説明

エアフィルタの積層フィルタ材

【課題】 通気抵抗、カーボン捕捉効果、並びにダスト捕捉効果、及び捕捉したダストの保持力が高く、しかも相互のバランスが良く、製造時の管理を簡素化できるフィルタ材を得る。
【解決手段】 繊維集積体からなる第1フィルタ材1と、水流交絡不織布からなる第2フィルタ材2とを重ねて積層構造とし、前記第1フィルタ材1をエア流入側に、前記第2フィルタ材2をエア流出側に配置する。そして、前記第2フィルタ材2を、同一の平均繊維径及び繊維密度を有する繊維集積体からなる単位フィルタ材3をニードルパンチによって複数重ね合わせた積層体として形成する。さらに、前記第2フィルタ材2を構成する各単位フィルタ材3の前記水流交絡不織布として、前記第1フィルタ材1を構成する前記繊維集積体に対して、その平均繊維径が小さく、かつ、繊維密度が大きく形成されているエアフィルタの積層フィルタ材を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の吸気系に使用されるエアフィルタの積層フィルタ材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の吸気系では、吸気エアの濾過効率を向上せしめる様々なエアフィルタが開発されてきた。その一つに、フィルタ材を重ね合わせて積層体とすることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エア流入側に、繊維集積体からなるフィルタ材を少なくとも1層として配置し、エア流出側に、水流交絡法による不織布からなるフィルタ材を複数重ね合わせた積層体を配置して構成したエアフィルタの積層フィルタ材が開示されている。この特許文献1に開示の積層フィルタ材では、下流側に配置されたフィルタは、下流側に向かうに連れ、フィルタを構成する不織布の平均繊維径が順次小さくなり、かつ、集積密度が順次大きくなるように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−27404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示のフィルタでは、通気抵抗、ダスト/カーボン捕捉効果のバランスを取ることは可能であるが、依然として捕捉したダストを保持する効果を高めることが困難である。加えて、このフィルタでは、下流側に配置される積層体を異なる平均繊維径及び集積密度のフィルタ材で構成しなければならず、製造時の管理が煩わしい。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであり、通気抵抗、ダスト/カーボン捕捉効果の向上を図るだけでなく、捕捉したダストの保持力をも向上させ、しかも相互のバランス良く確保でき、製造時の管理を簡素化できるエアフィルタの積層フィルタ材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、かかる課題を解決するために、繊維集積体からなる第1フィルタ材(1)と、水流交絡不織布からなる第2フィルタ材(2)とが重ね合わされたエアフィルタの積層フィルタ材について、前記第1フィルタ材(1)をエア流入側に配置し、かつ、前記第2フィルタ材(2)をエア流出側に配置する。そして、前記第2フィルタ材(2)を、同一の平均繊維径及び繊維密度を有する繊維集積体からなる単位フィルタ材(3)をニードルパンチによって複数重ね合わせた積層体として形成し、さらに、前記第2フィルタ材(2)を構成する各単位フィルタ材(3)の前記水流交絡不織布として、前記第1フィルタ材(1)を構成する前記繊維集積体に対して、その平均繊維径が小さく、かつ、繊維密度が大きく形成されているエアフィルタの積層フィルタ材を採用する。
【0008】
なお、本発明ではこの積層フィルタ材について、前記第2フィルタ材(2)の前記平均繊維径を1.5デニール以下とした。
【0009】
さらに、本発明では、上記の積層フィルタ材に関して、前記第1フィルタ材(1)を単層構造とする一方で、積層体とされた前記第2フィルタ材(2)を、前記単位フィルタ材(3)を重ね合わせて3〜6層としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エア流出側に、水流交絡不織布を複数重ね合わせてなる積層フィルタ材を配置することで、たとえフィルタが脈動を受けた場合でも、一旦捕捉されたダストが、第2フィルタ材を透過することが無い。このため、通気効果及びダスト/カーボン捕捉効果を向上させると共に、捕捉したダストの保持力を向上させることができる。
【0011】
また、積層フィルタ材を同一の平均繊維径及び繊維密度を有する繊維集積体からなる単位フィルタ材で構成するので、製造時における管理を容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の1実施形態にかかる積層フィルタ材5の層構造を示している。
【0014】
図1に示す積層フィルタ材5は、繊維集積体からなる第1フィルタ材1と、水流交絡不織布からなる第2フィルタ材2とが重ね合わされて構成されている。エアが流入する流入側が第1フィルタ材1であり、エアが流出する流出側が第2フィルタ材2である。
【0015】
第1フィルタ材1は、ポリエチレンテレフタレートの繊維(以下、PET繊維という。)を織り込んだ繊維集積体により構成され、単層構造となされている。一方、第2フィルタ材2は、PET繊維からなる単位フィルタ材3を複数重ね合わせた積層構造をなしている。第2フィルタ材2は、重ね合わせて積層構造とするに当たり、各単位フィルタ材3同士をニードルパンチにより一体化させている。この第2フィルタ材2は、単位フィルタ材3を3〜6層とすることが好ましく、更に好ましくは、4乃至5層とすると良い。
【0016】
これら第1フィルタ材1と第2フィルタ材2との関係は、第2フィルタ材2が第1フィルタ材1に比べて、平均繊維径が小さく、かつ、繊維密度が大きく形成されている。但し、第2フィルタ材2については、各層をなす単位フィルタ材3同士は、相互に同一の平均繊維径及び繊維密度に形成されている。
【0017】
具体的に説明すると、第1フィルタ材1は、2種類の繊維径を有するPET繊維を混合して形成したものである。2種類のPET繊維うち、一方のPET繊維として、10.1μm(1デニール)〜45.3μm(20デニール)の繊維径を有するものを採用し、他方のPET繊維として、10.1μm(1デニール)〜55.5μm(30デニール)の繊維径を有するものを採用するとよい。そして、面密度が、50g/m〜150g/mとなるように形成する。また、第1フィルタ材1の厚みを0.4mm〜2.0mmとする。
【0018】
これに対し、第2フィルタ材2を構成する各単位フィルタ材3は、2種類の繊維径を有するPET繊維を、一方が相対的に小さな混合比率となり、他方が大きな混合比率(例えば、2:8〜4:6の割合)となるように折り込んで形成したものである。混合比率が小さなPET繊維として、7.2μm(0.5デニール)〜12.4μm(1.5デニール)の繊維径を有するものを採用し、混合比率が大きなPET繊維として、7.8μm(0.6デニール)〜12.4μm(1.5デニール)の繊維径を有するものを採用するとよい。この単位フィルタ材3は、面密度が、50g/m〜250g/mとなるように形成される。また、第2フィルタ材2は、これを構成する各単位フィルタ材3の厚みが0.05mm〜0.3mmに形成され、第2フィルタ材2全体では、0.25mm〜1.5mmに形成される。
【0019】
そして、積層フィルタ材5全体としては、厚みが、0.65mm〜3.5mmとなるように形成される。
【0020】
このような構成を有する積層フィルタ材5には、面密度が20g/m〜70g/mとなるように、バインダ樹脂が注入される。バインダ樹脂としては、水溶性フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアクリル酸エステル系樹脂エマルジョン、ポリアクリル−スチレン系樹脂エマルジョン、ポリ酢酸ビニル系樹脂エマルジョンなどを使用すると良い。
【0021】
以上の構成を備えた積層フィルタ材5によれば、第2フィルタ材2が同一の平均繊維径及び繊維密度に形成された単位フィルタ材3を複数重ね合わせて積層構造に形成されているため、各単位フィルタ材3同士の繊維が見かけ上複雑に交差する構造となる。このため、積層フィルタ材5に脈動するエアを流入した場合であっても、この第2フィルタ材2に捕捉されたダストは、効果的にその移動が拘束される。これにより、捕捉されたダストは、積層フィルタ材5を通過することなく、当該積層フィルタ材5のいずれかの層に止められる。
【実施例】
【0022】
本発明にかかる積層フィルタ材5の効果を検証するために、従来から知られているフィルタ材との比較テストを行った。テストは、エアに所定のダストを投入した場合、ダストに変えカーボンを投入させた場合について、脈動の無い静流状態で流入させた場合及び脈動させた状態で流入させた場合の組み合わせ、即ち、ダスト−静流、ダスト−脈流、カーボン−静流、カーボン−脈流について行った。
【0023】
テストに使用した本発明の積層フィルタ材5の層構成は、上述の図1に示したものである。第1フィルタ材1は、17.5μm(3デニール)の繊維径を有するPET繊維と、24.8μm(6デニール)の繊維径を有するPET繊維とを1:1の割合で混合したものである。面密度は、70g/mに形成されている。一方、第2フィルタ材2を構成する各単位フィルタ材3は、9.1μm(0.8デニール)の繊維径を有するPET繊維と、12.0μm(1.4デニール)の繊維径を有するPET繊維とを3:7の割合で混合したものである。そして、面密度が、30g/mに形成されている。この第2フィルタ材2は、これらの単位フィルタ材3を5層に重ね合わせて形成されている。
【0024】
そして、バインダ樹脂が、40g/mとなるように注入され、全体の厚みが1.9mmに形成されている。
【0025】
図2は、比較の対象となる従来品10の構成を示すものである。この図2に示すように、従来品10は、4種類のフィルタ材を重ね合わせて積層構造とされている。この従来品10は、エアの流入側からエアの流出側に向かうに連れ、各層を構成するフィルタ材の平均繊維径が順次小さくなると共に、繊維集積密度が順次大きくなるように形成されている。
【0026】
最も流入側に位置する層を第1層11とし、最も流出側に位置する層を第4層14とすれば、第1層11は、繊維径が24.8μm(6デニール)のPET繊維が折り込まれた不織布である。面密度は125g/mに形成されている。第2層12は、14.3μm(2デニール)の繊維径を有するPET繊維と、17.5μm(3デニール)の繊維径とを有するPET繊維とを1:1の割合で混合した不織布である。この第2層12の面密度は、85g/mとされている。
【0027】
そして、第3層13及び第4層14は、いずれも繊維径が12.0μm(1.4デニール)のPET繊維からなる不織布が使用されている。なお、第3層13の面密度は60g/mに形成され、第4層14の面密度は、40g/mに形成されている。
【0028】
この従来品10は、バインダ樹脂が25g/m注入され、全体の厚みが3.0mmに形成されている。
【0029】
これらのテスト品5,10について、(1)通気抵抗、(2)ダスト捕捉効率、(3)ダスト非透過性、(4)ダストライフ、(5)カーボン捕捉効率、(6)カーボンライフの比較を行った。なお、これらの用語を定義すると次のようになる。
【0030】
(1)通気抵抗
エアが初期に通過する際の通過抵抗。
(2)ダスト捕捉効率
スペックの一定流量でエアを通過させた際に、積層フィルタ材がダストを捕捉する量(捕捉量)と、投入したダスト量(ダスト投入量)との比である。即ち、(捕捉量)/(ダスト投入量)をパーセンテージで表したものである。
(3)ダスト非透過性
エアを脈動させてフィルタ材に流入させ、捕捉されたダストがフィルタ材を透過することなく止まる特性のこと。
(4)ダストライフ
一定量のエアを流入し、増加抵抗が定められた圧力になったときのダスト供給量である。
(5)カーボン捕捉効率
スペックの一定流量でエアを通過させた際に、積層フィルタ材がカーボンを捕捉する量(捕捉量)と、投入したカーボンの量(カーボン投入量)との比である。即ち、(捕捉量)/(カーボン投入量)をパーセンテージで表したものを意味する。
(6)カーボンライフ
一定量のエアを流入し、増加抵抗が定められた圧力になったときのカーボン量である。
【0031】
以上のテストを行ったところ、表1の様な結果を得ることができた。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、この表1に示されている各記号の意味は次の通りである。
◎・・・極めて良好なレベル
○・・・実用可能なレベル
×・・・実用不可能なレベル
この表1から明らかなように、本発明にかかる積層フィルタ材5は、(1)通気抵抗、(2)ダスト捕捉効率、(3)ダスト非透過性、(4)ダストライフ、(5)カーボン捕捉効率、(6)カーボンライフのいずれについても、実用可能なレベルを確保している。
【0034】
さらには、本発明にかかる積層フィルタ材5によれば、従来品では、実用不可能なレベルであったダスト非透過性について、極めて良好なレベルとすることができる。即ち、本発明にかかる積層フィルタ材5は、流入されるエアに脈動が発生した場合でも、ダストを確実に積層フィルタ材5に止めておくことができる。
【0035】
また、本発明にかかる積層フィルタ材5は、ダスト捕捉効率を単に実用可能なレベルから極めて良好なレベルにまで引き上げることが可能となる。
【0036】
このことから、本発明にかかる積層フィルタ材5は、フィルタ材としての機能を大幅に向上させるという結論を得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態にかかる積層フィルタ材の断面図。
【図2】比較テストに使用した従来品の積層フィルタ材の断面図。
【符号の説明】
【0038】
1・・・・第1フィルタ材
2・・・・第2フィルタ材
3・・・・単位フィルタ材
5・・・・積層フィルタ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集積体からなる第1フィルタ材と、水流交絡不織布からなる第2フィルタ材とが重ね合わされたエアフィルタの積層フィルタ材であって、
前記第1フィルタ材がエア流入側に配置され、かつ、前記第2フィルタ材がエア流出側に配置され、
前記第2フィルタ材は、同一の平均繊維径及び繊維密度を有する繊維集積体からなる単位フィルタ材を、ニードルパンチによって複数重ね合わせた積層体として構成され、
さらに、前記第2フィルタ材を構成する各単位フィルタ材の前記水流交絡不織布は、前記第1フィルタ材を構成する前記繊維集積体に対して、その平均繊維径が小さく、かつ、繊維密度が大きく形成されていることを特徴とするエアフィルタの積層フィルタ材。
【請求項2】
前記第2フィルタ材の前記平均繊維径が1.5デニール以下であることを特徴とする請求項1に記載にエアフィルタの積層フィルタ材。
【請求項3】
前記第1フィルタ材は単層構造となされている一方で、積層体とされた前記第2フィルタ材は、前記単位フィルタ材を重ね合わせて3〜6層となされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアフィルタの積層フィルタ材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−87983(P2006−87983A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273787(P2004−273787)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000223034)東洋▲ろ▼機製造株式会社 (51)
【Fターム(参考)】