説明

エアロゾル発生装置および成膜装置

【課題】 所望の粉体濃度で安定したエアロゾルを発生することができるエアロゾル発生装置および成膜装置を提供する。
【解決手段】 発生容器2の内部空間に微小粉体を供給する粉体供給部4と、発生容器2の内部空間に分散媒となる気体を供給する気体供給部5とを備え、微小粉体の供給と分散媒となる気体の供給とをそれぞれ独立して制御することで、所望の粉体濃度を容易に実現する。また、粉体供給口4dと、気体供給口5bとを、回転翼3よりも鉛直方向下方側とすることで、微小粉体は常に旋回流の軸流方向最上流部から旋回流へと供給されるので、微小粉体の旋回流中での分散状態が変動することを抑制し、容器の内部空間において、発生したエアロゾルの粉体濃度分布を一様なものとすることができる。さらに、粗大粒子除去部7により発生容器2内にある粗大粒子を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分散媒中に微小粉体を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生装置および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微小粉体を気体分散媒中に分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル発生装置が、エアロゾルディポジション法による脆性材料微粒子の常温成膜技術等に利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
エアロゾルディポジション法は、粒子径が0.1〜5μm程度の脆性材料微粒子を気体分散媒中に均一に分散させたエアロゾルを、基板の表面に吹き付けることにより、緻密な成膜体が得られるという特徴がある。この成膜を制御する重要な因子として、吹き付けるエアロゾルに含まれる脆性材料微粒子の分散・凝集度があげられ、均一な成膜を行うためには、微粒子が気体分散媒中で、より均一に分散され、かつ凝集が少ない状態の微粒子が基板に吹き付けられることが重要となる。
【0004】
従来、エアロゾル発生装置としては、分散用気体の導入口およびエアロゾル導出口を備えた容器に微小粉体を収容し、この収容容器を振動させるバッチ式のエアロゾル発生装置が提案されている(特許文献2参照)。また、量産性を高めるために非バッチ式の連続供給を可能とした装置としては、粉体収容部と、溝状の回転する粉体輸送手段と、気体の吹き付け、吸引によるエアロゾル化手段とを備えた装置が提案されている(特許文献3参照)。同様に、連続供給が可能なエアロゾル発生装置として、原料セラミックス粉を供給するホッパを有する原料粉導入ノズルと、複数の不活性気体導入ノズルとが設けられ、不活性気体で形成される円盤気流旋回渦によって粒子間衝突させ、エアロゾル化を実現する装置も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−181859号公報
【特許文献2】特開2001−348658号公報
【特許文献3】特許第4350005号公報
【特許文献4】特開2007−217765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2〜4に記載のエアロゾル発生装置は、微粒子の気体分散媒中における分散状態、およびエアロゾル中の微粒子濃度は、気体分散媒の流量に依存するものであり、高濃度のエアロゾルを発生させようとした場合、気体の流量を多くして一度に多量の微粒子を容器内に取り込むことが考えられるが、局所的に微粒子濃度が高い領域で凝集が発生して分散状態が悪化する可能性が高く、気体流量を少なくすると微粒子が分散せず、エアロゾルを発生させることができなくなるという問題がある。
【0007】
このように、従来のエアロゾル発生装置は、気体の供給により微粒子の供給が大きく影響を受けるために、所望の粉体濃度で安定したエアロゾルを発生することが困難である。
【0008】
また、使用する微粒子の種類、気体の種類および温度条件などによっては微粒子が凝集しやすく、気体中の微粒子の分散状態が悪化して粗大粒子が発生するおそれがある。粗大粒子が装置の壁面に付着したり、粗大粒子がエアロゾルとともにノズルを通って基板に吹き付けられることになると、均一な成膜が困難となってしまう。
【0009】
本発明の目的は、所望の粉体濃度で安定したエアロゾルを発生することができるエアロゾル発生装置および成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、分散媒である気体に微小粉体を分散させたエアロゾルを発生させるための内部空間を有する容器と、
前記容器の内部空間に微小粉体を供給する粉体供給部と、
前記容器の内部空間に気体を供給する気体供給部と、
前記容器の内部空間に供給された前記気体の旋回流であって、軸流方向が鉛直方向下方から上方に向かう旋回流を発生させる旋回流発生手段と、
前記エアロゾルを、前記容器から外部へ取り出す取り出し部と、
前記容器の内部空間にある粗大粒子を外部へと除去する粗大粒子除去部とを備えて構成されているエアロゾル発生装置である。
【0011】
また本発明は、上記のエアロゾル発生装置と、
被成膜部材である基板を保持する保持台と、
前記エアロゾル発生装置の前記取り出し部から取り出されたエアロゾルを、前記基板の表面に吹き付けるノズルと、を備えることを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態であるエアロゾル発生装置は、容器の内部空間に微小粉体を供給する粉体供給部と、容器の内部空間に気体を供給する気体供給部とを備えることで、微小粉体の供給と分散媒となる気体の供給とをそれぞれ独立して制御することが可能となり、所望の粉体濃度を容易に実現することができる。
【0013】
さらに、粗大粒子除去部が、前記容器の内部空間にある粗大粒子を外部へと除去するので、容器内壁への粗大粒子の固着、およびエアロゾル中に粗大粒子が混入することを防止することができる。
【0014】
以上より、本実施形態のエアロゾル発生装置は、所望の粉体濃度であって、かつ安定したエアロゾルを発生して供給することができる。
【0015】
また本発明の実施形態である成膜装置は、上記のエアロゾル発生装置で発生したエアロゾルを、ノズルを介して基板に吹き付けることで、エアロゾルに分散された微小粉体からなる膜構造体を基板表面に成膜することができる。
【0016】
エアロゾル装置では、所望の粉体濃度であって、かつ安定したエアロゾルを発生させることができ、エアロゾル中への粗大粒子の混入も生じないので、所望の構造を有する膜構造体を安定して基板表面に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態であるエアロゾル発生装置1の構成を示す概略図である。
【図2】発生容器2内の旋回流を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態であるエアロゾル発生装置11の構成を示す概略図である。
【図4】エアロゾルディポジション法を利用した成膜装置100の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態であるエアロゾル発生装置1の構成を示す概略図である。図1では、エアロゾル発生装置1の構成をわかり易く示すために、発生容器2の内部を透過させた図としている。
【0019】
エアロゾル発生装置1は、内部空間でエアロゾルを発生させる発生容器2と、発生容器2の内部空間に設けられる回転翼3と、発生容器2の内部空間に微小粉体を連続的に供給する粉体供給部4と、発生容器2の内部空間に、エアロゾルの分散媒となる気体を供給する気体供給部5と、発生したエアロゾルを発生容器2の内部空間から取り出す取り出し部6と、発生容器2の内部空間から粗大粒子を除去する粗大粒子除去部7とを備える。
【0020】
発生容器2は、たとえば、円筒形状の側壁2aを有し、円筒形状の中心軸線方向(鉛直方向y)両端の開口は、それぞれ底板2bと蓋体2cとで密閉され、側壁2a、底板2bおよび蓋体2cで囲まれた内部空間において回転翼3の回転により、気体供給部5から供給される気体に旋回力を与えて旋回流を発生させる。
【0021】
回転翼3は、駆動部3aから延びる回転シャフト3bによって回転駆動力が伝達され、発生容器2の内部空間において、回転する旋回流発生手段である。回転翼3は、回転翼3の回転軸が、発生容器2の中心軸線と一致する、すなわち回転シャフト3bの回転軸線が発生容器2の中心軸線と一致するように、回転翼3および回転シャフト3bが設けられる。回転シャフト3bは、発生容器2の底板2bの中心に設けられた貫通孔に挿通され、一端部が駆動部3aに連結されるとともに、他端部が回転翼3に連結される。駆動部3aはたとえば、電動モータなどで実現され、回転駆動力を回転シャフト3bに付与するものであれば使用可能である。
【0022】
回転翼3は、発生容器2の内部空間において、鉛直下方側、すなわち底板2b側に位置するように設けられる。詳細は後述するが、粉体供給部4によって微小粉体が供給される粉体供給口および気体供給部5によって分散媒となる気体が供給される気体供給口は、いずれも底板2bに設けられる。したがって、微小粉体および気体は、底板2b付近から供給されるため、回転翼3は、底板2bから所定の間隔を空けて設けられる。回転翼3の下端と粉体供給口および気体供給口との間隔は、たとえば1.5〜5.0mm以下に設定される。これにより回転翼が各供給口と接触する危険性をなくし、また回転翼3の回転により、回転翼3と底板2bとの間には負圧が発生し、供給された微小粉体が吸い上げられて、旋回流となった分散媒気体中に分散させることができる。
【0023】
図2は、発生容器2内の旋回流を示す模式図である。回転翼3は、図2の模式図に示すように発生容器2の内部空間において、軸流方向が鉛直方向yの上方に向かうような旋回流を発生させることができるものであればよく、プロペラ型回転翼、パドル型回転翼など各種の回転翼を用いることができる。
【0024】
本実施形態では、回転軸の半径方向に延びる2枚の板羽根(パドル)を備えるパドル型回転翼を用いている。回転翼3の回転によって発生する旋回流の回転速度および軸流方向の流速は、パドルの数、パドルの回転速度、パドルの取り付け角度(回転軸線に直交する仮想平面に対するパドルの傾き)を適宜変更することによって制御することができる。
【0025】
供給された微小粉体を効率よくエアロゾルに用いるには、回転翼3によって発生する旋回流の旋回半径を発生容器2の内半径と同じにするとよい。そして、旋回流の旋回半径は、回転翼3の翼半径とほぼ同じであるので、回転翼3の翼半径が可能な限り発生容器2の内半径に近づくように、回転翼3の翼端と発生容器2の内周面との間隙を小さく、たとえば1〜5mmとすることが好ましい。
【0026】
気体供給部5は、図示しない気体貯溜ボンベに接続される気体供給管5aを含み、気体供給管5aは、発生容器2の底板2bに設けられた貫通孔に挿通される。気体供給管5aの気体供給口5bは、発生容器2の底板2bにおいて、発生容器2の内部空間に臨んで開口するように設けられる。
【0027】
気体供給管5aおよび気体供給口5bの大きさ(管径および開口径)は、供給する気体の流量に応じて適宜設定すればよい。また、気体供給口5bの位置は、回転翼3よりも鉛直方向yの下方側に設ければよく、本実施形態のように底板2bに設けたり、発生容器2の側壁2aに設けることもできる。
【0028】
気体供給部5によって発生容器2の内部空間に供給される気体の種類は、発生させるエアロゾルに応じて適宜選択すればよく、エアロゾルディポジション法に用いるエアロゾルを発生させる場合は、吹き付ける基板材料に対して不活性な気体であればよい。不活性気体としてたとえば、アルゴン、窒素、ヘリウム等が使用できる。これにより大気中の水分や異物を除去することができる。
【0029】
気体供給部5は、たとえばマスフローコントローラを備え、分散媒気体の供給流量を制御する。気体供給管5aを流れる気体の流量は、流量センサによって検出され、検出結果に基づいて、流路中に設けられた流量制御バルブの開閉制御を行うことで、分散媒気体の供給流量を制御することができる。
【0030】
気体供給部5は、発生容器2の内部空間に対して、所定の流量で連続的に安定した気体供給を行う。気体の供給は、後述の微小粉体の供給とは独立して制御することが可能となっている。
【0031】
粉体供給部4は、供給ホッパ4a、スクリューフィーダ4bおよび駆動部4cを備える。粉体供給部4によって微小粉体が発生容器2の内部空間に供給され、回転翼3の回転および気体供給部5による分散媒気体の供給によって発生した旋回流中に微小粉体が分散される。
【0032】
スクリューフィーダ4bは、円筒状のトラフの内部にスクリューが設けられる構造であり、スクリューの回転により、トラフ内の粉体をスクリューの軸線方向に沿って搬送する。トラフの端部における開口が、粉体供給部4の粉体供給口4dとなり、トラフ内を搬送された微小粉体が、粉体供給口4dから発生容器2の内部空間に連続的に供給される。
【0033】
本実施形態では、粉体供給口4dは、回転翼3よりも鉛直方向yの下方側に設ければよく、本実施形態のように底板2bに設けたり、発生容器2の側壁2aに設けることもできる。
【0034】
粉体供給口4dを底板2bに設ける場合は、微小粉体の搬送方向は、鉛直方向yに沿って、下方から上方に向かう方向である。具体的には、トラフの中心軸が、鉛直方向yに平行になるように設けられ、スクリューの回転軸も同様に鉛直方向に平行になるように設けられる。供給ホッパ4aからは、粉体の自重によって連続的に微小粉体が落下してトラフ内部に供給される。スクリューは、駆動部4cに連結され、電動モータなどの回転駆動装置によって回転駆動力が与えられる。
【0035】
粉体供給口4dの開口端には、メッシュ4fが設けられている。上記のように、スクリューフィーダ4bは、重力に反して鉛直方向yの上方に向かって微小粉体を搬送するため、トラフ内では、自重で下方に落下する微小粉体と、上方に搬送される微小粉体とが衝突して微小粉体の凝集物が発生しやすくなる。粉体供給口4dにメッシュ4fを設けることで、供給される微小粉体は、必ずメッシュ4fを通過するため、メッシュ4fへの接触により凝集物が解砕される。少なくとも設けたメッシュ4fの開口よりも小さな凝集体にまでは解砕される。また、メッシュ4fは、搬送される微小粉体の粉体供給口4dにおける流動抵抗を大きくし、発生容器2の内部空間へ供給される粉体供給量の変動を抑制することができる。
【0036】
開口径や材質などメッシュ4fの種類は、使用する微小粉体の種類や粒径、粉体供給量、発生させるエアロゾルの粉体濃度などに応じて適宜選択すればよい。
【0037】
粉体供給部4による発生容器2の内部空間への粉体供給量は、スクリューフィーダ4bの動作条件(スクリューの回転速度)を調整することで制御することができる。したがって、微小粉体の供給は、上記の気体の供給とは独立して制御することが可能となっている。
【0038】
取り出し部6は、発生容器2の蓋体2cを貫通する管状部材6aを含み、発生容器2の内部空間と、エアロゾルディポジション法で用いる吹き付けノズルとを連通させる。取り出し部6からノズルに至る経路途中に、たとえば吸引ポンプが設けられ、発生容器2で発生したエアロゾルは、取り出し部6の管状部材6aを介して吸引され、ノズルへと送られる。
【0039】
管状部材6aの発生容器2の内部空間に臨む開口6bは、内部空間における位置が、ノズルから噴射して基板へと吹き付けるエアロゾルの粉体濃度、分散性に影響を与えるため、所望のエアロゾルを取り出しやすくするためには、開口6bの位置を適宜変更可能に構成することが好ましい。
【0040】
開口位置を変更可能とする構成として、たとえば蓋体2cに管状部材6aとほぼ同径の貫通孔を複数設ける。貫通孔の位置は、蓋体2cの中心から半径方向の距離を変えて設ける。複数の貫通孔には、それぞれ孔を閉塞するためのキャップが設けられ、いずれか1つの貫通孔に管状部材6aを挿通する場合、残余の貫通孔はキャップによって閉塞しておく。管状部材6aを挿通する貫通孔を変更することで、管状部材6aの開口6bの内部空間における位置を変更することができる。
【0041】
開口位置を変更可能とする他の構成として、管状部材6aをフレキシブル材料で構成するとともに、蛇腹状に形成するか、または金属線材を管側面に設けるなどして変形状態を保持可能なように構成する。管状部材6aを変形させることで、開口6bの内部空間における位置を変更することができる。また、開口6bの鉛直方向yの位置を変更することにより、エアロゾルの粉体濃度等を変更することができる。
【0042】
粗大粒子除去部7は、発生容器2の蓋体2cを貫通する管状部材7aを含んでいる。粗大粒子除去部7の先には、たとえば吸引ポンプが設けられ、発生容器2内にある粗大粒子を発生容器2の外部へと除去する。
【0043】
管状部材7aの発生容器2の内部空間に臨む開口7bは、粗大粒子を効率よく除去するため、その位置が、発生容器2の内部空間で鉛直方向yに変位するように構成される。
【0044】
粒径が比較的大きな粗大粒子は、発生容器2の内部空間のうち、より回転翼3に近い鉛直方向yの下方側に滞留し、粒径が比較的小さな粗大粒子は、発生容器2の内部空間のうち、鉛直方向yの中央から下方寄りに滞留する。
【0045】
上記のように、開口7bの位置が鉛直方向yに変位するように構成することで、比較的大きな粒径の粗大粒子を除去したい場合は、開口7bを回転翼3に近い下方側に配置し、比較的小さな粒径の粗大粒子を除去したい場合は、開口7bを鉛直方向yの中央から下方寄りに配置することにより、所望の粒径の粗大粒子を除去することができる。
【0046】
開口位置を変位可能とする構成として、たとえば管状部材7aを伸縮可能な部材で構成する。管状部材7aを伸縮させて、開口7bの位置を鉛直方向yに変位させることができる。さらに、管状部材7aをフレキシブル材料で構成するとともに、蛇腹状に形成するか、または金属線材を管側面に設けるなどして変形状態を保持可能なように構成することで、発生容器2の半径方向への変位も可能とすることができる。このとき、開口部7bを旋回流と対向するように変位させ、エアロゾルが開口7bに吸い込まれるようにすることにより、遠心力により粗大粒子の回収が可能となり、粗大粒子除去部7の先に設けた真空ポンプを省略することも可能となる。
【0047】
エアロゾル発生装置1の動作について説明する。
気体供給部5を動作させることによって、エアロゾルの分散媒となる気体を発生容器2の内部空間に供給するとともに、駆動部3aを動作させて回転翼3を回転させる。
【0048】
発生容器2の内部空間に供給された気体は、回転翼3の回転によって、鉛直方向下方から上方に向かう旋回流となる。
【0049】
気体供給部5による気体供給量および回転翼3の回転速度を一定に保持することで、発生容器2の内部空間に発生する旋回流の回転速度および流速を一定に保持することができる。気体供給量および回転翼3の回転速度は、独立して制御可能であるので、発生容器2の内部空間に所望の旋回流を容易に発生させることができる。
【0050】
発生する旋回流が安定すると、スクリューフィーダ4bを動作させて粉体供給部4による発生容器2の内部空間に対する粉体の供給を開始する。
【0051】
供給された微小粉体は、旋回流の中で加速され、粒子同士または壁面への衝突などの複合作用によって、解砕・分散が進み、最適なエアロゾルを発生させることができる。
【0052】
スクリューフィーダ4bのスクリューの回転速度、すなわち微小粉体の搬送速度を一定に保持することで、粉体の供給量を一定に保持することができる。粉体の供給量は、気体供給量および回転翼3の回転速度に対して、独立して制御可能であるので、発生容器2の内部空間に所望の濃度のエアロゾルを発生させることが可能となる。
【0053】
たとえば、旋回流を一定の条件で発生させ、粉体の供給量のみを変更すれば、取り出されるエアロゾルの流速は同じで、粉体濃度を自由に変更することができる。したがって、流速が小さくて粉体濃度が高濃度のエアロゾルや、流速が大きくて粉体濃度が低濃度のエアロゾルを容易に発生させることができる。
【0054】
分散媒気体の旋回流は、回転翼3より上方で発生し、回転翼3より下方の気体は回転翼3によって吸い上げられ、連続的に旋回流が発生する。微小粉体は、少なくとも回転翼3よりも下方で発生容器2に供給されるので、回転翼3の下方の気体とともに吸い上げられて旋回流中に投入されることになる。
【0055】
したがって、微小粉体は常に旋回流の軸流方向最上流部から旋回流へと供給されるので、微小粉体の旋回流中での分散状態が変動することを抑制し、発生容器2の内部空間において、発生したエアロゾルの粉体濃度分布を一様なものとすることができる。
【0056】
図3は、第2の実施形態であるエアロゾル発生装置11の構成を示す概略図である。第1実施形態と異なる点は、粉体供給部12の構成である。なお、本実施形態の構成において、第1実施形態と同じ構成については、同じ参照符号を付して説明は省略する。
【0057】
本実施形態の粉体供給部12は、供給ホッパを備えず、スクリューフィーダ12bの鉛直方向yの下方に微小粉体の貯留部12aを設けている。スクリューフィーダ12bのスクリューが、貯留部12a内部まで延びて貯留部12aの微小粉体を搬送する。
【0058】
粉体供給部12は、第1実施形態と同様に、粉体供給口12dを底板2bに設けており、微小粉体の搬送方向は、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かう方向である。
【0059】
したがって、円筒状のトラフの中心軸が、鉛直方向に平行になるように設けられ、スクリューの回転軸も同様に鉛直方向に平行になるように設けられる。貯留部12aの微小粉体は、鉛直下方から上方に向かって連続的に搬送される。粉体供給口12dの開口端には、メッシュ12fが設けられ、供給される微小粉体をメッシュ12fに通過させて、凝集物を解砕する。
【0060】
第2実施形態の粉体供給部12は、貯留部12aをスクリューフィーダ12bの鉛直下方に設けているので、エアロゾル発生装置の設置面積をより小さくすることができる。
【0061】
第1実施形態および第2実施形態のいずれも、回転翼3の回転シャフト3b、気体供給管5a、スクリューフィーダ4b、12bが底板2bを貫通するように設けられている。側壁2aには、他の部材が接続されていないので、底板2bと円筒状の側壁2aとを容易に分離可能に構成することができ、装置内部の洗浄や修理、メンテナンスの作業性が向上する。
【0062】
また、気体供給管5a、スクリューフィーダ4b、12bが底板2bではなく、側壁2aを貫通するように接続する構成も可能であるが、これらの接続位置、すなわち気体供給口5bと粉体供給口4dとは回転翼3よりも下方に設けられるので、たとえば、回転翼3の設置位置を境に、側壁2aを上下に分割可能に構成すれば、装置内部の洗浄や修理、メンテナンスの作業性が向上する。
【0063】
第1実施形態および第2実施形態のエアロゾル発生装置1,11は、いずれもエアロゾルディポジション法を利用した成膜装置において、エアロゾル供給源として用いることができる。
【0064】
図4は、エアロゾルディポジション法を利用した成膜装置100の構成を示す概略図である。図4では、第1実施形態のエアロゾル発生装置1を用いた例を示しているが、第2実施形態のエアロゾル発生装置11も同様に用いることができる。
【0065】
成膜装置100は、エアロゾル供給源であるエアロゾル発生装置1と、チャンバー20と、吹き付けノズル21と、ステージ22と、真空ポンプ23と、気体貯溜ボンベ24と、吸引ポンプ25とを備える。
【0066】
エアロゾル発生装置1には、吹き付けノズル21と、気体貯溜ボンベ24とが接続される。吹き付けノズル21は、エアロゾル発生装置1の取り出し部6に接続され、発生したエアロゾルが取り出し部6によって吸引され、吹き付けノズル21の先端から被成膜部材である基板の表面に吹き付けられる。気体貯溜ボンベ24は、気体供給部5の気体供給管5aに接続され、気体貯溜ボンベ24に貯留された不活性気体が、エアロゾルの分散媒気体として気体供給管5aを介して発生容器2へと供給される。
【0067】
粗大粒子除去部7の管状部材7aは、開口7bとは反対側が吸引ポンプ25に接続され発生容器2内の粗大粒子を開口7b近傍の気体とともに吸引除去する。なお、管状部材7aと吸引ポンプ25との間にはフィルタを介在させることが好ましく、発生容器2内から除去された粗大粒子をフィルタによって捕集する。
【0068】
エアロゾルディポジション法は、常温での成膜が可能であるので、被成膜部材である基板として、金属基板、樹脂基板、セラミック基板など各種の材質を選択することができる。基板は、保持台であるステージ22に真空チャックなどによって固定され、ステージ22をxyz方向に移動させることで、基板表面の所望の位置にエアロゾルを吹き付けることができる。エアロゾルの吹き付けノズル21および基板は、チャンバー20内に収容されており、真空ポンプによってチャンバー20内を真空状態とし、エアロゾルの基板への吹き付けを行う。
【0069】
エアロゾルに分散される微小粉体は、成膜しようとする膜構造体の種類によって適宜変更すればよく、絶縁膜を成膜する場合は、たとえば、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素および窒化アルミニウムなどのセラミック微粒子を使用し、圧電膜を成膜する場合は、たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Ti,Zr)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)などのセラミック微粒子を使用することができる。
【0070】
本実施形態のエアロゾル装置では、所望の粉体濃度であって、かつ安定したエアロゾルを発生させることができるので、所望の構造を有する膜構造体を安定して基板表面に成膜することができる。
【符号の説明】
【0071】
1,11 エアロゾル発生装置
2 発生容器
3 回転翼
4,12 粉体供給部
5 気体供給部
6 取り出し部
7 粗大粒子除去部
20 チャンバー
21 吹き付けノズル
22 ステージ
23 真空ポンプ
24 気体貯溜ボンベ
25 吸引ポンプ
100 成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒である気体に微小粉体を分散させたエアロゾルを発生させるための内部空間を有する容器と、
前記容器の内部空間に微小粉体を供給する粉体供給部と、
前記容器の内部空間に気体を供給する気体供給部と、
前記容器の内部空間に供給された前記気体の旋回流であって、軸流方向が鉛直方向下方から上方に向かう旋回流を発生させる旋回流発生手段と、
前記エアロゾルを、前記容器から外部へ取り出す取り出し部と、
前記容器の内部空間にある粗大粒子を外部へと除去する粗大粒子除去部とを備えて構成されていることを特徴とするエアロゾル発生装置。
【請求項2】
前記粉体供給部が前記容器の内部空間に前記微小粉体を供給する位置と、前記気体供給部が前記容器の内部空間に前記気体を供給する位置とが、前記旋回流発生手段よりも鉛直方向下方側となるように構成されることを特徴とする請求項1記載のエアロゾル発生装置。
【請求項3】
前記粗大粒子除去部は、前記容器の内部空間に臨んで開口する除去開口を有し、前記除去開口の位置が、前記容器の内部空間で鉛直方向に変位するように構成されることを特徴とする請求項1または2記載のエアロゾル発生装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のエアロゾル発生装置と、
被成膜部材である基板を保持する保持台と、
前記エアロゾル発生装置の前記取り出し部から取り出されたエアロゾルを、前記基板の表面に吹き付けるノズルと、を備えることを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19013(P2013−19013A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152369(P2011−152369)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】