説明

エアフィルタ用濾材およびその製造方法

【課題】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を含むエアフィルタ用濾材におけるリーク現象を抑制する。
【解決手段】少なくとも1層のPTFE多孔質膜1と少なくとも1層の通気性支持材2とが積層された積層体であって、表面電位の絶対値が0.3kV以下であるエアフィルタ用濾材とする。濾材はW字状に折り畳まれている。表面電位の絶対値を上記範囲とすると、素手との接触などによる放電(スパーク)に起因する貫通孔形成を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と略す)多孔質膜を用いたエアフィルタ用濾材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリーンルームでは、ガラス繊維にバインダーを加えて抄紙したエアフィルタ用濾材が多用されてきた。このような濾材にはいくつかの問題がある。例えば、濾材中には付着小繊維が存在し、折曲げ加工時には自己発塵し、フッ酸などある種の化学薬品と接触すると劣化して発塵する。また、バインダー成分からのオフガスが製造歩留まりを低下させる。そこで近年、PTFE多孔質膜が半導体工業などのクリーンルームにおいて、高性能フィルタ材料として使用されている。特開平5−202217号公報に記載されているPTFE多孔質膜はその一例である。PTFE多孔質膜はコシがないため、通常、補強のために、他の通気性材料と積層してから濾材として使用される。濾材は連続したW字状に折り曲げられ(プリーツ加工され)、対向する濾材表面が接触しないようにホットメルトなどでビードが形成され、さらに金属枠などで枠付けされてエアフィルタユニットとなる。
【0003】
濾材のプリーツ加工は、一般には以下の方法で行われている。
(i)外周にブレードを配置した一対の回転ドラムを回転させながら濾材をひだ折りしていくロータリー方式と呼ばれる方法。
(ii)濾材移送方向に所定の間隔をおいて配置した一対のブレードを移動させながら濾材を両面から交互に折り畳んでいくレシプロ方式と呼ばれる方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体からなるエアフィルタ用濾材は、その積層工程およびフィルタユニットヘの加工工程において、摩擦により帯電しやすい。帯電して表面電位が高くなった濾材に導電体が近づいたり人間が素手で触れたりすると、放電(スパーク)が発生して濾材に貫通孔が形成されることがある。貫通孔が形成されると、濾材の捕集効率が低下し、貫通孔断面の短径よりも小さい粒径の粒子について捕集効率の粒子径依存性がなくなる、いわゆるリーク現象が発生する。特に、積層工程では、積層された濾材がロール状に幾重にも巻き取られることが多いため、濾材の表面電位が増加しやすい。プリーツ加工工程後においても、折り畳まれた積層体が重ね合わされた状態で保管されると、濾材の表面電位が増加する。また、プリーツ加工自体が大きな摩擦を伴う工程であるため、プリーツ加工した濾材の表面電位は高くなっていることが多い。このため、巻き取られたり折り込まれた濾材については、特にリーク現象が発生しやすくなる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたもので、PTFE多孔質膜を含むエアフィルタ用濾材におけるリーク現象を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアフィルタ用濾材は、少なくとも1層のPTFE多孔質膜と少なくとも1層の通気性支持材とが積層された積層体であって、表面電位の絶対値が0.3kV以下であることを特徴とする。
【0007】
表面電位は、測定の対象とする帯電体に接近する導体の電位を測定することにより知ることができ、具体的には、市販の表面電位計を用いれば簡便に測定できる。表面電位の絶対値を0.3kV以下(表面電位が−0.3〜0.3kVの範囲内)とすれば、例えば素手で触れた程度では放電が発生しなくなるから、貫通孔の形成を抑制できる。
【0008】
本発明のエアフィルタ用濾材は、連続したW字状に折り畳まれた状態でも、表面電位の絶対値が上記範囲内となるように低減されていることが好ましい。また、本発明によれば、積層体がロール状に巻き取られており、巻き取られた巻回体の最外周面における表面電位の絶対値が0.3kV以下であるエアフィルタ用濾材を提供することもできる。W字状に折り畳まれた形態、ロール状に巻回された形態は、保管、移送、出荷などの際に多用されるため、これら形態における表面電位を上記範囲内としてリーク現象の発生を抑制することが好ましい。
【0009】
本発明の第1のエアフィルタ用濾材の製造方法は、少なくとも1層のPTFE多孔質膜と少なくとも1層の通気性支持材とを含む積層体を作製する工程と、(i)上記積層体、および(ii)上記積層体を構成する材料、から選ばれる少なくとも一つの帯電を低減させる工程とを含むことを特徴とする。この製造方法は、積層体を連続したW字状に折り畳む工程をさらに含み、帯電を低減させる工程を、少なくとも、折り畳んだ積層体に適用することが好ましい。プリーツ加工に伴う帯電を除去するためである。
【0010】
本発明の第2のエアフィルタ用濾材の製造方法は、少なくとも1層のPTFE多孔質膜と少なくとも1層の通気性支持材とを含む積層体であるエアフィルタ用濾材の製造方法であって、上記PTFE多孔質膜を得るためのPTFE成形体の延伸処理および上記積層体を構成する材料の積層処理から選ばれる少なくとも一方の処理を、ロール状巻回体として準備した処理対象体の繰り出し、繰り出した処理対象体の処理、および処理後の処理対象体のロール状巻き取りを含む一連の工程として、かつ処理対象体の帯電低減処理を行いながら実施することにより、処理後の処理対象体を帯電が低減された状態で順次巻き取っていくことを特徴とする。ロール状に巻回してからでは、濾材(または濾材を構成するPTFE多孔質膜)の帯電の低減を効果的に行えないが、帯電を低減しながら巻回していくと、巻回して多層に重ね合わせても表面電位が低い濾材(またはPTFE多孔質膜)を容易に得ることができる。
【0011】
なお、上記第2の製造方法において、処理が延伸の場合、処理前の処理対象体はPTFE成形体であり、処理後の処理対象体はPTFE多孔質膜である。処理が積層の場合、処理前の処理対象体は複数の積層材料(PTFE多孔質膜、通気性支持材、またはこれらを予め積層した多層体)であり、処理後の積層材料は積層体、すなわち濾材である。延伸および積層の連続処理を行う場合は、処理前の処理対象体はPTFE成形体とその他の積層材料であり、処理後の処理対象体は濾材である。
本発明の製造方法では、各種の処理対象体と非接触で、例えばイオンを吹きつけることにより、帯電を低減させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以下に説明するように、本発明によれば、PTFE多孔質膜を含むエアフィルタ用濾材におけるリーク現象を抑制し、製造歩留まりの向上、品質の安定化などを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のエアフィルタ用濾材の一形態の断面図である。
【図2】本発明のエアフィルタ用濾材の別の一形態の断面図である。
【図3】本発明のエアフィルタ用濾材のまた別の一形態の断面図である。
【図4】帯電低減処理を行う装置の一例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の濾材の一形態の断面図であり、図2は、同濾材の別の一形態の断面図である。両図面に示されているように、本発明の濾材は、PTFE多孔質膜1および通気性支持材2がそれぞれ少なくとも1層ずつ含まれた積層体である。両図面では、PTFE多孔質膜1と通気性支持材2とが交互に積層されているが、本発明の濾材はこれに限らず、PTFE多孔質膜1または通気性支持材2を連続して重ね合わせた積層部分を含んでいてもよい。
【0016】
図3は、プリーツ加工されたエアフィルタ用濾材の一例の断面図である。長尺の濾材を長さ方向に所定の間隔をおいて交互に山折り/谷折りしていくと(プリーツ加工を施すと)、断面方向から見て連続したW字状の濾材を得ることができる。プリーツ加工の方式としては、上記2方式(ロータリー式、レシプロ式)が知られている。
【0017】
PTFE多孔質膜は、従来から知られている方法により製造したものを用いればよい。この多孔質膜の製造方法の一例を以下に説明する。まず、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えたペースト状の混和物を予備成形する。液状潤滑剤はPTFEファインパウダーの表面を濡らすことができて、抽出や加熱によって除去できるものであれば特に制限されず、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイルなどの炭化水素を使用できる。液状潤滑剤の添加量はPTFEファインパウダー100重量部に対して5〜50重量部程度が適当である。上記予備成形は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力で行うとよい。次に予備成形体をペースト押出や圧延によってシート状に成形し、このPTFE成形体を少なくとも一軸方向に延伸してPTFE多孔膜を得る。なお、PTFE成形体の延伸は液状潤滑剤を除去してから行うことが好ましい。通常、延伸温度は、20℃以上でPTFEの融点未満、延伸倍率は、面積倍率で50倍以上とするとよい。
【0018】
PTFE多孔質膜は、特に限定されるものではないが、平均孔径0.01〜5μm、平均繊維径0.02〜0.3μm、5.3cm/秒の流速で空気を透過させたときの圧力損失が5〜100mmH2O(以下、本明細書における圧力損失は上記条件による)であることが好ましい。上記特性を有するPTFE多孔質膜は、エアフィルタ用濾材に適しているが、その一方で、蓄積した電荷の放電(スパーク)によるリーク現象が生じやすくなる。したがって、本発明の適用が特に好ましい。
【0019】
通気性支持材は、材質、構造,形態が特に限定されるものではないが、PTFE多孔質膜より孔径が大きく通気性に優れた材料、例えば、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、その他の多孔質材料を用いることができる。ただし、強度、柔軟性、作業性の点からは不織布が好ましい。さらに、不織布を構成する一部または全部の繊維が芯鞘構造の複合繊維であり、芯成分が鞘成分より相対的に融点が高い合成繊維であることが好ましい。なお、通気性支持材の材料としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)、ポリアミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、芳香族ポリアミドまたはこれらの複合材を用いることができる。
【0020】
通気性支持材とPTFE多孔質膜とを積層する方法、あるいは通気性支持材と通気性支持材とを積層する方法は、単に重ね合わせるだけでもよく、例えば接着剤ラミネート、熱ラミネートなどを適用してもよい。例えば、熱ラミネートにより積層する場合は、加熱により不織布など通気性支持材の一部を溶融させて積層すればよい。また、粉粒状、網目状のホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤などを用いて積層してもよく、感圧性接着剤を用いて、点状、筋状、網目状などに接着してもよい。
【0021】
一方、PTFE多孔質膜とPTFE多孔質膜を積層する方法も、特に限定されるものではない。ただ単に重ね合わせるだけでもよいし、成膜時に圧着積層する方法や熱融着する方法などを採用してもよい。
【0022】
以下、表面電位を低減した濾材を得る方法の一例について説明する。
【0023】
帯電を低減する処理(帯電低減処理)は、摩擦や剥離による帯電が発生する工程の後に(可能であれば引き続いて)行うとよい。帯電が発生しやすい工程としては、具体的には、PTFE成形体の延伸工程、積層材料の積層工程が挙げられる。これらの工程が実施されるごとに帯電低減処理を行うと確実に表面電位の絶対値を低くできるが、本発明の目的を達成できる限りにおいて、例えば、延伸工程、積層工程を引き続き行ってから、これら工程において発生した電荷をまとめて低減してもよく、あるいは、PTFEの延伸工程においてのみ帯電を低減することとしてもよい。プリーツ加工工程においても、積層体とブレードとの摩擦により濾材に電荷が蓄積されやすくなる。濾材をプリーツ加工する場合には、少なくとも1回の帯電低減処理を、プリーツ加工した濾材に対して行うことが好ましい。
【0024】
濾材を製造する各工程では、長尺物をロール状に巻き取った巻回体から、当該工程における処理(例えば積層)対象となる材料が繰り出され、処理後の材料を再び順次巻き取っていく方法が採用されることが多い。しかし、この巻回体からの繰り出し、処理中の取り回し、および処理後の巻き取りの際には、ロールなどとの摩擦などによる帯電が発生しやすくなる。その一方、一旦ロール状に巻き取って巻回体とすると、発生した帯電の低減が容易ではなくなる。そこで、処理後の材料をロール状に巻き取っていく方法を採用する場合は、当該材料が巻き取られて巻回体の内部に埋没するまでに帯電低減処理を順次行うことにより、帯電を低減することが好ましい。
【0025】
巻回体に対する帯電処理の例を、通気性支持材とPTFE多孔質膜との熱ラミネートによる積層工程について、図4を参照して説明する。通気性支持材のロール状巻回体8およびPTFE多孔質膜のロール状巻回体9からそれぞれ繰り出された通気性支持材2およびPTFE多孔質膜1は、ターンロール5による方向転換によって互いに重ね合わされる。そして、加熱ロール3の表面に沿って進行しながら加熱され、加熱ロール3とピンチロール6とに挟まれて通気性支持材2がPTFE多孔質膜1の両側を挟持するように接合される。この濾材は、さらにシリコーンロール4、ターンロール5により導かれ、巻き取られて、濾材のロール状巻回体10となる。この工程では、帯電低減処理を、繰り出された通気性支持材、PTFE多孔質膜、および巻き取られる前の濾材から選ばれる少なくとも1つの処理対象体に対して行えばよい。図示した例では、巻回体8,9からの繰り出し部、および巻回体10への巻き取り部の近傍に、それぞれ帯電除去装置7を配置し、通気性支持材、PTFE多孔質膜、濾材のすべてに対して帯電低減処理が行われる。
【0026】
帯電低減処理は、帯電を低減できればその方式に特に制限はなく、各種の帯電除去装置を用いて行うことができる。PTFE多孔質膜またはこれを含む積層体を処理対象とする帯電低減処理は、局部的かつ急激な蓄積電荷の移動を伴わない方法によりスパークの発生を防止しながら行うことが望まれる。このような帯電低減処理としては、処理対象が他の部材と接触することなく行われる処理、具体的には、イオンを処理対象体に吹きつける方法、特に陽イオンと陰イオンとを吹きつける方法が好ましい。
【0027】
こうして、表面電位の絶対値を0.3kV以下、好ましくは0.1kV以下として、リーク現象を防止した(好ましくは粒子径0.1〜0.3μmの範囲で捕集効率の粒子径依存性が確認できる)エアフィルタ用濾材を提供できる。下記実施例の欄に示すように、表面電位の絶対値が高すぎてスパークが発生した濾材では、上記粒子径依存性が確認できなくなる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に制限されない。なお、表面電位は、すべて春日電機株式会社製「KSD−0103」により測定した。この表面電位計は、一般的な表面電位計と同様、測定対象体に接近させた導体の電位から測定対象体の電位を測定する方式を採用している。
【0029】
以下の実施例において捕集効率は下記方法により測定した。
【0030】
(捕集効率の測定方法)
サンプルを有効面積100cm2の円形のホルダーにセットし、入口側と出口側に圧力差を与え、このサンプルを通過する空気の流速を流量計で5.3cm/秒に調整し、上流側に多分散ジオクチルフタレート(DOP)を、粒子径0.1〜0.2μmの粒子が4×108個/リットル、粒子径0.2〜0.3μmの粒子が6×107個/リットルとなるように供給し、上流側の粒子濃度とサンプルを透過してきた下流側の粒子濃度とをパーティクルカウンターで測定し、以下の式で捕集効率を求めた。
【0031】
(捕集効率)
捕集効率(%)=(1−下流側粒子濃度/上流側粒子濃度)×100
【0032】
(捕集効率の粒子径依存性の判定方法)
粒子径範囲が0.1〜0.2μmにおける捕集効率をX、粒子径範囲が0.2〜0.3μmにおける捕集効率をYとして、下記表のリーク判定基準を満たす場合に、粒子径が0.1〜0.3μmの範囲で粒子径依存性が認められる(リークがない)ものとする。
【0033】
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
条 件 判 定 基 準
――――――――――――――――――――――――――――――――――
X≧99.99994% 下流側粒子カウント数≦5個*
(粒子径範囲:0.2〜0.3μm)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
X<99.99994% (1−X/100)≧(1−Y/100)×10
――――――――――――――――――――――――――――――――――
*「下流側粒子カウント数」は、粒子径範囲が0.2〜0.3μmのDOPを用いた測定を、1分間行ったときのカウント数(以下、同様)
【0034】
(実施例1)
PTFEファインパウダーに液状潤滑剤20重量(wt)%を加えたぺースト状の混和物を予備成形し、ぺースト押出により丸棒状に成形した。成形物を厚み0.2mmに圧延し、液状潤滑剤を除去し、さらに二軸延伸してPTFE多孔質膜(厚さ:10μm、気孔率:93%、平均孔径:1.0μm、平均繊維径:0.2μm、圧力損失:18mmH2O、捕集効率:99.999%)を得た。引き続き、このPTFE多孔質膜と、不織布(ユニチカ社製エルベスTO303WDO:PET/PE芯鞘不織布)とを熱ラミネートにより接着した。PTFE多孔質膜と不織布とは、図1に示した断面と同様、3層の不織布の間に2層のPTFE多孔質膜が介在する構成となるように積層した。
【0035】
PTFE多孔質膜の延伸工程、不織布との積層工程では、それぞれ、ロール状の巻回体から材料を繰り出し、所定の処理(延伸、積層)の後に材料をロール状に巻き取った。このとき、上記両工程における繰出部および巻取部に、それぞれ帯電除去装置(送風型静電気除去装置;春日電機製BLT−1000)を設置して帯電除去処理を行いながら延伸および積層を行った。この装置は、陽イオンと陰イオンとを吹きつけることによって処理対象物の帯電を低減する方式を採用している。こうして、厚み0.35mmのエアフィルタ用濾材を、濾材積層数が300層である巻回体として得た。巻回した濾材の最表層の表面電位を測定したところ、0.1kVであった。また、巻回体から絶縁手袋を着用して0.5mほど引き出した濾材単体の表面電位を測定したところ、0.1kVであった。
【0036】
さらに、ロール状に巻き取られた状態の上記濾材に素手で触れ、素手で触れた部分の捕集効率を測定した。粒子径0.1〜0.2μmの粒子の捕集効率は99.999994%であり、粒子径0.2〜0.3μmの粒子についての下流側カウント数は0個であった。こうして、この濾材における粒子径依存性が確認できた。
【0037】
(実施例2)
実施例1により得た濾材をレシプロ方式のプリーツマシンでW字状にひだ折りし、プリーツマシンの濾材移送下流側に設置した帯電除去装置(同上)を用いて連続して帯電除去しながらプリーツ加工したエアフィルタ用濾材を得た。絶縁手袋を着用して濾材を引き伸ばし、表面電位を測定したところ0.2kVであった。さらに、引き伸ばした濾材を素手で触れ、素手で触れた部分の捕集効率を測定したところ、粒子径0.1〜0.2μmの粒子の捕集効率は99.999999%であり、粒子径0.2〜0.3μmの粒子についての下流側カウント数は0個であった。こうして、この濾材における粒子径依存性が確認できた。
【0038】
(比較例1)
PTFE多孔質膜の延伸工程、不織布との積層工程において、帯電除去装置による帯電除去を省いた点を除いては、実施例1と同一の条件でエアフィルタ用濾材(厚み:0.35mm)を得た。濾材積層数が300層の巻回体として得られた濾材の最表面電位は45kVであった。巻回体から絶縁手袋を着用して0.5mほど引き出して測定した濾材単層の表面電位は0.4kVであった。
【0039】
さらに、ロール状に巻き取られた状態の上記濾材に素手で触れ、素手で触れた部分の捕集効率を測定した。粒子径0.1〜0.2μmの粒子の捕集効率は99.99984%であり、粒子径0.2〜0.3μmの粒子の捕集効率は99.999922%であった。この濾材では、粒子径依存性が確認できなかった。
【0040】
(比較例2)
実施例1で得られた濾材をレシプロ方式のプリーツマシンでW字状にプリーツ加工した。このプリーツ加工工程では帯電除去装置による帯電除去を行わなかった。絶縁手袋を着用して濾材を引き伸ばして測定した濾材の表面電位は−0.5kVであった。さらに、引き伸ばしたプリーツ加工濾材を素手で触れ、素手で触れた部分の捕集効率を測定したところ、粒子径0.1〜0.2μmの粒子の捕集効率は99.99928%であり、粒子径0.2〜0.3μmの粒子の捕集効率は99.99974%であった。この濾材では、粒子径依存性が確認できなかった。
【0041】
以上のように、帯電を低減した各実施例の濾材では、素手で触れても、各比較例において発生したリーク現象を防止できることが確認できた。具体的には、各実施例では、粒子径0.1〜0.2μmの粒子についての捕集効率が99.99994%以上であり、粒子径0.1〜0.3μmの範囲で捕集効率に粒子径依存性が確認されない濾材を作製できた。
【符号の説明】
【0042】
1 PTFE多孔質膜
2 通気性支持材
3 加熱ロール
4 シリコーンロール
5 ターンロール
6 ピンチロール
7 帯電除去装置
8 通気性支持材のロール状巻回体
9 PTFE多孔質膜のロール状巻回体
10 濾材のロール状巻回体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンのみから形成されたポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を少なくとも1層と少なくとも1層の通気性支持材とを含む積層体であって、表面電位の絶対値が0.3kV以下であることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
連続したW字状に折り畳まれた請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
積層体がロール状に巻き取られており、巻き取られた巻回体の最外周面における表面電位の絶対値が0.3kV以下である請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−228687(P2012−228687A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124623(P2012−124623)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【分割の表示】特願2001−76395(P2001−76395)の分割
【原出願日】平成13年3月16日(2001.3.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】