説明

エキシマランプ装置

【課題】被処理物を高速で搬送しても装置内への空気の巻き込みが無く、移動する被処理物の表面を不活性ガスで置換して、効率良く真空紫外光を照射することのできるエキシマランプ装置を提供すること。
【解決手段】ランプハウス10と、該ランプハウス10内に収容されたエキシマランプ30と、搬送機構40とを備え、被処理物Wを搬送しながらエキシマ光を照射するエキシマランプ装置100において、前記ランプハウス10よりも搬送方向の上流側に、被処理物Wが搬入される前室20が連結して設置され、該前室内20には、該前室20内を不活性ガスで置換するための不活性ガス導入口22と、該被処理物Wに対して搬送方向に沿って不活性ガスを噴出するガス噴出手段25が設置され、該被処理物Wは、ポリビニルアルコール、三酢酸セルロース、ポリエチレンフテレフタレート、またはポリエチレンのいずれかのフィルム状の樹脂材料であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプ装置に関する。特に、液晶パネルおよび液晶表示装置の製造工程において用いられる樹脂材料の表面改質に利用されるエキシマランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、液晶パネルを構成するガラス基板の両側に偏光板が配置される。偏光板は、偏光子に偏光子保護フィルムが張り合わされて作製される。一般的には、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムなどの樹脂材料からなる偏光子の両面に、三酢酸セルロース(TAC)などを用いた透明保護フィルム(偏光子保護フィルム)をポリビニルアルコール(PVA)系接着剤により貼り合せたものが用いられている。これらの樹脂材料を水系接着材により良好に張り合わせるためには、表面の親水性が高いことが好ましい。
【0003】
最近、これらの樹脂材料の表面改質の方法として、真空紫外光を照射する方法が注目されている。特開2008−122921号公報によれば、エキシマランプを利用して波長200nm以下の真空紫外光を照射することにより、偏光子の表面部分の化学結合が切断され、同時に偏光子表面に親水性の官能基が形成されることが記載されている。
上記の方法によれば、TAC、PVAなどの樹脂材料の表面改質処理を短時間で施すことができる。これにより、接着剤の塗布を良好に行うことができるので、偏光子と保護フィルムを貼着する際にも空気の混入がない。また、処理による汚れの発生が無いので処理後の洗浄工程も必要ない。
【特許文献1】特開2008−122921号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法を行うための手段については特許文献1に例示列挙されており、エキシマランプを光源として照射処理を行うエキシマランプ装置がある。
図8は、上記の方法を行うために構成された、エキシマランプ装置(参考例1)を示す。
ランプハウス50の内部にはエキシマランプ70が配置されている。ランプハウス50の内部は、ガス導入口51より導入された不活性ガスによって満たされている。被処理物Wはローラーコンベアなどの搬送機構40によって搬送されるとともに、ランプハウス50内に搬入される。この被処理物Wにエキシマランプ70から真空紫外光が照射され、次の工程に送られる。
【0005】
図8の装置を用いて、上記の特許文献1に記載された表面改質処理を行うと、短時間の照射であっても簡単に汚れの発生なく処理を行うことができる。したがって、この方法の利点を生かすためには被処理物をなるべく高速で搬送することで照射時間を短縮することが好ましい。
しかし、被処理物の搬送速度を高速化すると、ランプハウスの内部に被処理物とともに侵入する空気の量が増大し、この空気に含まれる酸素によって真空紫外光が減衰するために、照射光量が低下して所望の処理が行えないという問題が発生した。
【0006】
このような装置内部への空気の混入を防ぐ手段として、被処理物の表面に不活性ガスを吹き付ける方法が考えうる。
図9は、図8のエキシマランプ装置に不活性ガス噴出手段を付加した構成のエキシマランプ装置(参考例2)である。不活性ガス噴出手段以外の構成については図8と同様であるから説明を省略する。
図9に示した装置は、ランプハウスの上流側にて、内部に搬入直前の被処理物に対して搬送方向に不活性ガスを吹き付けることによって、ランプハウス内部への空気の侵入を防止しようとするものである。
しかし、図9に示す装置によっても、不活性ガス噴出手段が噴出するガス流が、周囲の空気を巻き込んでしまい、空気を含んだガス流が被処理物に吹き付けられて、ランプハウス内への空気の侵入を防ぐことが出来なかった。
このように、被処理物の搬送速度を高速化するとランプハウス内へ侵入する空気の量が増大し所望の処理が行えない。つまり、樹脂材料の表面改質にエキシマランプを照射する方法を用いても、その利点を生かすことができないという課題があった。
【0007】
以上から、本発明においては、被処理物を高速で搬送しても装置内への空気の巻き込みが無く、移動する被処理物の表面を不活性ガスで置換して、効率良く真空紫外光を照射することのできるエキシマランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のエキシマランプ装置はランプハウスと、該ランプハウス内に収容されたエキシマランプと、搬送機構とを備え、被処理物を搬送しながらエキシマ光を照射するエキシマランプ装置において、前記ランプハウスよりも搬送方向の上流側に、被処理物が搬入される前室が連結して設置され、該前室内には、該前室内を不活性ガスで置換するための不活性ガス導入口と、該被処理物に対して搬送方向に沿って不活性ガスを噴出するガス噴出手段が設置され、該被処理物は、ポリビニルアルコール、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、またはポリエチレンのいずれかのフィルム状の樹脂材料であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、ガス噴出手段は、被処理物の上下に設置され、被処理物の上下から不活性ガスを噴出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ランプハウスよりも搬送方向の上流側に、被処理物が搬入される前室が連結して設置され、前室内には、前室内を不活性ガスで置換するための不活性ガス導入口と、被処理物に対して搬送方向に沿って不活性ガスを噴出するガス噴出手段が設置され、被処理物は、ポリビニルアルコール、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、またはポリエチレンのいずれかのフィルム状の樹脂材料であることにより、被処理物を高速で搬入しても、ランプハウス内に空気を巻き込むことが無い。したがって、エキシマランプから照射される紫外線が酸素によって減衰することなく効率よく紫外線照射処理を施すことができる。
【0011】
また、本発明は、ガス噴出手段は、被処理物の上下に設置され、被処理物の上下から不活性ガスを噴出することにより、被処理物の上下の表面を不活性ガスで満たすことができるので、ランプハウス内への空気の侵入をより確実に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には、本発明のエキシマランプ装置に用いられるエキシマランプの一例を示す。(a)は管軸に沿って切断した概略構成図であり、(b)はA−A’断面での概略構成図である。
エキシマランプ30の放電容器は紫外線透過率の高い合成石英ガラスよりなり、大径円筒状の外側管32と、その内側の小径円筒状の内側管37との間に放電空間を形成する二重管構造をとっており、2つの管が長手方向の端部にて連結される。 外側管32と内側管37の外壁にはそれぞれ電極55、56が設けられ、外側管37に設けられた電極34が網状、格子状などの形態をとることによりランプ外方に光を出射できる光出射部39を備えている。
このエキシマランプ30の寸法の一例を示すと、外側管32の外径は約40mm、内側管37の外径は25mmであり、管軸方向の全長は1600mm、発光長が1400mmである。発光長は電極の配置によって決定される。
なお、エキシマランプの放電容器の形状はこれに限られるものではなく、例えば、断面が円形や矩形で両端が封止された単一の管状のものでもよい。
【0013】
エキシマランプ30の放電容器の内部には放電用ガスが、例えば、10〜80kPaの圧力で封入されている。放電用ガスの種類によって放射されるエキシマ発光の中心波長は異なる。例えば、キセノン(Xe)が封入されたエキシマランプでは172nmを中心波長とするエキシマ発光が生じ、アルゴン(Ar)と塩素(Cl)の混合ガスが封入されたエキシマランプでは175nmを中心波長とするエキシマ発光が生じ、クリプトン(Kr)と沃素(I)の混合ガスが封入されたエキシマランプでは191nmを中心波長とするエキシマ発光が生じ、アルゴン(Ar)とフッ素(F)の混合ガスが封入されたエキシマランプでは波長193nmを中心波長とするエキシマ発光が生じる。
【0014】
図2は本発明の第1の実施形態にかかるエキシマランプ装置を被処理物搬送方向に切断した概略構成図である。
エキシマランプ装置100は、照射光源であるエキシマランプ30と、例えばステンレスなどの金属により構成された筐体であるランプハウス10と、前室20と、被処理物を搬送するためのローラーコンベアなどの搬送機構40を備えている。
ランプハウス内には、ガス導入口11より不活性ガス、例えば窒素、アルゴン等が導入されて、ガス排出口12より排出される。これにより、ランプハウス10の内部雰囲気は不活性ガスに置換される。
【0015】
エキシマランプ30は、ランプハウス内部の空間中で、被処理物に対して、例えば距離10mmの位置に不図示のランプホルダーによって保持され、搬送方向に直交するように管軸方向(長手方向)が紙面手前側から奥側に向かって配置される。
エキシマランプ30の下方には、被処理物Wが矢印の方向に向かって搬送機構40によって搬送される。ランプハウス10の矢印で示した搬送方向の上流側には、被処理物を搬入する搬入口13が開口しており、下流側には搬出口14が開口している。
ランプハウス10の寸法の一例を示すと、内寸が、搬送方向の長さ400mm、高さ200mm、幅1800mmの箱状である。また、搬入口13、搬出口14の開口は例えば高さ方向に幅10mmである。
ランプハウス10に導入される不活性ガスの量はランプハウス11の内容積に応じて適宜設定される。例えば、1分間あたり内容積の2〜20倍の不活性ガスがガス導入口11を通じて導入され、ガス排出口12から排気される。上記寸法の場合、内容積は144リットルであり、不活性ガス導入量は500(リットル/分)、排気量も500(リットル/分)である。このようにして、不活性ガスが絶えず導入、排気され、被処理物が連続的に搬送されていることにより、搬入口13、搬出口14などの開口があってもランプハウス11内を不活性ガスで置換された状態に保持することが出来る。
【0016】
ランプハウス10に隣接して、搬送方向の上流側には前室20が設けられる。前室20の寸法の一例を示すと、搬送方向の長さ100mm、高さ50mm、幅1500mmの箱状である。この前室20の搬出口27と、ランプハウス10の搬入口13は連結され、隙間からの気体の漏洩や流入を防止している。
前室20の上部には前室20内へ不活性ガスを導入するためのガス導入口22が設けられる。ガス導入口22の下方には、前室20の内部雰囲気を不活性ガスで均一に置換するための拡散板21が設けられる。
この拡散版21は、例えば厚さ1mmのステンレス製の板に、板を貫通するφ2mmの孔が、孔の中心同士が10mmピッチとなるよう、縦横2方向に形成されたものである。この構造により、ガス導入口22より導入された不活性ガスが、一旦拡散板21の上流側でせき止められ、多数の孔から均一で緩やかな流れとなって拡散板21の下方に噴出される。ガス導入口22より前室20内に導入される不活性ガスは、1分間あたり内容積の2〜20倍の量である。拡散板21に形成された孔の1つ1つから噴出されるガスの流速は、孔の径と数によって適宜設定することができ、例えば0.2(m/sec)程度である。このように、拡散板21から噴出される不活性ガスの均一な下降流によって、前室20内の雰囲気は置換されている。ただし、拡散板21から噴出された不活性ガスは流速が遅いため、被処理物Wの表面の空気を除去、または希釈するには十分ではない。
【0017】
拡散板21の下方には、被処理物Wに不活性ガスを吹き付けるためのガス噴出手段25が配置される。ガス噴出手段25は、被処理物Wの表面近傍でのガス流速低下を防ぐために、被処理物Wと接触しない程度にできる限り接近して設けられる。
被処理物Wは、後述する樹脂材料の、連続したシート状のフィルムであり、工程の上流側にあるロールフィルム(不図示)から搬送機構40により前室20内に搬入され、ガス噴出手段25の下方を通過し、前室20の搬出口27より搬出されるとともにランプハウス10内に搬入される。ランプハウス10内で照射処理がなされた後、搬出されて次の工程に送られる。
【0018】
図3はこの前室20の、搬送方向に垂直な断面での概略構成図である。
ガス導入口23はガス噴出手段25に不活性ガスを供給するための導入口であり、不図示のガス供給源に接続されている。ガス噴出手段25は図に示すように例えば断面円形状の管状体であり、エキシマランプ30と同じように、長手方向が紙面左右方向に配置される。ガス噴出手段25には、半径方向にガスが噴出されるよう設けられた噴出口25aが、長手方向に沿って多数形成される。
ガス噴出手段25の一例としては、断面円形で、外径20mm、長さ1500mmの管状体に、その長手方向に沿ってφ0.5mmの円形に開口した噴出口が5mmピッチで280個形成された噴出管である。なお、形状はこれに限られるものではなく、噴出口は突出したノズルのような形態によるものでもよいし、エアナイフのようなものでもよい。
噴出口25aからは、被処理物Wの表面に向かって不活性ガスが噴出される。噴出口25aの向きは、水平またはそれよりもやや下方に傾斜されており、被処理物Wの斜め上方から不活性ガスを吹き付ける。図に示した被処理物Wの左右方向の長さが幅であり、ガス噴出手段25は被処理物Wの全幅にわたって不活性ガスを吹き付けることができるように、噴出口25aを備えている。
このようなガス噴出手段によれば、被処理物Wの幅方向にわたって搬送方向に均一に不活性ガスを吹き付けることができる。
【0019】
また、ガス噴出手段から噴出される不活性ガスの時間当たりの流量は不図示の制御装置によって調整できるようになっている。したがって、不活性ガスの噴出速度はガス噴出口の面積より算出することができる。例えば、上記した寸法のガス噴出手段25の場合、供給するガス量が20リットル/分のとき、ガス噴出速度は12(m/sec)である。
【0020】
このエキシマランプ装置において紫外線照射処理される被処理物は、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、TAC(三酢酸セルロース)、PET(ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル類))、またはPE(ポリエチレン(ポリオレフィン類))などである。
これら、液晶パネルの偏光子や偏光子保護剤等に用いられるTAC等は、薄いフィルム状の樹脂材料で可撓性があり、帯状に連続した状態のものをローラーコンベアのような搬送機構で巻きとりながら高速で搬送することができる。
被処理物の搬送速度は、例えば搬送方向に沿って10〜40(m/min)であり、例えば20(m/min)である。被処理物Wはこのように高速で搬送されるため、前室20内に周囲の空気を巻き込みながら搬入される。
【0021】
高速で搬送される被処理物Wの表面には、巻き込んだ空気が付着して空気層を形成している。この空気層に対して、ガス噴出手段25は不活性ガスを噴出して被処理物Wの表面に吹き付け、空気を希釈し、酸素濃度を低下させる。
噴出口25aから被処理物Wに向けてガス流が噴出開始されると、ガス噴出口付近のガスも粘性によりガス流に引き込まれて、ガス流全体は次第に拡散し、流速も低下する。しかし、被処理物の搬送速度に対して十分に大きい初速で噴出されるために、被処理物Wの表面に到達することができ、被処理物Wとの相対速度が0となり、表面の空気と混ざり合うことが出来る。
また、周囲は前記したように、前室20のガス導入口22により導入された不活性ガスに置換されているので、ガス噴出手段25が空気を巻き込んだ不活性ガスを被処理物Wに対して噴出することが無い。これにより表面に付着した空気は、前室20内の空間中で、被処理物の表面より除去され、紫外線照射処理に適した状態で被処理物Wはランプハウス10内に搬入される。
被処理物の表面より除去された空気は、前室20内の不活性ガスにより希釈され、そのまま前室20のガス排出口29より排出される。
【0022】
図4には、本発明のエキシマランプ装置の実験結果を示す。
本発明と2つの参考例のエキシマランプ装置を用いて、紫外線照射処理後の被処理物Wの濡れ性を評価した。不活性ガスには窒素を、被処理物WにはTACを用いた。
本発明としたのは図2に示したエキシマランプ装置であり、参考例1は図8に示したエキシマランプ、参考例2は図9に示したエキシマランプ装置である。
装置の構成としては、図8に示したエキシマランプ装置に不活性ガス手段を付加したものが図9に示したエキシマランプ装置であり、図9に示したエキシマランプ装置の不活性ガス手段の周囲を不活性ガスで置換する前室等を付加したものが本発明という関係になっている。
濡れ性の評価としては、水滴滴下試験による接触角測定を行った。
図4において、横軸は、被処理物Wの搬送速度(m/min)である。縦軸は処理後の接触角(°)であり、接触角が小さいほど濡れ性の向上の効果が高いことを示す。処理前の被処理物の接触角は約80°程度である。
図4中のプロットについて、×は、図8で示した前室と不活性ガスのガス噴出手段の無いエキシマランプ装置を用いて処理したもの(参考例1)であり、△は、図9で示した前室の無いエキシマランプ装置を用いて処理したもの(参考例2)であり、○は、図2で示した本発明のエキシマランプ装置を用いて処理したものである。また、△(参考例2)および○(本発明)のガス噴出手段からの不活性ガスの噴出速度は10(m/sec)とした。
【0023】
図4に示すように、搬送速度が5(m/min)以下のときは、いずれのエキシマランプ装置の処理においても接触角が小さく、濡れ性の向上の効果があることがわかる。
しかし、参考例1(×)の処理では、搬送速度が10(m/min)に達すると、ランプハウス内への空気の巻き込み量が増加し、処理の効果が低下した。さらに、搬送速度が15(m/min)に達すると、処理の効果はほとんどみられなくなった。
また、参考例2(△)の処理では、搬送速度が15(m/min)に達すると、処理の効果が低下した。さらに、搬送速度が20(m/min)に達すると、処理の効果はほとんどみられなくなった。すなわち、空気の巻き込みがあってもガス噴出手段から噴きつけられる不活性ガスにより多少の改善があるが、搬送速度が高くなると効果が十分でないと言える。
本発明(○)の処理では、搬送速度が20(m/min)以上となっても、処理効果の低下はみられず、40(m/min)となっても処理効果が高かった。すなわち、前室を設けて不活性ガスのガス噴出手段の周囲を不活性ガスで置換したことによって、空気の巻き込みがなくなり、紫外線照射処理を好適にすることができることがわかる。
【0024】
図5は、図4に示した前述と同様の濡れ性評価試験において、本発明(○)と参考例2(△)について、被処理物の搬送速度を20(m/min)として、ガス噴出手段からの不活性ガスの噴出速度を変化させた実験結果である。
図5において、横軸は噴出速度(m/sec)であり、縦軸は処理後の接触角(°)である。
参考例2(△)の処理では、噴出速度を高めても処理効果に変化は無く、ほとんど処理効果が無かった。これに対し、本発明(○)の処理では、噴出速度が高くなるにつれて処理効果が向上し、噴出速度が10(m/sec)以上でほぼ一定となった。
すなわち、ガス噴出手段からのガス噴出速度を高くしても、その周囲を不活性ガスで置換しなければ、空気を巻き込んだガスを吹き付けることとなり、被処理物W表面の酸素濃度が低下しないので処理効果が望めないことがわかる。
【0025】
また、前述したように、前室内に被処理物が搬入された直後は、その表面には空気が付着している。この空気は被処理物と同じ速度で流れ、そのまま追随する。この空気を不活性ガスで置換するには、不活性ガスが被処理物表面に到達したときに、搬送方向での被処理物との相対速度が0(m/sec)以上である必要がある。ガス噴出手段から噴出されるガス流は、噴出された直後から次第に速度が低下するので、初期噴出速度は少なくとも被処理物の搬送速度以上である必要がある。すなわち、噴出速度が高くなるにつれて、置換の効果が高まっていると考えられる。
【0026】
したがって、初期噴出速度が少なくとも搬送速度以上であって、不活性ガスが処理表面を置換できる噴出速度であれば、低い噴出速度であっても効果が得ることができるので、搬送速度が低い場合には初期噴出速度を低くしても良い。図5に示した実験結果によれば、初期噴出速度は高いほど処理効果が向上しているが、高すぎても処理効果は飽和する傾向にあり、また不活性ガスの浪費となるから搬送速度に応じて適宜設定することが出来る。
【0027】
上記構成のエキシマランプ装置によれば、被処理物を高速で搬入しても、ランプハウス10内に空気を巻き込むことが無い。したがって、エキシマランプ30から照射される紫外線が酸素によって減衰することなく効率良く紫外線照射処理を施すことができる。
【0028】
図6(a)は、本発明のエキシマランプ装置のガス噴出手段についての他の一例を示す概略断面図である。図6(a)については、図2に示したエキシマランプ装置とガス噴出手段25の形状のみが相違し、他の構成は図2に示したものと同一であるから説明を省略する。図6(b)には、図6(a)からガス噴出手段25を抽出して拡大した拡大断面図を示す。
図6において、ガス噴出手段25は、被処理物Wの幅方向(紙面手前側から奥側)に長尺な管であり、不活性ガスを噴出するためのスリット25bが形成されている。このスリット25bは幅方向にわたって、一体に連続して形成されていても良いし、断続的になるよう仕切りが設けられて形成されていても良い。このようなスリットにより、ガス噴出手段25は層状の噴出流を供給することができる。また、このスリットの幅を非常に小さく形成することにより、総流量が同じであっても高速な噴出流を供給することが出来る。
ガス噴出手段25を構成する管の、スリット25bよりも搬送方向の下流側には、管の表面が下流に向かうにつれて搬送方向と同じになるように湾曲する曲面25cが形成されている。スリット25bより不活性ガスが噴出されると、コアンダ効果により、ガス流はこの曲面25cの表面に沿って流れる。
上記のガス噴出手段25によれば、少量のガスにより高速のガスを噴出することが出来るので不活性ガスの流量を節約することができる。
【0029】
図7は、本発明の第2の実施形態にかかるエキシマランプ装置を搬送方向に沿って切断した概略断面図である。図7は、図2に示したエキシマランプ装置と前室20の構成のみが相違し、他の構成については図2に示したエキシマランプ装置と同一の構成であるので、それについては説明を省略する。
前室20は、被処理物の上下に位置するガス噴出手段25、28、およびガス導入口25a、28aを備える。
【0030】
エキシマランプ装置100内に被処理物Wが搬入された状態では、前室20内の空間は、被処理物Wによって上側と下側の2つに分断されることとなる。また、装置内部への巻き込みによる空気の侵入は、被処理物Wの上下において発生する。
ガス噴出手段25のみを設置した場合には、被処理物Wの上側の表面については不活性ガスで置換することが出来るが、下側については表面に空気が付着したままランプハウス内に搬入されることになり、好ましくない。
【0031】
したがって、空気がランプハウス10内に侵入することがないように、被処理物Wの上側にのみガス噴出手段25を設けるだけでなく、下側にもガス噴出手段28を設けることが好ましい。
また、上側のガス噴出手段25の周囲を不活性ガスに置換するガス導入口22だけでなく、下側のガス噴出手段28の周囲を不活性ガスに置換するガス導入口24が設けられる。
これにより、前室20内の、被処理物Wよりも下側の空間についても不活性ガスで満たすことができる。
【0032】
上記構成によれば、被処理物の上下にガス噴出手段およびガス導入口を配置することにより、被処理物の上下の表面を不活性ガスで満たすことができるので、ランプハウス内への空気の侵入をより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明にかかるエキシマランプを示す図であり、(a)は管軸に沿った断面図、(b)はA−A’断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかるエキシマランプ装置の搬送方向に沿った断面における概略構成図である。
【図3】本発明のエキシマランプ装置の搬送方向に垂直な断面における概略構成図である。
【図4】本発明のエキシマランプ装置の実験結果である。
【図5】本発明のエキシマランプ装置の実験結果である。
【図6】(a)は本発明のエキシマランプ装置のガス噴出手段の一例を示す概略構成図であり、(b)はガス噴出手段のみを抽出した拡大図である。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかるエキシマランプ装置の搬送方向に沿った断面における概略構成図である。
【図8】参考例のエキシマランプ装置を示す概略構成図である。
【図9】参考例のエキシマランプ装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
100 エキシマランプ装置
10 ランプハウス
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 搬入口
14 搬出口
20 前室
21 拡散板
22 ガス導入口
23 ガス導入口
24 ガス導入口
25 ガス噴出手段
25a 噴出口
26 搬入口
27 搬出口
28 ガス噴出手段
29 ガス排出口
30 エキシマランプ
32 外側管
33 電極
34 電極
37 内側管
38 紫外線反射膜
39 光出射部
40 搬送機構
50 ランプハウス
51 ガス導入口
52 ガス排出口
53 搬入口
54 搬出口
65 ガス噴出手段
70 エキシマランプ
W 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランプハウスと、該ランプハウス内に収容されたエキシマランプと、搬送機構とを備え、被処理物を搬送しながらエキシマ光を照射するエキシマランプ装置において、
前記ランプハウスよりも搬送方向の上流側に、被処理物が搬入される前室が連結して設置され、
該前室内には、該前室内を不活性ガスで置換するための不活性ガス導入口と、
該被処理物に対して搬送方向に沿って不活性ガスを噴出するガス噴出手段が設置され、
該被処理物は、ポリビニルアルコール、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、またはポリエチレンのいずれかのフィルム状の樹脂材料であることを特徴とするエキシマランプ装置。
【請求項2】
前記ガス噴出手段は、前記被処理物の上下に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−144093(P2010−144093A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324500(P2008−324500)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】