説明

エアロゾル化された調合物を肺内送達するためのノズル細孔構成

本発明は、液体調合物からエアロゾルを生成する効率を向上させるための多孔質シートの構成について記述する。このエアロゾル化された液体調合物は、本発明が適切な装置と併用された場合、薬学的活性薬物および診断用薬剤の肺内送達に使用されてもよい。各アレイ(例えば長方形アレイにおいて行および列として規定される)の個々の細孔は、シート上の複数の細孔の中に不連続または連続的な細孔サイズのばらつきが存在するように作製される。続いて、シート上の細孔に液体調合物を通過させることによって薬物がエアロゾル化される。その結果生じるエアロゾルは、多孔質シートおよび液体調合物の特性によって規定される、制御された範囲の粒子サイズを含有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、後で、液体調合物とともに使用されたときにエアロゾル生成効率の向上を伴ってエアロゾルの作製に使用できる、材料の薄手シート内の改良された細孔のアレイに関する。より具体的には、本発明は、薬物送達装置のノズルとして使用できる、材料の薄手シート内の細孔のアレイを扱う。ノズルは、細孔の出口直径のばらつきが制御されていることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
複数の用途において、規則的または不規則的に間隔のあいた複数の細孔を中に持つシートが利用されている。例えば、そのような多孔質シートは、フィルタ、インクジェットプリンタのカートリッジ、または燃料噴射器の製造において構成部品として利用されうる。あるいは、そのような多孔質シートは、薬学的活性薬物または診断用薬剤の送達に使用できるエアロゾル、スプレー、またはミストの生成に使用されうる。
【0003】
薬学的活性薬物または診断用薬剤は、非限定的に経鼻、経口、局所、経皮、経膣、気管内滴下、または眼内を含む種々の異なる方法で送達されうる。本発明の好ましい態様において、薬学的活性薬物または診断用薬剤は、肺内送達システムを用いて生成されたその薬物または薬剤のエアロゾル、スプレー、またはミストの吸入によって人体内に送達されてもよい。この肺内送達システムの1つの構成部品は、複数の細孔を含有するシートである。液体調合物の用途においては、液体調合物に電圧を印加し、そして複数のノズル細孔を含有するシートに液体調合物を通過させることによって、エアロゾルが生成される。この多孔質シートの属性は、対象者の肺に吸入されるべく処理されたエアロゾルの粒子サイズ分布(PSD)および放出量(ED)について所望の制御を行うことを容易にする。既存の一部の肺内送達装置は、患者に送達される薬物の量を制御するための機構も提供している。既存の肺内薬物送達装置の例としては、定量吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)、およびネブライザーなどがある。
【0004】
気道への薬学的活性薬物または診断用薬剤の肺内送達は、一般的に、エアロゾル化された粒子の直径が12ミクロン以下であることを必要とする。意図される用法、すなわち局所か全身かによって、粒子サイズ分布の最適範囲は変化しうる。例えば局所投与では、エアロゾル化された粒子について一般的に許容される範囲は1.0〜12.0ミクロンであり、好ましくは2〜6ミクロンである。全身送達投与では、この範囲は一般的に0.25〜6.0ミクロンであり、好ましくは0.5〜4ミクロン、より好ましくは1〜3.5ミクロンである。
【0005】
米国特許第5,544,646号(特許文献1)、同第5,709,202号(特許文献2)、同第5,497,763号(特許文献3)、同第5,7182,222号(特許文献4)、同第5,660,166号(特許文献5)、同第5,823,178号(特許文献6)、同第5,829,435号(特許文献7)、同第5,906,202号(特許文献8)、同第5,497,944号(特許文献9)、同第5,758,637号(特許文献10)、および同第3,812,854号(特許文献11)には、薬物送達に適したエアロゾルの生成に有用な装置および方法が記述されている。これらの装置は、例えばレーザーアブレーションによって作製されてもよい多孔質シートに調合物を通過させることによって、微細で均一なエアロゾルを生成する。同様のエアロゾル生成方法を用いる、利用可能な装置の例としては、Pari e-flow(登録商標)、Aerogen Aeroneb(登録商標)、Omron micro-air(登録商標)、Boehringer-Ingelheim Respimat(登録商標)、Medspray(登録商標)エアロゾル装置、およびAradigm AERx(登録商標)システムなどがあるが、これに限定されるわけではない。
【0006】
以上に引用したシステムおよび方法において、液体調合物の放出量またはエアロゾル化効率の程度は、多孔質シートの特質を含む複数の変数に影響される。本発明の態様を利用することにより、エアロゾル生成および薬物送達の効率に対する制御の程度を増すことが促進される。
【0007】
すべての細孔サイズを同じにすることの利点はこれまでにも強調されている。例えば米国特許第3,812,854号(特許文献11)では「吸入療法用のエアロゾルが生成される本発明の好ましい態様において、最も多くの場合、粒子サイズが均一であることが好ましい。0.5〜5ミクロンの範囲の均一な細孔直径を持つボディは、多くの吸入用途に理想的なエアロゾルを生成する」とされている。
【0008】
本発明で記述するように多孔質シートに故意に採り入れた特質によってエアロゾル化効率または放出される調合物の量を制御することで、気道内の意図された標的に対する薬学的活性薬物または診断用薬剤の利用および送達を向上できる可能性がある。本発明の改良された多孔質シートは、この多孔質シートを利用した液体調合物容器のコストの削減につながる可能性があり、これによって患者の治療コストの削減につながる可能性がある。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,544,646号
【特許文献2】米国特許第5,709,202号
【特許文献3】米国特許第5,497,763号
【特許文献4】米国特許第5,7182,222号
【特許文献5】米国特許第5,660,166号
【特許文献6】米国特許第5,823,178号
【特許文献7】米国特許第5,829,435号
【特許文献8】米国特許第5,906,202号
【特許文献9】米国特許第5,497,944号
【特許文献10】米国特許第5,758,637号
【特許文献11】米国特許第3,812,854号
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
グループ内に含有される細孔サイズが意図されたグラデーションまたは不連続な階段状変化を呈する、シート材料内の細孔のグループを提供する。細孔サイズに勾配または不連続な階段状変化を含めることは、シートの細孔の形成中に実現され、そして、これら多孔質シートによってエアロゾル、ミスト、またはスプレーを生成するときの効率向上につながる。
【0011】
薄手のポリマーフィルムから医療等級の金属、ガラス、またはセラミックまでにわたる材料の薄手シートに細孔を生成するための方法はこれまでにも開発および記述されている。米国特許第6,732,943号には、細孔の形成に用いられるそのような方法であって、使用されるシート材料を均一に穿孔する方法が記述されている。概要として、これらの方法は典型的に、シート上に向けられたレーザー源のエネルギーを利用して、シートを通る細孔を形成する。細孔は個々に形成されてもよく、またはシート上の細孔のアレイの単一もしくは複数のグループ化を伴って複数で形成されてもよい。レーザー源は、マスク、ならびに/または、ビームスプリッティング技術および/もしくはフォーカシング技術を用いて制御してもよい。
【0012】
本発明の1つの局面において、レーザー源として個体レーザー(例えばネオジム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)レーザー)が用いられる。
【0013】
本発明の別の局面において、レーザー源としてエキシマレーザーが用いられる。
【0014】
本発明の方法の1つの利点は、シート内の細孔構成形態が、薬学的活性薬物および診断用薬剤の肺内送達用の装置と併用される液体調合物の放出量またはエアロゾル生成の効率の、測定できる程度の向上につながりうることである。
【0015】
本発明の別の局面は、シート中に複数の細孔を伴うシート材料を含むノズルであって、該細孔は複数のグループにグループ化され;各グループは、与えられたグループ内で実質的に同サイズである複数の細孔で構成され;さらに、異なるグループ内の細孔サイズは、シートの第一の辺からシートの第二の辺に方向が変化しているノズルを提供することである。
【0016】
他の局面において、ノズルは、1つのグループと別のグループとで細孔直径が5%以上異なるように構成されるか;1つのグループと別のグループとで細孔直径が10%以上異なるように構成されるか;1つのグループと別のグループとで細孔直径が20%以上異なるように構成されるか;または、細孔のグループが行(row)になっており、異なる行が、シートの第一の辺からシートの第二の辺までの行間で徐々に異なる細孔サイズを持つように構成されていてもよい。
【0017】
本発明のこれらおよび他の目的、利点、および特徴は、以下により詳しく記述する本発明の詳細を読むことによって、当業者に明らかになるであろう。
【0018】
本発明は、以下の詳細な説明を添付の図面とともに読むことによって最もよく理解される。強調される点として、慣例に従い、図面の種々の特徴は、縮尺が一律でない。むしろ、種々の特徴の寸法は、明白性のため任意に拡大または縮小されている。図面には後述の図が含まれる。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明のノズル構成、装置、および方法を記述する前に、本発明の態様はさまざまでありうることから、記述される特定の態様に本発明が限定されるわけではないことが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるのであるから、本明細書で使用する用語は特定の態様を記述することのみを目的とし限定的な意図はないこともまた理解されるべきである。
【0020】
ある範囲の値が示される場合、文脈から明確に示されるのでない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間にある各中間値も具体的に開示されるものと理解される。言明された範囲内の言明値または中間値と、その言明された範囲内の任意の別の言明値または中間値との間の各小範囲も、本発明に含まれる。これら小範囲の上限および下限は、独立に、その範囲に入っていてもまたは入っていなくてもよく、そして、上限および下限のいずれかもしくは両方が小範囲に含まれるかまたはいずれも含まれない各範囲も本発明に含まれ、言明された範囲内に特定の除外限界値がある場合はその対象となる。言明された範囲が一方または両方の限界値を含む場合、これら含まれる限界値のいずれか一方または両方を除外した範囲もまた本発明に含まれる。
【0021】
特に断りがない限り、本明細書に用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を持つ。本発明の実施または検証においては本明細書に記述のものと類似または同等の任意の方法および物質が使用可能であるが、可能性があり且つ好ましいいくつかの方法および物質を以下に記述する。本明細書中で言及するすべての刊行物は、その刊行物が引用される関連における方法および/または物質を開示および記述するため、参照により本明細書に組み入れられる。本開示は、矛盾が存在する範囲において、組み入れられる刊行物のいかなる開示にも優先することが理解される。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる名詞の単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、特に断りがない限り複数形も含む。したがって、例えば、「1つの細孔(a pore)」という表現には複数の細孔が含まれ、「アレイ(the array)」という表現には1つまたは複数のアレイおよび当業者に公知の同等物が含まれる。他の表現も同様である。
【0023】
本明細書で言及する刊行物は、本出願の提出日より先に開示されたという理由でのみ提供される。本明細書におけるいかなる記載も、先行発明によるそのような発表に先行する権利を本発明が有さないことの承認として解釈されるべきでない。さらに、提供される発表日は実際の発表日と異なる可能性があり、独立した確認を要する場合がある。
【0024】
定義
本明細書において使用する「アレイ(array)」、「ノズルアレイ(nozzle array)」、または「細孔アレイ(pore array)」、およびこれに類する用語は、可撓性ポリマーシート材料などのシートに含まれていてもよい細孔の集合または複数の細孔を意味する。この細孔の集合は、直交座標、円座標、または他の任意の座標系によって幾何学的に記述されてもよく、またはランダムに分布していてもよい。
【0025】
「アレイ(array)」という用語は、以下本明細書において、種々の幾何学的構成に配置されてもよい細孔のグループ化、細孔の集合、および/または複数の細孔を記述するために用いられる。例えば、アレイは、行および列(column)を伴う長方形アレイまたは放射状に構成されたアレイとして配置された複数の細孔であってもよい。本発明のこの態様において、アレイは、細孔のサイズに連続的または不連続な勾配(ばらつき)を含有する。本発明の種々の態様が以下本明細書に記述されている。
【0026】
本明細書において交換可能に用いる「多孔質シート(porous sheet)」および「多孔質フィルム(porous film)」という用語は、与えられる任意の外部パラメータ形状を持つが好ましくは凸状の形状を持ち、中に細孔アレイすなわち複数の細孔を持ち、細孔または開口部は規則的または不規則的なパターンに配置されていてもよく、且つ、細孔は出口アパーチャの非屈曲直径が0.25ミクロン〜50ミクロンの範囲であり且つ細孔密度が1平方ミリメートルあたり1〜1,000個の範囲である、シート材料を意味する。多孔質シートの多孔度は0.0005%〜10%であり、好ましくは約0.01%〜2%であり、より好ましくは約0.01%〜0.1%である。1つの態様において、多孔質シートは、例えば1枚の大きなシート材料などの上に、1行の細孔を含む。細孔は多孔質シート材料の表面に対して平面状であってもよく、または円錐形の構成であってもよい。シートは、ポリマーフィルム、金属、ガラス、セラミック、または薬学的に好適な他の任意の工業材料であってもよい。
【0027】
本明細書において用いる「完全な細孔(complete pore)」という用語は、フィルムの厚さ全体にわたる細孔、すなわち、フィルムまたはシートの両表面(すなわち、液体調合物が圧力下で加えられる入口面および液体調合物が押し出される出口面)に開いている細孔を意味する。
【0028】
本明細書において用いる「化学物質放出量(chemical emitted dose)」、「放出量(emitted dose)」、および「送達量(delivered dose)」という用語は、調合物から生成されたエアロゾルから患者に送達される薬学的活性薬物または診断用薬剤の量を意味する。本発明の多孔質シートを通って移動させられる結果として作られるエアロゾルは、他の要素の中でも特に液体調合物および多孔質シートの結果である特徴的な粒子サイズ分布を呈する。
【0029】
本明細書において用いる「勾配(gradient)」という用語は、シート上に形成された複数の細孔内における個々の細孔サイズのばらつきを意味する。この勾配は、複数の細孔内における細孔サイズの連続的または不連続な変化のいずれかの形態をとってもよい。勾配はまた、負勾配または正勾配であるという特質も持っていてもよい;負勾配とは、多孔質シートを横切る空気流の方向に対して細孔サイズが減少することを意味し、正勾配の場合は、多孔質シートを横切る空気流の方向に対して細孔サイズが増加する。勾配は線形の勾配であること、すなわちシートを横切る連続的な変化であることが好ましいが、不連続変化、放物形のプロフィール、または他の任意のプロフィールなど任意の勾配を用いてもよい。
【0030】
「不完全な細孔(incomplete pore)」および「部分的な細孔(partial pore)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられ、薄手フィルムの両表面に開いていない細孔を意味する。細孔は、流動可能な物質が圧力下で加えられる入口アパーチャおよび流動可能な物質が押し出される出口アパーチャを持つ。
【0031】
シートまたは材料に形成された細孔に関する「実質的に通った(substantially through)」という用語は、シートの幅を完全に横断しているかまたは出口アパーチャ上に薄い剥離可能な層を持つよう形成されている細孔を意味する。出口アパーチャ上に剥離可能な層を伴って形成されている細孔は、シートの無孔領域を破断させるのに必要な圧力より実質的に低い圧力で外側に剥離するように形成される。
【0032】
本明細書において「ジェット(jet)」という用語は、液体調合物が多孔質シートを通って押し出される際に圧力下で各細孔から出る調合物の液柱またはストリームを記述するために用いられる。ジェットまたはストリームは多孔質シートから完全に離れ、そして粒子へと分離してエアロゾルを形成する。
【0033】
本明細書において「滲出(ooze)」という用語は、ジェット、またはエアロゾル、ミスト、もしくはスプレーにならずに液体として細孔から出る液体調合物の量を記述するために用いられる。滲出は、拭き取られるまで多孔質シートと接触状態に保たれることもある。
【0034】
本明細書において「多孔度(porosity)」という用語は、フィルム、シート、ノズル、フィルタ、または他の材料における、例えば細孔、穴、チャネル、または他の開口部などの空間で構成される表面積の領域のパーセンテージを意味するために用いられる。したがって多孔度パーセントは、空間の総面積を材料の面積で除しパーセンテージとして表した(100を掛けた)ものとして定義される。「材料の面積(area of the material)」とは、中に細孔を持つ面積であり、周囲に無細孔の境界領域がある場合、それは該当しない。多孔度が高い(例えば多孔度が50%より大きい)ことは、単位面積当たりの流量が大きく且つ流動抵抗が小さいことと関連する。一般的に、ノズルの多孔度は10%未満であり、10-3%から10%までさまざまであってもよく、一方、フィルタの多孔度は少なくとも1%であり、好ましくは少なくとも50%かまたはそれ以上の多孔度である。
【0035】
「パッケージ(package)」、「使い捨てパッケージ(disposable package)」、およびこれに類する用語は、本明細書において交換可能に用いられ、以下のような容器、または相互接続手段によって連結された2つ以上の容器を意味する:すなわち、各容器は好ましくは、容器から多孔質シートで構成されたノズルまでの流体接続を提供する1つまたは複数のチャネルを含み;ノズルは好ましくは容器上に直接的には配置されておらず;各容器は、容器の内容物がエアロゾル化されるかまたは多孔質膜上に滲出するような様式で内容物が強制的に移動されそして(容器を破断することなく)容器から出されることを可能にするような様式で折りたたみ可能である、少なくとも1つの表面を含む。薬物が液体の形態で安定的に保管できるか、または、乾燥状態で保管されエアロゾル化の直前に液体と組み合わされなければならないかによって、パッケージには少なくとも2つのバリエーションが存在する。
【0036】
各容器の内容物は、薬学的活性薬物または診断用薬剤を含む、好ましくは調合物、好ましくは流動可能な調合物、より好ましくは液体の流動可能な調合物を含む。薬物または診断用薬剤が液体でなく且つエアロゾル化可能なだけ十分に低粘度でない場合、その薬物または診断用薬剤は、好ましくは患者に影響を及ぼしうる保存剤などいかなる追加材料も伴うことなく、賦形剤キャリヤに溶解または分散される。内容物を乾燥状態で保管しなければならない場合、パッケージは、液体を保持しそして投与直前に乾燥薬物と組み合わせることのできる別の容器をさらに含む。
【0037】
本明細書において「容器(container)」という用語は、薬物調合物を保持および/または保管するための入れ物を意味するために用いられる。容器は単回用量もしくは複数回用量であってもよく、且つ/または、使い捨て式もしくは詰め替え式であってもよい。容器は、詰め替え式であってもよく、または単回使用の使い捨て容器であってもよい。
【0038】
「エアロゾル(aerosol)」、「エアロゾル化された調合物(aerosolized formulation)」、およびこれに類する用語は、本明細書において交換可能に用いられ、粒子の直径が、呼吸療法用には0.5〜12ミクロンであり、眼科治療用には15〜50ミクロンであり、経鼻送達用には2〜30ミクロン、好ましくは10〜20ミクロンである、薬物または診断用薬剤を含む調合物の粒子がその中に浮遊している空気の体積を意味する。
【0039】
「調合物(formulation)」、「流動可能な調合物(flowable formulation)」、およびこれに類する用語は、本明細書において交換可能に用いられ、直径が呼吸療法用には0.5〜12.0ミクロンであり眼科治療用には15〜75ミクロンである粒子へとエアロゾル化できるような特性を持つ流動可能な形態で、薬学的に許容されるキャリヤと組み合わせられる、任意の薬学的活性薬物(例えば、呼吸器用薬物、または、局所的もしくは全身的に作用し呼吸器系送達に好適な薬物)または診断用薬剤を意味する。そのような調合物は、好ましくは、例えば水溶液、エタノール溶液、水/エタノール溶液、コロイド懸濁液、および微晶質懸濁液などの溶液である。好ましい調合物は、好ましくは水である液体に溶解された薬物および/または診断用薬剤である。
【0040】
本明細書において交換可能に用いる「個人(individual)」「対象者(subject)」または「患者(patient)」という用語は、好ましくは哺乳動物であり一般的にはヒトである動物を意味する。患者は、医師の治療下にあってもよく、または単に疾患の処置を受ける対象者であってもよい。
【0041】
発明の態様
本発明は、肺内送達装置と併用されたときに薬学的活性薬物または診断用薬剤を患者に送達するためのエアロゾル、ミスト、またはスプレーを作るために用いられる、多孔質シートの構成を記述する。本発明により記述されるこの多孔質シートは、患者に効果的に送達されるエアロゾル、ミスト、またはスプレーの生成において、既存の方法およびシステムと比較して良好な効率性を提供する。エアロゾル生成効率の向上は、図2、図3、および図4のいずれかのアレイに示すような細孔サイズの意図的な連続グラデーションまたは不連続変化を呈する複数の細孔を含有する一体式多孔質シートとともに液体調合物容器を用いることによって実現される。
【0042】
図1は、本発明の1つの態様に基づく、薬学的活性薬物および診断用薬剤の肺内送達用の肺用薬物送達装置を示した略線図である。薬物送達装置100は、通気路102、多孔質シートまたは膜106を伴う液体調合物容器104 、および加圧モジュール108を含む。多孔質シート106はシートの1つの表面上に2つ以上の細孔を持つ。各々の複数の細孔は、直交座標または円座標を伴う幾何学的なアレイによって規定される。
【0043】
細孔の配列の別の例を、図2、図3、および図4との関連において略図的に示す。液体調合物は、調合物を加圧して、エアロゾル形成のため液体調合物容器104に組み込まれている多孔質シート106の細孔を通過させることによって、スプレー、ミスト、またはエアロゾルの形態でユーザーに送達される。ユーザーは、通気路102の補助によって、エアロゾル化された薬物を吸入する。
【0044】
液体調合物は、例えば水および/またはアルコールの溶液など、容易にエアロゾル化されうる比較的低粘度の流動可能な調合物である。本発明の1つの態様において、液体調合物の粘稠度を低下させるため、薬学的な成分はキャリヤ中に溶解または分散される。液体調合物の例には、エタノール溶液、水溶液、およびコロイド懸濁液が含まれるが、それに限定されるわけではない。液体調合物のエアロゾル化を容易にするため、液体調合物の粘稠度が保たれる。
【0045】
本発明の1つの態様において、液体調合物は、キャリヤに溶解された任意のタイプの薬学的活性薬物である。薬学的活性薬物の例には、呼吸器用薬物、全身作用性の薬物(例えばインスリンまたはニコチン)、およびこれに類するものが含まれる。さらに、薬学的活性薬物には、肺内経路によって投与されうる、将来開発される新しい薬物もまた含まれる。本発明の好ましい態様において、薬学的活性薬物には、インスリンまたはインスリンの類似物、例えばインスリン単量体が含まれる。さらに、インスリン調合物は任意の賦形剤を伴っていてもよく、または伴っていなくてもよい。
【0046】
圧力が印加されると、液体調合物容器に含有された液体調合物はエアロゾル化された形態に変化する。加圧モジュール(例えばカム、ピストン、またはガス圧)108は、液体調合物容器104に組み込まれた多孔質シート106を通って液体調合物が吐出されその結果としてエアロゾル、スプレー、またはミストが生成されるよう、必要な圧力を生成する。本発明の1つの態様において、加圧モジュールは、サーボ駆動式モーターアセンブリに連結されたピストンである。別の態様において、加圧モジュールは、ばねに連結されたピストンである。一体式多孔質シート106を伴う液体調合物容器104が装置に挿入されたとき、液体調合物容器104に圧力は印加されていない。装置が稼動すると、必要投与量により決定された位置までサーボモーターがピストンを駆動し、これにより液体調合物容器104に圧力がかかって、液体調合物が多孔質シート106を通過する。ノズルから出る液体調合物は不安定なストリームまたはジェットを形成する。ストリームは表面張力のため小滴に分かれる。小滴のサイズは、シート上の細孔のサイズ、液体調合物周囲の空気の温度、および液体調合物の固形分などの要因に影響される。本発明の1つの態様において、小滴のサイズは約0.5ミクロン〜12ミクロンの範囲である。
【0047】
本発明の別の態様において、加圧モジュール108は、振動装置によって代用されるかまたは補助される。この振動は、エアロゾル、スプレー、またはミストを構成する個々の小滴の形成を促進および制御するため、多孔質シートまたは調合物に適用されてもよい。振動の周波数は、細孔のサイズおよび液体調合物の粘稠度、ならびに、結果として生じるエアロゾル、ミスト、またはスプレーの所望の目標サイズ範囲およびエアロゾル生成レートに応じて、さまざまであってもよい。
【0048】
図2、図3、および図4に、本発明の態様に基づく、液体調合物容器104と一体化される多孔質シート106の略上面図を示す。液体調合物容器104は長方形の液体調合物容器であってもよい。本発明の1つの態様において、多孔質シートは、長方形アレイに配列された数百個の個々の細孔の集合で構成される。アレイは5〜5000個の細孔を含有していてもよく、好ましくは100〜1000個の細孔、より好ましくは300〜600個の細孔を含有していてもよい。本発明の1つの態様において、多孔質シート106は、(7)行および(64)列に配列された448個の細孔のアレイで構成される。この細孔のアレイの寸法は長さ約3 mm、幅0.3 mmである。細孔の形状は円錐形であり、広いほうの端が加圧モジュール108に向き(図7参照)、狭いほうの端が、液体調合物が吐出されその結果エアロゾルが生成される場所である外縁に位置する。細孔の出口直径に対する入口直径の比は4より大きく、好ましくは10より大きく、より好ましくは20より大きい。しかし、この比は、細孔の1つの行から次の行へと徐々に変化して、異なる列ごとに異なっていてもよい。
【0049】
液体調合物容器104は、規定された細孔アレイをその中に伴う、一体化された多孔質シート106を持つ。図2、図3、および図4には単一の細孔アレイのみが示されているが、この多孔質シート106は1つより多い細孔アレイ、すなわち複数のアレイを各ノズル上に持っていてもよいことが当業者には明らかであろう。
【0050】
図2に、シート上の細孔のアレイ202を図示する。個々の円は、液体調合物がそこを通って押し出されうる、シート106上のさまざまな細孔を規定している。この実施例において、細孔は長方形アレイの形態に配列されており、細孔サイズは連続グラデーションを呈する。
【0051】
図2において、行208a、行208b、行208c、行208d、および行208nは、この長方形アレイのさまざまな行を表し、「n」は任意の整数値であってよい。連続勾配を伴うこの実施例において、隣接する2行の細孔の平均直径の差はアレイ全体にわたって同じである。したがって、行208bと行208cとの細孔の直径の差は、行208aと行208bとの細孔の直径の差に等しい。辺204および辺206は、空気流の方向性に対する多孔質シートの2つの辺を指す。辺204は患者から離れた辺であり、辺206は患者に向かっている。したがって、ユーザー患者が液体調合物を吸入したとき、空気は、辺204から辺206に向かう方向で液体調合物容器104上を通過する。アレイは、患者に近い行ほど各行の細孔サイズが小さくなるように作製される。
【0052】
本発明の別の態様として、図2に示した連続グラデーションと異なり、平均細孔サイズが不連続に階段状変化した負勾配を呈するアレイ302の実施例を図3に示す。不連続な階段状変化の実施例において、勾配は不均一であってもよい;すなわち、隣接する行内の細孔の直径の差はアレイ全体にわたって同じではない。行308aと行308bとの細孔の直径の差は、行308bと行308cとの細孔の直径の差と等しくない。この実施例において、行308aは、患者に最も近い行にあってより小さい平均細孔サイズを示し、残りの行(例えば308b)は、行308aに含有されるものより大きい細孔サイズの単分散母集団を含有している。
【0053】
本発明の別の態様として、図2に示した連続グラデーションと異なり、平均細孔サイズが不連続に階段状変化した正勾配を呈するアレイ402の実施例を図4に示す。この実施例において、ユーザーから離れた細孔の行またはn番目の行である行408nはより小さい平均細孔サイズを示し、残りの行(例えば408d)は、行408nに含有されるものより大きい細孔サイズの単分散母集団を含有している。
【0054】
図2、図3、および図4には、長方形アレイとして構成された多孔質シートのみを示したが、円形アレイ、三角形アレイ、または放射座標を伴う他の幾何学的配置など、他の構成を伴うアレイも同様の様式に構成できることが、当業者には明らかであろう。さらに、細孔サイズが不連続に階段状変化した1つまたは複数の行を呈するアレイを構成できることも、当業者には明らかであろう。
【0055】
勾配は、異なる行の細孔のサイズ間の平均的な差として、または、アレイを横断する際の穴の変化のレートとして定義される。本発明の1つの態様において、勾配は、単一の細孔アレイ内における、患者から最も離れた行に対する、患者に最も近い行の、細孔の平均直径の差である。例えば、図2に示したアレイ202の勾配は、行208aおよび行208nの細孔の直径の差を取ることによって計算される。図4および図3にそれぞれ示したように、その結果の差が正である場合はその勾配を正勾配と呼び、差が負である場合はその勾配を負勾配と呼ぶ。
【0056】
連続的または不連続なグラデーションの段階である特定の量の勾配を、シート上の細孔のアレイ構成に含めると、エアロゾル生成の効率が向上し、ひいては薬学的活性薬物の送達量が向上することが既に示されている。
【0057】
図5は化学物質放出量(CED)に対する勾配の影響を示したグラフである。CEDはY軸上にプロットされ、液体調合物容器上の細孔サイズの勾配はX軸上にプロットされている。CEDは、装置から患者に有効に送達される、薬学的活性薬物または診断用薬剤の量のインビトロ測定値を示す。このアッセイは、薬学的活性薬物のバイオアベイラビリティをインビトロで決定するための代用法として用いるために設計されている。図5から、化学物質放出量の平均値は、細孔サイズが正のグラデーションである場合に対して、シート上の平均細孔サイズが負のグラデーションを呈する多孔質シートの場合に高い。別の注目すべき点は、結果的に得られたCEDの平均値の分散または標準偏差が、細孔サイズが正のグラデーションを示す多孔質シートと比較して、多孔質シートの平均細孔サイズが負のグラデーションを呈する場合に実質的に向上することである。
【0058】
図6は、押出し効率、換言するとエアロゾル生成効率に対する、多孔質シートに組み込まれた勾配の影響を示したグラフである。このグラフは、押出し効率と多孔質シートに存在する勾配の量との相関を示している。押出し効率は化学物質放出量およびデルタパケット重量の比として定義され、デルタパケット重量とは、多孔質シートを通って押し出される液体調合物の正味の量を表す。したがって、押出し効率は、液体調合物がどれだけ効率的に送達量または患者に届くエアロゾルに変換されるかという指標である。
【0059】
図6から、多孔質シートが負勾配を呈する場合は、押出し効率の平均値が高く且つ標準偏差または分散が低いことが明らかである。この高い平均値および低い標準偏差は、換言すると、薬学的活性薬物または診断用薬剤の液体調合物の利用が向上することである。この結果はまた、負勾配を伴う多孔質シートを液体調合物の肺内送達に使うと、再現性が向上すること、すなわち投与量間のばらつきの可能性が小さくなることも示している。
【0060】
図5および図6が示している点の散乱は細孔の形成に用いたプロセスの通常の分散を表すものではなく、これらの点は、シート材料のアブレーションに用いたエキシマレーザーの操作を介して意図的に作られた不連続な条件であることに注意されたい。
【0061】
図7および図8は、異なる細孔サイズが、速度および直径に関する強度がさまざまであるジェットの形成につながるという動的な条件を、それぞれ負勾配および正勾配について示した図である。このジェッティングの特質は細孔直径の関数となる。実際において、多孔質シートを通って液体調合物が押し出されている間、押し出されているときの液体の表面張力によって、小滴の形成が生じ、続いてこれらジェットからの分離が生じる。薬学的活性薬物または診断用薬剤の肺内送達によって最終的に患者に送達されるエアロゾルを形成するのは、これら液体の小滴である。
【0062】
特定の状況下、非限定的であるが特に平均粒子サイズが0.5ミクロン〜12ミクロンのエアロゾルの形成においては、液体調合物が多孔質シートの細孔をエアロゾルではなく液体として出て、続いて多孔質シートの表面に溜まるというリスクが存在する。この現象を「滲出」という。押出し事象の経過、すなわち液体調合物が多孔質シートを通ってエアロゾル化される期間において、この滲出は、シート上の細孔アレイ内の隣接する細孔に伝搬しうる。滲出がシート上の多孔質アレイに及ぼす影響は、それら細孔を効果的に消失させ、ジェッティングおよびそれに続くエアロゾル生成がもはや生じなくなることである。その結果、液体調合物容器からの装填用量のうちかなりの量が、エアロゾルとしてエンドユーザーに効果的に送達されなくなる。
【0063】
本発明の現時点の態様において、勾配、より具体的には負勾配が好ましいことが観察されている。負勾配は、細孔サイズがしだいに大きくなる隣接行を効果的に作り出し、これは、隣接するより小さな細孔からの滲出の影響を軽減するとともに、滲出形成が始まる前の押出し時間をより長くすることを容易にする。細孔サイズの勾配によるエアロゾル生成効率のこの向上は、粒子サイズ分布を、薬学的活性薬物または診断用薬剤の効果的な送達を確実にするような望ましい範囲に保ったまま実現される。加えて、多孔質シートに負勾配を含めることは、標準偏差の減少にみられるようにエアロゾルの生成および性能のばらつきを大幅に減少させることにつながり、これにより、患者への投与の信頼性および一貫性を高めることを容易にする。
【0064】
以上、本発明の好ましい態様を図示および記述したが、本発明がこれら態様にのみ限定されるわけではないことは明らかであろう。当業者には、特許請求の範囲に記述される本発明の精神および範囲から逸脱しない、多数の修正、変更、バリエーション、代替、および同等物が明らかであろう。
【0065】
シートの寸法および材料
勾配を伴う細孔の形成に使用できるシート材料には、有機的であるかまたは無機物を基礎とする、可撓性および非可撓性のシートが含まれるが、それに限定されるわけではない。可撓性の有機シートの例には、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、およびポリエステルなどの材料が含まれるが、それに限定されるわけではない。コポリマーまたは形状記憶ポリマーもまた使用できる。非可撓性の無機シート材料の例には、アルミニウム、金、白金、チタン、ニッケル、鋼の合金、シリコン、シリカ、ガラス、およびセラミックが含まれうるが、それに限定されるわけではない。
【0066】
シート材料の厚さは、エアロゾルの性能に関連するため、細孔設計の製造および構成の両方に影響を及ぼす。シートは好ましくは厚さが10〜約200マイクロメートルであり、より好ましくは20〜100マイクロメートル、最も好ましくは厚さが約12〜45マイクロメートルである。好ましい態様において、厚さは約25マイクロメートルである。
【0067】
細孔のサイズおよび特質
「粒子直径」および「粒子サイズ」という用語は本明細書において交換可能に用いられ、粒子の空気力学的サイズによって規定される粒子サイズを意味する。空気力学的直径は、通常の大気条件下における空気中の終端沈降速度が同じである単位密度粒子の直径を表す。
【0068】
本発明で規定するシートは複数の細孔を含有する。本発明のいくつかの態様において、シートは、シートの無孔領域によって互いに分離された複数の多孔領域を含む。
【0069】
シートの細孔は、行および列などの長方形アレイとして配列していてもよく、または、互いに規則的で且つ実質的に均一な距離にある細孔の格子として配列していてもよい。あるいは、細孔はまた、次に続く細孔の行または環が放射座標で記述できる円形の様式または他の何らかの幾何学的配向に配列していてもよい。他の幾何学的配置もまた使用してもよく、または、細孔がランダムに分布していてもよい。
【0070】
シート上に形成される細孔は形状が円筒形または円錐形であってもよい。円筒形細孔の実施例において、細孔は、シートの入口側と出口側とでほぼ同じ直径を保ったままシートを垂直に通過する。より一般的な円錐形細孔の用途では、細孔は、シートの1つの側でより大きく、そしてシートの反対側において直径がしだいに小さくなる。円錐形細孔の場合、細孔壁の形状はまっすぐなテーパまたは曲がったテーパのいずれかを持っていてもよい。細孔はまた、細孔の第一の部分が比較的大きな穴であり、より小さな円筒形かまたは好ましくは円錐形である細孔を基部に持つ、階段状の構成をしていてもよい。
【0071】
細孔の均一なアレイを含有するシートおよびそれらの形成は、米国特許第6,732,943号にすでに記述されている。しかし、この態様においては、意図的な勾配がアレイまたは複数の細孔に付与される。細孔サイズのこの不均一性は、エアロゾル化効率、特に押出し時間の延長について、測定できる程度の向上をもたらすために実施される。本発明の1つの態様において、細孔の7行64列のアレイにおける細孔サイズは0.90ミクロン〜1.20ミクロンであり、2行は0.90ミクロンの細孔を特徴とし、5行は1.20ミクロンの細孔を特徴としていた。勾配は、アレイの1辺から他辺までの穴のサイズに少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の変化をもたらすことが好ましい。
【0072】
レーザー源
本発明の方法に用いられる特定のレーザー源は、ある程度、細孔が形成される材料またはシートに依存する。一般的に、レーザー源は、特定の波長において、細孔が形成されるシートから材料を効果的にアブレーションするのに十分なエネルギーを含有するべきである。この波長は典型的に150〜360 nmの範囲である。
【0073】
本発明で記述するような望ましい勾配を伴う細孔の形成に有効であることが示されている1つのレーザーは、周波数3倍のネオジム・イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)レーザーである。このレーザーは、紫外線波長スペクトルで作動できるパルスレーザーであり、短パルスにおいてピーク出力が十分に高く、シート材料に細孔を精密にアブレーションすることができる。Nd:YAGレーザーのビームプロフィールは放射対称であり、このことは、サイズがよく規定および制御された放射対称な細孔を形成することを容易にする。Nd:YAGレーザーを用いて、勾配を呈する細孔の望ましい行列をいくつかの方法によって作製することができ、そのような方法としては以下のものが含まれるがこれに限定されるわけではない:1)フィードバックを伴うかまたは伴わずに、各細孔または細孔の集合をアブレーションする;2)各細孔または細孔の集合について異なる数のパルスを用いる;3)各細孔または細孔の集合のアブレーションについて異なるパワーを用いる;4)各細孔または細孔の集合のアブレーションについて焦点を変化させる;および、5)所望の勾配レベルを作るよう設計された回折性の光学素子を用いることによって勾配を作る。
【0074】
細孔サイズが勾配を呈する複数の細孔の形成に有効であることが示されている別のレーザーシステムは、エキシマレーザーシステムである。Nd:YAGレーザーと同様、エキシマレーザーも、シート形態の材料をアブレーションまたはディザーするのに十分なピークエネルギーを紫外線波長スペクトルにおいて生成するパルスレーザーである。エキシマレーザーは、所望の細孔構成を伴うフォトマスクを利用し、このフォトマスクを通して紫外線エネルギーを投射することによってシートに細孔を形成する。この配置では、シート材料に1つまたは複数の円錐形または円筒形の細孔を同時にアブレーションまたはディザーすることができる。エキシマレーザーから投射されるビームは放射対称でないため、細孔サイズの所望の勾配は、フォトマスクを直接用いて所望の構成を作るか、またはレーザーからのエネルギーにバイアスをかけて不均一なエネルギー場を作ることによって実現される。あるいは、エキシマレーザーから投射されたビームを用いて、所望の特徴を伴う単一または複数のいずれかのフォトマスクを用いて細孔の行列に勾配をアブレーションすることによって、所望の構成を作ってもよい。あるいは、材料にわたって焦点を変化させて勾配を作ってもよい。
【0075】
当業者には、Nd:YLFレーザー、アルゴンイオンレーザー、CO2レーザー、ルビーレーザー、He-Neレーザー、ダイオードレーザー、Nd:YAGレーザー、フェムト秒レーザー、およびエキシマレーザーを非限定的に含む他の多くのタイプのレーザーをアレイの形成に使用できること、ならびに、レーザーは基本波長で作動させてもよく、または周波数2倍、3倍、もしくはそれ以上の高調波を含めてアップコンバートしてもよいことが明らかであろう。
【0076】
当業者には、微小電気機械システム(MEMS)、エンボス加工、放電、トラックエッチング、成形、およびこれに類するものを非限定的に含む多数の技術をアレイの形成に使用できることが明らかであろう。
【0077】
以上は、本発明の原理を示したにすぎない。当業者であれば、本明細書に明示的に説明しまたは示してはいないものの本発明の原理を具現化し且つ本発明の精神および範囲に含まれる、種々の組合せを作製できると考えられ、このことは理解されるべきである。さらに、本明細書に説明するすべての実施例および条件的文言は、本発明の原理および本発明者らが当技術を促進するために提供する概念を読者が理解することを助けることを主に意図したものであり、具体的に説明されたそのような実施例および条件に限定されるわけではないものとして解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、局面、および態様、ならびに本発明の具体的な実施例を説明した、本明細書におけるすべての言明は、それらの構造的および機能的な同等物も包含すると意図される。さらに、そのような同等物は、現在公知の同等物および今後開発される同等物の両者、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を実施する、開発されたあらゆる要素を含むものと意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示しまたは説明した例示的な態様に限定されるとは意図されず、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲により具体化される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の1つの態様に基づく薬物の肺内送達用の薬物送達装置を示した概略図である。
【図2】本発明の1つの態様に基づく、薬物送達装置と併用され連続勾配を伴う多孔質シートの上面の概略図である。
【図3】負勾配の不連続セクションを伴う多孔質シートの上面の概略図である。
【図4】正勾配の不連続セクションを伴う多孔質シートの上面の概略図である。
【図5】化学物質放出量(CED)に対する勾配の効果を示したグラフである。
【図6】勾配を適用した多孔質シートおよび勾配なしの条件における押出し効率を示したグラフである。
【図7】装置を通る空気流と負勾配を含有する多孔質シートとの相互作用のグラフ図である。
【図8】装置を通る空気流と正勾配を含有する多孔質シートとの相互作用のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート中に複数の細孔を伴うシート材料を含むノズルであって、
該細孔は複数のグループにグループ化され;各グループは、与えられたグループ内で実質的に同サイズである複数の細孔で構成され;さらに、異なるグループ内の細孔サイズは、前記シートの第一の辺から前記シートの第二の辺に方向が変化している、ノズル。
【請求項2】
1つのグループと別のグループとで細孔直径が5%以上異なる、請求項1記載のノズル。
【請求項3】
1つのグループと別のグループとで細孔直径が10%以上異なる、請求項1記載のノズル。
【請求項4】
1つのグループと別のグループとで細孔直径が20%以上異なる、請求項1記載のノズル。
【請求項5】
細孔のグループが行(row)になっており、異なる行が、シートの第一の辺から該シートの第二の辺までの行間で徐々に異なる細孔サイズを持つ、請求項1記載のノズル。
【請求項6】
液体調合物を保持するための薬物容器と、
前記容器と流体接続している、シート中に複数の細孔を伴うシート材料を含むノズルであって;該細孔は複数のグループにグループ化され;各グループは、与えられたグループ内で実質的に同サイズである複数の細孔で構成され;さらに、異なるグループ内の細孔サイズは、前記シートの第一の辺から前記シートの第二の辺に方向が変化している、ノズルと
を含む、エアロゾル化薬物送達装置。
【請求項7】
異なる行の細孔が、ユーザー患者に向かう装置内の空気流の方向に正勾配を持つ、請求項6記載の装置。
【請求項8】
異なる行の細孔が、ユーザー患者に向かう装置内の空気流の方向に負勾配を持つ、請求項6記載の装置。
【請求項10】
細孔の母集団を形成する複数の細孔を中に持つノズル領域を持つシート材料を含むノズルアレイであって、
該細孔の母集団の細孔が、細孔サイズの連続的且つ漸進的な変化および細孔サイズの不連続な変化から選択される変化を含む、ノズルアレイ。
【請求項11】
変化が、細孔の母集団における穴のサイズの少なくとも10%の変化である、請求項10記載のアレイ。
【請求項12】
母集団における細孔サイズの変化が、
細孔サイズが空気流の方向で増加する正勾配;および
細孔サイズが空気流の方向で減少する負勾配
から選択される勾配を提供する、請求項10記載のノズルアレイ。
【請求項13】
勾配が負勾配であり、且つ、ノズル領域を含むシート材料が可撓性のシートで構成される、請求項12記載のアレイ。
【請求項14】
可撓性のシートが、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエステル、およびポリカーボネートからなる群より選択されるポリマーで構成される、請求項13記載のアレイ。
【請求項15】
出口細孔サイズ直径の平均に対する入口細孔直径の平均比が少なくとも10:1である、請求項12記載のアレイ。
【請求項16】
出口細孔サイズ直径の平均に対する入口細孔直径の平均比が少なくとも20:1である、請求項12記載のアレイ。
【請求項17】
シート材料が、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、シリコン、ニッケル、ガラス、またはセラミックからなる群より選択される非可撓性のシート材料で構成され;中に細孔を伴うノズル領域が5〜5000個の細孔を含有し;且つ、該細孔が円錐形である、請求項13記載のアレイ。
【請求項18】
ノズル領域が100〜1000個の細孔を含有する、請求項12記載のアレイ。
【請求項19】
ノズル領域が300〜600個の細孔を含有する、請求項12記載のアレイ。
【請求項20】
細孔の母集団の細孔が長方形アレイの行および列(column)としてノズル内で規則的または不規則的に間隔が空いている、請求項10記載のアレイ。
【請求項21】
各行内の細孔が実質的に同じサイズである、請求項20記載のアレイ。
【請求項22】
1つまたは複数の細孔アレイを持ち、各細孔アレイは1つまたは複数の細孔行を持ち、各細孔アレイの該細孔行は隣接行の細孔のサイズに連続的な勾配が存在するように配置されている、多孔質シートと、
液体調合物を保持するための容器と、
前記液体調合物を前記多孔質シートの1つまたは複数の前記細孔アレイを通して移動させるのに十分なエネルギーを該液体調合物に提供するエネルギー印加モジュールと
を含む、エアロゾルを生成するための装置。
【請求項23】
1つまたは複数の細孔アレイで構成され、各細孔アレイが1つまたは複数の細孔行を持つ多孔質シートと、
液体調合物を含む液体調合物容器、該液体調合物容器と、
前記液体調合物を該多孔質シートの該1つまたは複数の細孔アレイを通して移動させるため該液体調合物に圧力を印加するための加圧モジュールと、
各アレイの隣接行の細孔のサイズに連続的な負勾配が存在するような前記細孔行の配置と
を含む装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2009−534055(P2009−534055A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558421(P2008−558421)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/006043
【国際公開番号】WO2007/106386
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(397065387)アラダイム コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】