説明

エジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法および装置

【課題】 キャビティ内に窒素ガスを送り込むだけでは、どうしても空気を追い出すのに時間がかかっていた。 また、時間をかけたとしても、キャビティ内の空気を完全に追い出すことが出来ない場合もあった。
【解決手段】 射出成形機100の金型111、112によって形成されたキャビティ110aに、エジェクターピン124の周囲を使って減圧しながら、そこにエジェクターピン124の周囲を使って窒素ガスを送り込み、少なくとも金型111、112をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから、その後キャビティ110aに溶融した樹脂を送り込むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法および装置に関する技術であって、更に詳細に述べるならば、エジェクターピンの周囲を使って窒素ガスを送り込む窒素ガス供給回路と、エジェクターピンの周囲を使って減圧を行なう排気回路と、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御をすることが出来るコントローラを配設して、金型によって形成されたキャビティを減圧しながらそこに窒素ガスを送り込むことで、樹脂材料の劣化や酸化物質である黒点の発生や樹脂焼けの発生するのを防止する技術について述べたものである。
【背景技術】
【0002】
従来の、射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法および装置に関する技術として、キャビティ内の空気を窒素雰囲気に置換することが、提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、金型を0.5mm開いた状態まで型締して、窒素ガスを約15秒通過させ、キャビティ内の空気を窒素雰囲気に置換し、こののち完全な型締を行なう技術が示されている。
【特許文献1】特開昭63−178018
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の技術に関しては、以下に示すような多くの課題があった。
【0005】
即ち、キャビティ内に窒素ガスを送り込むだけでは、どうしても空気を追い出すのに時間がかかっていた。
【0006】
更に、時間をかけたとしても、キャビティ内の空気を完全に追い出すことが出来ない場合もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、射出成形機100の金型111、112によって形成されたキャビティ110aに、エジェクターピン124の周囲を使って減圧しながら、そこにエジェクターピン124の周囲を使って窒素ガスを送り込み、少なくとも前記金型111、112をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから、その後前記キャビティ110aに溶融した樹脂を送り込むことを特徴とし、更には、減圧する時点は、前記金型111、112をタッチさせて以降であることを特徴とし、更には、減圧する時点は、前記金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させ、その停止している間であることを特徴とし、更には、停止する時間は、0.01〜4秒であることを特徴とし、更には、減圧する時点は、前記金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態から、そのままの速度で、または移動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであることを特徴とし、更には、隙間は、0.05〜4mmであることを特徴とし、更には、減圧してから窒素ガスを送り込む順で、開始の時期を一寸ずらしたことを特徴とすることによって、上記課題を解決したのである。
【0008】
また本発明は、射出成形機100の金型111、112に位置しているエジェクターピン124の周囲を使って窒素ガスを送り込むことが出来るように形成した窒素ガス供給回路50と、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御することが出来るコントローラを配設したことを特徴とし、更には、エジェクターピン124の周囲を使って減圧することが出来るように形成した排気回路70を配設したことを特徴とし、更には、前記エジェクターピン124のエジェクタープレート121側には、前記金型112の端部に位置させてシールリング131を設けたことを特徴とし、更には、前記エジェクターピン124の外周に、流体が円滑に流れるように溝124aを形成したことを特徴とし、更には、前記コントローラは、前記金型111、112を閉じてタッチする直前の隙間として0.05〜4mmに制御することが可能であり、隙間を確保した状態で一旦停止させている間、または隙間を確保してからタッチするまでの間、またはタッチしている間減圧し窒素ガスを送り込む制御をすることが可能であるであることを特徴とすることによって、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0009】
以上の説明から明らかなように、本発明によって、以下に示すような効果をあげることが出来る。
【0010】
第一に、射出成形機の金型によって形成されたキャビティに、エジェクターピンの周囲を使って減圧しながら、そこにエジェクターピンの周囲を使って窒素ガスを送り込み、少なくとも金型をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから、その後キャビティに溶融した樹脂を送り込むことで、確実にキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0011】
第二に、減圧する時点は、金型をタッチさせて以降であることで、より確実にキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0012】
第三に、減圧する時点は、金型を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させ、その停止している間であることで、一つの応用例としてキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0013】
第四に、停止する時間は、0.01〜4秒であることで、割合短時間でキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0014】
第五に、減圧する時点は、金型を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態から、そのままの速度で、または動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであることで、非常に短時間で確実にキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0015】
第六に、隙間は、0.05〜4mmであることで、窒素ガスの無駄な排出も少なく抑えた状態でキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0016】
第七に、減圧してから窒素ガスを送り込む順で、開始の時期を一寸ずらしたことで、特に確実にキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0017】
第八に、射出成形機の金型に位置しているエジェクターピンの周囲を使って窒素ガスを送り込むことが出来るように形成した窒素ガス供給回路と、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御することが出来るコントローラを配設したことで、射出成形機に構成されている部分を有効に活用してキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0018】
第九に、エジェクターピンの周囲を使って減圧することが出来るように形成した排気回路を配設したことで、射出成形機に構成されている更に別の部分を有効に活用してキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0019】
第十に、エジェクターピンのエジェクタープレート側には、金型の端部に位置させてシールリングを設けたことで、射出成形機の構成に簡単な配慮をするだけでキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【0020】
第十一に、エジェクターピンの外周に、流体が円滑に流れるように溝を形成したことで、射出成形機の構成に簡単な加工を行なうだけでキャビティ内の気体を窒素ガスに置き換えることを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面と共に詳細に説明する。
ここで、図1は、本願発明の窒素ガス供給と排気にエジェクターピンを使用した金型の断面図であり、図2は、本願発明の気体の流れを示した図であり、図3は、排気の詳細を示した図であり、図4は、窒素ガス供給の詳細を示した図である。
【0022】
図1、図2、図3、図4に見られるように、100は射出成形機であって、全てを具体的に図示していないが、型締装置と、射出装置と、コントローラと、これ等の装置を取付けるフレームから構成されている。 但し、コントローラに関しては、別の場所に置くことも考えられる。 所で、型締装置と射出装置に関しては、油圧によるものや電動によるものが考えられるが、本願発明に於いては両者に該当すると考えて良い。 また、型締装置に関しても、直圧式型締装置やトグル式型締装置が考えられるが、この場合も本願発明に於いては両者に該当すると考えて良い。
【0023】
そして、射出成形機100は、型締装置として、成形品を作り出すキャビティ110aを形成した固定金型111と移動金型112より成る金型111、112と、キャビティ110aに溶融樹脂を送り込み固化することで作り出した成形品を突き出すための、エジェクターピン124やスプールエジェクターピン123やエジェクタープレート121やエンドプレート122やエジェクターロッド126やエジェクター板127やエジェクトシリンダー128等から構成されている。
【0024】
加えて、具体的に図示していないが、型締装置としては、固定金型111を取付ける固定盤は射出側に位置し、フレームにボルトで固定されている。 更に、移動金型112を取付ける可動盤はタイバーにガイドされて、金型111、112の開閉動作を行なっている。 尚、タイバーは固定盤と可動盤を支えて金型111、112開閉動作のガイドをしていて、トグル式型締装置の型締めをした場合には、このタイバーが伸びて後の弾性回復力によって型締力を発生させている。 そして、金型111、112を開閉し、型締力を発生させるのは型締シリンダーであり、直圧式型締装置の場合には、ピストンが直接可動盤に接続されていて、トグル式型締装置の場合には、この間にトグルリンク機構があってこれにより力の拡大を行なっている。
【0025】
また、具体的に図1に示していないが、コントローラが、この金型111、112が開閉するのに際して、開閉の時点や、金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させる時点または位置や、キャビティ110aに溶融樹脂を送り込む時点や送り込む量の確保(時間または位置)や、その他にも各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて色々な制御をすることが出来るように構成しているのである。
【0026】
更に、射出成形機100には、その他にも射出装置として、ノズルの部分も含めて可塑化シリンダーや、射出シリンダーや、スクリュー駆動装置や、移動シリンダーや、ホッパーや、旋回台等も構成しているが、本発明には直接関係ないので図1には具体的に示していない。
【0027】
この場合、可塑化シリンダーはバレルとスクリュー等から成っている。 そして、バレルに於いて、外周部には内部を加熱して樹脂を溶融する複数のヒータが、先端部にはヘッドが、更に内側には回転可能でかつ軸方向に対して移動可能にはめあわされたスクリューが位置している。 また、スクリューの先端側には、押し金や逆流防止リングやスクリューヘッドを配設している。
【0028】
尚、可塑化シリンダーを構成しているバレルの比較的後方の上部には、樹脂の材料であるペレットを貯留しているホッパーが位置していて、樹脂を可塑化シリンダーに落下させた後に、スクリューがスクリュー駆動装置の回転によって前方に送ることが可能なようになっている。 即ち、ホッパーから供給されてくる樹脂材料をヒータによって加熱して、可塑化シリンダー内に構成されているスクリューがスクリュー駆動装置の回転によって溶融と混錬を繰り返しながら、その溶融樹脂をスクリューの後退により可塑化シリンダーの先端部内に計量し、所定量の溶融樹脂が計量されると、スクリューの回転を停止して、同じく可塑化シリンダーによってスクリューが前進させられることにより、計量された溶融樹脂を金型111、112に射出することで送り込むことが可能となっているのである。
【0029】
また、射出シリンダーは、スクリューを前進させると同時に、コントローラと共に射出圧力や背圧や射出速度を制御することを可能とし、スクリュー駆動装置は、スクリューに回転を与える油圧モータより成り、移動シリンダーは、金型111、112のスプール110xにノズルをタッチさせたり離したりするのに設けられている。
【0030】
一方、金型111、112は、スプール110xとランナー110yとキャビティ110aを形成することによって、可塑化シリンダーから射出された溶融樹脂が、スプール110xとランナー110yを通ってキャビティ110aに送り込まれるようになっているのである。 この場合、キャビティ110aに送り込まれた溶融樹脂が冷却して固化すると、成形品として取出すことが可能になるのである。
【0031】
所で、樹脂を溶融して成形する射出成形機100に於いては、樹脂が溶融している間の酸化が問題となっている。 具体的には、樹脂の劣化や酸化物質である黒点の発生や樹脂焼けの発生等の問題である。 更には、ガスが成形品に焼きついたり、ヤニが成形品に付着したり、ガス抜き(ベント)にヤニが詰まったりしたり、ヂーゼル効果による成形品の焼け等、色々の問題を発生する。 また、発生したガスは金型のキャビティ110aのコーナー部に留まりやすく、注入された樹脂が届かず、成形品のコーナー部が鋭角にならず、いわゆるダルな状態となる。 これがCDデスク、DVDデスク等の転写性を阻害する原因となっているのである。
【0032】
そして、この酸化が発生するのは、樹脂の材料であるペレットの周りに空気を含んで樹脂を溶融し混錬する可塑化シリンダーによる「可塑化工程」と、この「可塑化工程」で作り出された溶融樹脂を金型111、112の間に挟まれた空気の満ちた状態のキャビティ110a内に射出する「射出工程」である。 尚、本願発明では、この「射出工程」に於ける酸化を防ぐことを目的とするものである。
【0033】
ここで、移動金型112を取付けている可動盤は、型締シリンダーの往復運動を使用することや、時には電動モーターの回転運動を往復運動に変換させたものを使用することで、その作動を行なっている。 そして、「射出工程」ではそのキャビティ110aに可塑化シリンダーで溶融し混錬された溶融樹脂が射出されるようになっているのである。 この場合、図1、図2に於いては、二つのキャビティ110aが見られるが、一つでも三つでもそれ以上の数でも構わない。
【0034】
尚、キャビティ110aに送り込まれた溶融樹脂が冷却して固化すると成形品として取出すことが可能になるのであるが、同様に固化したスプール110xやランナー110yと共に、エジェクターピン124とスプールエジェクターピン123によって突き出すことが可能となっている。 尚、エジェクターピン124とスプールエジェクターピン123は、エジェクタープレート121に一体になっていて、エジェクターロッド126が押し出されると、エジェクタープレート121を介してエジェクターピン124とスプールエジェクターピン123を押し出すようになっている。
【0035】
一方、エジェクターロッド126が引き下がると、バネ125によりエジェクタープレート121が引き下がり、同時にエジェクターピン124とスプールエジェクターピン123は元に戻るのである。 この場合、エジェクターロッド126は、エジェクター板127を介してエジェクトシリンダー128によって作動させているのである。 尚、エジェクトシリンダー128は、シリンダー128bとピストンロッド128aから構成されていて、このピストンロッド128aがエジェクター板127と接続することで、往復運動を伝えるようになっているのである。
【0036】
所で、本願発明は、従来から射出成形機100で使われていた、エジェクターピン124の部分を使用したことである。 即ち、移動金型112である金型112の側には、固定金型111と移動金型112の間に形成したキャビティ110aに位置する成形品を突き出すことを目的とするエジェクターピン124を配設しているが、そのエジェクターピン124の周囲の隙間を使って、キャビティ110a内を減圧することが出来るようにしているのである。 また、そのエジェクターピン124の周囲の隙間を使って、キャビティ110aに窒素ガスを送り込むことが出来るようにしているのである。
【0037】
この場合、移動金型112のエジェクターピン124が収納されている部分の周囲となる穴の所に、即ちエジェクターピン124の概ね外周と、移動金型112の端面の排気口70aとの間に、排気回路70を形成しているのである。 そして、排気口70aを介して、排気チューブ60が接続していて、図2には具体的に示していないが、その端部には真空ポンプや真空エジェクター等の減圧を目的とする減圧手段を接続している。 この場合、当然のことながら排気チューブ60の途中には、減圧を開始したり停止したりする電磁弁を位置させている。 そして、電磁弁は、コントローラに接続していて、コントローラによって開閉の制御を行なうことを可能としているのである。
【0038】
また、移動金型112のエジェクターピン124が収納されている部分の周囲となる穴の所に、即ちエジェクターピン124の概ね外周と、移動金型112の端面の窒素ガス入口50aとの間に、窒素ガス供給回路50を形成しているのである。 そして、窒素ガス入口50aを介して、窒素ガスチューブ40が接続していて、図2には具体的に示していないが、その先端では窒素ガス発生装置に接続していて、その途中には窒素ガスの流れを開閉させる電磁弁を位置させている。 尚、電磁弁は、後に述べるコントローラに接続していて、コントローラによって開閉の制御を行なうことを可能としている。
【0039】
ここで、窒素ガス発生装置に関しては、液体窒素ガスや、分離膜方式によるものや、PSA方式によるもの等色々の方法を考えることが出来る。 また、圧力を高める為の増圧弁等の増圧装置も、配設することは可能と考えて良い。
【0040】
尚、一つのキャビティ110aに対して複数のエジェクターピン124が収納されている場合には、前述の内容が達成されるが、一つのキャビティ110aに対して一つのエジェクターピン124が収納されている場合には、窒素ガス供給回路50と排気回路70を兼用することも考えられる。 当然のことながらその際には、減圧を行なってから、その後窒素ガスを供給するという配慮は必要である。
【0041】
所で、減圧や窒素ガスの供給に関係する全てのエジェクターピン124のエジェクタープレート121の側には、その摺動部である隙間より気体が洩れるのを防止する目的で、移動金型112の端部に位置させてシールリング127を設けている。
【0042】
更に、移動金型112のエジェクターピン124が収納されている穴の部分と、エジェクターピン124周囲との隙間が狭い場合には、流体が円滑に流れるようにエジェクターピン124の外周に中心線と平行な状態で溝124aを形成することも考えられる。尚、溝124aの数に関しては、図3、図4に於いては、三本のものを示しているが、一本でも、二本でも、四本でも、それ以上でも構わない。 また、溝124aに関しては、中心線と平行ということにこだわる必要は無く、螺旋状ということも考えられる。
【0043】
さて、具体的に図示していない中で、これまでにも色々な形でコントローラについて述べてきたが、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御することが出来るようになっている。
【0044】
そこで先ず、コントローラは、計時や計算や記憶等の機能を持っている。 従って、開始からの累計の時間を求めることや、ある時点からある時点までの時間を求めることや、これ等の時間を記憶するようなことは複数件であっても可能であり、その値を使用して計算を行なうことも得意とする所である。
【0045】
次に、コントローラは、金型111、112が閉じてタッチした状態と、全開の状態までを考えた時、金型111、112のタッチした状態を零点として、一方金型111、112が全開の状態(距離)を含めて、更に移動金型112である金型112のタッチした状態の零点からの任意の距離を設定することを可能としている。 この場合、設定という意味としては、単純にはリミットスィッチを設定したいと思っている各々の場所に位置させるということも考えられるし、全開の状態の位置(長さ)等の予め知られている値と型締シリンダーを流れる作動油の流量(速度)と時間を含めた計算によって求めることも可能である。
【0046】
更に、コントローラは、作動油を流す配管の途中に電磁弁を位置させてコントローラと接続し、作動油を送ったり止めることを電磁弁の開閉ということで行い、それによってその先に接続しているシリンダーを作動させたり停止させることをコントローラで制御することも可能なのである。 この事は、減圧と窒素ガスを送り込むことでも、同じことが言える。
【0047】
従って、キャビティ110aにエジェクターピン124の周囲を使って減圧しながらそこに窒素ガスを送り込むということや、金型111、112をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから溶融した樹脂を送り込むことや、減圧する時点は金型111、112をタッチさせて以降であることや、減圧する時点は金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させている間であることや、停止する時間は0.01〜4秒であることや、減圧する時点は金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態からそのままの速度でまたは移動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであることや、隙間は0.05〜4mmであることや、減圧してから窒素ガスを送り込む順で開始の時期を一寸ずらしたことに関しては、前述の内容を組み合わせると可能となるのである。
【0048】
本発明による、エジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法および装置は前述したように構成されており、以下にその動作について詳細に説明する。
【0049】
一般には、射出成形機100の動作としては、先ず可塑化シリンダーが樹脂をスクリューの回転とヒータの加熱による溶融によって混錬した状態で計量しながら貯留し(可塑化工程)、次に金型111、112を閉じ(型閉工程)、更に溶融樹脂を固定金型111と移動金型112の間に形成されたキャビティ110aに射出し(射出工程)、最後に固化した状態の成形品として作り出している(型開工程)。
【0050】
ここに別の観点も加えて述べていくと、射出成形機100の動作としては、実態としては前述の動作を複合して組み込まれていて、「可塑化工程」を完了し計量された状態から(1)「型閉工程」が行なわれる。 この場合、本願発明に於いては、この「型閉工程」が中心を成すものであり、一つの例としては、「型閉工程」の開始から、当初は低速で、途中で高速に、再び低速に、最終部分は弱い力で閉じることが考えられる。 引き続いて、(2)「型締工程」によって、金型111、112のタッチ完了時に金型111、112は強い力で締付け、更に(3)「ノズルタッチ」ということで、射出装置を前進させてノズルが金型111、112に押付けるようにしている。
【0051】
そこで、次の(4)「射出工程」では、スクリューをピストンの役目をもたせながら前進させ、スクリューの前方に溜まった溶融樹脂を金型111、112の間に形成されているキャビティ110aに射出する。 この場合、溶融された樹脂の温度は高くて、金型111、112の温度は低いので、射出された樹脂は金型111、112に接触した部分から冷却されて固化するが、収縮やへこみや気泡等を発生させる可能性が有るので、保圧(二次圧)ということで射出圧をしばらくの間かけ続けて溶融樹脂を補給することが大切な事である。
【0052】
このとき、逆流防止リングは押し金の前端部に押付けられることにより、貯留中の溶融樹脂はホッパー側に逆流するのを防止している。 従って、バレル内の逆流防止リングより前方は高圧になるが、逆流防止リングより後方はそれほど高圧にはならない。 また、逆流防止リングより後方は、材料供給口に近づくほど未溶融樹脂の割合が増加し、材料供給口の近傍は未溶融樹脂だけになり、未溶融樹脂が容易に分散移動し易い状態になっている。
【0053】
そして、金型111、112内のキャビティ110aに射出された溶融樹脂は、冷却されて固化するまで時間がかかるので、この間を使って(5)「可塑化工程」に於いて可塑化シリンダーによって樹脂を溶融している。
【0054】
詳細に述べるならば、この「可塑化工程」に於いては、加熱を目的として配設されたヒータに通電するとともに、スクリューをスクリュー駆動装置の回転運動によって回転駆動されることにより、ホッパー内の樹脂は、バレルの材料供給口を通り、更にスクリューの螺旋溝に沿って前方のノズル側に移送され、加熱及びせん断作用によって溶融されて混錬し、スクリューヘッドの前側の溶融樹脂貯留部に順次貯留される。 この間、貯留部の溶融樹脂の圧力によりスクリューは後退させられる。 所定量の溶融樹脂が貯留されると、スクリューの回転が停止して、「可塑化工程」が終了する。
【0055】
更に、(6)「射出装置後退」を行なってノズルが金型111、112によって冷却されるのを防止する目的で射出装置を金型111、112より離脱させてから、(7)「型開工程」によって金型111、112を開いて成形品を落下させるのであるが、大半の場合エジェクターピン124によって成形品を突出す方法を取っている。 そして最後に、(8)「停止」ということで一定の時間の間所定量の溶融樹脂が貯留された状態のままで射出成形機100の作動を停止して、安全や品質の確保を図っている。 但し、「ノズルタッチ」と「射出装置後退」の両方、及び、「停止」に関しては、必要に応じて省略するということも考えられる。
【0056】
ここで、本発明に於いては、金型111、112を閉じて、溶融樹脂を可塑化シリンダーから射出し、金型111、112の間に形成されているキャビティ110a内に溶融樹脂を充満してから、溶融樹脂を冷却し、その後金型111、112を開いて、最終的に成形品をエジェクターピン124によって突出すことでキャビティ110aより取出すことを繰り返す中に於いて、真空ポンプや真空エジェクター等の減圧を目的とする減圧手段を作動させ、電磁弁を開放の状態にすることで、図2、図3に見られるように、排気チューブ60での流体440や、排気回路70での流体430や、エジェクターピン124の周囲と接続しているキャビティ110aでの流体420の流れを発生させているのである。この場合、当初は大半の流体440、430、420は大気ということになるが、時間の経過と共に、特に流体420には窒素ガスが混在し、最終的には純度の高い窒素ガスとなる。
【0057】
一方、減圧手段と同時にまたはタイミングを遅らせて窒素ガス発生装置を作動させ、電磁弁を開放の状態にすることで、キャビティ110a内が減圧されていることも併せて、図2、図4に見られるように、窒素ガスチューブ40での窒素ガス400や、窒素ガス供給回路50での流体410や、エジェクターピン124の周囲と接続しているキャビティ110aでの流体420の流れを発生させているのである。 この場合、当然のことながら流体410、420も窒素ガスということになる。 結果として、キャビティ110a内の流体420は、大気から窒素ガスに置き換わることになるのである。
【0058】
従って、本発明に於いては、キャビティ110aの内部は、「型閉工程」の直前の動作である「停止」の動作に於いては大気の状態であることになる。 一方、本願発明の最も関係の深いと見られる「型閉工程」の動作に於いては、二回目の低速時に、又はその後の弱い力で閉じる時に、更に「型締工程」に於いては、強い力で締付けた時に、特に「型閉工程」の弱い力で閉じる時に、時には「射出工程」と併せて以下に述べる動作を行なうことになる。
【0059】
即ち、キャビティ110aにエジェクターピン124の周囲を使って減圧しながらそこに窒素ガスを送り込むということや、金型111、112をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから溶融した樹脂を送り込むことや、減圧する時点は金型111、112をタッチさせて以降であることや、減圧する時点は金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させている間であることや、停止する時間は0.01〜4秒であることや、減圧する時点は金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態からそのままの速度でまたは移動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであることや、隙間は0.05〜4mmであることや、減圧してから窒素ガスを送り込む順で開始の時期を一寸ずらしたことで、窒素ガスの送り込む等である。 尚、前述のこれ等の動作は、複合して行なわれることも十分に考えられる。
【0060】
その事によって、全体としてキャビティ110a内の流体420が減圧状態になり、早い時点にその流体420が実態としては窒素ガスに置き換わることになるのである。 そして、流体420が窒素ガスに置き換わったその時点が、「型締工程」と「ノズルタッチ」を終えて「射出工程」を行なう最も良い時点であると言えるのであり、当然ながらそのタイミングを狙って動作を設定することが望ましい。
【0061】
そうして、減圧してから窒素ガスを送り込むという順で、開始の時期を一寸ずらしたことで、キャビティ110a内の窒素ガスの純度を、より高い状態で入れ替えることが可能となるのである。 特に、減圧する時点は、金型111、112をタッチさせて以降であるという、密閉性を確保していることを重視した発明に於いては、大気を窒素ガスに入れ替える意味で確実に顕著な効果を見ることが出来るのである。 このことに関しては、時間を短縮する意味から、「型締工程」と場合によっては「ノズルタッチ」の動作の時点を含むことも可能である。
【0062】
加えて、減圧する時点は、金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させ、その停止している間であるという、窒素ガスの濃度に多少のバラつきが在っても可とするという発明に於いては、大気を窒素ガスに入れ替える意味でそれなりの効果を見ることが出来るのである。
【0063】
更に、減圧する時点は、金型111、112を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態から、そのままの速度で、または移動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであるという、サイクルタイムを重視する発明に於いては、大気を素早く窒素ガスに入れ替える意味で効果を見ることが出来るのである。 このことに関しては、時間を短縮する意味から、「型締工程」と場合によっては「ノズルタッチ」の動作の時点を含むことも可能である。
【0064】
また、減圧を行わず、窒素ガスの供給だけを行なうということも、特に確保した状態でまたは状態からの場合には有効である。
【0065】
尚、隙間としては、0.1〜2mmとするのが最も望ましいが、狭すぎると制御する面で閉じる際の速度を遅くする必要があるし、広すぎると窒素ガスの洩れということが問題となる。 また、停止する時間としては、1〜2秒とするのが最も望ましいが、短すぎると窒素ガスが充填しない可能性があるし、長すぎるとサイクルタイムが長くなるという問題がおきるのである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明は、エジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法および装置に関する技術であって、更に詳細に述べるならば、エジェクターピンの周囲を使って窒素ガスを送り込む窒素ガス供給回路と、エジェクターピンの周囲を使って減圧を行なう排気回路と、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御をすることが出来るコントローラを配設して、金型によって形成されたキャビティを減圧しながらそこに窒素ガスを送り込むことで、樹脂材料の劣化や酸化物質である黒点の発生や樹脂焼けの発生するのを防止する技術について述べたものであり、成形品の品質の向上を意図したものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】 本願発明の窒素ガス供給と排気にエジェクターピンを使用した金型の断面図
【図2】 本願発明の気体の流れを示した図
【図3】 排気の詳細を示した図
【図4】 窒素ガス供給の詳細を示した図
【符号の説明】
【0068】
40・・・・・・窒素ガスチューブ
50・・・・・・窒素ガス供給回路
50a・・・・・窒素ガス入口
60・・・・・・排気チューブ
70・・・・・・排気回路
70a・・・・・排気口
100・・・・・射出成形機
110a・・・・キャビティ
110x・・・・スプール
110y・・・・ランナー
111・・・・・固定金型(金型)
112・・・・・移動金型(金型)
121・・・・・エジェクタープレート
122・・・・・エンドプレート
123・・・・・スプールエジェクターピン
124・・・・・エジェクターピン
124a・・・・溝
125・・・・・バネ
126・・・・・エジェクターロッド
127・・・・・エジェクター板
128・・・・・エジェクトシリンダー
128a・・・・ピストンロッド
128b・・・・シリンダー
131・・・・・シールリング
400・・・・・窒素ガス
410・・・・・流体
420・・・・・流体
430・・・・・流体
440・・・・・流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機(100)の金型(111、112)によって形成されたキャビティ(110a)に、エジェクターピン(124)の周囲を使って減圧しながら、そこにエジェクターピン(124)の周囲を使って窒素ガスを送り込み、少なくとも前記金型(111、112)をタッチさせた状態で減圧と窒素ガスを送り込むことを終了してから、その後前記キャビティ(110a)に溶融した樹脂を送り込むことを特徴とするエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項2】
減圧する時点は、前記金型(111、112)をタッチさせて以降であることを特徴とする請求項1に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項3】
減圧する時点は、前記金型(111、112)を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態で一旦停止させ、その停止している間であることを特徴とする請求項1に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項4】
停止する時間は、0.01〜4秒であることを特徴とする請求項3に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項5】
減圧する時点は、前記金型(111、112)を閉じてタッチする直前に隙間を確保した状態から、そのままの速度で、または移動速度を遅くしながらタッチする迄の間に行なうものであることを特徴とする請求項1に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項6】
隙間は、0.05〜4mmであることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項7】
減圧してから窒素ガスを送り込む順で、開始の時期を一寸ずらしたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む方法。
【請求項8】
射出成形機(100)の金型(111、112)に位置しているエジェクターピン(124)の周囲を使って窒素ガスを送り込むことが出来るように形成した窒素ガス供給回路(50)と、各種の時間や各種の距離や各種の速度や各種の開閉を含めて制御することが出来るコントローラを配設したことを特徴とするエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む装置。
【請求項9】
エジェクターピン(124)の周囲を使って減圧することが出来るように形成した排気回路(70)を配設したことを特徴とする請求項8に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む装置。
【請求項10】
前記エジェクターピン(124)のエジェクタープレート(121)側には、前記金型(112)の端部に位置させてシールリング(131)を設けたことを特徴とする請求項8または請求項9に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む装置。
【請求項11】
前記エジェクターピン(124)の外周に、流体が円滑に流れるように溝(124a)を形成したことを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む装置。
【請求項12】
前記コントローラは、前記金型(111、112)を閉じてタッチする直前の隙間として0.05〜4mmに制御することが可能であり、隙間を確保した状態で一旦停止させている間、または隙間を確保してからタッチするまでの間、またはタッチしている間減圧し窒素ガスを送り込む制御をすることが可能であるであることを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載のエジェクターピンの周囲を使って射出成形機の金型に窒素ガスを送り込む装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−162854(P2010−162854A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24248(P2009−24248)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000154521)株式会社フクハラ (87)
【Fターム(参考)】