説明

エアフィルタ用濾材及びその製造方法

【課題】ガラス繊維を主体繊維とする濾材において、使用する撥水剤の量を最小限にし、
かつ、高い撥水性と高い強度を有するエアフィルタ用濾材を提供することである。
【解決手段】ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ用濾材において、該ガラス繊維同士の交絡点を合成樹脂バインダーで接着せしめた濾材において、該ガラス繊維の表面に合成樹脂バインダーを付着後に完全に乾燥させることなく、濾材中に15〜67.5質量%の水分を残した半乾燥状態において、撥水剤を均一に付着させることを特徴とするエアフィルタ用濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム、クリーンベンチ、ビル空調用エアフィルタ、空気清浄用途などに使用されるエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中のサブミクロン、又はミクロン単位の粒子を効率的に捕集するためにエアフィルタによる捕集技術が用いられてきた。エアフィルタは、その対象とする粒子径や除塵効率の違いにより粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタなどに大別される。これらエアフィルタの多くは不織布状、織布状、マット状などの繊維層エアフィルタ用濾材が使用され、特に、中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタには不織布状のガラス繊維製エアフィルタ用濾材が広く用いられている。一般的に、このガラス繊維は、湿式抄紙法によりシート化され、濾材として形成される。
【0003】
湿式抄紙法による製造方法とは、例えば、濾材を構成するガラス繊維をパルパーなどの分散機を用いて水中に分散させ、このスラリーを抄紙機でシート形成する方法が知られている。ここで、ガラス繊維には自己接着性がほとんどないため、ほとんどの場合において、濾材使用時に必要とされる強度を付与するために、合成樹脂バインダーが使用される。一般的に、合成樹脂バインダーは、水溶液又は水系エマルジョンの形のものが、浸漬又はスプレーなどによって濾材に添加される。また、同時に濾材に実用上必要とされる撥水性を付与するために、撥水剤が使用される。
【0004】
ここで本発明における撥水性とは、MIL−STD−282の測定方法で規定されるものである。濾材に撥水性を付与することにより、例えば、濾材をエアフィルタユニットに加工する際に使用するシール剤やホットメルト等のしみ込みを防ぐことができる。また、濾材面に水がかかったり、温度変化による結露したりした場合でも、そのまま濾材を利用できる。また、海塩粒子が多く存在するような環境下では、捕集された塩分の潮解を防ぐために高撥水性を有する濾材が必要とされている。
【0005】
MILスペックにおいては、HEPA濾材に必要とされる撥水性については水柱高508mm以上と規定されている。但し、HEPA濾材全てがこの規格に準拠している訳ではなく、その使用状況により、適切な撥水性が設定されている。また、1次側フィルタやビル空調に使用される中性能濾材については特に撥水性に関する規定はないが、前記の理由より撥水性が必要とされている。
【0006】
ガラス繊維を主体としたエアフィルタ用濾材への撥水性の付与方法としは、湿式抄紙したガラス繊維シートにシリコーン樹脂やフッ素樹脂とシリコーン樹脂などの撥水剤を先に繊維シートに付着させ、その後合成樹脂バインダーを付着させて乾燥させる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜2)。しかしこの方法では濾材最表面上は合成樹脂バインダー膜で覆われるため、撥水剤は合成樹脂バインダーの膜に覆われてしまい、付着している撥水剤の効果が十分に得られないという問題があった。
【0007】
別の撥水剤付与方法としては、合成樹脂バインダーと撥水剤(例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、パラフィンワックス又はアルキルケテンダイマー)の混合液をガラス繊維シートへ付与する方法が提案されている(例えば、特許文献3〜4参照)。しかし、この方法では撥水剤は合成樹脂バインダーと一緒に濾材表面上にまだらに付着し、部分的にバインダー膜に覆われてしまう。その結果、濾材最表面上に撥水剤の存在が少なくなり、付着している撥水剤の効果を弱めることとなる。そのため、撥水性を維持するためには混合液中の撥水剤の添加量を多くする必要があるが、撥水剤の添加量を多くすると、撥水剤成分が合成樹脂バインダーとガラス繊維の接着性を阻害してしまうため、濾材の強度が低下するという問題があった。さらに、撥水剤の使用量が増えるとコストアップとなる問題もあった。
【0008】
別の撥水性の付与方法としては、合成樹脂バインダーにより繊維が接着されたガラス繊維シートに対してガラス繊維表面を加水分解性基を有するオルガノシランによりスプレー処理する方法が提案されている(例えば、特許文献5)。この方法では高い撥水性を得ることができる。しかしながら、濾材表面を無機バインダーで覆うことになるので、加工時の折り割れに対して脆くなるという問題があった。
【0009】
以上のように、従来の撥水剤付与の方法では撥水剤の効果を十分に出すことが出来ず、高い撥水性を得るためには大量の撥水剤を使用しなければならず、その結果、強度が低下するという問題があった。また、使用薬品量が増える結果、コストアップとなる問題もあった。以上のように高い強度や加工特性を維持したまま高い撥水性を持つ濾材はいまだ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−41499号公報
【特許文献2】特開平2−175997号公報
【特許文献3】国際公開第02/16005号パンフレット
【特許文献4】国際公開第97/04851号パンフレット
【特許文献5】特開平7−328355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガラス繊維を主体繊維とする濾材において、使用する撥水剤の量を最小限にし、かつ、高い撥水性と高い強度を有するエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は鋭意検討した結果、ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ用濾材において、該ガラス繊維同士の交絡点を合成樹脂バインダーで接着せしめた濾材において、該エアフィルタ用濾材の最表面上の撥水剤成分の分布状態が撥水性に大きな影響を与えているという実験結果に着目し、本発明に到った。
【0013】
即ち、本発明に関わるエアフィルタ用濾材は、濾材を構成するガラス繊維を分散させたスラリーを湿式抄紙法で得た湿紙に該ガラス繊維同士の交絡点を合成樹脂バインダーで接着せしめた濾材において、該ガラス繊維の表面に合成樹脂バインダーを付着後に完全に乾燥させることなく、濾材中に15〜67.5質量%の水分を残した半乾燥状態において、撥水剤が均一に付着されていることを特徴とするエアフィルタ用濾材である。なお、本発明における「均一な付着」とは、濾材表面上のどの点においても水の吸収がほぼ同じでバラツキがないことを指している。
【0014】
さらに、本発明は、ガラス繊維を主とする原料繊維を分散させたスラリーを湿式抄紙することによって湿紙を形成させる工程と、合成樹脂バインダーを前記湿紙に付着形成させた後に水分をコントロールし水分を残した半乾燥状態とした後に、撥水剤を付着させ、その後、乾燥させる工程か、又は、該湿紙を乾燥させた後に合成樹脂バインダーを付着形成させた後に水分をコントロールし水分を残した半乾燥状態とした後に、撥水剤を付着させ、その後、乾燥させる工程とを有することを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明であれば、ガラス繊維を主体繊維とする濾材において、ガラス繊維濾材の最表面上に撥水剤を均一に付着させることにより、高い撥水性と高い強度を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。さらに、本発明であれば、従来の撥水剤付与方法と比較して、撥水剤の使用量を減らすことができ、コストダウンが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、該エアフィルタ用濾材に合成樹脂バインダーを付着後、水分を残した半乾燥状態まで乾燥させる予備乾燥の後に、撥水剤液をスプレー法などにて付着させた後に完全乾燥させることにより、撥水剤を添加する。
【0017】
本発明において、撥水剤を濾材最表面上に均一に付着させるために重要なことは、撥水剤を付着させる前の合成樹脂バインダーの乾燥状態である。すなわち、合成樹脂バインダー付着後のシートが半乾燥状態で撥水剤液を付着させることが必要である。本発明における半乾燥状態とは、撥水剤を濾材最表面上に均一に付着させるのに適した状態をさす。具体的には、合成樹脂バインダー付着後のシート水分量が15〜67.5質量%の状態とする必要がある。また、シート水分量は、20〜65質量%とすることがより好ましく、20〜60質量%とすることがさらに好ましい。シート水分15質量%未満では合成樹脂バインダー膜が疎水性であるため、濾材表面上にスプレーした撥水剤液が弾かれてしまい、濾材最表面上に均一に付着させることが出来ないからである。また、合成樹脂バインダー付着後のシート水分が67.5質量%より高い場合では撥水剤スプレー時にシート表面を荒らしてしまい、濾材としての外観が悪くなるだけでなく、強度にも悪影響を与えてしまうからである。
【0018】
合成樹脂バインダー付着後のシート水分調整のための予備乾燥温度としては、風による乾燥や熱による乾燥方法などがあるが、シート水分のコントロールのし易さから熱による予備乾燥が好ましい。さらに好ましくは、熱による予備乾燥温度としては、80〜150℃とするのが良い。予備乾燥温度が80℃未満では、目的のシート水分になるまでに時間がかかりすぎ、また、予備乾燥温度が150℃より高いと、目的のシート水分の調整が難しいなどの問題がある。
【0019】
乾燥方法としては、風乾方式、熱風方式、赤外線方式、ヤンキードライヤーや多筒式ドライヤーなど様々な方法が利用できる。
【0020】
本発明においては、撥水剤の付着状態をさらに均一にするために、濾剤物性に影響を与えない程度のごく少量の界面活性剤を合成樹脂バインダー中に添加することでバインダー膜の界面張力を下げて、濡れ性を大きくする方法や、濾剤物性に影響を与えない程度のごく少量の界面活性剤を撥水剤液へ添加することでスプレー液の表面張力を下げて濡れやすくする方法を用いることもできる。
【0021】
撥水剤の付与方法としては、スプレー法が特に好ましいが、スプレー法の効果に準ずる方法であれば特にこれに限定するものではない。スプレー法以外の撥水剤付与方法としては、サイズプレス、ブレードコーター、バーコーターなどがあげられる。
【0022】
撥水剤スプレー液濃度としては、0.05〜0.50質量%が望ましい。撥水剤スプレー液濃度が0.05質量%未満では濃度が低すぎて多量の撥水剤液をスプレーしなければならず、シートの表面を荒らしてしまう。また、0.50質量%より高いと、使用する撥水剤液の量が少量のため濾材表面時に均一にスプレーすることが難しく、結果、均一な撥水性が得られない。より好ましくは0.10〜0.30質量%である。
【0023】
本発明で使用する撥水剤の種類としては、フッ素樹脂系、シリコーン系、パラフィンワックス系、又は製紙用サイズ剤薬品として知られるロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系などが挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0024】
本発明で主体繊維として使用するガラス繊維とは、必要とされる濾過性能やその他物性に応じて、種々の繊維径や繊維長を有する極細ガラス繊維やチョップドガラス繊維の中から自由に選ぶことができる。また、半導体工程の汚染を防止する目的で、ローボロンガラス繊維やシリカガラス繊維を使用することもできる。更に副資材として、天然繊維や有機合成繊維や有機バインダー繊維などをガラス繊維中に配合しても差し支えない。主体繊維であるガラス繊維は、繊維中60〜100質量%、好ましくは65〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%含有する。
また、主体繊維の平均繊維径としては、3.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.1〜3.0μmである。また、副資材としての繊維の繊維径は、好ましくは15μm以下である。
【0025】
本発明の湿紙の製造方法としては、次に示す製造方法などによって本発明のエアフィルタ用濾材を得ることができる方法が挙げられる。すなわち、濾材を構成するガラス繊維をパルパーなどの分散機を用いて水中に分散させ、得られたスラリーを抄紙機で湿式抄紙して湿紙を得る。原料繊維の分散工程において、pHは酸性又は中性とすることが好ましく、具体的にはpH1.5〜8の範囲が好ましい。分散性を良くするために、硫酸酸性でpH2〜4の範囲で調整する方法とすることが好ましい。また、中性、すなわちpH6〜8の範囲で分散剤などの界面活性剤を使用してもよい。次に合成樹脂バインダーを付着させる方法としては、特に限定されるものではないが、前述の湿紙または前述の湿紙をいったん乾燥した乾紙を合成樹脂バインダー液に浸漬する方法、または予め原料スラリーに合成樹脂バインダーを混合する方法などがある。次にこのシートを予備乾燥し、任意の水分量まで水分調整を行い半乾燥状態とする。半乾燥状態のシート水分量は、15〜67.5質量%とするとよく、20〜65質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがより好ましい。その後、撥水剤液をスプレーし撥水剤を付与し完全に乾燥させる。
【0026】
本発明において、ガラス繊維同士の交絡点を合成樹脂バインダーで接着させる。ここで、交絡点とは、ガラス繊維同士の交点である。本発明で使用する合成樹脂バインダーとは、例えば、アクリル系ラテックス、NBR系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、オレフィン系ラテックスなどを単独、又は2種類以上を併用しても差し支えない。また、本発明のエアフィルタ用濾材は必要に応じ、その性能を阻害しない範囲で、難燃剤などのその他薬剤を合成樹脂バインダーに添加して使用することもできる。
【0027】
撥水剤液付着後の乾燥としては80〜220℃とすることが望ましい。80℃未満では十分な撥水性が得られない。また、220℃以上では合成樹脂バインダーの成分の分解が始まってしまいエアフィルタ用濾材としての十分な強度が得られない。さらには100〜180℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
平均繊維径が3μm以下の極細ボロシリケートガラス繊維95質量%、平均繊維径6μmチョップドガラス繊維5質量%をテーブル離解機にてpH3.5の酸性水を用いて濃度0.5質量%で離解後、手抄装置にて抄紙し湿紙を得た。次に、バインダー液組成が、アクリル系ラテックス(商品名:ボンコートAN−155、製造元:DIC株式会社)含浸付着後、予備乾燥を行い濾材中の水分が20質量%となるように調整した。次に、フッ素系撥水剤(商品名:ライトガードFRG−1、製造元:共栄社化学株式会社)を撥水剤スプレー液濃度0.2質量%液として撥水剤付着量を濾材に対して絶乾重量0.4質量%となるように湿紙に付与し、その後130℃で乾燥し、坪量71.2g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.7%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0029】
[実施例2]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を50質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量70.5g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.6%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を65質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量71.0g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.5%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0031】
[実施例4]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を60質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量72.0g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.8%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0032】
[実施例5]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を15質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量70.0g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.2%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0033】
[実施例6]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を67.5質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量71.4g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.6%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を10質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量71.1g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.3%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0035】
[比較例2]
実施例1において、合成樹脂バインダー含浸後の予備乾燥で濾材中の水分を70質量%に調整した以外は実施例1と同様にして、坪量72.0g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.8%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0036】
[比較例3]
平均繊維径が3μm以下の極細ボロシリケートガラス繊維95質量%、平均繊維径6μmチョップドガラス繊維5質量%をテーブル離解機にてpH3.5の酸性水を用いて濃度0.5質量%で離解後、手抄装置にて抄紙し湿紙を得た。次に、バインダー液組成がアクリル系ラテックス(商品名:ボンコートAN−155、製造元:DIC株式会社)とフッ素系撥水剤(商品名:ライトガードFRG−1、製造元:共栄社化学株式会社)を固形分比100/10となる様に混合したバインダー液を用いて湿紙をバインダー液に含浸し、坪量75.4g/m、撥水剤を含むバインダー組成物固形分付着量5.9%の濾材を得た。後に示す表1のようなフィルタ性能が得られた。
【0037】
(1)圧力損失
自製の装置を用いて、有効面積100cmの濾紙に面風速5.3cm/secで通風した時の圧力損失を微差圧計で測定した。
(2)DOP透過率
ラスキンノズルで発生させた多分散DOP粒子を含む空気を、有効面積100cmの濾紙に面風速5.3cm/secで通風した時のDOPの捕集効率をリオン社製レーザーパーティクルカウンターを使用し測定した。
(3)可燃物
925±25℃、10分間電気炉にて加熱し、加熱前後での重量差を加熱前重量で除し百分率として求めた。
(4)PF値
濾紙のフィルタ性能の指標となるPF値は、(1)と(2)の測定に基づき、次式より求めた。PF値が高いほど、同一圧力損失で高捕集効率を示す。
【数1】

(5)比引張強度
JIS8113に準拠して測定した
(6)撥水性
MIL−STD−282に準拠して測定した。
(7)撥水剤付着量(アウトガス発生速度)
いわゆるダイナミックヘッドスペース法を用いた。発生ガス濃縮導入装置(ジーエルサイエンス社製 MSTD−258)を用い、試料約0.2gを99.999%の不活性Heガス気流中(流量50ml/分)で、100℃、30分加熱し、試料から発生したアウトガスを吸着剤(TENAX TA)で捕集濃縮し、270℃で再脱離させたガスをクライオフォーカスユニットでサンプルバンドを狭めた後、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製GCMS-QP5050A)に導入して測定した。キャピラリーカラムは、TC-1(ジーエルサイエンス社製;0.25mm×60m、膜圧0.25μm)を用いた。質量分析計の装置のイオン化法は電子衝撃法(イオン化電圧70eV)である。このときの撥水剤由来成分のアウトガス発生量を求め、各実施例、比較例の撥水剤付着量を相対比較した。
(8)濾材表面上の撥水剤均一性の評価
濾材表面上10箇所にエタノールを約0.3g滴下し、その浸み込みの差を目視評価した。評価基準は以下に示す。
○:全箇所ほぼ同時に浸み込む
△:数箇所浸み込む時間がずれる
×:各点の浸み込み時間がバラバラ
(9)濾材外観評価
完成濾材の外観を目視評価した。評価基準は以下に示す。
○:問題なし
△:濾材表面が荒れている箇所が僅かにある
×:濾材表面が荒れている
【0038】
【表1】

【0039】
比較例1は予備乾燥後の水分が10質量%のときの結果である。それによれば、実施例1〜6と比べ、撥水剤付着量はほぼ同等であるにもかかわらず、濾材に付着している撥水剤の分布がまだらなため、撥水性が2割強低い結果であった。また、比較例2は予備乾燥後の水分が70質量%の時の結果である。それによれば、濾材上の撥水性の分布は均一で、撥水性の値も実施例1〜6と同等であった。しかし、出来上がった濾材の外観が悪く、さらに比引張強度も低い結果であった。また、比較例3は合成樹脂バインダーと撥水剤を混合した液を付着させた結果である。それによれば、実施例1〜6と同等の撥水性を得るためには付着量を2倍以上必要となり、そのため比引張強度も低い結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のエアフィルタ用濾材は、半導体、液晶、バイオ、医療、食品工業などのクリーンルームやクリーンベンチなどのエアフィルタとして、また、空調用エアフィルタ、空気清浄機用エアフィルタなどに使用される、気体中の粒子捕集に適した産業用エアフィルタに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ用濾材において、該ガラス繊維同士の交絡点を合成樹脂バインダーで接着せしめた濾材において、該ガラス繊維の表面に合成樹脂バインダーを付着後に完全に乾燥させることなく、濾材中に15〜67.5質量%の水分を残した半乾燥状態において、撥水剤を均一に付着させることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
撥水剤をスプレー法で付着させることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
ガラス繊維を主とする原料繊維を分散させたスラリーを湿式抄紙することによって湿紙を形成させる工程と、合成樹脂バインダーを前記湿紙に付着形成させた後に水分をコントロールし水分を残した半乾燥状態とし、撥水剤を付着させ、その後、乾燥させる工程か、又は、該湿紙を乾燥させた後に合成樹脂バインダーを付着形成させた後に水分をコントロールし水分を残した半乾燥状態とし、撥水剤を付着させ、その後、乾燥させる工程とを有することを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項4】
半乾燥状態が濾材中に15〜67.5質量%の水分を残した状態であることを特徴とする請求項3に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項5】
撥水剤をスプレー法で付着させることを特徴とする請求項3または4に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。


【公開番号】特開2012−161706(P2012−161706A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21515(P2011−21515)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】