説明

エキシマランプ

【課題】キセノンガスを含む放電ガスが封入された放電容器の内壁に紫外線反射膜が設けられると共に、紫外線反射膜を構成するシリカ粒子にOH基が含まれているエキシマランプにおいて、点灯時間が経過するにつれて紫外線の照度が低下することのないエキシマランプを提供すること。
【解決手段】シリカガラスよりなる放電容器11の内壁に、シリカ粒子とアルミナ粒子よりなる紫外線散乱粒子により形成された紫外線反射膜18を有するとともに、キセノンを含むガスを封入したエキシマランプ10において、前記紫外線反射膜のアルミナ濃度Y(vol%)と、該紫外線反射膜のシリカ粒子中のOH基濃度X(wt.ppm)は、Y≧13.7log(X)+1.2の関係を満たすこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプに係わり、特にシリカガラスよりなる放電容器の内部に紫外線反射層を形成して効率よく紫外線を放射する、キセノンを封入したエキシマ放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば金属、ガラス、その他の材料よりなる被処理体に、波長200nm以下の真空紫外光を照射することにより、真空紫外光およびこれにより生成されるオゾンの作用によって、例えば、被処理体の表面に付着した有機汚染物質を除去する洗浄処理技術や、被処理体の表面に酸化膜を形成する酸化膜の形成処理技術等の、被処理体を処理する技術が開発され、実用化されている。
【0003】
真空紫外光を照射する装置としては、例えば、エキシマ放電によってエキシマ分子を形成し、当該エキシマ分子から放射される光を利用するエキシマランプを光源として具えてなるものがある。このエキシマランプにおいては、より高強度の紫外線を効率よく放射するために多くの試みがなされている。
【0004】
例えば、図6を参照して説明すると、紫外線を透過するシリカガラスよりなる放電容器51を具え、放電容器51の外壁にそれぞれ電極55、56が設けられてなるエキシマランプ50において、放電容器51の内部に放電ガスとしてキセノンガスが封入され、放電容器51の放電空間Sに曝される表面に、紫外線反射膜58が形成されることが記載されており、紫外線反射膜としては、シリカ粒子とアルミナ粒子からなるものが実施例に例示されている(特許文献1参照)。
【0005】
上記構成に係る放電ランプによれば、放電容器51の内壁、放電空間Sに曝される表面に紫外線反射膜58が設けられていることにより、紫外線反射膜58が設けられた領域においては、放電空間S内で発生した紫外線が、紫外線反射膜によって反射される。反射された紫外線は、紫外線反射膜58を設けない光出射部57を透過して外部に放射される。
したがって、放電空間S内で発生した紫外線を有効に利用することができるため、エキシマランプから放射される波長150〜200nmの紫外線放射効率が、紫外線反射膜を有しないエキシマランプに比べて20%以上も向上することが記載されている。
【特許文献1】特開2007−335350
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のエキシマランプにおいては、波長172nmの紫外線の照度が点灯時間の経過とともに次第に低下するという不具合が生じた。この問題について発明者らが検討したところ、長時間点灯後のエキシマランプの紫外線反射膜では、紫外領域に吸収帯が生じており、紫外線の一部が紫外線反射膜に吸収されることにより、照度低下が生じていることがわかった。
この吸収は、紫外線反射膜中のシリカ粒子が、放電によって生じる紫外線やプラズマに曝されることで放射損傷を受けて内部欠陥が生じ、その内部欠陥に起因して紫外線が一部吸収されることで、散乱反射の効果が薄れるためであることがわかった。
この内部欠陥とは、シリカ粒子のSi−O−Si結合が、紫外線やプラズマに曝されることで生じる、波長163nm付近に吸収端を持つSi−Si欠陥、または、波長215nm付近に吸収帯のあるE’center(Si・)のことである。
この問題を解決するために発明者らは鋭意検討し、紫外線反射膜中のシリカ粒子中にOH基を含有させることにより、紫外線反射膜に含まれるシリカ粒子における内部欠陥の生成を抑制する効果があることを見出した。
図2は、エキシマランプのシリカ粒子よりなる紫外線反射膜について、OH基濃度を変化させて調べた、OH基濃度と反射維持率の関係を示す図である。横軸は、OH基濃度(wt.ppm)の対数表示であり、縦軸は反射維持率(%)である。反射維持率は、点灯初期と500時間経過後のエキシマランプより照射される172nmの真空紫外光の反射率を測定し、その維持率を算出したものである。図2に示すように、紫外線反射膜中のOH基濃度が高いほど、反射維持率が高いことがわかる。このように、紫外線反射膜中のシリカ粒子にOH基を充分に含有させることにより、紫外線反射膜の反射性能低下を防ぐことができた。
【0007】
しかしながら、紫外線反射膜中のシリカ粒子にOH基を充分に含有させると、ランプを点灯して所定時間が経過したとき、波長550nm近傍の緑色の発光が強く現れるようになり、さらには波長172nmの紫外線の照度低下が生じた。
上記の緑色発光を分析すると、キセノンオキサイド(以下XeOという)による分子発光であると確認された。この発光が強くなると、波長172nmの紫外線の照度も合わせて低下したことから、発明者らは、問題の原因はXeOに関係し、以下のようにあると考えた。
【0008】
前述のように、内部欠陥抑制のために、紫外線反射膜中のシリカ粒子に含有させたOH基は、シリカ粒子が放電に曝されたり、紫外線が放射されたりすることにより解離して、放電空間に放出されることがある。
エキシマランプには放電ガスとしてキセノン(以下Xeという)が封入されている。放電空間に放出されたOH基は、プラズマにより分解されてO(酸素原子)となり、ランプに封入されたXeと反応してXeOとなることで、キセノン原子を点灯初期より実質的に減少させてしまう。
すなわち、OH基濃度が適切であるときは、OH基は良好に内部欠陥の生成を抑制し、紫外線反射膜の反射性能を維持することができるが、OH基濃度が過大であると、OHが放電空間に放出されて、Xeガスが実質的に減少する原因となる。
図3には、紫外線反射膜中のシリカ粒子中のOH基濃度と、Xeエキシマによる波長172nmの真空紫外光の照度の関係を調べた図を示す。横軸は紫外線反射膜中のシリカ粒子中のOH基濃度(wt.ppm)の対数表示であり、縦軸は波長172nmの光の照度である。測定試料として、エキシマランプにシリカ粒子のみからなる紫外線反射膜を作成し、500時間経過後のエキシマランプから照射される172nmの照度を測定した。
図3に示すように、紫外線反射膜中のOH基濃度が高くなるにつれて、波長172nmの光の照度が低下している。
つまり、エキシマランプの点灯を開始してから所定時間が経過するごとにOHが徐々に放出されてXeOが生成され、XeOが励起されることにより放射される波長550nmの分子発光の割合が点灯初期よりも増加する。これに伴って、Xeが実質的に減少するので、Xeエキシマ分子発光により放射される波長172nmの紫外線の割合が点灯初期よりも少なくなるものと考えられる。
【0009】
以上から、本発明は、キセノンガスを含む放電ガスが封入された放電容器の内壁に紫外線反射膜が設けられると共に、紫外線反射膜を構成するシリカ粒子にOH基が含まれているエキシマランプにおいて、点灯時間が経過するにつれて紫外線の照度が低下することのないエキシマランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリカガラスよりなる放電容器の内壁に、シリカ粒子とアルミナ粒子よりなる紫外線散乱粒子により形成された紫外線反射膜を有するとともに、キセノンを含むガスを封入したエキシマランプにおいて、前記紫外線反射膜のアルミナ濃度Y(vol%)と、該紫外線反射膜のシリカ粒子中のOH基濃度X(wt.ppm)は、Y≧13.7log(X)+1.2の関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記紫外線反射膜のシリカ粒子の中心粒径RS(μm)と、アルミナ粒子の中心粒径RA(μm)は、RA/RS≧1の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリカガラスよりなる放電容器の内壁に、シリカ粒子とアルミナ粒子を含む紫外線散乱粒子により形成された紫外線反射膜を有するとともに、キセノンを含むガスを封入したエキシマランプにおいて、当該紫外線反射膜中のアルミナ体積濃度Y(vol積%)と、OH基濃度X(wt.ppm)は、Y≧13.7ln(X)+1.2の関係を満たすことにより、紫外線反射膜中のOH濃度に応じて十分な体積濃度のアルミナ粒子を含有させる。
これにより、アルミナ粒子が放電に曝される紫外線反射膜の表面に露出しやすくなる。アルミナ粒子にはOH基が含まれていないため、紫外線反射膜から放出されるOHは減少し、XeOの生成を抑制することができる。加えて、適量のOH基を含有させたシリカ粒子を紫外線反射膜に用いているので、Xeエキシマ発光による紫外線照度が低下することなく、紫外線反射膜の反射性能を維持することができる。
【0013】
また、前記紫外線反射膜中のシリカ粒子の平均粒径RSと、アルミナ粒子の平均粒径RAは、式:RA/RS≧1の関係を満たすことにより、シリカ粒子がアルミナ粒子とアルミナ粒子の隙間に入り込み、一部溶融して接着に寄与するとともに、放電に曝される紫外線反射膜の表面に露出しにくくなる。そのため、シリカ粒子は放電に曝されてOHを放出することが無くなり、XeOの生成を抑制できる。よって、Xeエキシマ発光による紫外線照度が低下することも無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明のエキシマランプ10の一例における構成の概略を示す断面図であって、図1(a)は、放電容器11を管軸方向(長手方向)に沿って切断した断面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A’線断面図である。
エキシマランプ10は、両端が気密に封止されて内部に放電空間Sが形成された、断面矩形状で中空長尺状の放電容器11を備えており、この放電容器11の内部には、放電ガスとしてキセノン(Xe)ガスが封入されている。
放電容器11は、シリカガラス、例えば合成石英によるシリカガラスよりなり、誘電体としての機能を有する。
【0015】
放電容器11は、管軸AXに沿って長辺面12a、12bが互いに向かい合うように配置されるとともに、この長辺面12aと長辺面12bに対して直角関係で連続する短辺面13a、13bにより断面矩形状の管が形成される。管軸方向の両端は、端面14a、14bにより閉じられて、放電容器の内部を気密空間としている。
【0016】
放電容器11における長辺面12a、12bの外壁には、一対の格子状または網状の電極15、16が管軸方向に沿って形成され、放電容器11を挟んで互いに対向する。長辺面12aの外壁には高電圧給電電極として機能する一方の電極15が配置され、長辺面12bの外壁には接地電極として機能する他方の電極16が配置される。
電極15、16の各々には、高周波電源(図示せず)が接続される。これにより、一対の電極15、16間に誘電体として機能する放電容器11が介在された状態となる。このような電極15、16は、例えば、アルミニウム、ニッケル、金等の金属よりなる電極材料を放電容器11にペースト塗布することにより、またはプリント印刷することによって形成することができる。
【0017】
エキシマランプ10には、エキシマ発光によって発生する真空紫外光を効率良く利用するために、放電容器11の放電空間S側の内壁に、後述する粒子堆積体よりなる紫外線反射膜18が設けられている。
紫外線反射膜18は、例えば、高電圧側の電極15が設けられた、長辺面12aの内壁領域と、この領域に連続する短辺面13a、13bの内壁領域にわたって形成されている。また、さらなる反射光量増加のため、両方の端面14a、14bの内壁などその他の領域にも紫外線反射膜18を形成してもよい。
一方、接地側の電極16に対応する長辺面12bの内壁領域においては、紫外線反射膜18は形成せずに、長辺面12bの、電極16が形成されていない隙間の領域を、紫外線を出射する光出射部17としている。
【0018】
紫外線反射膜18は、シリカ(酸化シリコン:SiO)粒子とアルミナ(酸化アルミニウム:Al)粒子より構成される紫外線散乱粒子が堆積された粒子体積体である。
シリカ粒子は、ガラス状態のものであっても結晶状態のものであってもよいが、放電容器との接着性が良好であるガラス状態であることが好ましい。
紫外線散乱粒子の粒径の定義については後述するが、シリカ粒子は、その粒径が0.01〜20μmであることが好ましく、また、その中心粒径が0.1〜10μmであることが好ましい。
【0019】
アルミナ粒子は、アルミナが結晶化しやすくガラス状態となりにくい特性を有することから、通常は結晶状態のものであり、シリカ粒子に比して屈折率が大きく高い反射率を有することから、シリカ粒子と共に紫外線反射膜18を構成することにより、優れた紫外線反射能が得られることとなる。
アルミナ粒子の粒径は、0.1〜3μmであることが好ましく、またその中心粒径が0.3〜1μmであることが好ましい。
【0020】
このような粒子を堆積させた紫外線反射膜18によれば、入射された真空紫外光は、その一部が紫外線散乱粒子の表面で反射され、また一部は屈折して粒子の内部を透過し、再び別の表面で反射または屈折する。これら多数の微粒子の粒界によって、繰り返し反射、屈折が起こる機会が増大していることにより、真空紫外光を効率良く拡散反射している。
したがって、紫外線反射膜18は、粒子の層である膜が薄すぎても反射光量が少なくなり、厚すぎても膜自体が剥離しやすくなるため、その膜厚は10〜1000μmの範囲で形成されることが好ましい
【0021】
ここでいう「粒径」とは、紫外線反射膜をその表面に対して垂直方向に破断したときの破断面の、厚み方向におけるおよそ中間の位置を観察範囲として、走査型電子顕微鏡(SEM)によって拡大投影像を取得し、この拡大投影像における任意の粒子を一定方向の2本の平行線で挟んだときの当該平行線の間隔であるフェレー(Feret)径をいう。
また、「中心粒径」とは上記のようにして得られる各粒子の粒径についての最大値と最小値との範囲を、例えば0.1μmの区分をもって、複数、例えば15区分程度に分け、それぞれの区分に属する粒子の個数(度数)が最大となる区分の中心値である粒径をいう。
【0022】
紫外線反射膜を構成するシリカ粒子とアルミナ粒子には、紫外線の反射する機能そのものの他に以下のような役割を有するので説明をする。
シリカ粒子は、放電容器11の材料であるシリカガラスと熱膨張係数が等しく、高い接着性を有するものであり、紫外線反射膜18と放電容器11との接着は、紫外線反射膜に含有されるシリカ粒子が一部溶融することによって得られるものである。一般に、熱膨張係数の値が等しい、または近いものは、接着しやすいという性質がある。そのため、シリカ粒子は、放電容器11への付着が良好であり、紫外線反射膜の剥離を防ぐことができる。
【0023】
このエキシマランプ10は、一方の電極15に点灯電力が供給されると、誘電体である放電容器11の壁を介して両電極15、16間に電圧が印加され、放電空間S内に放電が生ずる。これにより、エキシマ分子が形成されると共に、このエキシマ分子から真空紫外光が放射されるエキシマ分子発光が生じる。
放電に用いるガスの種類によっては、放射されるエキシマ発光の中心波長は異なる。例えば、キセノン(Xe)が封入されたエキシマランプでは、前述のように172nmを中心波長とするエキシマ発光が生じる。エキシマ発光により発生した真空紫外光は、光出射部17以外の放電容器11の壁(シリカガラス)を通過することなく反射され、所望の方向へ照射されるので、当該真空紫外光を効率良く利用することが出来る。
【0024】
シリカ粒子には、紫外線放射損傷による内部欠陥の生成を抑制するために、OH基を含有させる。OH基を含有させるためには、例えば、紫外線反射膜を、大気暴露させた状態で高温に加熱するか、珪素化合物(例えば四塩化珪素)を酸水素火炎中で加水分解する。このような製造方法を用いた場合、シリカ粒子中にはOH基が含有される。
紫外線反射膜は、このようにして含有させたOH基の濃度が高いほど、内部欠陥の生成を抑制して紫外線反射膜の反射維持率を高めることができる。
【0025】
しかし、前述のように、シリカ粒子中のOH基濃度が過大であると、シリカ粒子がプラズマに曝されたり、紫外線が照射されたりすることによって、OH基が解離して放電空間に放出されることがある。放電空間S内に放出されたOHはプラズマで分解されてOとなり、さらにXeと結びついてXeOとなる。この一連の現象によって、実質的に放電空間内のXeが減少することとなる。
【0026】
紫外線反射膜中に占めるアルミナ粒子の体積濃度が高くなれば、放電に曝される紫外線反射膜の表面は、主にアルミナ粒子が露出していることとなる。アルミナ粒子にはOH基が含まれないので、OHを放出することもなく、放電空間へのOHの放出を防ぎ、XeOの生成を抑制することが出来る。また、紫外線反射膜はアルミナ粒子とシリカ粒子により構成されているので、アルミナ粒子の体積濃度が増加すれば、自ずとシリカ粒子の体積濃度が減少し、OH放出量も減少する。
すなわち、アルミナ粒子の体積濃度を高めることで、OHを含有したシリカ粒子とアルミナ粒子を用いて紫外線反射膜を作製し、シリカ粒子からのOH放出量を低減することができる。以上から、紫外線反射膜のアルミナ粒子の体積濃度を規定する必要がある。
具体的には、紫外線反射膜中のOH濃度X(wt.ppm)に対して、アルミナ粒子の体積濃度Y(vol%)を次式のように規定する。
式(1):Y≧13.7ln(X)+1.2
ここで体積濃度とは、紫外線反射膜を構成するシリカ粒子およびアルミナ粒子の体積に合計に占めるアルミナ粒子の体積の割合のことである。
以上の式を満たすことで、紫外線反射膜から放電空間へOHが放出されることを抑制することができる。
【0027】
さらに、アルミナ粒子が上記規定を満たすように含有されることにより以下の様な効果がある。
エキシマランプにおいては、プラズマが発生することが知られているが、本実施形態に係るエキシマランプにおいては、プラズマが紫外線反射膜に対して略直角に入射して作用することになるため、紫外線反射膜の温度が局所的に急激に上昇し、プラズマの熱によって、シリカ粒子が溶融されて粒界が消失し、真空紫外光を拡散反射させることができなくなって反射率が低下することがある。
アルミナ粒子は、シリカ粒子よりも融点が高いため、シリカ粒子が放電プラズマに曝されて溶融したとしても、アルミナ粒子まで溶融することはない。このため、アルミナ粒子を多くシリカ粒子とシリカ粒子の間に混在させることにより、シリカ粒子の連鎖的な溶融を防止することができる。すなわち、粒子同士が溶融して一体化することを防止でき、粒子の形状を維持し、反射機能を維持することが出来る。
これにより、点灯開始から長時間が経過した後であっても、放電空間において単体で存在するキセノンガスの割合が点灯初期とほぼ同程度に維持され、波長172nmの発光強度を維持することが出来る。
【0028】
また、シリカ粒子の中心粒径は、アルミナ粒子の中心粒径よりも小さいものとすることが好ましい。これにより、OH放出量を低減し、波長172nmの照度低下を抑制することが出来る。具体的には、紫外線反射膜中のアルミナ粒子の平均粒径RA、シリカ粒子の平均粒径RSは次式の関係を満たすものとする。
式(2):RA/RS≧1
上記の式の関係を満たす紫外線反射膜においては、シリカ粒子の平均粒径がアルミナ粒子の平均粒径よりも小さいものとなる。したがって、反射膜の作製において、これらの紫外線粒子を混入させたコート液を放電容器内に塗布する際に、小さいシリカ粒子が大きいアルミナ粒子の隙間に入り込むため、シリカ粒子は放電に曝される表面に露出しにくくなる。そのため、アルミナ粒子を適量混入していることによる効果を、より確実なものとすることができる。
また、シリカ粒子の粒径が小さければ、アルミナ粒子とアルミナ粒子の間や、アルミナ粒子と放電容器の間に入り込みやすくなり、紫外線反射膜の焼成の際に一部溶融することで、接着性を強化することが出来る。
【0029】
このように、本発明に係るエキシマランプに設けられた紫外線反射膜については、アルミナ粒子とシリカ粒子の両方を混合して構成し、上記の関係を満たすことが好ましい。これにより、紫外線反射膜中からOH基が放出されることを抑制し、XeOの生成を低減して、波長172nmの光の照度低下を防ぐことが出来る。
【0030】
これら紫外線反射膜の製造方法にかかる事項について以下に説明する。
シリカ粒子、アルミナ粒子は、例えば化学蒸着法(CVD)によって製造することができる。具体的には、シリカ粒子は、四塩化珪素と酸素を900〜1000℃で反応させることにより、また、アルミナ粒子は、原料の塩化アルミニウムと酸素を1000〜1200℃で加熱反応させることにより、合成することができる。粒子の粒径は、原料濃度、反応場での圧力、反応温度を制御することにより調整することができる。
【0031】
放電容器への紫外線反射膜の形成は、例えば以下に示す「流下法」によって行うことが出来る。
水とPEO樹脂(ポリエチレンオキサイド:polyethlen oxide)を組み合わせた粘性を有する溶剤に、微小なシリカ粒子およびアルミナ粒子を混ぜて分散液を調整し、この分散駅を放電容器形成材料内に流し込む。そして、分散駅を放電容器形成材料の内壁における所定の領域に付着させた後、乾燥、焼成、することで水とPEO樹脂を蒸発させ、これにより、粒子堆積体を形成することが出来る。焼成温度は、例えば500℃〜1100℃である。
【0032】
つづいて、本発明のエキシマランプに関する実施例を示す。
図1(a)、(b)に示す構成に従って、本発明の実施形態に係る紫外線反射膜を有するエキシマランプを作製した。
放電容器は、材質がシリカガラスであって、寸法が15mm×43mm×350mm、肉厚が2.5mmである。 高電圧供給電極および接地電極の寸法は、30mm×300mmである。
紫外線反射膜は、アルミナ粒子とシリカ粒子によって構成され、流下法によってそれぞれ形成し、1000℃で焼成した。
【0033】
〔実施例1〕
紫外線反射膜のシリカ粒子中に含まれるOH基濃度に応じて、アルミナ粒子を混合して適量な体積濃度を規定するために、シリカ粒子中のOH基濃度とアルミナ濃度を変化させた場合の、XeOの発光との関係を調べた。
測定対象として、シリカ粒子とアルミナ粒子の混合粒子による紫外線反射膜を形成した、アルミナ濃度と、シリカ粒子中OH基濃度の異なるランプ数本を用意した。用意した各々のランプについて点灯開始後500時間経過した後に、ランプから発せられる緑色発光を分光計で観測した。
OH基濃度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いることで、シリカ粒子中に含まれるOH基濃度のみを測定することが出来る。測定試料には、ランプを破砕し、破砕片より紫外線反射膜を削り落として粉末としたものを用いた。
アルミナ濃度については、紫外線反射膜を作製する際に混合するシリカ粒子とアルミナ粒子の重量比をもとに、比重により換算した体積濃度(vol%)を算出した。シリカ粒子の比重は、2.15(g/cm)であり、アルミナ粒子の比重は、3.99(g/cm)である。例をあげると、重量によるシリカ濃度が90(wt%)のときは、体積によるシリカ濃度は、90(wt%)÷2.15(g/cm)=41.9(vol%)となる。
また、各々のランプの測定により得られた分光スペクトルにおいて、XeOの発光強度(550nm)を、基準となるXe(980nm)の発光強度で除することにより、XeOのXeに対する光強度比:XeO/Xeを求めた。
図4に、シリカ粒子中のOH基濃度とアルミナ濃度との関係を示す。横軸はOH基濃度(wt.ppm)の対数表示であり、縦軸はアルミナ濃度(vol%)である。
光強度比:XeO/Xeは、数値が高いほどXeO発光が支配的になり、Xeが酸素と結合して減少していることを意味する。各試料において、XeO/Xe強度比が0.5以上のものはXeOの割合が高くXeが減少しているため「×」(不合格)とし、0.5未満のものを「○」(合格)、また0.3未満のものを「◎」(合格)としてグラフにプロットした。
図4において、シリカ粒子中のOH基濃度が一定である場合には、アルミナ濃度が高いほうがXeO/Xe比が小さい。また、シリカ粒子中のOH基濃度が増えると、XeO/Xe比を規定値以下とするためにはアルミナ濃度を増やさなければならないことがわかる。このように、紫外線反射膜のシリカ粒子中に含まれるOH基濃度に応じてアルミナ濃度を増加させることが好ましい。
また、図4において判定が「○」となった各々の試料に基づいて、近似線を引いた。同じOH基濃度においては、アルミナ濃度が高くなればなるほど、XeOの割合は低くなるのであるから、「○」がプロットされた点において、OH基濃度が一定であれば、アルミナ濃度が高いほうがOH放出を抑制することができる。すなわちこの近似線よりも上(アルミナ濃度が高い)の領域においては、XeOが生成されにくいことを意味する。
以上により、紫外線反射膜のアルミナ濃度Y(vol%)と、該紫外線反射膜のシリカ粒子中のOH基濃度X(wt.ppm)は、Y≧13.7log(X)+1.2の関係を満たすことにより、172nmの照度を維持することができる。
【0034】
〔実施例2〕
紫外線反射膜を構成する、アルミナ粒子とシリカ粒子の中心粒径比と、波長172nmの光の照度との関係を調べた。
中心粒径が1.0μmであるアルミナ粒子に対して、中心粒径が0.1〜3.0μmと変化させたシリカ粒子を混合して作製した紫外線反射膜を有するエキシマランプを作製し、ランプ点灯後500時間経過後における、波長172nmの光の照度を測定した。
紫外線反射膜中のアルミナ体積濃度はある値で一定のものである。
図5に示すように、アルミナ中心粒径/シリカ中心粒径が小さくなるほど、すなわち、アルミナ粒子の粒径が大きいほど、波長172nmの照度が低下しないことがわかる。特に、アルミナ平均粒径RA/シリカ平均粒径RS≧1となるときは172nmの照度は維持されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のエキシマランプの一例における構成の概略を示す説明用断面図であって、(a)放電容器の管軸方向に沿った断面を示す断面図、(b)(a)におけるA−A’線断面図である。
【図2】本発明のエキシマランプの製造方法にかかる説明用断面図である。
【図3】エキシマランプの実験結果である。
【図4】エキシマランプの実験結果である。
【図5】エキシマランプの実験結果である。
【図6】従来のエキシマランプの構成の概略を示す説明用断面図であって、(a)放電容器の管軸方向に沿った断面を示す断面図、(b)(a)におけるB−B’線断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 エキシマランプ
11 放電容器
12a 長辺面
12b 長辺面
13a 短辺面
13b 短辺面
14a 端面
14b 端面
15 電極
16 電極
17 光放出部
18 紫外線反射膜
AX 管軸
S 放電空間
50 エキシマランプ
51 放電容器
52 外側管
53 内側管
54 端面
55 電極
56 電極
57 光放出部
58 紫外線反射膜
S 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスよりなる放電容器の内壁に、シリカ粒子とアルミナ粒子よりなる紫外線散乱粒子により形成された紫外線反射膜を有するとともに、キセノンを含むガスを封入したエキシマランプにおいて、
前記紫外線反射膜のアルミナ濃度Y(vol%)と、該紫外線反射膜のシリカ粒子中のOH基濃度X(wt.ppm)は、Y≧13.7log(X)+1.2の関係を満たすことを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記紫外線反射膜のシリカ粒子の中心粒径RS(μm)と、アルミナ粒子の中心粒径RA(μm)は、RA/RS≧1の関係を満たすことを特徴とするエキシマランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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