排出された際には、下フック21と吊荷は自重によってワイヤロープ18をケース5より引き出しながら下降する。これによりドラム15は、ボールねじナット10、跳ね上がり防止装置17、及び惰性動作防止装置16とともに逆回転してワイヤロープ18を繰り出しながらエンドキャップ7側へ移動する。なお、ピストン20はこの逆回転するドラム15によって押されてエンドキャップ7側へスライドすることとなる。
【0015】
図2は、本発明の実施形態に係るエアバランサー1における惰性動作防止装置16の構成を示す、図1のA−A’断面図である。
惰性動作防止装置16は、吊荷を下フック21に吊るして昇降させた際に、吊荷が惰性で所望の停止位置から昇降してしまうことを防止するための装置である。
図1に示すように固定軸11のスピンドル部11bには、一部周方向へ突出したフランジ部30aが形成された円筒形状のブレーキホイール30が上記ベアリング12を介して回転可能に設けられており、さらにフランジ部30aには固定軸11の軸方向へ延在したシャフト31が固定されている。このシャフト31は、ドラム15のエンドキャップ8側端面に形成された軸方向へ延在する開口15aに挿脱可能に挿入されており、ドラム15がエンドキャップ7側へ移動しても開口15aから抜けきってしまうことがないように十分な長さが確保されている。ブレーキホイール30とドラム15はこのようなシャフト31によって連結されているため、常に一体的に回転することができる。
【0016】
ブレーキホイール30には、図2(a)に示すように固定軸11と略同心な円弧形状の一対のブレーキシュー32a,32bが、該ブレーキホイール30を両側から挟み込むように配置され、それぞれの一端は、エンドキャップ8に固定されておりブレーキホイール30の真上位置まで延在したシャフト33によって回動可能に支持されており、さらにそれぞれの他端には後述する第2空気室35のピストン36a,36bに外側から対向するように下方へ延出した延出部37a,37bが形成されている。
また、一対のブレーキシュー32a,32bの内側面には、ブレーキホイール30に当接させて抵抗を加えることで該ブレーキホイール30の回転を抑制するための摩擦部材38a,38bがそれぞれ備えられている。ブレーキシュー32a,32bの各延出部37a,37bの外側面には、後述するピストン36a,36bのスライド方向と同方向へ伸縮するようにバネ39a,39bが固定されており、バネ39a,39bの先端はそれぞれエンドキャップ8にねじ40a,40bで固定されている。
【0017】
斯かる構成により、通常、ブレーキシュー32a,32bはバネ39a,39bによって内側へ付勢されており、これによって各摩擦部材38a,38bがブレーキホイール30に押し付けられてブレーキホイール30の回転が抑制されている。バネ39a,39bの付勢力の調整は、エンドキャップ8に対するねじ40a,40bの固定位置(バネ39a,39bの伸縮方向におけるねじ40a,40bの固定位置)を調整することで行うことができ、これによって吊荷の惰性動作の制動力を調整することが可能となる。エンドキャップ8には、各ブレーキシュー32a,32bが外側へ回動する角度を制限するために、固定軸11と略平行な方向へ延在した棒状のストッパー41a,41bが設けられている。
【0018】
エンドキャップ8において固定軸11のスピンドル部11bの真下位置には、対向する一対のピストン36a,36bを気密に備えたシリンダ部42が設けられており、これらピストン36a,36b及びシリンダ部42によって第2空気室35が形成されている。第2空気室35は給気口8aと接続されており、さらにピストン36a,36bは上方から見て固定軸11の軸方向と直交する方向へスライド可能に設けられている。この構成により、給気口8aから第2空気室35へエアが供給された際には、エアの圧力によってピストン36a,36bが図2(b)に示すようにそれぞれ外側へスライドしてブレーキシュー32a,32bの延出部37a,37bを外側へ押す。これによりブレーキシュー32a,32bの摩擦部材38a,38bは、ブレーキホイール30から離れて該ブレーキホイール30の回転の抑制を解除することとなる。このとき各ブレーキシュー32a,32bのバネ39a,39bの付勢力は、ピストン36a,36bが延出部37a,37bを外側へ押す力よりも小さく設定されている。第2空気室35のエアが給気口8aより排出された際には、ピストン36a,36bは内側へスライドして図2(a)に示す状態へ復帰し、ブレーキホイール30の回転が再び抑制されることとなる。
以上、本実施形態における惰性動作防止装置16は、上記構成のブレーキホイール30、シャフト31、ブレーキシュー32a,32b、及び第2空気室35によって構成されている。
【0019】
図3は、本発明の実施形態に係るエアバランサー1における跳ね上がり防止装置17の構成を示す、図1のB−B’断面図である。
跳ね上がり防止装置17は、吊荷を下フック21に吊るした状態でワイヤロープ18が破断したときや吊荷が下フック21から外れたとき等に、ワイヤロープ18が急速に跳ね上がり人体に接触して怪我をさせたり、構造物に接触して破損してしまうことを防止するための装置である。
【0020】
図1及び図3に示すように、ドラム15のエンドキャップ8側の側面には、固定軸11と同心の円弧形で板状の固定板45がその両端でシャフト13a,13bを介して固定されている。固定板45とドラム15側面の間には、固定軸11と同心で固定板45よりも短い円弧形で板状のラチェット47が配置されており、このラチェット47の一端はシャフト13bによって回動可能に支持されている。またラチェット47の他端には、後述するラチェットホイール48の凹凸部48aに掛止可能な外周へ突き出た爪部47aが形成されている。固定板45には切欠部45aが形成されており、固定板45と切欠部45aから露出したラチェット47とはバネ49によって連結されている。したがってラチェット47はバネ49で引っ張られる力により、通常、図3(a)に示すように固定板45と重なり合っており、ラチェットホイール48と非接触位置にある。
これに対し、ケース5内においてドラム15の外周側には、固定軸11の軸方向へ延びた凹凸部48aが内側面に全周にわたって周期的に形成されたラチェットホイール48がケース本体6に対して回転不能に備えられている。なお、ラチェットホイール48の凹凸部48aの軸方向長さは、上述のラチェット47と固定板45がドラム15とともにエンドキャップ7側へ移動しても、ラチェット47の爪部47aが常に掛止可能なように十分な長さが確保されている。
【0021】
斯かる構成の下、吊荷が下フック21から外れる等してワイヤロープ18が急速に跳ね上がった際、即ち図3(b)に示すようにドラム15がワイヤロープ18の巻き取り方向である反時計回り方向へ急激に回転して所定の回転速度に達した際、遠心力がバネ49の付勢力を上回ることでラチェット47がシャフト13bを中心に外側へ回動して爪部47aがラチェットホイール48の凹凸部48aに掛止する。これによってドラム15の回転が停止し、ワイヤロープ18の急速な跳ね上がりを防止することができる。
ラチェットホイール48の凹凸部48aに掛止したラチェット47の爪部47aは、下フック21を下降させてドラム15をワイヤロープ18の繰り出し方向である時計回り方向へ回転させることで解除され、ラチェット47を固定板45と重なり合う通常の位置へ復帰させることができる。
以上、本実施形態における跳ね上がり防止装置17は、上記構成のラチェット47、ラチェットホイール48、及びバネ49によって構成されている。
【0022】
操作ハンドル3は、図1に示すように4本のエアホース70a,70b,70c,70dを介して制御モジュール4に接続されている。操作ハンドル3には、ドラム15を回転させてワイヤロープ18を巻き取り下フック21を上昇させるためのUPボタン50aと、ワイヤロープを繰り出して下フック21を下降させるためのDOWNボタン50bと、惰性動作防止装置16のオン状態、オフ状態を切り替えるためのスイッチ51とが備えられている。なお、操作ハンドル3の内部構成については後述する。
【0023】
図4は、本発明の実施形態に係るエアバランサーにおける操作ハンドル3と制御モジュール4の内部構成を示す空気回路図である。
制御モジュール4は、図4に示すように複数のバルブ52a,52b,52c,52d、スピードコントローラ53a,53b、レギュレータ54、モジュールスイッチ55、サイレンサ63、圧力計64、及びこれらを接続する複数の管路(第1供給管路56、第2供給管路57、上昇管路58、下降管路59、エアバランサー管路60、排出管路61、惰性動作防止管路62)を有してなる。モジュールスイッチ55は、第2供給管路57とエアバランサー管路60を接続するバルブと、第2供給管路57を遮断するバルブと、エアバランサー管路60と排出管路61を接続し第2供給管路57を遮断するバルブとを切り替え可能に備えてなる。
【0024】
操作ハンドル3は、UPボタン50aとDOWNボタン50bで切り替えられるペンダントスイッチ65と、スイッチ51で切り替えられる惰性動作防止スイッチ66とを内部に有している。図4に示すようにペンダントスイッチ65は、第1供給管路56と上昇管路58を接続するバルブと、第1供給管路56を遮断するバルブと、第1供給管路56と下降管路59を接続するバルブとを切り替え可能に備えてなる。また、惰性動作防止スイッチ66は、第1供給管路56と惰性動作防止管路62を接続するバルブと、第1供給管路56を遮断するバルブとを切り替え可能に備えてなる。
【0025】
ここで、以上に述べた構成の本実施形態に係るエアバランサー1の動作について説明する。
はじめに、エアバランサー1の使用者が操作ハンドル3を操作するにあたり、不図示のコンプレッサよりエアの供給が開始されると、第1供給管路56を介して操作ハンドル3のペンダントスイッチ65及び惰性動作防止スイッチ66までエアが達するとともに、第2供給管路57のスピードコントローラ53a、レギュレータ54、圧力計64、チェックバルブ52bを順に介してモジュールスイッチ55までエアが達する。なお、予め惰性動作防止装置16は、操作ハンドル3のスイッチ51によってオン状態が選択されているものとする。
【0026】
斯かる状態において、使用者によって操作ハンドル3のUPボタン50aが押されると、UPボタン50aが押されている間中、ペンダントスイッチ65で第1供給管路56は上昇管路58と接続され、これによりモジュールスイッチ55で第2供給管路57とエアバランサー管路60とが接続される。これによってエアバランサー本体2の第1空気室22に給気口7aよりエアが供給されるため、ドラム15が回転してワイヤロープ18を巻き上げ、下フック21を吊荷とともに上昇させることができる。このとき、惰性動作防止スイッチ66へ達する第1供給管路56は該惰性動作防止スイッチ66によって遮断されているため、上昇管路58から分岐した管路は2つのシャトルバルブ52c,52dを順に経てエアバランサー本体2の第2空気室35へ導かれる。これにより、第2空気室35に給気口8aよりエアが供給され、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30の回転の抑制が解除されるため、ドラム15は自由に回転することができる。
【0027】
使用者が操作ハンドル3のUPボタン50aから手を離すと、ペンダントスイッチ65において第1供給管路56が遮断されるため、エアバランサー本体2の第1空気室22へのエアの供給が停止し、下フック21及び吊荷の上昇が停止する。またこのとき、エアバランサー本体2の第2空気室35へのエアの供給も停止するため、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30の回転が抑制されて該ブレーキホイール30とともにドラム15の回転が直ちに停止し、下フック21と吊荷を惰性動作することなく停止させることができる。上昇停止した下フック21及び吊荷は、停止したときの高さ位置にそのまま維持される。
【0028】
一方、使用者によって操作ハンドル3のDOWNボタン50bが押されると、DOWNボタン50bが押されている間中、ペンダントスイッチ65で第1供給管路56は下降管路59と接続され、これによりモジュールスイッチ55で第2供給管路57は遮断され、エアバランサー管路60と排出管路61とが接続される。これによってエアバランサー本体2の第1空気室22の給気口7aからエアがスピードコントローラ53bとサイレンサ63を介して排出されるため、下フック21と吊荷を自重によって下降させることができる。このとき、惰性動作防止スイッチ66へ達する第1供給管路56は該惰性動作防止スイッチ66によって遮断されているため、下降管路59から分岐した管路は2つのシャトルバルブ52c,52dを順に経てエアバランサー本体2の第2空気室35へ導かれる。これにより、第2空気室35に給気口8aよりエアが供給され、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30の回転の抑制が解除されるため、ドラム15は自由に回転することができる。
【0029】
使用者が操作ハンドル3のDOWNボタン50bから手を離すと、ペンダントスイッチ65において第1供給管路56が遮断されるため、エアバランサー本体2の第1空気室22からのエアの排出が停止し、下フック21及び吊荷の下降が停止する。このとき、エアバランサー本体2の第2空気室35へのエアの供給も停止するため、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30の回転が抑制されて該ブレーキホイール30とともにドラム15の回転が直ちに停止し、下フック21と吊荷を惰性動作することなく停止させることができる。下降停止した下フック21及び吊荷は、停止したときの高さ位置にそのまま維持される。吊荷を下フック21から外す際には、吊荷が床面に着地しワイヤロープ18に弛みが生じるまで下フック21を下降させることが望ましい。
【0030】
以上のように使用者は操作ハンドル3のUPボタン50a及びDOWNボタン50bを操作することで、本エアバランサー1によって吊荷を昇降させることができる。
そして、上述のように惰性動作防止装置16がオン状態にある場合には、通常、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30及びドラム15の回転は抑制されており、使用者によって操作ハンドル3のUPボタン50a又はDOWNボタン50bが押されている間のみ、ブレーキホイール30及びドラム15の回転の抑制が解除される。したがって使用者が吊荷の昇降を停止したとき、即ちUPボタン50a及びDOWNボタン50bから手を離したとき、直ちに惰性動作防止装置16によってドラム15の回転が抑制されることとなり、これによって吊荷の惰性動作を適切に防止することができる。
【0031】
ここで、本エアバランサー1において、操作ハンドル3のスイッチ51を操作して惰性動作防止装置16をオフ状態とした際には、図4に示す惰性動作防止スイッチ66で第1供給管路56が惰性動作防止管路62と接続される。このため、操作ハンドル3のUPボタン50a及びDOWNボタン50bの操作状況にかかわらず、常にエアバランサー本体2の第2空気室35へエアが供給されることとなる。そしてこれにより、惰性動作防止装置16においてブレーキホイール30の回転の抑制が解除されて常にドラム15が自由に回転することが可能となり、惰性動作防止装置16のオフ状態が実現される。
この構成により使用者は、惰性動作防止装置16がオン状態である場合でも吊荷を手で持ち上下動させることは可能であるものの、惰性動作防止装置16をオフ状態とした場合には吊荷を手で持ちより軽い力で上下動させることが可能となる。
【0032】
以上、本実施形態に係るエアバランサーによれば、吊荷を所望の停止位置へ昇降した際に吊荷が惰性で昇降することを適切に防止することができる。そしてこれにより、吊荷を吊り上げて目的の位置に移動させる搬送作業を安定的に行うことが可能となり、また吊荷を所望の高さ位置に精度良く停止させて維持することも可能となる。
【0033】
本実施形態において惰性動作防止装置16のスイッチ51は、使いやすさを考慮して操作ハンドル3に配置されているが、スイッチ51の配置場所はこれに限られない。例えば、スイッチ51を制御モジュール4に配置すれば、制御モジュール4と操作ハンドル3との間のエアホースの数を減らすことができ、操作ハンドル3の小型化を図ることもできる。
また、本実施形態において制御モジュール4は、エアバランサー本体2に対して一体的に装着するための公知の装着機構を備える構成とすることもできる。
【0034】
また、本実施形態において跳ね上がり防止装置17は、ドラム15とともに回転しながら固定軸11の軸方向へ移動するように構成されている。しかしながらこれに限られず、跳ね上がり防止装置17とドラム15を連結するシャフト13a,13bを、惰性動作防止装置16のシャフト31と同様に十分な長さでドラム15に挿脱可能とし、ドラム15が回転しながら固定軸11の軸方向へ移動する際に、跳ね上がり防止装置17が定位置で回転する構成とすることもできる。そしてこの場合、跳ね上がり防止装置17においてラチェット47の爪部47aに対向する位置にのみラチェットホイール48の凹凸部48aが配置されていればよいため、固定軸11の軸方向へ延在したラチェットホイールが不要となり低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るエアバランサー1の構成を示す部分断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエアバランサー1における惰性動作防止装置16の構成を示す、図1のA−A’断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るエアバランサー1における跳ね上がり防止装置17の構成を示す、図1のB−B’断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るエアバランサー1における操作ハンドル3と制御モジュール4の内部構成を示す空気回路図である。
【符号の説明】
【0036】
1 エアバランサー
2 エアバランサー本体
3 操作ハンドル
4 制御モジュール
11 固定軸
31 シャフト
15 ドラム
16 惰性動作防止装置
17 跳ね上がり防止装置
20,36a,36b ピストン
22 第1空気室
30 ブレーキホイール
32a,32b ブレーキシュー
35 第2空気室
51 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内の固定軸に支持されており、ロープ部材を巻き付けるための回転ドラムと、
前記ケース内に供給された第1のエアの圧力を、前記回転ドラムがロープ部材を巻き付けるための回転力に変換する変換機構と、
前記固定軸に回転可能に支持されており、前記回転ドラムと連結されて一体的に回転する回転部材と、
前記回転部材に接触して回転を抑制する回転抑制部材と、
前記ケース内に供給された第2のエアの圧力によって前記回転抑制部材を退避させ前記回転部材と前記回転抑制部材との接触を解除する解除機構と、
前記ケース内に前記第1のエアが供給されているとき又は前記ケースから前記第1のエアが排出されているときのみ、前記第2のエアを前記ケース内に供給するための空気回路を備えた制御モジュールと、
を有することを特徴とするエアバランサー。
【請求項2】
前記解除機構は、
前記第2のエアが供給されるシリンダ部材と、
前記シリンダ部材に保持されており、前記第2のエアの圧力によってスライドして前記回転抑制部材を押し退けるピストン部材と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアバランサー。
【請求項3】
前記回転抑制部材を付勢して前記回転部材に接触させる弾性部材と、
前記弾性部材を前記ケース内に固定する固定部材と、を有し、
前記ケース内における前記弾性部材の固定位置を前記固定部材によって変更することで、前記弾性部材の付勢力が調整可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアバランサー。
【請求項4】
前記制御モジュールは、前記第2のエアを前記ケース内に常時供給するための切替用空気回路をさらに備え、
前記制御モジュールにおける前記空気回路と前記切替用空気回路を切り替えて使用するための切り替え手段を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエアバランサー。
【請求項5】
前記回転ドラムの端面に外周側へ回動可能に設けられた掛止部材と、
前記回転ドラムの回転速度が所定値に達するまで前記掛止部材の回動を制限する制限部材と、
前記回転ドラムの外周側に設けられた被掛止部材と、
を含むロック機構を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエアバランサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111464(P2010−111464A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284586(P2008−284586)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000121327)遠藤工業株式会社 (11)