説明

エコー・キャンセラ制御方法と装置。

【課題】適応フィルタ7の適応速度が急速であると、エコー・キャンセラ動作が誤適応しやすく、エコーが大きくなった場合、有害なエコー信号と有効な受話信号の区別がつかず、ブロッキング現象が発生する。その現象によりエコーを受話信号と誤認し、再適応動作が進行しなくなり動作不安定となる。適応速度を緩やかにすると、動作は安定にはなるが、適応動作の収束までに時間がかかる。短時間に安定に適応動作の収束を得ること。
【解決手段】適応フィルタ7の適応収束速度を減速と加速に分け、適応動作の初期においては適応速度を加速して急速にし、収束するにしたがい適応速度を減速して緩やかに収束するように制御した。再適応動作の初期には適応速度を加速し、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるように制御することにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー・キャンセラ制御方法と装置に関する。具体的には、音声通話装置において、回り込み経路が存在する系で発生するエコーを除去するための適応フィルタを用いた改良されたエコー・キャンセラの制御方法と装置を提供せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
音声通話装置において、通話音声の品質を劣化させる要因の1つに、送話者の音声が受話側に回り込み送話者に耳障りに聞こえるエコー現象がある。この現象に対する解決策として、一般に、エコー・キャンセラが用いられる。このエコー・キャンセラの動作について説明する。
【0003】
図12には、従来の回路構成が示されている。送話路入力端子1には送話信号xが印加される。送話信号xは適応フィルタ7Bおよびエコー・キャンセラ制御部20Bに印加されて送話路出力端子2を介してハイブリッド回路である2線4線変換回路8により2線回線18側に出力される。2線回線18側からの信号は2線4線変換回路8により受話信号として受話路入力端子4に現れる。それと同時に、送話信号xの一部が2線4線変換回路8で回り込み、受話路入力端子4に現れる。受話信号yには、2線回線18側からの信号だけではなく、送話信号xの一部の回り込みも加算されたものとなって現れる。この回り込みによる送話信号xの成分が大きい場合には、送話者の声がエコーとなって送話者に戻ってくるから耳障りとなる。
【0004】
そこで、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を除去するために減算器9が用いられる。すなわち、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分を除去したならば、2線回線18側から送られてくる信号を得ることができる。この回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を擬似したものが擬似エコー信号yeである。擬似エコー信号yeは、送話信号xから適応フィルタ7によって作成される。仮に、擬似エコー信号yeが回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)にほぼ等しいならば、受話路出力端子5には、回り込み成分のほとんど無い誤差信号eが得られる。すなわち、誤差信号eは、2線回線18側から送られてくる信号に近似したものとなる。この場合には、いわゆるエコー現象は発生しない。
【0005】
この回り込み成分を適応フィルタ7Bにおいて推定し、適応フィルタ制御信号29Bを適応フィルタ7Bに印加して最も適応した擬似エコー信号yeが作成される。エコー・キャンセラ制御部20Bには、電力計算器71、結合量測定器72および適応フィルタ制御器31Bが含まれている。電力計算器71は、送話信号x、受話信号yおよび誤差信号eのそれぞれの電力Px,PyおよびPeを算出し、電力計算値信号76として出力する。この電力計算値信号76を受けて、結合量測定器72は回り込み経路の結合量を測定する。すなわち、2線4線変換回路8における送話信号xのうちのどれだけが受話信号yに含まれているかを、送話信号電力Px,受話信号電力Pyおよび誤差信号電力Peを表す電力計算値信号76から測定して、結合量測定値信号78として出力する。
【0006】
適応フィルタ制御器31Bは、電力計算値信号76と結合量測定値信号78を受けて、適応フィルタ7Bで行われる適応計算の実行や停止を制御するための適応フィルタ制御信号29Bを出力する。適応フィルタ7Bは適応フィルタ制御信号29Bの指示を受けて送話信号xと誤差信号eから適応計算をし、擬似エコー信号yeを出力する。擬似エコー信号yeは減算器9に印加され、受話信号yから減算されてエコーを除去した誤差信号eが得られる。
【0007】
適応フィルタ7Bは、適応フィルタ制御信号29Bの指示により、回り込み経路のインパルス応答(回り込み経路伝達特性)の推定値を適応計算により算出し、この推定値と送話信号xとのたたみこみ演算を実行し、擬似エコー信号yeを生成する。適応フィルタ7Bにおける適応計算は、外乱によるフィルタ係数の乱れを防ぐため、送話有音かつ受話無音の、いわゆるシングル・トーク時のみにおいて実行されることが望ましい。
【0008】
そこで適応フィルタ制御器31Bでは、送話信号xの有音あるいは無音(送話信号電力Pxが所定値よりも大きいか否か)および受話信号yの有音あるいは無音(受話信号電力Pyが所定値よりも大きいか否か)を判定し、その結果を適応フィルタ制御信号29Bとして出力し、適応フィルタ7Bにおける適応計算の実行あるいは停止を制御している。この判定は、電力計算値信号76に含まれた送話信号電力Px,受話信号電力Pyおよび誤差信号電力Peを比較することにより行われる。
【0009】
適応フィルタ制御器31Bにおける受話有音あるいは送話無音判定について説明する。
(i) 受話有音判定
受話信号電力Pyが、所定の受話有音判定しきい値Pth1以上であるとき、すなわち、式(1)の条件を満たすときは、受話有音と判定する。
Py>Pth1 (1)
【0010】
Py≦Pth1であり、式(1)を満足せず、結合量測定値信号78から得た結合量推定値k1と送話信号電力Pxとを用いて推定した推定誤差信号電力estPe(=k1×Px)よりも実測した誤差信号電力Peが大きいとき、すなわち、式(2)の条件を満たすときは、受話有音と判定する。式(2)を満足しないとき(Pe≦k1×Px)は、受話無音と判定する。
Pe>k1×Px (2)
【0011】
(ii) 送話無音判定
送話信号電力Pxが所定の送話有音判定しきい値Pth2以下であるとき、すなわち、式(3)の条件を満たすときは、送話無音と判定する。式(3)を満足しないときは、送話有音と判定する。
Px<Pth2 (3)
【0012】
前記の式(1)〜(3)のいずれかの条件、すなわち、受話有音のとき(式(1)または(2))または送話無音(式(3))の条件を満たすときは、適応フィルタ制御器31Bは適応フィルタ制御信号29Bにより、適応フィルタ7Bにおける適応計算を中止する。いずれの条件も満たさないとき、すなわち、送話有音かつ受話無音の送話シングル・トーク時には、適応フィルタ制御器31Bは適応フィルタ制御信号29Bにより、適応フィルタ7Bにおける適応計算を実行させる。
【0013】
エコーの発生を防止するエコー・キャンセラ動作が未適応状態にあるときには、適応フィルタ7Bにおいて積極的に適応計算を実行し、適応計算を進めてインパルス応答を速やかに収束させる必要がある。未適応状態にあるときには、送話信号xと誤差信号eとの間の結合が大きく、誤差信号eに含まれる送話信号xの成分が大きいと推定されるから、結合量推定値k1を大きく設定し、式(2)による受話有音判定の条件を厳しくし、適応計算を停止しないようにする。
【0014】
エコー・キャンセラ動作が十分に適応したら適応計算を停止してもよいが、十分なエコー消去性能を得るためには、誤適応(過適応)しない範囲で適応計算を継続し、インパルス応答の微修正を続けたほうがよい。しかし、適応計算を継続すると、収束したインパルス応答がダブル・トーク(送話者と受話者、あるいは、会議通話中の複数の話者が同時に発声すること)などによって乱れる可能性がある。そこで、ダブル・トーク時に適応計算を停止するために受話信号yの有音判定を正確に実行する必要がある。そこで、受話有音判定に用いる式(2)の結合量推定値k1は、推定値ではなく結合量測定器72により実測した結合量を用いる場合もある。
【0015】
結合量測定器72では、正確な結合量を測定するために、初めに受話信号電力Pyと誤差信号電力Peとの比較によりエコー消去量を測定し、十分なエコー消去量(受話信号電力Pyと誤差信号電力Peとの差が大きい)が得られているときに、送話信号電力Pxと誤差信号電力Peとを比較して結合量を測定する。結合量推定値k1は、測定した結合量にマージンを加えた値で更新される。
【0016】
特許文献1には、完全なスイッチングをすることなく同時通話(ダブル・トーク)を可能とし、かつ特定話者の通話路に損失量が傾くことのないボイス・スイッチを設け、増幅量を大きくとれる電話会議装置が開示されている。
【0017】
特許文献2には、各種の通話状態をノイズの存在に拘わらず高精度に判定でき、エコー・キャンセル精度を向上できるエコー・キャンセラが開示されている。そこでは、送話信号線上の信号の自己相関に基づいてダブル・トーク状態などを検出している。
【0018】
特許文献3には、指向性マイクロフォンを使用せず、ノイズの発生場所による影響を受けないエコー・キャンセラが開示されている。そこでは、受話状態またはダブル・トーク状態のときに残差信号eの誤差を推定し、誤差を最小にするようにフィルタ係数を最適に更新制御している。
【0019】
特許文献4(先出願)には、以下に示す開示がある。受話有音と判定し、適応フィルタの適応計算が停止しているときに、送話有音状態が続くと、結合量推定値が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。すなわち、適応計算を必要とする送話有音状態が続いているにもかかわらず、十分にエコー消去されていると誤判断して結合量が小さくなっている状態にあるため、適応計算が停止していると推定できる。
【0020】
そこで特許文献4では、適応計算が停止しているときに、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるように制御している。しかしながら、結合量推定値を徐々に大きくする方法は、再適応(再収束)するまでの時間が長くなる。結合量推定値を急激に大きくするならば、短時間に再収束するが、状況変化に対して過敏に応答し、適応動作が不安定になってしまう。このような、新たな問題が発生する。
【特許文献1】特開平6-189004号公報
【特許文献2】特開平6-13940号公報
【特許文献3】特開平6-22025号公報
【特許文献4】特願2004-289454
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
受話信号電力Py、誤差信号電力Peおよび送話信号電力Pxの比較では、送話信号および受話信号の有音か無音かの絶対的な判定はできない。インパルス応答が一応収束した時点で、さらに修正係数を小さくして適応計算し、インパルス応答の変化を小さくしたとしても、適応計算を継続している限り、ダブル・トークが継続した場合には、誤適応は避けられないという問題点があった。
【0022】
エコー・キャンセラ動作が誤適応しエコーが大きくなった場合、式(2)による受話有音判定では、インパルス応答が十分収束し、結合量が極めて小さいときの結合量推定値k1を用いているため、送話信号電力Pxから推定した誤差信号電力estPeよりも実測した誤差信号電力Peの方が大きくなり、有害なエコー信号と受信の対象である有効な受話信号の区別がつかなくなるブロッキング現象が発生する。
【0023】
ブロッキング現象が発生すると、エコー信号を受話信号と誤認し、受話有音と誤判定してしまう場合が発生する。受話有音の場合には適応計算が停止し、誤適応してしまったエコー・キャンセラの再適応動作が進行しなくなり、通話不能となる解決されなければならない課題があった。
【0024】
適応フィルタの適応計算が停止している状態で送話有音状態が続くと、結合量推定値が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。すなわち、十分にエコー消去されていると誤判断して結合量が小さいままになっている場合がある。送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるように、結合量推定値を変化させる方法は、再適応(再収束)するまでの時間が長くなる。結合量推定値を急激に大きくするならば、短時間に再収束するが、状況変化に対して過敏に応答し、適応動作が不安定になってしまうという解決されなければならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0025】
適応フィルタを初期状態から収束させる場合、収束に至るまでの時間を短縮し、かつ、安定に収束できるようにするために、収束速度を減速と加速に分けて制御するようにした。そのために、適応計算の速度を修正し調整する適応速度調整係数μを用いる。適応速度調整係数μの値が大きいとき(加速時)には適応は速やかに進行するが、収束が粗い。一方、適応速度調整係数μの値が小さいとき(減速時)には適応は遅く進行するが、収束が細かい。
【0026】
したがって、適応フィルタを初期状態から収束させる場合、最初は適応速度調整係数μの値を大きくして粗く大雑把に収束を進行(加速)させ、ある程度収束の進行した段階で適応速度調整係数μの値を小さくして細かく(減速して)収束させると、エコー・キャンセラが速やかに、かつ、正しく適応する。収束速度を減速と加速に分けて制御するために、減速指示器、加速指示器を設け、減速指示、および、加速指示をする。減速あるいは加速指示を受けた適応フィルタ制御器は、適応計算の速度を調整する適応速度調整係数μを作成し、適応速度を調整している。
【0027】
加速を指示するときの適応速度調整係数μの値は大きく、粗いステップで結合量推定値k1を変化せしめる。この状態では、適応速度は速いが、適応の安定性に欠ける。減速を指示するときの適応速度調整係数μの値は小さく、密なステップで結合量推定値k1を細かく変化せしめる。この状態では、適応速度は遅いが、適応の安定性に優れている。適応の初期において適応速度を加速し、適応が進行するに従い適応速度を減速して、速やかに安定した適応制御を得ることができる。
【0028】
受話有音と判定されている最中に送話有音となるのは、ダブル・トーク状態かあるいはブロッキング現象が発生している場合である。ダブル・トーク(送話者と受話者、あるいは、会議通話中の複数の話者が同時に発声する)状態は、一般に長時間継続することはないと考えられるから、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定されることが何回か発生するならばブロッキング現象が発生している可能性が大きいものと判断し、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定される事態が発生すると、結合量推定値k1を大きくし、受話有音の判定を徐々に厳しくして、適応計算を継続する。
【0029】
ダブル・トーク状態で受話有音かつ送話有音と判定された場合は、結合量推定値k1を大きくすることで適応計算が実行される。その過程でエコー・キャンセラの誤適応動作が発生することもあるが、ダブル・トーク状態が解消して送話シングル・トーク状態になったときに、誤適応により一時的にエコーが大きくなる場合が発生したとしても、結合量推定値k1もすでに大きくなっており、ブロッキング現象は発生しない。また、十分なエコー消去量が得られていないため加速制御がなされ、適応速度調整係数μにより速やかに再適応する。ブロッキング現象が発生して、受話有音かつ送話有音と判定されても、結合量推定値k1が最適な値に達すると再適応する。
【0030】
適応動作の初期において、設定した結合量推定値k1を、十分なエコー消去量が得られた後、結合量の実測値に置き換えることも可能であり、その場合は、受話有音無音の判定がより正確になる。減速指示により、エコー消去量判定しきい値k2を徐々に小さくしていく過程で各種電力値のゆらぎによりエコー消去量が実際よりも大きく算出されることで結合量推定値k1が一時的に小さくなり過ぎることもあり得るが、この場合も結合量推定値k1は、ブロッキング現象を回避するために徐々に大きくなり、最適な値に達して安定に再適応する。
【発明の効果】
【0031】
エコーが十分に消去されている状態における結合量を用いた受話有音検出では、ダブル・トークなどで誤適応してエコーが大きくなるとブロッキング現象を起こしてしまう。一旦ブロッキング現象を起こしてしまうと、エコー信号と受話信号の区別がつかなくなり、送話信号の回り込み成分のみを検出することができず、再適応動作は困難となる。そこで本発明では、エコー消去量を監視することで適応状態を観測しながら適応速度調整係数μを制御しているから、誤適応を観測したときには、結合量推定値k1を徐々に大きくして適応計算の最適値に近づけると共に、適応速度調整係数μを大きくして再適応を進めることができ、ブロッキング現象発生時の回復が速く、エコー・キャンセラを速やかに再適応させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
受話有音と判定し適応計算が停止しているときに、送話有音状態が続くと、結合量推定値k1が実際の結合量より小さくなっている可能性がある。そこで、送話有音の継続時間が長くなるのに応じて、結合量推定値k1を徐々に大きくし、適応計算の最適値に近づけるようにした。受話有音と判定されている最中に送話有音となるのは、ダブル・トーク状態かあるいはブロッキング現象が発生している場合である。
【0033】
ダブル・トーク状態は、一般に長時間は継続する事はないと考えられるから、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定されることが何回か発生するならばブロッキング現象が発生している可能性が大きいものと判断し、一定時間継続して受話有音かつ送話有音と判定される事態が発生するごとに結合量推定値k1を徐々に大きくし、受話音の判定を徐々に厳しくして、適応計算を進行させる。エコー消去量が不十分であれば、加速を指示する適応速度調整係数μが大きくなるので、速やかに適応し、適応が進行するに従って減速を指示する適応速度調整係数μを細かいステップで小さくし、安定した適応計算を継続するような構成にした。
【0034】
ダブル・トーク状態で受話有音かつ送話有音と判定された場合は、結合量推定値k1を徐々に大きくすることにより適応計算が実行されるから、その過程でエコー・キャンセラの誤適応動作が発生することもあるが、ダブル・トーク状態が解消して送話シングル・トーク状態になったときに、誤適応により一時的にエコーが大きくなる場合が発生したとしても、結合量推定値k1も大きいために、ブロッキング現象は発生せず、エコー消去量が不十分の場合は加速指示により速やかに再適応する。
【0035】
ブロッキング現象が発生して、受話有音かつ送話有音と判定されると、結合量推定値k1が徐々に大きくなり、適応状態の最適値に近づき適応状態に入る。このときエコー消去量は不十分なので加速制御がかかり、速やかに適応動作が進行する。適応動作が進むにつれて、減速制御により安定した適応計算を継続するような構成にしている。
【0036】
このような構成にしたから、適応フィルタを初期状態から収束させる場合、最初は適応速度調整係数μの値を大きくして粗く大雑把に収束を進行(加速)させ、ある程度収束の進行した段階で適応速度調整係数μの値を小さくして細かく(減速して)収束させると、エコー・キャンセラが速やかに、かつ、正しく適応する。
【実施例1】
【0037】
図1は、本願発明の実施例1の回路構成を示している。ここで、図12に示した従来例に対応する要素については対応する記号を付した。送話路入力端子1には送話信号xが印加される。送話信号xは適応フィルタ7およびエコー・キャンセラ加減速制御部20に印加されて送話路出力端子2を介してハイブリッド回路である2線4線変換回路8により2線回線18側に出力される。
【0038】
2線回線18側からの信号は2線4線変換回路8により受話信号として受話路入力端子4に現れる。それと同時に、送話信号xの一部が2線4線変換回路8で回り込み受話路入力端子4に現れる。受話信号yには、2線回線18側からの信号に送話信号xの一部の回り込みも加算されたものとなって現れる。この回り込みによる送話信号xの成分が大きい場合には、送話者の声がエコーとなって送話者に戻ってくるから耳障りとなる。
【0039】
そこで、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を除去するために減算器9が用いられる。すなわち、受話信号yから回り込みによる送話信号xの成分を除去したならば、2線回線18側から送られてくる信号を得ることができる。この回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)を擬似したものが擬似エコー信号yeである。擬似エコー信号yeは、送話信号xから適応フィルタ7によって作成される。適応フィルタ7は、送話信号xと誤差信号eを受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号29の指示で適応計算してエコーを打ち消すための擬似エコー信号yeを作成している。
【0040】
仮に、擬似エコー信号yeが回り込みによる送話信号xの成分(回り込み成分)にほぼ等しいならば、受話路出力端子5には、回り込み成分のほとんど無い誤差信号eが得られる。すなわち、受話有音時の誤差信号eは、2線回線18側から送られてくる信号に近似したものとなる。この場合には、いわゆるエコー現象は発生しない。この回り込み成分を適応フィルタ7において推定し、適応フィルタ制御信号29を適応フィルタ7に印加し加減速制御して最も適応した擬似エコー信号yeが作成される。
【0041】
図2には、図1の重要な構成要素であるエコー・キャンセラ加減速制御部20内部の詳細な回路構成を示している。送話有無判定器32は、送話信号xの電力Pxを所定の送話有音判定しきい値Pth2と比較して、送話信号xの電力Pxが所定の送話有音判定しきい値Pth2よりも小さい式(3)を満足する場合に(Px<Pth2)送話無音、それ以外の大きい場合に送話有音と判定して送話有無判定信号52を適応フィルタ制御器31およびエコー消去量判定器35に対して出力する。
【0042】
受話有無判定器33は、送話信号x、結合量推定値k1を表す結合量推定値信号58、誤差信号e、受話信号yを受けて、式(1)を満足する受話信号yの電力Pyが受話有音判定しきい値Pth1よりも大きい場合に(Py>Pth1)受話有音とする。それ以外の小さい場合(Py≦Pth1)には、結合量推定値信号58の結合量推定値k1の値と送話信号xの電力Pxとを用いて推定した推定誤差信号電力estPe(=k1×Px)よりも誤差信号eの電力Peが大きいとき(Pe>k1×Px)に受話有音と判定し、推定誤差信号電力estPeよりも誤差信号eの電力Peが大きくはないとき(Pe≦k1×Px)に受話無音と判定して、受話有無判定信号53を適応フィルタ制御器31およびエコー消去量判定器35に対して出力する。
【0043】
エコー消去量判定器35は、減速指示信号55、加速指示信号56、誤差信号e、受話信号yを受けて、誤差信号eの電力Peが、エコー消去量判定しきい値k2と受話信号yの電力Pyとの積より小さいとき、すなわち、式(4)を満足するとき、エコー消去状態と判定し、エコー消去量判定信号54として減速指示器38および加速指示器39に対して出力している。
Pe<k2×Py (4)
【0044】
さらに、加速指示信号56が加速指示を示しているときにはエコー消去量判定しきい値k2の値がすでに大きくなっているので、次回のエコー消去量判定しきい値k2を粗いステップ幅から、徐々にステップ幅が小さくなるように更新する。ただし、減速指示信号55が印加されて適応フィルタ制御器31内の適応速度μが所定の最小値μminになったときのエコー消去量判定しきい値k2の値を基準値k2stdとして式(4)に適用し、エコー消去状態の判定をし易くする。加速指示信号56が加速指示を示しているときには、エコー消去量判定しきい値k2の値を予め定めた初期値k2iniに戻す。
【0045】
結合量測定器36は、エコー消去量判定信号54、送話信号x、誤差信号eを受けて、エコー消去状態と判定されたときの送話信号xと誤差信号eの誤差信号電力結合量ERLを式(5)により測定して、結合量測定値信号57として結合量推定器37に対して出力している。
ERL=Pe/Px (5)
【0046】
結合量推定器37は、加速指示信号56、結合量測定値信号57を受けて、加速指示信号56が加速指示を示したときには、結合量推定値信号58の結合量推定値k1の値を所定の結合量推定初期値k1iniにし、それ以外の場合には、誤差信号電力結合量ERLにマージンαを加えた結合量推定値k1(=ERL+α)を求めて、結合量推定値信号58として受話有無判定器33に対して出力する。k1の値は、所定の最大値k1max以下、所定の最小値k1min以上に設定される。ここで、k1ini=k1maxである。
【0047】
適応フィルタ制御器31は、送話有無判定信号52および受話有無判定信号53、減速指示信号55、加速指示信号56を受けて、減速指示信号55が減速を示したとき、適応速度調整係数μを徐々に小さくし(ただし、所定の最小値μminより小さくはしない)、加速指示信号56が加速を示したとき、適応速度調整係数μをその初期値μ0にし(μmin≦μ≦μ0)、送話有無判定信号52が送話有音を、受話有無判定信号53が受話無音を同時に示している期間において適応フィルタ7が適応計算をするように指示する適応フィルタ制御信号29を出力する。
【0048】
図3には、図2の構成要素である受話有無判定器33の内部の詳細な回路構成を示している。そこには、受話有音しきい値判定器44、受話有音誤差信号判定器45および受話有無判定信号出力器46が含まれている。受話有音しきい値判定器44は受話信号yを受けて、式(1)の判定をし、判定結果を受話有音判定信号48として受話有無判定信号出力器46に対して出力する。
【0049】
受話有音誤差信号判定器45は、誤差信号e、送話信号xおよび結合量推定値k1の値を示す結合量推定値信号58を受けて、式(2)により送話信号電力Pxと結合量推定値k1との積である受話推定積(k1×Px)を誤差推定値(estPe)として誤差推定信号49により受話有無判定信号出力器46に対して出力する。ここで、
estPe=(k1×Px)
Pe>estPe
である。
【0050】
受話有無判定信号出力器46は、受話有音中の適応動作を回避するべく、誤差推定信号49の誤差推定値estPeと誤差信号eの電力Peを比較した誤差信号eの電力Peが誤差推定値estPeよりも大きい(Pe>estPe)ことを表す誤差推定信号49と受話有音を表す受話有音判定信号48を受けて、受話有音と推定し、誤差信号eの電力Peが誤差推定値estPeよりも大きくはないとき(Pe≦estPe)受話無音と推定して、受話有無判定信号53を適応フィルタ制御器31に対して出力する。
【0051】
図4には、図2の構成要素である減速指示器38の内部の詳細な回路構成を示している。そこには、エコー消去量比較器81、エコー消去状態タイム・カウンタ82およびエコー消去量判定しきい値指示器83が含まれている。エコー消去量比較器81は、エコー消去量判定信号54と、エコー消去量判定しきい値指示器83からの式(4)のエコー消去量判定しきい値k2を表すエコー消去量判定しきい値信号86を受けて、エコー消去量がエコー消去量判定しきい値k2以上であるときエコー消去状態にあることを表すエコー消去量比較結果信号87を出力する。
【0052】
エコー消去状態タイム・カウンタ82は、エコー消去量比較結果信号87とエコー消去量判定しきい値信号86を受けて、エコー消去量比較結果信号87を期間Tの間連続し、これをN回、すなわち、N×Tの間受けたとき、減速指示信号55を出力する。TおよびNの値は、エコー消去量判定しきい値k2の値に応じて変化する。すなわち、エコー消去量判定条件の緩やかな初期状態においては、エコー消去量判定しきい値k2の値は小さく、期間Tが長く回数Nが大きくなるにしたがって、大きなステップで変化せしめ、エコー消去量判定しきい値k2の値が大きくなるにつれてエコー消去量判定条件は厳しくなり、期間Tが短く回数Nが小さくなるにしたがって、小刻みに変化せしめる。
【0053】
エコー消去量判定しきい値指示器83は、減速指示信号55を受けるごとにエコー消去量判定しきい値k2の値を更新する。減速指示信号55が、適応フィルタ31内の適応速度調整係数μの値をその最小値μminにしたら、期間Tおよび回数Nをエコー消去量判定しきい値k2の基準値k2stdに応じた値にする。ここで、連続する期間Tは、たとえば、1音素の継続時間(100ms)としている。
【0054】
図5には、図2の構成要素である加速指示器39の内部の詳細な回路構成を示している。そこには、送話有音しきい値比較器61、受話無音しきい値比較器62、エコー消去量しきい値比較器63および加速指示出力器64が含まれている。エコー消去量判定信号54が示すエコー消去量判定しきい値k2以上のエコー消去状態でないとき(Pe≧k2×Py)、送話有音しきい値比較器61、受話有音しきい値比較器62、エコー消去量しきい値比較器63は、次のように動作する。
【0055】
送話有音しきい値比較器61は、エコー消去量判定信号54と送話信号xとを印加されて、送話信号電力Pxが所定の送話有音判定しきい値Pth4よりも大きい(式(6)の)ときに、送話有音状態を表す送話有音信号66を出力する。
Px>Pth4 (6)
【0056】
受話無音しきい値比較器62は、エコー消去量判定信号54と誤差信号eを受けて、誤差信号電力Peが所定の受話無音判定しきい値Pth5よりも小さい(式(7)の)場合に、受話無音状態を表す受話無音信号67を出力する。
Pe<Pth5 (7)
【0057】
エコー消去量しきい値比較器63は、エコー消去量判定信号54、誤差信号eおよび受話信号yを受けて、誤差信号電力Peが受話信号電力Pyと所定のエコー消去量加速判定しきい値k3との積よりも大きい(式(8)の)場合に、エコーが消去されていないことを表すエコー消去信号68を出力する。
Pe≧k3×Py (8)
【0058】
加速指示出力器64は、送話有音信号66、受話無音信号67およびエコー消去信号68を印加されて、式(6)、(7)および(8)を同時に満足する(送話有音、受話無音、エコー消去なし)状態が所定の期間継続したとき、再適応を進めるための加速指示信号56を出力する。
【0059】
図6には、図2の構成要素である適応フィルタ制御器31の内部の詳細な回路構成を示している。そこには、適応速度調整係数μを作成するための適応速度調整係数作成器91と適応フィルタ制御指示作成器92が含まれている。適応速度調整係数作成器91には、送話有無判定信号52、受話有無判定信号53、減速指示信号55および加速指示信号56が印加されている。
【0060】
適応速度調整係数作成器91は、減速指示信号55が減速を指示しているとき、適応フィルタ7における適応動作の速度を調整するための適応速度調整係数μを徐々に小さくし(最小値は、μmin)、適応動作の速度を遅くして、緩やかに適応状態に近づける。
【0061】
適応速度調整係数作成器91は、加速指示信号56が加速を指示したときは、適応フィルタ7における適応動作の速度を一気に速くするために適応速度調整係数μをその最大値である初期値μ0にし、適応動作の速度を速くして、急速に適応状態に近づけ、近づくにつれて、その値を小さくして適応動作の速度を遅くする。
【0062】
適応速度調整係数μの値は、μ0≧μ≧μminであり、適応動作の初期においては、適応速度調整係数μの値は、μ0から始まり徐々に小さくなって緩やかにμminになる。適応速度調整係数μの値は、適応速度係数信号96として出力される。適応速度調整係数μの値は、適応フィルタ7への制御信号の一部に加えられて、適応フィルタ制御指示作成器92から適応フィルタ制御信号29として出力される。
【0063】
図7ないし図10には、図1ないし図6に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートが示されている。動作を開始すると、式(1)を用いて受話信号電力Pyが受話有音判定しきい値Pth1よりも大きいか否かの判定を受話有無判定器33において行う(S1、図7)。受話信号電力Pyがしきい値以下であれば(S1N)、式(2)を用いて受話有音かそれとも受話信号が無いかの判定をする。受話信号が無ければ(S2N)、受話無音状態が一定時間継続したか否かを調べる(S3)。受話無音状態が一定時間継続しなかった場合は(S3N)、受話有音状態にあるから適応計算を停止して適応動作を終了する(S7)。
【0064】
ステップS2において、受話信号有り(受話有音)と判断されたときには(S2Y)、式(3)を用いて送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以下であるか否かの判定を送話有無判定器32において行う(S4)。送話信号無しと判断されなかった(送話有音の)場合は(S4N)、送話有音状態が一定時間継続した場合には(S5Y)、受話有音かつ送話有音の、いわゆるダブル・トーク状態あるいはブロッキング現象が発生したものと判断し、ブロッキング現象を速やかに解消するために、結合量推定値k1の値を、たとえば6dB大きくする。ただし、所定のk1の最大値k1maxを越えることはない(S6)。受話有音状態にあるから、適応フィルタ制御器31における制御動作を停止し、適応計算を停止して適応動作を終了する(S7)。
【0065】
受話信号電力Pyがしきい値以上である場合(S1Y)、送話信号無しと判断された(送話無音の)場合(S4Y)、および送話有音状態が所定の時間継続しなかった場合(S5N)には、受話有音状態にあるから、適応フィルタ制御器31における制御動作を停止し、適応計算を停止して適応動作を終了する(S7)。
【0066】
受話無音状態が一定時間継続した場合は(S3Y)、式(3)により、送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以下であれば(Px<Pth2)(S8Y、図8)、送話無音状態であるから送話有無判定器32は送話有無判定信号52により適応フィルタ制御器31に通知し、適応フィルタ7における適応計算を停止させて、適応計算は終了する(S9)。送話信号電力Pxが所定のしきい値Pth2以上(送話有音)ならば(S8N)、受話無音かつ送話有音の、いわゆるシングル・トーク状態にある。
【0067】
そこで、エコー消去量判定器35において、式(4)によりエコー消去量を得ているか否かの判定を実行する(S10)。式(4)を満足している場合は(S10Y)、エコー消去量が十分であることを示している。すなわち、受話無音(S3Y)で、かつ送話有音の状態(S8N)であるから、受話信号yと擬似エコー信号yeとの差である誤差信号eは小さな値になっており、式(4)を満足する。
【0068】
エコー消去量が十分であるエコー消去状態の場合は(S10Y)、期間T(i)ms(たとえば、T(i)=100ms)の間、継続したか否かを調べる(S11)。期間T(i)msの間継続した場合は(S11Y)、このようなエコー消去状態がN(i)回(たとえば、10回)以上発生するか否かを調べる(S12)。N(i)回以上発生した場合は(S12Y)、iをインクリメントし、n段(i=n)実行して適応速度調整係数μが、その最小値μminになると、インクリメントは終了する。ステップS11の減速制御の開始時は、i=0からスタートする(S13)。
【0069】
そこで、結合量測定器36において、誤差信号電力結合量ERLを式(5)を用いて測定する(S14、図9)。誤差信号電力結合量ERLは、結合量測定値信号57により結合量推定器37に印加される。結合量推定器37においては、結合量推定値k1の値の修正が式(9)によってなされる。すなわち、誤差信号電力結合量ERLにマージンαを加えて結合量推定値k1を得ている。ただし、結合量推定値k1の値は、所定の最小値k1minと所定の最大値k1maxの間(k1min≦k1≦k1max)で修正される(S15)。ここで、k1maxは、加速指示信号56が加速を指示した場合の初期値である。マージンαの値は、たとえば、6dBである。
k1=ERL+α (9)
【0070】
エコー消去量判定器35において、エコー消去量判定しきい値k2の更新が式(10)により行われる。エコー消去量判定しきい値k2の値から、たとえば6dB減算する。適応速度調整係数μの値が、所定の最小値μminとなるk2の値になったら、k2をエコー消去量判定しきい値k2の基準値k2stdに戻す(S16)。
k2=k2−6dB (10)
【0071】
適応フィルタ制御器31においては、適応速度調整係数μに、たとえば、0.5を乗算して新たなμ(μ=μ×0.5)とする(S17)。ただし、所定のμの最小値μminよりは小さくはない値(μ≧μmin)とする。送話有音状態(S12Y)にあるから、適応フィルタ制御器31における適応計算の終了するまで制御動作を継続してから適応動作を終了する(S18、図9)。
【0072】
ステップS10において、エコー消去量が十分ではなかった場合は(S10N)、式(6)により、送話信号電力Pxが送話有音加速判定しきい値Pth4よりも大きい(Px>Pth4)送話有音であるか否かが調べられる(S19、図10)。送話有音である場合は(S19Y)、さらに、式(7)により、誤差信号電力Peが受話無音判定しきい値Pth5よりも小さい(Pe<Pth5)受話無音であるか否かが調べられる(S20)。
【0073】
受話無音である場合は(S20Y)、式(8)により、誤差信号電力Peがエコー消去量加速判定しきい値k3と受話信号電力Pyとの積よりも小さい(Pe<k3×Py)エコー消去状態か否かが問われる(S21)。エコー消去状態である場合は(S21Y)、さらに、そのエコー消去状態が所定の一定時間(たとえば、100ms)以上継続するか否かが調べられる(S22)。一定時間以上継続した場合は(S22Y)、エコー消去量判定器35において、ステップS16のエコー消去量判定しきい値k2の値を所定の初期値k2ini(=k2std)に修正する(S23)。
【0074】
それと同時に、適応フィルタ制御器31において、適応速度調整係数μを初期値μ0にする(μ=μ0)。エコー消去量判定しきい値k2の値は所定の初期値k2iniに戻される(S24)。ステップS24の動作は、送話有音状態にあるから、適応フィルタ制御器31における適応計算の終了するまで制御動作を継続してから適応動作を終了する(S18、図9)。
【0075】
送話有音でない場合(S19N)、受話無音でない場合(S20N)、エコー消去状態でない場合は(S21N)、およびエコー消去状態が一定時間以上継続しなかった場合(S22N)は、送話有音状態にあるから、適応フィルタ制御器31における適応計算の終了するまで制御動作を継続してから適応動作を終了する(S18、図9)。期間T(i)msの間継続しなかった場合(S11N)、およびN(i)回以上発生しなかった場合は(S12N)、送話有音状態にあるから、適応フィルタ制御器31における適応計算の終了するまで制御動作を継続してから適応動作を終了する(S18、図9)。
【0076】
図11は、図7ないし図10のフローチャートにおける機能の流れを機能別に表示した機能別流れ図である。各動作ステップがどのような機能を果たしているのかを示している。ステップS1ないしS3は受話有無判定機能を、ステップS4ないしS6はブロッキング回避機能を、ステップS8は送話有無判定機能を、ステップS10,S16,S23はエコー消去量判定機能を、ステップS11ないしS13は減速制御機能を、ステップS14は結合量測定機能を、ステップS15は結合量推定機能を、ステップS19ないしS22は加速制御機能を、ステップS7,S9,S17,S18,S24は適応フィルタ制御機能を表している。
【0077】
本実施例で使用した、各種の所定の値、しきい値、継続時間、継続回数、結合量推定値、および基準値の変化量、初期値および最終値などの各種パラメータは、例示したものに限定されず、通話系の状態によって最も適した値を選ぶことができることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本願発明の実施例を示した回路構成図である。(実施例1)
【図2】図1の重要な構成要素であるエコー・キャンセラ加減速制御部の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図3】図2の構成要素である受話有無判定器の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図4】図2の構成要素である減速指示器の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図5】図2の構成要素である加速指示器の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図6】図2の構成要素である適応フィルタ制御器の内部の詳細を示す回路構成図である。
【図7】図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図8】図7とともに図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図9】図7および図8とともに図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図10】図7ないし図9とともに図1に示した回路構成の動作の流れを表すフローチャートである。
【図11】図7ないし図10のフローチャートにおける動作の流れを機能別に表示した機能別流れ図である。
【図12】従来の実施例の回路構成図である。
【符号の説明】
【0079】
1 送話路入力端子
2 送話路出力端子
4 受話路入力端子
5 受話路出力端子
7,7B 適応フィルタ
8 2線4線変換回路
9 減算器
18 2線回線
20 エコー・キャンセラ加減速制御部
20B エコー・キャンセラ制御部
29,29B 適応フィルタ制御信号
31,31B 適応フィルタ制御器
32 送話有無判定器
33 受話有無判定器
35 エコー消去量判定器
36 結合量測定器
37 結合量推定器
38 加速指示器
39 減速指示器
44 受話有音しきい値判定器
45 受話有音残差信号判定器
46 受話有無判定信号出力器
48 受話有音判定信号
49 誤差推定信号
52 送話有無判定信号
53 受話有無判定信号
54 エコー消去量判定信号
55 減速指示信号
56 加速指示信号
57 結合量測定値信号
58 結合量推定値信号
61 送話有音しきい値比較器
62 受話無音しきい値比較器
63 エコー消去量しきい値比較器
64 加速指示出力器
66 送話有音信号
67 受話無音信号
68 エコー消去信号
71 電力計算器
72 結合量測定器
76 電力計算値信号
78 結合量測定値信号
81 エコー消去量比較器
82 エコー消去状態タイム・カウンタ
83 エコー消去量判定しきい値指示器
86 エコー消去量判定しきい値信号
87 エコー消去量比較結果信号
91 適応速度調整係数作成器
92 適応フィルタ制御指示作成器
96 適応速度係数信号
ERL 誤差信号電力結合量
e 誤差信号
estPe 推定誤差信号電力
k1 結合量推定値
k2 エコー消去量判定しきい値
k3 エコー消去量加速判定しきい値
Pe 誤差信号電力
Px 送話信号電力
Py 受話信号電力
Pth1 受話有音判定しきい値
Pth2 送話有音判定しきい値
Pth4 送話有音加速判定しきい値
Pth5 受話無音判定しきい値
μ 適応速度調整係数
x 送話信号
y 受話信号
e 擬似エコー信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送話信号(x)が、受話信号(y)に回り込みエコーとなり得る系で、前記送話信号(x)と誤差信号(e)を受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号(29)の指示する速度で適応計算して前記エコーを打ち消すための擬似エコー信号(ye)を作成する適応フィルタ処理(7)をし、
前記受話信号(y)から前記擬似エコー信号(ye)を減算して前記誤差信号(e)を得るための減算処理(9)をし、
前記送話信号(x)の電力(Px)を所定の送話有音判定しきい値(Pth2)と比較して、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さい場合に送話無音と判定し、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さくはない場合に送話有音と判定して、送話有無判定信号(52)を出力するための送話有無判定処理(32)をし、
前記送話信号(x)の電力(Px)と結合量推定値(58、k1)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)から前記受話信号(y)の電力(Py)が所定の受話有音判定しきい値(Pth1)よりも大きい場合に受話有音と判定し、前記受話信号(y)の電力(Py)が前記受話有音判定しきい値(Pth1)よりも大きくはない場合(Py≦Pth1)に、前記結合量推定値(58、k1)と前記送話信号(x)の電力(Px)とを用いて推定した推定誤差信号電力(estPe=k1×Px)よりも前記誤差信号(e)の電力(Pe)が大きいとき(Pe>k1×Px)に受話有音と判定し、前記推定誤差信号電力(estPe=k1×Px)よりも前記誤差信号(e)の電力(Pe)が大きくはないとき(Pe≦k1×Px)に受話無音と判定して、受話有音および受話無音の各状態を表す受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無判定処理(33)をし、
前記受話信号(y)の電力(Py)と所定のエコー消去量判定しきい値(k2)との積が前記誤差信号(e)の電力(Pe)よりも大きい場合にエコー消去状態と判定し、大きくはない場合にエコー消去状態ではないと判定して、その判定結果を表すエコー消去量判定信号(54)を得るためのエコー消去量判定処理(35)をし、
前記エコー消去量判定信号(54)を受けて、前記エコー消去状態と判定されたときの前記送話信号(x)と前記誤差信号(e)の結合量を測定するための結合量測定処理(36)をし、
前記測定された結合量(57)および送話有音中に受話無音となった状態であり、かつエコー消去状態ではないことを示す加速指示信号(56)を受けて前記結合量推定値(58、k1)を求めるための結合量推定処理(37)をし、
前記エコー消去量判定信号(54)の示す前記エコー消去状態が所定の期間(T)連続して所定の回数(N)以上継続したときに前記適応フィルタ処理(7)における適応計算を減速せしめるための指示である減速指示信号(55)を出力する減速指示処理(38)をし、
前記エコー消去量判定信号(54)により前記エコー消去状態であると判定されなかったときに前記適応フィルタ処理(7)における適応計算を加速せしめるための指示である加速指示信号(56)を出力する加速指示処理(39)をし、
前記減速指示信号(55)、前記加速指示信号(56)、前記送話有無判定信号(52)および前記受話有無判定信号(53)を受けて、前記減速指示(55)により前記適応計算の速度を減速せしめ、前記加速指示(56)により前記適応計算の速度を加速せしめるように制御する前記適応フィルタ制御信号(29)を出力するための適応フィルタ制御処理(31)をする
エコー・キャンセラ制御方法。
【請求項2】
前記減速指示処理(38)において、
前記減速指示信号(55)を受けるごとに小さくした値のエコー消去量判定しきい値(86)を得るためのエコー消去量判定しきい値指示処理(83)をし、
エコー消去量を含む前記エコー消去量判定信号(54)と前記エコー消去量判定しきい値(86)を受けて比較し、その結果をエコー消去量比較結果(87)として得るためのエコー消去量比較処理(81)をし、
前記エコー消去量比較結果(87)から、前記エコー消去状態が所定の期間(T)連続して所定の回数以上継続したことをカウントしたときに、前記減速指示信号(55)を出力するためのエコー消去状態カウント処理(82)をする
請求項1のエコー・キャンセラ制御方法。
【請求項3】
前記加速指示処理(39)において、
エコー消去量を含む前記エコー消去量判定信号(54)、前記送話信号(x)、前記誤差信号(e)および前記受話信号(y)を受けて、前記送話信号(x)の電力(Px)が所定の送話有音加速判定しきい値(Pth4)よりも大であるとき送話有音(式(6))とし、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が所定の受話無音判定しきい値(Pth5)よりも小であるとき受話無音(式(7))とし、かつ、前記受話信号(y)の電力(Py)にエコー消去量加速判定しきい値(k3)を乗じた値が前記誤差信号(e)の電力(Pe)よりも大であるときエコー消去状態ではない(式(8))としたとき、前記加速指示信号(56)を出力する
請求項1のエコー・キャンセラ制御方法。
【請求項4】
送話信号(x)が、受話信号(y)に回り込みエコーとなり得る系で、前記送話信号(x)と誤差信号(e)を受けて回り込み経路の伝達関数を推定し、適応フィルタ制御信号(29)の指示する速度で適応計算して前記エコーを打ち消すための擬似エコー信号(ye)を作成する適応フィルタ手段(7)と、
前記受話信号(y)から前記擬似エコー信号(ye)を減算して前記誤差信号(e)を得るための減算手段(9)と、
前記送話信号(x)の電力(Px)を所定の送話有音判定しきい値(Pth2)と比較して、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さい場合に送話無音と判定し、前記送話信号(x)の電力(Px)が前記所定の送話有音判定しきい値(Pth2)よりも小さくはない場合に送話有音と判定して、送話有無判定信号(52)を出力するための送話有無判定手段(32)と、
前記送話信号(x)の電力(Px)と結合量推定値(58、k1)と前記誤差信号(e)の電力(Pe)から前記受話信号(y)の電力(Py)が所定の受話有音判定しきい値(Pth1)よりも大きい場合に受話有音と判定し、前記受話信号(y)の電力(Py)が前記受話有音判定しきい値(Pth1)よりも大きくはない場合(Py≦Pth1)に、前記結合量推定値(58、k1)と前記送話信号(x)の電力(Px)とを用いて推定した推定誤差信号電力(estPe=k1×Px)よりも前記誤差信号(e)の電力(Pe)が大きいとき(Pe>k1×Px)に受話有音と判定し、前記推定誤差信号電力(estPe=k1×Px)よりも前記誤差信号(e)の電力(Pe)が大きくはないとき(Pe≦k1×Px)に受話無音と判定して、受話有音および受話無音の各状態を表す受話有無判定信号(53)を出力するための受話有無判定手段(33)と、
前記受話信号(y)の電力(Py)と所定のエコー消去量判定しきい値(k2)との積が前記誤差信号(e)の電力(Pe)よりも大きい場合にエコー消去状態と判定し、大きくはない場合にエコー消去状態ではないと判定して、その判定結果を表すエコー消去量判定信号(54)を得るためのエコー消去量判定手段(35)と、
前記エコー消去量判定信号(54)を受けて、前記エコー消去状態と判定されたときの前記送話信号(x)と前記誤差信号(e)の結合量を測定するための結合量測定手段(36)と、
前記測定された結合量(57)および送話有音中に受話無音となった状態であり、かつエコー消去状態ではないことを示す加速指示信号(56)を受けて前記結合量推定値(58、k1)を求めるための結合量推定手段(37)と、
前記エコー消去量判定信号(54)の示す前記エコー消去状態が所定の期間(T)連続して所定の回数(N)以上継続したときに前記適応フィルタ手段(7)における適応計算を減速せしめるための指示である減速指示信号(55)を出力する減速指示手段(38)と、
前記エコー消去量判定信号(54)により前記エコー消去状態であると判定されなかったときに前記適応フィルタ手段(7)における適応計算を加速せしめるための指示である加速指示信号(56)を出力する加速指示手段(39)と、
前記減速指示信号(55)、前記加速指示信号(56)、前記送話有無判定信号(52)および前記受話有無判定信号(53)を受けて、前記減速指示(55)により前記適応計算の速度を減速せしめ、前記加速指示(56)により前記適応計算の速度を加速せしめるように制御する前記適応フィルタ制御信号(29)を出力するための適応フィルタ制御手段(31)とを含む
エコー・キャンセラ制御装置。
【請求項5】
前記減速指示手段(38)が、
前記減速指示信号(55)を受けるごとに小さくした値のエコー消去量判定しきい値(86)を得るためのエコー消去量判定しきい値指示手段(83)と、
エコー消去量を含む前記エコー消去量判定信号(54)と前記エコー消去量判定しきい値(86)を受けて比較し、その結果をエコー消去量比較結果(87)として得るためのエコー消去量比較手段(81)と、
前記エコー消去量比較結果(87)から、前記エコー消去状態が所定の期間(T)連続して所定の回数以上継続したことをカウントしたときに、前記減速指示信号(55)を出力するためのエコー消去状態カウント手段(82)とを含んでいる
請求項4のエコー・キャンセラ制御装置。
【請求項6】
前記加速指示手段(39)が、
エコー消去量を含む前記エコー消去量判定信号(54)、前記送話信号(x)、前記誤差信号(e)および前記受話信号(y)を受けて、前記送話信号(x)の電力(Px)が所定の送話有音加速判定しきい値(Pth4)よりも大であるとき送話有音(式(6))とし、前記誤差信号(e)の電力(Pe)が所定の受話無音判定しきい値(Pth5)よりも小であるとき受話無音(式(7))とし、かつ、前記受話信号(y)の電力(Py)にエコー消去量加速判定しきい値(k3)を乗じた値が前記誤差信号(e)の電力(Pe)よりも大であるときエコー消去状態ではない(式(8))としたとき、前記加速指示信号(56)を出力する
請求項4のエコー・キャンセラ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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