説明

エアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物及びエアーバッグ

【課題】 長期間の高温・高湿度の条件下で保管した後においても、エアーバッグの展開時における高温、高伸張に耐える、優れた接着性を有し、かつ均一な薄膜のコート布が得られるエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物、及びこの組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグを提供する。
【解決手段】 (A)1分子中に2個以上のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、(B)オルガノポリシロキサンレジン、(C)比表面積50m2/g以上のシリカ微粉末、(D)1分子中に2個以上のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(E)付加反応触媒、(F)接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物、(G)有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物を含有するエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物、及びエアーバッグ基布に上記組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載されるエアーバッグ用として好適なシリコーンゴムコーティング組成物、及びそれを用いたエアーバッグに関する。詳しくは、シリコーンゴムをコーティングしたエアーバッグを長期間の高温・高湿度の条件で保管した後においても、エアーバッグの展開時における高温、高伸張に耐える、優れた接着性を有し、かつ均一な薄膜コートが得られるシリコーンゴムコーティング組成物、及びこの組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性、難燃性、圧縮永久ひずみ等に優れた性質を有していることから、各種の分野において広く利用されている。近年、シリコーンゴムによりコーティングされたナイロンバッグからなるエアーバッグが上市され、その長期信頼性から、従来使用されていたクロロプレンに変わって広く使用されるようになった。
【0003】
最も新しいタイプのエアーバッグシステムとして、側面衝突時における搭乗者への衝撃緩和又は車両横転時に搭乗者が車外に放り出されないためのサイドカーテンシールドエアーバッグが開発されている。このサイドカーテンシールドエアーバッグは、展開後、インフレーション剤の爆発により発生するガス圧(内圧)を一定時間以上保持する必要があり、従来のコーティング剤より、より接着性の優れたコーティング剤が要求されている。また、エアーバッグは、長期間車内にあることから、特に、高温・高湿度の条件下における長期の耐久性も重要な特性のひとつである。
【0004】
エアーバッグ用のシリコーンゴムコーティング組成物として、特開平5−25435号公報(特許文献1)では、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物を、特開平5−98579号公報(特許文献2)では、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を接着付与成分としたコーティング組成物が提案されているが、これらを用いたエアーバッグを長期間、高温・高湿度の条件下で保管すると、接着性が低下し、剥離が生じるという問題が発生している。
【0005】
一方、軽量化等を目的にナイロンへのシリコーンコーティング剤の塗布量が減少することに伴い、より均一な薄膜のコート布が得られることも重要な特性のひとつとなってきている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−25435号公報
【特許文献2】特開平5−98579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、長期間の高温・高湿度の条件下で保管した後においても、エアーバッグの展開時における高温、高伸張に耐える、優れた接着性を有し、かつ均一な薄膜のコート布が得られるエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物、及びこの組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、1分子中に2個以上のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、オルガノポリシロキサンレジン、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、付加反応触媒、及び接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物を含有するシリコーンゴムコーティング組成物に、有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物を添加配合することにより、高温・高湿度の条件下における長期の耐久性の問題点が解消されることを見出した。
更に、配合する補強性のオルガノポリシロキサンレジンの含有量を抑え、シリカ微粉末を添加配合したシリコーンゴムコーティング組成物とすることにより、十分な接着強度を確保することができると同時に、均一で薄膜な硬化皮膜が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)オルガノポリシロキサンレジン:0〜5質量部、
(C)比表面積50m2/g以上のシリカ微粉末:0.1〜50質量部、
(D)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分と(B)成分中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対し、(D)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5〜20モルの範囲となる量、
(E)付加反応触媒:触媒量、
(F)接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、
(G)有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物:0.01〜10質量部
を含有するシリコーンゴムコーティング組成物、及びエアーバッグ基布にこのシリコーンゴムコーティング組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーンゴムコーティング組成物は、基布にコーティングした際に、均一で薄膜な硬化皮膜が得られ、この硬化皮膜が形成されたコート布により得られたエアーバックは、長期間の高温・高湿度の条件で保管した後においても、エアーバッグの展開時における高温、高伸張に耐える、優れた接着性を有するものとなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物は、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、
(B)オルガノポリシロキサンレジン、
(C)比表面積50m2/g以上のシリカ微粉末、
(D)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(E)付加反応触媒、
(F)接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物、
(G)有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物
を含有してなるものである。
【0012】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、この組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する。(A)成分のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の通常、炭素数2〜8、好ましくは2〜4程度のものが挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
【0013】
(A)成分中におけるケイ素原子に結合したアルケニル基の結合位置としては、例えば、分子鎖末端及び/又は分子鎖側鎖が挙げられる。(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などの、通常、炭素数1〜12、好ましくは1〜10程度の、非置換又はハロゲン置換一価炭化水素基が挙げられ、特にメチル基、フェニル基であることが好ましい。
なお、(A)成分中のアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した一価の有機基(又は非置換もしくは置換一価炭化水素基)全体に対して0.001〜10モル%、特に0.001〜5モル%程度であることが好ましい。
【0014】
このような(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐鎖状が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい(なお、オルガノ基にはアルケニル基も包含し得る。)。
(A)成分の25℃における粘度は、得られるシリコーンゴムの物理的特性が良好であり、また、組成物の取扱作業性が良好であることから、100mPa・s以上のものが好ましく、オイル状のもの(例えば、100〜1,000,000mPa・s、好ましくは400〜100,000mPa・s)、生ゴム状のものも含まれる。なお、本発明において、粘度は回転粘度計等により測定することができる。
【0015】
このような(A)成分のジオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0016】
(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンは、シリコーンゴムコーティング膜の機械的強度を向上させるために必要に応じて添加するものであり、三官能性シロキサン単位(オルガノシルセスキオキサン単位)及び/又はSiO4/2単位を必須に含有する三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0017】
このようなオルガノポリシロキサンレジンを構成するシロキサン単位としては、R3SiO1/2単位、RSiO3/2単位及びSiO4/2単位の組み合わせ、R3SiO1/2単位、R2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位の組み合わせ、R3SiO1/2単位及びRSiO4/2単位の組み合わせ、R3SiO1/2単位及びRSiO3/2単位の組み合わせ、R3SiO1/2単位、R2SiO2/2単位及びSiO4/2単位の組み合わせやRSiO3/2単位のみからなるポリオルガノシルセスキオキサン樹脂などが例示される。
ここで、式中のRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などの、通常、炭素数1〜10、好ましくは1〜8程度の置換もしくは非置換の一価炭化水素基である。また、Rは同一の一価炭化水素基であってもよく、又は二つ以上の異なる一価炭化水素基でもよい。
【0018】
オルガノポリシロキサンレジンの添加量は、(A)成分100質量部に対し、5質量部以下(即ち、0〜5質量部)であり、これより多く配合すると、高速時の塗工安定性が低下するため、特に30g/m2以下の薄膜領域にいおいて均一な塗膜を得ることが困難となる。好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜4質量部である。
【0019】
(C)成分のシリカ微粉末は、シリコーンゴムの補強性充填剤として、従来から周知とされているものが使用可能であり、この目的のためにはBET法による比表面積が50m2/g以上、好ましくは100〜400m2/gである必要がある。比表面積が50m2/g未満では十分なシリコーンゴムの補強効果が得られない。
【0020】
このシリカ微粉末としては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈殿シリカ(湿式シリカ)が例示され、煙霧質シリカ(乾式シリカ)が好ましい。また、これらの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理してもよい。これらのシリカは1種単独でも2種以上併用してもよい。
【0021】
なお、このシリカ微粉末の添加量は、(A)成分のジオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1質量部未満では少なすぎて十分な補強効果が得られないと共に、薄膜領域での塗工性向上効果が得られず、50質量部より多くすると加工性が悪くなり、また得られるシリコーンゴムの物理特性が低下するので、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜30質量部、更に好ましくは5〜25質量部である。
【0022】
(D)成分である1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子結合水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状、環状、或いは三次元網状構造の樹脂状物のいずれでもよい。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの代表例としては、例えば、下記平均組成式(I)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
a1bSiO(4-a-b)/2 (I)
(式中、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、a及びbは、0<a<2、0.8≦b≦2かつ0.8<a+b≦3を満足する数であり、好ましくは0.01≦a≦1.1、0.9≦b≦2かつ1.0≦a+b≦3を満足する数であり、より好ましくは0.05≦a≦1、1.5≦b≦2かつ1.8≦a+b≦2.7を満足する数である。)
【0023】
式中、R1の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などの、通常、炭素数が1〜10、特に炭素数が1〜7のものであり、好ましくはメチル基等の炭素数1〜3の低級アルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した水素原子は、分子鎖末端のケイ素原子、分子鎖途中のケイ素原子のいずれに結合したものであっても、この両方に結合したものであってもよく、1分子中に少なくとも2個(例えば2〜300個)、好ましくは3個以上(通常3〜200個)、より好ましくは3〜100個程度含有されるものであり、また1分子中のケイ素原子は、通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度である。
【0025】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8−ペンタメチルペンタシクロシロキサン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R22(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、任意にR23SiO1/2単位、R22SiO2/2単位、R2(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はR2SiO3/2単位を含み得るシリコーンレジン(但し、式中、R2は前記のR1として例示した非置換又は置換の一価炭化水素基と同様のものである)などが挙げられる。
【0026】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの使用量は、(A)成分と(B)成分中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対し、(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)が、0.5〜20モルの範囲となる量、好ましくは0.8〜5モルの範囲となる量である。SiH基量が少なすぎると硬化物(シリコーンゴムコーティング層)の強度が不十分なものとなり、多すぎると該硬化物の耐熱性、強度が著しく劣るものとなる。
【0027】
本発明に用いられる(E)成分の付加反応触媒は、(A)成分及び(B)成分中のアルケニル基と(D)成分中のSiH基との付加反応を促進するものであればいかなる触媒を使用してもよい。例えば、白金、パラジウム、ロジウム等や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属又はこれらの化合物が使用されるが、特に好ましくは白金系化合物である。
【0028】
(E)成分の配合量としては触媒量であるが、通常、(A)成分、(B)成分、(D)成分の合計質量に対して、触媒金属元素の量として1〜500ppmの割合で配合され、好ましくは10〜100ppmの範囲で用いられる。配合量が1ppm未満では付加反応が著しく遅くなるか、もしくは硬化しない場合があり、500ppmを超えると硬化後のポリシロキサン組成物の耐熱性が低下する場合がある。
【0029】
本発明に用いられる(F)成分の有機ケイ素化合物は、エアーバッグ用の合成繊維織物基材或いは不織布基材に対する接着性を向上させるために用いられる成分であり、付加反応型シリコーンゴム組成物に自己接着性を付与する観点から、接着性を付与する官能基を含有するケイ素化合物とするものである。該官能基の具体例としては、ケイ素原子に結合したビニル基、アリル基のようなアルケニル基、炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基(例えば、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基など)や(メタ)アクリロキシ基(例えば、γ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基など)、アルコキシシリル基(例えば、エステル構造、ウレタン構造、エーテル構造を1〜2個含有してもよいアルキレン基を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基など)、SiH基を有するオルガノシラン及びケイ素原子数3〜50、特に5〜20の直鎖状又は環状構造のシロキサンオリゴマーやトリアリルイソシアヌレートの(アルコキシ)シリル変性物やそのシロキサン誘導体などが挙げられる。本発明においては、特に1分子中にこれらの官能基を2種類以上含有するものが好ましい。このような官能基を含有するケイ素化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
(F)成分の配合量は、(A)成分のジオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。配合量が少なすぎると、本発明に必要な十分な接着力が得られず、配合量が多すぎると、コスト的に高いものとなり、不経済となる。
【0032】
(G)成分の有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物は、配合することにより接着性、特に耐湿熱後の接着性を向上させるために必須とされる成分である。有機チタン化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネートなどの有機チタン酸エステル類;ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)チタンなどのチタンキレート化合物が挙げられる。また、有機ジルコニウム化合物としては、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレートなどが挙げられる。
【0033】
(G)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部の範囲である。配合量が10質量部を超えると本発明の組成物の保存安定性が悪化し、0.01質量部未満になると耐湿熱後の接着力が低減する。
【0034】
本発明の組成物には、前記(A)成分〜(G)成分以外に、必要に応じて、各種成分を添加することが可能である。例えば、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機充填剤や結晶性シリカ、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック等の非補強性無機充填剤などを添加することができる。これらの無機充填剤の使用量は、該無機充填剤を除く成分の合計量100質量部当たり、通常、0〜200質量部である。
【0035】
また、(A)成分と(C)成分の分散をよくするために、ウエッターと呼ばれる末端に水酸基を有するジオルガノポリシロキサン、ジフェニルシランジオール、ヘキサオルガノポリシロキサン、オルガノアルコキシシランなどの低分子量有機ケイ素化合物を配合することもできる。
【0036】
耐熱向上剤として、酸化鉄、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物や、セリウムシラノレート、セリウム脂肪酸塩等を配合することができ、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸6水塩とオレフィン又はジビニルジメチルポリシロキサンとの錯体、塩化白金酸6水塩のアルコール溶液等の白金化合物、酸化チタン、窒素含有有機化合物等の難燃性付与剤、顔料を配合することもできる。
【0037】
また、白金族金属触媒の反応をコントロールするために、ビニルメチルシクロポリシロキサン類や、アセチレンアルコール類に代表される反応制御剤を添加してもよい。
更に、有機溶剤を用いて組成物の粘度を調整することも可能であるが、本発明の組成物は、塗工時における作業者や環境への負荷が大きいという理由から有機溶剤を使用しないことが好ましい。
【0038】
本発明のシリコーンゴムコーティング組成物は、常法に準じて調製することができ、上記(A)成分、(C)成分、或いは(A)成分、(B)成分、(C)成分を2本ロール、バンバリーミキサー、ドューミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機を用いて均一に混合した後、(D)成分、(E)成分、(F)成分、(G)成分を加えて混合する方法が一般的である。
【0039】
本発明に使用されるエアーバッグ用合成繊維製基布としては、例えば、ナイロン6、66、46などのポリアミド繊維;パラフェニレンテレフタルアミド及び全芳香族エーテルとの共重合体などのアラミド繊維;ポリアルキレンテレフタレートなどのポリエステル繊維;ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエーテルイミド繊維、炭素繊維などからなる布帛(織布又は不織布)が挙げられる。なお、これらのエアーバッグ用合成繊維基布中では、ナイロン66繊維織物が最も好ましい。
【0040】
得られたシリコーンゴムコーティング組成物をエアーバッグ用合成繊維製基布上にコーティングし、熱風乾燥炉に入れて加熱硬化させることにより、エアーバッグ用液状シリコーンゴムコーティング基布とすることができる。本発明の組成物を上記エアーバッグ用合成繊維製基布に適用すると、シリコーンゴムコーティング膜として均一に塗りむらなく薄膜状にコーティングすることができる。なお、上記エアーバッグ用合成繊維製基布に上記リコーンゴムコーティング組成物をコーティングする方法としては、常法を採用することができる。
【0041】
このシリコーンゴムコーティング組成物のコーティング量については、エアーバッグの構造によって異なり、また、エアーバッグが用いられる用途によっても異なる。エアーバッグの構造には、袋織り構造となっているエアーバッグの両面にシリコーンゴムを塗布する構造のものと、平織りの布の片面にシリコーンゴムを塗布し、コーティング面同士を接着剤で袋状にシールする構造のものがある。前者の袋織り型のエアーバッグには、コーティング剤が30g/m2〜150g/m2塗布され、特に、気密性の要求されるサイドカーテンシールドエアーバッグには、60g/m2以上塗布されている。また、後者の平織り布を使用したエアーバッグは、コーティング剤が60g/m2以下塗布されており、折り畳んだ際の小型化、軽量化、更にはコストダウンを目的に、40g/m2以下の塗布量のものが多く使用されている。本発明のシリコーンゴムコーティング組成物は、前者のエアーバッグ、後者のエアーバッグ、いずれのコーティング剤としても有効で、優れた接着性を発揮するが、特に、本発明のシリコーンゴムコーティング組成物は、30g/m2以下の均一で安定的な薄膜とすることができるため、後者の平織り布を使用したエアーバッグのコーティング剤として有効である。
【0042】
また、上記シリコーンゴムコーティング組成物の硬化方法、条件としては、公知の方法、条件を採用することができ、通常80〜250℃で30秒〜10分間の硬化条件とすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部は質量部を示し、粘度はB型回転粘度計により測定した25℃における値を示す。また、下記例で白金触媒の配合量は(A),(B),(D)成分の合計質量に対する白金金属の量である。
【0044】
[調製例1]
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された粘度が1Pa・sのジメチルポリシロキサン85部、BET比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(アエロジル300(日本アエロジル(株)製))30部、分散剤としてヘキサメチルジシラザン5部をニーダーにて混練り、150℃にて3時間熱処理し、更に分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された粘度が1Pa・sのジメチルポリシロキサン60部を配合してベースAを調製した。
【0045】
[実施例1]
上記ベースA100部に対し、硬化剤としての塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属として30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(Si−H0.007mol/g)10部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0部、テトラオクチルチタネート1部を加え、スパイラルミキサーにて混練してシリコーンゴムコーティング組成物1(実施例1)を得た。
【0046】
シリコーンゴムコーティング組成物1を、ナイロン66繊維織物(420デニール)に固形分が25g/m2となるようにナイフコーターを使用して塗布し、100℃にて45秒、180℃にて45秒加硫、硬化させた。
得られたコート布について、塗布量が設定25g/m2の質量で均一に塗布できるかどうか、その塗工性を判断するとともに、スコットもみ試験(2kgf、500回)による接着性の評価と、これらコート布を80℃、湿度95%の湿熱条件下において、240時間放置後のスコットもみ試験(2kgf、500回)による接着性の評価を行った。更にJIS L 1096に準じてコート布の引裂き強度を測定した。その結果を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
上記ベースA100部に対し、(CH33SiO1/2単位39.5モル%、(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%、SiO2単位54モル%からなるオルガノポリシロキサン樹脂4部、硬化剤としての塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属として30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(Si−H0.007mol/g)10部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0部、テトラオクチルチタネート1部を加え、シリコーンゴムコーティング組成物2(実施例2)を得た。
上記実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。
【0048】
[実施例3]
上記ベースA100部に対し、(CH33SiO1/2単位39.5モル%、(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%、SiO2単位54モル%からなるオルガノポリシロキサン樹脂4部、硬化剤としての塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属として30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(Si−H0.007mol/g)10部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0部、テトラブトキシジルコニウム1部を加え、シリコーンゴムコーティング組成物3(実施例3)を得た。
上記実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。
【0049】
[比較例1]
テトラオクチルチタネートを添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴムコーティング組成物4(比較例1)を得た。上記実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。
【0050】
[比較例2]
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴムコーティング組成物5(比較例2)を得た。上記実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。
【0051】
[比較例3]
上記ベースA100部に対し、(CH33SiO1/2単位39.5モル%、(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%、SiO2単位54モル%からなるオルガノポリシロキサン樹脂10部を添加した以外は、実施例2と同様にしてシリコーンゴムコーティング組成物6(比較例3)を得た。上記実施例1と同じ評価を実施し、その結果を表1に示した。
【0052】
【表1】


〈塗工性評価基準〉
合格:コート面の両端部と中央部の塗工量を測定し、塗工量の最大値と最小値との差が最小値の10%以内の場合を合格とした。
不合格:コート面の両端部と中央部の塗工量を測定し、塗工量の最大値と最小値との差が最小値の10%を超える場合を不合格とした。
〈スコットもみ試験評価基準〉
合格:基布からのコーティング膜の剥離がない場合を合格とした。
不合格:基布からのコーティング膜の剥離がある場合を不合格とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)オルガノポリシロキサンレジン:0〜5質量部、
(C)比表面積50m2/g以上のシリカ微粉末:0.1〜50質量部、
(D)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分と(B)成分中のケイ素原子結合アルケニル基の合計1モルに対し、(D)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5〜20モルの範囲となる量、
(E)付加反応触媒:触媒量、
(F)接着性付与官能基を含有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、
(G)有機チタン化合物及び/又は有機ジルコニウム化合物:0.01〜10質量部
を含有するエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物。
【請求項2】
有機溶剤を含まない請求項1記載のエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物。
【請求項3】
エアーバッグ基布に請求項1又は2記載のシリコーンゴムコーティング組成物の硬化皮膜が形成されてなるエアーバッグ。

【公開番号】特開2006−348410(P2006−348410A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174566(P2005−174566)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】