説明

エコー低減方法と装置

【課題】 相手話者の音声レベルが小さい場合であっても、明瞭に通話することができるエコー低減方法を実現する。
【解決手段】 エコー・キャンセラ40により、送話信号が相手端末60側のハイブリッド回路50で跳ね返って受話側に入って伝送されるエコーを消去する。受話ボイス・スイッチ30により、検出された送話信号のレベルを基にエコー・キャンセラ40からの出力信号を減衰する。小信号AGC10により、送話信号が送話側所定レベルより小さいとき、または、送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ検出された受話ボイス・スイッチの出力レベルが受話側所定レベルより大きいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を小さくし、送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ受話ボイス・スイッチの出力レベルが受話側所定レベルより小さいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエコー低減方法と装置に関する。具体的には、相手話者の音声のレベルが小さい場合であっても、明瞭に通話することができるエコー低減方法と装置を提供せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
2線−4線変換方式による送受話信号の伝送においては、自端末からの送話信号が、相手端末側における2線−4線変換をするハイブリッド回路で跳ね返り、遅延を有する4線送話受話伝送路を通じて自端末にエコーとして戻ってくる。このエコーは、送話者にとっては耳障りとなり、その通話を阻害するものとなる。そのため、2線−4線変換の伝送方式では、耳障りなエコーを消去する手段として、エコー・キャンセラおよび受話ボイス・スイッチが用いられている。しかし、エコー・キャンセラおよび受話ボイス・スイッチによっても消去しきれないエコーが残留することもある。
【0003】
そのため、エコー・キャンセラおよび受話ボイス・スイッチでは消去しきれない残留エコーを、受話信号レベルが小さいときにさらに減衰させて抑圧する手段(以下、「小信号AGC」という。)を、エコー・キャンセラおよび受話ボイス・スイッチとともに用いることが、従来より行われており、この小信号AGCを備えたエコー低減装置の従来例の回路構成を、図4に示し説明する。
【0004】
図4において、自分の送話信号は、4線送話受話伝送路100の送話側の遅延DTにより遅延し、相手端末60側のハイブリッド回路50によって破線で示すように跳ね返る。跳ね返った送話信号は、4線送話受話伝送路100の受話側の遅延DRにより遅延し、エコーを消去するための手段を用いないとすると、耳障りなエコーとなって自分に聞こえる。
【0005】
そこで、エコー・キャンセラ40、受話ボイス・スイッチ30および小信号AGC20が、エコーを消去するための手段として配されている。エコー・キャンセラ40は、送話信号の回り込み成分を疑似した疑似エコー信号を送話信号から作成するエコー・キャンセル回路41と、相手端末60よりハイブリッド回路50を介して4線送話受話伝送路100の受話側に送出された受話信号から疑似エコー信号を除去する減算器42とにより構成されている。
【0006】
しかし、エコー・キャンセラ40によりエコーをすべて消去するように調整することは極めて困難であり、しかも、回路規模が大きくなり高価格になるという問題点がある。そこで、エコー・キャンセラ40だけでエコーを消去するのではなく、エコー・キャンセラ40によるエコー消去の不足分を、受話ボイス・スイッチ30および小信号AGC20により補うようにしている。
【0007】
前者の受話ボイス・スイッチ30は、検出した送話信号のレベルを基に受話信号の減衰量を制御する制御信号を出力する送話レベル検出回路31と、送話レベル検出回路31からの制御信号を受けて受話信号を減衰する受話減衰回路32とにより構成されている。そして、受話ボイス・スイッチ30は、4線送話レベル(4線送話受話伝送路100上の送話信号のレベル)が大きいときに4線受話減衰量(4線送話受話伝送路100上の受話信号の減衰量)が大きく、4線送話レベルが小さいときに4線受話減衰量は小さくなるという減衰特性を有している。
【0008】
図5(a)は、受話ボイス・スイッチ30の減衰特性の1例を示すものである。この例では、4線送話レベルの標準レベルを0〜−10dBmとしたとき、4線送話レベルが0〜−10dBmであれば、受話減衰回路32の4線受話減衰量は10dBとし、4線送話レベルが−10〜−20dBmの場合は、4線受話減衰量は4線送話レベルに応じて10〜0dBへほぼ直線的に変化し、4線送話レベルが−20dBm以下の場合は、4線受話減衰量は0dBとなる。
【0009】
このように、受話ボイス・スイッチ30は、送話レベル検出回路31により4線送話レベルを検出して、その検出出力により受話減衰回路32の4線受話減衰量を制御し、4線送話レベルが所定レベルより大きいときに減衰量を大きくし、所定レベルより小さいときに4線受話減衰量を小さくする。これにより、自分に跳ね返るエコーのレベルを低減するようにしている。
【0010】
図4において、小信号AGC20は、検出した受話信号のレベルを基に受話信号の減衰量を制御する制御信号を出力する受話レベル検出回路21と、受話レベル検出回路21からの制御信号を受けて受話信号を減衰する受話減衰回路22とにより構成されている。そして、小信号AGC20は、4線受話レベル(4線送話受話伝送路100上の受話信号のレベル)が大きいときに4線受話減衰量が小さく、4線受話レベルが小さいときに4線受話減衰量が大きくなるという減衰特性を有している。
【0011】
図5(b)は、小信号AGC20の減衰特性の1例を示すものである。この例では、4線受話レベルの標準レベルを0〜−20dBmとしたとき、4線受話レベルが0〜−20dBmであれば、受話減衰回路22の4線受話減衰量は0dBとし、4線受話レベルが−20〜−30dBmの場合は、4線受話減衰量は4線受話レベルに応じて0〜10dBへほぼ直線的に変化し、4線受話レベルが−30dBm以下の場合は、4線受話減衰量は10dBとなる。
【0012】
このように、小信号AGC20は、受話レベル検出回路21により受話減衰回路22の入力レベルを検出して、その検出出力により受話減衰回路22の4線受話減衰量を制御し、受話減衰回路22の入力レベルが所定レベルより大きいときは4線受話減衰量を小さくし、所定レベルより小さいときに4線受話減衰量を大きくする。これにより、4線受話レベルはそのままで、それ以外のエコーやノイズなどを低減するようにしている。
【0013】
図6は、上記の機能を有する小信号AGC20の動作の流れを示すフローチャートである。小信号AGC20には、相手話者信号の有無を判断する動作と、受話減衰回路22の4線受話減衰量を決定する動作とがある。
【0014】
[相手話者信号の有無の判断]
図6において、小信号AGC20は、既に動作を開始しており、受話レベル検出回路21は、検出した4線受話レベルと、設定された、減衰量が変化する範囲である受話遷移レベル範囲(−20〜−30dBm)の最大値ThRMAX(−20dBm)とを比較する(S201)。4線受話レベルがThRMAX以上の場合は(S201Y)、入力された受話信号は相手話者信号であり、エコーは、エコー・キャンセラ40と受話ボイス・スイッチ30とによりほとんど消去されたものと判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは0dBとして(S202)、作業を終了する。
【0015】
ステップS201において、検出した4線受話レベルが受話遷移レベル範囲の最大値ThRMAXよりも小さい場合は(S201N)、入力された受話信号は、相手話者信号ではなくエコー遷移信号もしくはエコーと判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量を決定するためのステップS203に移行する。
【0016】
[受話減衰回路22の4線受話減衰量の決定]
ステップS203では、検出した4線受話レベルと、設定された受話遷移レベル範囲の最小値ThRMIN(−30dBm)とを比較する。4線受話レベルがThRMIN以上の場合は(S203Y)、受話信号はエコー遷移信号と判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは、受話レベルに応じて0から10dBの範囲で設定して(S204)、作業を終了する。
【0017】
ステップS203において、4線受話レベルがThRMINよりも小さい場合は(S203N)、入力された受話信号はエコーと判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは10dBとして(S205)、作業を終了する。
【0018】
つぎに、以上説明したエコー・キャンセラ40、受話ボイス・スイッチ30および小信号AGC20を備えた、図4のエコー低減装置の動作について、図7を併用して説明する。
【0019】
図4において、自分の送話の場合、図示されてはいない自端末側のハイブリッド回路を介して4線送話受話伝送路100上に送出される送話信号の4線送話レベルは、標準レベル0〜−10dBmであり、1例として、図7(a)で●(黒丸)により示すように、−5dBmであるとする。この−5dBmの4線送話レベルは、受話ボイス・スイッチ30の送話レベル検出回路31で検出され、その検出結果から受話減衰回路32が出力する4線受話減衰量は、10dBとなる(図5(a)参照)。
【0020】
他方、自分の送話信号は、相手端末60側のハイブリッド回路50で跳ね返り、図7(a)に示すように、10dB減衰して−15dBmで4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。受話側に入った自分の送話信号は、エコー・キャンセラ40により、図7(a)に示すように、20dB減衰して−35dBmとなり、さらに、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰して−45dBmとなり、小信号AGC20の受話レベル検出回路21に入力される。
【0021】
この−45dBmの入力レベルは、受話レベル検出回路21により検出され、その検出結果に基づく制御を受けた受話減衰回路22により、自分の送話信号は、図7(b)に示すように、10dB減衰されて(図5(b)参照)−55dBmとなる。この−55dBmとなった自分の送話信号が、4線送話受話伝送路100の遅延DT,DRにより、約50ミリ秒以上遅れてエコーとなって自分に届く。しかし、これは聞こえないか、あるいは、聞こえても気にならないレベルである。
【0022】
以上は、自分の送話のときに受話(相手からの送話)がない場合であるが、自分の送話のときに受話がある場合は、受話信号は、4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。4線送話受話伝送路100上に送出される受話信号の4線受話レベルは、標準レベル0〜−20dBmであり、1例として−5dBmであるとすると、受話信号は、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰されて−15dBmとなる。この−15dBmのレベルは、小信号AGC20の受話レベル検出回路21により検出され、その検出結果に基づいて受話減衰回路22では減衰がなく(図5(b)参照)、−15dBmのままの4線受話レベルで自端末側に伝送される。これは、受話者にとっては十分に聞こえるレベルである。
【0023】
他方、自分の送話信号(−5dBm)は、相手端末側のハイブリッド回路50で跳ね返り、10dB減衰して−15dBmで4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。そして、エコー・キャンセラ40で20dB減衰して−35dBmとなり、さらに受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰して、−45dBmとなる。しかし、小信号AGC20の受話減衰回路22では、相手からの受話信号により減衰はなく、−45dBmのままである。この−45dBmの自分の送話信号が、4線送話受話伝送路100の遅延DT,DRにより、約50ミリ秒以上遅れてエコーとなって自分に届くが、−15dBmで届いた相手の音声によりマスクされるので、別段気にならない。
【0024】
以上の説明における小信号AGC20および受話ボイス・スイッチ30の4線送話レベル・4線受話レベルに対する入出力特性を図示すると、図8の通りとなる。図4に示した従来例では、4線受話レベルが小さく受話信号はないと判断されたときは(図8(d))、小信号AGC20による減衰量は、10dBである(図8(c))。これに対して、4線受話レベルが標準レベル(図8(d)では、−5dBm)であり受話信号があると判断されたときは(図8(d))、小信号AGC20による減衰量は、0dBである(図8(c))。
【特許文献1】特開2002−101021号公報
【特許文献2】特開2003−198433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、図4に示した従来例によると、小信号AGC20の減衰量は、送話信号の有無にかかわらず常に一定とされている。自分の送話がある場合は、その間の相手話者からの受話は予定していないが、自分の送話がない場合は、通常は受話を予定している。しかし、図4の従来例では、自分の送話がないときでも、受話信号は一定量減衰される。
【0026】
その結果、自分の送話がないときであって、相手話者の音声のレベルが小さい場合は、さらに小さくなって聞きづらくなり、また、相手話者の音声のレベルが減衰遷移域(受話遷移レベル範囲)であれば、音声のレベルが変動して一定ではないため、音声がふわついて不自然に聞こえるという解決すべき課題が、図4に示した従来例にはあった。
【課題を解決するための手段】
【0027】
そこで、上記課題に照らし、本発明はなされたものである。そのために、本発明では、つぎのような手段を用いるようにした。すなわち、遅延を有する4線送話受話伝送路の送話側を伝送される送話信号が、相手端末側の2線−4線変換をするためのハイブリッド回路で跳ね返って4線送話受話伝送路の受話側に入って伝送されるエコーを、エコー・キャンセラにより消去する。送話信号のレベルを検出し、その検出結果を基にエコー・キャンセラからの出力信号を受話ボイス・スイッチにより減衰する。送話信号のレベルが送話側所定レベルより小さいとき、または、送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ受話ボイス・スイッチからの出力信号のレベルが受話側所定レベルより大きいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を小さくする。送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ受話ボイス・スイッチからの出力信号のレベルが受話側所定レベルより小さいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を大きくする。以上のような手段を用いるようにした。
【発明の効果】
【0028】
本発明によるならば、相手話者信号の4線受話レベルが線路ロスなどにより小さくなったときや、相手話者の音声が小さいあるいは小さくなったときでも、音声が不自然に変動することはなく、明瞭に受話することができる。また、小信号AGCの機能が必要なときは、これを十分に発揮させることができ、エコー・キャンセラ等によっては消去しきれないエコーなどのノイズを減衰することができる。さらには、受話信号の有無を判断するためのしきい値設定の自由度も広がることから、良好な音質の送話受話器を実現することが可能となる。したがって、本発明によりもたらされる効果は、実用上極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明によるエコーの低減は、送話信号が相手端末側の2線−4線変換をするハイブリッド回路で跳ね返って4線送話受話伝送路の受話側に入って伝送されるエコーを、エコー・キャンセラにより消去する。送話信号のレベルを検出し、その検出結果に基づいてエコー・キャンセラからの出力信号を受話ボイス・スイッチにより減衰する。送話信号のレベルが送話側所定レベルより小さいとき、または、送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ受話ボイス・スイッチからの出力信号のレベルが受話側所定レベルより大きいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を小さくする。送話信号のレベルが送話側所定レベルより大きくかつ受話ボイス・スイッチからの出力信号のレベルが受話側所定レベルより小さいときは、受話ボイス・スイッチからの出力信号を減衰する量を大きくする。以下、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明の一実施例の回路構成を、図1に示し説明する。ここで、図1では、図4における構成要素と同一の構成要素については、同じ符号を付している。
【0031】
図1において、本発明によるエコー低減装置が図4に示した従来例と異なるところは、小信号AGC10の構成である。すなわち、図4の従来例における小信号AGC20は、検出した受話信号のレベルを基に受話信号の減衰量を制御する制御信号を出力する受話レベル検出回路21と、受話レベル検出回路21からの制御信号を受けて受話信号を減衰する受話減衰回路22とにより構成されるものであった。
【0032】
これに対して、本発明における小信号AGC10は、受話レベル検出回路21および受話減衰回路22に加えて、4線送話レベルを検出し、その検出結果を基に受話信号の減衰量を制御する制御信号を受話減衰回路22に送出する送話レベル検出回路11を配している。送話レベル検出回路11以外の構成要素および受話ボイス・スイッチ30の入出力特性などは、図4に示した従来例と同じである。
【0033】
そこで、ここにおける小信号AGC10の減衰特性の1例について説明する。4線送話レベルの標準レベルを0〜−10dBmとしたとき、送話レベル検出回路11により検出された4線送話レベルが−10dBm以下の場合と−10dBm以上の場合とで、受話減衰回路22の減衰量は、以下のようにする。
[4線送話レベルが−10dBm以下の場合]
受話減衰回路22の減衰量は0dBとする。
【0034】
[4線送話レベルが−10dBm以上の場合]
受話減衰回路22の減衰量は、4線受話レベルによって異なるものし、それは、図4の従来例における小信号AGC20について図5(b)により説明したところと同じとする。すなわち、4線受話レベルの標準レベルを0〜−20dBmとしたとき、4線受話レベルが0〜−20dBmであれば、受話減衰回路22の減衰量は0dBとし、4線受話レベルが−20〜−30dBmの場合は、受話減衰回路22の減衰量は4線受話レベルに応じて0から10dBへほぼ直線的に変化し、4線受話レベルが−30dBm以下の場合は、受話減衰回路22の減衰量は10dBとなるようにする。
【0035】
図2は、上記の機能を有する小信号AGC10の動作の流れを示すフローチャートである。小信号AGC10には、送話信号の有無を判断する動作と、相手話者信号の有無を判断する動作と、受話減衰回路22の4線受話減衰量を決定する動作とがある。
【0036】
[送話信号の有無の判断]
図2において、小信号AGC10は、既に動作を開始しており、送話レベル検出回路11は、検出した4線送話レベルと、標準レベルとして設定された範囲の最小値ThX(−10dBm)とを比較する(S101)。4線送話レベルがThX以下の場合は(S101Y)、送話信号はないものと判断し、送話信号がなければエコーは発生しないため、受話減衰回路22の減衰量AttAGCは0dBとして(S102)、作業を終了する。
【0037】
ステップS101において、4線送話レベルがThXよりも大きい場合は(S101N)、送話信号があるものと判断し、相手話者信号の有無を判断するためのステップS103に移行する。
【0038】
[相手話者信号の有無の判断]
ステップS103では、受話レベル検出回路21で検出した4線受話レベルと、設定された受話遷移レベル範囲(−20〜−30dBm)の最大値ThRMAX(−20dBm)とを比較する(S103)。4線受話レベルがThRMAX以上の場合は(S103Y)、入力された受話信号は相手話者信号であり、この相手話者信号にエコー・キャンセラ40と受話ボイス・スイッチ30とにより消し残ったエコーがマスクされるため気にならなくなる。受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは、0dBとして(S102)作業を終了する。
【0039】
ステップS103において、4線受話レベルがThRMAXよりも小さい場合は(S103N)、受話信号はエコー遷移信号もしくはエコーと判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量を決定するためのステップS104に移行する。
【0040】
[受話減衰回路22の4線受話減衰量の決定]
ステップS104では、検出した4線受話レベルと、設定された受話遷移レベル範囲の最小値ThRMIN(−30dBm)とを比較する。4線受話レベルがThRMIN以上の場合は(S104Y)、受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは、受話レベルに応じて0〜10dBの範囲で設定して(S105)、作業を終了する。
【0041】
ステップS104において、4線受話レベルがThRMINよりも小さい場合は(S104N)、入力された受話信号はエコーと判断し、受話減衰回路22の4線受話減衰量AttAGCは10dBとして(S106)、作業を終了する。
【0042】
なお、上記の相手話者信号の有無を判断する動作の流れ、および受話減衰回路22の4線受話減衰量を決定する動作の流れは、図4の従来例における小信号AGC20の動作について図6により説明したところと同じである。
【0043】
つぎに、以上のような構成の小信号AGC10を備えた、図1のエコー低減装置の動作について説明する。図1において、自分の送話の場合は、4線送話レベルは標準レベル0〜−10dBmであり、1例として−5dBmとする。この−5dBmの4線送話レベルは、受話ボイス・スイッチ30の送話レベル検出回路31で検出され、その検出結果を基に受話減衰回路32の4線減衰量は10dBとなる(図5(a)参照)。
【0044】
他方、自分の送話信号は、相手端末60側のハイブリッド回路50で跳ね返り、10dB減衰して(図7(a)参照)−15dBmで4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。受話側に入った自分の送話信号は、エコー・キャンセラ40で20dB減衰して(図7(a)参照)−35dBmとなり、さらに受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰して−45dBmとなり、小信号AGC10の受話レベル検出回路21に入力される。
【0045】
この−45dBmの入力レベルは、受話レベル検出回路21で検出され、その検出結果に基づく制御を受けた受話減衰回路22で10dB減衰して(図5(b)参照)−55dBmとなる。この−55dBmとなった自分の送話信号が、4線送話受話伝送路100の遅延DT,DRにより、約50ミリ秒以上遅れて自分に届く。しかし、これは聞こえないか、あるいは、聞こえても気にならないレベルである。
【0046】
自分の送話のときに受話(相手からの送話)がある場合は、受話信号は、4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。4線送話受話伝送路100上に送出される受話信号の4線受話レベルは、標準レベル0〜−20dBmである。1例として−5dBmであるとすると、受話信号は、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰されて−15dBmとなる。この−15dBmのレベルは、小信号AGC10の受話レベル検出回路21により検出され、その検出結果に基づいて受話減衰回路22では減衰がなく(図5(b)参照)、−15dBmのままの4線受話レベルで自端末側に伝送される。これは、受話者にとっては十分に聞こえるレベルである。
【0047】
他方、自分の送話信号(−5dBm)は、相手端末側のハイブリッド回路50で跳ね返り、10dB減衰して−15dBmで4線送話受話伝送路100の受話側に入って伝送される。そして、エコー・キャンセラ40で20dB減衰して−35dBmとなり、さらに受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32で10dB減衰して−45dBmとなる。しかし、小信号AGC20の受話減衰回路22では、相手からの受話信号により減衰はなく、−45dBmのままである。この−45dBmの自分の送話信号が、4線送話受話伝送路100の遅延DT,DRにより、約50ミリ秒以上遅れてエコーとなって自分に届くが、−15dBmで届いた相手の音声によりマスクされるので、別段気にならない。
【0048】
以上の自分の送話があるときの回路動作は、図4に示した従来例による場合と同じである。これに対して、自分の送話がないときは、本発明特有の回路動作をする。すなわち、自分の送話がないときは、4線送話レベルは−20dBm以下であるから、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32の減衰量は0dBである(図5(a)参照)。また、小信号AGC10の受話減衰回路22の減衰量も0dBである(本発明では、4線送話レベルが−10dBm以下の場合は、受話減衰回路22の減衰量は0dB)。したがって、相手話者信号は、減衰のない通常の4線受話レベルで伝送される。
【0049】
自分の送話がないときは、自分に跳ね返るエコーはない。エコーがなければ、エコー・キャンセラ40および受話ボイス・スイッチ30によっては消去しきれないエコーなどのノイズを減衰するための小信号AGC10の機能は、必ずしも必要ではない。そこで、本発明によるエコー低減装置では、自分の送話がないときは、小信号AGC10の機能は不要なものとしたのである。
【0050】
その結果、相手話者信号の4線受話レベルが線路ロスなどにより小さくなったとき、あるいは、相手話者の音声が小さくなったときでも、そのために4線受話レベルが小さくなることはなく、明瞭に受話することができることになる。しかも、必要があれば、小信号AGC10の機能を十分に発揮させることができ、エコー・キャンセラ40等によっては消去しきれないエコーなどのノイズを減衰することができることになる。また、受話信号の有無を判断するためのしきい値の設定の自由度も広がり、全体として良好な音質の送話受話器を実現することができる。
【0051】
以上の説明における小信号AGC10および受話ボイス・スイッチ30の4線送話レベル・4線受話レベルに対する入出力特性を図示すると、図3の通りとなる。本発明では、4線受話レベルが小さく受話信号はないと判断され(図3(d))、かつ、送話信号があるとき(図3(a))のみ、小信号AGC10が動作し、これによる減衰量は10dBとなる(図3(c))。それ以外の送話信号がないとき、および送話信号がありかつ受話信号があるときは、小信号AGC10は動作せず、減衰量は0dBである(図3(c))。この点が、図4の従来例では、受話信号はないと判断されたときは送話信号の有無にかかわらず小信号AGC20の減衰量を常に10dBとしている(図8(c))のと異なるところである。
【0052】
減衰量が0dBであれば、受話信号はそのまま聞こえる。しかし、10dBの減衰があると、受話信号はエコーやノイズと判断され、減衰された受話信号が聞こえる。受話信号が実際にエコーやノイズの場合は、問題はないが、受話信号がレベルが小さい音声であった場合は、問題となる。小さい音声はさらに小さくなってしまう。減衰量の遷移域であれば、音声がふわついて聞こえ不自然なものとなってしまう。図4の従来例では、受話信号がないと判断されると受話信号は常に10dB減衰されるので、このような問題が発生する。
【0053】
これに対して、本発明では、受話信号はないと判断され、かつ、送話信号がないときは、減衰量は0dBとなる。ここにおける「受話信号はないと判断」には、実際に受話信号がない場合だけでなく、受話信号がレベルの小さい音声であるため4線受話レベルが小さく受話信号はないと判断される場合も含むものである。このような受話信号がレベルの小さい音声である場合に、送話信号があったときは、10dB減衰されるので、図4の従来例と同様の現象が起きるが、このときは、送話信号があるので、それほど問題にはならない。
【0054】
しかし、送話信号がない場合には、通常は受話を予定している。図4の従来例では、送話がないときにも10dB減衰するため、送話信号がないときの受話信号について問題を生ずることは、上述の通りである。このような場合、本発明では、減衰量は0dBであるので、受話信号は減衰することなくそのまま聞くことが可能となる。このときは、送話信号はなく消去しきれないエコーは存在しないので、消去しきれないエコーの問題は生じない。また、送話があった場合は、エコー・キャンセラ40および受話ボイス・スイッチ30では消去しきれないエコーの可能性があるが、この消去しきれないエコーを、小信号AGC10によりさらに消去することができる。
【0055】
なお、以上においては、小信号AGC10と受話ボイス・スイッチ30のそれぞれに、送話レベル検出回路11,31および受話減衰回路22,32を配する構成について説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。単一の送話レベル検出回路および受話減衰回路を用いて、受話信号がないと判断されかつ送話信号がないときに減衰量が0dBとなるような構成としてもよい。すなわち、例えば、小信号AGC10の送話レベル検出回路11および受話減衰回路22は配することなく、4線送話受話伝送路100の送話側を伝送される信号のレベルは、受話ボイス・スイッチ30の送話レベル検出回路30のみで行い、4線送話受話伝送路100の受話側を伝送される、エコー・キャンセラ40による処理がなされた信号の減衰は、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32のみで行うとともに、受話レベル検出回路21からの制御信号を、受話ボイス・スイッチ30の受話減衰回路32に入力する回路構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例の回路構成図である。
【図2】図1に示した小信号AGCの動作の流れを示すフローチャートである。
【図3】図1に示した小信号AGCおよび受話ボイス・スイッチの入出力特性図である。
【図4】従来例の回路構成図である。
【図5】図4に示した各受話減衰回路の減衰特性図である。
【図6】図4に示した小信号AGCの動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】図4に示した従来例による送話信号の減衰の様子を説明するための説明図である。
【図8】図4に示した小信号AGCおよび受話ボイス・スイッチの入出力特性図である。
【符号の説明】
【0057】
10 小信号AGC
11 送話レベル検出回路
20 小信号AGC
21 受話レベル検出回路
22 受話減衰回路
30 受話ボイス・スイッチ
31 送話レベル検出回路
32 受話減衰回路
40 エコー・キャンセラ
41 エコー・キャンセル回路
42 減算器
50 ハイブリッド回路
60 相手端末
100 4線送話受話伝送路
DR,DT 遅延

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅延(DT,DR)を有する4線送話受話伝送路(100)の送話側を伝送される送話信号が相手端末(60)側の2線−4線変換をするハイブリッド回路(50)で跳ね返って前記4線送話受話伝送路の受話側に入って伝送されるエコーを消去するためのエコー・キャンセラ処理(40)をし、
前記4線送話受話伝送路の送話側を伝送される送話信号のレベルを検出し、検出された前記送話信号のレベルを基に前記エコー・キャンセラ処理をされた信号を減衰するための受話ボイス・スイッチ処理(30)をし、
前記受話ボイス・スイッチ処理をされた信号のレベルを検出し、前記送話信号のレベルが設定された送話レベルより小さいときおよび前記送話信号のレベルが前記設定された送話レベルより大きくかつ前記受話ボイス・スイッチ処理をされた信号のレベルが設定された受話レベルより大きいときの一方においては前記受話ボイス・スイッチ処理をされた信号を減衰する量を小さくし、前記送話信号のレベルが前記設定された送話レベルより大きくかつ前記受話ボイス・スイッチ処理をされた信号のレベルが前記設定された受話レベルより小さいときは前記受話ボイス・スイッチ処理をされた信号を減衰する量を大きくするための小信号AGC処理(10)をするエコー低減方法。
【請求項2】
遅延(DT,DR)を有する4線送話受話伝送路(100)の送話側を伝送される送話信号が相手端末(60)側の2線−4線変換をするハイブリッド回路(50)で跳ね返って前記4線送話受話伝送路の受話側に入って伝送されるエコーを消去するための、前記送話信号から疑似エコー信号を作成するエコー・キャンセル回路(41)および前記ハイブリッド回路からの出力信号より前記疑似エコー信号を除去する減算器(42)からなるエコー・キャンセラ手段(40)と、
前記4線送話受話伝送路の送話側を伝送される送話信号のレベルを検出するための第1の送話レベル検出回路(31)および前記第1の送話レベル検出回路により検出された前記送話信号のレベルを基に前記エコー・キャンセラ手段からの出力信号を減衰するための第1の受話減衰回路(32)からなる受話ボイス・スイッチ手段(30)を具備したエコー低減装置において、
前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号のレベルを検出する受話レベル検出回路(21)と前記4線送話受話伝送路の送話側を伝送される送話信号のレベルを検出する第2の送話レベル検出回路(11)と前記受話レベル検出回路により検出されたレベルおよび前記第2の送話レベル検出回路により検出されたレベルを基に前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号を減衰する第2の受話減衰回路(22)からなり、前記送話信号のレベルが設定された送話レベルより小さいときおよび前記送話信号のレベルが前記設定された送話レベルより大きくかつ前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号のレベルが設定された受話レベルより大きいときの一方においては前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号を減衰する量を小さくし、前記送話信号のレベルが前記設定された送話レベルより大きくかつ前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号が前記設定された受話レベルより小さいときは前記受話ボイス・スイッチ手段からの出力信号を減衰する量を大きくするための小信号AGC手段(10)とを含むエコー低減装置。
【請求項3】
前記第1および第2の送話レベル検出回路として単一の送話レベル検出回路を用いたものである請求項2記載のエコー低減装置。
【請求項4】
前記第1および第2の受話減衰回路として単一の受話減衰回路を用いたものである請求項2または3記載のエコー低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−212635(P2009−212635A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51666(P2008−51666)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】