説明

エアフィルタ用帯電不織布及びその製造方法

【課題】ダストの捕集効率が高く、かつ「腰」があって、プリーツ後及び通風時の保型性の高いエアフィルタ用帯電不織布及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル系またはポリオレフィン系短繊維より形成される不織布に、水溶化した含窒素環状構造を含む光安定剤を下記の(I)〜(III)のいずれかの方法により添着し、次いで、エレクトレット処理を施すことを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法など。
(I):短繊維原綿を開繊・紡出して形成されるウエブの繊維間を機械的交絡及び/又は熱融着の方法で固定して不織布を形成する工程中に、該光安定剤を含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
(II):繊維の紡糸工程おいて、使用する油剤中に水溶化した該光安定剤を配合して、紡糸された繊維表面に添着させ、不織布用短繊維原綿に供する方法。
(III):後工程にて、該光安定剤を不織布に含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浄化のためのエアフィルタ(以後単に「エアフィルタ」ともいう)に使用されるダストダスト捕集効率に優れる帯電不織布及びその製造方法に関する。その具体的手段として、先ず、含窒素環状構造を含む光安定剤(または紫外線吸収剤、紫外線安定剤、以下光安定剤と称する。)である、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物又はベンゾトリアゾール系化合物を水溶化し、これを、不織布を構成する繊維外表面に添着・固定した後、該不織布にエレクトレット処理を施すことにより捕集効率の向上に資するエアフィルタ用支持体またはエアフィルタ用濾材となる帯電不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアフィルタは、主としてダストの濾過性能を担うフィルタ用濾材(またはフィルタ濾材)と、それを補強・支持する支持体(以後単に「支持体」という)とが積層・複合したものをプリーツ加工などにより一定面積の枠内に固定してユニット化したものが使用されている。
本明細書においても、エアフィルタとは、これを構成するフィルタ濾材及び支持体を複合・貼合したもの、又は、これをプリーツ加工などにより一定面積の枠内に固定してユニット化したものを云い、こうしたエアフィルタは、ビルオフィス、工場、家庭、車両内の居住域において、空気浄化のために着脱交換できる形で使用される。
【0003】
従来から、フィルタ濾材としては、ポリプロピレン極細繊維が集積されてなるメルトブロー不織布が用いられ、このフィルタ濾材には、エレクトレット処理によって積極的に分極荷電させてダスト捕集に利用するタイプのものが使われている。しかしながら、このようなフィルタ濾材は、極細繊維で構成されているために強度や剛性が低いので、このフィルタ濾材を補強するために、支持体を用いるのが一般的である。その支持体は、フィルタ濾材をプリーツ状に加工して濾過面積を増やすための保形機能を担い、また、通風圧による変形を防止する機能を有する。従って、支持体には、剛性(いわゆる「腰」)のあるネット、編織物又は不織布等が用いられている。その中でも、不織布は、ネットや編織物に比べて厚みや剛性の設計・調整が容易であり、また、通気性を容易に設計変更することができるため、広く用いられている。その不織布としては、通気性とともに、プリーツ加工性、形状保持性を付与するため、繊維に剛性(いわゆる「腰」)のある太めの短繊維が用いられ、中でもポリエステル短繊維、ポリオレフィン短繊維、レーヨン短繊維、ビニロン短繊維などを単独使用又は併用した乾式法不織布または湿式法不織布が使用されている。また、ポリプロピレンやポリエステルを素材とするスパンボンド法不織布も使用されている。
【0004】
また、フィルタ濾材としては、前記メルトブロー不織布の他に、前記支持体に用いたポリエステル短繊維やポリプロピレン短繊維で構成される乾式又は湿式不織布も使用されるが、この場合、これら短繊維系不織布は、エレクトレット処理による帯電効果が小さく、従って、フィルタ捕集効率が低いという欠点がある。その理由として、繊維径が太いという他に、エレクトレット処理後の帯電効果の減衰が著しいことによる。その傾向は、ポリプロピレン短繊維不織布も同様の傾向があるものの、特にポリエステル短繊維に著しい。これは、短繊維全般に共通することであるが、親水性の油剤がその紡糸工程で付与されており、この親水性の油剤を付与する目的は、カーディングによる原綿の紡出の際に、不必要な静電気の発生を防ぐため必須のものであるが、しかしその半面、この親水性の油剤が不織布に残存してエレクトレット処理後において電荷の放出を助長するため、帯電効果が持続せず、従って、安定して高度のフィルタ捕集効率が得られないという欠点となる。
【0005】
近年、エアフィルタには、花粉、車両や工場からの排気塵、ハウスダスト、大気塵、黄砂など多様なダストを高効率で捕集するものが要求されるようになった。
そこで、エアフィルタの捕集効率を向上させる発明が提案されているが、それらは、フィルタ濾材単独の濾過性能向上に関するものであり、支持体と複合した最終製品形態としてのエアフィルタの性能向上には及んでいないのが実情である。
また、支持体としての不織布に関しては、難燃性を付与するために難燃剤を含有する繊維よりなるもの、あるいは、不織布に後加工で難燃剤を添着させたものを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
さらに、支持体の薄さ、硬さ特性を維持しつつ、低圧力損失と長寿命とを達成し得るフィルタ補強用不織布を提供するために、繊維直径25〜50μmの熱可塑性繊維からなる不織布であって、不織布の厚さ1mm当たりの圧力損失が風速10cm/sのもとで0.8mmAq以下であることを特徴とするものが提案されている(特許文献2参照。)。
また、近年では、難燃性に優れるエアフィルタ材用支持体を提供するために、鞘部が低融点重合体で、芯部が高融点重合体で形成されている芯鞘型複合短繊維を構成繊維とする不織布よりなるエアフィルタ材用補強材であって、該短繊維不織布中に該低融点重合体は30質量%以上含有されており、かつ、該芯鞘型複合短繊維相互間は絡合されていると共に、該低融点重合体の融着によって結合されていることを特徴とするものが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
一方、エレクトレット処理を行う不織布フィルタとして、例えば、特許文献4、5に開示された方法が提案されている。両特許文献に共通していることは、原料樹脂がポリプロピレンなどのポリオレフィンであり、原料樹脂中にヒンダードアミン系光安定剤などがコンパウンドとして練り込まれており、不織布の製法としてはメルトブロー法で得られた不織布に限られている。その不織布フィルタの性能上の特徴は、高い帯電効果により、高度の微粒子の捕集効率が得られているが、メルトブロー不織布は、その製法上の特質から、平均繊維径が10μm以下と小さいので、不織布としての「腰」の強さが不足し、エアフィルタとし使用するためには、プリーツ性と通風変形に対応する支持機能が不足し、別種の支持体との併用が必要である。
また、メルトブロー法不織布以外の短繊維不織布の帯電処理として、特許文献6のごとく、摩擦帯電法による帯電処理も提案されている。但し、この方法は、ニードルパンチによって得られる不織布に限定され、且つ、繊維油剤を除去する必要があり、簡便に適用できるとは言い難い。また、不織布自体が、繊維の機械的交絡のみにより形成されるので、“腰“とプリーツ性が不足し、別種の支持体を必要とする。
以上のように、従来において、支持体としての不織布に帯電性を付与し、フィルタ濾材としての機能を持たせるという観点からの先行技術は、見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−281030号公報
【特許文献2】特開平8−276111号公報
【特許文献3】特開2006−233358号公報
【特許文献4】特表2003−520659号公報
【特許文献5】特許第2672329号(特開平1−287914号)公報
【特許文献6】EP第0246811号(B1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、「腰」があり、「プリーツ性」は良好ではあるものの、エレクトレット処理による帯電効果の小さい短繊維系不織布について、そのエレクトレット処理による帯電効果を改良し、短繊維系不織布自体を高度に帯電し持続することにより、ダストの捕集効率が高く、かつ「腰」があって、プリーツ後及び通風時の保型性の高い、支持体または支持体とフィルタ濾材の両機能を兼ね備えたエアフィルタ用帯電不織布及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、短繊維不織布に効果的なエレクトレット処理が可能ならば、本来の適性性能である支持体機能に加えて濾過機能が付与されることになり、それ自体が単独でエアフィルタに応用できること、さらには、帯電させた高度の濾過能力を持つフィルタ濾材であるメルトブロー不織布と積層・複合することによって、両者の濾過性能が重畳し、一段とエアフィルタ製品の性能が向上することに想到し、種々の試みを行った。しかしながら、前述したように、ポリエステル短繊維やポリプロピレン短繊維から構成される乾式又は湿式不織布を用いた場合には、不織布の繊維素材自体(例えば、ポリエステル繊維素材)が親水性の油剤の存在や繊維表面の加水分解、吸湿などにより電荷を保持しにくいことが解決すべき課題であった。
そのため、本発明者は、さらに鋭意検討を重ねた結果、剛性が高くプリーツ性のよい支持体用不織布基材であるポリエステル短繊維またはポリプロピレン短繊維不織布の繊維表面に、特定のヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物又はベンゾトリアゾール系化合物を水溶化したその水溶液を、含浸又はスプレー散布、或いはコーティングした後、十分乾燥し、繊維表面に均一に被覆させてから、エレクトレット処理を行うことにより、エレクトレット処理によって付与される帯電効果を高めることができることを見出し、さらに、そのヒンダードアミン系化合物などの添着工程を不織布製造工程に組み込むことにより、エアフィルタ用帯電不織布の製造方法として簡易に行う方法に想到し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリエステル系またはポリオレフィン系短繊維より形成される不織布に、水溶化した含窒素環状構造を含む光安定剤を下記の(I)〜(III)のいずれかの方法により添着し、次いで、エレクトレット処理を施すことを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法が提供される。
(I):短繊維原綿を開繊・紡出して形成されるウエブの繊維間を機械的交絡及び/又は熱融着の方法で固定して不織布を形成する工程中に、該光安定剤を含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
(II):繊維の紡糸工程おいて、使用する油剤中に水溶化した該光安定剤を配合して、紡糸された繊維表面に添着させ、不織布用短繊維原綿に供する方法。
(III):後工程にて、該光安定剤を不織布に含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記含窒素環状構造を含む光安定剤は、(i)ヒンダードアミン系化合物、(ii)トリアジン系化合物及び(iii)ベンゾトリアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記短繊維より形成される不織布は、サーマルボンド法またはニードルパンチ法により製造されることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記短繊維より形成される不織布は、湿式法またはスパンレース法により製造されることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記不織布を構成する短繊維は、平均繊度が0.5〜100dtexであって、芯鞘短繊維及び/又は単一短繊維であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係る製造方法によって得られ、繊維外表面に前記含窒素環状構造を含む光安定剤が添着及び/又は被覆されてなることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、エアフィルタ用支持体及び/又はエアフィルタ用濾材として用いられることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布が提供される。
【0015】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明に係る支持体として用いられるエアフィルタ用帯電不織布(A)に、エレクトレット処理を施した、ポリオレフィンを素材とする連続繊維からなる不織布(B)をエアフィルタ用濾材として積層または貼合することを特徴とするエアフィルタが提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、不織布(B)は、平均繊維径が0.5〜20μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布または平均繊維径が10〜30μmの連続繊維からなるポリプロピレン製スパンボンド法不織布から選ばれる不織布であることを特徴とするエアフィルタが提供される。
【0016】
本発明は、上記の如く、エアフィルタ用帯電不織布の製造方法などに係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)第2の発明において、(i)ヒンダードアミン系化合物には、トリアジン基を含むヒンダードアミン系化合物を含むことを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
(2)第2の発明において、前記含窒素環状構造を含む光安定剤は、トリアジン基を含む高分子タイプのヒンダードアミン系化合物であることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
(3)第1又は2の発明において、前記水溶化した含窒素環状構造を含む光安定剤は、エマルジョン化した含窒素環状構造を含む光安定剤を含むことを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
(4)第8又は9の発明において、不織布(A)と不織布(B)が積層または貼合された後に、エレクトレット処理が施されることを特徴とするエアフィルタ。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエアフィルタ用帯電不織布の製造方法によれば、ポリエステル系短繊維などから構成される短繊維系不織布がエレクトレット処理によって付与される帯電効果を長期に渉り持続させることができ、高いダスト捕集効率と優れたプリーツ適性と保型性を兼ね備えたエアフィルタ用帯電不織布を得ることができる。
このエアフィルタ用帯電不織布は、それ自体が低圧損で、捕集効率が著しく改善されるエアフィルタ用濾材となるのみか、エアフィルタ用支持体として、他の濾材、例えば、別途にエレクトレット処理されたポリプロピレンのメルトブロー不織布と貼り合わせて、さらに高捕集効率のプリーツ加工が可能な高性能エアフィルタを提供することができる。
さらには、支持体層でのダスト捕捉能力の向上により、フィルタ濾材層に使われる極細繊維からなるメルトブロー不織布層へのダストの一方的な蓄積(すなわち目詰まり)が軽減されるので、エアフィルタの使用寿命の向上を図ることができるという効果を奏する。
そのため、長期に安定したフィルタ品質を求められる自動車用キャビンフィルタ、工場、ビル空調や家庭居住空間の空気浄化のためのエアフィルタなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエアフィルタ用帯電不織布は、ポリエステル系短繊維やポリプロピレン系短繊維から構成される不織布(A)の繊維外表面に、水溶化した特定の光安定剤を添着し、エレクトレット処理を施してなるものである。
以下、項目毎に詳細に説明する。
【0019】
1.不織布(A)
本発明において、ヒンダードアミン系化合物などの含窒素環状構造を含む光安定剤を添着する不織布(A)は、平均繊度が0.5〜100dtexの範囲から選ばれるポリエステル系短繊維又はポリオレフィン系短繊維から構成される。
また、これらの短繊維は、不織布の製法によって、鞘側に低融点成分繊維、芯側に高融点成分繊維を配した、いわゆる芯鞘複合短繊維、或いは単一の材料からなる単繊維が用いられる。
具体的には、複合短繊維としては、鞘側がポリオレフィンとしたもの(以下、ポリオレフィン系短繊維という。)は、例えば、鞘側/芯側がPE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)、PP(低融点)/PP、PE/PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(低融点)/PETなどであり、また、鞘側がポリエステルの短繊維(以下、ポリエステル系短繊維という。)としては、例えば、鞘側/芯側がPET(低融点)/PETなどが挙げられる。
また、単繊維としては、PP、PE、PET繊維が用いられる。また、これらの繊維を混合して用いてもよい。
【0020】
上記の短繊維としては、いずれも平均繊度が0.5〜100dtexであれば、特に限定されず、その使用法によって、適宜選択される。さらには、繊維径の異なる繊維を複数種混合してもよい。例えば、本発明の短繊維の不織布からなる帯電不織布に、高度のフィルタ性能を担わす場合には、平均繊度が0.5〜6dtexの短繊維を多く配合することも、行われる。また、本発明の帯電不織布に、高度のプリーツ性や「腰」が要求される場合には、例えば、平均繊度が20dtex以上の短繊維を多く配合することなどが行われる。
【0021】
また、上記ポリエステル系短繊維の原材料として用いられるものは、多価カルボン酸とポリアルコールがエステル結合によって重合した高分子化合物であるポリエステルであればよく、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールから製造される、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート(PET)、主たる繰り返し単位がブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレ−トや、主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートであるポリトリメチレンテレフタレートを主体とする繊維、酸成分としてイソフタル酸等を共重合した低融点ポリエステル繊維、またはハードセグメントとソフトセグメントを有するブロック共重合ポリエステル繊維などが挙げられる。
また、これらのポリエステル短繊維に、りん系化合物を配合した難燃化された短繊維であってもよい。
【0022】
これらの上記短繊維を不織布化する方法としては、機械的交絡及び/又は熱融着の方法により、繊維間を固定して不織布を形成する方法であれば、特に限定されず、例えば、結合に、熱を用いるサーマルボンド法、接着剤を用いるケミカルボンド法、刺のある針で刺し絡めるニードルパンチ法、高圧細水流で繊維を絡めるスパンレース(水流絡合)法、エアレイと呼ばれる空気流で形成するエアレイド法、繊維を水に懸濁し漉いて形成する湿式法などの短繊維を用いた不織布を製造する方法に、広く適用でき、適宜選択できる。
【0023】
2.含窒素環状構造を含む光安定剤
本発明に係る含窒素環状構造を含む光安定剤は、具体的には、(i)ヒンダードアミン系化合物、(ii)トリアジン系化合物及び(iii)ベンゾトリアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である。光安定剤として、一種を用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよく、適宜選択される。
【0024】
本発明に係る含窒素環状構造を含む光安定剤は、通常、ポリマーの耐光安定性付与の添加剤として、一般に用いられているが、通常、常温での形態は固形(粉末または顆粒)であって、水に不溶であり、そのままでは、不織布を構成する繊維表面に均一に添着及び/又は被覆されない。従って、これら化合物を繊維表面に添着(被覆)するためには、液状化する必要があり、作業環境面からは、望ましくは有機溶媒を使用せずに、水溶化又はエマルジョン化することが望ましい。
このように水溶化又はエマルジョン化すれば、不織布製造工程や原綿紡糸工程などに、特段の改造を要せず、既存の設備を転用できるという利点を有する。
【0025】
本発明において、水溶化またはエマルジョン化した光安定剤の各種化合物を繊維表面に添着する量としては、繊維成分100重量部あたり、0.05〜5重量部である。好ましくは0.1〜3重量部である。添着量が0.05重量部未満では、エレクトレット処理の帯電効果の持続性を発揮せず、一方、5重量部を超えて添着しても、それに見合うだけの効果の向上が得られず、経済的にも不利となる。
【0026】
(i)ヒンダードアミン系化合物(HALS)
本発明に係る分子量が2000以上の高分子量タイプのヒンダードアミン系化合物(HALS)としては、例えば、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](分子量:2000〜3100、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ944LD)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(分子量:3100〜4000、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン622LD)、N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量:2286、90%)と上記チヌビン622LD(10%)との混合物(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ119FL)、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量:2600〜3400、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ2020FDL)などが挙げられる。これら以外にも、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン111FDL(ブレンド品)も挙げられる。
また、本発明に係る分子量が2000未満の低分子量タイプのヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル){[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル}ブチルマロネート(外観:粉末、分子量:685、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン144)、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルと1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物(外観:液体、分子量:737、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン123)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(外観:粉末、分子量:481、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン770)などが挙げられる。
【0027】
また、ヒンダードアミン系化合物であって、トリアジン基を含む高分子タイプの化合物、例えば、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](分子量:2000〜3100、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ944LD)、N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量:2286、90%)と上記チヌビン622LD(10%)との混合物(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ119FL)、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量:2600〜3400、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、キマソーブ2020FDL)などが、耐熱性、低揮発性などの点から、好ましく用いられる。
【0028】
(ii)トリアジン系化合物
本発明に係るトリアジン系化合物には、例えば、2−(4,6ジフェニルエーテル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、(分子量:425、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン1577FF)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン(分子量:510、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン411L)などが挙げられ、これら以外にも、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン400(分子量:647、ヒドロキシフェニルトリアジン系)も挙げられる。
【0029】
(iii)ベンゾトリアゾール系化合物
また、本発明に係るベンゾトリアゾール系化合物は、例えば、低揮散性で比較的融点の高いものとして、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2イル)4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(分子量:447、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン234)、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール(分子量:358、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン327)、2−(2H−ベンゾ)トリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ベンチルフェノール(分子量:351、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン328)、2,2‘−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール](分子量:659、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、チヌビン360)などが挙げられる。
【0030】
さらに、本発明に係るヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を水溶化する方法については、特に限定しないが、一例として、酸で中和処理することによって実現でき、困難な場合にはアルコールを加えて中和する。例えば、温水に酢酸を加えた水溶液に、当該化合物を投入・攪拌し、水溶化を実施する。
また、乳化剤(界面活性剤)を用いて、エマルジョン化してもよい。なお、上記の如く水溶化したヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物には、混合して用いることも可能である。或いは、予め混合されたこれら原料化合物を同時に水溶化することもできる。
【0031】
3.添着方法
本発明において、水溶化された前記化合物を繊維表面に添着する方法は、特に限定しないが、以下の(I)〜(III)の方法が挙げられる。
(I):短繊維原綿を開繊・紡出して形成されるウエブの繊維間を機械的交絡及び/又は熱融着の方法で固定して不織布を形成する工程中に、該化合物を含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
(II):繊維の紡糸工程おいて、使用する油剤中に水溶化した該化合物を配合して、紡糸された繊維表面に添着させ、不織布用短繊維原綿に供する方法。
(III):後工程にて、該化合物をすでに形成された不織布に含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
【0032】
上記の方法においては、不織布の製法に基づいて、適宜いずれかの方法が使用される。例えば、サーマルボンド不織布には、(I)、(II)、(III)のいずれの方法も好ましく用いられる。ニードルパンチ法不織布には、(II)の方法が簡便であり、また、湿式法不織布、スパンレース不織布には、(III)の方法が製法上望ましい。
なお、上記(II)の方法で使用する油剤としては、特に限定はなく、一般的に用いられる鉱油系や天然系の油脂や、一価又は多価アルコールと一価カルボン酸とのエステルなどが挙げられる。また、フッ素系等の撥水撥油剤なども使用できる。
【0033】
4.不織布(B)及び不織布(A)との複合化
上記のような特性を持つ帯電不織布(A)は、帯電性能が高められているので、これを他の帯電フィルタ濾材の不織布(B)への支持体として、組み合わせることにより、高度の濾過性能を持つエアフィルタ製品とすることができる。ここで、フィルタ濾材としての帯電不織布(B)とは、当該支持体不織布(A)よりも細い繊維で構成される不織布を指し、その具体例としては、0.5〜20μmの繊維径の連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布が挙げられる。また、10〜30μmの繊維径の連続繊維で構成されるポリプロピレン製スパンボンド法不織布などが挙げられる。
【0034】
これらのフィルタ濾材としての不織布(B)は、高精度濾過を目的としてエレクトレット処理を施したものであり、当該のエレクトレット処理した支持体不織布と積層・貼合するか、または、これらのフィルタ濾材と支持体は、積層・貼合の後に、一括してエレクトレット処理を施すこともできる。
【0035】
このようにして作られた複合不織布からなるエアフィルタの使い方として、支持体不織布を空気流路の上流側に、そしてフィルタ濾材不織布を下流側になるようにすれば、前者が後者の支持・補強のみならずプレフィルタの役目をなし、両者の帯電機能の相乗効果によって、捕集効率の高度化と長期にわたるフィルタ性能の持続を実現することができる。
【0036】
よって、その好ましい態様は、支持体となる不織布に、前記(i)ヒンダードアミン系化合物、(ii)トリアジン系化合物及び(iii)ベンゾトリアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を添着させ、帯電させた不織布(A)と、フィルタ濾材として選ばれた帯電させた不織布(B)、即ち平均繊維径が0.5〜20μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布又は平均繊維径が10〜30μmの連続繊維からなるスパンボンド法不織布とを積層・貼合してなる「複合帯電不織布」をエアフィルタとするものである。
【0037】
次に、フィルタ濾材としての不織布(B)に、本発明の支持体となる帯電不織布(A)を貼り合せる方法において、ホットメルト接着剤、湿気硬化接着剤の使用や超音波接着などを使用でき、接着剤の塗布方法としては、パウダー散布法、スプレー塗布法、ビート塗布法、または溶融した接着剤を気流中に連続的に吐出して繊維状として散布する方法などいずれの方法でもよい。また、ピンエンボスのロールを使用した部分熱圧着法でもよい。
特に、上述のスプレー塗布法、繊維状接着剤を散布する方法において、湿気硬化接着剤を使用すると、貼り合わせ加工前後の不織布基材の加熱が不要となり、付加されている帯電効果の損耗が少なく、また、少量の接着剤の使用でも積層・貼合層間が剥離することなく保持されるので接着部分での通気遮断が小さく、好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例で共通に用いた試験方法は、以下の通りである。
【0039】
(1)捕集効率の測定:
市販されているフィルタ試験機TSI8130を用い、ダストとして平均粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集率を測定した。その測定条件は、開口面積100cmの導風路に測定試料を設置し、32L/分のNaClダストを含む空気を通過させて、試料通過前後のダスト捕集量の計測値をもとに捕集率(%)が計測される。なお、この時の通風速度は、5.3cm/secに相当する。
【0040】
(2)エレクトレット処理条件及び評価:
測定試料にエレクトレット処理を施す場合には、帯電付加装置によって、高圧電源より+20kVの直流電圧を印加して電荷を与え、エレクトレット処理前及び同処理1か月後の安定した状態での捕集効率を測定し、そのエレクトレット処理の効果を評価した。
【0041】
(3)不織布の目付け重量:
試料長さ方向より、100×100mmの試験片を採取し、水分平衡状態の重さを測定し、1m当たりに換算して求めた。
【0042】
(4)ヒンダードアミン系、トリアジン系又はベンゾトリアゾール系化合物の添着:
前記の方法にて水溶化した各種化合物を最適な濃度に調製し、前記の添着方法(I)〜(III)のいずれかにて添着した。ここで使用した不織布又は短繊維試料の添着前と添着乾燥後の重量増(%)を計量し、固形分添着量とした。
【0043】
[実施例1及び比較例1]
実施例1では、ポリエステル短繊維からなるサーマルボンド法不織布を用いた。使用した短繊維は、以下の2種の混合である。
(1)芯鞘型ポリエステル(鞘部融点110℃):繊度17dtex,90重量%
(2)芯鞘型ポリエステル(鞘部融点150℃):繊度4.4dtex,10重量%
尚、以後の実施例、比較例における短繊維の種類、混率、各繊維の繊度については、表1〜3中に記した。
【0044】
これらの短繊維をカーディングマシンにて開繊し、紡出した繊維ウエブを、ヒンダードアミン系化合物の水溶液を満たした槽に浸漬した後、マングルロールで絞り、ヒンダードアミン系化合物の添着量を調整した後、乾燥機で乾燥し、その後、熱風通貫型熱処理機内に導入し、エアスルー状態で繊維間の熱融着を行い不織布とした(添着法I)。
このとき用いたヒンダードアミン系化合物は、トリアジン基を含むキマソーブ944LD(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)を水溶化したものである。
次に、この不織布にエレクトレット処理を施し、帯電不織布を得て、フィルタ試験機にて捕集効率を測定した。
また、その帯電特性をエレクトレット処理による未帯電及び帯電1か月後を経て、捕集効率を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0045】
この実施例1の対比として、同一の不織布を製造する際に、ヒンダードアミン系化合物を添着しない例を、比較例1とし、実施例1と同様に、エレクトレット処理を行い、その捕集効率を測定し、表3に示した。
両者の対比から、実施例1は、明らかに捕集効率が著しく向上していることが示される。
【0046】
[実施例2]
実施例2は、ベンゾトリアゾール系化合物の「チヌビン234」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)を水溶化したものを用いた以外は、実施例1と同じ方法(添着法I)で添着した後、エレクトレット処理し、帯電不織布を得た。
その帯電不織布の捕集効率を表1に示した。実施例1と遜色ない効率が得られ、比較例1との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0047】
[実施例3]
実施例3は、実施例1で用いた水溶化したヒンダードアミン系化合物の「キマソーブ944LD」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)を、不織布を形成した後に、後加工法(添着法III)にて添着した。即ち、「キマソーブ944LD」の水溶液の液槽内にて、不織布を含浸し、乾燥した後、エレクトレット処理し、帯電不織布を得た。
その帯電不織布の捕集効率を表1に示した。実施例1と遜色ない効率が得られ、比較例1との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0048】
[実施例4及び比較例2]
実施例4は、実施例1において、使用繊維をPE/PP芯鞘複合短繊維を使用した以外は、実施例1と同じ方法で、不織布を得てエレクトレット処理し、帯電不織布を得た。このとき使用したPE/PP複合短繊維は、繊度が、6.7dtexのものを90重量%、3.3dtexのものを10重量%混合使用した。その帯電不織布の捕集効率を表1に示した。
【0049】
実施例4の対比として、比較例2は、実施例4において、ヒンダードアミン系化合物などの光安定剤を添着しないPE/PP芯鞘複合短繊維を使用した不織布を作製し、実施例4と同様に、エレクトレット処理を施して捕集効率を測定し、表3に示した。
実施例4では、実施例1〜3と遜色ない効率が得られ、比較例2との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0050】
[実施例5]
実施例5は、光安定剤としてトリアジン系化合物の「チヌビン1577FF」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)を用いた以外は、実施例4と同じ方法で、不織布を得てエレクトレット処理を施し、帯電不織布を得た。
そのエレクトレット不織布の捕集効率を表1に示した。実施例1と遜色ない効率が得られ、比較例2との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0051】
[実施例6]
実施例6は、ヒンダードアミン系化合物の「キマソーブ944LD」を水溶化したものに、脂肪酸とポリエチレングリコール(分子量300)のエステルである繊維油剤を、添加し、混合したものを、PE/PP複合短繊維の紡糸工程にて添着した原綿を用いて(添着法II)、実施例1と同様の方法にて、サーマルボンド法不織布を作製し、エレクトレット処理を施した。
このとき使用したPE/PP複合短繊維は、実施例4〜5と同じく繊度が、6.7dtexのものを90重量%、3.3dtexのものを10重量%混合使用した。
その帯電不織布の捕集効率を表2に示した。実施例1〜4と遜色ない効率が得られ、ヒンダードアミン系化合物を添着しない比較例2との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0052】
[実施例7及び比較例3]
実施例7は、ヒンダードアミン系化合物の「キマソーブ944LD」を水溶化したものに、フッ素系の撥水撥油剤である繊維油剤を、添加し、混合したものを、ポリエルテル繊維の紡糸工程にて添着した原綿を用いて(添着法II)、ニードルパンチ法により不織布を作製し、エレクトレット処理を施した。その帯電不織布の捕集効率を表2に示した。
【0053】
また、その対比として、ヒンダードアミン系化合物を添着しない原綿を使用した以外は、実施例7と同様に、不織布を作製し、エレクトレット処理した。この帯電不織布の捕集効率を表3中に比較例3として示した。
この実施例7では、実施例1〜6と遜色ない効率が得られ、ヒンダードアミン系化合物を添着しない比較例3との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0054】
[実施例8及び比較例4]
実施例8は、PE/PP複合短繊維を、湿式法により不織布化し、その不織布を、後加工(添着法III)により、水溶化したヒンダードアミン系化合物の「キマソーブ944LD」を添着した後、乾燥した。この不織布をエレクトレット処理し、この帯電不織布の捕集効率を測定し表2に示した。
【0055】
また、その対比として、比較例4は、実施例8において、ヒンダードアミン系化合物を添着しない以外は、実施例8と同様に、湿式法不織布を作製し、また、エレクトレット処理した。この帯電不織布の捕集効率を測定し表3に示した。
この実施例8では、実施例1〜7と遜色ない効率が得られ、ヒンダードアミン系化合物などを添着しない比較例4との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0056】
[実施例9及び比較例5]
実施例9は、PET短繊維を、スパンレース法により不織布化し、その不織布をヒンダードアミン系化合物の「キマソーブ944LD」水溶液槽内に導入し、含浸・添着の後、乾燥した(後加工法(添着法III))。この不織布をエレクトレット処理し、帯電不織布を得て、その捕集効率を測定し、表2に示した。
【0057】
また、その対比として、比較例5は、実施例9において、ヒンダードアミン系化合物を添着しない以外は、実施例9と同様に、スパンレース法不織布を作製し、また、エレクトレット処理した。この帯電不織布の捕集効率を測定し表3に示した。
この実施例9では、実施例1〜8と遜色ない効率が得られ、ヒンダードアミン系化合物などを添着しない比較例5との対比において、明らかに捕集効率が大幅に向上していることが示される。
【0058】
[実施例10及び比較例6]
実施例10は、実施例1で得た帯電不織布(A)に、エレクトレット処理した帯電ポリプロピレン製メルトブロー不織布(B)(平均繊維径4μm、目付重量20g/m)を、繊維状湿気硬化型接着剤を散布し、積層・貼合したところ、85%の捕集効率を得た。
【0059】
また、その対比として、比較例6は、比較例1で得た帯電不織布(A’)と、上記と同じメルトブロー不織布(B)を、実施例10と同じ方法にて、積層・貼合した。
この比較例6の捕集効率は72%であり、実施例10は、比較例6と対比して、明らかに、ヒンダードアミン系化合物の添着効果が認められた。
【0060】
[実施例11及び比較例7]
実施例11は、実施例1で得た帯電不織布(A)に、エレクトレット処理した帯電ポリプロピレン製スパンボンド不織布(B)(平均繊維径20μm、目付重量20g/m)を、繊維状湿気硬化型接着剤を散布し、積層・貼合したところ、51%の捕集効率を得た。
【0061】
また、その対比として、比較例7は、比較例1で得た帯電不織布(A’)と、上記と同じスパンボンド不織布(B)を、実施例11と同じ方法にて積層・貼合し、エレクトレット処理を施した。この比較例7の捕集効率は32%であり、実施例11は、比較例7と対比して、明らかに、ヒンダードアミン系化合物の添着効果が認められた。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
表1〜3に示す結果および実施例11,12と比較例6,7の対比から明らかなように、従来、エレクトレット処理の帯電効果が得難い短繊維素材の不織布は、本発明により、著しい帯電効果および捕集効率の改善がみられ、これにより、様々な不織布を活用した多様なエアフィルタを実現できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリエステル又はポリオレフィン系短繊維で構成されるエアフィルタ用帯電不織布は、水溶化したヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物又はベンゾトリアゾール系化合物の含窒素環状構造を含む光安定剤を繊維表面に添着・固定させることによって、エレクトレット処理の帯電効果を高めることができ、また、既存の不織布製造設備を用いて、簡便に低コストで製造できる方法であるため、クリーンルームおよびビル空調などのエアフィルタ分野ばかりでなく、自動車室内および一般家庭などにおけるエアフィルタなどに好適に用いることができ、また、ビル空調、自動車用エアフィルタばかりでなく、防塵・衛生マスクその他の広い用途で使用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系またはポリオレフィン系短繊維より形成される不織布に、水溶化した含窒素環状構造を含む光安定剤を下記の(I)〜(III)のいずれかの方法により添着し、次いで、エレクトレット処理を施すことを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
(I):短繊維原綿を開繊・紡出して形成されるウエブの繊維間を機械的交絡及び/又は熱融着の方法で固定して不織布を形成する工程中に、該光安定剤を含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
(II):繊維の紡糸工程おいて、使用する油剤中に水溶化した該光安定剤を配合して、紡糸された繊維表面に添着させ、不織布用短繊維原綿に供する方法。
(III):後工程にて、該光安定剤を不織布に含浸、スプレー又はコーティングにより添着する方法。
【請求項2】
前記含窒素環状構造を含む光安定剤は、(i)ヒンダードアミン系化合物、(ii)トリアジン系化合物及び(iii)ベンゾトリアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
【請求項3】
前記短繊維より形成される不織布は、サーマルボンド法またはニードルパンチ法により製造されることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
【請求項4】
前記短繊維より形成される不織布は、湿式法またはスパンレース法により製造されることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
【請求項5】
前記不織布を構成する短繊維は、平均繊度が0.5〜100dtexであって、芯鞘短繊維及び/又は単一短繊維であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用帯電不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法によって得られ、繊維外表面に前記含窒素環状構造を含む光安定剤が添着及び/又は被覆されてなることを特徴とするエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項7】
エアフィルタ用支持体及び/又はエアフィルタ用濾材として用いられることを特徴とする請求項6に記載のエアフィルタ用帯電不織布。
【請求項8】
請求項7に記載の支持体として用いられるエアフィルタ用帯電不織布(A)に、エレクトレット処理を施した、ポリオレフィンを素材とする連続繊維からなる不織布(B)をエアフィルタ用濾材として積層または貼合することを特徴とするエアフィルタ。
【請求項9】
不織布(B)は、平均繊維径が0.5〜20μmの連続繊維からなるポリプロピレン製メルトブロー法不織布または平均繊維径が10〜30μmの連続繊維からなるポリプロピレン製スパンボンド法不織布から選ばれる不織布であることを特徴とする請求項8に記載のエアフィルタ。

【公開番号】特開2011−6810(P2011−6810A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150416(P2009−150416)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】