説明

エアフィルタ用濾材、エアフィルタユニット及びエアフィルタ用濾材の製造方法

【課題】エアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制し、エアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失を下げる。
【解決手段】気流中の塵を捕集するエアフィルタユニット用濾材10は、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層20と、前記プレ捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集するポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層22と、気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層24と、を含む。濾材の製造では、通気性支持層26となる部材と主捕集層となるフィルムを積層して第1積層体を得、別途、前記通気性カバー層となる部材と前記プレ捕集層となる部材とを積層して第2積層体を得る。前記第1積層体の前記主捕集層と前記第2積層体の前記プレ捕集層とが内側に位置するように積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材、エアフィルタユニット及びエアフィルタ用濾材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置の製造は、高清浄空間において行われる。この高清浄空間を作るために、例えばポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)からなる多孔膜(以下、PTFE多孔膜という)が集塵フィルタとして用いられている。PTFE多孔膜は、ガラス繊維製濾材に比べて同じ圧力損失で比較したとき塵の捕集効率が高いことから、特に、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)に好適に用いられている。
【0003】
一方において、PTFE多孔膜は、従来より用いられてきたガラス繊維濾材に比べて繊維構造が密となっているため、塵による目詰まりが早く、外気処理ユニットのように塵の捕集負荷の大きな環境で用いられる場合、短時間でエアフィルタユニットの圧力損失が増大する。
【0004】
上記問題に対して、捕獲した塵による目詰まりを防ぎ、圧力損失の増大を抑制できるエアフィルタ用濾材が知られている(特許文献1)。当該エアフィルタ用濾材は、PTFE多孔質膜と繊維製通気性多孔材とを含み、前記多孔質膜の気体の流れの上流側に前記繊維製通気性多孔材が配置され、前記繊維製通気性多孔材は、その繊維径が1〜15μmの範囲にあり、その気孔率が70%以上、その目付け量が60g/m2以上である。
【0005】
また、フィルター用濾材であって圧力損失の増大が抑制されたタービン用吸気フィルタ濾材も知られている(特許文献2)。当該濾材は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と通気性支持材とを含み、前記通気性支持材の繊維径が0.2μm以上15μm以下の範囲にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−300921号公報
【特許文献2】特開2002−370009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の公知の濾材は、濾材の特性として圧力損失の増大を抑制することができるが、エアフィルタユニットに用いたとき、必ずしも望まれるようなエアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制することができない場合がある。具体的には、エアフィルタユニットに用いられる濾材は、プリーツ加工されて山折り、谷折りに折り畳んだジグザグ形状を有するため、濾材そのもの圧力損失の他にエアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失(構造抵抗)も加わり、エアフィルタユニットにおける圧力損失を低下させることは難しい。
【0008】
また、上述の公知の濾材のうち、通気性支持材の繊維径が0.2μm以上15μm以下の濾材では、繊維径の範囲が広く、この範囲のうち繊維径が小さい領域では、通気性支持材内の繊維が密な構造となり、通気性支持材の圧力損失が上昇する場合がある。また、上述の公知の濾材のうち、繊維径が1〜15μmの繊維製通気性多孔材では、繊維径が大きい領域では、塵の捕集効率を得るために繊維製通気性多孔材の厚さ及び目付けを大きくすることが必要となる場合がある。このような濾材を用いたエアフィルタユニットを作製すると、圧力損失を低下させることはできない。
【0009】
そこで、本発明は、エアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制し、エアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失を抑制することができるエアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニット、さらには濾材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材である。
当該エアフィルタ用濾材は、
気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層と、
前記プレ捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集するポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層と、
気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層と、を含む。
【0011】
本発明の他の一態様は、エアフィルタユニットである。
前記エアフィルタユニットは、
前記エアフィルタ用濾材をプリーツ加工したジグザグ形状の加工済み濾材と、
前記加工済み濾材のジグザグ形状を保持するために、前記加工済み濾材の山部または谷部に配置した形状保持部と、
ジグザグ形状が保持された前記加工済み濾材を保持する枠体と、を備える。
【0012】
本発明のさらに他の一態様は、前記エアフィルタ用濾材の製造方法である。
当該方法は、
前記通気性支持層となる部材と前記主捕集層となる部材を積層して第1積層体を得る工程と、
前記通気性カバー層となる部材と前記プレ捕集層となる部材を積層して第2積層体を得る工程と、
前記第1積層体の前記主捕集層となる部材と前記第2積層体の前記プレ捕集層となる部材とが内側に位置するように積層する工程、とを含む。
【発明の効果】
【0013】
上記エアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニット、さらにはその濾材の製造方法によれば、エアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失を抑制することができ、エアフィルタユニットにおいて圧力損失を抑制したエアフィルタユニットを提供することができる。さらに、上記エアフィルタユニットは、主捕集層にPTFE多項膜を用いても、従来用いられているガラス繊維濾材と同程度の寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a),(b)は、本実施形態のエアフィルタ用濾材を用いた本実施形態のエアフィルタユニットの構成を説明する図である。
【図2】本実施形態のエアフィルタユニットに用いる濾材の層構成を示す断面図である。
【図3】(a)は、本実施形態の濾材と形状保持部材の接触を説明する図であり、(b)は、従来の濾材と形状保持部材との接触を説明する図である。
【図4】本実施形態の変形例1の濾材の層構成を示す断面図である。
【図5】(a)は、本実施形態の変形例2のフィルタパックの濾材に設けられるスペーサの配置を説明する図であり、(b)は、(a)中の濾材とスペーサの断面図である。
【図6】本実施形態の変形例3の濾材を説明する斜視図である。
【図7】本実施形態の変形例3の濾材の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のエアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニット、さらにはその濾材の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
[エアフィルタユニット]
図1(a),(b)は、本実施形態のエアフィルタ用濾材を用いた本実施形態のエアフィルタユニットの構成の概略を説明する図である。図1(a)には、エアフィルタユニットに用いるフィルタパックの斜視図が示されている。
エアフィルタパックは、エアフィルタ用濾材(以下、単に濾材という)10と、形状保持部材12と、を有する。濾材10は、シート状の濾材をプリーツ加工して山部、谷部ができるように山折り、谷折りを行ったジグザグ形状の加工済み濾材になっている。形状保持部材12は、上記加工済み濾材のジグザグ形状を保持するために、上記加工済み濾材の各谷部に挿入されるセパレータである。図1(a)に示す形状保持部材12は、薄板をコルゲート加工することによって波形状となっており、上記加工済み濾材の谷部に配置される。これにより濾材10はジグザグ形状を保持している。ジグザグ形状の加工済み濾材において、隣接する山折りの頂部同士あるいは谷折りの底部同士の間隔Dは例えば5〜10mmであり、加工済みエアフィルタパックの幅(図1(a)中のx方向の長さ)100mm当たり10〜20個のプリーツ数(山折りあるいは谷折りの数)となっている。
【0017】
図1(b)には、エアフィルタユニット15の斜視図が示されている。図中、エアフィルタユニット15の天井面を省略して内部にある加工済み濾材である濾材10の一部が見えるように示されている。エアフィルタユニット15は、図1(b)には図示されない形状保持部材12を配置した上記加工済み濾材が、板材を組み合わせて作った枠体14に保持されて構成される。
【0018】
[濾材]
図2は、エアフィルタユニット15に用いる濾材10の層構成を示す断面図である。濾材10は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であり、プレ捕集層20と、主捕集層22と、通気性カバー層24と、通気性支持層26と、を含む。なお、濾材10は、気流が図2中上方から下方に向けて流れるように配置される。すなわち、濾材10において、通気性カバー層24は気流の上流側の濾材10の最表層に位置する。したがって、気流の上流側から通気性カバー層24、プレ捕集層20、主捕集層22、及び通気性支持層26がこの順に積層されている。
【0019】
プレ捕集層20は、主捕集層22の気流の上流側に設けられ、主捕集層22による塵の捕集の前に気流中の塵の一部を捕集する。
プレ捕集層20の材質、構造は特に制限されないが、例えば、メルトブローン法で製造された不織布やエレクトロスピニング法で製造された不織布が用いられる。繊維材料の材質は、例えばポリエチレン(PE)の他、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)等が挙げられる。繊維材料の平均繊維径は、例えば0.1〜5μmであり、好ましくは0.5〜2μmであり、目付けは例えば5〜50g/m2である。繊維径は、小さすぎれば繊維間隔が密になりプレ捕集層20の自体の目詰まりも無視できなくなり、また大きければ単位繊維あたりの捕集効率が低下するので後述するプレ捕集層20に必要な捕集効率を得るためには目付、厚みが大きくなってしまい構造抵抗が大きくなってしまうので好ましくない。繊維径分布の広がりを示す幾何標準偏差は例えば2.5以下であり、好ましく2.0以下である。幾何標準偏差が大きすぎると、単位繊維あたりの捕集効率が低い繊維の割合が増え、後述するプレ捕集層に必要な捕集効率を得るためには目付、厚みを大きくする必要が出てくるためである。
プレ捕集層20の圧力損失は、濾材10全体の圧力損失を、従来のガラス繊維を用いたHEPA用濾材の1/2程度に留めるために、80Pa以下であることが好ましい。また、プレ捕集層20の塵の捕集効率は、除電された状態で50%以上であることが好ましく、プレ捕集層20の捕集効率の上限は99%であることが好ましい。プレ捕集層20の捕集効率が低すぎると、主捕集層22への捕集負荷が高くなってしまい塵による目詰まりが起きる。一方、プレ捕集層20の捕集効率が高すぎるとプレ捕集層20自体の目詰まりが無視できなくなる。
また、プレ捕集層20の厚さは、例えば0.4mm未満とすることが好ましい。プレ捕集層20の厚さが0.4mm以上である場合、エアフィルタユニット15の構造に起因した圧力損失が増大する。このような特性を有するように、プレ捕集層20の繊維材料の材質、繊維径、目付けが選択される。
【0020】
主捕集層22は、プレ捕集層20に対して気流の下流側に配置され、プレ捕集層20を通過した塵を捕集する。主捕集層22は、PTFE多孔膜からなる。
PTFE多孔膜は、PTFEファインパウダーを所定の割合以上の液状潤滑剤と混合したものからPTFE多孔膜を作製する。例えば、PTFEファインパウダーに、PTFEファインパウダー1kg当たり20℃において5〜50質量%の液状潤滑剤を混合して混合体を得る。さらに、得られた混合体を圧延し次いで液状潤滑剤を除去して未焼成テープを得る。さらに、得られた未焼成テープを延伸して多孔膜を得る。このとき、未焼成テープを長手方向に3倍以上20倍以下に延伸した後、長手方向と直交する幅方向に10倍以上50倍以下に延伸することにより、未焼成テープを総面積倍率で80倍以上800倍以下に延伸する。この後、熱固定を行ってPTFE多孔膜が得られる。上記作製方法は、一例であり、PTFE多孔膜の作製方法は限定されない。
PTFE多孔膜の充填率は例えば8%以下、好ましくは3%以上8%以下であり、PTFE多孔膜を構成する繊維の平均繊維径は例えば0.1μm以下であり、PTFE多孔膜の膜厚は例えば50μm以下である。
【0021】
通気性カバー層24は、気流の上流側の、濾材10の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する濾材10表面の変形を抑制する。通気性カバー層24の圧力損失は、濾材10の圧力損失を抑制する点から、気流の流速が5.3cm/秒の条件において10Pa以下であることが好ましく、圧力損失は5Pa以下であり、実質的に0あるいは略0であることがより好ましい。通気性カバー層24の粒子径0.3μmの塵の捕集効率は5%以下であり、実質的に0あるいは略0である。すなわち、通気性カバー層24は、塵を捕集するフィルタとしての機能を有さず、塵を通過させる。このような通気性カバー層24の厚さは、0.3mm以下であることが、濾材10の厚さを余分に厚くせず、濾材10表面の変形を抑制する点で好ましい。
通気性カバー層24は、例えば、スパンボンド不織布が好適に用いられる。スパンボンド不織布の繊維材料には、例えばPP,PE,PET等が用いられ、繊維材料は特に制限されない。繊維材料の平均繊維径は例えば10〜30μmである。目付けは例えば5〜20g/m2である。
【0022】
図3(a)は、濾材10と形状保持部材12の接触を説明する図である。図3(b)は、濾材に通気性カバー層がない場合における接触を説明する図である。
通気性カバー層24は、図1(a)に示すように形状保持部材12が濾材10と接触するとき、図3(a)に示すように形状保持部材12と接触する。このとき、形状保持部材12と接触した濾材10の表面の部分が局部的に変形し凹むが、接触した部分の周りの領域は、反動で盛り上がろうとする。この盛り上がろうとする動きを通気性カバー層24は抑制する。一方、本実施形態のような通気性カバー層24がなく、プレ捕集層が最表層に位置する従来の濾材では、図3(b)に示すように、濾材表面(プレ捕集層表面)の変形により、接触部分の周りの領域Aが盛り上がる。このとき、エアフィルタユニット15に流れる気流は、形状保持部材12と濾材10とで囲まれる狭い空間を図3(a)に示す紙面に対して垂直方向に流れる。このため、図1(a)に示すように形状保持部材12と濾材10とで囲まれた気流の流路の断面積(気流の流れる流路断面積)は僅かに小さくなる。このため、気流の流速は上昇する。また、形状保持部材12と濾材10とで囲まれた気流の流路の断面積が僅かに小さくなるので、気流が流れる流路のサイズ(等価直径)も小さくなる。このため、気流の流路から受ける抵抗は、周知の配管抵抗(流体の流速の2乗に比例し、配管のサイズ(等価直径)に反比例する)に従って増大する。この抵抗の増大が、エアフィルタユニット15の構造に起因した圧力損失の増大につながる。すなわち、本実施形態の通気性カバー層24は、外部からの押圧に対する濾材10表面の変形を抑制することにより、エアフィルタユニット15の構造に起因した圧力損失(構造抵抗)を抑制する。
【0023】
通気性支持層26は、主捕集層22に対して気流の下流側に配置され、主捕集層24を支持する。通気性支持層26の圧力損失は、濾材10の圧力損失を抑制する点から、気流の流速が5.3cm/秒の条件において圧力損失は10Pa以下であることが好ましく、実質的に0あるいは略0であることが好ましい。
通気性支持層26の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、その他の材料を用いることができる。ただし、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。さらに、不織布は、これを構成する一部または全部の繊維が芯/鞘構造の複合繊維であってもよく、この場合は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いとよい。材質についても特に制限されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。芯鞘構造の複合繊維の場合、例えば、芯/鞘が、PET/PE、あるいは、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせが挙げられる。
また、主捕集層22と通気性支持層26の積層体において、曲げ剛性が30g重/mm以上であることが、主捕集層22の気流による変形を通気性支持層26により抑制する点で好ましい。主捕集層22は、圧力損失が大きく、極めて薄く剛性が低いので気流に対する変形を受けやすい。通気性支持層22がない場合、主捕集層22の変形しようとする応力及び歪みがプレ捕集層20との間で働き、最終的にプレ捕集層20の層間破壊を引き起こしてしまう場合がある。このため、主捕集層22と通気性支持層26の積層体において、曲げ剛性が30g重/mm以上であることが好ましい。主捕集層22と通気性支持層26の積層体の曲げ剛性の上限は特に制限されないが、実質的に2000g重/mm以下であることが好ましい。
【0024】
以上の濾材10において、気流の流速が5.3cm/秒であるとき、通気性カバー層24、プレ捕集層20及び主捕集層22の中で主捕集層22の圧力損失が最も大きく、次に、プレ捕集層20が大きく、通気性カバー層24の圧力損失が最も小さい。通気性カバー層24の圧力損失は10Pa以下であり、プレ捕集層20の圧力損失は80Pa以下であり、主捕集層22の圧力損失は100Pa以下であることが、濾材10における圧力損失を190Pa以下にする点で好ましく、この範囲において、エアフィルタユニット15を好適にHEPAフィルタあるいはULPAフィルタに用いることができる。
また、粒子径0.3μmの塵の捕集効率に関して、通気性カバー層24、プレ捕集層20及び主捕集層22の中で主捕集層22の捕集効率が最も大きく、次に、プレ捕集層20が大きい。通気性カバー層24の捕集効率は0あるいは略0である。プレ捕集層20における粒子径0.3μmの塵の捕集効率は、プレ捕集層20の除電状態で50%以上であり、主捕集層22における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、99.9%以上であることが、濾材10において粒子径0.3μmの塵の捕集効率が99.95%以上となる点で好ましく、この範囲において、エアフィルタユニット15を好適にHEPAフィルタに用いることができる。
【0025】
なお、通気性カバー層24とプレ捕集層20とは、例えば、超音波熱融着、反応性接着剤を用いた接着、ホットメルト樹脂を用いた熱ラミネート等を用いて接合することができる。
主捕集層22と通気性支持層26は、例えば、加熱による通気性支持層26の一部の溶融により、あるいはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、あるいは、反応性接着剤等の接着を利用して、接合することができる。
また、プレ捕集層20と主捕集層22とは、例えば、ホットメルト樹脂を用いた熱ラミネートを使用して、あるいは、反応性接着剤等の接着を利用して、接合することができる。
【0026】
[濾材の製造方法]
次に、濾材10の製造方法を説明する。
まず、通気性支持層26となる部材と主捕集層22となる部材をそれぞれ用意し、加熱による通気性支持層26の一部の溶融により、あるいはホットメルト樹脂の溶融により、あるいは、反応性接着剤等の接着を利用して、通気性支持層26となる部材と主捕集層22となる部材とを接合して、第1積層体を得る。
一方、通気性カバー層24となる部材とプレ捕集層20となる部材をそれぞれ用意し、超音波熱融着、反応性接着剤を用いた接着、ホットメルト樹脂を用いた熱ラミネート等と利用して、通気性カバー層24となる部材とプレ捕集層20となる部材を接合して第2積層体を得る。
最後に、上記第1積層体の主捕集層22となる部材と上記第2積層体のプレ捕集層20となる部材とが内側に位置するように配置して、熱ラミネートあるいは反応性接着剤等の接着を利用して、主捕集層22となる部材とプレ捕集層20となる部材とを接合して、濾材10を得る。
このように、第1積層体と第2積層体を別々に作製して濾材10を製造するのは、極めて剛性の低い主捕集層22を精度よく濾材10に積層するためであり、製造時の主捕集層22の積層の作業性を向上させるためである。
【0027】
(変形例1)
本実施形態の濾材10では、図2に示すように、主捕集層22に対して気流の下流側に通気性支持層26が設けられているが、変形例1の濾材は、図4に示すように、主捕集層22の気流の下流側に通気性支持層26が設けられる他、主捕集層22に対して気流の上流側にも通気性支持層28が設けられている。すなわち、濾材10は、気流の上流側から、通気性カバー層24、プレ捕集層20、通気性支持層28、主捕集層22、及び通気性支持層26がこの順に積層されている。通気性支持層28は、通気性支持層26と同様の構成を有してもよいし、異なる構成を有してもよい。通気性支持層28の圧力損失は、気流の流速が5.3cm/秒の条件において10Pa以下であり、実質的に0あるいは略0に近い限りにおいて、通気性支持層28の材質及び構造は、特に制限されない。
通気性支持層28を設けることにより、主捕集層22を図2に示す濾材10に比べてより確実に支持し、プレ捕集層20との間で、層間破壊をより確実に抑制することができる。
また、変形例1においても、気流の最上流側の濾材10の最表層に、通気性カバー層20が設けられているので、形状保持部材12の押圧に対する濾材10表面の変形を抑制することにより、エアフィルタユニット15における構造抵抗を抑制することができる。
【0028】
(変形例2)
本実施形態では、濾材10の形状保持部材12として、図1(a)に示すように、薄板をコルゲート加工することによって波形状となったセパレータが用いられるが、変形例2では、図5(a),(b)に示すように、形状保持部材12として、ジグザグ形状の濾材10の山部及び谷部にホットメルト樹脂を用いたスペーサ32,34が用いられる。図5(a)は、濾材10に設けられるスペーサ34の配置を説明する図である。図5(b)は、図5(a)中の濾材10とスペーサ32,34の断面図である。図5(a)では、濾材10のジグザグ形状が少し開いた状態で図示されている。スペーサ32,34は互いに濾材10の反対側の面の山部の一部を覆うように設けられており、ジグザグ形状を保持する。このスペーサ32,34においても、通気性カバー層24は、スペーサ32,34からの押圧に対する濾材10表面の変形を抑制することにより、エアフィルタユニットにおける構造抵抗を抑制することができる。
【0029】
(変形例3)
本実施形態では、濾材10の形状保持部材12として、図1(a)に示すように、薄板をコルゲート加工することによって波形状となったセパレータが用いられるが、変形例3では、形状保持部材12が用いられず、濾材10自体が、図6に示すようにエンボス突起部を有し、畳み込まれたときエンボス突起部が濾材10のジグザグ形状を保持する形状保持機能を有する。すなわち、エンボス突起は、濾材10のジグザグ形状を保持するために、濾材10の山部または谷部に配置した形状保持部である。
【0030】
図6は、変形例3の濾材10の形状を示す図であり、図7は、変形例3のジグザグ形状の濾材10を展開したときのエンボス突起部の配置を示す図である。このようなエンボス突起部は、ロール状エンボス型あるいは平板状エンボス型を用いた装置で作製される。
具体的には、濾材10の表裏面にドット状のエンボス突起部1A〜1Eが設けられ、濾材10が図6に示すように山折り、谷折りに折り畳まれるとともに、畳まれた際に向かい合うエンボス突起部1A〜1E同士を接触させて濾材10のジグザグ形状を保持する。
エンボス突起部1A〜1Eは、図6に示すように、折り畳んだときに隣接する濾材10の間隔を保持できるように濾材10の両側の面に形成されている。ここで、濾材10に対して、手前側に突出したエンボス突起部は凸突起、その逆側に突出したエンボス突起部を凹突起となる。すなわち、濾材10のある一方の面から見た場合の凹突起は、他方の面から見れば凸突起となる。
このような濾材10においても、折り畳んだときに隣接する濾材10のエンボス突起から受ける押圧に対して、通気性カバー層24が濾材10表面の変形を抑制するので、フィルタユニットにおける構造抵抗を抑制することができる。
【0031】
なお、エンボス突起部1A〜1Eの輪郭形状は、例えば直方体、立方体、角柱、円柱、半球、球帯、角錘台、円錐、角錐、切頭円錐など種々の形状から選択することができる。また、向かい合うエンボス突起部1A〜1Eは必ずしも同じ輪郭形状を有さなくてもよい。
エンボス突起部1A〜1Eの高さは0.1mm〜5.0mmであることが好ましく、0.2mm〜3.5mmであることがさらに好ましい。高さが5.0mmより高い場合、エンボス加工時にPTFE多孔膜を有する濾材10が破損するおそれがある。また高さが0.5mmより低い場合、濾材10の間隔保持が困難になるとともに、エアフィルタユニットにおける構造抵抗が増大する。また、エンボス突起部1A〜1Eの配置個数は、形状、寸法と同様に特に制限されない。
【0032】
また、エンボス突起部1A〜1Eの高さは、折り畳まれた谷部の一番奥の部分(谷底部)では最も低く、徐々にエンボス突起部1A〜1Eの高さを高くすることにより、エンボス突起部1A〜1Eに無理な力が作用せず、濾材10の形状をジグザグ形状に安定して保持することができる。図6に示す例では、凸突起であるエンボス突起部1Eの高さが最も低く、エンボス突起部1Aの高さが最も高く、その間で高さが徐々に変化するようにエンボス突起部1A〜1Eが形成されている。
以上、図1(a),(b)に示すセパレータを用いた実施形態の他に、変形例2、3に示す形態について説明したが、図2あるいは図4に示す層構成のエアフィルタ用濾材10は、図1(a),(b)に示すような、セパレータを形状保持部材12として用いるエアフィルタユニット15に用いることが、本実施形態の効果を発揮する点で最も好ましい。
【0033】
[濾材、エアフィルタユニットの特性]
本実施形態において用いる濾材およびエアフィルタユニットの特性について説明する。
(濾材の圧力損失)
濾材10から有効面積を100cm2とした円形状の試験サンプルを取り出し、円筒形状のフィルタ濾材ホルダに試験サンプルをセットし、空気の濾材通過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、試験サンプルの上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差を濾材10の圧力損失として得た。
【0034】
(濾材の捕集効率)
濾材10の圧力損失に用いた試験サンプルと同様の試験サンプルを、フィルタ濾材ホルダにセットし、空気の濾材透過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、この空気流れの上流側に直径0.3μmのPSL(Polystyrene Latex)粒子を導入し、試験サンプルの上流側と下流側のPSL粒子の濃度を、光散乱式粒子計数器を用いて測定し、下記式に従って濾材10の捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=[1−(下流側のPSL粒子の濃度/上流側のPSL粒子の濃度)]
×100
プレ捕集層20の捕集効率は、試験サンプルの帯電による捕集効率上昇の影響を排除するために、試験サンプルをIPA(イソプロピルアルコール)蒸気に1日曝して除電状態を作った。
【0035】
(厚さ)
ダイヤルシックネスゲージを用い、試験サンプルに10mmφで2.5Nの荷重をかけたときの厚さの値を読み取った。
【0036】
(平均繊維径及び幾何標準偏差)
試験サンプルの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000〜5000倍で撮影し、撮影した1画像上で直交した2本の線を引き、これらの線と交わった繊維の像の太さを繊維径として測定した。測定した繊維数は200本以上とした。こうして得られた繊維径について、横軸に繊維径、縦軸に累積頻度を採って対数正規プロットし、累積頻度が50%となる値を平均繊維径とした。繊維径の分布を表す幾何標準偏差は、上述の対数正規プロットの結果から、累積頻度50%の繊維径と累積頻度84%の繊維径を読み取り下記式より算出した。
幾何標準偏差[−]=累積頻度84%繊維径/累積頻度50%繊維径
【0037】
(曲げ剛性)
濾材10からサイズ150mm×20mmの長尺状の試験サンプルを切り出し、この試験サンプルの長手方向の一端から40mmの範囲の領域を押さえ代にして水平の台から水平方向に突出させて静置した。このときの突出長さ110mmを測定長さとして、水平の台から自重により垂れ下がった垂直方向の変位を測定し、下記式により曲げ剛性を算出した。
曲げ剛性[g重・mm]=濾材10の目付け×(測定長さ)4/8/変位
【0038】
(エアフィルタユニットの圧力損失)
濾材10を用いてプリーツ加工をして、610mm×610mm×290mm(高さ×幅×奥行き)のジグザグ形状の加工済み濾材を作製し、形状保持材12を加工済み濾材の谷部に挟んで形状を保持し、この状態で加工済み濾材を形状保持部材12であるセパレータで保持させてエアフィルタユニット15を作製した。
作製したエアフィルタユニット15を矩形ダクトにセットし、風量を56m3/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニット15の上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差をエアフィルタユニット15の圧力損失として得た。
【0039】
(エアフィルタユニットの捕集効率)
エアフィルタユニット15の捕集効率は、エアフィルタユニットの圧力損失の測定と同様に、エアフィルタユニット15を矩形ダクトにセットし、風量を56m3/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニット15の上流側に直径0.3μmのPSL粒子を導入し、エアフィルタユニット15の上流側と下流側のPSL粒子の濃度を、光散乱式粒子計数器を用いて測定し、濾材の捕集効率と同様の式に従ってエアフィルタユニット15の捕集効率を求めた。
【0040】
(エアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失)
上記エアフィルタユニット15の圧力損失と濾材10の圧力損失とから下記式に従ってエアフィルタユニット15の構造に起因した圧力損失(構造抵抗)を算出した。エアフィルタユニット15の圧力損失の測定時、エアフィルタユニット15における空気の濾材通過速度は4cm/秒であった。したがって、下記式に示すように、濾材10における圧力損失を空気の濾材通過速度を用いて補正をしている。
エアフィルタユニットの構造抵抗 =
エアフィルタユニット15における圧力損失
−濾材10における圧力損失×(4.0/5.3)
【0041】
(エアフィルタユニットにおける寿命)
エアフィルタユニットにおける寿命とは、実環境下、定格風量(例えば56m3/分)で通風した際、初期の圧力損失から250Pa分圧力損失が上昇したときに、濾材単位面積あたりに捕集する塵埃量(g/m2)で表す。本実施形態では、主捕集層22にPTFE多項膜を用いるため、従来より用いられてきたガラス繊維濾材に比べて繊維構造が密となっている。このため、PTFE多項膜では、塵による目詰まりが早く、外気処理ユニットのように塵の捕集負荷の大きな環境で用いられる場合、短時間でエアフィルタユニットの圧力損失が増大することが問題となりやすい。したがって、初期の圧力損失から250Pa分圧力損失が上昇したときに、濾材単位面積あたりに捕集する塵埃量(g/m2)を寿命の指標として用いる。塵埃量(g/m2)が多い程寿命が長いことを表す。塵埃量が10(g/m2)以上であることは、従来より用いられてきたガラス繊維濾材と同程度の寿命であることを意味し、エアフィルタユニットとしての寿命が優れていることを表す。
【0042】
[実施例]
以下、本実施形態の効果を調べるために、以下に示す濾材を用いたフィルタユニットを作製した(サンプル1〜5)。
【0043】
(サンプル1)
・主捕集層22(PTFE多孔膜)の作製
平均分子量650万のPTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF106」)1kg当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において33.5質量%加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出して丸棒形状の成形体を得た。この丸棒形状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。次に、未焼成PTFEフィルムを長手方向に延伸倍率5倍で延伸した。延伸温度は250℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率32倍で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、PTFE多孔膜(充填率が4.0%、平均繊維径が0.053μm、厚さ10μm)である主捕集層22を得た。
【0044】
・通気性支持層26,28
図4に示す通気性支持層26,28として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付け40g/m2、厚さ0.20mm)を用いた。得られた主捕集層22であるPTFE多孔膜の両面に、上記スパンボンド不織布を、ラミネート装置を用いて熱融着により接合して、PTFE積層体を得た。こうして得られたPTFE積層体の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、80Paと99.99%であった。この圧力損失及び捕集効率は、略PTFE多孔膜の特性である。
【0045】
・通気性カバー層24
通気性カバー層24として、平均繊維径が20μmの連続繊維であるPPからなるスパンボンド不織布(目付け10g/m2、厚さ0.15mm)を用いた。
【0046】
・プレ捕集層20
プレ捕集層20として、平均繊維径が1.2μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付け15g/m2、厚さ0.30mm)を用いた。上記通気性カバー層24であるスパンボンド不織布とプレ捕集層20であるメルトブローン不織布を、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、PP積層体(厚さ0.3mm)を得た。こうして得られたPP積層体の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、60Paと60%であった。この圧力損失及び捕集効率は、略メルトブローン不織布の特性である。
最後に、PTFE積層体とPP積層体とを、EVAホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、図4に示す層構成を有する濾材10を得た。濾材10の厚さは0.64mmであった。
濾材10の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、140Paと99.995%であった。熱ラミネートによる圧力損失の上昇はなかった。この圧力損失及び捕集効率は、略プレ捕集層20と主捕集層22による特性である。
【0047】
作製した濾材10を、ロータリ式折り機で260mm毎に山折り、谷折りになるようにプリーツ加工を行い、図1(a)に示すようなジグザグ形状の加工済み濾材をつくった。この後、アルミニウム板をコルゲート加工したセパレータを濾材10の凹部に挿入し、縦590mm×横590mmのフィルタパックを得た。このときのプリーツ数は79であった。
得られたフィルタパックを外寸610mm×610mm(縦×横)、内寸580mm×580mm(縦×横)、奥行き290mmのアルミニウム製の枠体14に固定した。フィルタパックの周囲をウレタン接着剤で枠体14と接着してシールして、エアフィルタユニット15を得た。
【0048】
(サンプル2)
サンプル2に用いた濾材は、図4に示す層構成のように、主捕集層22(PTFE多孔膜)、通気性支持層26,28、プレ捕集層20及び通気性カバー層24を有する。サンプル2のエアフィルタユニット15において、サンプル1のエアフィルタユニット15と異なる点は、濾材10のプレ捕集層20に、平均繊維径が0.9μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付け10g/m2、厚さ0.29mm)を用いた点である。これ以外は、サンプル1と同じである。サンプル2に用いた濾材10の圧力損失及び塵の捕集効率は、175Pa及び99.998%であり、濾材10の厚さは0.62mmであった。
【0049】
(サンプル3)
サンプル3に用いた濾材は、図4に示す層構成のように、主捕集層22(PTFE多孔膜)、通気性支持層26,28、プレ捕集層20及び通気性カバー層24を有する。サンプル3のエアフィルタユニット15において、サンプル1のエアフィルタユニット15と異なる点は、プレ捕集層20に、平均繊維径が2.0μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付け30g/m2、厚さ0.40mm)を用いた点である。これ以外は、サンプル1と同じである。サンプル3に用いた濾材10の圧力損失及び塵の捕集効率は、165Pa及び99.993%であり、濾材10の厚さは0.72mmであった。
【0050】
(サンプル4)
サンプル4に用いた濾材は、図4に示す層構成(主捕集層22(PTFE多孔膜)、通気性支持層26,28、及びプレ捕集層20)と同様の層構成を有する。サンプル4のエアフィルタユニットにおいて、サンプル1のエアフィルタユニット15と異なる点は、サンプル4では、通気性カバー層24が設けられなかった点である。これ以外はサンプル1と同じである。サンプル4に用いた濾材の圧力損失及び塵の捕集効率は、140Pa及び99.995%であり、濾材の厚さは0.62mmであった。
【0051】
(サンプル5)
サンプル5に用いた濾材は、図4に示す層構成(主捕集層22(PTFE多孔膜)、通気性支持層26,28、及びプレ捕集層20)と同様の層構成を有する。サンプル5のエアフィルタユニットにおいて、サンプル1のエアフィルタユニットと異なる点は、サンプル5では、濾材に通気性カバー層24が設けられず、プレ捕集層に、サンプル3と同様に、平均繊維径が2.0μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付け30g/m2、厚さ0.40mm)を用いた点である。これ以外は、サンプル3と同じである。サンプル5に用いた濾材の圧力損失及び塵の捕集効率は、165Pa及び99.993%であり、濾材の厚さは0.72mmであった。
【0052】
このようなサンプルの濾材を用いてエアフィルタユニットにおける圧力損失および塵の捕集効率を測定した。さらに、圧力損失の測定結果から、上述したエアフィルタユニットの構造抵抗の式を用いて各サンプルにおける構造抵抗を算出した。下記表1,2にその結果を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
サンプル1とサンプル4とは、通気性カバー層24の有り、無しの違いである。通気性カバー層24の有るサンプル1は、通気性カバー層24の無いサンプル4対比、構造抵抗が大きく低減していることがわかる。また、同様に、サンプル3及びサンプル5は、いずれもプレ捕集層20の平均繊維径が2.0μmであるが、サンプル3は通気性カバー層24を有し、サンプル5は通気性カバー層24を有さない。この場合においても、通気性カバー層24を有するサンプル3の構造抵抗は、通気性カバー層24を有さないサンプル5の構造抵抗対比、大きく低減する。これより、通気性カバー層24は、エアフィルタユニット15における構造に起因した圧力損失(構造抵抗)を低減することがわかる。
なお、サンプル2の構造抵抗はサンプル1と同様に低いが、エアフィルタユニット15における圧力損失は大きい。これは、プレ捕集層20の平均繊維径が細くなったため、濾材10における圧力損失が増大したことに起因する。このため、エアフィルタユニット15の圧力損失を抑制するためには、構造抵抗とともに、プレ捕集層20の圧力損失を低下させることが重要である。このため、プレ捕集層20における平均繊維径を1μm以上2μm未満とすることにより、プレ捕集層20の圧力損失を抑制することができる。実際、プレ捕集層20における平均繊維径を1μm以上2μm未満とするサンプル1のエアフィルタユニット15における圧力損失は、サンプル2に対して低減する。
サンプル3では、濾材10における捕集効率をサンプル1と略同様の値に維持するためにプレ捕集層20における目付けを高くし濾材10の厚さが厚くなっている。このため、サンプル1,2対比サンプル3の構造抵抗も高くなっている。しかし、この構造抵抗は、通気性カバー層24を有さない同じプレ捕集層20の構造を有するサンプル5対比、低減している。
また、表1より、サンプル1〜5のいずれにおいても、初期の圧力損失から250Pa分圧力損失が上昇したときに、濾材単位面積あたりに捕集する塵埃量(g/m2)が、いずれも10(g/m2)以上であり、PTFE多孔膜の代わりに用いられた従来のガラス繊維濾材を有するエアフィルタユニットと略同じ寿命を有することがわかる。
【0056】
以上のように、エアフィルタユニットにおける圧力損失を低減するためには、濾材による圧力損失の他に、エアフィルタユニットにおける構造抵抗を低減することが重要である。このとき、実施例に示すように、プレ捕集層の気流上流側、特に濾材の最上流側の位置に通気性カバー層を設けることで、構造抵抗を低減することができる。
【0057】
以上、本発明のエアフィルタ用濾材、エアフィルタユニット及びエアフィルタ用濾材の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0058】
10 エアフィルタ用濾材
12 形状保持部材
14 枠体
15 エアフィルタユニット
20 プレ捕集層
22 主捕集層
24 通気性カバー層
26,28 通気性支持層
32,34 スペーサ
1A,1B,1C,1D,1E エンボス突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、
気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層と、
前記プレ捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集するポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層と、
気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層と、を含むことを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記通気性カバー層は、スパンボンド不織布により構成される、請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記通気性カバー層は、前記プレ捕集層に隣接している、請求項1または2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
気流の流速が5.3cm/秒であるとき、前記通気性カバー層の圧力損失は10Pa以下であり、前記プレ捕集層の圧力損失は80Pa以下であり、前記主捕集層の圧力損失は100Pa以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記通気性カバー層の厚さは、0.3mm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
前記プレ捕集層における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、前記プレ捕集層の除電状態で50%以上であり、前記主捕集層における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、99.9%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
前記プレ捕集層は、メルトブローン法あるいはエレクトロスピニング法で製造された繊維材料で構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項8】
前記プレ捕集層の前記繊維材料の平均繊維径は、1μm以上2μm未満である、請求項7に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項9】
前記プレ捕集層の厚さは、0.4mm未満である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項10】
さらに、前記主捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記主捕集層を支持する通気性支持層を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項11】
前記主捕集層と前記通気性支持層の積層体において、曲げ剛性が30g重/mm以上である、請求項10に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項12】
前記通気性支持層は、スパンボンド不織布により構成される、請求項11に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項13】
気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層と、前記プレ捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集するポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層と、気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層と、を含むエアフィルタ用濾材をプリーツ加工したジグザグ形状の加工済み濾材と、
前記加工済み濾材のジグザグ形状を保持するために、前記加工済み濾材の谷部または山部に配置した形状保持部と、
ジグザグ形状が保持された前記加工済み濾材を保持する枠体と、を備えることを特徴とするエアフィルタユニット。
【請求項14】
気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層と、前記プレ捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集するポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層と、気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層と、前記主捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記主捕集層を支持する通気性支持層を含むエアフィルタ用濾材の製造方法であって、
前記通気性支持層となる部材と前記主捕集層となる部材を積層して第1積層体を得る工程と、
前記通気性カバー層となる部材と前記プレ捕集層となる部材を積層して第2積層体を得る工程と、
前記第1積層体の前記主捕集層となる部材と前記第2積層体の前記プレ捕集層となる部材とが内側に位置するように積層する工程、とを含むことを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−63424(P2013−63424A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189882(P2012−189882)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】