説明

エアレス塗料スプレー塗布用の脱泡剤

本発明は、水性エマルションの形態で水性コーティング組成物に添加することができる、ポリプロピレングリコールAと脂肪酸BとのエステルAB、及び該エステルABの脱泡添加剤としての使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシアルキレングリコールの脂肪酸エステルを含む脱泡添加剤、及び該添加剤を水性コーティング系に添加することを含む、該添加剤を使用して水性コーティング組成物材料中の泡の形成を低減又は抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業プロセスでは、所望の効果を得るために界面活性物質が利用されている。例えば、水性コーティング組成物は様々な補助的製品及び添加剤を必要とし、その例としては、不水溶性結合剤を乳化するために必要とされる乳化剤、又は基材湿潤性及び顔料分散性を向上させるための添加剤が挙げられる。しかしながら、これらの界面活性物質の望ましくない副作用は、そのコーティング組成物の調製又は塗布の過程で取り込まれる可能性のある空気が泡の形態で安定されるということである。
【0003】
油、とりわけ低粘度から中粘度のジメチルポリシロキサンの形態である有機ケイ素化合物を、水溶液又は水性分散液を脱泡するための添加剤として使用することは既知であり、例えばW. Nollの著書である非特許文献1に記載されている。特許文献1及び特許文献2に記載されているように、有機ケイ素化合物をベースとする消泡剤、更には鉱油をベースとする脱泡剤の脱泡活性は、高分散無機物質又は高分散有機物質、とりわけいわゆる焼成シリカグレードを添加することによって向上させることができる。ポリオキシアルキレンーポリシロキサンコポリマーをベースとする脱泡剤が特許文献3に記載されている。これらの脱泡添加剤は、ポリマー分散液又は水性コーティング組成物中の発泡傾向を抑制又は低減するのに好適であるが、これらの添加剤を含む水性コーティング組成物は、脱泡添加剤に起因する欠点も示している。泡の形成を抑制又は低減するためにポリシロキサン、ポリオキシアルキレンーポリシロキサンコポリマー、又は鉱油をベースとする配合物を添加した高光沢エマルション塗料系は、湿潤性の欠如を示し、更には表面に塗布した際の光沢が減少する。基材の湿潤性は被覆部位全体にわたって一様ではなく、このことが様々な厚みのコーティング膜の形成につながり、コーティング膜中の欠陥領域の形成を招く。有機ケイ素化合物をベースとする脱泡剤の使用に伴う層間接着の問題もあり、特にコーティング組成物を充填したタンクに基材を浸漬することによってコーティング組成物を塗布した場合に、コーティング膜中にクレーターが生じる。工業コーティングにおいて常であるように、乾燥及び焼付けの間に発生した揮発性化合物が触媒燃焼ユニットに送られる場合、ケイ素含有物によって触媒の使用寿命が低下する。
【0004】
鉱油をベースとする脱泡剤は、エマルション塗料の光沢を減少させる傾向があり、フレキソ印刷用インクにおいては、フレキソ印刷版の望ましくない膨張を招く。
【0005】
特許文献4では、ポリグリセロールとエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はそれらの混合物との通常の反応、及び得られたアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸によるエステル化によって得られる、ポリグリセロールポリグリコールエーテルの脂肪酸エステルが開示されている。これらの生成物の発泡抑制性は、塗料中でのこれらの化合物の限られた使用可能時間(service time)について依然として向上させる必要がある。
【0006】
しかしながら、これまでに知られている系のいずれによっても、いわゆるエアレススプレー技術によって塗布されるコーティング組成物について満足のいく結果は得られない。
【0007】
既知のように、エアレススプレー技術は、スプレーノズルを通してコーティング組成物を移動させ、塗料の小滴を形成するために圧縮空気を使用しない。代わりに、上昇させた液圧(3.4MPa〜44.8MPa、500psi〜6500psi)でスプレーガンの先端の小開口部に塗料を圧送し、小滴の形成を達成する。これは当業者によって「微粒化」と称されている。一般に、圧縮空気駆動式の往復液体ポンプによってガンに圧力が供給される。加圧された塗料がガンの前方の低圧領域に入ると、圧力の急激な低下によって塗料が「微粒化」する。エアレスシステムは、塗装業者及びメンテナンス塗装工によって最も広く使用されている。エアレススプレー法は、エアスプレー法に優る幾つかの明白な利点を有する。エアレススプレーはより穏やかであり、より乱流が少なく、したがって跳ね返りによって失われる塗料が少ないため、この方法はエアスプレーよりも効率的である。形成される液滴は一般に従来のスプレーガンよりも大きく、単一パスでより厚い塗膜が生成される。このシステムはより容易に持ち運び可能でもある。生産速度は2倍近くであり、塗着効率(transfer efficiencies)が通常は大きくなる(使用される塗料の65%〜70%の範囲である)。他の利点としては、高粘度のコーティングを利用可能であること(粘度を低下させるための溶剤を添加する必要がない)、ワークピースの陥凹部への良好な浸透が可能であることが挙げられる。エアレススプレーの主な欠点は、厚い層のビルドアップ及びエアレスコーティング配合物の高い粘度のために、得られる膜にピンホール及び空気同伴の形成が非常に起こりやすいことであり、脱泡剤の需要は非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公告第1067003号
【特許文献2】独国特許第1914684号
【特許文献3】米国特許第3,763,021号
【特許文献4】独国特許出願公開第3636086号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"Chemie und Technologie der Silicone", Weinheim 1968(シリコーンの化学及び技術)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の一目的は、有機ケイ素化合物及び鉱油を含まず、ポリマー分散液及びかかる分散液を含む水性コーティング系中で良好な脱泡作用を示し、エアレススプレー塗布において使用することができる脱泡剤配合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
任意でワックスと混合した、ポリプロピレングリコールの脂肪酸エステルの水性エマルションは、泡の過剰形成を効果的に抑制し、本質的に欠陥を有しないコーティング膜をもたらすことが見出された。
【0012】
上記水性エマルションの更なる利点は、有機ケイ素化合物をベースとする成分を含まないこと、及び揮発性有機化合物(VOC)の含量を変化させることでコーティング組成物の内容に寄与する成分を含まないことである。
【0013】
したがって本発明の主題は、水性エマルションの形態で水性コーティング組成物に添加することができる、ポリプロピレングリコールAと脂肪酸BとのエステルABである。
【0014】
本発明の更なる主題は、エステルABを脱泡添加剤として含む、エアレススプレー法によって塗布することができるコーティング組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
エステルABでは、エステル中に残る1分子当たりの非エステル化ヒドロキシル基の数ν(−OH)と、エステル化ヒドロキシル基の数ν(−O−CO−R)との平均比が、好ましくは9(=1.8:0.2)を超えない。エステル化度が高いほど(ν(−OH)とν(−O−CO−R)との平均比が9未満から0まで)、より良好な脱泡活性がもたらされることが見出された。上に規定した比率に相当するエステル化度の増加が4を超えなければ、特に良好な結果が得られる。
【0016】
ポリプロピレングリコールAは好ましくは、構造:
HO−[CH(CH)−CH−O−]
(ここで、nは、最小数平均モル質量Mが少なくとも1800g/mol、好ましくは少なくとも1900g/mol、特に好ましくは少なくとも1950g/molとなるように選択される)を有する線状ホモポリマーである。数平均モル質量Mが少なくとも2000g/molであれば、脱泡活性が特に良好であることが見出された。脱泡活性に関してMの上限は見出されていないが、Mが8000g/molを超えると、エステルの粘度が高い値に達するため、分散性及び扱いやすさが損なわれる。2000g/mol〜4000g/molの範囲(これらの限界値を含む)が、脱泡活性及び扱いやすさの点で特に有用であることが見出された。平均値が上に言及した関係に従う限りにおいて、種々のモル質量のポリオキシプロピレングリコールの混合物を使用してもよい。
【0017】
本発明においては、プロポキシル化三価アルコール又は三価超の(more than trivalent)アルコールから得られる分岐状ポリオキシプロピレングリコールを使用することも可能である。このような分岐状化合物も、本発明においては「ポリプロピレングリコール」という用語に包含される。ポリオキシプロピレングリコールA中のオキシプロピレン部分の最大で30%がオキシエチレン部分に置換されていてもよい。このような混合ポリエーテルも、本発明においては「ポリプロピレングリコール」という用語に包含される。この限界値を超えると、おそらくは高すぎる親水度のために脱泡活性が低下する。
【0018】
脂肪酸Bは、炭素原子数4〜22であり、飽和又は(多価)不飽和とすることができる。炭素原子数12〜20の飽和脂肪酸B1、特にステアリン酸及びパルミチン酸、それらの混合物、更にはステアリン酸等の単一脂肪酸B1と、好ましくはヤシ油脂肪酸又は綿実油脂肪酸等の同様に不飽和が少ない天然源から得られる脂肪酸混合物B2との混合物が好ましい。不飽和を低減するか、又は本質的に全ての残存する不飽和を除去するために水素化した天然源から得られる脂肪酸混合物を使用することも好ましい。単一脂肪酸B1と脂肪酸混合物B2との混合物の質量における単一不飽和脂肪族脂肪酸B1の質量分率が少なくとも25%、より好ましくは少なくとも40%であるB1とB2との混合物が特に好ましい。本発明においては、ステアリン酸とヤシ油脂肪酸との混合物、又は天然の油から得られる水素化天然脂肪酸混合物を用いた場合に、特に良好な脱泡活性が見られた。
【0019】
エステルABにワックスCを添加することで脱泡活性を更に増加させることができる。好ましいワックスCは、炭素原子数12〜40の長鎖脂肪族カルボン酸の混合物のアミドであるアミドワックス等のように親水構造を有する。二量体脂肪酸のジアミド又はアミドもここでは有用である。炭素原子数3〜10のα,ω−アルキレンジアミン等の第一級又は第二級ジアミンおよび、2分子の脂肪族モノカルボン酸から得られるアミドが特に好ましい。
【0020】
エステルABに乳化剤Dを添加することで脱泡活性を更に増加させることができる。この乳化剤Dは、好ましくはエトキシ化脂肪酸型の乳化剤、例えばエトキシ化ステアリン酸自体、若しくはこれを含む混合物、又はソルビタンエトキシレートの脂肪酸エステル等のエトキシ化糖アルコールの脂肪酸エステルである。
【0021】
乳化剤DとワックスCとの両方をエステルABに添加した場合に特に良好な結果が得られる。
【0022】
本発明による脱泡剤は、任意の水性コーティング系において使用することができるが、水性エポキシ樹脂分散液と併用することが特に好ましい。かかる混合物中の脱泡剤の質量分率は、最適なパフォーマンスを得るためには、通常は0.1%〜3%である。
【0023】
脱泡剤の効果は、粘度(脱泡剤の添加前)が少なくとも500mPa・sの水性コーティング系において特に顕著である。
【0024】
以下に記載の実施例によって本発明を更に説明する。
【実施例】
【0025】
本実施例中、また本明細書中、及び本願の特許請求の範囲中では、以下の定義を使用する。
【0026】
「AN」すなわち酸価は、DIN EN ISO 3682(DIN 53 402)に従い、試験中にサンプルを中和するのに必要とされる水酸化カリウムの質量mKOHと、このサンプルの質量m、又は溶液若しくは分散液の場合にはサンプル中の固体の質量との比率と定義され、慣習的な単位は「mg/g」である。
【0027】
溶液又は分散液中の固体の質量分率wは、サンプル(この場合は0.7g)を取り、所定の温度(この場合は150℃)で10分間乾燥させることによって、DIN 55671に従って求められる。計算は、w=m/m(式中、mは乾燥後に残存する質量であり、mはサンプルの質量である)によって行う。
【0028】
サンプルの動的粘度は、剪断速度100s−1、温度23℃で、DIN EN ISO 3219に従って測定する。
【0029】
実施例1:エステル脱泡剤D1の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが2000g/molのポリプロピレングリコールを2000g、ステアリン酸を224g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を52g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が97%であり、動的粘度が292mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:1であった。
【0030】
実施例2:エステル脱泡剤D2の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが2000g/molのポリプロピレングリコールを2000g、ステアリン酸を90g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を21g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が96%であり、動的粘度が336mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:0.4であった。
【0031】
実施例3:エステル脱泡剤D3の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが2000g/molのポリプロピレングリコールを2000g、ステアリン酸を358g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を83g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が91%であり、動的粘度が303mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:1.65であった。
【0032】
実施例4:エステル脱泡剤D4の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが400g/molのポリプロピレングリコールを400g、ステアリン酸を224g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を52g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が98%であり、動的粘度が130mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:1であった。
【0033】
実施例5:エステル脱泡剤D5の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが900g/molのポリプロピレングリコールを900g、ステアリン酸を224g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を52g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が95%であり、動的粘度が60mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:1であった。
【0034】
実施例6:エステル脱泡剤D6の調製
攪拌器、還流冷却器、排水器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器に、数平均モル質量Mが4000g/molのポリプロピレングリコールを4000g、ステアリン酸を224g、ジブチルスズジラウレートを0.2g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びキシレンを200g投入し、窒素ブランケット下で撹拌しながら2時間かけて240℃に加熱した。240℃、大気圧下での共沸蒸留によって、酸価が5mg/g未満に達するまで水を除去した。次いで、ヤシ油脂肪酸を52g添加し、酸価が再度5mg/g未満に達するまでキシレン循環を維持した。次いで、この温度を一定に保ちながら、減圧下での蒸留によって溶媒を除去した。固体の質量分率が96%であり、動的粘度が690mPa・sの液体反応生成物が得られた。ポリプロピレングリコール中のヒドロキシル基の数と、ステアリン酸及びヤシ油脂肪酸中の酸性基の数との比率は2:1であった。
【0035】
実施例7:乳化剤の存在下でのワックスの沈殿
攪拌器、還流冷却器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器V1に、E1〜E7として表される7回の異なる種類(runs)で、実施例1〜実施例6に従って調製したエステル脱泡剤D1〜D6及び数平均モル質量Mが2000g/molの非エステル化ポリプロピレングリコール(以下、D7と称する)をいずれか58g、乳化剤としてエトキシ化脂肪酸(Emulsogen(商標)A、Clariant Deutschland GmbH)を8g、及びアミドワックス(エチレンジアミンジステアレート、Licowax(商標)C Powder、Clariant Deutschland GmbH)を3.5g投入し、窒素ブランケット下で90分間撹拌しながら125℃に加熱し、透明な融液が形成されるまで撹拌を継続した。攪拌器及び冷却ジャケットを備える第2の容器V2に、実施例1〜実施例6のエステル脱泡剤D1〜D6及び未変性ポリプロピレングリコールD7をいずれか138.5g投入し、26℃に加熱した。反応容器V2内で激しく撹拌しながら、容器V1の融液を5分かけて容器V2に注ぎ入れると、容器V2の内部温度は56℃となった。動的粘度が100mPa・s〜1500mPa・sの範囲内の白みがかった混濁した生成物が得られた。
【0036】
実施例8:乳化剤の存在下でのワックスの沈殿
攪拌器、還流冷却器及び窒素注入口を備える加熱した反応容器V1に、エステル脱泡剤D1を58g、及びアミドワックス(エチレンジアミンジステアレート、Licowax(商標)C Powder、Clariant Deutschland GmbH)を3.5g投入し、窒素ブランケット下で90分間撹拌しながら125℃に加熱し、透明な融液が形成されるまで撹拌を継続した。攪拌器及び冷却ジャケットを備える第2の容器V2に、実施例1のエステル脱泡剤D1を138.5g投入し、26℃に加熱した。反応容器V2内で激しく撹拌しながら、容器V1の融液を5分かけて容器V2に注ぎ入れると、容器V2の内部温度は56℃となった。動的粘度が671mPa・sの白みがかった混濁した生成物E8が得られた。
【0037】
実施例9:
実施例7の生成物200g(種類(run)E5)を、実施例7の生成物100g(種類(run)E6)と混合し、30分間均質化した。動的粘度が510mPa・sの白みがかった混濁した生成物E9が得られた。
【0038】
実施例10:エアレス塗布用の2液型コーティング組成物の調製
以下の配合物を使用した。
【0039】
パート1:
以下の3つのプレミックスから混合物を調製した:
エポキシ樹脂分散液(Beckopox(商標)EP386w/52WA、Cytec Surface Specialties Austria GmbH)を335.4g、顔料分散・湿潤剤(Additol(商標)VXW 6394、Cytec Surface Specialties Austria GmbH)を10g、流動性改良剤(Modaflow(商標)9200、Cytec Industries Inc.)を5g、脱泡剤(個々のランに応じて、実施例1のD1、実施例7のE1〜E7、それぞれ実施例8及び実施例9のE8及びE9)を5g、及び完全脱イオン水を65.7g含むプレミックスA、
タルク粉(Micro Talk(商標)IT extra、Mondo Minerals BV)を75.9g、二酸化チタン顔料(Kronos(商標)2190、Kronos Titan)を267.7g、鉄黄顔料(Bayferrox(商標)3920、Lanxess Deutschland GmbH)を3g、鉄黒顔料(Bayferrox(商標)306、Lanxess Deutschland GmbH)を11.1g、及び平均粒径がおよそ3μmの硫酸バリウム(EWO−S、Sachtleben Chemie GmbH)を210.1g含むプレミックスB、並びに
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール−モノイソブチレート(Texanol(商標)、Eastman Chemical Company)を6.1g、第2の(second portion of)脱泡剤(個々のランに応じて、実施例1のD1、実施例7のE1〜E7、それぞれ実施例8及び実施例9のE8及びE9、280℃超からの沸点範囲を有し、動粘度が40℃)で17mm/sである鉱油を94%、HLBが8のエトキシ化脂肪酸を4%、及び沈殿アミドワックスを2%の質量分率で含む市販の鉱油ベースの脱泡剤M、鉱油に分散させた疎水性固体及びポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンをベースとする市販のシリコーン脱泡剤S1、並びにポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン及び疎水性固体の水性分散液をベースとする市販のシリコーン脱泡剤S2)を5g、ポリウレタン増粘剤(Additol(商標)VXW 6388、Cytec Surface Specialties Austria GmbH)を5g、及びペースト樹脂(Additol(商標)XW 6536、Cytec Surface Specialties Austria GmbH)を5g含むプレミックスC。
【0040】
パートAの個々の構成成分をビーカーに量り入れ、攪拌器を用いて1000min−1で5分間よく均質化した。次いで、均質化したプレミックスAにプレミックスBを添加し、スパチュラでよく混合した。次いで、プレミックスAとプレミックスBとの混合物を、冷却下で23℃に維持した溶解槽の二重壁ポットに充填し、3000min−1の回転数で動作する溶解槽ディスク(dissolver disk)を用いて60分間混合した。生成物温度をこうして40℃未満に維持した。終了の約10分前、すなわちAとBとの混合の約50分後にプレミックスCを溶解槽ポットに添加した。
【0041】
パート2は、水性アミン硬化剤(Beckopox(商標)VEH 2188w/55WA、Cytec Surface Specialties Austria GmbH)を96.5g、及び完全脱イオン水を100g含んでいた。
【0042】
硬化剤をスパチュラで混ぜ入れることによって、パート1とパート2との混合物を含むコーティング組成物を、その塗布の直前に調製する。アミン硬化剤を希釈するために使用する水の量を、調製済みの(ready)混合物の塗布粘度が1600mPa・sとなるように変化させる。
【0043】
本実施例10で調製した、異なる脱泡剤を使用するコーティング組成物を、ピンホール試験(実施例11)の結果とともに表1に挙げる。
【0044】
表1
【表1】

【0045】
実施例11:エアレス塗料の塗布試験
実施例10に従って調製したコーティング組成物を、224バール(22.4MPa)の吹き付け圧に相当する7バール(0.7MPa)のプレプレッシャー(pre-pressure)を有する、Sata Spray mix companyから販売されている「Shark M 3227」塗布器、及び46/50型のエアレスダイを用いて、コーティング膜の厚みを連続的に変化させながら(60μm〜200μmの範囲の乾燥塗膜厚さに相当する)、有孔鋼板上に塗布した。吹き付けの後、板を垂直にして風乾し、その後水平にして70℃で20分間乾燥させた。
【0046】
膜厚計(byko−test(商標)8500 basic Fe/NFe、Byk Gardner)によって測定される120μm〜140μmの範囲の乾燥塗膜厚さを用いて、コーティングした板をピンホールについて検査した。1dmの面積中のピンホールの数は上の表1に示している。
【0047】
エアレススプレー塗布における脱泡剤の効果が、Mnが少なくとも2000g/molのポリプロピレングリコールから得られ始めることが見て取れる。Mnが400g/mol及び900g/molのポリプロピレングリコールの脂肪酸エステルでは不十分であった。
【0048】
実施例12:顔料ペーストの調製及び粉砕混合物中の泡量の測定
以下の配合に従って顔料ペーストを調製した。
【0049】
表3 顔料ペーストの配合
【表2】

【0050】
使用した脱泡剤は、上に詳述したE1〜E6、E9、市販の鉱油脱泡剤M1及びシリコーン脱泡剤S1であった。そのように調製した顔料ペーストの粘度は、500mPa・s〜1500mPa・sの範囲内であった。
【0051】
ペーストの構成成分を二重壁溶解槽ポットに投入し、23℃に冷却しながら実験用ビーズミル内で3000min−1の回転速度で60分間均質化した。その直後に、ミルにかけた生成物を50g、金属篩を通してガラスシリンダーに充填し、その高さを記録した。ガラスシリンダー内での高さは泡量の指標となる。
【0052】
実施例12に従って調製した顔料ペーストは、下の表に挙げた脱泡剤を含む。ペーストの動的粘度及びガラスシリンダー内での充填高さ(発生した泡の尺度である)も表に挙げる。
【0053】
表4 顔料ペーストにおける脱泡剤の有効性
【表3】

【0054】
泡発生に対する使用した脱泡剤の顕著な影響が見て取れる。ペースト16、17、18、20、22、23、24及び25においては粘度の僅かな上昇が見られるが、泡発生の大幅な減少が見て取れる。この効果は、使用するポリプロピレングリコール(PPG)のモル質量が大きいほど高く、更にはPPGのエステル化度が大きいほど高い。
【0055】
本発明による脱泡剤が、シリコーンをベースとする現行の技術水準の脱泡剤と同様のレベルの泡の低減をもたらすことが見て取れる。本発明による脱泡剤は、溶剤が大幅に少なく、シリコンベースの脱泡剤によく見られる界面接着の問題を回避するという更なる利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性コーティング組成物に添加することができる、ポリプロピレングリコールAと脂肪酸BとのエステルAB。
【請求項2】
前記エステル中に残る1分子当たりの非エステル化ヒドロキシル基の数ν(−OH)と、エステル化ヒドロキシル基の数ν(O−CO−R)との平均比が9を超えない、請求項1に記載のエステルAB。
【請求項3】
前記ポリプロピレングリコールAが、構造:
HO−[CH(CH)−CH−O−]
(ここで、nは、最小数平均モル質量Mが少なくとも1800g/mol、好ましくは少なくとも1900g/mol、特に好ましくは少なくとも1950g/molとなるように選択される)
を有する線状ホモポリマーである、請求項1に記載のエステル。
【請求項4】
前記ポリプロピレングリコールAは、分岐状であり、プロポキシル化三価アルコール又は三価超のアルコールから得られる、請求項1に記載のエステル。
【請求項5】
前記ポリプロピレングリコールAにおいて、該ポリプロピレングリコールA中のオキシプロピレン部分の最大で30%がオキシエチレン部分に置換されている、請求項1に記載のエステル。
【請求項6】
前記脂肪酸Bは、炭素原子数4〜22であり、飽和、又は一価不飽和若しくは多価不飽和とすることができる、請求項1に記載のエステル。
【請求項7】
前記脂肪酸Bが、少なくとも1つの炭素原子数12〜20の飽和脂肪酸B1と、好ましくは同様に不飽和が少なく、任意で少なくとも部分的に水素化された天然源から得られる脂肪酸混合物B2との混合物である、請求項1に記載のエステル。
【請求項8】
前記脂肪酸Bが、前記単一脂肪酸B1と前記脂肪酸混合物B2との混合物の質量における該単一不飽和脂肪族脂肪酸B1の質量分率が少なくとも25%、より好ましくは少なくとも40%であるB1とB2との混合物である、請求項7に記載のエステル。
【請求項9】
コーティング組成物に脱泡添加剤としてエステルABを添加する、エアレススプレー法によって塗布されるコーティング組成物における請求項1〜8のいずれか一項に記載のエステルABの使用方法。
【請求項10】
前記エステルABにワックスCを添加する、請求項9に記載の使用方法。
【請求項11】
前記エステルABに乳化剤Dを添加する、請求項9に記載の使用方法。
【請求項12】
前記エステルABに乳化剤Dを添加する、請求項10に記載の使用方法。

【公表番号】特表2013−506041(P2013−506041A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531309(P2012−531309)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062730
【国際公開番号】WO2011/036039
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512015987)サイテク オーストリア ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】