説明

エアフィルター用濾材、その製造方法、およびそれを用いたエアフィルター

【課題】本発明は、低圧損でありかつ広範囲にわたるダストの捕集において高い捕集効率と寿命を有するエアフィルター濾材およびエアフィルターを提供せんとするものである。
【解決手段】少なくとも2層以上の積層構造からなる濾材であって、風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布について、QF値(A)が、下流側に配置されるエレクトレット不織布のQF値(B)よりも高いことを特徴とするエアフィルター用濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車キャビン空間用集塵フィルターに用いるエアフィルター濾材およびエアフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外気に含まれる様々なダストを濾過して清浄された空気を供給するためのエアフィルター用濾材としては、木材パルプ、木綿、麻、レーヨン、合成繊維などを原料とし、乾式法や湿式抄紙法で不織布化したものが用いられており、中でもその不織布に他の不織布もしくはネットや多孔性フィルムを積層して剛性を付与し、さらにその積層不織布にエレクトレット処理をすることにより高い捕集機能を与えるものが提案されている。(例えば、特許文献1)
しかしながらこの濾材においては、粒径がサブミクロンオーダーの微細塵の捕集性能についてエレクトレット性能に依存されている部分が大きく、実使用においてエレクトレットの効果が低下した時の捕集機能の低下が著しく大きいため、長寿命化が困難である。
【0003】
また、1層の不織布において厚み方向に疎密構造を作り、上流側で粒径の大きいダストを捕集し、下流側で粒径の細かいダストを捕集することにより、長寿命な濾材を得る方法が提案されている。(特許文献2)
しかしながらこの濾材においては、粒径の細かいダストは上流側の層で殆ど捕集されず下流側の層で捕集されるため、目詰まりが起こり易く、結果的に寿命が短くなってしまうため好ましくない。
【0004】
また、空気の流れに対して上流側に、厚み当たりの捕集効率の低い層を配置し、下流側に厚み当たりの捕集効率が高い層を配置することにより、目詰まりを防止するエアフィルタ濾材を得る方法が提案されている。(特許文献3)
しかしながらこの方法においても、上流側において微細塵の捕集性能が十分でないため、濾材下流での目詰まりが起こりやすいため、圧力損失の上昇が起こり寿命が短くなるため好ましくない。
【特許文献1】特開2007−146357号公報
【特許文献2】特開平05−68823号公報
【特許文献3】特開2005−205305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の欠点を解消し、花粉等に代表される粒径が大きいダストから、海塩粒子のような広い粒径分布を持ちその中のサブミクロンオーダーの細かいダスト双方に対し高い捕集効率を有し、かつ長期間において目詰まりを起こすことなく長寿命であるエアフィルター濾材およびエアフィルターならびにその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の(1)〜(6)のいずれかの手段を採用する。
【0007】
(1)少なくとも2層以上のエレクトレット不織布の積層構造からなる濾材であって、風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布の下記式より算出されるQF値(A)が、風向きに対して下流側に配置されるエレクトレット不織布の下記式1より算出されるQF値(B)よりも高いことを特徴とするエアフィルター用濾材。
【0008】
【数1】

【0009】
(2)QF値(A)およびQF値(B)の間に以下の関係が成立することを特徴とする前記(1)に記載のエアフィルター用濾材。
2.5≦QF値(A)/QF値(B)≦70
(3)風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布がエレクトレット短繊維不織布であり、QF値(A)が1.0〜4.0であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のエアフィルター用濾材。
【0010】
(4)風向きに対して下流側に配置されるエレクトレット不織布のQF値(B)が0.07〜0.5であり、かつ通過風速7.5cm/sにおける0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が50%以上であることを特徴とする前記(3)に記載のエアフィルター用濾材。
【0011】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のエアフィルター濾材を使用してなることを特徴とするエアフィルター。
【0012】
(6)少なくとも2層のエレクトレット不織布の層間に接着性樹脂を付与し、該接着性樹脂を介して不織布を重ね合わせて接着することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のエアフィルター用濾材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエアフィルター濾材によれば、風向きに対して上流側に配置されるQF値の高いエレクトレット不織布が粒径の大きなダストを保持しつつ、使用初期において細かいダストに対しても高い捕集効率を有するため、下流側への負荷が少なくなり目詰まりを防止できる。更に、上流の層を通過したダストにおいては下流側のエレクトレット不織布で捕集するため、細かいダストにおいても高い捕集効率を維持し続けることができる。またかかる濾材は、プリーツ加工して枠体などに収納することによりエアフィルターとして使用することが可能となり、濾材と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、前記課題、すなわち粒径の大きいダストと細かいダストの両方に対し高捕集効率および長寿命性能を有するエアフィルター用濾材について鋭意検討した結果、圧損当たりの捕集効率が異なるエレクトレット不織布を2層以上積層し、風向きに対して上流の層ほど圧損あたりの捕集効率が高いエレクトレット不織布を配置することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0015】
まず、本発明におけるエアフィルター用濾材は、少なくとも2層以上のエレクトレット不織布の積層構造から構成されるものである。ここでいう積層構造とは、単純に不織布同士が重ねられているだけのものや、熱融着樹脂や湿気硬化型樹脂などの接着剤を介して不織布同士が結合されているものや、不織布を重ねた状態で例えばニードルパンチ法などの機械的作用を与えることによって各層の不織布を構成する繊維同士を絡ませて結合されている構造を示す。中でも接着剤によって不織布同士を結合する方法は、積層前の各々のエレクトレット不織布の性能を損なうことなく、かつプリーツ加工時の不織布の剥れ防止などフィルター加工性にも優れるため好ましい。
【0016】
本発明におけるエアフィルター用濾材とは、空気やガスといった気体と接触することにより、気体に含有される粒子を捕集し除去する目的で用いられる部材を示す。
【0017】
本発明のエアフィルター用濾材において重要なポイントは、エレクトレット不織布の積層構造において、風向きに対して上流側になるほど、圧損当たりの捕集効率が高い、すなわち下記式1によって求められるQF値が高いエレクトレット不織布を配置することにある。
【0018】
【数2】

【0019】
本発明におけるQF値の測定方法は、濾材を通風可能な有効間口面積0.1mホルダーにセットし、風速10.8cm/sで空気を通過させた時の圧力損失を測定し、さらに濾材上下流の空気中の粒径0.3〜0.5μm粒子数より算出した捕集効率より算出するものである。
【0020】
QF値の高いエレクトレット不織布を上流側に配置することにより、初期の圧損が低いため粒径の大きいダストを捕集することにより圧力損失が上昇しても、濾材の寿命となる圧損上限値までは余裕があり、寿命までにより多くのダストを捕集することが可能である。更にエレクトレット作用による細かいダストの捕集効率が高いため、特に使用初期において下流側のエレクトレット不織布へのダストの通過を抑えることができ、全体の目詰まりを防止することができる。よって本発明においてQF値の高いエレクトレット不織布を風向きに対し上流側に配置することは必須である。
【0021】
また、本発明においてはQF値の高いエレクトレット不織布の下流に、これよりもQF値の低いエレクトレット不織布を配置することが重要である。すなわち、風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布のQF値(A)は、風向きに対して下流側に配置されるエレクトレット不織布のQF値(B)よりも高い。このような配置をとることにより、濾材全体の圧力損失を抑えることができ、さらに上流側のQF値の高いエレクトレット不織布を通過したダストを下流側のエレクトレット不織布で捕集できるため、本発明の目的である粒径の大きいダストおよび細かいダスト双方に対し長期間において高い捕集効率を有しかつダスト捕集量に優れたエアフィルター用濾材を得ることができる。逆に風向きに対して下流側にQF値の高いエレクトレット不織布を配置した場合、上流側のQF値が低いエレクトレット不織布は単体では細かいダストの捕集効率が十分でなく、下流のエレクトレット不織布ヘの負荷が大きくなるため、使用初期においては問題がないが、使用するにつれ下流の目詰まりが起こり急速に圧損が上昇し、寿命となってしまうため好ましくない。
【0022】
本発明のエアフィルター用濾材において、上流側のエレクトレット不織布のQF値を(A)、下流側のエレクトレット不織布のQF値を(B)としたとき、両者のQF値の比率は2.0≦QF値(A)/QF値(B)≦70が好ましく、より好ましくは2.5≦QF値(A)/QF値(B)≦40である。QF値の比率が前記の範囲となるようにエレクトレット不織布を配置することにより、濾材全体の圧力損失が低く、粒径の細かいダストに対する上流側のエレクトレット濾材による捕集効率および捕集量が上昇し、かつ下流側のエレクトレット濾材の捕集性能と合わせて、極めて高い捕集性能を得ることができる。逆にQF値の比率が2.0≦QF値(A)/QF値(B)≦70を外れた場合、圧力損失が著しく高くなり、かつ下流のエレクトレット不織布が粒径の細かいダストを殆ど捕集できなくなるため好ましくない。
【0023】
本発明におけるエレクトレット不織布とは、不織布を構成する繊維状物質各々の表面に電荷を付与したものをいい、電荷を付与する方法としては不織布シートにコロナ放電法、純水サクション法、摩擦帯電法といった公知の帯電方法から任意に選択することができる。
【0024】
本発明における不織布とは、カード法、エアレイド法、エアスルー法、抄紙法といった、主に不連続の天然繊維や任意の長さにカットや件縮を付与されたカットファイバーといった短繊維を加工して得られるものや、スパンボンド法やメルトブロー法といった繊維が連続した状態で存在するシートを得るようなもの、更にはエレクトレット加工されたフィルムを切断し繊維状としたものを集合化して得るものなど、公知の方法から任意に選択した方法で得られるものをいう。
【0025】
本発明のエレクトレット不織布に用いる素材は、特に指定されるものではなく、具体的には綿、麻、ケナフなどの天然繊維、パルプ、レーヨンといった半合成繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)といったポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリレフィン、ナイロンなどのポリアミド、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸などの合成繊維、無機繊維、炭素繊維などを例示することができる。中でもポリオレフィンは現時点において最もエレクトレット加工による帯電効果が大きいとされているためより好ましい。
【0026】
本発明におけるエレクトレット不織布に用いる繊維としては、単一成分からなるものを使用してもよいし、芯鞘構造、サイドバイサイド構造など公知の複合繊維を用いてもよい。複合繊維を用いる場合、融点の異なる成分同士を複合させると、不織布加工時に加熱して融点の低い成分のみを溶融させ繊維間を結合することができるためより好ましい。
【0027】
また、本発明におけるエレクトレット不織布に用いる繊維は、エレクトレット加工による帯電効果を向上させるための添加剤を含む物であってもよい。このような添加剤は公知のものを使用することができるが、なかでもヒンダードアミン系もしくはトリアジン系添加剤は、水などに対する静電気力の耐久性が向上するためより好ましい。含有量としては、100〜30000ppmの範囲が好ましく、より好ましくは7000〜15000ppmの範囲である。含有量が100ppm未満であると十分な耐久性を付与することができないため好ましくなく、逆に含有量が30000ppmを超えても均一性が著しく悪化するため好ましくない。
【0028】
ヒンダードアミン系もしくはトリアジン系添加剤としては、具体的には、ポリ〔((6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)〕(チバガイギー製、キマソーブ(登録商標)944LD)、ハコク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(チバガイギー製、チヌビン(登録商標)622LD)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(チバガイギー製、チヌビン(登録商標)144)、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6ーテトラメチルー4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6ーテトラメチルー4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(チバガイギー製、キマソーブ(登録商標)2020 FDL)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−((ヘキシル)オキシ)−フェノール(チバガイギー製、チヌビン(登録商標)1577FF)などが挙げられる。
【0029】
本発明のエアフィルター用濾材において、風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布を、綿やケナフのような天然繊維や任意の長さにカットされたパルプ、レーヨン、合成繊維などの短繊維によって構成し、QF値(A)が1.0〜4.0の範囲であれば、短繊維不織布の形態上の特徴である低圧損と粒径の大きいダストの高捕集量に加え、エレクトレットの効果が大きく、粒径の細かいダストに対しても十分な捕集効率を得ることができるためより好ましい。
【0030】
短繊維不織布の製造方法としては、前記したカード法、エアレイド法、エアスルー法、抄紙法といった任意の方法より選択することができるが、特にエアレイド法、エアスルー法は繊維径など形態の異なる繊維同士の複合が容易であり、細かい要求に沿った不織布の設計が可能であるためより好ましい。
【0031】
短繊維不織布に用いる繊維としては、繊度が1〜30dtexのものを用いることがより好ましい。特に繊度が1〜4dtexのものは、微細塵のエレクトレットに依存しない機械的捕集効率を向上させ、10〜20dtexのものは不織布の剛性を向上し形状保持性に優れた濾材となるため好ましく、必要に応じてこれらの繊維を混合してもよい。
【0032】
本発明において短繊維エレクトレット不織布であるQF値(A)が1.0〜4.0の層の下流に配置するエレクトレット不織布として、QF値(B)が0.07〜0.5の範囲にあり、かつ通過風速が7.5cm/sにおける0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が50%以上であるものを用いると、粒径の細かいダストに対し捕集効率が高いものになるが、その性能はエレクトレット性能にのみ依存するのではなく、不織布を構成する繊維による捕集性能が大きいため、上流のエレクトレット不織布を通過した粒子の捕集性能に優れ、かつ寿命としても優れたエアフィルター濾材を得ることができるためより好ましい。
【0033】
下流に配置されるエレクトレット不織布の形態としては、メルトブロー不織布を用いることが微細塵の捕集効率に優れかつ全体の厚みが厚くなり過ぎない濾材を得やすいためより好ましい。このとき、メルトブロー不織布を構成する繊維の繊維径としては、平均1.3〜7.5μmであり、目付としては10〜45g/mであることが、前記した性能に優れた濾材を得ることができるため最も好ましい。また、素材としては前記したような添加剤を含むポリオレフィンを用いることがより好ましい。
【0034】
また、本発明のエアフィルター用濾材を構成するエレクトレット不織布は、目的に応じて難燃性、抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性、脱臭性などの機能を付与してもよい。その方法としては、不織布シートの製造段階において所望の機能を有する薬剤(例えばマイクロカプセルリン系難燃剤、粉末活性炭)をバインダー樹脂に混合して付与する方法や、既にシート化された不織布に薬剤(例えばピリチオン系抗菌剤分散液、活性炭分散液)を含浸させる、スプレーで塗布する方法など任意に選択してよい。但しエレクトレット加工された不織布に薬剤を加工すると、電荷の状態が変化してエレクトレットの効果が薄れる恐れがあるため、エレクトレット加工前に付与することが好ましい。
【0035】
本発明におけるエアフィルターは、本発明のエアフィルター用濾材であるエレクトレット不織布の積層体をそのまま使用してもよいが、プリーツ加工して一定の空間あたりの濾過面積を多く取ることにより、見かけ上の濾過風速を下げてダストの捕集性能を向上させ、かつ長寿命になるためより好ましい。
【0036】
本発明におけるエアフィルター用濾材は少なくとも2層のエレクトレット不織布の積層によって構成されるものであるが、その製造方法としては、積層するエレクトレット不織布の層間を接着性を有する樹脂によって接着する方法であれば、各層の性能を低下させることなく、かつプリーツ加工時の相関の剥離を防止することができるため好ましい。接着剤としては、湿気効果型のウレタン樹脂であれば加熱の必要がなく熱に弱い濾材の積層に適しており、また熱融着性の樹脂としては低融点ポリエチレン系、低融点ポリアミド系、エチレン−酢酸ビニル共重合系樹脂を用いることが、操業性の面でより好ましい。また、これらの樹脂を不織布に付与する方法としては、スプレー等の機械によって樹脂を散布する方法や、不織布の上から樹脂を落下させて不織布上に落とす方法がある。また、樹脂を散布した後は熱融着性のものであれば樹脂が溶融する温度に加熱し樹脂を溶融させ、湿気効果型など熱融着性ではない樹脂であればそのままもう一方の不織布を重ね、加圧式のローラー間を通過させるなどして圧力をかけて接着させる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示すが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
[測定方法]
(1)圧力損失(ΔP)[Pa]
測定対象物であるエレクトレット不織布もしくは濾材を有効間口面積0.1cmのホルダーにセットし、面風速7.5cm/sで空気を通過させて、測定対象物上下流の差圧をデジタルマノメータMA2−04P(MODUS社製)にて測定した。
【0039】
(2)初期捕集効率(η)[%]
前記(1)圧力損失と同様の測定装置および面風速において、上流および下流の粒径0.3〜0.5μmの粒子数をパーティクルカウンター(RION社製、型式:KC−01D)で測定し、次式より算出した。
捕集効率(η)=1−(下流粒子数/上流粒子数)×100
(3)QF値
前記(1)より求めた圧力損失(ΔP)および(2)より求めた初期捕集効率(η)を用い、下記式1より算出した。
【0040】
【数3】

【0041】
(4)NaCl粒子捕集効率[%]
濾材を有効間口面積0.1cmのホルダーにセットし、NaCl粒子(粒径0.03〜0.1μm)を70mg/mの濃度で供給し、面風速10.8cm/sで空気を通過させて、前記圧力損失測定方法と同様の方法で測定した圧力損失が、初期圧損より50Pa上昇するまで粒子を負荷させた時点における上流および下流の0.01〜0.3μmの粒子数をパーティクルカウンター(LAS−AIR)で測定し、次式より算出した。
【0042】
NaCl粒子捕集効率=1−(下流粒子数/上流粒子数)×100
(5)ダスト総供給量[g/m
濾材を有効間口面積0.1cmのホルダーにセットし、JIS15種ダストを0.15g/cmの濃度で供給し、面風速10.8cm/sで空気を通過させて、前記圧力損失測定方法と同様の方法で測定した圧力損失が初期圧力損失より150Pa上昇するまでダストを負荷する。ダスト負荷後の濾材重量とダスト負荷前の濾材重量および濾材を通過したダストの重量より供給したダストの総量を算出する。
【0043】
[実施例1]
(上流側エレクトレット不織布)
原料としてポリプロピレンを使用し、メルトブロー法により平均繊維径6.5μm、目付30g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電方式において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.09であった。
【0044】
(下流側エレクトレット不織布)
原料としてポリプロピレンを使用し、メルトブロー法により平均繊維径4.5μm、目付30g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法方式において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は76.3%、QF値(B)は0.05であった。
【0045】
(エアフィルター濾材)
前記各エレクトレット不織布を湿気硬化型ウレタン樹脂にて接着し、目付が63g/m厚みが0.73mmのエアフィルター用濾材を得た。この濾材の圧損は49.8Pa、NaCl捕集効率は66.5%、ダスト総供給量は28.5g/mであった。
【0046】
[実施例2]
(上流側エレクトレット不織布)
原料として、ポリプロピレンにトリアジン系化合物であるキマソーブ2020(チバカイギー(株)製)を1重量%添加したものを使用し、メルトブロー法により平均繊維径4.5μm、目付20g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートにニードルパンチ加工にて加工した後、純水サクション法において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.72であった。
【0047】
(下流側エレクトレット不織布)
原料としてポリエステルを使用し、スパンボンド法により平均繊維径100μm、目付25g/mの不織布シートを得た。更に得られた不織布シートをコロナ放電法において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は36.1%、QF値(B)は0.01であった。
【0048】
(エアフィルター濾材)
前記各エレクトレット不織布を湿気硬化型ウレタン樹脂にて接着し、目付48g/m、厚みが0.41mmのエアフィルター用濾材を得た。この濾材の圧損は20.1Pa、NaCl捕集効率は50.7%、ダスト総供給量は35.1g/mであった。
【0049】
[実施例3]
(上流側エレクトレット不織布)
実施例1の上流側エレクトレット不織布と同様のエレクトレット不織布を使用した。
【0050】
(下流側エレクトレット不織布1)
実施例1の下流側エレクトレット不織布と同様のエレクトレット不織布を使用した。
【0051】
(下流側エレクトレット不織布2)
原料としてポリプロピレンを使用し、メルトブロー法において平均繊維径1.8μm、目付20g/mの不織布シートを得た。得られた不織布シートをコロナ放電法において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は86.5%、QF値(C)は0.03であった。
【0052】
(エアフィルター濾材)
前記上流側エレクトレットと下流側エレクトレット不織布1を湿気効果型ウレタン樹脂にて接着した後、さらにこの積層不織布の下流側と下流側エレクトレット不織布2を同様の湿気硬化型ウレタン樹脂にて接着し、目付91g/m、厚みが1.01mmのエアフィルター用濾材を得た。この濾材の圧損は98.1Pa、NaCl捕集効率は83.5%、ダスト総供給量は27.5g/mであった。
【0053】
[実施例4]
(上流側エレクトレット不織布)
原料として、ポリプロピレンにトリアジン系化合物であるキマソーブ944(チバカイギー(株)製)を1重量%添加したものを使用し、メルトブロー法により平均繊維径6.5μm、目付22g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートを純水サクション方式において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.13であった。
【0054】
(下流側エレクトレット不織布)
実施例1と同様のエレクトレット不織布を使用した。
(エアフィルター濾材)
前記上下流のエレクトレット不織布を湿気硬化型ウレタン樹脂にて接着し、目付55g/m、厚みが0.58mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の圧損は36.5Pa、NaCl粒子捕集効率は73.7%、ダスト総供給量は33.5g/mであった。
【0055】
[実施例5]
(上流側エレクトレット不織布)
実施例1と同様のポリプロピレンを原料とした繊度6dtex、繊維長51mmの短繊維をカード法によって目付30g/mの不織布状に加工し、10g/mのスチレンアクリル樹脂を含浸加工して乾燥させ目付40g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.81であった。
【0056】
(下流側エレクトレット不織布)
ポリエステルを使用し、メルトブロー法により平均繊維径1.4μm、目付15g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電方式において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は43.1%、QF値(B)は0.012であった。
【0057】
(エアフィルター濾材)
前記上下流のエレクトレット不織布を、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂にて接着し、目付が60g/m厚みが0.60mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は60.1Pa、NaCl粒子捕集効率は59.2%、ダスト総供給量は36.2g/mであった。
【0058】
[実施例6]
(上流側エレクトレット不織布)
重量比率が50/50の芯鞘構造であり芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンからなる、繊度2.2dtex、繊維長51mmの複合短繊維をエアスルー法によって目付40g/mの不織シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法によって帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は1.1であった。
【0059】
(下流側エレクトレット不織布)
実施例1と同様のエレクトレット不織布を使用した。
【0060】
(エアフィルター濾材)
前記上下流のエレクトレット不織布を、実施例5と同様の方法で接着し、目付が73g/m、厚みが0.62mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は33.5Pa、NaCl粒子捕集効率は83.3%、ダスト総供給量は36.7g/mであった。
【0061】
[実施例7]
(上流側エレクトレット不織布)
重量比率が50/50のサイドバイサイド構造であり、一方がポリプロピレン、他方が無水マレイン酸変性ポリプロピレンからなる繊度16dtex、繊維長35mmのサイドバイサイド短繊維を20重量%、実施例4と同様の芯鞘短繊維を80重量%含む繊維群をエアスルー法よって加工し目付60g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法によって帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は3.7であった。
【0062】
(下流側エレクトレット不織布)
原料としてポリプロピレンを使用し、メルトブロー法において平均繊維径4.5μm、目付37g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法により帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は80.4%、QF値(B)は0.10であった。
【0063】
(エアフィルター濾材)
上下流のエレクトレット不織布を、実施例5と同様の方法で接着し、目付が102g/m、厚みが0.75mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は40.1Pa、NaCl粒子捕集効率は85.6%、ダスト総供給量は43.8g/mであった。
【0064】
[実施例8]
(上流側エレクトレット不織布)
実施例7と同様の複合短繊維からなるエレクトレット不織布を使用した。
【0065】
(下流側エレクトレット不織布)
原料として、ポリプロピレンにトリアジン系化合物であるキマソーブ2020(チバカイギー製)を1重量%添加したものを使用し、メルトブロー法により平均繊維径6.5μm、目付22g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートに純水サクション法によって帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は62.1%、QF値(B)は0.17であった。
【0066】
(エアフィルター濾材)
上下流のエレクトレット不織布を、実施例5と同様の方法で接着し、目付が86g/m、厚みが0.65mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は18.8Pa、NaCl粒子捕集効率は77.8Pa、ダスト供給総量は45.8g/mであった。
【0067】
[比較例1]
(上流側エレクトレット不織布)
実施例7と同様の複合短繊維からなるエレクトレット不織布を使用した。
【0068】
(下流側エレクトレット不織布)
使用しなかった。
【0069】
(エアフィルター濾材)
上流側エレクトレット不織布を単体で使用した。この濾材の初期圧損は17.3Pa、NaCl捕集効率は29.8%、ダスト供給総量は46.8g/mであった。
【0070】
[比較例2]
(上流側エレクトレット不織布)
原料として、ポリプロピレンにトリアジン系化合物であるキマソーブ2020(チバカイギー製)を1重量%添加したものを使用し、メルトブロー法により平均繊維径6.5μm、目付22g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートに純水サクション法によって帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.17であった。
【0071】
(下流側エレクトレット不織布)
重量比率が50/50の芯鞘構造であり芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンからなる、繊度2.2dtex、繊維長51mmの複合短繊維をエアスルー法によって目付40g/mの不織シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法によって帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布の初期捕集効率は55.6%、QF値(B)は1.1であった。
【0072】
(エアフィルター濾材)
上下流のエレクトレット不織布を、実施例5と同様の方法で接着し、目付が65g/m、厚みが0.57mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は20.5Pa、NaCl捕集効率は44.5%、ダスト総供給量は20.1g/mであった。
【0073】
[比較例3]
(上流側エレクトレット不織布)
原料として実施例1と同様のポリプロピレンを原料とした繊度10dtex、繊維長51mmの短繊維をカード法によって目付20g/mの不織布状に加工し、10g/mのスチレンアクリル樹脂を含浸加工して乾燥させ目付40g/mの不織布シートを得た。さらに得られた不織布シートをコロナ放電法において帯電加工したエレクトレット不織布を得た。この不織布のQF値(A)は0.42であった。
【0074】
(下流側エレクトレット不織布)
前記上流側エレクトレット不織布と同様の短繊維エレクトレット不織布を使用した。この不織布の初期捕集効率は52.3%、QF値(B)は上流と同じ0.42であった。
【0075】
(エアフィルター濾材)
上下流のエレクトレット不織布を、実施例5と同様の方法で接着し、目付が43g/m、厚み0.60mmのエアフィルター用濾材を得た。この濾材の初期圧損は40.2Pa、NaCl捕集効率は30.6%、ダスト総供給量は60.2g/mであった。
【0076】
[比較例4]
(上流側エレクトレット不織布)
実施例7と同様の繊維構成・製法からなる不織布シートをエレクトレット加工せずに使用した。この不織布のQF値(A)は0.06であった。
【0077】
(下流側エレクトレット不織布)
原料としてポリエステルを使用し、スパンボンド法において平均繊維径が30μm、目付が300g/mの不織布シートを得た。この不織布シートをエレクトレット加工せずに使用した。この不織布の初期捕集効率は61.2%、QF値(B)は0.03であった。
【0078】
(エアフィルター濾材)
上下流不織布を請求項3と同様の方法で接着し、目付が350g/m、厚みが1.00mmのエアフィルター濾材を得た。この濾材の初期圧損は145Pa、NaCl捕集効率は63.4%、ダスト総供給量は11.8g/mであった。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
なお、実施例1〜8の結果を表1に、そして比較例1〜4の結果を表2にまとめて示す。
【0082】
上記から明らかなように、実施例1〜8は、風向きに対して上流側にあるエレクトレット加工された不織布の方がQF値が高くなるよう積層された状態であるため、初期圧損が低く、かつNaCl粒子のような粒径の細かいダストに対し長期間に渡り高捕集効率であり、さらにダストを捕集しても目詰まりが起こりにくいため、その間より多くのダストを捕集することができる。またこれらの特性を有するためには、上・下流側のエレクトレット不織間のQF値の関係が特定の範囲となるよう設計すること(実施例4〜8)、上流側にQF値の高い短繊維エレクトレット不織布を使用すること(実施例5〜8)、さらには下流側に高風速下における捕集効率の高いエレクトレット不織布を用いること(実施例8)が好ましいことがわかる。
【0083】
各実施例に対して比較例1は、QF値の高いがエレクトレット不織布を単層で使用しているため、使用初期においては高い捕集性能とダスト保持性を有しているが、ダスト付着によるエレクトレット効果低下後の性能低下が著しく、特に粒径の細かいダストの捕集効率を維持できないため好ましくない。
【0084】
比較例2は、風向きに対し上流側にQF値の低い濾材、下流側にQF値の高い濾材を配置しているため、ダスト捕集による上流側濾材の目詰まりが早く、下流の濾材の特性が十分に発揮される前に寿命を迎えてしまうため好ましくない。
【0085】
比較例3は、QF値の高い同一のエレクトレット不織布を積層して使用しているため、使用初期においては非常に良好な捕集性能を有するが、ダスト付着による上流側不織布のエレクトレット効果が低下した後の粒径の細かいダストの捕集効率において十分とは言えず好ましくない。
【0086】
比較例4は、エレクトレット加工をしていないため、捕集効率を上げるためには機械的捕集効率の高い、すなわち圧損が極めて高い不織布を使用せざるを得ず、初期圧損が高く、かつダスト捕集による目詰まりが早いため寿命としても十分でないため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によるエアフィルター用濾材は、主に自動車や鉄道車両などの社室内の空気を正常化するためのエアフィルターに使用される。さらにはエアコン用エアフィルター、OA機器の吸気・廃棄フィルター、ビル空調、個別空調用エアフィルター、産業用クリーンルーム用エアフィルター等のエアフィルター、家庭用空気清浄機エアフィルター濾材として好ましく利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層以上のエレクトレット不織布の積層構造からなる濾材であって、風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布の下記式より算出されるQF値(A)が、風向きに対して下流側に配置されるエレクトレット不織布の下記式1より算出されるQF値(B)よりも高いことを特徴とするエアフィルター用濾材。
【数1】

【請求項2】
QF値(A)およびQF値(B)の間に以下の関係が成立することを特徴とする請求項1に記載のエアフィルター用濾材。
2.5≦QF値(A)/QF値(B)≦70
【請求項3】
風向きに対して上流側に配置されるエレクトレット不織布がエレクトレット短繊維不織布であり、QF値(A)が1.0〜4.0であることを特徴とする請求項1または2に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項4】
風向きに対して下流側に配置されるエレクトレット不織布のQF値(B)が0.07〜0.5であり、かつ通過風速7.5cm/sにおける0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が50%以上であることを特徴とする請求項3に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエアフィルター濾材を使用してなることを特徴とするエアフィルター。
【請求項6】
少なくとも2層のエレクトレット不織布の層間に接着性樹脂を付与し、該接着性樹脂を介して不織布を重ね合わせて接着することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエアフィルター用濾材の製造方法。

【公開番号】特開2010−82596(P2010−82596A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257075(P2008−257075)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】