説明

エクオール産生乳酸菌含有組成物

本発明は、ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する、ラクトコッカス属に属する乳酸菌を含有することを特徴とするエクオール産生乳酸菌含有組成物、並びに、ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に、上記乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法を提供する。上記乳酸菌としては、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)が包含される。
該組成物は、従来有効な予防法や緩和手段のなかった更年期障害を含む中高年女性の不定愁訴の予防乃至緩和に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、エクオール産生能を有する乳酸菌、該乳酸菌を含有する組成物および該乳酸菌を利用してエクオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
大豆中に含まれるイソフラボン(大豆イソフラボン)が、乳癌、前立腺癌などに対して予防効果(抗エストロゲン効果)を有すること、および更年期障害、閉経後の骨粗鬆症・高脂血症・高血圧などに対して改善効果(エストロゲン様効果)を有することは、主として欧米において、既に報告されてきている(H.Adlercreutz,et al.,(1992)Lancet,339,1233;H.Adlercreutz,et al.,(1992)Lancet,342,1209−1210;D.D.Baird,et al.,(1995)J.Clin.Endocrinol.Metab.,80,1685−1690;A.L.Murkies,et al.,(1995)Maturitas.,21,198−195;D.Agnusdei,et al.,(1995)Bone and Mineral.,19(Supple),S43−S48等参照)。
最近になって、大豆イソフラボンの臨床効果が疑問視され、該大豆イソフラボンに代って、大豆イソフラボンの活性代謝物であるエクオールが、臨床応用における有効性の鍵を握ると報告されている。即ち、乳癌、前立腺癌、更年期障害および閉経後の骨粗鬆症に対して、大豆イソフラボンよりもその代謝物であるエクオールのほうが有効である旨の報告が種々見出される(D.Ingram,et al.,(1997)Lancet,350,990−994;A.M.Duncan,et al.,(2000)Cancer Epidemiology,Biomarkers & Prevention,,581−586;C.Atkinson,et al.,(2002)J.Nutr.,32(3)595S;H.Akaza,et al.,(2002)Jpn.J,Clin.Oncol.,32(8),296−300;S.Uchiyama,.et al.,(2001)Ann.Nutr.Metab.,45,113(abs)等参照)。
2001年に開催されたシンポジウム(第4回International Symposium on the Role of Soy in Preventing and Treating Chronic Disease(San Diego,USA,2001))では、エクオールに関する演題が数多く見られ、2002年12月には、エクオールに関する総説が報告され、現在では、エクオールが大豆イソフラボンの有効性の本体であることが、学術的に支持されつつある(K.D.R.Settchell,et al.,(2002)J.Nutr.,132,3577−3584)。
エクオールは乳房組織、前立腺組織などの組織への移行性が、大豆イソフラボンと比較して非常に高く、このことからも、その生理的意義が裏付けられている(J.Maubach,et al.,(2003)J.Chromatography B.,784,137−144;T.E.Hedlund,et al.,(2003)The Prostate,154,68−78)。
また、エクオールは、腸内細菌によって生成され、その生成には個人差の存在することが報告されている。日本人のエクオール産生者の割合は約50%であることも報告されている(S.Uchiyama.,et al.,(2001)Ann.Nutr.Metab.,45,113(abs))。 エクオールを産生できないヒトは、エクオール産生菌が腸内に存在しないと推察される。このようなヒトの場合、大豆加工食品を摂取しても所望の抗エストロゲン効果、エストロゲン様効果は期待できないと考えられる。このようなヒトにおいて所望の効果を発現させるためには、エクオール産生菌を摂取させるか、エクオール自体を摂取させればよいと考えられる。
本発明者らは、上記の着想から研究を重ねた結果、先に、抗エストロゲン効果、エストロゲン様効果などを発揮させるためのエクオール産生菌として、ヒトの糞便からバクテロイデスE−23−15(FERM BP−6435号)、ストレプトコッカスE−23−17(FERM BP−6436号)およびストレプトコッカスA6G225(FERM BP−6437号)の3菌株を新たに単離・同定し、これらのエクオール産生菌およびその利用に係る発明を特許出願した(国際公開:WO99/07392)。
【発明の開示】
本発明者らは、引き続き研究を重ねた結果、先に単離・同定した微生物とは本質的に異なる新しい菌として、ダイゼイン配糖体、ダイゼインあるいはジヒドロダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を単離・同定するに成功した。本発明はこの乳酸菌の単離・同定を基礎として更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
本発明は、下記項1−13に記載の要旨の発明を提供する。
項1.ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を必須成分として含有することを待徴とするエクオール産生乳酸菌含有組成物。
項2.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である項1に記載の組成物。
項3.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス20−92である項2に記載の組成物。
項4.更に、ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む項1に記載の組成物。
項5.ダイゼイン類含有物質が大豆粉または豆乳である項4に記載の組成物。
項6.飲料または乳製品形態である項4に記載の組成物。
項7.更に、エクオールを含む項4に記載の組成物。
項8.豆乳発酵物形態である項7に記載の組成物。
項9.ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に、ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法。
項10.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である項9に記載の方法。
項11.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス20−92である項10に記載の方法。
項12.ダイゼイン類含有物質が大豆粉または豆乳である項9に記載の方法。
項13.FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス属に属する乳酸菌。
以下、本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物につき詳述する。
(1) ラクトコッカス属乳酸菌
本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有するラクトコッカス属の乳酸菌を必須成分として含有する。
該乳酸菌の具体例には、本発明者らがヒト糞便中より新たに単離・同定したラクトコッカス20−92(FERM BP−10036号)が包含される。
以下、この乳酸薗の菌学的性質につき詳述する。
I.培地上での発育状態
本菌株は、EG(Eggerth−Gagnon)寒天培地、BL(Blood Liver)寒天培地もしくはGAM(Gifu Anaerobic Medium)培地を用いてスチールウール加嫌気ジャーにより37℃、48時間、嫌気培養するかあるいは37℃、48時間、好気培養する際に、良好もしくは普通の生育を示す。その集落性状は、正円、凸円状に隆起し、表面・周縁とも平滑で、EG寒天培地上では灰白色、BL寒天培地上では茶褐色を呈する。菌形態は、グラム陽性の双球菌である。本菌株は芽胞を形成しない。
II.生化学的性質
(1) 至適発育温度: 37℃
(2) 発育至適pH: 7.0
(3) ゼラチンの液化: −
(4) ピルビン酸からのアセトイン産生: +
(5) 馬尿酸の加水分解: −
(6) エスクリンの加水分解: +
(7) ピロニドルアリルアミダーゼ: +
(8) α−ガラクトシダーゼ: −
(9) β−ガラクトシダーゼ: −
(10)β−グルクロニダーゼ: −
(11)アルカリフォスファターゼ: −
(12)ロイシンアリルアミダーゼ: +
(13)アルギニンジヒドラーゼ: +
(14)各炭素源の同化性:
D−リボース +
L−アラビノース −
D−マンニトール +
D−ソルビトール −
ラクトース −
D−トレハロース +
イヌリン −
D−ラフィノース −
スターチ +
グリコーゲン −
(15)ペプトンまたはグルコース資化後の有機酸組成:
糖資化性用培地であるPYF(ペプトン・イーストエクストラクトフィールド)養液(約5%ペプトン含有)およびPYF培養液にグルコースを最終濃度0.5%となるように添加したものを用いて、本菌株を好気的条件下で、37℃、72時間培養を行うことによって得られた培養物中の有機酸をHPLC法によって測定した。結果(単位:mM)を次の表1に示す。

以上の発育性状および生化学的性質の各点から、本菌株はグラム陽性球菌であるラクトコッカス・ガルビエ(Lacrococcus garvieae)に分類されるが、そのタイプストレイン(Schleifer,K.H.,Kraus,J.,Dvorak,C.,Kilpper−B▲a▼lz,R.,Collins,M.D.and Fischer,W.Transfer of Streptococcus lactis and related streptococci to the genus Lactococcus gen.nov.Syst.Appl.Microbiol.,6,183−195,1985;
ATCC43921(JCM10343)and ATCC49156(JCM8735))とは、スターチの資化性の点で異なっている。
従って、本発明者は本菌株をラクトコッカス20−92(Lactococcus20−92)と命名し、平成15年1月23に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号 中央6(郵便番号305−8566))に、FERM P−19189号として寄託した。この菌株は、現在、国際寄託に移管されており、その奇託番号は、FERM BP−10036である。
また、本菌株はグルコースを資化した後、乳酸(L型乳酸)を生成し、このことから、ホモ発酵の乳酸菌であることが確認された。
更に、本菌株の16SrRNAのシークエンスを解析した結果、該シークエンスはタイプストレインであるラクトコッカス・ガルビエ(JCM10343)と99.189%、エンテロコッカス・セリオリシダ(Enterococcus Seriolicida,JCM8735)と99.375%の相同性が確認された。
尚、上記エンテロコッカス・セリオリシダは、DNA−DNAホモロジーの結果、ラクトコッカス・ガルビエに近似することから1996年にラクトコッカス・ガルビエに再分類されている。従って、ラクトコッカス・ガルビエには、上述したようにその起源が異なるタイプストレインが2種類(JCM8753株および10343株)存在する。エンテロコッカス・セリオリシダ(JCM8735)は、感染したブリの腎臓を起源とし、本来のラクトコッカス・ガルビエ(JCM10343株)は牛乳房炎を起源とする。
ラクトコッカス20−92(Lactococcus20−92)がどちらのタイプストレインに近似するのかを検討するため、表現形質を比較した。その結果を次表2に示す。

表2から明らかなように、本菌株ラクトコッカス20−92は、表現形質がラクトコッカス・ガルビエのタイプストレイン(JMC10343)と一致したが、エンテロコッカス・セリオリシダのタイプストレイン(JMC8735)とは、40℃における生育性とキノンを産生しない点で異なった。従って、本菌株は、ラクトコッカス・ガルビエ(JCM10343株)に近似すると判断した。
本菌株ラクトコッカス20−92は、GRAS(米国FDA(食品医薬品局)による食品・食品添加物の安全性表示認可;Generally Recognized As Safe)収載の乳性乳酸球菌に分類されるものであり、その食品などとしての安全性は高いと考えられる。
尚、ラクトコッカス・ガルビエについてはこれまで人体に対する病原性についての報告はなく、トキシンなどの毒素産生もなく、安全性の高い菌種と考えられている。
また、ラクトコッカス・ガルビエは、従来、モッツァレラチーズ、生乳、低温保存中の肉加工食品、プラソーム(タイの魚発酵食品)、トーマピエモンテーゼチーズ(起原の名称によって保護されたイタリアの熟練工チーズ(PDO))などから検出されている。特に、プラーソムからは10個/g、トーマピエモンテーゼチーズからは10個/gという高いオーダーで検出される旨の報告もあり、食経験・食歴として十分な安全性を担保できるものである(P−M.Christine,et al.,(2002)Int.J.Food Microbiol.,73,61−70;M.G.Fortina,et al.,(2003),Food Microbial.,20,379−404)。
一方、エンテロコッカス・セリオリシダにはハマチなどの養殖魚において病原性があることが報告されている。このため、ラクトコッカス20−92もラクトコッカス・ガルビエであることから系統的にはエンテロコッカス・セリオリシダに類縁するものと考えられ、養殖魚に対する病原性の可能性が懸念されたが、本発明者の研究によれば、ラクトコッカス20−92の電顕像を病原性の菌株(エンテロコッカス・セリオリシダ−KG株)と比較した結果、本菌株は病原性菌株とは異なって菌体表面に莢膜が存在しないことが確認された。このことから、本菌株は病原性を有しておらず、環境汚染の問題もないと考えられる。このことは、以下の文献の記載からも支持される。即ち、ヨシダらは、養殖魚に対する菌体の病原性について、菌体表面に莢膜が存在するとマクロファージによる貪食が阻害され、その結果、該菌は殺菌されず、該菌に汚染された養殖魚では全身性の敗血症を誘発する旨記載している(T.Yoshida,et al.,(1996)Dis.Aquat.Org.,25,81−86)。
更に、本菌株ラクトコッカス20−92は、直接牛乳で発酵させる場合でも、所望のエクオール産生能(活性)を維持しており、このエクオール産生能の維持に、特殊な培地を必要とせず、例えば豆乳をそのまま発酵させることによって、該豆乳中のダイゼイン類を資化してエクオールを産生できる特徴を有している。
従来、このようなエクオール産生能を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌は報告された例がない。従って、本発明はかかるエクオール産生能を有する新しい乳酸菌をも提供するものである。
(2) ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質
本菌株ラクトコッカス20−92が資化するダイゼイン類には、ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインが含まれる。ダイゼイン配糖体の具体例としては、例えばダイジンを例示することができる。該ダイジンは、アグリコンとしてダイゼインを有するイソフラボン配糖体(ダイゼイン配糖体)である。該ダイジンの場合は、上記微生物により資化されて、ダイゼインを遊離し、該ダイゼインが更に資化されてジヒドロダイゼインとなり、それから最終的にエクオールが産生される。
本発明においては上記ダイゼイン類を基質として利用する。また、該基質としてはダイゼイン類に限らず、これを含有する各種の物質を利用することができる。該ダイゼイン類を含有する物質(ダイゼイン類含有物質)の代表例としては、大豆イソフラボンを例示することができる。大豆イソフラボンは、既に市販されており、本発明ではこのような市販品、例えばフジッコ社製「フジフラボンP10」(登録商標)などを利用することもできる。また、大豆イソフラボンに限らず、例えば葛、葛根、レッドクローブ、アルファルファなどの植物自体およびこれらを起源とするイソフラボン誘導体もまた、ダイゼイン類含有物質に含まれる。
更に、ダイゼイン類を含有する物質の他の具体例としては、上述した大豆、葛、葛根、レッドグローブ、アルファルファなどの食素材自体に加えて、それらの加工品、例えば大豆粉、煮大豆、豆腐、油揚げ、豆乳、大豆胚軸抽出物など、およびそれらの発酵調製物、例えば納豆、醤油、味噌、テンペ、発酵大豆飲料などを挙げることができる。これらはいずれもダイゼイン類を含有している。また、これらは、ダイゼイン類の他に、エストロゲン様作用を有するイソフラボン類、例えばゲニステインとその配糖体(ゲニスチンなど);グリシテインとその配糖体(グリシチンなど);ダイゼインおよびゲニステインの一部がメチル化された前駆体であるバイオチェインA(Biochain A)およびフォルモネチン(Formonetin)などを含有しており、本発明に好適に利用できる。
(3) 本発明組成物
(3−1)エクオール産生乳酸菌含有組成物
本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、上述したラクトコッカス20−92を初めとして、基質とするダイゼイン類またはダイゼイン類含有物質に作用してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を、必須成分として含有する。該必須成分としての乳酸菌は、生菌そのものであるのが一般的であるが、特にこれに限定されず、例えばその培養液、該培養液から単離された菌体を含む培養物の粗精製品乃至精製品、それらの凍結乾燥品などであってもよい。
上記微生物の培養液は、例えば代表的には、該微生物を、該微生物の培養に適した培地、例えばMRS培地などを用いて、37℃で48時間程度培養することにより得ることができる。また菌体は上記培養後に、例えば培養液を3000回転/分、4℃、10分間遠心分離して集菌することによって得ることができる。これらは常法に従い精製することができる。また、上記菌体は凍結乾燥することもできる。かくして得られる凍結乾燥菌体も本発明組成物の有効成分として利用することができる。
本発明組成物は、上記有効成分としての微生物(菌体など)を含んでいればよく、他に特に必要ではないが、所望により、上記有効成分としての微生物の維持(もしくは増殖)に適した栄養成分を含有させることもできる。該栄養成分の具体例としては、前述したように各微生物の培養のための栄養培地、例えばBHI,EG,BL,GAM培地などを挙げることができる。
その他の栄養成分としては、例えば乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクチュロース、ラクチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの各種オリゴ糖を例示できる。これらのオリゴ糖の配合量は、特に限定されるものではないが、通常本発明組成物中に1−3重量%程度となる量範囲から選ばれるのが好ましい。
上記本発明組成物はその摂取によって、摂取者の体内で所望のエクオール産生能を発揮する。一般に日本人はダイゼイン類を含む食品、代表的には前述した大豆などの食素材、それらの加工品、それらの発酵調製物などを食する習慣があり、従って、本発明組成物の摂取によれば、生体内でエクオールが産生される。
また、本発明組成物中には、必要に応じて、各種ビタミン類、微量金属元素などを適宜添加配合することもできる。該ビタミン類としては、例えばビタミンB、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK(特に納豆菌由来のMK−7(menaquinone−7))などを例示できる。微量金属元素としては、例えば亜鉛、セレン、鉄、マンガンなどを例示できる。
本発明組成物中に配合される微生物の量は、用いる乳酸菌の種類などに応じて適宜決定できる。例えばラクトコッカス20−92では、菌数(生菌数)が10〜10個/100g組成物前後となる量に調製されるのが好適である。該菌数の測定は、菌培養用の寒天培地に希釈した試料を塗布して37℃下、好気培養を行い、生育したコロニー数を計測することにより算出したものである。上記微生物の配合量は、上記量を目安として、調製される本発明組成物の形態などに応じて適宜変更することができる。
(3−2) ダイゼイン類を含有する本発明組成物
本発明組成物は、所望により、前述したダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種を更に含むことができる。このダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質の内では、特に大豆胚軸およびこれを原料として調製される食品素材が好ましく、その内でも水溶性もしくは乳化された食品素材はより好ましい。他の好ましいダイゼイン類含有物質の例としては、大豆粉または豆乳を挙げることができる。
この組成物は、組成物中に基質を含むことに基づいて、大豆など食素材を食する習慣のない人々にこれを摂取させる場合でも、生体内で組成物中の基質を微生物が資化することによって、所望のエクオールを産生することができる。
ダイゼイン類および/またはダイゼイン含有物質の組成物中への配合量は、特に制限はないが、通常日本人が一日当たりに摂取している量である10−25mg程度とするのが適当である。
(3−3) エクオール含有本発明組成物
本発明組成物は、更にエクオールを含むこともできる。
一般に、食品の嗜好性は、食品素材を例えば乳酸発酵させることによって改善される。また、本発明組成物に利用する微生物の代表例であるラクトコッカス20−92は、優れたエクオール産生能(活性)を有している。本発明では、例えば豆乳などのダイゼイン類含有物質に上記微生物を作用させて、豆乳中のダイゼイン類を資化させてエクオールを産生させてなる豆乳発酵物などのエクオールを含有する組成物をも提供する。
ここで、基質としては、前述した各種のダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質を利用することができる。これらの内でも、豆乳、大豆粉などから調製される溶液乃至乳化液は好ましい。
エクオール含有本発明組成物の好ましい一具体例としては、大豆イソフラボンまたはこれを含有する食素材を適当な培地に添加し、該培地中で本発明微生物、好ましくはラクトコッカス20−92を発酵させて得られる発酵産物を挙げることができる。ここで、発酵は、より詳しくは、例えば基質を溶液状態にして滅菌した後、本発明微生物の生育可能な栄養培地、例えばBHI,EG,BL,GAM培地など、もしくは食品として利用可能な牛乳、豆乳、野菜ジュースなどに所定量の本発明微生物を添加して、37℃下に、嫌気状態あるいは好気的静置状態で、48−96時間程度発酵(必要に応じてpH調節剤、還元物質(例えば酵母エキス、ビタミンKなど)を添加できる)させることにより実施できる。上記において基質量は0.01−0.5mg/mL程度とすることができ、微生物の接種量は約1−5%の範囲から選択することができる。
かくして、エクオール含有本発明組成物を製造できる。該組成物は、上述した発酵産物そのものの形態で、食品、医薬品などとして好適な製品とすることができる。また、得られる培養物からエクオールを常法に従い単離精製し、これに更に必要に応じて適当な他の食素材などを適宜配合して、適当な食品形態乃至医薬品形態に調製することもできる。
上記単離精製は、例えば、発酵培養物をイオン交換樹脂(DIAION HP20,三菱化成社製)に吸着させた後、メタノールで溶出させ、乾固する方法により実施できる。
本発明組成物中のエクオール量は、調製される食品形態及び医薬品形態に応じて決定され、特に限定されるものではないが、通常組成物全100g中にエクオールが2−5mg程度含有される量の範囲とするのが好ましい。
得られる本発明組成物がエクオールを含むことは、例えば、後述する試験例1に示す方法により確認することができる。
エクオール含有本発明組成物は、その有効成分とするエクオールが天然物であることから、安全性に優れており、また乳酸菌を用いて調製されたものであることに基づいて、その製造工程に由来する化学薬品などの混入のおそれもなく、更に高収率で且つ低生産コストであり、しかも食品としての風香味においても優れたものである利点がある。
(3−4) 食品形態
本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、一般には、前記特定の乳酸菌を必須成分として、適当な可食性担体と共に含む食品形態に調製される。
食品形態の本発明組成物の具体例としては、飲料形態、飲料形態以外の乳製品形態(発酵乳を含む)、固形食品形態、菌含有マイクロカプセル形態などを挙げることができる。飲料形態の本発明組成物には、乳酸菌飲料および乳酸菌入り飲料が包含される。
ここで「発酵乳」および「乳酸菌飲料」なる用語は、旧厚生省「乳及び乳製品の成分等に関する省令」第二条37「はつ酵乳」および38「乳酸菌飲料」の定義に従うものとする。即ち、「発酵乳」とは、乳または乳製品を乳酸菌または酵母で発酵させた糊状または液状にしたものをいう。従って該発酵乳には飲料形態と共にヨーグルト形態が包含される。また「乳酸菌飲料」とは、乳または乳製品を乳酸菌または酵母で発酵させた糊状または液状にしたものを主原料としてこれを水に薄めた飲料をいう。
乳酸菌入り飲料としては、発酵野菜飲料、発酵果実飲料および発酵豆乳飲料などを例示することができる。飲料形態以外の乳製品形態には、カード状形態、例えばヨーグルトなどが含まれる。固形食品形態には、顆粒、粉末(発酵乳凍結乾燥粉末などを含む)、錠剤、発泡製剤、ガム、グミ、プディングなどの形態が含まれる。
これら各形態への調製は、常法に従うことができる。またこれら各形態への調製に当たって用いられる担体は、可食性担体のいずれでもよい。特に、口当たりのよい味覚改善効果のある担体が好ましい。該口当たりのよい味覚改善効果のある担体の具体例としては、例えば人工甘味料、ソルビトール、キシリトールなどを例示することができる。他の好ましい担体としては、マスキング剤、例えばトレハロース(林原社製)、サイクロデキストリン、ベネコートBMI(花王社製)などを例示することができる。
食品形態の好ましい具体例である乳酸菌入り飲料につき詳述すれば、これらの飲料形態への調製は、微生物の栄養源を含む適当な発酵用原料物質、例えば野菜類、果実類、豆乳(大豆乳化液)などの液中で、微生物を培養して該原料物質を発酵させることによって行うことができる。発酵用原料物質としての野菜類および果実類には、各種野菜および果実の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁、酵素処理物、それらの希釈物および濃縮物が含まれる。野菜類には、カボチャ、ニンジン、トマト、ピーマン、セロリ、ホウレンソウ、有色サツマイモ、コーン、ビート、ケール、パセリ、キャベツ、ブロッコリーなどが含まれる。果実類にはリンゴ、モモ、バナナ、イチゴ、ブドウ、スイカ、オレンジ、ミカンなどが含まれる。
野菜および果実の切断物、破砕物および磨砕類は、例えば上記野菜類または果実類を洗浄後、必要に応じて熱湯に入れるなどのブランチング処理した後、クラッシャー、ミキサー、フードプロセッサー、パルパーフィッシャー、マイコロイダーなどを用いて切断、破砕、磨砕することによって得ることができる。搾汁は、例えばフィルタープレス、ジューサーミキサーなどを用いて調製することができる。また上記磨砕物を濾布などを用いて濾過することによっても搾汁を調製することができる。酵素処理物は、上記切断物、破砕物、磨砕物、搾汁などにセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロトペクチン分解酵素などを作用させることによって調製できる。希釈物には水で1−50倍に希釈したものが含まれる。濃縮物には、例えば凍結濃縮、減圧濃縮などの手段によって1−100倍に濃縮したものが含まれる。
発酵用原料物質の他の具体例である豆乳は、常法に従い、大豆原料から調製することができる。該豆乳には、例えば、脱皮大豆を水に浸漬後、コロイドミルなどの適当な粉砕機を用いて湿式粉砕処理後、常法に従いホモジナイズ処理した均質化液、水溶性大豆蛋白質を水中に溶解した溶解液なども包含される。
微生物を利用した発酵は、発酵用原料物質に本発明微生物を接種して、静置培養を行うことにより実施できる。培地には、必要に応じて本発明微生物の良好な生育のための発酵促進物質、例えばグルコース、澱粉、蔗糖、乳糖、デキストリン、ソルビトール、フラクトースなどの炭素源、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源、ビタミン類、ミネラル類などを加えることができる。
微生物の接種量は、一般には発酵用原料物質含有液1cc中に菌体が約1×10個以上、好ましくは1×10個前後含まれるものとなる量から選ばれるのが適当である。培養条件は、一般に、発酵温度20−40℃程度、好ましくは25−37℃程度、より好ましくは37℃、発酵時間8−24時間程度から選ばれる。
安定した発酵を行わせるために、予めスターターを用意し、これを発酵用原料物質に接種して発酵させる方法が推奨される。ここでスターターとしては、例えば代表的には予め90−121℃、5−20分間通常の殺菌処理を行った発酵用原料物質、酵母エキスを添加した10%脱脂粉乳などに、本発明菌体を接種して同様の条件で培養したものを挙げることができる。このようにして得られるスターターは、通常、本発明微生物を10−10個/g培養物程度含んでいる。
尚、上記の如くして得られる乳酸発酵物は、カード状形態(ヨーグルト様乃至プディング用形態)を有している場合があり、このものはそのまま食品として摂取することもできる。該カード状形態の乳酸発酵物は、これを更に均質化することにより、所望の飲料形態(例えば発酵豆乳飲料など)とすることができる。この均質化は、一般的な乳化機(ホモジナイザー)を用いて実施することができる。具体的には、該均質化は、例えばガウリン(GAULIN)社製高圧ホモジナイザー(LAB40)を用いて、約200−1000kgf/cm、好ましくは約300−800kgf/cmの条件で、或いは三和機械工業社製ホモジナイザー(品番:HA×4571,H20−A2など)を用いて、150kg/cmまたはそれ以上の条件で実施することができる。この均質化によって、優れた食感、とくに滑らかさを有する飲料製品、特に発酵豆乳飲料製品を得ることができる。尚、この均質化にあたっては、必要に応じて適当に希釈したり、pH調整のための有機酸類を添加したり、また、糖類、果汁、増粘剤、界面活性剤、香料などの飲料の製造に通常用いられる各種の添加剤を適宜添加することもできる。好ましい添加剤とその添加量(カード状発酵物重量に対する重量%)の一具体例としては、例えばグルコース8%(重量%、以下同じ)、砂糖8%、デキストリン8%、クエン酸0.1%、グリセリン脂肪酸エステル0.2%および香料0.1%を挙げることができる。
かくして得られる発酵豆乳飲料などの本発明乳酸菌飲料は、常法に従い適当な容器に無菌的に充填して製品とすることができる。該製品は、滑らかな喉ごしの食感および風味を有している。
その投与(摂取)量は、これを摂取する生体の年齢、性別、体重、疾患の程度などに応じて適宜決定され、特に限定されるものではない。一般には、微生物含量を10−10個/mLに調製した飲料製品を、一日当たり100−300mL程度服用させればよい。
食品形態の本発明組成物の他の具体例としては、発泡製剤形態のそれを挙げることができる。このものは、本発明微生物(菌体凍結乾燥物)0.01−50%(重量%、以下同じ)に、炭酸ナトリウムおよび(または)炭酸水素ナトリウム10−35%と中和剤20−70%とを発泡成分として配合することによって調製できる。ここで用いられる中和剤は、上記炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを中和させて炭酸ガスを発生させ得る酸性化合物である。該化合物には、例えば代表的にはL−酒石酸、クエン酸、フマル酸、アスコルビン酸などの有機酸が包含される。
上記発泡成分の本発明発泡製剤中への配合割合は、得られる本発明製剤を水に溶解させた場合に、溶液が酸性、特にpH約3.5−4.6程度の酸性を呈するものとなる割合とするのがよい。より具体的には上記割合は炭酸ナトリウムおよび(または)炭酸水素ナトリウム10−35%および中和剤20−70%の範囲から選択されるのがよい。特に炭酸ナトリウムは11−31%、好ましくは22−26%、炭酸水素ナトリウムは10−35%、好ましくは20−30%の範囲から選ばれるのがよい。その内でも炭酸水素ナトリウムを単独で20−25%の範囲で用いるのが最も好ましい。また中和剤は、20−70%、好ましくは30−40%の範囲から選択され、特にL−酒石酸を20−25%およびアスコルビン酸を8−15%の範囲内で使用するのが最も好ましい。
本発泡製剤は、本発明微生物および発泡成分を必須成分として、他に通常知られている各種の添加剤成分、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、表面活性剤、浸透圧調節剤、電解質、甘味料、香料、色素、pH調節剤などを必要に応じて適宜添加配合されていてもよい。上記添加剤としては、例えば小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、デキストリンなどの澱粉類;ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、キシロース、乳糖などの糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトールなどの糖アルコール類;カップリングシュガー、パラチノースなどの糖転位配糖体;リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの賦形剤;澱粉、糖類、ゼラチン、アラビアガム、デキストリン、メチルチセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、ペクチン、トラガントガム、カゼイン、アルギン酸などの結合剤乃至増粘剤;ロイシン、イソロイシン、L−バリン、シュガーエステル、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、マクロゴールなどの滑沢剤;結晶セルロース(旭化成社製「アビセル」)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、カルボキシメチルセルロースカリウム(CMC−Ca)などの崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、レシチンなどの表面活性剤;アスパラテーム、アリテームなどのジペプチド;その他ステビア、サッカリンなどの甘昧料などを例示できる。これらは必須成分との関係や製剤の性質、製造法などを考慮してその適当量を適宜選択して用いることができる。
更に、本発明発泡製剤中には、ビタミン類、特にシアノコバラミンやアスコルビン酸(ビタミンC)などの適当量を添加配合することができる。その配合割合は、特に限定はないが、通常ビタミンCでは30%までの量、好ましくは約5−25%の範囲から選ばれるのが好ましい。
本発明発泡製剤の製造法は、基本的には通常のこの種発泡錠剤の製造法と同様とすることができる。即ち、発泡錠剤形態の本発明製剤は、所定量の各成分を秤量、混合し、直接粉末圧縮法、乾式または湿式顆粒圧縮法などに従って調製することができる。
かくして得られる本発明製剤は、これを水中に投入するだけで、経口投与に適した飲料形態となり、これは経口投与される。
その投与(摂取)量は、これを適用すべき生体の年齢、性別、体重、疾患の程度などに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、一般には1錠約1.5−6.0gに調製された本発明発泡錠剤の1−2錠を1回に水100−300mLに溶かして服用させればよい。
本発明組成物における基質としてのダイゼイン類またはダイゼイン類含有物質、特定乳酸菌および必要に応じて添加配合されるその他の成分の特に好ましい混合比率は、本発明組成物100gに対して、ダイゼイン類またはダイゼイン類含有物質が、ダイゼイン換算で約10−50mgの範囲、乳酸菌が10〜1010個(生菌数として)およびオリゴ糖などが約1−5gの範囲とするのが望ましい。
尚、上記の通り、本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、微生物(主に生菌)を含有させるものであるため、該組成物の製品化に当たっては、加熱、加圧などの条件の採用はあまり好ましくない。従って、本発明組成物を例えばバー、顆粒、粉末、錠剤などの製品形態に調製するに当たっては、微生物を凍結乾燥菌体として直接処方するか、凍結乾燥菌体を適当なコーティング剤で加工して用いるのが好ましい。
だたし、本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、特に生菌を含有させることを必須とするものではない。生菌とこれが資化し得るダイゼイン類などとを配合した本発明組成物が、所望のエクオールを既に産生している場合には、該組成物はこれを常法に従って加熱滅菌処理して、該組成物中に存在する菌を死滅させてもよい。このような加熱滅菌処理の採用によれば、生菌とこれが資化し得るダイゼイン類などとを配合した本発明組成物の場合に、該組成物中に存在する生菌が、該組成物の保存中或いは流通過程で過剰発酵して、味、風味などを劣化させるおそれを回避できる場合もある。
(3−5) 医薬品形態
本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、一般には、前記特定の乳酸菌を必須成分として、これを適当な薬学的に許容される製剤担体と共に含む医薬製剤形態に調製される。
製剤担体としては、通常、この分野で使用されることの知られている充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤あるいは賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。
医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が選択できる。その代表的なものとしては錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤などが挙げられる。
錠剤の形態に成形するに際しては、上記製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウムなどの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドなどの界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤;グリセリン、デンプンなどの保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などを使用できる。
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
丸剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤;ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などを使用できる。
座剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライドなどを使用できる。カプセル剤は常法に従い通常本発明微生物を上記で例示した各種の製剤担体と混合して硬質カプセル、軟質カプセルなどに充填して調製される。
更に、本発明製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品を含有させることもできる。
本発明製剤中に含有されるべき本発明微生物の量は、特に限定されず広範囲より適宜選択される。通常、医薬製剤中に約10−1010個/g程度含有されるものとするのがよい。
上記医薬製剤の投与方法は特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、坐剤は直腸内投与される。
上記医薬製剤の投与量は、その用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などにより適宜選択されるが、通常有効成分である本発明微生物の量が1日当り体重1kg当り約0.5−20mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1−4回に分けて投与することができる。
尚、本発明組成物はその摂取(投与)によって、該組成物中の微生物が下部消化管に生きたまま到達、あるいは常在菌として定着でき、かくして所期の効果を奏し得る。特に好ましい製剤は、腸溶性錠剤形態であり、これによれば胃酸による侵襲を受けることなく微生物を腸に到達させることができる。
かくして得られる本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物は、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴われる、例えば骨粗鬆症、更年期障害などの症状の予防及び処置に有用である。かかる、予防及び処置は、これを要求される中高年女性に、上記本発明組成物の有効量を投与するか又は摂取させることにより実施される。該有効量は、本発明組成物の投与によって、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴われる、例えば骨粗鬆症、更年期障害などの症状の予防及び処置が可能である限り、特に限定されるものではないが、一般には、本発明組成物を摂取したヒトにおける尿中のエクオール排泄量が5μmole(約1.2mg)/日以上となる量を目安とすることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、試験例1に示す方法に従い求められた培養時間と生菌数との関連を示すグラフである。
図2は、試験例1に示す方法に従い求められた培養時間とエクオール産生能(スコア)との関連を示すグラフである。
図3は、試験例1に示す方法に従い求められた培養時間とエクオール産生量との関連を示すグラフである。
図4は、試験例2に示す方法に従い求められた培養物中のダイゼイン類およびエクオールの経時変化を示すグラフである。
図5は、試験例3に示す方法に従い求められた保存期間とエクオール産生能(スコア)との関連を示すグラフである。
図6は、試験例1−3に示す試験から求められた培養時間に伴われるエクオール産生菌の状態(増殖性、エクオール産生能およびエクオール産生量変化)を示すグラフである。
図7は、試験例4に示す方法に従い求められた培養時間と生菌数との関連を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に詳しく説明するため本発明エクオール産生乳酸菌含有組成物の調製例を実施例として挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
(1) 発酵豆乳飲料の調製
下記処方の各成分を秤量混合して、発酵豆乳飲料形態の本発明組成物を調製した。
水溶性大豆蛋白の発酵培養物 100mL
ビタミン・ミネラル 適量
香料 適量
水 適量
全量 150mL
上記水溶性大豆蛋白の発酵培養物は、水溶性大豆蛋白13gを水100mLに溶解したものに、ラクトコッカス20−92(FERM BP−10036)を10−10個加えて、37℃で24−48時間発酵させたものである。尚、利用した水溶性大豆蛋白はその1g中にダイゼイン類をダイゼイン換算量で1−2mg程度含んでいる。
(2) 発酵乳の調製
下記処方の各成分を秤量混合して、発酵乳形態の本発明組成物を調製した。
ラクトコッカス20−92発酵乳 100mL
ビタミン・ミネラル 適量
香料 適量
水 適量
全量 150mL
尚、ラクトコッカス20−92発酵乳は、牛乳1L(無脂乳固形分8.5%以上、乳脂肪分3.8%以上)にラクトコッカス20−92(FERM BP−10036)を10−10個を加えて、37℃で24−48時間発酵させたものである。
(3) 発酵豆乳凍結乾燥粉末の調製
ラクトコッカス20−92(FERM BP−10036)約10個を用いて、豆乳(大豆固形分含量10%、ダイゼイン含量:ダイゼイン換算量として10−15mg)100gを37℃で72−96時間乳酸発酵させて、エクオールを生成させた。これを凍結乾燥して粉末とした。粉末中のエクオール含量は、HPLC測定の結果0.1−0.3重量%であった。
上記粉末を用いて、下記処方の各成分を秤量混合して、粉末形態の本発明組成物(食品形態および医薬品形態)を調製した。
発酵豆乳凍結乾燥粉末 2.2g
(エクオール 0.005g含有)
賦形剤(コーンスターチ) 17g
ビタミン・ミネラル 適量
香料 適量
全量 20g
(4) 粉末の調製
下記処方の各成分を秤量混合して、粉末形態(食品形態および医薬品形態)の本発明組成物を調製した。
ラクトコッカス20−92凍結乾燥末 4.1g
賦形剤(乳糖) 1.0g
ビタミン・ミネラル 適量
香料 適量
全量 20g
ラクトコッカス20−92凍結乾燥粉末は、ラクトコッカス20−92(FERM BP−10036)を増殖可能な適当な液体培地(MRS)で培養(37℃、24−48時間)した後、集菌したものを10%スキムミルクに懸濁させた後、凍結乾燥することによって得られたものであり、その菌体含量は10−1010個/gである。
尚、上記粉末はこれに更に粗精製大豆イソフラボン末4.1gを配合することによってダイゼイン含有粉末とすることもできる。
かくして得られるダイゼイン含有粉末の摂取によれば、1日当たり約5μmole(約1.2mg)の尿中エクオール排泄量を観察することができ、従って、該排泄量に見合うエクオールを体内で産生できることが確認される。
(5) 顆粒の調製
下記処方の各成分を秤量混合して、顆粒形態(食品形態および医薬品形態)の本発明組成物を調製した。
粗精製大豆イソフラボン末 4.1g
ラクトコッカス20−92凍結乾燥末 1.0g
蔗糖酸エステル 適量
ビタミン・ミネラル 適量
香料 適量
全量 20g
尚、ラクトコッカス20−92凍結乾燥末としては、前記(1)と同一のものを用いた。
このものの摂取によれば、ダイゼインとエクオール産生菌とを一緒に大腸内に到達させることができ、かくして大腸内でエクオールを産生できる。
以下、本発明エクオール産生乳酸菌につき行われた試験例を挙げる。
試験例1
増殖性とエクオール産生能(活性)および生成量試験
(1) 試験方法
ラクトコッカス20−92株(10−10/g)をBHIブロス(増殖用液体培地(基礎培地))5mL中で嫌気的条件下、37℃で24時間培養した後、基礎培地で10および10に希釈して希釈液を調製した。
培養終了後の培養液およびその各希釈液のそれぞれ0.2mLずつを、ダイゼイン含有基礎培地(BHIブロスにダイゼインを10μg/mLとなる量で添加したもの)、牛乳および豆乳の各5mLと混合し、嫌気的条件下、37℃で培養した。培養時間は10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳では、8時間、24時間、48時間、72時間および96時間とし、牛乳では8時間、24時間および48時間とした。
培養開始前と各培養終了時点で、培養液0.1mLおよび0.2mLをサンプリングし、それぞれ菌数測定およびエクオール産生能(活性)測定に供した。更に、10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳については、培養開始前と各培養終了時点で培養液0.5mLをサンプリングして、該液中のエクオール産生量を測定した。
菌数測定は次の通り行った。即ち、各サンプル0.1mLをPBS(−)溶液(ニッスイ社製)で希釈して10、10、10および10希釈液を作成し、これら各希釈液の0.1mLをGAM寒天培地に塗布して、好気的条件下に37℃で24時間培養し、培地上に生育してくるコロニー数を計測して菌数とした。
エクオール産生能(活性)の測定は次の通り行った。即ち、各サンプル0.2mLをダイゼイン含有基礎培地5mL(各3本)と混合し、96時間、嫌気的条件下、37℃で培養し、培養終了後に各培養液0.5mLをサンプリングして、酢酸エチル5mLで2回抽出後、抽出液中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定し、また、それらの総量からエクオールの占める割合を算出した。得られた結果を下記5段階でスコア化し、3検体の平均スコアをエクオール産生能(活性)の指標とした。
4:90%以上エクオール、
3:エクオール生成、ダイゼインが50%未満に減少(中間体あり)、
2:エクオール生成、ダイゼイン50%以上が残存(中間体あり)、
1:中間体生成あり、エクオール生成なし
0:中間体およびエクオールの生成なし、ダイゼインの減少なし。
エクオール産生量測定は、次の通り行った。即ち各サンプル0.5mLを酢酸エチル5mLで2回抽出し、抽出液中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定した。各濃度を算出してエクオール産生量とした。
(2) 試験結果
(2−1) 菌数(増殖性)を調べた結果を図1に示す。
図中、(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果であり、(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸は生菌数(Log cfu/ml)を示す。
各図に示す結果より、本菌株の増殖性は良好であり、ダイゼイン含有基礎培地、豆乳および牛乳のいずれでも接種量の如何に関わらず培養8時間で定常状態に達した。菌数は、ダイゼイン含有基礎培地で109.1−9.4個/mLを維持し、豆乳では108.5−8.7個/mL、牛乳では108.0−8.4個/mLを維持することが判った。
(2−2) エクオール産生能(活性)を求めた結果を図2に示す。
図2において、(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果であり、(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸はスコアを示す。
該図に示される結果から、ダイゼイン含有基礎培地、豆乳および牛乳のいずれにおいてもエクオール産生能(活性)は経時的に増加する傾向が確認された。しかも、牛乳および豆乳を利用した場合でも、本菌株のエクオール産生能(活性)は維持されることが確認された。
(2−3) エクオール産生量測定結果
ダイゼイン含有基礎培地および豆乳(ダイゼイン換算量として約80μg/mL)中に産生されるエクオール量を測定した結果は、図3に示すとおりである。
図3において(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸はエクオール濃度(μg/ml)を示す。
両培地とも、培養開始後48時間目以降からエクオール産生を認めた。豆乳を利用した場合では、接種量の変化によるエクオール生成量の違いが観察され、特に4.00%接種によって培養96時間で57.0μg/mLの著量のエクオール生成が認められた。
豆乳中にはエクオールの基質となるダイゼインが90%以上配糖体(グルコースが結合した状態)で存在しているが、測定したクロマトグラム上には該配糖体のピークは消失していることから、本菌株は配糖体を分解し(β−グルコシダーゼ活性)てダイゼインを生成した後、該ダイゼインをエクオールに代謝するものと考えられる。
試験例2
ラクトコッカス20−92株によるエクオール生成経路
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株(10個/g)をBHIブロス(増殖用液体培地、基礎培地)5mLで嫌気的条件下、37℃で24時間培養したのち、培養液0.2mLをダイゼイン含有基礎培地5mLと混合し、嫌気的条件下、37℃で培養した。培養時間は8時間、24時間、30時間、36時間、48時間、51時間、54時間、60時間、84時間および96時間とした。
培養開始前と各培養終了時点で0.5mLサンプリングして、サンプル中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオール濃度を測定した。
(2)結果
得られた結果を図4に示す。
図4は、ダイゼイン(左図)、ジヒドロダイゼイン(中央図)およびエクオール(右図)のそれぞれの経時的濃度変化を示すものである。図中、横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸は各物質の濃度(μg/ml)を示す。
図4に示される結果から、培養後、48時間目にダイゼイン濃度が減少し始め、中間体であるジヒドロダイゼインが48−60時間で出現し、48時間目からエクオールが生成することが確認される。また、60時間目でダイゼインからエクオールへの代謝がほぼ終了することも判る。
ダイゼインからエクオールへの代謝は中間体としてジヒドロダイゼインを経由した形で起こっていることを確認できたが、ジヒドロダイゼイン生成とこれからエクオールへの代謝は並行して起こっていることが推察された。
試験例3
ラクトコッカス20−92株含有発酵乳の低温安定性
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株を増殖用液体培地(基礎培地)5mLで嫌気的条件下、37℃で24時間培養したのち、牛乳1L、2Lおよび市販のスキムミルク(10%固形分)1Lに4%接種し、好気的条件下、37℃で48時間静置培養した。培養後、4℃に保存した。
牛乳については、培養終了時および4℃低温保存後4週間まで毎週エクオール産生能(活性)を測定した。さらにその中から2本だけ42日目と51日目まで保存して活性を測定した。
スキムミルクについては、培養終了時および4℃低温保存後1週目と34日目に活性を測定した。
培養開始前と各保存時での活性は、前述の方法に準じて10μg/mlダイゼイン含有基礎培地5mL、3本にそれぞれ4%(0.2mL)接種し、96時間嫌気的条件下、37℃で培養したのち、培地中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオール濃度から判断(スコア化)した。
(2) 結果
結果を図5に示す。図5において横軸は保存期間(日)を示し、縦軸はスコアを示す。
図に示される結果から、牛乳については、1Lおよび2Lいずれにおいても培養終了後4℃低温保存下で4週間目までエクオール産生能(活性)が維持されることが明らかである。また、牛乳2Lでは4℃保存安定性を検討した51日目まで活性が維持されることが確認された。市販のスキムミルク1Lについても、培養終了後4℃低温保存下で検討した34日目まではエクオール産生能(活性)が維持されることが明らかである。
以上のことから、ラクトコッカス20−92株を用いて調製した発酵乳は低温保存下でも活性を維持できるため、食品として流通面からも対応可能と考えられる。
上記試験例1−3で得られた結果から、ラクトコッカス20−92株の増殖とエクオール産生能(活性)およびエクオール産生量との関係をまとめると、図6に示す通りである。
即ち、使用する培地によって培養条件は異なるものの、エクオール産生能(活性)は増殖期および定常期のいずれでも維持できる。一方、エクオール産生については定常状態以降ある程度時間が経過してから酵素が発現あるいは活性化してエクオールを生成するものと考えられる。
試験例4
ラクトコッカス20−92株を用いて調製した発酵乳の胃液耐性試験
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株を嫌気性菌増殖用液体培地(BHIブロス、基礎培地)5mL中で嫌気的条件下、37℃で24時間培養したのち、培養物(10個/g)を牛乳1Lに4%接種混合し、好気的条件下、37℃で48時間静置培養した。培養後、4℃に保存したものを発酵乳として、以下の試験に供した。
人工胃液として、0.045%ペプシンを含有する50mMグリシン・塩酸緩衝液(pH2.5およびpH3.0)を調製した。対照として50mMグリシン・塩酸緩衝液(pH6.0)を調製した。
調製された人工胃液9mLに、低温保存していた発酵乳を1mL添加し、混合物を37℃の恒温槽で好気的条件下、静置状態でインキュベーション(培養)した。
培養時間は1時間、2時間および3時間とし、培養開始前と各培養終了時点でそれぞれ培養物0.1mLおよび0.2mLをサンプリングし、各サンプルを菌数測定(0.1mLの場合)およびエクオール産生能(活性)測定(0.2mLの場合)に供した。
菌数測定は、前記試験例1−(1)に記載の方法に準じて培養後の培養物をそれぞれ0.1mL採取し、ニッスイ社製のPBS(−)溶液で10、10、10および10倍に希釈後、各希釈液0.1mLをGAM寒天培地に塗布して、好気的条件下37℃で24時間培養し、該GAM寒天培地上に生育したコロニー数を計測することにより求めた。
エクオール産生能(活性)の測定は、前記試験例1−(1)に記載の方法に準じて、ダイゼイン含有基礎培地5mL(3本)に、サンプル0.2mL(4%)を接種し、96時間嫌気的条件下、37℃で培養したのち、培地中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオール濃度から判断(スコア化)した。
(2)結果
得られた結果を、図7のA(生菌数測定結果)およびB(エクオール濃度)に示す。
図7−Aにおいて、横軸は培養時間(hr)であり、縦軸は生菌数(Log cfu/ml in milk)である。
図7−Bにおいて、横軸は培養時間(hr)であり、縦軸はエクオール活性(スコア)である。
図7−Aおよび7−Bに示される結果より、次のことが判る。即ち、生菌数はpH6.0の緩衝液では、3時間まで10個/mLを維持しており、この場合、エクオール産生能(活性)も維持していた。pH3.0の人工胃液中では生菌数は3時間培養まで維持でき、この場合、活性も維持される。一方、pH2.5の人工胃液では培養2時間目から生菌数の顕著な低下が観察され、活性も消失する。
一般に市場に出ているプロバイオティクス(生きて腸内に到達して生理作用を有する微生物)は、同様の試験系で検討した場合、生菌数はpH3.0では変化がないが、pH2.5では著しく低下することが報告されている。したがって、pH3.0の胃液耐性があれば、生きて通過できると考えられるため、ラクトコッカス20−92株を用いて調製した発酵乳は生きて腸内に到達し、小腸下部あるいは大腸内で活性を維持できると考えられる。
試験例5
ラクトコッカス20−92株の胆汁耐性試験
胆汁耐性試験は、バイテックGPIカード(日本ビオメリュー株式会社)を用いて、10%および40%胆汁中での本菌株の生育性を指標として判定した。
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株を5%羊血液加トリプケースソイ寒天培地に塗抹し(108−個)、37℃で24時間好気培養した。培養後の培地上に生育したコロニーを釣菌して、0.5%滅菌食塩水を用いて均質な懸濁液を調製した。これをバイテックGPIカードに入れ、35℃で15時間培養後に、本菌株の胆汁存在下における生育性を色素(pH指示薬)を用いて判定した。尚、胆汁は、所定量の胆汁粉末を滅菌蒸留水に溶解後、カードに注入しておいた。
(2)結果
上記試験の結果、ラクトコッカス20−92株は、10%および40%胆汁中で生育性を示した。このことから、40%胆汁までの耐性を確認した。
試験例6
ラクトコッカス20−92株の溶血性試験
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株を5%羊血液加トリプケースソイ寒天培地に塗抹し(108−個)、37℃で24〜48時間嫌気的条件下(N:CO:H=8:1:1)で培養した。培養後の培地上に生育したコロニーの周囲を観察し、血液成分の分解(脱色あるいは変色)により溶血性を判定した。
(2)結果
上記試験の結果、生育したコロニーの周囲で血液成分の脱色(透明で無色なゾーンの出現)は観察されなかったため、ラクトコッカス20−92株はβ溶血性がなく、この点で安全であると判定された。
試験例7
ラクトコッカス20−92株の細胞浸潤性酵素活性試験
摂取した乳酸菌が生体内へ侵入する場合としては、宿主側の要因として腸管膜の防御機能の低下あるいは膜自体の損傷が考えられる。細菌側の要因として脂質、蛋白を結合して、腸管膜を構成しているプロテオグリカンを分解する酵素活性(細胞浸潤性酵素)を有することが挙げられる。
この試験は、ラクトコッカス20−92株が細胞浸潤性酵素としてのコラゲナーゼ(ゼラチナーゼ)、ヒアルロニダーゼおよびシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)活性を有するか否かを検討するものであり、以下の通り実施した。
(1)試験方法
ラクトコッカス20−92株を血液加寒天培地に塗抹し(塗抹量:108−9個)、37℃で24〜48時間嫌気的条件下(N:CO:H=8:1:1)で培養した。
培養後の培地上に生育したコロニーを釣菌し、滅菌蒸留水に懸濁させて均質な懸濁液を調製した。得られた懸濁液について、アピケンキ(日本ビオメリュー株式会社)同定キットでゼラチンの分解を指標として、コラゲナーゼ(ゼラチナーゼ)活性の有無を判定した。
また、ラクトコッカス20−92株がヒアルロニダーゼおよびシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)活性を有するか否かの試験は、ヒアルロン酸およびシアル酸をそれぞれ基質とするトリス塩酸緩衝液(pH7.0)中でラクトコッカス20−92株をインキュベーション(37℃、好気的条件下でシアリダーゼ活性については15分間、ヒアルロニダーゼ活性については24時間)して、各基質濃度を低下させるか否かを測定することにより実施した。
(2)結果
ラクトコッカス20−92株は、コラゲナーゼ(ゼラチナーゼ)、ヒアルロニダーゼおよびシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)のいずれの活性も示さなかった。
したがって、本菌株は感染性の1要因である細胞浸潤性酵素を欠いているため、感染性の面からも安全性の高い菌であることが確認された。
試験例8
バンコマイシン耐性試験
細菌の抗生物質に耐性獲得(変異)が近年問題になってきている。このような抗生物質に対する耐性を獲得した細菌が感染した患者は、抗生物質による抗菌効果が得られないために死亡する場合が往々にして認められる。特に、抗生物質バンコマイシンに対する耐性菌(VRE)の出現が、現在、医療現場で深刻な問題となっている。また、体内に摂取される微生物がバンコマイシン耐性遺伝子を有する場合、該微生物が腸内に到達して定着し、毒性あるいは感染性の菌(病原菌)に接触すると、バンコマイシン耐性遺伝子が該病原菌に移り、かくして、病原菌がバンコマイシン耐性を獲得することが懸念される。このため、プロバイオティクスとして利用され得る生菌は、少なくとも該菌自体がバンコマイシン耐性菌ではないことが必要である。
この試験は、ラクトコッカス20−92株のバンコマイシンに対する感受性を検討したものであり、以下の通り実施された。
(1)試験方法
バンコマイシンに対する感受性の試験は、センシ・ディスク(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を使用して実施した。即ち、ラクトコッカス20−92株をGAM寒天培地に塗抹し(塗抹量:108−9個)、バンコマイシン30μgを含有させたディスクを培地上に置き、37℃で24時間好気培養した。培養後、ディスク周辺に形成された阻止円直径を測定し、判定表より判定した。
(2)結果
ラクトコッカス20−92株の阻止円直径は11.9±0.2mmであり、判定表より感性と判定された(10mm以上を感性と判定する)。この結果から、本菌株はバンコマイシン耐性菌ではなく、したがって、この点で安全性の高いことが確認された。
以下、本発明乳酸菌を利用してダイゼインからのエクオールの製造例を実施例2として挙げる。
【実施例2】
エクオールの製造
ラクトコッカス20−92株(FERM BP−10036)の10〜10個を嫌気性菌培養用のGAM培地に懸濁させた液1mlを調製し、該液を豆乳100g(固形分濃度約2.2%)に加え、嫌気的に、37℃下で72〜96時間培養し、培養液中に産生するエクオール量をHPLC法により測定した。尚、上記豆乳中のダイゼイン類含量は、ダイゼイン換算量として95μg/mLである。
その結果、得られた豆乳培養物中には、エクオール10.7±6.3μg/mL(3回の平均値±標準偏差)の生成が確認された。
このことから、本発明微生物の利用によれば、食品素材中のダイゼイン類からエクオールを効率よく且つ安価に製造できることが明らかである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を必須成分として含有することを特徴とするエクオール産生乳酸菌含有組成物。
【請求項2】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス20−92である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
更に、ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ダイゼイン類含有物質が大豆粉または豆乳である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
飲料または乳製品形態である請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
更に、エクオールを含む請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
豆乳発酵物形態である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に、ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法。
【請求項10】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス20−92である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ダイゼイン類含有物質が大豆粉または豆乳である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
FERM BP−10036号として寄託されたラクトコッカス属に属する乳酸菌。

【国際公開番号】WO2005/000042
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511140(P2005−511140)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009484
【国際出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】