説明

エシェリキア・コリおよびサルモネラに対する鳥用混合ワクチン

【課題】エシェリキア・コリ菌およびサルモネラ菌の弱毒化微生物を含むワクチンを投与することによって、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、バンタム、ウズラ、キジおよびハトなどの家禽における細菌性疾患を予防するワクチン組成物の提供。
【解決手段】免疫原的有効量の弱毒化株したエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物および弱毒化株したサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物との組合せ、並びに医薬上許容される担体を含む、鳥用ワクチン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明はサルモネラ菌およびエシェリキア・コリ感染症に対する鳥用混合ワクチンに関する。特に、本発明は、サルモネラ菌およびエシェリキア・コリの変異型生、弱毒化株をそれぞれ含む家禽用ワクチン組成物に関する。本発明はまた、サルモネラ菌およびエシェリキア・コリの弱毒化微生物を含むワクチンを投与することによって、ニワトリを含む家禽における細菌性疾患を予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
養鶏業において、孵化したばかりのヒナはサルモネラ菌に特に感染しやすい。この細菌は糞便物から広がるため、幼若動物では土壌から、また場合によっては汚染された加工飼料から感染することがあり、高い死亡率とそれに伴う深刻な経済的影響をもたらし得る。サルモネラ菌に加え、家禽舎の環境では糞便汚染を通じて多数のエシェリキア・コリ(E. Coli)を維持するため、呼吸器管および腸管を介して家禽の全身性感染を引き起こす。エシェリキア・コリ感染症はエシェリキア・コリ症と称される。その結果生じる菌血症は敗血症に進行し死に至るか、感染症が漿膜表面、心膜、関節および他の臓器に及ぶ。このようにエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌の疾患は、養鶏業にとって深刻な脅威として継続して存在する。
【0003】
サルモネラ菌に対する処置および予防策には、米国特許第6,231,871号B1に開示されるように、サルモネラ症に対する卵での(in ovo)ワクチン投与がある。しかしながら、卵でのワクチン投与は大規模な家禽施設では困難であろう。多くの孵化場では、必要とされる精巧かつ特殊化された卵にワクチン投与する装置が不足している。エシェリキア・コリ感染症に関し、感染素因または環境因子の制御および抗生物質の早期使用は、家禽舎におけるエシェリキア・コリの存在を最少にするために許容される慣行法である。望ましくないことに、テトラサイクリン、カナマイシン、ネオマイシン、セファロチン、ストレプトマイシンおよびエリスロマイシンに対する耐性は高い頻度で観察される。
【0004】
シチメンチョウにおけるエシェリキア・コリ症に対して使用するのに有効な市販の生エシェリキア・コリワクチンは存在するが、ニワトリでの使用に十分適したワクチンの存在については明らかでない。さらに、ニワトリを含む家禽に対して安全かつ有効であり、経済的な投与、例えば孵化後のトリに噴霧または飲水を介した集団適用、に適しているサルモネラ菌およびエシェリキア・コリ感染症のいずれに対しても保護を与えるのに有効な混合ワクチン組成物の存在については明らかでない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ニワトリを含む家禽における、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)を含むサルモネラ菌種並びにエシェリキア・コリに起因する感染症および疾患に対する安全かつ有効なワクチン組成物を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、家禽における、サルモネラ菌種(サルモネラ・ティフィムリウムならびにサルモネラ・エンテリティディス(S. enteritidis)およびサルモネラ.ハイデルベルク(S. heidelberg)などの他の菌を含む)およびエシェリキア・コリに起因する感染症または疾患の予防または改善の方法を提供することである。
【0007】
本発明の特徴は、ワクチン組成物が飲水または噴霧などの集団適用に適することである。
【0008】
本発明の利点は、生ワクチン組成物が宿主中で細胞性および体液性免疫応答の両方を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の開示)
本発明は、安全かつ有効な鳥用ワクチン組成物であって、免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せ、並びに医薬上許容される担体を含む組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、家禽におけるエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌感染症または疾患の予防または改善の方法であって、免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せを家禽に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
本発明の他の目的および特徴は、以下に記載する詳細な説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な記載)
国内家禽における鳥類エシェリキア・コリ症は、血清型O78、O1、O2および特に未分類株を含む強毒のエシェリキア・コリとしばしば関係している。感染症は、しばしば別の家禽の集団疾患(community diseases)への暴露、または集団疾患による感染に続いて、通常、呼吸器管を通じて発症する。ニワトリでは、エシェリキア・コリ症は一般に3〜10週齢のブロイラーに罹患し、高い罹病率および死亡率を伴う。鳥類エシェリキア・コリ症の最も重篤な症状は、心膜炎、肝周囲炎および気嚢炎により特徴付けられる敗血症である。他の問題としては関節炎および蜂巣炎がある。家禽からのエシェリキア・コリ単離体は、例えばアンピリシン、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、ニトロフラン、ナリジキシ酸、ポリミキシンB、スルホンアミドまたはその類似物などの薬剤に対してしばしば抵抗性である。しかしながら、2003年3月27日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託され、ATCC番号PTA−5094を有する株の識別特徴(identifying characteristics)を有する、エシェリキア・コリaroA遺伝子欠失変異微生物、エシェリキア・コリaroA−は、ニワトリを含む家禽における鳥類エシェリキア・コリ症に対するワクチンとしての使用に安全かつ有効である。エシェリキア・コリaroA− PTA−5094ワクチン免疫原は、それをニワトリに投与した場合に、良い細胞性および体液性免疫反応を提供する。さらに、かかるワクチンは容易に製造でき、集団適用、即ち噴霧または飲水を介した投与が可能である。エシェリキア・コリaroA− PTA−5094ワクチンおよびその構築は、本出願と同時に出願した同時係属の特許出願番号______にも記載されており、出展明示により本発明の一部とする。加えて、本発明はさらに、本明細書中に記載した混合ワクチンの一部の免疫原として、欠失変異体、特にaroA欠失変異体を含む他の生、弱毒化エシェリキア・コリ遺伝子変異体が考えられる。
【0013】
国内家禽における感染症のもう1つの重要な原因は、サルモネラ・ティフィムリウム(S. typhimurium)を含むサルモネラ細菌である。孵化したばかりのヒナはサルモネラ菌に特に感染し易く、孵化直後の感染は死亡率が高いため深刻な経済的結果をもたらし得る。多種類のサルモネラ菌がヒトおよび他の動物でも感染症を引き起こすため、家禽におけるサルモネラ菌感染症の制御は特に重要である。生弱毒化サルモネラワクチンがニワトリを保護することが明らかにされた(Cooperら、Microb. Pathog.、9:255−265, 1990; Hassan and Curtis III、Res. Microbial.、141:839−950, 1990)。重要なことには、オーストラリアン・ガバメント・アナリティカル・ラボラトリーズ(Australian Government Analytical Laboratories)に受入番号N93/43266として寄託されているサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1の識別特徴を有する無毒性サルモネラ・ティフィムリウムaroA欠失変異体微生物が、サルモネラ菌感染症および疾患に対して家禽を保護するのに特に有効であることが見出された。前記サルモネラ・ティフィムリウムSTM−1微生物およびその構築は、米国特許第6,231,871号に開示されており、出展明示より本発明の一部とする。加えて、本発明には本明細書中に記載した混合ワクチンの一部の免疫原として、欠失変異体、特にaroA欠失変異体を含む他の生、弱毒化サルモネラ遺伝子変異体がさらに考えられる。
【0014】
卵および経口、例えば強制経口のワクチン投与経路は困難かつ不便であるため、噴霧または飲水を介した集団適用に好適なワクチン組成物が強く望まれていよう。同様に、家禽におけるエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌感染症および疾患に安全かつ有効な単一の混合ワクチン組成物が特に好ましいであろう。しかしながら、単一のワクチン組成物中に1種以上の生物を含ませた場合には、通常、それぞれの生物を別々に投与した場合ほど免疫応答が大きくならない干渉が起こり得る。従って、1種以上の微生物の配合を含むワクチン組成物は、一見して、所望の効果を奏するとは予想されず、また実際に個々の微生物を別々に投与するよりも効果が小さいであろう。
【0015】
意外にも、免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せ、および医薬上許容される担体を含むワクチン組成物が、サルモネラ菌およびエシェリキア・コリに起因する疾患および感染症に対し、家禽を保護するのに安全かつ有効であることが今回見出された。好都合なことに、本発明の組成物は、宿主中の細胞性および体液性免疫応答の両方を誘導できる免疫原として生、無毒性弱毒化微生物を含むが、呼吸器系を介した投与の場合でも安全性を示す。この本質的な安全性により、かなり幼齢であっても、例えば噴霧(例えば、粗い噴霧)もしくは飲水またはその両方の経済的かつ有効な集団適用経路を用いることができる。この特徴がない場合、幼齢なトリの呼吸器粘膜を介した2種の細菌免疫原の投与は該動物にかなり悪影響を及ぼすと予想されるため、この特徴は重要である。
【0016】
混合ワクチン中各々の微生物の免疫原的有効量は、宿主の年齢および大きさ、感染の重篤度、病原体の繁殖能力、投与方法などに応じて変更し得る。一般に、好適な投薬単位あたりの有効量は、エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物の、約10〜1014コロニー形成単位(cfu)であり、好ましくは約5.0x10cfu〜5.0x1010cfu、より好ましくは約3.0x10cfu〜6.0x10cfu、およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の、約10〜1014cfu、好ましくは約5.0x10〜5.0x1010cfu、より好ましくは約2.0x10〜6.0x10cfuであろう。
【0017】
当業者であれば、1回または2回の投薬単位を考慮し得る。2回の投薬単位を選択した場合、ワクチン投与は典型的には孵化後1日目に実施され、再び約1〜2週齢で実施される。投薬単位は、望ましくは、一羽あたり約0.5〜1mLのワクチンを、その分量ではなく本明細書中に記載した各々の微生物の免疫原的有効量を運搬するのに最適化することができる。
【0018】
本発明の組成物での使用に好適なエシェリキア・コリおよびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物は、アミノ酸もしくはビタミンまたは他の不可欠な分子の生合成経路における突然変異の導入によって改変されたエシェリキア・コリまたはサルモネラ・ティフィムリウム微生物であってもよく;好ましくはその突然変異はアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンから選択される1個またはそれ以上のアミノ酸の生合成に影響を及ぼし;より好ましくは、芳香族ビタミン生合成経路における突然変異の導入によって;さらに好ましくはaro経路(aropathway)、特にaroA遺伝子中における突然変異の導入によって、改変されたエシェリキア・コリまたはサルモネラ・ティフィムリウム微生物であってもよい。エシェリキア・コリおよびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の具体例は、それぞれ、2003年3月27日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託され番号PTA−5094が付され、本明細書中でエシェリキア・コリaroA− PTA−5094と称されるエシェリキア・コリaroA−微生物、およびオーストラリアン・ガバメント・アナリティカル・ラボラトリーズに受入番号N93/43266で寄託され、本明細書中でサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1と称されるサルモネラ・ティフィムリウム株STM−1である。
【0019】
本発明ワクチンの一部である遺伝子欠失変異微生物は、当業者であれば利用できる媒体および技術を用いて、連続して継代することができる。連続継代により、より適したワクチン免疫原とするために株をさらに弱毒化できる。およそ10回までの連続継代が考えられ、3〜5回が好ましい。
【0020】
本発明ワクチン組成物中での使用に好適な医薬的に許容される担体は、獣医薬的組成物に好適な任意の慣用液体担体であってよく、組織または細胞培地での使用に好適な平衡塩類溶液、例えば好ましくはリン酸緩衝生理食塩水、より好ましくは蒸留水であってよい。他の好適な培地には乳濁液があろう。また、本発明ワクチンは当分野の技術により抗原性補強されてもよい。ワクチン投与が飲水を介して行われる場合、担体として脱脂粉乳を利用してもよい。脱脂粉乳はワクチンを安定させ、おそらく繁殖能力に影響を及ぼし得る極微量の無機物の作用を中和する。
【0021】
実際に、エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物をサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物と組合わすことができ、この組合わされた微生物を液体担体と混和して、噴霧または飲水の添加物として投与することができる。別には、個々の微生物をそれぞれ液体担体と混和し、次いで噴霧または飲水添加物として投与するために一緒に組み合わせてもよいし、または同時に投与してもよい。
【0022】
従って、本発明はまた、家禽におけるエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌感染症または疾患の予防または改善のための方法であって、免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せを家禽に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明方法での使用に好適な家禽には、ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ガチョウ、バンタム、ウズラ、キジ、ハトなどが含まれ、好ましくは商業上重要な家禽、例えばニワトリ、アヒル、ガチョウおよびシチメンチョウであり、より好ましくは、ニワトリおよびシチメンチョウであり、特に好ましくはニワトリである。
【0024】
エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物は、任意の慣用法により投与することができ、好ましくは養鶏業として経済的に実行可能な方法、例えば噴霧または飲水を介した集団投与により投与できる。
【0025】
本発明方法での使用に好適なエシェリキア・コリおよびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物は、アミノ酸もしくはビタミンまたは他の不可欠な分子の生合成経路における突然変異の導入によって改変されたエシェリキア・コリまたはサルモネラ・ティフィムリウム微生物であってもよく;好ましくはその突然変異はアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンから選択される1個またはそれ以上のアミノ酸の生合成に影響を及ぼし;より好ましくは、芳香族ビタミン生合成経路における突然変異の導入によって;さらに好ましくはaro経路、特にaroA遺伝子中における突然変異の導入によって、改変されたエシェリキア・コリまたはサルモネラ・ティフィムリウム微生物であってもよい。エシェリキア・コリおよびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の具体例は、それぞれエシェリキア・コリaroA− PTA−5094およびサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1の識別特徴を有する微生物である。
【0026】
本発明方法での使用に好適な免疫原的有効量は、宿主の年齢および大きさ、感染の重篤度、病原体の繁殖能力、投与方法などに応じて変更できる。一般に、好適な有効量は、投薬単位当たり約10〜1014cfu、好ましくは約5.0x10cfu〜5.0x1010cfu、より好ましくは約3.0x10cfu〜6.0x10cfuを提供するのに十分なエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物量、および投薬単位当たり約10〜1014cfu、好ましくは約5.0x10〜5.0x1010cfu、より好ましくは約2.0x10〜6.0x10cfuを提供するのに十分なサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物量である。
【0027】
本発明のより明確な理解のために、以下に実施例を記載する。これらの実施例は単に例証であり、本発明の範囲または基本原理をいかようにも限定するものとは解されない。実際に、当業者であれば、本明細書中の説明および記載のものに加えて、本明細書中の下記実施例および上記記載から本発明の種々の改変は明らかとされよう。かかる改変もまた添付の特許請求の範囲内にある。
【実施例】
【0028】
実施例1
aroA遺伝子欠失エシェリキア・コリ変異体の構築
I)受容菌
親生物は、獣医学研究所(VLA)、アドレストン(Addlestone)、サリー州、英国に寄託され、1995年にVLAで血清型を決定された鳥類エシェリキア・コリ症の臨床例から単離されたエシェリキア・コリの鳥類単離体である。親株は、1日齢SPFヒナにおけるそのコロニー形成性、侵入性、持続性および病原性について、並びにその抗生物質感受性パターンについてのイン・ビトロ(in vitro)特徴づけにより、選択された。受容菌株は、形質転換供与菌(100bp欠失したaroAを有するPNG101を含むエシェリキア・コリK12 S17 λ pir)と野生型親株(野生型エシェリキア・コリ単離体EC34195)との間の接合により作製された。
【0029】
II)欠失の特徴づけ
通常の芳香族生合成経路の酵素である3−ホスホエノールピルビルシキメート−5−リン酸合成酵素をコードするaroA遺伝子は、serC−aroAオペロン中のSerCに隣接し且つプロモーターの末端に位置する。受容菌におけるaroA遺伝子機能の喪失により、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、p−アミノ安息香酸(PABA)および2,3−ジヒドロキシ安息香酸を含む芳香族代謝物の要求性となる。脊椎動物の組織中で見られない代謝物であるPABAの要求性は、インビボ(in vivo)増殖を弱めることとなる。
【0030】
III)aroA欠失エシェリキア・コリ変異体の構築
a)PCRプライマーをSrfIおよびBglII制限部位並びに終止コドンが組み込まれるように設計して、前記の単離された家禽エシェリキア・コリO78からaroA遺伝子の5’端および3’端の約650bpの2個別々のPCR産物を増幅する。
【0031】
b)両方のPCR産物をBglIIで2時間消化し、電気泳動を100ボルトで1時間行い、バンドを切り出して、それぞれのバンドをセファグラス バンドプレップ キット(SephaGlas bandprep kit)を用いて精製する。
【0032】
c)同量の各精製PCR産物を混和して、pCR2.1中に連結する。
【0033】
d)aroAを有する連結されたプラスミドはDH5αマキシ−コンピテント(maxi-competent)細胞中に形質転換され、クローニングは制限酵素マッピングおよびPCRにより確認する。
【0034】
e)pCR2.1から欠失を有する全aroA遺伝子をEcorVおよびSpeIを用いて切り出し、次いで精製して、予め消化された(SpeI)自己不活化ベクター(suicide vector)(SacB、pKNG101)に連結し、コンピテントエシェリキア・コリ K12 S17 λ pir中に形質転換され、クローニングは制限酵素マッピングおよびPCRにより確認する。
【0035】
f)供与菌(100bp欠失したaroAを有するpKNG101を含むエシェリキア・コリS17 λ pir)と野生型エシェリキア・コリ単離体との間で接合を行わせる。
【0036】
g)37℃で48時間インキュベートした後に現れたコロニーを、ゲンタマイシンおよびストレプトマイシン並びに芳香族アミノ酸(DLトリプトファン、DLフェニルアラニンおよびDLチロシンのそれぞれ20mg/l)を補充した最少培地に植え継ぐ。個々のコロニーをPCRにより検査する。野生型PCR産物および約100bp小さい変異型PCR産物を産生するコロニーを、更に研究するために維持する。
【0037】
h)一重交叉体を、10%ショ糖を補充したLB−G肉汁培地中で穏やかに攪拌しながら37℃で16時間培養する。一晩培養物の系列希釈物を10%ショ糖を補充したLB−Gプレートに蒔いて、37℃で16時間インキュベートする。
【0038】
i)10%ショ糖LB−Gプレート上で生育したコロニーを、LB−G、LB−G+ゲンタマイシンおよびストレプトマイシンと最少培地のそれぞれに植え継ぎ、37℃で16時間インキュベートする。LB−Gプレート上でのみ生育するコロニー(二重交叉体)を5%羊血液寒天に植え継ぎ、4℃で維持する。
【0039】
IV)中間のクローニングベクター
自己不活化ベクター(SacB、PNG101)は中間のクローニングベクターであった。供与菌(100bp欠失したaroAを有するPNG101を含むS17)と野生型エシェリキア・コリ単離体との間で接合を行った。
【0040】
実施例2
原株(master seed)の調製
エシェリキア・コリaroA−株(実施例1にて構築したもの)をトリプシン大豆寒天プレート上で一度生育させ、トリプシン大豆肉汁培地中にて3回継代する。培養物をガラス瓶中に分け、密閉して凍結乾燥させる。
【0041】
実施例3
ニワトリにおけるエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌感染症に対するエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せの有効性の評価
本評価において、使用するエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物は、上記実施例1および2にて作製されたエシェリキア・コリaroA−株であり、使用するサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物は、米国特許第6,231,871号B1に記載のように調製されたサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1である。
【0042】
本評価の場合、雄雌を混合した103SPF白色レグホーンニワトリを、25羽ずつの2つの群、24羽ずつの2つの群および5羽の1つの対照群(ワクチン接種無し、病原体暴露無し)の、5つの群に分ける。トリを手で選び出し、任意に割り当てられた隔離部屋に置く。各被験群を、12〜13羽含む2つの隔離部屋で飼育する。
【0043】
被験群AおよびB(ワクチン接種あり)に、1日齢で、手動の噴霧器を用いた粗噴霧によりワクチン投与する。1日齢で、各被験群AおよびBのトリは小型容器に一緒にされ、組合わされたエシェリキア・コリおよびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物ワクチンを、調整用量(1羽あたり0.5mL用量につき、目標5.0×10cfuのエシェリキア・コリaroA− PTA−5094および目標5.0×10cfuのサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1)が与えられるまで、トリの頭部に噴霧する。それぞれのワクチン、エシェリキア・コリaroA− PTA−5094およびサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1を滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、そしてワクチン投与する前に一緒に混和する。2週齢で、被験群AおよびBに飲水経路により再度ワクチン投与する。飲水経路によるワクチン投与前の3時間、トリは飲水を奪われる。上記の噴霧投与用に調製された2つのワクチンを測定量の冷蒸留水に加えて、用量当たりワクチンそれぞれにつき5.0×10cfuの終滴定量とする。ワクチン含有水を唯一の飲水源とする。ワクチン含有水が消費されるとすぐに、飲水被験トリを集団から取り出し、標準の飲水源を再開する。
【0044】
6週齢で、被験群A(ワクチン接種あり)および被験群C(ワクチン接種無し)の各トリは、用量当たり5.89×10cfu敵定量の毒性株エシェリキア・コリO78を用いて気管内(IT)経路により病原体暴露される。また、6週齢にて、被験群B(ワクチン接種あり)および被験群D(ワクチン接種無し)の各トリは、用量当たり4.01×10cfuの敵定量のナリジキシン酸耐性株のサルモネラ・ティフィムリウムを用いて強制経口により病原体暴露される。
【0045】
被験群Eは、ワクチン接種および病原体暴露無しである(陰性対照群)。ワクチン接種トリおよび対照トリは、この研究が完了するまで別々の隔離部屋で飼育される。
【0046】
すべてのトリは獣医の管理下にあり自由に飲食可能である。トリは病原体暴露後7日間毎日観察される。病原体暴露後7日間の最終日に、生存しているトリを全て剖検し、群AおよびCを鳥類エシェリキア・コリ症に典型的な障害の存在について調査する。死亡したトリおよび肝周囲炎、心膜炎、気嚢炎、蜂巣炎または関節炎などの明らかな重度の病変のいずれかを示したトリは、エシェリキア・コリ症に対して陽性であるとみなす。そのデータを表Iに示す。
【0047】
群BおよびDを、臓器内のサルモネラ・ティフィムリウムによるコロニー形成について調査する。そのデータを表IIに示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表IおよびIIの結果が示すように、本発明の混合ワクチンの結果として、エシェリキア・コリ感染症に伴うエシェリキア・コリ症およびサルモネラ菌感染の発生率のいずれにおいても顕著な減少が見られる。表IIにおいて、サルモネラ菌コロニー形成の大幅な減少が見られるが、これは感染したトリが減少したことを示し、それにより深刻な疾患に進行しにくくなり、またその卵に疾患が伝播されにくくなることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せ、並びに医薬上許容される担体を含む、鳥用ワクチン組成物。
【請求項2】
担体が組織または細胞培地での使用に好適な平衡塩類溶液である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
担体が蒸留水である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
免疫原的有効量が約5.0x10cfu〜5.0x1010cfuのエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物および約5.0x10cfu〜5.0x1010cfuのサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物を提供するのに十分な量である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物がエシェリキア・コリaroA−微生物である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
微生物がATCC PTA−5094の識別特徴を有するエシェリキア・コリaroA−微生物である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
サルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物がサルモネラ・ティフィムリウムaroA−微生物である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
微生物がサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1の識別特徴を有する微生物である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物がエシェリキア・コリaroA− PTA−5094の識別特徴を有する微生物である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
免疫原的有効量が約3.0x10〜6.0x10cfuのエシェリキア・コリaroA− PTA−5094および約2.0x10〜6.0x10cfuのサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1を提供するのに十分な量である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
家禽におけるエシェリキア・コリおよびサルモネラ菌感染症または疾患の予防または改善の方法であって、免疫原的有効量のエシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物およびサルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物の組合せを該家禽に投与することを含む方法。
【請求項12】
家禽が、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、バンタム、ウズラ、キジおよびハトからなる群から選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
組合せが集団適用にて投与される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物がエシェリキア・コリaroA−微生物であるところの組合せを含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
微生物がエシェリキア・コリaroA− PTA−5094の識別特徴を有する株である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
サルモネラ・ティフィムリウム遺伝子欠失変異微生物がサルモネラ・ティフィムリウムaroA−微生物であるところの組合せを含む、請求項11記載の方法。
【請求項17】
微生物がサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1の識別特徴を有する株である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
エシェリキア・コリ遺伝子欠失変異微生物がエシェリキア・コリaroA−微生物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
エシェリキア・コリ微生物がエシェリキア・コリaroA− PTA−5094の識別特徴を有する微生物である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
免疫原的有効量が約3.0x10〜6.0x10cfuのエシェリキア・コリaroA− PTA−5094および約2.0x10〜6.0x10cfuのサルモネラ・ティフィムリウムSTM−1を提供するのに十分な量である、請求項19記載の方法。

【公開番号】特開2012−131796(P2012−131796A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−15659(P2012−15659)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2006−532983(P2006−532983)の分割
【原出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】