説明

エアロゾル分析装置

【課題】
リアルタイムにエアロゾルを分析できる装置を提供する。
【解決手段】
DMA(微分型電気移動度測定器)1は、微粒子を外部に取り出すためのスリット12を有する中心ロッド13と、微粒子供給部4と、分析対象ガス成分を含まないガスで置換するためのシースガス導入口7を備えており、帯電エアロゾルはシースガス中の微粒子となって、DMA1中の電圧によって分級する。分級された粒子は加熱装置41によって加熱され、DMA2に導入される。DMA2とDMA1によって分級された粒径分布を比較することにより、粒径分布変化を測定する。ファラデーカップ電流計14,34で電荷を測定し粒子数を計測する。加熱装置41で揮発したガスは、取出し口30からシースガスと混ざらずに外部に取り出され、分析機器43で粒子を構成していた揮発生成分を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガス中に含まれるエアロゾルの成分を分析するために適用されるエアロゾル分析装置に係り、特にエアロゾルに含まれる微粒子の揮発性有機化合物(VOC)成分のリアルタイム計測を可能にし、かつ精度よく行なえるようにしたエアロゾル分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアロゾルとは分散媒体がガスで、分散質が液体または固体であるコロイドを示す。分散質が液体の場合には、エアロゾルは、霧、もや、雲等となり、分散質が固体の場合には、ちり、煙等となる。このエアロゾルの微粒子の構成成分の測定は、環境状態の評価や健康影響などの研究分野において重要な意味を持つ(特許文献1参照。)。
【0003】
エアロゾルの測定としては、例えば大気汚染測定がある。環境汚染や近年の大気汚染の原因となる車の排気ガスや工業プラントの排煙には、硫黄化合物(SOx,H2S等)、窒素化合物(NOx,NH3等)、炭化水素等が含まれ、これらは化学反応または光化学反応によって硫酸塩又は硝酸塩となり、大気中の水蒸気を吸収して液体状のエアロゾルとなる。
【0004】
測定方法の例としては、エアロゾルをLVS(Low Volume Sample)などによりフィルタに捕集した後、溶媒にとかしてLC(液体クロマトグラフィ)分析する方法や、試料を加熱して有機物を揮発させ、その後揮発物に酸素を加えたガス中でさらに高温に加熱して酸化させ、揮発性有機化合物の総量を定量する方法がある。
【0005】
微分型電気移動度測定器(DMA(Differential mobility analyzer))(特許文献2参照。)は、微粒子の粒径を効率的かつ広範囲にわたって測定できる装置であることが知られており、エアロゾルを分級することが可能である。
【特許文献1】特開平09−184808号公報
【特許文献2】特開2000−46720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来エアロゾルを分析する場合、微粒子の分析が難しいことからリアルタイムで計測することが困難であった。
本発明は、DMAを用いてリアルタイムに微粒子の成分を分析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1は本発明で提案するエアロゾル分析装置の全体構成図であり、図2は本発明で使用するDMAの装置図である。
本発明は、エアロゾル試料を帯電させる帯電機能を有し、試料中のガスを分析対象ガス成分を含まないシースガスで置換するとともに、試料中の微粒子を分級して取り出す第1のDMAと、前記DMAにより分級して取り出された微粒子を加熱する装置と、前記加熱装置で加熱されて出てくる微粒子と発生したガスを取り込み、微粒子を分級し、微粒子とガスを別々に取り出す第2のDMAと、前記第2のDMAのガス出口に接続されたガス分析機器を備えたエアロゾル分析装置である。
【0008】
本発明では、DMAは分級した微粒子の流路にファラデーカップ電流計のような計測器が設けられており、分級した微粒子の粒子数を計数することができる。
エアロゾルは第1のDMAで帯電され、粒子の電気移動度に応じて分級される。分級された微粒子はシースガス中に浮遊した状態となって粒子数が計数され、帯電したまま予め指定した温度に加熱された後、第2のDMAに導かれる。
【0009】
その加熱により揮発した有機化合物は帯電していない状態なので、第2のDMAでは帯電微粒子と分離され、第2のDMAにおけるシースガスの流れと混ざることなく、シースガスの出口とは別の出口から取り出すことができる。
エアロゾル中の微粒子は、その粒子成分の揮発性及び加熱温度に依存して粒子径が変化し、第2のDMAにおいても分級されて粒子数が計数される。第2のDMAと第1のDMAの粒径分布比較によって微粒子の粒径変化を測定することができ、加熱による微粒子の変化を正確に観察することができる。
【0010】
第2のDMAに接続されたガス分析機器は、例えば、第2のDMAで微粒子から分級されたガスに酸素を添加し、加熱して酸化させた後に分析するものであり、燃焼後のCO2,SOx又はNOxを測定する機器とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、エアロゾル試料を帯電させ、第1のDMAで試料中のガスを分析対象ガス成分を含まないシースガスで置換し試料中の微粒子を分級し、取り出して加熱した微粒子を第2のDMAで再度分級することで、加熱による微粒子の分級及び粒子径分布の変化がわかる。
【0012】
分析装置に、CO2、SOx、又はNOxの計測器を設置することで、微小粒子の揮発性有機化合物成分のリアルタイム計測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を用いた一実施例を詳細に説明する。
図1(A)は本発明で提案するエアロゾル分析装置の全体構成図を示しており、試料ガス中の微粒子を帯電させる帯電装置40、第1のDMA(DMA1)、第2のDMA(DMA2)、DMA1で分級された微粒子がDMA2に導かれる途中で加熱して微粒子に付着した揮発成分を揮発させる加熱装置41、DMA2から取り出された目的ガス成分を酸化する燃焼装置42、及び燃焼装置42で酸化物となった目的成分ガスを測定する分析装置43,44を備えている。各装置のつながりは、試料ガスが帯電装置40、DMA1、加熱装置41、DMA2、及び燃焼装置42を経て分析装置43又は44の順に流れるように構成されている。
【0014】
DMA1,2は、囲み体5,25と、囲み体5,25の内部に設置されて、分級された微粒子を外部に取り出すためのスリット12,32を有する中心ロッド13,33と、正に帯電した微粒子および負に帯電した微粒子が混在した帯電粒子を、囲み体5,25と中心ロッド13,33の間に供給する微粒子供給部4,24とを備えている。
囲み体5,25と中心ロッド13,33間に所定の電圧を印加することにより、特定の粒子径をもつ荷電粒子が中心ロッド13,33のスリット12,32に入り、分級される。
シースガスはフィルタ8,28を通過してDMA1,2内に供給され、排出口9,29から外部に排出される。
DMA1で分級された荷電粒子を含むガスは、加熱装置41を通過してDMA2に導かれ、微粒子供給部24からDMA2内に供給される。分級される微粒子は中心ロッド33方向に分級され、揮発して帯電していないガスは取出し口30から燃焼装置42の方向に取り出される。
【0015】
DMA1の構造はDMA2とほぼ同じ構造であるが、揮発したガスを取り出すための取出し口30は有していない。
DMA1、DMA2ともに装置の下部には、電荷を測定することで粒子量を計量するファラデーカップ14,34を備えている。荷電粒子がファラデーカップを通過すると電荷を失う。
【0016】
シースガスの引込口7,27はDMA1,2の上部に設けられ、引込口7,27の下部にはシースガス16の流れを整え、不純物を除去するフィルタ8,28が取り付けられている。引込口7,27から供給されたシースガス16は、囲み体5,25と中心ロッド13,33の間を流れ、囲み体5,25の下部に設けられた排出口9,29からポンプ等により外部に排出され、その一部はスリット12,32から分級された微粒子とともに外部に取り出されるようになっている。
【0017】
試料中のガス成分とともに、中心ロッド13,33のスリット12,32を経て分級されて取り出された微粒子は、シースガス16とともに連通管15,35を経て外部に取り出される。
装置の下部には電荷を測定することで、連通管15,35を通る分級された粒子の個数を計測できるファラデーカップ電流計14,34を備えている。
DMA1では連通管15は分岐され、分級されてシースガスとともに導かれる荷電粒子の一部はファラデーカップ14に導かれ、残りはDMA2側に供給される。
【0018】
次に、図2(A)〜(C)によりDMAによる分級について説明する。
図2はDMA2について示したものであるが、荷電粒子を分級する構造はDMA1についても同じである。(A)はDMA2の全体図であり、(B),(C)は分級が行なわれる領域の説明図である。
微粒子供給部24と囲み体25及び中心ロッド33の間には、(B)に示されるように、囲み体25と中心ロッド33の間に接続された可変電圧源10によって、所定電圧が印加されるようになっている。
【0019】
中心ロッド33に正電圧、囲み体25に負電圧が印加される場合、微粒子供給部24と中心ロッド33との間には、負に帯電した微粒子を微粒子供給部24側から中心ロッド33側へ移動させるような電位差が生じる状態(状態1)となる。
中心ロッド33に負電圧、囲み体25に正電圧が印加される場合、微粒子供給部24と中心ロッド33との間には、正に帯電した微粒子を微粒子供給部24側から中心ロッド33側へ移動させるような電位差が生じる状態(状態2)になる。
以下の実施例の説明では、中心ロッド3に負に帯電した微粒子が移動して分級する状態1の場合について記載する。本発明は、状態1の場合に限定されず、状態2の場合や、微粒子が囲み体25側に分級する場合も同様に実施できる。
【0020】
次に、試料ガスの流れに沿って、装置の実施例を説明する。
試料ガスは帯電装置40を通過することで帯電され、帯電エアロゾルとなる。帯電エアロゾルは、DMA1の試料供給口11から装置内に導入され、微粒子供給部4へと導かれる。
図2(B)に示すように、微粒子供給部4から放出される帯電エアロゾルは、シースガス16によって下部18方向に導かれつつ、中心ロッドのスリット12に分級される。
このとき電位を調節することで、特定の粒径を持つ微粒子成分だけを分級することができる。
【0021】
例えば、分級される前の帯電エアロゾルは、横軸に粒子サイズ、縦軸に粒子数を示す粒径分布で表すと、図1(B)のような分布をもつが、分級することで、図1(B)中に斜線で示す粒径の粒子を分級することができる。
分級して中心ロッド13から取り出される微粒子を含むエアロゾルは、その媒体がシースガス供給口7から供給されるシースガスで置換される。例えばシースガスに窒素を用いた場合、分級して取り出される微粒子は窒素中に浮遊した状態となる。
分級された成分は連通管15の分岐点を経て、ファラデーカップ14と加熱装置41に導かれる。
【0022】
加熱装置41に導入された微粒子を含むガス成分のうち、加熱温度より低い温度で揮発する微粒子の成分は揮発してガス状となり、残りの成分自体は微粒子の粒子サイズが小さくなり、帯電したまま加熱装置41から取り出され、DMA2に供給される。
DMA2に供給されるガス中の成分は、シースガスと微粒子から揮発したガス状有機化合物成分及び揮発しなかった帯電微粒子成分である。帯電微粒子成分を含むガスはDMA2の供給口31から導入され、微粒子供給部24に導かれる。
【0023】
DMA2の微粒子供給部24から放出されるガスのうち、加熱装置41で揮発していない微粒子は帯電した状態である。
図2(B)に示すDMA2と同様に、微粒子供給部24から放出される帯電エアロゾルは、シースガスによって下部方向に導かれつつ、中心ロッド33にかかる電位によって分級される。このとき電位を調節することで、特定の粒径を持つ微粒子成分だけを分級することができる。
【0024】
分級された粒子を含むガス成分はシースガスに浮遊した微粒子として存在し、例えばシースガスに窒素を用いた場合、微粒子は窒素中に浮遊した状態となる。
加熱装置41により揮発したガス成分は、DMA2装置内の壁に沿って流れ、取出し口30から取り出される。中心ロッド33に分級した微粒子はファラデーカップ電流計34で粒子数を計測した後排出される。
シースガスは排出口29から外部に排出される。
【0025】
図1(C)はDMA2で分級された後の粒子分布の模式図であり、横軸に粒子サイズ、縦軸に粒子数を示している。
加熱装置41によって加熱されることにより、粒子中の揮発分子分が減少して粒子サイズが小さくなり、粒径分布は図の左側にシフトする。すなわち、粒径の平均値はx1>x2となる。x1、x2の値を測定することにより、エアロゾル中の特定粒径サイズの、加熱による粒径サイズ変化が得られる。
揮発したガス成分は、DMA2で、シースガスと混ざることなく、ほとんど希釈されないで、DMA2の取出し口30から取り出すことができ、取り出されたガス成分は燃焼装置42によって完全燃焼させられ、有機化合物の成分を、CO2計43で炭素量、SO2計44で硫黄量として分析することができる。
【0026】
DMA2を用いることにより、加熱装置41で揮発したガス成分の濃度を分析装置43,44で求め、ファラデーカップ電流計34により揮発しなかった成分の粒子数を算出することができ、エアロゾル中の粒子成分を知ることができる。
【0027】
本実施例ではシースガスとして純窒素ガスを用いたが、測定成分を含まないガスであればアルゴンガスなど、他のガスであってもよい。
本発明は前記実施例のみに限定されず、分級された粒子の処理方法として、加熱及び燃焼の温度を変えて施しても実施可能である。
また、シースガスの排出口29と分析機器への取出し口30の位置等を変更しても実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は大気試料や排気ガス測定などの測定機器として、エアロゾルの揮発性有機化合物成分をリアルタイムに計測するのに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A)は本発明で提案するエアロゾル分析装置の全体構成図であり、(B)はDMA1による粒径分布、(C)はDMA2による粒径分布を示している。
【図2】微分型電気移動度測定器(DMA)の装置図であり、(A)はDMA、(B)はDMAの微粒子分級部、(C)は微粒子分級部の拡大図を示している。
【符号の説明】
【0030】
4,24 微粒子供給部
5,25 囲み体
7,27 シースガス供給口
8,28 フィルタ
9,29 排出口
13,33 中心ロッド
11,31 試料(エアロゾル)供給口
12,32 スリット
14,34 ファラデーカップ電流計
15,35 連通管
30 取出し口
40 加熱装置
41 帯電装置
42 燃焼装置
43,44 分析機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾル試料を帯電させる帯電機能を有し、試料中のガスを分析対象ガス成分を含まないシースガスで置換するとともに、試料中の微粒子を分級して取り出す第1のDMAと、
前記DMAにより分級して取り出された微粒子を加熱する装置と、
前記加熱装置で加熱されて出てくる微粒子と発生したガスを取り込み、微粒子を分級し、微粒子とガスを別々に取り出す第2のDMAと、
前記第2のDMAのガス出口に接続されたガス分析機器と、を備えたエアロゾル分析装置。
【請求項2】
前記ガス分析機器は、取り込んだガスに酸素を添加し、加熱して酸化させた後に分析するものである請求項1に記載のエアロゾル分析装置。
【請求項3】
前記ガス分析機器は、CO2,SOx又はNOxを測定するものである請求項2に記載のエアロゾル分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−84303(P2006−84303A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268798(P2004−268798)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】