説明

エアフィルタ用帯電不織布およびエアフィルタ

【課題】エアフィルタ用支持体として主に用いられ、エアフィルタの捕集効率の向上と圧損及び寿命の向上を両立させる帯電不織布を提供する。
【解決手段】不織布(A)を構成する繊維の表面に、粒子径が4〜200nmのシリカ微粒子(B)を坦持させ、エレクトレット処理を施してなる帯電不織布、特に、エアフィルタの支持体として用いられることを特徴とする帯電不織布及びこれを用いたエアフィルタなど。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浄化のためのエアフィルタ(以後単に「エアフィルタ」ともいう)に使用される帯電不織布およびエアフィルタに関し、より詳細には、エアフィルタ用支持体として主に用いられ、捕集効率と寿命の向上に資する帯電不織布およびこれを用いたエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気浄化用としてのエアフィルタは、主としてダストの濾過性能を担うフィルタ濾材(以後単に「フィルタ濾材」という)と、それを補強または支持する支持体(以後単に「支持体」という)とが複合したものが使用されている。
本明細書においても、エアフィルタとは、これを構成するフィルタ濾材及び支持体を複合・貼合したもの、又は、これをプリーツ加工などにより一定面積の枠内に固定してユニット化したものをいい、こうしたエアフィルタは、ビルオフィス、工場、家庭、車両内の居住域の空気浄化のために着脱交換できる形で使用される。
【0003】
従来から、フィルタ濾材としては、ポリプロピレン極細繊維が集積されてなるメルトブロー不織布が用いられ、このフィルタ濾材には、エレクトレット処理によって積極的に分極荷電させてダスト捕集に利用するタイプのものが使われている。しかしながら、このようなフィルタ濾材は、極細繊維で構成されているために強度や剛性が低いので、このフィルタ濾材を補強するために、支持体を用いるのが一般的である。その支持体は、フィルタ濾材をプリーツ状に加工して濾過面積を増やすための保形機能を担い、また、通風圧による変形を防止する機能を有する。
従って、支持体には、剛性(いわゆる「腰」)のあるネット、編織物又は不織布等が用いられている。その中でも、不織布は、ネットや編織物に比べて厚みや剛性の設計・調整が容易であるため、プリーツ性に優れ、また、通気性を容易に設計変更することができるため、広く用いられている。その不織布としては、剛性や引張強度、厚みなどの物理的性質を付与するため、繊維に“腰”のある太めの短繊維が用いられ、中でもポリエステル短繊維、レーヨン短繊維、ビニロン短繊維などを単独使用又は併用した乾式法不織布または湿式法不織布が使用されている。また、ポリプロピレンやポリエステルを素材とするスパンボンド法不織布も使用されている。
【0004】
上記のようなフィルタ濾材と支持体との複合により形成されるエアフィルタに関しては、近年、花粉、車両や工場からの排気塵、ハウスダスト、大気塵、黄砂など多様なダストを効率良く捕集し、かつ、集塵機の吸排気ブロアにかかる負荷の少ない低圧損のものがますます要求されるようになった。殊に後者については、モーター負荷容量や騒音の増大に伴う通風量の制約を受けるので、低圧損の要求は、ますます増大している。
一方、フィルタ濾材の捕集効率(ダストの濾過性能を意味して、以下「捕集効率」ともいう)を高めることは、圧損の増加を伴うのが通例である。すなわち、一方的な捕集効率の向上は、圧損の増大を招くのみならず、捕集ダストの早期目詰まりを伴うため、フィルタ濾材の寿命を短くさせる。このように、捕集効率の向上と圧損低減及び寿命の向上は相反する方向にあり、両立させることが難しく、これがエアフィルタの技術課題になっている。
【0005】
ここで、フィルタ濾材としての不織布に関しては、その捕集効率を向上させる発明が散見されるが、それらはフィルタ濾材単独の濾過性能向上に関するものであり、支持体と複合した最終製品形態としてのエアフィルタの性能には言及されていないのが実情である。
また、支持体としての不織布に関しては、難燃性を付与するために難燃剤を含有する繊維よりなるものが用いられたり、あるいは、不織布に後加工で難燃剤を添着させたものを用いることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
さらに、支持体の薄さ、硬さ特性を維持しつつ、低圧力損失と長寿命とを達成し得るフィルタ補強用不織布を提供するために、繊維直径25〜50μmの熱可塑性繊維からなる不織布であって、不織布の厚さ1mm当たりの圧力損失が風速10cm/sのもとで0.8mmAq以下であることを特徴とするものが提案されている(特許文献2参照。)。
また、近年では、難燃性に優れるエアフィルタ材用支持体を提供するために、鞘部が低融点重合体で、芯部が高融点重合体で形成されている芯鞘型複合短繊維を構成繊維とする不織布よりなるエアフィルタ材用補強材であって、該短繊維不織布中に該低融点重合体は30質量%以上含有されており、かつ、該芯鞘型複合短繊維相互間は絡合されていると共に、該低融点重合体の融着によって結合されていることを特徴とするものが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、上記提案されたものは、支持体としての強度又は難燃性能の課題についてであり、支持体そのものがフィルタの濾過性能(特にダスト捕集効率やフィルタ寿命)の向上に資するというものではない。
【特許文献1】特開平8−281030号公報
【特許文献2】特開平8−276111号公報
【特許文献3】特開2006−233358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、高い捕集効率及びその長期持続性を有する帯電不織布をエアフィルタの支持体として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、仮に、支持体に効果的なエレクトレット処理(すなわち帯電処理)が可能ならば、支持体本来の性能である保形機能に加えて濾過機能が付与されることになり、積層する他方のフィルタ濾材の濾過性能と重畳して、一段とエアフィルタの性能が向上すること、また、エアフィルタの捕集効率への要求レベルによっては、支持体そのものがフィルタ濾材になることに想到し、種々の試みを行ったが、支持体に高いフィルタ濾過機能を付与するためのエレクトレット処理による帯電効果に持続性が乏しいことが問題点となることがわかってきた。これは、支持体を構成する不織布の繊維素材自体(例えば、ポリエステル繊維素材)が電荷を保持しにくいことや、短繊維における親水性の油剤の存在、あるいは、繊維表面の加水分解や吸湿などにより繊維表面の電荷が散逸するなど、様々な原因があると考えられている。
そのため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、支持体として用いられる比較的剛性の高い不織布基材に、ある特定の微粒子を表面に固着させることによって、支持体本来の補強機能に加えて、エレクトレット処理によって付与される帯電効果を長期に渉り持続させることができることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、不織布(A)を構成する繊維の表面に、粒子径が4〜200nmのシリカ微粒子(B)を坦持させ、エレクトレット処理を施してなるエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、シリカ微粒子(B)の坦持量は、担持不織布全量に対し、0.4〜3重量%であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
【0009】
本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、エアフィルタ用支持体として用いられることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、不織布(A)を構成する繊維は、平均繊度が0.5〜33dtexであって、ポリオレフィン短繊維、ポリオレフィン複合短繊維、ポリエステル短繊維又はポリエステル/ポリオレフィン複合短繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、不織布(A)は、ポリエステル又はポリプロピレンの連続繊維からなるスパンボンド法不織布であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
【0010】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係るエアフィルタ用帯電不織布に、エレクトレット処理を施したポリオレフィンを素材とする連続繊維からなる不織布(C)をフィルタ濾材として積層・貼合することを特徴とするエアフィルタが提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、不織布(C)は、平均繊維径が0.5〜10μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布又は平均繊維径が10〜20μmの連続繊維からなるスパンボンド法不織布から選ばれる不織布であることを特徴とするエアフィルタが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアフィルタ用帯電不織布を支持体として、これにフィルタ濾材を組み合わせたエアフィルタは、上述のような構成により、全層にわたり有効なエレクトレット処理が施される。従って、フィルタ濾材の濾過性能(捕集効率)に加えて、支持体の濾過性能が重畳するため、エアフィルタ全体として、より高いダストの捕集効率が達成されるのみならず、支持体の帯電効果の持続によって、エアフィルタ全体の経時的な帯電減衰を低減することが可能となる。また、支持体の持つダスト捕集能力によって、フィルタ濾材層におけるダストの一方的な蓄積(すなわち目詰まり)が軽減されるので、エアフィルタの使用寿命の向上を図ることができるという効果を奏する。そのため、長期に安定したフィルタ品質を求められる自動車用キャビンフィルタ、工場、ビル空調や家庭居住空間の空気浄化のためのエアフィルタなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のエアフィルタ用帯電不織布は、不織布(A)を構成する繊維の表面に、粒子径が4〜200nmのシリカ微粒子(B)を坦持させ、エレクトレット処理を施してなるものである。また、この帯電不織布を支持体とし、これにフィルタ濾材としての不織布(C)とを貼り合わせて複合帯電不織布からなるエアフィルタとするものである。
以下に項目毎に詳細に説明する。
【0013】
1.不織布(A)
本発明において、シリカ微粒子(B)を坦持する不織布(A)の繊維は、平均繊度が0.5〜33dtexであって、ポリオレフィン短繊維、ポリオレフィン複合短繊維、ポリエステル短繊維又はポリエステル/ポリオレフィン複合短繊維などの各種短繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ここで挙げる複合短繊維の代表例として、芯はポリエステル、鞘がポリプロピレン又はポリエチレンからなる芯鞘複合繊維、又は、芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレンである芯鞘複合繊維が使用される。これらの繊維は、単独または複数種の組み合わせで使用される。また、低融点ポリエステル短繊維をバインダ繊維として、これらの短繊維又は芯鞘複合短繊維と混合して使用することができる。
【0014】
上記ポリオレフィン短繊維としては、平均繊度が0.5〜33dtexであれば特に限定されないが、好ましくは2.2〜17dtex、さらに好ましくは4.4〜17dtexである。繊度が0.5dtex未満の場合、不織布密度が上昇して通気抵抗が高くなり、フィルタ用途としては不適となり、一方、繊度が33dtexを超えると、空隙が大きくなり、好ましくない。また、ポリオレフィンの複合短繊維としては、芯:ポリプロピレン/鞘:ポリエチレンの芯鞘繊維が使用できる。
【0015】
また、上記ポリエステル短繊維としては、平均繊度が0.5〜33dtexであれば、特に限定されない。通常、不織布を構成する繊維材料として用いられるポリエステルであればよく、例えば、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート(PET)、主たる繰り返し単位がブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレ−トや、主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートであるポリトリメチレンテレフタレートを主体とする繊維、酸成分としてイソフタル酸等を共重合した低融点ポリエステル繊維、又はハードセグメントとソフトセグメントを有するブロック共重合ポリエステル繊維などが挙げられる。また、このポリエステル短繊維にりん系化合物を配合した難燃化された短繊維であってもよい。
【0016】
また、ポリエステル/ポリオレフィン複合短繊維としては、平均繊度が0.5〜33dtexであれば、特に限定されない。通常、不織布を構成する繊維材料として用いられている、芯:ポリエステル/鞘:ポリエチレンまたはポリプロピレンの芯鞘繊維が好ましい。
【0017】
これらの上記短繊維を不織布化する方法として、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、エアレイド法、湿式法などの不織布製法が用いられる。
本発明においては、効果的なエレクトレット処理を行うという観点からは、樹脂バインダを使用しない上記不織布製法が好ましい。
なお、本発明においては、短繊維の平均繊度0.5〜33dtexは、上記の不織布製法に適用できる範囲のものであり、また、異なる繊度の短繊維を複数組み合わせてもよい。
短繊維不織布による支持体としての目付重量は、特に限定されないが、40〜200g/mの範囲が好適である。
【0018】
また、シリカ微粒子(B)を担持する不織布(A)としては、ポリエステルまたはポリプロピレン連続繊維からなるスパンボンド法不織布を適用することも可能である。なお、スパンボンド法不織布には、SMS又はSMMS不織布と称するポリプロピレン製スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド複合不織布も含まれる。
【0019】
2.シリカ微粒子(B)
本発明に係るシリカ微粒子(B)は、水に懸濁したコロイダルシリカを一旦不織布(A)に含浸、スプレーなどにより付着させたあと、その繊維の融点以下にて乾燥させて繊維表面に坦持させたものであり、そののち当該不織布(A)にエレクトレット処理を施すものである。
また、エレクトレット処理により効果的な帯電を付与するためには、シリカの粒子径は4〜200nmである必要がある。好ましくはシリカの粒子径が10〜100nmの範囲であり、さらに好ましくはシリカの粒子径が40〜70nmの範囲である。
この粒子径が4nm未満であっても、また、200nmを超えても、良好な帯電効果が得られない。このことを次の表1の実験データ(シリカ微粒子の粒子径に対する帯電保持率の変化)に基づき説明する。
【0020】
【表1】

【0021】
上記表1は、繊維表面に坦持させるシリカ微粒子の粒子径と帯電保持性との関係を示すものである。ここでは粒子径の異なるコロイダルシリカをポリエステルスパンボンド不織布(目付重量50g/m)の繊維表面に、1重量%(乾燥重量)添着・坦持させ、その不織布試験片に10kVの電圧を印加し、印加後1分毎に不織布の帯電圧を測定し、印加直後の初期帯電圧に対する保持率(%)を求めた。なお、印加直後の不織布の初期帯電圧を測定したところ、いずれも4kVであった。
帯電圧保持率(%)=100 × (初期帯電圧―測定帯電圧)/初期帯電圧
【0022】
この帯電圧保持率の経時変化を表1及び図1に示す。また、帯電圧が半減する時間(半減期)も求めた。その結果、粒子径が4nm未満では、帯電の保持効果(持続性)が小さく、一方、100nmより大きくなっても、同様に保持効果が小さい。その最も好適な範囲は40〜50nm前後とみられる。
【0023】
次に、シリカ微粒子の坦持量の影響について調べると、次の表2(シリカ微粒子の坦持量に対する帯電圧保持率の変化及び帯電圧の半減期)と、図2のようになり、担持不織布全量に対し0.4重量%未満及び3重量%超では、帯電圧の持続効果が小さいことが見出されている。効果的な坦持量は、表2および図2より、1重量%近辺である。
【0024】
【表2】

【0025】
上記のシリカ微粒子と帯電圧の関係から、シリカ微粒子の大きさは、粒子径が4〜200nmの範囲が好ましく、また、繊維への坦持量は、0.4〜3重量%の範囲、特に好ましくは0.5〜1重量%から選ぶことが望ましい。
【0026】
次に、上記のシリカ微粒子などの無機系微粒子を不織布に坦持させる方法を説明する。
無機系微粒子としては、シリカ微粒子が水中にコロイド状に懸濁したコロイダルシリカが好ましく、無機系微粒子を不織布に坦持させる方法としては、このコロイダルシリカを水で希釈し、適宜、懸濁濃度を調整したのち、前記不織布に含浸、スプレー、コーティングなどの方法で添着し、乾燥したのち、エレクトレット処理を施すものである。通常、不織布はロール巻きされた連続長尺物であり、これらの添着、乾燥処理及びエレクトレット処理は、各々、独立又は連結した工程にて、実施される。
【0027】
3.エアフィルタ用帯電不織布
本発明の、シリカ微粒子を坦持処理した帯電不織布は、未処理の不織布に比べて、極めて特異な帯電性能、ひいてはフィルタ性能を発揮する。
その具体的な態様は、後述の実施例と比較例にて詳述するが、その特性は、(i)ダスト捕集効率及びその持続性の向上、及び(ii)従来から課題とされてきたポリエステル不織布のダスト捕集効率及びその持続性の向上の2点が特徴的である。
【0028】
上記のことを示すために行ったフィルタ効率測定試験において、帯電処理後の効率の経時変化は、表3のようである。
すなわち、表3に挙げた4種類の不織布基材について、エレクトレット処理(帯電処理)を行うと、シリカ微粒子を坦持したものとしないものとでは、明らかに捕集効率及びその経時変化に差を生じている。全体に共通して言えることは、シリカ坦持した不織布の方が未帯電処理から帯電処理への捕集効率の上昇が大きく、更に特徴的には、経時下での捕集効率の低下が少ないということが顕著に示される。
また、ポリエステル繊維の場合、その帯電荷が散逸しやすいためにエレクトレット処理の効果が出ない素材であるが、シリカ微粒子を坦持すると、エレクトレットの効果が持続することが表3に示す結果(PET/熱融着PETの例)によって明らかである。
【0029】
【表3】

【0030】
4.不織布(C)
上記のような特性を持つ帯電不織布は、ダストの捕集能力を長期に亘って持続するので、これを他のフィルタ濾材としての不織布(C)への支持体として組み合わせることにより、高度の濾過性能を持つエアフィルタ製品とすることができる。ここで、フィルタ濾材としての不織布(C)とは、当該帯電支持体不織布よりも細い繊維で構成される不織布を指し、その具体例としては、0.5〜10μmの繊維径の連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布が挙げられる。または10〜20μmの繊維径の連続繊維で構成されるポリプロピレン製スパンボンド法不織布などが挙げられる。
【0031】
これらのフィルタ濾材としての不織布(C)は、高精度濾過を目的として、別途エレクトレット処理を施したものであり、当該のエレクトレット処理した支持体不織布と積層・貼合して使用される。または、これらのフィルタ濾材と支持体は、積層・貼合の後に一括してエレクトレット処理を施すこともできる。
このようにして作られた複合不織布からなるエアフィルタの使い方として、支持体不織布を空気流路の上流側に、そしてフィルタ濾材不織布を下流側になるようにすれば、前者が後者の支持・補強のみならずプレフィルタの役目をなし、両者の帯電の相乗効果によって、捕集効率の高度化と長期にわたるフィルタ性能の持続を実現することができる。
【0032】
よって、その好ましい態様は、支持体となる前記シリカ微粒子を坦持させ、帯電させた不織布(A)と、フィルタ濾材である不織布(C)としての平均繊維径が0.5〜10μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布又は平均繊維径が10〜20μmの連続繊維からなるスパンボンド法不織布とを、積層・貼合してなる「複合帯電不織布」をエアフィルタとするものである。
この場合、上述のフィルタ濾材としての不織布(C)についても、目指すフィルタ性能に応じて、支持体と同様に適宜シリカ微粒子を坦持処理してもよい。
また、積層する当該支持体並びにフィルタ濾材としての不織布(C)は、それぞれ別個にエレクトレット処理されてから貼合してもよく、または両者を貼合の後、エレクトレット処理を施してもよい。
【0033】
次に、フィルタ濾材としての不織布(C)に、本発明の支持体不織布を貼り合せる方法において、ホットメルト接着剤、湿気硬化接着剤の使用や超音波接着などを使用でき、接着剤の塗布方法としては、パウダー散布法、スプレー塗布法、ビート塗布法、または溶融した接着剤を気流中に連続的に吐出して繊維状として散布する方法などいずれの方法でもよい。
特に、上述のスプレー塗布法、ビート塗布法、繊維状接着剤を散布する方法において湿気硬化接着剤を使用すると、貼り合わせ加工前後の不織布基材の加熱が不要となり、付加されている帯電の損耗が少なく、また少量の接着剤の使用でも積層・貼合層間が剥離することなく保持されるので接着部分での通気遮断が小さく好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた試験方法は、以下の通りである。
(1)帯電保持性:
電荷減衰度測定装置(シシド静電気株式会社製)を用い、不織布基材に10kVの電圧を印加し、印加後1分毎に帯電圧を測定し、初期の帯電圧が半減するまでの時間(半減期)を帯電保持性の評価とした。なお、印加直後の不織布の初期帯電圧は4kVであった。
また、初期の帯電圧から7日後の帯電圧を測定し、その帯電圧の減衰率を求め、これも帯電保持性の評価に用いた。
帯電減衰率(%)=100×(初期の帯電圧―7日後の帯電圧)/初期の帯電圧
【0035】
(2)捕集効率、捕集効率の低下率:
市販されているフィルタ試験機TSI8130を用い、ダストとして平均粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集率を測定した。その測定条件は、開口面積100cmの導風路に測定試料を設置し、32L/分のNaClダストを含む空気を通過させて、試料通過前後のダスト捕集量の計測値をもとに捕集率(%)が計測される。また、測定試料にエレクトレット処理を施す場合には、帯電付加装置によって、高圧電源より−20kVの電圧を印加して電荷を与え、帯電初期の捕集効率を測定するとともに7日後の捕集効率を測定し、その低下率を算出した。
低下率(%)=100×(初期の捕集効率―7日後の捕集効率)/初期の捕集効率
【0036】
(3)不織布の目付け重量:
試料長さ方向より、100×100mmの試験片を採取し、水分平衡状態の重さを測定し、1m当たりに換算して求めた。
【0037】
[実施例1及び比較例1〜3]
実施例1は、ポリエステルスパンボンド不織布(平均繊維径15μm)を不織布(A)とし、粒子径が40〜50nmのコロイダルシリカ微粒子を含浸添着と乾燥を経て、当該不織布99重量%に対して、1重量%坦持するよう調製した。
このシリカ坦持不織布にエレクトレット処理を施し、帯電不織布を得て、フィルタ試験機にて捕集効率を測定した。
その帯電特性を未帯電、帯電直後及び7日後(168時間)後の捕集効率を観察することによって評価し、その評価結果を表4に示す。
【0038】
この実施例1の対比として、シリカ微粒子を坦持しない例(比較例1)、粒子径が1〜3nmのシリカ微粒子(比較例2)および100〜200nmのシリカ微粒子(比較例3)を坦持させた例を、比較例1〜3とし、その評価結果を表5に示す。
これらの対比で、実施例1は、明らかに、帯電の半減期が長く、且つ、捕集効率の経時の低下が少なく、帯電性能が良好に保持されていることが示される。
【0039】
[実施例2及び比較例4〜6]
実施例2は、不織布(A)として、繊度2.2dtex、芯がポリエステル、鞘がポリエチレンの芯鞘複合短繊維で構成するサーマルボンド(TB)法不織布を用い、実施例1と同様の方法にて帯電不織布を得て、フィルタ性能を評価した。その評価結果を表4に示す。
【0040】
対応する比較対象として、シリカ微粒子の坦持量を変化させて、比較例4〜6とし、その評価結果を表5に示す。
その対比結果から、実施例2の7日後の捕集効率の低下率は、比較例4〜6に比べて、際立って小さく、良好な帯電持続性を有していることが示される。
【0041】
[実施例3及び比較例7〜9]
実施例3は、対象とする不織布(A)にポリエステル短繊維(繊度2.2dtex)と低融点ポリエステル短繊維(繊度2.2dtex)を50%/50%の比率で混合したサーマルボンド法不織布を用い、実施例1と同様の方法にて帯電不織布を得て、そのフィルタ性能を評価した。その評価結果を表4に示す。
【0042】
その対応する比較対象として、シリカ微粒子の坦持量を変化させて比較例7〜9とし、その評価結果を表6に示す。
その対比結果から、実施例3の7日後の捕集効率の低下率は、比較例7〜9に比べて、際立って小さく、良好な帯電持続性を有していることが示される。
【0043】
[実施例4及び比較例10〜12]
実施例4は、対象とする不織布(A)に、繊度2.2dtx、芯がポリエステル、鞘がポリプロピレンの芯鞘複合短繊維で構成するサーマルボンド法不織布を用い、実施例1と同様の方法にて帯電不織布を得て、そのフィルタ性能を評価した。その評価結果を表4に示す。
【0044】
対応する比較対象として、シリカ微粒子の坦持量を変化させて、比較例10〜12とした。その評価結果を表6に示す。
その対比結果から、実施例4の7日後の捕集効率の低下率は、比較例10〜12に比べて際立って小さく、良好な帯電持続性を有していることが示される。
【0045】
[実施例5及び比較例13〜15]
実施例5は、対象とする不織布(A)に、ポリプロピレン製スパンボンド法不織布(平均繊維径11μm、目付重量20g/m)を用い、実施例1と同様の方法にて帯電不織布を得て、そのフィルタ性能を評価した。その評価結果を表4に示す。
【0046】
対応する比較対象として、シリカ微粒子の坦持量を変化させて、比較例13〜15とした。その評価結果を表7に示す。
その対比結果から、実施例5の7日後の捕集効率の低下率は、比較例13〜15に比べて際立って小さく、良好な帯電持続性を有していることが示される。また、実施例5の結果から、当該シリカ微粒子を坦持したPPスパンボンド不織布は、捕集効率の低下率の小さいことから支持体としてのみならず、フィルタ濾材としても活用できることが明らかである。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
以上の表4〜7の評価結果から、実施例1〜5において明らかなように、適切なるシリカ微粒子の担持によって、帯電持続によるフィルタ性能の保持が図られることが明らかである。
【0052】
[実施例6及び比較例16]
実施例6は、フィルタ濾材の不織布(C)として、ポリプロピレン製スパンボンド法不織布(目付重量20g/m、平均繊維径10μm)を用い、これに、支持体として、芯がポリエステル、鞘がポリエチレンの芯鞘複合短繊維で構成するサーマルボンド法不織布(目付重量60g/m)を積層・貼合し、フィルタ性能を評価した。その評価結果を表8に示す。ここで、支持体とするサーマルボンド法不織布は、予め実施例1と同様にシリカ微粒子を坦持したものである。
また、両不織布の貼合には、湿気硬化型ポリウレタンを用い、これをスパンボンド不織布側の接合面に連続繊維状に吐出・散布したあと、両不織布を積層・貼合し、常温下、24時間で硬化させ、接着を完了させて複合不織布とした。この複合不織布に、エレクトレット処理を施し、そのフィルタ性能を実施例1と同様の方法で評価した。
なお、比較のために、上記サーマルボンド不織布にシリカ微粒子を坦持しない場合の例を比較例16とした。その評価結果を表8に示す。
両例を比較すると、捕集効率の持続性は、明らかに実施例6の方が優れている。更には、捕集効率のレベルも向上することが、対比から明らかである。
【0053】
[実施例7及び比較例17]
実施例7は、フィルタ濾材の不織布(C)として、予めエレクトレット処理されたポリプロピレン製メルトブロー法不織布(目付重量20g/m、平均繊維径5μm)を用い、これに、芯がポリエステル、鞘がポリプロピレンの芯鞘複合短繊維で構成するサーマルボンド法不織布(目付重量60g/m)をエアフィルタ用支持体として積層・貼合し、フィルタ性能を評価した。その評価結果を表8に示す。ここで、支持体とするサーマルボンド不織布は、予め実施例1と同様に、シリカ微粒子を坦持したものである。
また、両不織布の貼合には、湿気硬化型ポリウレタンを、実施例6と同様の方法にて、メルトブロー不織布側の接合面に散布したあと、積層・貼合し、常温下、24時間で硬化させ両不織布を接着して複合不織布とした。
この複合不織布にエレクトレット処理を施し、そのフィルタ性能を実施例1と同様の方法で評価した。
なお、比較のために上記サーマルボンド不織布にシリカ微粒子を坦持しない場合の例を比較例17とした。その評価結果を表8に示す。
両例を比較すると、捕集効率の持続性は、明らかに実施例7の方が優れている。更には、捕集効率のレベルも向上することが明らかである。
【0054】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のエアフィルタ用帯電不織布は、不織布に、ある特定のシリカ微粒子を表面に固着させることによって、エレクトレット処理の帯電効果を長期に渉り持続させることができるため、クリーンルームおよびビル空調などの分野ばかりでなく、自動車室内および一般家庭などにおけるエアフィルタなどに好適に用いることができ、また、ビル空調、自動車用ばかりでなく、防塵・衛生マスクその他の広い用途で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る、繊維表面に坦持させるシリカ微粒子の粒子径と帯電保持率との関係を示す図である。
【図2】本発明に係る、シリカ微粒子の坦持量に対する帯電圧の保持率の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布(A)を構成する繊維の表面に、粒子径が4〜200nmのシリカ微粒子(B)を坦持させ、エレクトレット処理を施してなるエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項2】
シリカ微粒子(B)の坦持量は、担持不織布全量に対し、0.4〜3重量%であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項3】
エアフィルタ用支持体として用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項4】
不織布(A)を構成する繊維は、平均繊度が0.5〜33dtexであって、ポリオレフィン短繊維、ポリオレフィン複合短繊維、ポリエステル短繊維又はポリエステル/ポリオレフィン複合短繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項5】
不織布(A)は、ポリエステル又はポリプロピレンの連続繊維からなるスパンボンド法不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のエアフィルタ用帯電不織布に、エレクトレット処理を施した、ポリオレフィンを素材とする連続繊維からなる不織布(C)をフィルタ濾材として積層・貼合することを特徴とするエアフィルタ。
【請求項7】
不織布(C)は、平均繊維径が0.5〜10μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布又は平均繊維径が10〜20μmの連続繊維からなるスパンボンド法不織布から選ばれる不織布であることを特徴とする請求項6に記載のエアフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115570(P2010−115570A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288727(P2008−288727)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】