説明

エアフィルター

【課題】本発明は、増殖中のウィルスを不活性化する通気性基材を用いたエアフィルターを提供することを課題とする。
【解決手段】通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルターまたは通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分を含む複数の種類の天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルターであり、通気性基材中のマツから抽出した天然エキス成分の含有量が、0.01g/m以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性基材にマツから抽出された天然エキス成分が含有されたことを特徴とするエアフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアコンの普及により、窓を開けた室内空気の換気に変わり、空気清浄機を用いて室内空気を浄化する生活環境が多く見られる。
【0003】
空気清浄機のフィルターが捕集する物質には、ダニや花粉由来のアレルゲンや、カビの胞子、菌類、ウィルス類等が含まれている。これら物質は疾病の原因となることから、捕集したフィルター上で失活することが望まれている。
【0004】
アレルゲンに対する有効な手段として茶のカテキンを担持(含有)させたフィルター(例えば、特許文献1参照)や酵素を担持させたフィルター(例えば、特許文献2参照)等がエアフィルターとして開示されている。また、抗アレルゲン成分として芳香族ヒドロキシ化合物を担持させたマスク(例えば、特許文献3参照)等が開示され、フィルターとしての利用が期待されている。
【0005】
カビとウィルスに対する有効な手段として茶の抽出成分と防カビ剤を添着した素材を有するフィルター(例えば、特許文献4参照)等が開示されている。また、菌類とウィルスに対する有効な手段として、銀杏葉エキスを担持したエアフィルター(例えば、特許文献5参照)等が開示されている。
【0006】
空気清浄機のフィルターはダニや花粉等由来のアレルゲンや、カビの胞子、菌類、ウィルス類等のみならず、カビや菌類やウィルスが増殖するために必要な養分も捕集する。そのため、フィルター上でカビや菌類やウィルスが増殖してしまうことが懸念される。
【0007】
従来の技術では、捕集したウィルスを不活化できても、増殖中のウィルスに対して有効なエアフィルターの提案はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−5531号公報
【特許文献2】特開2003−210919号公報
【特許文献3】特開2003−79756号公報
【特許文献4】特開平10−315号公報
【特許文献5】国際公開第2006/011541号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、増殖中のウィルスを不活性化する通気性基材を用いたエアフィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成からなる。
(1)通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルター。
(2)通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分を含む複数の種類の天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルター。
(3)通気性基材中のマツから抽出した天然エキス成分の含有量が、0.01g/m以上である請求項1または2記載のエアフィルター。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアフィルターは、通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分を含有させて得られる。本発明のエアフィルターは、フィルター上に捕集したウィルスの増殖を抑制し、不活化できるので、エアフィルターとして有効である。さらに、抗アレルゲン性も有しており、これらは全く予想外の効果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のエアフィルターについて詳細に説明する。
【0013】
本発明において、マツから抽出された天然エキス成分とは、マツカサ、マツの葉、種子、樹皮、樹幹、実のカラ等から抽出されたエキスである。ウィルスを不活性化できるものであれば特に限定はない。次に述べるように、特に、マツカサから抽出された天然エキス成分(マツカサエキス)を好ましく用いるが、マツカサ以外の部分由来の天然エキス成分でも特に支障はない。
【0014】
中でも、マツカサエキスには他の天然物抽出エキスには見られないピノソールという生理活性物質が含まれている。ピノソールはフェニルプロペノイド重合体であり、ポリフェノール部分に糖類が結合した構造である。フェニルプロペノイド重合体部分はウィルスと直接結合して増殖を抑制する。
【0015】
マツからの天然エキス成分の抽出法には特に制限はなく、これまでに開示された方法によって得ることができる。一例を上げると、本発明にマツカサエキスを用いる場合には、マツカサを熱水抽出し、さらに、残渣中の活性物質をアルカリ水により抽出する方法が挙げられる。
【0016】
本発明のマツから抽出された天然エキス成分は、上記のようにして得られた抽出液をそのまま用いても良いし、必要に応じ、常法に従って精製、濃縮、乾燥した成分を粉体として用いても良く、さらに希釈したものを用いても良い。
【0017】
なお、上記の抽出法等により得た天然エキス成分を高速液体クロマトグラフィー等で分析すると、用いる天然エキス成分の品質確認ができる。さらに、本発明のエアフィルター中に含有されるマツから抽出された天然成分の分析にも、上記の抽出法をそのまま応用できる。すなわち、エアフィルターから抽出操作して得た液を分析することにより、エアフィルター製造後の品質確認による安定生産が可能となる。
【0018】
本発明のエアフィルターにおけるマツから抽出された天然エキス成分の含有量は、エアフィルターに使用する通気性基材に対し、好ましくは0.01g/m以上である。より好ましくは0.1g/m以上であり、さらに好ましくは1g/m以上である。この範囲の量のマツから抽出された天然エキス成分を通気性基材に含有させることにより、ウィルスの不活性化等の効果が満足な程度に得られるため、好ましい。この下限を下回ると、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0019】
本発明のエアフィルターに使用する天然エキスは、マツから抽出されたもの単独でも良いし、他のエキスを併用してもよい。併用して使用可能なエキスは、マツから抽出されたエキスの性能を阻害しないものであれば、特に限定されない。併用して使用可能なエキスとしてイチョウ、グレープフルーツ、スターフルーツ、グレープ、コーヒー、チャ、スギ、ヒノキ、ヒバ、ユーカリ、タイワンヒノキ、センダン、タケ、ササ、ゴマ、キク等の植物エキス、サケ白子、キトサン等の動物エキスが上げられる。併用して使用するエキスの含有量は、目的の性能が得られれば制限はないが、エアフィルターに使用する通気性基材に対し、好ましくは0.01g/m以上である。より好ましくは0.1g/m以上であり、さらに好ましくは1g/m以上である。このときマツから抽出された天然エキス成分の含有量は、エアフィルターに使用する通気性基材に対し、好ましくは0.01g/m以上である。より好ましくは0.1g/m以上であり、さらに好ましくは1g/m以上である。この範囲の量であれば、ウィルスの不活性化等の効果を損なうことなく、他のエキスの効果を引き出すことができる。この下限を下回ると、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0020】
次に、本発明に用いる通気性基材について説明する。本発明において、使用される通気性基材の材質に特に制限はなく、使用する装置、機器の形状に対応するものであれば良い。平面状、立体状等のいずれの形状のものを用いても良い。
【0021】
平面状のものは、その一例としてシート状のものが挙げられる。織物、編み物、不織布、紙、ネット、通気性フォーム、金属多孔質体、開孔を施したフィルム等のシート状物から適宜選択することができるが、安価で、繊維配合、目付、厚み等を制御しやすい点、穴開け加工等の後加工を行いやすい点から、不織布が好ましい基材の一つとして挙げられる。不織布の製法としてはスパンボンド法、メルトブロー法、乾式法(サーマルボンド法、レジンボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法)、湿式法等の方法から少なくとも一つの方法を選択し用いることができる。必要に応じて、これらの複数の方法を組み合わせることができる。
【0022】
本発明で用いる通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分を含有(担持)させる方法としては、天然エキス成分を通気性基材表面にできるだけ均一に含有させることができる方法であれば特に制限はなく、溶液あるいは分散液として、通気性基材に塗工、含浸またはスプレー等の方法によって付与し、溶媒や分散媒を乾燥等の方法で除去し、天然エキス成分を担持させる方法が例示される。溶液あるいは分散液の溶媒としては、天然エキス成分の抽出に用いる各種溶媒等が挙げられる。また、基材の原料となる樹脂や金属等に練り混み等の手段によって担持させる方法も挙げられる。また、上記の方法以外に、湿式法における内添のように、原料繊維をシート化する過程で、天然エキス成分を内添担持させる方法も挙げられる。
【0023】
マツから抽出した天然エキス成分の基材への固着を強固にする場合、他の成分との併用や着色等により製品の外観を向上させる場合等には、マツから抽出した天然エキス成分による効果を阻害しない範囲において、少量のバインダー(接着剤)を用いることは好ましい方法の一つである。水性バインダーについて具体例を挙げる。水溶性のものとしては、例えば、ポリビニルアルコールやデンプン等が挙げられる。また、水分散性のものとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンラテックス等が挙げられる。
【0024】
また、必要に応じて、マツから抽出した天然エキス成分の基材への担持をより安定にし、ウィルス不活化等の効果をより長時間一定して持続させ、かつ、エキス臭を緩和するため、多孔質の粉末(例えば、活性炭やゼオライトの粉末等)を通気性基材中に含有させてもよい。
【0025】
また、これらのマツから抽出した天然エキス成分を担持させたシートと他のシートを貼り合わせ等の方法で複合化したものも、平面状の基材として好ましい材料の一つである。
【0026】
本発明で用いる通気性基材の他形状としては立体形状のものがあり、ハニカム状、コルゲート状、プリーツ状のものが例示される。これらの基材を構成するための素材としては、先に挙げたシート状物を加工する他に、通気性に乏しいポリオレフィンやポリエステル等のプラスチックシート、アルミや銅等の金属板、厚紙等であってもよい。
【0027】
立体形状への加工前の段階で付与する方法の他に、立体形とした後、スプレー等の方法で付与する方法も好ましい。
【0028】
なお、必要に応じて、本発明の趣旨を逸脱せず、他の性能を付加する目的において、脱臭、抗菌、防黴、より一層の抗ウィルス、防虫、殺虫、消臭、芳香、感温、保温、蓄温、蓄熱、発熱、吸熱、防水、耐水、撥水、疎水、親水、除湿、調湿、吸湿、撥油、親油、油等の吸着、および水や揮発性薬剤等の蒸散または徐放等の各種機能を新たに付加したものでも良い。
【0029】
本発明において、エアフィルターに、ウィルスを不活性化する機能の他、先述したように通気性基材に脱臭機能、除塵機能、耐微生物機能、芳香付加機能、マイナスイオン付加機能の少なくとも1つの機能を付加させることも好ましい。
【0030】
本発明のエアフィルターは、空調機、空気清浄機、掃除機、除湿機、乾燥機、加湿機、換気扇、扇風機、熱交換装置等の、機械による強制給排気による空気処理装置に装着使用することでウィルスの不活化等の好ましい効果が得られる。あるいは、自然給排気のための外気流入口(通気口や窓等)に本発明のエアフィルターを用いてもよい。空気清浄機等の場合、脱臭、除塵等の要求される機能をそれぞれの機能を持ったフィルターの併用によって得てもよい。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本実施例に限定されるものではない。
【0032】
(マツカサエキス)
五葉松のマツカサ500gをウィレーミルで粉砕し、パウダーを得た。このマツカサパウダーを、5Lの熱水で5時間の煮沸還流を行い、残渣を回収した。得られた残渣を、60℃の4質量%の水酸化ナトリウム水溶液で5時間の抽出を行い、抽出液を回収した。抽出液に酢酸を加えpH5に調整し、固形物を析出させた。抽出液を減圧濃縮し、遠心分離により析出物を25g回収した。得られた析出物25gとデキストリン25gを熱水100gに溶解した後に、溶解液を噴霧乾燥し、マツカサパウダー50gを得た。マツカサパウダー中にマツカサエキスは50質量%含有される。以下の各実施例に用いる場合は、必要量を得るまで上記操作を繰り返した。マツカサパウダーを水に質量比で5:95になるよう溶解し、実施例で用いるマツカサエキス水溶液を調製した。マツカサエキス水溶液中にマツカサエキスは2.5質量%含有される。
【0033】
(実施例1〜5)
通気性基材として、40g/mのポリエステルスパンボンド不織布を用い、該不織布に上記のマツカサエキス溶液をスプレー法にて均一塗布し、120℃で乾燥することにより、実施例のエアフィルターを作製した。なお、マツカサエキスの塗布量は、乾燥したマツカサエキス含有量として10g/m(実施例1)、1g/m(実施例2)、0.1g/m(実施例3)、0.01g/m(実施例4)、0.001g/m(実施例5)の5水準とした。
【0034】
(銀杏葉エキス)
銀杏の乾燥葉1kgに、エタノールおよび精製水の混合液(容積比1:1)8kgを加え、7時間攪拌抽出した。固形物を濾過した後、濾液を60℃以下で全量が約10分の1の容量になるまで減圧濃縮し、酢酸エチル0.5kgを加えて十分に攪拌した後、静置・分液して下層部を得た。その下層部を減圧濃縮し、褐色の粘稠物を得た。該粘稠物を約30倍のプロピレングリコールおよび精製水の混合液(容積比8:2)に溶解し、微量の不溶物を濾紙濾過し、8gの銀杏葉エキス溶液を得た。本品1gは、乾燥した銀杏葉エキス0.1gに相当する。以下の各実施例に用いる場合は、必要量を得るまで上記操作を繰り返した。
【0035】
(実施例6〜10)
通気性基材として、40g/mのポリエステルスパンボンド不織布を用い、該不織布に上記のマツカサエキスと銀杏葉エキスの混合溶液をスプレー法にて均一塗布し、120℃で乾燥することにより、実施例のエアフィルターを作製した。なお、マツカサエキスの塗布量は、乾燥したマツカサエキス含有量として10g/m(実施例6)、1g/m(実施例7)、0.1g/m(実施例8)、0.01g/m(実施例9)、0.001g/m(実施例10)の5水準であり、銀杏葉エキスの含有量は、乾燥した銀杏葉エキス含有量として、実施例6〜10のいずれも1g/mである。
【0036】
(比較例1)
実施例のポリエステルスパンボンド不織布を比較例1のエアフィルターとした。
【0037】
(比較例2および3)
実施例1および2で用いたマツカサエキス溶液に替えて、銀杏葉エキス溶液を用いた以外は、実施例1および2と同様の方法により、比較例2および3のエアフィルターを作製した。(実施例1と比較例2、実施例2と比較例3の天然エキス成分の含有量がそれぞれ対応している。)
【0038】
以上、実施例1〜10のエアフィルター、比較例1〜3のエアフィルターを下記の性能試験に従って評価し、その結果を表1に示した。なお、下記各試験は、25℃、50%RH(相対湿度)の条件で行った。
【0039】
[ウィルス不活性化試験]
実施例1〜10および比較例1〜3で得たエアフィルターをそれぞれ3cm×3cmの大きさに裁断して検体とし、個々に試験した。検体に、インフルエンザウィルス浮遊液を滴下し、室温にて保存し、24時間後のウィルス感染価を測定した。詳細は以下の通りである。
【0040】
1.試験ウィルス
インフルエンザウィルスA型(H1N1)を使用した。
【0041】
2.使用細胞
MDCK(NBL−2)細胞ATCC CCL−34株(大日本製薬社製)を使用した。
【0042】
3.使用培地
3−1.細胞増殖培地
Eagle MEM(0.06mg/mlカナマイシン含有)に新生コウシ血清を10質量%加えたものを使用した。
【0043】
3−2.細胞維持培地
Eagle MEM=1000ml、10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液=34ml、L−グルタミン(30g/l)=9.8ml、100×MEM用ビタミン液=30ml、10質量%−アルブミン=20ml、トリプシン(5mg/ml)=2mlの組成の培地を使用した。
【0044】
4.ウィルス浮遊菌の調整
4−1.細胞の培養
細胞増殖培地を用い、MDCK細胞を組織培養フラスコ内に単層培養した。
【0045】
4−2.ウィルスの培養
4−2−1.低感染量試験用ウィルスの培養
単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウィルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて37℃の炭酸ガスインキュベーター(炭酸ガス濃度:5質量%)内で2〜5日間培養した。
【0046】
4−2−1.高感染量試験用ウィルスの培養
単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウィルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて37℃の炭酸ガスインキュベーター(炭酸ガス濃度:5質量%)内で5〜7日間培養した。
【0047】
4−3.ウィルス浮遊液の調製
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を遠心分離(3000rpm×10分間)し、得られた上澄み液をウィルス浮遊液とした。
【0048】
5.試料の調製
実施例1〜10および比較例1〜3で得たエアフィルターをそれぞれ3cm×3cmの大きさに裁断した検体を湿熱滅菌(121℃×15分間)したものを試料とした。
【0049】
6.試験操作
試料にウィルス浮遊液0.2mlを滴下し、室温にて保存した。また、プラスチックシャーレを対照試料として、同様に試験した。
【0050】
7.ウィルスの洗い出し
24時間保存した後、試料中のウィルス浮遊液を細胞維持培地2mlで洗い出した。
【0051】
8.ウィルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、MDCK細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除き細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、洗い出し液およびその希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃の炭酸ガスインキュベーター(炭酸ガス濃度:5質量%)内で4〜7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して洗い出し液1ml当たりのウィルス感染価に換算した。ウィルス接種直後(対照)および24時間保存後(試料)の洗い出し液1ml当たりのTCID50の対数値(logTCID50/ml)を比較し、ウィルス不活性化性能の指標とした。なお、logTCID50/ml<1.5を検出限界とした。
【0052】
9.増殖中のウィルスに対する効果
ウィルス感染量の異なる試験系、つまり低感染量および高感染量の両者においてウィルスの不活化が確認された場合、増殖中のウィルスを不活化すると判断した。
【0053】
[アレルゲン不活性化試験]
1.試薬の調製
1−1.アレルゲン溶液の調製
精製ダニアレルゲンrDerf2(生化学工業社製)をPBS(−)に溶解し、試験用アレルゲン溶液として500ng/mlとなるように調製した。
【0054】
1−2.抗体溶液の調製
抗rDerf2モノクローナル抗体15E11(生化学工業社製)を2μg/mlの濃度となるようにPBS(−)で希釈した。
【0055】
1−3.標識抗体溶液の調製
西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗rDerf2モノクローナル抗体13A4PO(生化学工業社製)をPBS−Tで5000倍希釈した。PBS−Tについては、0.5gのTween20を1000mlのPBS(−)に溶解して使用した。
【0056】
1−4.1%−BSA−PBS(−)の調製
0.2gのBSAを20mlのPBS(−)に溶解して使用した。
【0057】
1−5.0.3mg/ml−ABTS(基質溶液)の調製
3mgのABTSを10mlの0.3M−Citrate buffer(pH4.0)で溶解し、これに10μlの30質量%過酸化水素を添加して使用した。
【0058】
2.試験方法
本試験方法はエアフィルター上で捕捉したアレルゲンが不活性化されることの確認試験である。
【0059】
2−1.概要
実施例1〜10および比較例1〜3で得たエアフィルターをそれぞれ2mm×4mmの大きさに裁断し検体とし個々に試験した。検体を48ウェルプレートの底に置き、1ウェル当たり300μlのアレルゲン溶液(500ng/ml)を添加し、室温で2時間静置した。静置後、50μlを採取し、その中に存在するアレルゲン濃度をサンドイッチELISA法により定量した。サンドイッチELISA法の詳細は以下の通りである。
【0060】
2−2.サンドイッチELISA法
(1)コーティング溶液(抗体溶液、2μg/ml)50μlをELISAプレートの各ウェルに添加し、4℃で一晩静置した。
(2)コーティング溶液を除去し、300μlのPBS(−)で3回洗浄後、200μlの1%−BSA−PBS(−)を添加し、室温で1時間静置した。
(3)ELISAプレートを300μlのPBS−Tで3回洗浄後、検体と2時間接触させたアレルゲン溶液50μlを採取して添加し、室温で2時間静置した。
(4)ELISAプレートを300μlのPBS−Tで3回洗浄後、標識抗体溶液を50μl添加して、室温で2時間静置した。
(5)ELISAプレートを300μlのPBS−Tで3回洗浄後、100μlの0.3mg/ml−ABTSを添加して室温で発色させ、20〜30分反応後にミキシングさせ、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
(6)吸光度より検体接触させたアレルゲン溶液中の精製ダニアレルゲンrDerf2濃度(Ang/ml)を算出し、当該算出値と初期のアレルゲン溶液中の精製ダニアレルゲンrDer2濃度(500ng/ml)とを比較することにより、アレルゲン除去率(%;100×(500−A)/500)を求めた。
【0061】
【表1】

【0062】
以上から、本発明のエアフィルターは、基材に接種したウィルスを不活化できることが確認できた。特に、本発明のエアフィルターは、ウィルス感染量の異なる試験系、つまり低感染量および高感染量の両者において、ウィルスの不活化が確認され、増殖中のウィルスを不活化できることが確認できた。さらに、抗アレルゲン性も有しており、これらは全く予想外の効果である。
【0063】
マツカサエキスと銀杏葉エキスの両方を基材に含有させることで、マツカサエキスの塗布量が少なくても、増殖中のウィルス不活化と抗アレルゲン性を有するフィルター基材を提供できる。また、銀杏葉エキスを添加しても、マツカサエキスのウィルス不活化の性能が阻害されることはなかった。
【0064】
マツカサエキスの含有量が0.01g/m以上であると、増殖中のウィルスを不活化できる効果がより得られるため、好ましい。
【0065】
一方、実施例1と比較例2との比較および実施例2と比較例3との比較から、銀杏葉エキスのみを塗布した場合、高感染量における増殖中のウィルス不活化の効果は十分ではなかった。マツから抽出した天然エキス成分特有の成分が極めて有効に作用した結果、当該差異が生じたものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のエアフィルターは、捕集したウィルスを不活性化し、さらには増殖を抑えることができる。抗アレルゲン性も具備しており、空調機、空気清浄機、掃除機、除湿機、乾燥機、加湿機、換気扇、熱交換装置等の各種空気処理装置のエアフィルターに利用できる。また、加湿機の加湿エレメント、水回りの除菌剤、あるいはマスク、ウェットワイパー、フロアワイパーにも利用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルター。
【請求項2】
通気性基材にマツから抽出した天然エキス成分を含む複数の種類の天然エキス成分が含有されてなることを特徴とするエアフィルター。
【請求項3】
通気性基材中のマツから抽出した天然エキス成分の含有量が、0.01g/m以上である請求項1または2記載のエアフィルター。

【公開番号】特開2013−56038(P2013−56038A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196185(P2011−196185)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】