説明

エシェリキア・コリを用いたメナキノン−7の発酵的製造方法

【課題】エシェリキア・コリを用いてメナキノン−7の製造を可能にする方法を提供する。
【解決手段】バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを含むエシェリキア・コリ菌株の細胞を発酵培地中で発酵させ、そしてその際にメナキノン−7が発酵されるエシェリキア・コリ菌株の細胞中に蓄積されることを特徴とする方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エシェリキア・コリを用いたメナキノン−7の発酵的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メナキノン−7は、ビタミンKファミリーに属する。ヒトの栄養でのメナキノンの主要な起源は、腸内生息性の細菌、例えばラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)もしくはエシェリキア・コリ(Escherichia coli)などの細菌である。生化学的には、メナキノンは、特定のグルタミン酸基をカルボキシル化してγ−カルボキシ−グルタミン酸(GLA)とすることに関与している。3個のGLA基を有する有名なタンパク質は、オステオカルシンである。オステオカルシンは、骨芽細胞中で形成され、そして骨中の非コラーゲン性タンパク質の15〜20%を成している。ビタミンK欠乏は、カルボキシル化されていないオステオカルシンをもたらし、それは血漿中に至り、骨代謝の妨害についての重要な指標である。
【0003】
論文により、ヒトにおけるメナキノン−7の補充的供給は、骨形成に良い影響を及ぼす一方で、動脈硬化症に対する予防的作用も有することが示されている。
【0004】
1つの論文により、例えば、ビタミンK供給の減少は骨密度の低下と腰骨折の危険性の増加に関連することが示されている(Feskanich et al.,1999,Am.J.Clin.Nutr.69:74−79)。
【0005】
他の1つの論文において、メナキノン−7と一緒の栄養補給は、オステオカルシンのγ−カルボキシル化の向上をもたらすことが示されている(Tsukamoto,2004,BioFactors 22:5−19)。
【0006】
古典的には、メナキノン−7の製造のためには、当然のように、より高いメナキノン−7の含有率を有するバシラス・サチリス菌株が使用される。この菌株は、アジア地域において納豆の製造のために使用されるため、バシラス・サチリス・ナットウ(Bacillus subtilis natto)もしくはバシラス・ナットウ(Bacillus natto)(Earl et al.,2007,J.Bacteriol.189:1163−1170)という名称も有する。従って、メナキノン−7の製造手法は、バシラス・サチリス・ナットウを用いた大豆の発酵と、それに引き続く納豆からのメナキノン−7の単離である。EP1803820号B1は、代替的な製造手法として、メナキノン−7を産生するバシラス・サチリス菌株の工業的発酵を記載している。該菌株は、引き続き直接的に噴霧乾燥され、そしてメナキノン−7含有のバイオマスとして販売できる。
【0007】
骨粗鬆症及び動脈硬化症に対する予防特性に基づき、ビタミンKを有する食品がますます売り出されている。該添加剤は、例えばメナキノン−4について記載されるのと同様に、食品に添加できるか、又はメナキノン産生乳酸細菌が直接的に食品に含まれていてよい(EP1153548号B1及びEP2076585号)。乳酸細菌、例えばラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(亜種はクレモリス(cremoris)もしくはラクティス(lactis))又はロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)は、主に、メナキノン−8及びメナキノン−9を産生する(Morishita et al.,1999,J.Dairy Sci.82:1897−1903)。
【0008】
それらの細菌は、一般に、種々のイソプレノイド鎖長を有するメナキノンを産生し、そしてこの代謝物によって部分的に分類学的にも区別することができる。バシラス・サチリスは、既に上述したように、主に、メナキノン−7を産生する。
【0009】
バシラス・サチリスに対して、エシェリキア・コリでは、主に、メナキノン−8とメナキノン−9のメナキノンが見出される(CollinsとJones,1981,Microbiological Reviews 45:316−354)。メナキノン生合成に関与するタンパク質の遺伝子は、エシェリキア・コリでは全てが公知である。出発代謝物であるコリスミ酸(トリプトファン生合成の中間物質)及びイソプレニルピロリン酸(IPP)(イソプレノイド生合成の中心的代謝物)から出発して、まず、中間物質である1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトール酸(DHNA)が形成される。それには、酵素のMenF(イソコリスミ酸シンターゼ)、MenD(2−スクシニル−6−ヒドロキシ−2,4−シクロヘキサジエン−1−カルボン酸シンターゼ)、MenC(O−スクシニル安息香酸シンターゼ)、MenE(O−スクシニル安息香酸CoAリガーゼ)及びMenB(ナフトエ酸CoAシンターゼ)が関与している。menAによってコードされるDNHA−プレニルトランスフェラーゼを介して、オクタプレニルピロリン酸単位はDHNAに移される。その際、CO2及びピロリン酸が遊離される。デメチルメナキノン(DMK)が生ずる。最後の生合成工程で、DMKは、S−アデノシルメチオニン依存性のメチルトランスフェラーゼUbiEによってメチル化され、それによりメナキノン−8が生ずる。オクタプレニルピロリン酸は、遺伝子idiと、ispAと、ispBとによってコードされる3種の酵素を用いてIPPから合成される。第一の合成工程において、IPPは、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼIdiによって異性体化され、引き続きそれは、IspAにより触媒される2段階の反応段階を介して伸長され、C15単位となる。全てがオクタプレニルシンターゼIspBによって触媒される、更なる4段階の反応段階において、C40単位のオクタプレニルピロリン酸が合成される。
【0010】
細菌のバシラス・サチリスにおいて、メナキノン生合成は同等に進行する。しかしながら、ヘプタプレニル単位をDHNAに移す主要酵素であるヘプタプレニルトランスフェラーゼは、遺伝的に同定されてもいなければ、生化学的に説明されてもいない。しかしながら、メナキノン−7の製造のための大容量の工業的方法のためには、メナキノン−7生合成遺伝子への遺伝的アクセスは、不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP1803820号B1
【特許文献2】EP1153548号B1
【特許文献3】EP2076585号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Feskanich et al.,1999,Am.J.Clin.Nutr.69:74−79
【非特許文献2】Tsukamoto,2004,BioFactors 22:5−19
【非特許文献3】Earl et al.,2007,J.Bacteriol.189:1163−1170
【非特許文献4】Morishita et al.,1999,J.Dairy Sci.82:1897−1903
【非特許文献5】CollinsとJones,1981,Microbiological Reviews 45:316−354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、エシェリキア・コリを用いてメナキノン−7の製造を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを含むエシェリキア・コリ菌株の細胞を発酵培地中で発酵させ、そしてその際にメナキノン−7が発酵されるエシェリキア・コリ菌株の細胞中に蓄積されることを特徴とする方法によって解決される。
【0015】
該エシェリキア・コリ菌株は、好ましくは名称が挙げられた3種の遺伝子の複数の機能的コピーを含む。好ましくは、前記菌株は、名称が挙げられた3種の遺伝子の1〜700コピーを含む。特に好ましくは、前記菌株は、名称が挙げられた3種の遺伝子の1〜20コピーを含む。それらの遺伝子は、1種以上のプラスミドに存在してよいが、それらは同様に染色体中に組み込まれていてよい。
【0016】
従って、本発明は、同様に、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを含むプラスミドを包含する。かかる産生プラスミドは、メナキノン−7のエシェリキア・コリ中での工業的製造を可能にする。
【0017】
前記の3種の遺伝子は、以下のように定義される:
前記のバシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子は、好ましくは、配列番号1並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された又はヘプタプレニルシンターゼ中のHepSサブユニットの機能を有するタンパク質をコードする変異体によって特徴付けられる。特に好ましくは、前記遺伝子は、配列番号1並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された変異体である。
【0018】
前記のバシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子は、好ましくは、配列番号2並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された又はヘプタプレニルシンターゼ中のHepTサブユニットの機能を有するタンパク質をコードする変異体によって特徴付けられる。特に好ましくは、前記遺伝子は、配列番号2並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された変異体である。
【0019】
その際、好ましくは、一方のタンパク質は、ヘプタプレニルシンターゼ中のHepSサブユニットの機能を有するが、それは、配列番号2を有するhepT遺伝子によってコードされるHepTタンパク質と一緒に、ヘプタプレニルシンターゼ活性を有するヘテロダイマーを形成する場合であり、前記活性は、配列番号1を有する遺伝子によってコードされるHepSと配列番号2を有する遺伝子によってコードされるHepTとからのヘテロダイマーの少なくとも1種のヘプタプレニルシンターゼ活性に相当する。
【0020】
その際、好ましくは、一方のタンパク質は、ヘプタプレニルシンターゼ中のHepTサブユニットの機能を有するが、それは、配列番号1を有するhepS遺伝子によってコードされるHepSタンパク質と一緒に、ヘプタプレニルシンターゼ活性を有するヘテロダイマーを形成する場合であり、前記活性は、配列番号2を有する遺伝子によってコードされるHepTと配列番号1を有する遺伝子によってコードされるHepSとからのヘテロダイマーの少なくとも1種のヘプタプレニルシンターゼ活性に相当する。
【0021】
バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子は、配列番号3並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された又はヘプタプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする変異体によって特徴付けられる。特に好ましくは、前記遺伝子は、配列番号3並びにこの配列の変異体であって、縮重した遺伝子コードによって制約された変異体である。
【0022】
エシェリキア・コリにおける本発明によるヘプタプレニルシンターゼ及びヘプタプレニルトランスフェラーゼの機能は、間接的に、生成物であるメナキノン−7を介して特徴付けることができる。それというのも、エシェリキア・コリの野生型菌株は、メナキノン−7を産生しないからである。検出法としては、実施例5に記載されるHPLC法を使用することができる。
【0023】
好ましくは、メナキノン−7の製造のためには、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを1個のプラスミド上でエシェリキア・コリにおいて発現させることが必要となる。
【0024】
これらの遺伝子の発現は、好ましくは同種もしくは異種のプロモーターによって達成される。異種、という概念は、配列番号1と、配列番号2と、配列番号3によって特徴付けられる遺伝子に対するものである。相応の異種のプロモーターは、例えばエシェリキア・コリ由来のgapA遺伝子のプロモーター又はエシェリキア・コリ由来のtufB遺伝子のプロモーターである。更に、異種のlac−プロモーター、tac−プロモーター、trc−プロモーター、λ−プロモーター、ara−プロモーターもしくはtet−プロモーターは当業者に公知である。
【0025】
好ましくは、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の発現は、エシェリキア・コリ由来のgapA遺伝子のプロモーターによって達成される。
【0026】
従って、本発明によるプラスミドは、好ましくは、上述のプロモーターを含む。その際、該プロモーターは、該1つのプラスミド上で、それらが、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を調節するように存在する。
【0027】
特に好ましくは、該プラスミドは、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子が、エシェリキア・コリ由来のgapAプロモーターの制御下に存在するオペロン構成を含む。かかる構築物を、図1に例示する。
【0028】
しかしながら、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の発現のためのプロモーター領域として、これらの遺伝子の天然の(同種の)プロモーター領域を用いてもよい。
【0029】
バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とが導入されたプラスミドとしては、エシェリキア・コリ内で染色体外で複製され、選択マーカーを含む、全ての使用可能なかつ遺伝子工学的に得られるDNA分子を使用してよい。ここで、例えばエシェリキア・コリ中での高い細胞内コピー数を有するプラスミド(例えばpUC系列のプラスミド、pQE系列のプラスミド、pBluescript系列のプラスミド)、エシェリキア・コリ中での中程度のコピー数を有するプラスミド(例えばpBR系列のプラスミド、pACYC系列のプラスミド)又はエシェリキア・コリ中での低いコピー数を有するプラスミド(例えばpSC101もしくはpBeloBAC11)を使用することができる。
【0030】
好ましくは、エシェリキア・コリ中での中程度のコピー数を有するプラスミド(例えばpBR系列のプラスミド、pACYC系列のプラスミド)が使用される。
【0031】
特に好ましくは、pACYC系列のプラスミドが使用される。
【0032】
メナキノン−7の産生のためには、本発明によるプラスミドは、エシェリキア・コリ菌株に導入される。
【0033】
それは、例えば通常の形質転換法、例えばエレクトロポレーションもしくはCaCl2法などの形質転換法によって行われる。プラスミドを有するクローンは、引き続き抗生物質耐性によって選択される。当業者に公知の選択マーカーは、例えばクロラムフェニコールに対する耐性を取り持つクロラムフェニコール−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンに対する耐性を取り持つネオマイシン−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、テトラサイクリンに対する耐性を取り持つテトラサイクリン排出遺伝子又はアンピシリンとカルベニシリンに対する耐性を取り持つβ−ラクタマーゼ遺伝子である。
【0034】
本発明によるプラスミドの発現に代えて、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を、エシェリキア・コリ菌株の染色体中にも、既に存在するメナキノン生合成遺伝子に加えて又は該遺伝子の代わりに組み込んでよい。組み込み方法としては、好ましくは、当業者に公知の溶原性バクテリオファージを有する系、組み込みプラスミド又は相同組み換えによる組み込みが用いられる。
【0035】
従って、また、本発明は、1個の本発明によるプラスミド又は複数の、好ましくはそれぞれ1個ないし5個の、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の染色体コピーを含むエシェリキア・コリ菌株に関する。
【0036】
本発明によるエシェリキア・コリ菌株を用いたメナキノン−7の産生は、発酵器中で自体公知の方法に従って行われる。
【0037】
発酵器中でのエシェリキア・コリ菌株の培養は、連続培養として、回分培養として、もしくは好ましくは流加培養として行われる。
【0038】
炭素源としては、好ましくは、糖、糖アルコールもしくは有機酸が用いられる。特に好ましくは、本発明による方法では、炭素源として、グルコース、ラクトース、サッカロースもしくはグリセリンが使用される。
【0039】
炭素源の含有率が、発酵中に発酵器内で0.1g/L〜50g/Lの範囲で保持されることが保証される形態で、炭素源を計量供給することが好ましい。特に、0.1g/L〜10g/Lの範囲が好ましい。
【0040】
窒素源としては、本発明による方法では、好ましくはアンモニア、アンモニウム塩もしくはタンパク質加水分解物が使用される。pH調節のための矯正剤(Korrekturmittel)としてアンモニアを使用する場合には、発酵の間に、規則的に、この窒素源を後計量供給する。
【0041】
更なる培地添加剤としては、リン、塩素、ナトリウム、マグネシウム、窒素、カリウム、カルシウム、鉄といった元素の塩を添加してよく、微量に(すなわちμM濃度で)モリブデン、ホウ素、コバルト、マンガン、亜鉛、銅及びニッケルといった元素の塩を添加してよい。
【0042】
更に、有機酸(例えば酢酸塩、クエン酸塩)、アミノ酸(例えばL−ロイシン、D/L−メチオニン)及びビタミン(ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12)を培地に添加してよい。
【0043】
複合栄養源としては、例えば酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉もしくは麦芽エキスを使用してよい。
【0044】
エシェリキア・コリのためのインキュベート温度は、好ましくは28〜37℃であり、特に30〜32℃のインキュベート温度が好ましい。
【0045】
発酵培地のpH値は、発酵の間に、好ましくは5.0〜8.5のpH範囲にあり、特に7.0のpH範囲が好ましい。
【0046】
エシェリキア・コリ菌株のインキュベートは、好気的な、嫌気的なもしくは微好気的な培養条件下で、16時間〜150時間の時間にわたり、かつその都度の菌株に最適な増殖温度の範囲で行われる。特に、48時間〜96時間の培養時間が好ましい。
【0047】
発酵は、好ましくは、好気的なもしくは微好気的な増殖条件下で実施される。
【0048】
培地からのメナキノン−7の分離は、当業者に公知の方法、例えば培地を遠心分離して細胞を分離し、引き続きバイオマスからメナキノン−7を抽出すること、クロマトグラフィーによる精製、生成物の濃縮、配合(Formulierung)もしくは錯化(Komplexierung)などの方法に従って行うことができる。
【0049】
本発明による方法で産生されるメナキノン−7の検出及び定量化は、例えばHPLC法によって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明によるオペロン構築物を図示するものである。
【図2】図2は、メナキノン−7の製造に適したプラスミドpKG82を図示するものである。
【0051】
以下の実施例を用いて、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0052】
実施例1: プラスミドpKG82の構築
a) hepS遺伝子の増幅:
バシラス・サチリス(DSM1088)由来のhepS遺伝子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、Taq DNAポリメラーゼ(ロシュ、マンハイム)を使用しつつ、当業者に公知の通常の作業に従って増幅させた。鋳型としては、バシラス・サチリス菌株DSM1088の染色体DNAが用いられる。プライマーとしては、オリゴヌクレオチドM7−Operon−hepS−for(配列番号4)及びM7−Operon−hepS−rev(配列番号5)を使用した。PCRで得られる、783塩基対の長さを有するDNA断片を、引き続きQIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen、ヒルデン)のDNA吸着ミニカラム(Adsorptionssaeulchen)を用いて製造元の指示に従って精製した。
【0053】
b) hepT遺伝子の増幅:
バシラス・サチリス(DSM1088)由来のhepT遺伝子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、Taq DNAポリメラーゼ(ロシュ、マンハイム)を使用しつつ、当業者に公知の通常の作業に従って増幅させた。鋳型としては、バシラス・サチリス菌株DSM1088の染色体DNAが用いられる。プライマーとしては、オリゴヌクレオチドM7−Operon−hepT−for(配列番号6)及びM7−Operon−hepT−rev(配列番号7)を使用した。PCRで得られる、1075塩基対の長さを有するDNA断片を、引き続きQIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen、ヒルデン)のDNA吸着ミニカラムを用いて製造元の指示に従って精製した。
【0054】
c) 推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の増幅:
バシラス・サチリス(DSM1088)由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、Taq DNAポリメラーゼ(ロシュ、マンハイム)を使用しつつ、当業者に公知の通常の作業に従って増幅させた。鋳型としては、バシラス・サチリス菌株DSM1088の染色体DNAが用いられる。プライマーとしては、オリゴヌクレオチドM7−Operon−pHPTG−for(配列番号8)及びM7−Operon−pHPTG−rev(配列番号9)を使用した。
【0055】
PCRで得られる、966塩基対の長さを有するDNA断片を、引き続きQIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen、ヒルデン)のDNA吸着ミニカラムを用いて製造元の指示に従って精製した。
【0056】
d) エシェリキア・コリ由来のgapAプロモーターの増幅:
エシェリキア・コリW3110(ATCC 27325)由来のgapAプロモーターを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、Taq DNAポリメラーゼ(ロシュ、マンハイム)を使用しつつ、当業者に公知の通常の作業に従って増幅させた。鋳型として、エシェリキア・コリ菌株W3110(ATCC 27325)の染色体DNAを用いた。プライマーとしては、オリゴヌクレオチドM7−Operon−gapA−for(配列番号10)及びM7−Operon−gapA−rev(配列番号11)を使用した。PCRで得られる、319塩基対の長さを有するDNA断片を、引き続きQIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen、ヒルデン)のDNA吸着ミニカラムを用いて製造元の指示に従って精製した。
【0057】
e) 遺伝子hepSと、hepTと、推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の、gapAプロモーターの制御下での、プラスミドベクターpACYC184−LHへのクローニング:
前記のa)、b)、c)及びd)からのDNA断片を、T4−DNAリガーゼ(ロシュ、マンハイム)でのライゲーションバッチの前に、以下の制限エンドヌクレアーゼ(ロシュ、マンハイム)によって切断した:
(I): 前記のa)からの断片を、SacI及びApaIで切断
(II): 前記のb)からの断片を、ApaI及びBfrIで切断
(III): 前記のc)からの断片を、BfrI及びBglIIで切断
(IV): 前記のd)からの断片を、BglII及びPacI(New England Biolabs、フランクフルトアムマイン)で切断
クローニングベクターpACYC184−LH(DSM10172)を、制限エンドヌクレアーゼSacI(ロシュ、マンハイム)及びPacI(New England Biolabs、フランクフルトアムマイン)で切断し、引き続き精製を行った後に、前記の(I)、(II)、(III)及び(IV)からの切断された断片と、1つのライゲーションバッチでライゲーションした(図1を参照)。こうして得られたプラスミドを、サンガーによる配列決定によって、正確な同一性に基づき調査した。完成したメナキノン−7−産生プラスミドは、pKG82と呼称した(図2を参照)。
【0058】
メナキノン−7の産生に使用したプラスミドpKG82は、2009年11月27日にDSMZ(ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)、D−38142 ブラウンシュヴァイク)でDSM23159の番号でブタペスト条約に従って寄託した。
【0059】
実施例2: メナキノン−7−産生菌株の製造
実施例1に記載されるプラスミドpKG82を、CaCl2法によってエシェリキア・コリ菌株W3110(ATCC 27325)の形質転換のために使用した。20mg/Lのテトラサイクリンを有するLBアガープレート上で選択した後に、該プラスミドを形質転換体から再単離し、制限エンドヌクレアーゼで切断し、そして調査した。この菌株を、W3110/pKG82と呼称し、それはメナキノン−7の産生に適している。
【0060】
実施例3: 発酵のためのメナキノン−7−産生菌株の第一の前培養(一日培養(Tageskultur))
グルコースを有する20mLのLB培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl、15g/Lのグルコース;オートクレーブ済み)を、滅菌100mLエルレンマイヤーフラスコ中でテトラサイクリン×HClと混合した(テトラサイクリン×HClの最終濃度:15mg/L;テトラサイクリン×HClのストック溶液:50%のエタノール中で10mg/mL 濾過滅菌済み)。
【0061】
白金耳(Impfoese)を用いて、生産菌株の細胞を、前記アガープレートから、最大でも薄い混濁が確認できるまでだけ取り除いた。前培養は、8時間にわたり、32℃で(菌株W3110及びW3110/pKG82)あるいは30℃で(菌株DSM1088)、かつ150rpmで培養した。
【0062】
実施例4: 発酵のためのメナキノン−7−産生菌株の第二の前培養(一晩培養(Uebernachtkultur))
第二の前培養(一晩培養)は、2Lの発酵器中で、B.Braun Biotech International(メルズンゲン、ドイツ)社のBiostat(登録商標)−B−DCU機器を用いて行った。実施例3からの20mLのLB前培養を、25g/Lのグルコース、0.015g/Lのチアミン×HCl、0.015g/Lのテトラサイクリン×HCl、3g/Lの(NH42SO4、0.25g/LのNaCl、0.9g/LのL−イソロイシン、0.6g/LのD/L−メチオニン、30g/Lのコーンスティープリカー(Roquette、Lestrem、Frankreich)、0.03g/LのCaCl2×2H2O、0.6g/LのMgSO4×7H2O、0.15g/LのNa2MO4×2H2O、2.5g/LのH3BO3、0.7g/LのCoCl2×6H2O、0.25g/LのCuSO4×5H2O、1.6g/LのMnCl2×4H2O、0.3g/LのZnSO4×7H2O、0.15g/LのFeSO4×7H2O、1g/Lのクエン酸Na3×2H2O及び1.7g/LのKH2PO4から成る産生培地980mLの接種のために用いた。培地成分は、滅菌的に2Lの発酵器中に装入した。17時間の培養の間に、温度は、32℃(菌株W3110及びW3110/pKG82)もしくは30℃(菌株DSM1088)に保持し、同様にpH値は、7.0に矯正剤(25%のアンモニア)によって一定に保持した。抑泡剤としては、Struktol J673(Schill+Seilacher、ハンブルク)を、1:6の希釈で滅菌水中で使用した。培養を、無菌の圧縮空気を用いて5容量/容量/分で通気して、400rpmの撹拌機回転数をもって撹拌した。50%の値にまで酸素飽和を下げた後に、回転数は、発酵器の制御ユニットを介して、50%の酸素飽和を得るために、1500rpmの値にまで高めた。酸素飽和は、400rpmで100%の飽和に校正されたpO2−プローブで測定した。発酵器中のグルコース含有率が約5g/Lにまで低下したら、56%(質量/容量)のグルコース溶液の供給を行った。グルコース供給は、6〜12mL/hの流速で行った。その際、発酵器中のグルコース濃度は、0.1g/L〜10g/Lで一定に保持した。グルコース測定は、アナライザーYSI 7100 MBS(YSI、Yellow Springs、オハイオ、USA)をもって行った。
【0063】
実施例5: メナキノン−7の発酵的製造
メナキノン−7の製造は、前記発酵器中で、B.Braun Biotech International(メルズンゲン、ドイツ)社のBiostat(登録商標)−B−DCU機器を用いて行った。主要発酵器に、一晩培養からの100mLの培養(実施例4を参照)を接種した。発酵条件は、実施例4からの前発酵器の条件に相応した。発酵時間は、96時間であった。メナキノン−7の測定は、Suvarna他(2008,Journal of Bacteriology 180,第10巻,第2782頁〜第2787頁)に記載されるように行った。サンプル採取は、それぞれ24時間後、48時間後、72時間後、そして96時間後に行った。
【0064】
該キノン類の分析は、Agilent社(ベーブリンゲン、ドイツ)のHPLC HP 1200で実施した。分離カラムとして、Phenomenex社(アシャッフェンブルク、ドイツ)のLuna C18(2) RP−HPLCカラム 5μ(100mm×4.6mm)を用いた。サンプルは、イソプロパノール−アセトニトリル(1:3[容量/容量])を用いて、温度40℃及び流速0.7mL/分で定組成溶離させた。キノン類は、UVデテクターを用いて、207nm及び280nmの波長で検出した。
【0065】
第1表は、種々の菌株で得られたメナキノン−7の達成された含有率を示している。
【0066】
第1表:
【表1】

【0067】
BTM=生体乾燥重量
[1]=菌株の顕著な発泡に基づき、空気流を、培養8時間後に1容量/容量/分に、かつ撹拌回転速度を、400rpmに制限せねばならなかった。
【0068】
[2]=発酵を72時間後に終えた。
【0069】
[3]=検出できず

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メナキノン−7の製造方法において、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを含むエシェリキア・コリ菌株の細胞を発酵培地中で発酵させ、そしてその際にメナキノン−7が発酵されるエシェリキア・コリ菌株の細胞中に蓄積されることを特徴とする、メナキノン−7の製造方法。
【請求項2】
メナキノン−7をエシェリキア・コリを用いて工業的に製造するためのメナキノン−7−産生プラスミドであって、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とを含むことを特徴とする、メナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項3】
同種もしくは異種のプロモーターを含むことを特徴とする、請求項2に記載のメナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項4】
異種のプロモーターが、エシェリキア・コリ由来のgapA遺伝子のプロモーター又はエシェリキア・コリ由来のtufB遺伝子のプロモーター又はlac−プロモーター、tac−プロモーター、trc−プロモーター、λ−プロモーター、ara−プロモーターもしくはtet−プロモーターであることを特徴とする、請求項3に記載のメナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項5】
バシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子とが、エシェリキア・コリ由来のgapA−プロモーターの制御下に存在するオペロン構築物を含むことを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載のメナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項6】
プラスミドとして、エシェリキア・コリ内で染色体外で複製でき、かつ選択マーカーを含むDNA分子が使用されることを特徴とする、請求項2から5までのいずれか1項に記載のメナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項7】
エシェリキア・コリ内で高い細胞内コピー数を有するプラスミド又はエシェリキア・コリ内で中程度のコピー数を有するプラスミド又はエシェリキア・コリ内で低いコピー数を有するプラスミドが使用されることを特徴とする、請求項6に記載のメナキノン−7−産生プラスミド。
【請求項8】
請求項2から7までのいずれか1項に記載のプラスミドを含むか、又はバシラス・サチリスDSM1088由来のhepS遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来のhepT遺伝子と、バシラス・サチリスDSM1088由来の推定ヘプタプレニルトランスフェラーゼ遺伝子の複数の染色体コピーを含む、エシェリキア・コリ菌株。
【請求項9】
発酵の後に、発酵培地を遠心分離して細胞を分離し、引き続きメナキノン−7を細胞から抽出することによりメナキノン−7を分離し、メナキノン−7をクロマトグラフィーにより精製し、濃縮、配合もしくは錯化を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−160803(P2011−160803A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28324(P2011−28324)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】