説明

エコー・キャンセラ制御方法と装置。

【課題】エコー・キャンセラ動作が誤適応しエコーが大きくなった場合、有害なエコー信号と受信の対象である有効な受話信号の区別がつかなくなるブロッキング現象が発生する。ブロッキング現象が発生すると、エコー信号を受話信号と誤認し、エコー・キャンセラの再適応動作が進行しなくなる。
【解決手段】 エコー・キャンセラ制御部20が受話有音と判定し、適応フィルタ7の適応計算が停止しているときに、送話有音状態が続くと、結合量推定値が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。すなわち、送話有音状態が続いているにもかかわらず、適応計算が停止しているから、結合量は小さく、十分にエコー消去されていると誤判断してしまう場合がある。そこで、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるように制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー・キャンセラ制御方法と装置に関する。具体的には、音声通話装置において、回り込み経路が存在する系で発生するエコーを除去するための適応フィルタを用いた改良されたエコー・キャンセラの制御方法と装置を提供せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
音声通話装置において、通話音声の品質を劣化させる要因の1つに、送話者の音声が受話側に回り込み送話者に耳障りに聞こえるエコー現象がある。この現象に対する解決策として、一般に、エコー・キャンセラが用いられる。このエコー・キャンセラの動作について説明する。
【0003】
図7には、従来の回路構成が示されている。送話路入力端子1には送話信号xが印加される。送話信号xは適応フィルタ7およびエコー・キャンセラ制御部20Bに印加されて送話路出力端子2を介してハイブリッド回路である2線4線変換回路8により2線回線18側に出力される。2線回線18側からの信号は2線4線変換回路8により受話信号として受話路入力端子4に現れる。それと同時に、送話信号xの一部が2線4線変換回路8で回り込み、受話路入力端子4に現れる。受話信号yには、2線回線18側からの信号だけではなく、送話信号xの一部の回り込みも加算されたものとなって現れる。この回り込みによる送話信号xの成分が大きい場合には、送話者の声がエコーとなって送話者に戻ってくるから耳障りとなる。
【0004】
そこで、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を除去するために減算器9が用いられる。すなわち、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分を除去したならば、2線回線18側から送られてくる信号を得ることができる。この回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を擬似したものが擬似エコー信号y’である。擬似エコー信号y’は、送話信号xから適応フィルタ7によって作成される。仮に、擬似エコー信号y’が回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)にほぼ等しいならば、受話路出力端子5には、回り込み成分のほとんど無い誤差信号eが得られる。すなわち、誤差信号eは、2線回線18側から送られてくる信号に近似したものとなる。この場合には、いわゆるエコー現象は発生しない。
【0005】
この回り込み成分を適応フィルタ7において推定し、適応フィルタ制御信号29Bを適応フィルタ7に印加して最も適応した擬似エコー信号y’が作成される。エコー・キャンセラ制御部20Bには、電力計算器71、結合量測定器72および適応フィルタ制御器31Bが含まれている。電力計算器71は、送話信号x、受話信号yおよび誤差信号eのそれぞれの電力Px,PyおよびPeを算出し、電力計算値信号76として出力する。この電力計算値信号76を受けて、結合量測定器72は回り込み経路の結合量を測定する。すなわち、2線4線変換回路8における送話信号xのうちのどれだけが受話信号yに含まれているかを、送話信号電力Px,受話信号電力Pyおよび誤差信号電力Peを表す電力計算値信号76から測定して、結合量測定値信号78として出力する。
【0006】
適応フィルタ制御器31Bは、電力計算値信号76と結合量測定値信号78を受けて、適応フィルタ7で行われる適応計算の実行や停止を制御するための適応フィルタ制御信号29Bを出力する。適応フィルタ7は適応フィルタ制御信号29Bの指示を受けて送話信号xと誤差信号eから適応計算をし、擬似エコー信号y’を出力する。擬似エコー信号y’は減算器9に印加され、受話信号yから減算されてエコーを除去した誤差信号eが得られる。
【0007】
適応フィルタ7は、適応フィルタ制御信号29Bの指示により、回り込み経路のインパルス応答(回り込み経路伝達特性)の推定値を適応計算により算出し、この推定値と送話信号xとのたたみこみ演算を実行し、擬似エコー信号y’を生成する。適応フィルタ7における適応計算は、外乱によるフィルタ係数の乱れを防ぐため、送話有音かつ受話無音の、いわゆるシングル・トーク時のみにおいて実行されることが望ましい。
【0008】
そこで適応フィルタ制御器31Bでは、送話信号xの有音あるいは無音(送話信号電力Pxが所定値よりも大きいか否か)および受話信号yの有音あるいは無音(受話信号電力Pyが所定値よりも大きいか否か)を判定し、その結果を適応フィルタ制御信号29Bとして出力し、適応フィルタ7における適応計算の実行あるいは停止を制御している。この判定は、電力計算値信号76に含まれた送話信号電力Px,受話信号電力Pyおよび誤差信号電力Peを比較することにより行われる。
【0009】
適応フィルタ制御器31Bにおける受話有音あるいは送話無音判定について説明する。
(i) 受話有音判定
受話信号電力Pyが、所定の受話有音判定しきい値Pth1以上であるとき、すなわち、式(1)の条件を満たすときは、受話有音と判定する。
Py>Pth1 (1)
結合量測定値信号78から得た結合量推定値k1と送話信号電力Pxとを用いて推定した推定誤差信号電力estPe(=k1×Px)よりも実測した誤差信号電力Peが大きいとき、すなわち、式(2)の条件を満たすときは、受話有音と判定する。
Pe>k1×Px (2)
(ii) 送話無音判定
送話信号電力Pxが所定の送話有音判定しきい値Pth2以下であるとき、すなわち、式(3)の条件を満たすときは、送話無音と判定する。
Px<Pth2 (3)
【0010】
前記の式(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすときは、適応フィルタ制御器31Bは適応フィルタ制御信号29Bにより、適応フィルタ7における適応計算を中止する。いずれの条件も満たさないとき、すなわち、送話有音かつ受話無音の送話シングル・トーク時には、適応フィルタ制御器31Bは適応フィルタ制御信号29Bにより、適応フィルタ7における適応計算を実行させる。
【0011】
エコーの発生を防止するエコー・キャンセラ動作が未適応状態にあるときには、適応フィルタ7において積極的に適応計算を実行し、適応計算を進めてインパルス応答を速やかに収束させる必要がある。未適応状態にあるときには、送話信号xと誤差信号eとの間の結合が大きく、誤差信号eに含まれる送話信号xの成分が大きいと推定されるから、結合量推定値k1を大きく設定し、式(2)による受話有音判定の条件を厳しくし、適応計算を停止しないようにする。
【0012】
エコー・キャンセラ動作が十分に適応したら適応計算を停止してもよいが、十分なエコー消去性能を得るためには、誤適応(過適応)しない範囲で適応計算を継続し、インパルス応答の微修正を続けたほうがよい。しかし、適応計算を継続すると、収束したインパルス応答がダブル・トーク(送話者と受話者、あるいは、会議通話中の複数の話者が同時に発声すること)などによって乱れる可能性がある。そこで、ダブル・トーク時に適応計算を停止するために受話信号yの有音判定を正確に実行する必要がある。そこで、受話有音判定に用いる式(2)の結合量推定値k1は、推定値ではなく結合量測定器72により実測した結合量を用いる場合もある。
【0013】
結合量測定器72では、正確な結合量を測定するために、初めに受話信号電力Pyと誤差信号電力Peとの比較によりエコー消去量を測定し、十分なエコー消去量(受話信号電力Pyと誤差信号電力Peとの差が大きい)が得られているときに、送話信号電力Pxと誤差信号電力Peとを比較して結合量を測定する。結合量推定値k1は、測定した結合量にマージンを加えた値で更新される。
【0014】
特許文献1には、完全なスイッチングをすることなく同時通話(ダブル・トーク)を可能とし、かつ特定話者の通話路に損失量が傾くことのないボイス・スイッチを設け、増幅量を大きくとれる電話会議装置が開示されている。
特許文献2には、各種の通話状態をノイズの存在に拘わらず高精度に判定でき、エコー・キャンセル精度を向上できるエコー・キャンセラが開示されている。そこでは、送話信号線上の信号の自己相関に基づいてダブル・トーク状態などを検出している。
【0015】
特許文献3には、指向性マイクロフォンを使用せず、ノイズの発生場所による影響を受けないエコー・キャンセラが開示されている。そこでは、受話状態またはダブル・トーク状態のときに残差信号eの誤差を推定し、誤差を最小にするようにフィルタ係数を最適に更新制御している。
【特許文献1】特開平6-189004号公報
【特許文献2】特開平6-13940号公報
【特許文献3】特開平6-22025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
受話信号電力Py、誤差信号電力Peおよび送話信号電力Pxの比較では、送話信号および受話信号の有音か無音かの絶対的な判定はできない。インパルス応答が一応収束した時点で、さらに修正係数を小さくして適応計算し、インパルス応答の変化を小さくしたとしても、適応計算を継続している限り、ダブル・トークが継続した場合には、誤適応は避けられないという問題点があった。
【0017】
エコー・キャンセラ動作が誤適応しエコーが大きくなった場合、式(2)による受話有音判定では、インパルス応答が十分収束し、結合量が極めて小さいときの結合量推定値k1を用いているため、送話信号電力Pxから推定した誤差信号電力estPeよりも実測した誤差信号電力Peの方が大きくなり、有害なエコー信号と受信の対象である有効な受話信号の区別がつかなくなるブロッキング現象が発生する。ブロッキング現象が発生すると、エコー信号を受話信号と誤認し、受話有音と誤判定してしまう場合が発生する。受話有音の場合には適応計算が停止し、誤適応してしまったエコー・キャンセラの再適応動作が進行しなくなり、通話不能となる解決されなければならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
式(2)により受話有音と判定し適応計算が停止しているときに、送話有音状態が続くと、結合量推定値k1が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。すなわち、送話有音状態が続いているにもかかわらず、適応計算が停止しているから、結合量は小さく、十分にエコー消去されていると誤判断してしまう場合がある。この事態を避けるために、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値k1を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるように回路構成した。
【0019】
受話有音と判定されている最中に送話有音となるのは、ダブル・トーク状態かあるいはブロッキング現象が発生している場合である。ダブル・トーク(送話者と受話者、あるいは、会議通話中の複数の話者が同時に発声する)状態は、一般に長時間継続することはないと考えられるから、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定されることが何回か発生するならばブロッキング現象が発生している可能性が大きいものと判断し、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定される事態が発生するごとに結合量推定値k1を徐々に大きくし、受話音の判定を徐々に厳しくして、適応計算を継続するような構成にした。
【0020】
ダブル・トーク状態で受話有音かつ送話有音と判定された場合は、結合量推定値k1を徐々に大きくすることにより適応計算が実行されるから、その過程でエコー・キャンセラの誤適応動作が発生することもあるが、ダブル・トーク状態が解消して送話シングル・トーク状態になったときに、誤適応により一時的にエコーが大きくなる場合が発生したとしても、結合量推定値k1も大きいために、ブロッキング現象は発生せず速やかに再適応する。ブロッキング現象が発生して、受話有音かつ送話有音と判定されても、結合量推定値k1が最適な値に達すると再適応する。
【0021】
適応動作の初期において、結合量推定値k1を推定値から実測値に更新する過程では、エコー消去状態に応じて結合量推定値k1を徐々に小さくし、十分なエコー消去量が得られた後、実測値を採用することも可能である。結合量推定値k1を徐々に小さくしていく過程で各種電力値のゆらぎによりエコー消去量が実際よりも大きく算出されることで結合量推定値k1が一時的に小さくなり過ぎることもあり得るが、この場合も、結合量推定値k1は徐々に大きくなり、最適な値に達して再適応する。
【発明の効果】
【0022】
エコーが十分に消去されている状態における結合量を用いた受話有音検出では、ダブル・トークなどで誤適応してエコーが大きくなってブロッキング現象を起こしてしまう。一旦ブロッキング現象を起こしてしまうと、エコー信号と受話信号の区別がつかなくなり、送話信号の回り込み成分のみを検出することができず、再適応動作は困難となる。そこで本発明では、ブロッキング現象の発生を推測し、受話有音検出に用いる結合量を徐々に大きくして結合量の最適値を求め、ブロッキング現象を抑えてエコー・キャンセラを速やかに再適応させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
受話有音と判定し適応計算が停止しているときに、送話有音状態が続くと、結合量推定値k1が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。そこで、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値k1を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるようにした。受話有音と判定されている最中に送話有音となるのは、ダブル・トーク状態かあるいはブロッキング現象が発生している場合である。ダブル・トーク状態は、一般に長時間は継続する事はないと考えられるから、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定されることが何回か発生するならばブロッキング現象が発生している可能性が大きいものと判断し、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定される事態が発生するごとに結合量推定値k1を徐々に大きくし、受話音の判定を徐々に厳しくして、適応計算を継続するような構成にした。
【0024】
ダブル・トーク状態で受話有音かつ送話有音と判定された場合は、結合量推定値k1を徐々に大きくすることにより適応計算が実行されるから、その過程でエコー・キャンセラの誤適応動作が発生することもあるが、ダブル・トーク状態が解消して送話シングル・トーク状態になったときに、誤適応により一時的にエコーが大きくなる場合が発生したとしても、結合量推定値k1も大きいために、ブロッキング現象は発生せず速やかに再適応する。ブロッキング現象が発生して、受話有音かつ送話有音と判定されても、結合量推定値k1が徐々に大きくなり、最適な値に達すると再適応する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本願発明の実施例1の回路構成を示している。ここで、図7に示した従来例に対応する要素については対応する記号を付した。送話路入力端子1には送話信号xが印加される。送話信号xは適応フィルタ7およびエコー・キャンセラ制御部20に印加されて送話路出力端子2を介してハイブリッド回路である2線4線変換回路8により2線回線18側に出力される。2線回線18側からの信号は2線4線変換回路8により受話信号として受話路入力端子4に現れる。それと同時に、送話信号xの一部が2線4線変換回路8で回り込み受話路入力端子4に現れる。受話信号yには、2線回線18側からの信号に送話信号xの一部の回り込みも加算されたものとなって現れる。この回り込みによる送話信号xの成分が大きい場合には、送話者の声がエコーとなって送話者に戻ってくるから耳障りとなる。
【0026】
そこで、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を除去するために減算器9が用いられる。すなわち、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分を除去したならば、2線回線18側から送られてくる信号を得ることができる。この回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を擬似したものが擬似エコー信号y’である。擬似エコー信号y’は、送話信号xから適応フィルタ7によって作成される。適応フィルタ7は、送話信号xと誤差信号eを受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号29の指示で適応計算してエコーを打ち消すための擬似エコー信号y’を作成している。
【0027】
仮に、擬似エコー信号y’が回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)にほぼ等しいならば、受話路出力端子5には、回り込み成分のほとんど無い誤差信号eが得られる。すなわち、受話有音時の誤差信号eは、2線回線18側から送られてくる信号に近似したものとなる。この場合には、いわゆるエコー現象は発生しない。この回り込み成分を適応フィルタ7において推定し、適応フィルタ制御信号29を適応フィルタ7に印加して最も適応した擬似エコー信号y’が作成される。
【0028】
図2には、図1の重要な構成要素であるエコー・キャンセラ制御部20の内部の詳細な回路構成を示している。送話有無判定器32は、送話信号xの電力Pxを所定の送話有音判定しきい値Pth2と比較して、送話信号xの電力Pxが所定の送話有音判定しきい値Pth2よりも小さい場合に(Px<Pth2)送話無音、大きい場合に送話有音と判定して送話有無判定信号52を適応フィルタ制御器31およびブロッキング回避器34に対して出力する。
【0029】
受話有無判定器33は、送話信号x、結合量推定値信号k1、誤差信号eを受けて受話信号yの有無を判定して受話有無判定信号53を適応フィルタ制御器31およびブロッキング回避器34に対して出力する。ブロッキング回避器34は、送話有無判定信号52および受話有無判定信号53とを受けて、強いエコーを受話有音と誤判定するブロッキング現象を回避するための受話有音回避指示信号54を結合量推定器37に対して出力する。ここで受話有音回避指示信号54は、適応フィルタ7における適応計算が有効ではなくなる(誤適応、又は、適応はずれする)場合を示している。
【0030】
エコー消去状態判定器35は、受話信号yの電力Pyと誤差信号eの電力Peを比較してエコー消去状態を判定し、エコー消去状態判定信号55を結合量推定器36に対して出力している。結合量測定器36は、エコー消去状態と判定されたときの送話信号xと誤差信号eの結合量を測定して、結合量測定値信号56を結合量推定器37に対して出力している。結合量推定器37は、結合量測定値信号56により示された測定された結合量から、受話有音回避指示信号54の内容を配慮して結合量推定値k1を求めて、結合量推定値信号k1として受話有無判定器33に対して出力する。
【0031】
適応フィルタ制御器31は、送話有無判定信号52および受話有無判定信号53を受けて、送話有無判定信号52が送話有音を、受話有無判定信号53が受話無音を同時に示している期間において適応フィルタ7における適応計算をするように指示する適応フィルタ制御信号29を出力する。
【0032】
図3には、図2の構成要素である受話有無判定器33の内部の詳細な回路構成を示している。そこには、誤差信号推定器42および受話有無推定器43が含まれている。誤差信号推定器42は送話信号xと結合量推定値信号k1を受けて、送話信号電力Pxと結合量推定値k1との積である受話推定積(k1×Px)を誤差推定値(estPe)として誤差推定信号47により受話有無推定器43に対して出力している。ここで、
estPe=(k1×Px)
である。
【0033】
受話有無推定器43は、誤差推定信号47の誤差推定値estPeと誤差信号eの電力Peを比較して、受話有音中の適応動作を回避するべく、誤差信号eの電力Peが誤差推定値estPeよりも大きいとき(Pe>estPe)受話有音と推定し、誤差信号eの電力Peが誤差推定値estPeよりも大きくはないとき(Pe≦estPe)受話無音と推定して、受話有無判定信号53を適応フィルタ制御器31に対して出力する。
【0034】
図4ないし図6には、図1ないし図3に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートが示されている。動作を開始すると、式(1)を用いて受話信号電力Pyがしきい値以下であることの判定を受話有無判定器33において行う(S1、図4)。受話信号電力Pyがしきい値以下であれば(S1Y)、式(2)を用いて受話有音かそれとも受話信号が無いかの判定をする。受話信号が無ければ(S2N)、式(3)を用いて送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以上であるか否かの判定を送話有無判定器32において行う(S3)。
【0035】
送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以上でなければ(Px<Pth2)(S3N)、送話無音状態であるから送話有無判定器32は送話有無判定信号52により適応フィルタ制御器31に通知し、適応フィルタ7における適応計算を停止させて、適応計算は終了する(S4)。 送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以上ならば(Px≧Pth2)(S3Y)、受話無音かつ送話有音の、いわゆるシングル・トーク状態にあるので、適応フィルタ制御器31は適応フィルタ7に指示して適応計算を実行させる(S5)。
【0036】
つぎに、エコー消去量が消去量基準値k2以上であるか否かの判定をエコー消去状態判定器35において実行する(S6、図5)。この判定は、受話信号yの電力Pyと誤差信号eの電力Peの比を算出して、それが消去量基準値k2以上であるか否かを式(4)により調べる。
Py/Pe>k2 (4)
式(4)を満足している場合は、エコー消去量が十分であることを示している。すなわち、受話無音(S2N)で、かつ送話有音の状態(S3Y)であるから、受話信号yと擬似エコー信号y’との差である誤差信号eは小さな値になっているから、式(4)を満足する。
【0037】
エコー消去量が消去量基準値k2以上得られている場合は(S6Y)、そのエコー消去量が一定時間継続したか否かの判定を行う(S7)。エコー消去量が消去量基準値k2以上得られていない場合(S6N)およびエコー消去量が一定時間継続しなかった場合は(S7N)、消去量基準値k2の更新は行われず終了する。エコー消去量が一定時間継続した場合は(S7Y)、現在の消去量基準値k2が消去量最終値k2endより小さいか否かを判定する(S8)。現在の消去量基準値k2が消去量最終値k2endより小さい場合は(S8Y)、現在の消去量基準値k2を6dB上げる。ただし、k2の値を消去量最終値k2endより小さい値にとどめる(S9)。つぎに、結合量推定値k1を6dB下げる。ただし、k1の値を結合量最終値k1endより小さい値にはしないで(S10)終了する。
【0038】
ステップ8で、消去量基準値k2が消去量最終値k2endに達している場合には(S8N)、エコー消去状態判定器35から出されるエコー消去状態判定信号55を受けて、結合量測定器36が結合量ERLを測定して結合量測定値信号56を出力する(S11)。結合量ERLは、誤差信号eの電力Peと送話信号xの電力Pxで式(5)のように算出する。
ERL=Pe/Px (5)
さらに、結合量測定値信号56を結合量推定器37が受けて、結合量ERLの値にマージン−6dBを加えて、式(6)のように結合量推定値k1を更新して(S12)終了する。
k1=ERL−6dB (6)
【0039】
ステップS1において、受話信号電力Pyがしきい値以下でない場合は(S1N)、受話有音の状態にあるから適応計算を停止して動作を終了する(S16、図6)。ステップS2において、受話有音の場合には(S2Y)、送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth3以上か否かの判定を実行する(S13、図6)。送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth3以上の場合は(S13Y)、この送話有音が一定時間継続したか否かを調べる(S14)。送話有音が一定時間継続した場合には(S14Y)、ブロッキング現象が発生している可能性があるので、結合量推定値k1を6dB上げる。ただし、k1の値を初期値以上の値にはしない(S15)。
【0040】
ステップS15の動作が終わったとき、ステップS13で送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth3以上ではなかった場合(S13N)、およびステップS14で送話有音が一定時間継続しなかった場合には(S14N)、受話有音の状態にあるから適応計算を停止して、動作を終了する(S16)。
【0041】
本実施例で使用した、各種の所定値、しきい値、継続時間、継続回数、結合量推定値k1、および基準値k2の変化量(実施例では6dB)、初期値および最終値などの各種パラメータは、例示したものに限定されず、通話系の状態によって最も適した値を選ぶことができることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願発明の実施例を示した回路構成図である。(実施例1)
【図2】図1の重要な構成要素であるエコー・キャンセラ制御部の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図3】図2の構成要素である受話有無判定器の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図4】図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図5】図4とともに図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図6】図4および図5とともに図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図7】従来の実施例の回路構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1 送話路入力端子
2 送話路出力端子
4 受話路入力端子
5 受話路出力端子
7 適応フィルタ
8 2線4線変換回路
9 減算器
18 2線回線
20,20B エコー・キャンセラ制御部
29,29B 適応フィルタ制御信号
31,31B 適応フィルタ制御器
32 送話有無判定器
33 受話有無判定器
34 ブロッキング回避器
35 エコー消去状態判定器
36 結合量測定器
37 結合量推定器
42 誤差信号推定器
43 受話有無推定器
47 誤差推定信号
52 送話有無判定信号
53 受話有無判定信号
54 受話有音回避指示信号
55 エコー消去状態判定信号
56 結合量測定値信号
71 電力計算器
72 結合量測定器
76 電力計算値信号
78 結合量測定値信号
e 誤差信号
estPe 推定誤差信号電力
k1 結合量推定値信号
x 送話信号
y 受話信号
y’ 擬似エコー信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送話信号(x)が、受話信号(y)に回り込みエコーとなり得る系で、前記送話信号(x)と誤差信号(e)を受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号(29)の指示で適応計算して前記エコーを打ち消すための擬似エコー信号(y’)を作成するための適応フィルタ処理(7)をし、
前記受話信号(y)から前記擬似エコー信号(y’)を減算して前記誤差信号(e)を得るための減算処理(9)をし、
前記送話信号(x)の電力(Px)を所定の送話有音判定しきい値(Pth2)と比較して、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さい場合に送話無音と判定し、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも大きい場合に送話有音と判定して、送話有無判定信号(52)を出力するための送話有無判定処理(32)をし、
前記送話信号(x)の電力(Px)と結合量推定値(k1)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)から前記受話信号(y)の有無を判定して、受話有音および受話無音の各状態を表す受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無判定処理(33)をし、
前記受話信号(y)の電力(Py)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)を比較してエコー消去状態を判定するためのエコー消去状態判定処理(35)をし、
前記エコー消去状態と判定されたときの前記送話信号(x)と前記誤差信号(e)の結合量を測定するための結合量測定処理(36)をし、
前記測定された結合量(56)および前記受話有音中に前記送話有音となった状態を示す受話有音回避指示信号(54)を受けて前記結合量推定値(k1)を求めるための結合量推定処理(37)をし、
前記送話有音と前記受話有音が一定時間以上継続したときに前記適応フィルタ処理(7)における適応計算が有効ではなくなったとして、強いエコーを受話有音と誤判定するブロッキング現象を回避するための前記受話有音回避指示信号(54)を出力するブロッキング回避処理(34)をし、
前記送話有無判定信号(52)および前記受話有無判定信号(53)を受けて、前記送話有無判定信号(52)が送話有音を、前記受話有無判定信号(53)が受話無音を同時に示している期間において前記適応計算をするように指示する前記適応フィルタ制御信号(29)を出力するための適応フィルタ制御処理(31)をする
エコー・キャンセラ制御方法。
【請求項2】
前記受話有無判定処理(33)において、
前記送話信号(x)の電力(Px)と前記結合量推定値(k1)との積である受話推定積(k1×Px)を誤差推定値(estPe)として誤差推定信号(47)により出力するための誤差信号推定処理(42)をし、
前記誤差推定信号(47)の誤差推定値(estPe)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)を比較して、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が前記誤差推定値(estPe)よりも大きいとき(Pe>estPe)受話有音と推定し、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が前記誤差推定値(estPe)よりも大きくはないとき(Pe≦estPe)受話無音と推定して、前記受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無推定処理(43)をする
請求項1のエコー・キャンセラ制御方法。
【請求項3】
前記結合量推定処理(37)において、
前記受話有音回避指示信号(54)を受けて、前記送話有音の状態が一定時間以上続いたときには、前記結合量推定値(k1)を徐々に大きくする
請求項1のエコー・キャンセラ制御方法。
【請求項4】
送話信号(x)が、受話信号(y)に回り込みエコーとなり得る系で、前記送話信号(x)と誤差信号(e)を受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号(29)の指示で適応計算して前記エコーを打ち消すための擬似エコー信号(y’)を作成するための適応フィルタ手段(7)と、
前記受話信号(y)から前記擬似エコー信号(y’)を減算して前記誤差信号(e)を得るための減算手段(9)と、
前記送話信号(x)の電力(Px)を所定の送話有音判定しきい値(Pth2)と比較して、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さい場合に送話無音と判定し、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも大きい場合に送話有音と判定して、送話有無判定信号(52)を出力するための送話有無判定手段(32)と、
前記送話信号(x)の電力(Px)と結合量推定値(k1)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)から前記受話信号(y)の有無を判定して、受話有音および受話無音の各状態を表す受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無判定手段(33)と、
前記受話信号(y)の電力(Py)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)を比較してエコー消去状態を判定するためのエコー消去状態判定手段(35)と、
前記エコー消去状態と判定されたときの前記送話信号(x)と前記誤差信号(e)の結合量を測定するための結合量測定手段(36)と、
前記測定された結合量(56)および前記受話有音中に前記送話有音となった状態を示す受話有音回避指示信号(54)を受けて前記結合量推定値(k1)を求めるための結合量推定手段(37)をし、
前記送話有音と前記受話有音が一定時間以上継続したときに前記適応フィルタ手段(7)における適応計算が有効ではなくなったとして、強いエコーを受話有音と誤判定するブロッキング現象を回避するための前記受話有音回避指示信号(54)を出力するブロッキング回避手段(34)と、
前記送話有無判定信号(52)および前記受話有無判定信号(53)を受けて、前記送話有無判定信号(52)が送話有音を、前記受話有無判定信号(53)が受話無音を同時に示している期間において前記適応計算をするように指示する前記適応フィルタ制御信号(29)を出力するための適応フィルタ制御手段(31)とを含む
エコー・キャンセラ制御装置。
【請求項5】
前記受話有無判定手段(33)が、
前記送話信号(x)の電力(Px)と前記結合量推定値(k1)との積である受話推定積(k1×Px)を誤差推定値(estPe)として誤差推定信号(47)により出力するための誤差信号推定手段(42)と、
前記誤差推定信号(47)の誤差推定値(estPe)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)を比較して、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が前記誤差推定値(estPe)よりも大きいとき(Pe>estPe)受話有音と推定し、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が前記誤差推定値(estPe)よりも大きくはないとき(Pe≦estPe)受話無音と推定して、前記受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無推定手段(43)とを含む
請求項4のエコー・キャンセラ制御装置。
【請求項6】
前記結合量推定手段(37)が、
前記受話有音回避指示信号(54)を受けて、前記送話有音の状態が一定時間以上続いたときには、前記結合量推定値(k1)を徐々に大きくする
請求項4のエコー・キャンセラ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−108826(P2006−108826A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289454(P2004−289454)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】