説明

エジェクタ式ヒートポンプサイクル

【課題】冷媒を低流量に絞っても安定的に運転する。
【解決手段】両弁部B1、B2のうち、一方は低流量域で操作量に対する流量が部分的に急増する特性を有する弁部であり、他方は低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部であり、ヒートポンプECU20Aは、冷媒を低流量で制御する場合、一方である膨張弁9の弁部B2は許容しうる最小開度(本実施形態では50ステップ)で固定して、他方であるエジェクタ3の弁部B1を駆動して流量制御を行うようになっている。
これによれば、低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部で流量制御を行うことより、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒減圧手段の役割であるとともに、高速で噴出する作動流体の巻き込み作用によって流体輸送を行う運動量輸送式ポンプであるエジェクタを用いてヒートポンプ運転を行うエジェクタ式ヒートポンプサイクルに関するものであり、特に、冷媒回路中に複数の電動弁が並列に構成されるエジェクタ式ヒートポンプサイクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、エジェクタ下流側蒸発器と、エジェクタ吸引側蒸発器とを組み合わせて、共通の冷却対象空間を冷却するエジェクタ式サイクルがある。下記特許文献1には、この2つの蒸発器による冷却性能の向上を図るため、エジェクタの下流側に接続される第1蒸発器と、エジェクタの冷媒吸引口に接続される第2蒸発器とを備え、第1蒸発器の冷媒蒸発温度に比較して第2蒸発器の冷媒蒸発温度が低くなるようになっており、第1、第2蒸発器により共通の冷却対象空間を冷却するとともに、被冷却空気の流れ方向の上流側に第1蒸発器を配置し、被冷却空気の流れ方向Aの下流側に第2蒸発器を配置するものが示されている。
【特許文献1】特開2005−308384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のエジェクタ式サイクルをヒートポンプサイクルに適用して、低外気温時などで冷媒を低流量にして運転するためには、エジェクタの弁部と絞り機構の弁部との二つの弁部の開度をそれぞれ小さく絞る必要がある。図4は、図3に示す電動式可変エジェクタ3の弁部B1の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有りのニードル弁33aの場合、(b)はシート部テーパー無しのニードル弁33bの場合である。
【0004】
また、図6は、図5に示す電動式膨張弁9の弁部B2の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有りの弁棒93aの場合、(b)はシート部テーパー無しの弁棒93bの場合である。従来、このような電動式可変エジェクタや電動式膨張弁の弁部では、全閉としたときに弁体が孔側と食い付かないよう、弁体のシート部テーパ角度が弁体のシート部制御シート部テーパ角度よりも大きくなるように設定している(図4(a)、図6(a)参照)。
【0005】
そして、図7はエジェクタの流量特性を表すグラフであり、図8は膨張弁の流量特性を表すグラフである。図7、図8中にシート部の流量特性として破線丸で囲った部分において、実線はシート部テーパー有りの場合であり、破線はシート部テーパー無しの場合である。これらのグラフから分かるように、シート部テーパーを設けると開弁し始めだけ比較的立った流量特性となる。
【0006】
そして、低外気温時などで冷媒を低流量に絞って運転しようとすると、この流量特性の立った領域で制御することとなり、1パルス当たりの流量変化が大きいことより、低流量に絞るとヒートポンプサイクルの運転が安定しないという問題点がある。本発明は、この問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、サイクル中に複数の電動弁が並列に構成されるエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することのできるエジェクタ式ヒートポンプサイクルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、
圧縮機(1)から吐出される冷媒の放熱を行う高圧側熱交換器(2)と、
高圧側熱交換器(2)下流側の冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させるとともに冷媒を吸引し、弁部(B1)の開度を可変する電気式の可変エジェクタ(3)と、
圧縮機(1)と高圧側熱交換器(2)と可変エジェクタ(3)とを含む主冷媒循環路(R1)から分岐して設けられ、循環冷媒の一部を可変エジェクタ(3)に導いて吸引させる冷媒分岐通路(R2)と、
冷媒分岐通路(R2)に配置されて冷媒を減圧膨張させるとともに、弁部(B2)の開度を可変する電気式膨張弁(9)と、
電気式膨張弁(9)で減圧された冷媒を蒸発させる低圧側熱交換器(4b)と、
これら冷凍サイクル機器の作動を制御する制御手段(20A)とを備えたエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、
両弁部(B1、B2)のうち、一方は低流量域で操作量に対する流量が部分的に急増する特性を有する弁部であり、
他方は低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部であり、
制御手段(20A)は、冷媒を低流量で制御する場合、一方の弁部は許容しうる最小開度で固定して、他方の弁部を駆動して流量制御を行うようになっていることを特徴としている。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部で流量制御を行うことより、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、一方の弁部は、弁体(33、93)のシート部テーパ角度がその弁体(33、93)の制御部テーパ角度よりも大きく、他方の弁部は、弁体(33、93)のシート部テーパ角度がその弁体(33、93)の制御部テーパ角度と同じであることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、他方の弁部を可変エジェクタ(3)の弁部(B1)としていることを特徴としている。これら請求項2または請求項3に記載の発明によれば、弁体(3h、9c)に設ける食い付き防止用のテーパ−を廃止して微少流量時の制御性を向上しつつコストを抑えることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、サイクルは、冷媒の圧力が臨界圧力以上となる超臨界サイクルであることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、高圧の超臨界サイクルにも適用することが可能である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、サイクルに使用する冷媒は、二酸化炭素(CO)冷媒であることを特徴としている。この請求項6に記載の発明によれば、具体的に使用する冷媒として、二酸化炭素(CO)冷媒が実施容易である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルを、ヒートポンプ装置に適用したことを特徴としている。この請求項6に記載の発明によれば、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することのできるヒートポンプ装置とすることができる。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について添付した図1ないし図9を用いて詳細に説明する。まず図1は、本発明の実施形態に係わるヒートポンプ式給湯装置(以下、給湯装置と略す)の全体構成を示す模式図であり、図2は、図1中のヒートポンプユニット部10A内の機器構成を示す模式図である。また図3は、図2中の電動式可変エジェクタ3の断面構造図であり、図5は、図2中の電動式膨張弁9の断面構造図である。本実施形態は、本発明のエジェクタ式ヒートポンプサイクルを給湯装置に適用したものである。
【0016】
本給湯装置は、図1に示すように、給湯用水を加熱するヒートポンプユニット部10Aと、加熱された高温の湯を貯めると共に給湯部(シャワー、カラン、風呂など)に出湯するタンクユニット部10Bとを有している。また、ヒートポンプユニット部10Aは、ヒートポンプサイクルと、このヒートポンプサイクルの作動を制御する制御手段としてのヒートポンプECU20Aとを有している。
【0017】
ヒートポンプサイクルは、図2に示すように、圧縮機1、高圧側熱交換器としての冷媒水熱交換器2、電気式の可変エジェクタ(以下、エジェクタと略す)3が順次環状に冷媒配管で接続されて主冷媒循環路R1を形成している。また、本実施形態では、エジェクタ3の吐出側には第1蒸発器4aが接続され、この第1蒸発器4aの出口側は気液分離器5を介して圧縮機1の吸入側に接続されている。
【0018】
一方、エジェクタ3の上流側(冷媒水熱交換器2の出口側とエジェクタ3の入口側との間の部位)から冷媒分岐通路R2が分岐され、この冷媒分岐通路R2の下流側はエジェクタ3の冷媒吸引口3bに接続されている。図2中のaaは、冷媒分岐通路R2の分岐点を示す。この冷媒分岐通路R2には電気式膨張弁(以下、膨張弁と略す)9が配置され、この膨張弁9よりも冷媒流れ下流側には低圧側熱交換器としての第2蒸発器4bが配置されている。
【0019】
本実施形態では、これらの内部を流れる冷媒として、二酸化炭素冷媒(以下、CO冷媒と記す)を使用している。圧縮機1は、内蔵される図示しない電動モータによって駆動され、気液分離器5で分離された気相冷媒を吸入して臨界圧力以上に圧縮して吐出する。なお、圧縮機1は、ヒートポンプECU20Aによって稼働およびその冷媒圧縮量(回転数)が制御されるようになっている。
【0020】
冷媒水熱交換器2は、圧縮機1より吐出される高温高圧冷媒(ホットガス)と、後述する貯湯タンク7内から供給される給湯用水との間で熱交換し、放熱作用によって給湯用水を加熱して高温の湯(例えば、目標温度90℃)とするものである。
【0021】
この冷媒水熱交換器2は、冷媒が流れる冷媒流路2aと、給湯用水が流れる給湯用水流路2bとを一体的に有し、冷媒流路2aを流れる冷媒の流れ方向と給湯用水流路2bを流れる給湯用水の流れ方向とが対向するように構成されている。
【0022】
エジェクタ3は、図3に示すように、冷媒水熱交換器2の冷媒流路2aから流入する冷媒の通路面積を小さく絞って冷媒を等エントロピ的に減圧させるノズル部(本発明で言う孔側)3a、ノズル部3aの冷媒噴出口と連通するように配置されて第2蒸発器4bから冷媒を吸引する冷媒吸引口3b、ノズル部3aおよび冷媒吸引口3bの下流側に配置されてノズル部3aからの高速度の冷媒流と冷媒吸引口3bからの吸引冷媒とを混合する混合部3c、および混合部3cの下流側に配置されて冷媒流れを減速して冷媒圧力を上昇させる昇圧部を成すディフューザ部3dを有している。
【0023】
さらに、エジェクタ3にはノズル部3aの冷媒通路面積を可変制御する通路面積調整機構31が設けられている。具体的に通路面積調整機構31は、ノズル部3a内の通路長手方向に移動可能に配置されたニードル弁(本発明で言う弁体)33と、ニードル弁33を移動させる駆動部32とから成っている。
【0024】
このニードル弁33の先端形状は細長く尖った形状となっており、ニードル弁33の根本部は駆動部32に連結され、この駆動部32の操作力にてニードル弁33がノズル部3aの通路に沿って移動する。そして、ニードル弁33の外周面とノズル部3aの最小通路部との間に形成される冷媒通路面積を変更するようになっている。具体的には通路面積を小さくすることで、より大きな減圧を行う。換言すると、通路面積を小さくすることで冷媒の高圧側に対しては圧力を上昇させる。
【0025】
図4は、エジェクタ3の弁部B1(図3参照)の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有りのニードル弁33aの場合、(b)はシート部テーパー無しのニードル弁33bの場合の開弁状態と全閉状態とである。なお、シート部テーパー有りとは、弁部B1を全閉としても孔側であるノズル部3aと弁体であるニードル弁33とが喰い付かないようにしたテーパー角度部のことである(図4(a)のθ1参照)。
【0026】
本実施形態ではエジェクタ3の弁部B1を図4(b)のようなシート部テーパー無しのニードル弁33bとして、ノズル部3a側のシート部テーパ角度とニードル弁33b側のシート部テーパ角度とを同じとしている(図4(b)のθ2参照)。
【0027】
図3の駆動部32は、モータアクチュエータとしてステッピングモータを用いているが、電磁ソレノイド機構やピエゾ素子など、電気的に制御可能な駆動手段であれば他の駆動機構であっても良い。そして、通路面積調整機構31の駆動部32は、ヒートポンプECU20Aからの制御信号によって制御される。なお、ディフューザ部3dの下流側は第1蒸発器4aに接続されている。
【0028】
膨張弁9は、第2蒸発器4bへの冷媒流量の調節作用を成す減圧手段であり、図5に示すように、オリフィス部(本発明で言う孔側)9aと、弁棒(本発明で言う弁体)93とで構成されている。さらに、膨張弁9にはオリフィス部9aの冷媒通路面積を可変制御する通路面積調整機構91が設けられている。具体的に通路面積調整機構91は、オリフィス部9a内の通路軸方向に移動可能に配置された弁棒93と、弁棒93を移動させる駆動部92とから成っている。
【0029】
この弁棒93の先端形状は細長い形状となっており、弁棒93の根本部は駆動部92に連結され、この駆動部92の操作力にて弁棒93がオリフィス部9aの通路に沿って移動する。そして、弁棒93の外周面とオリフィス部9aの最小通路部との間に形成される冷媒通路面積を変更するようになっている。具体的には通路面積を小さくすることで、より大きな減圧を行う。換言すると、通路面積を小さくすることで冷媒の高圧側に対しては圧力を上昇させる。
【0030】
図6は、膨張弁9の弁部B2(図5参照)の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有り(図中のθ3参照)の弁棒93aの場合、(b)はシート部テーパー無し(図中のθ4参照)の弁棒93bの場合の開弁状態と全閉状態とである。なお、本実施形態では膨張弁9の弁部B2を図6(a)のようなシート部テーパー有りの弁棒93aとしている。
【0031】
図5の駆動部92は、モータアクチュエータとしてステッピングモータを用いているが、電磁ソレノイド機構やピエゾ素子など、電気的に制御可能な駆動手段であれば他の駆動機構であっても良い。そして、通路面積調整機構91の駆動部92は、ヒートポンプECU20Aからの制御信号によって制御される。なお、オリフィス部9aの下流側は第2蒸発器4bに接続されている。
【0032】
第1蒸発器(風上側熱交換部)4aと第2蒸発器(風下側熱交換部)4bとは、本実施形態では一体の蒸発器4として構成されている。この蒸発器4は、外気ファン4cによって通風される外気から吸熱して、エジェクタ3および膨張弁9から供給される冷媒を蒸発させる熱交換器である。なお、外気ファン4cは、ヒートポンプECU20Aによって稼働およびその送風量(回転数)が制御されるようになっている。
【0033】
気液分離器5は、第1蒸発器4aより吐出される冷媒を気液分離して、気相冷媒のみを圧縮機1に吸入させるものである。また、図2中の8は、高圧部から流出する冷媒と圧縮機1に吸入される冷媒とを熱交換させる熱回収手段としての内部熱交換器8である。高圧冷媒が流れる高圧冷媒流路8aと、低圧冷媒が流れる低圧冷媒流路8bとを一体的に有し、高圧冷媒流路8aを流れる冷媒の流れ方向と低圧冷媒流路8bを流れる冷媒の流れ方向とが対向するように構成されている。このように、内部熱交換器8を構成していても良い。
【0034】
一方、タンクユニット部10Bは、貯湯タンク7、沸き上げ回路12、給湯回路13、および沸き上げ回路12と給湯回路13との作動を制御するタンクECU20Bを有している。貯湯タンク7は、耐食性に優れた例えばステンレスなどの金属製の容器であり、外周部には図示しない断熱材が配置され、高温の湯を内部に貯めて長時間にわたって保温することができるようになっている。
【0035】
貯湯タンク7の外壁面には図示しない複数の水位サーミスタが縦方向にほぼ等間隔に配置され、貯湯タンク7内に満たされた水あるいは高温の湯の各水位レベルでの温度情報をタンクECU20Bに出力するようになっている。
【0036】
沸き上げ回路12は、水循環量可変手段としてのウォーターポンプ6(ヒートポンプユニット部10A内に配設)によって貯湯タンク7内の水が下側の冷水出口7bから取り出され、冷媒水熱交換器2の給湯用水流路2bで加熱された後、貯湯タンク7上側の温水入口7cに戻す回路となっている。なお、ウォーターポンプ6は、ヒートポンプECU20Aによって稼働およびその循環量(回転数)が制御されるようになっている。
【0037】
給湯回路13は、水道からの水が貯湯タンク7下側の冷水入口7aから貯湯タンク7内に給水されるとともに、貯湯タンク7上側の温水出口7dからユーザーが使う給湯部へ湯を給湯する回路である。なお、給湯回路13には、水道からの水と温水出口7dからの高温水とを混合させて、給湯する湯温をユーザーが所望する温度に調節するための図示しない温度調節弁が設けられている。尚、温度調節弁での調節温度は、タンクECU20Bによって制御されるようになっている。
【0038】
図1に示すように、ヒートポンプECU20AとタンクECU20Bとは通信ライン14で連絡されている。また、タンクECU20Bに給電された電力は、ヒートポンプ用電源リレー部11から電源ライン15を介してヒートポンプECU20Aへ供給されるようになっている。
【0039】
ヒートポンプECU20Aは、ユーザーが設定して図示しないリモコンから入力される設定温度(例えば42℃)信号や図示しない各センサーからの信号に基づき、圧縮機1(実質的には駆動源である電動モータ)、エジェクタ3の駆動部32、外気ファン4c、膨張弁9の駆動部92、ウォーターポンプ6などを通電制御する。
【0040】
次に、本実施形態の運転制御について説明する。図9は、本発明の第1実施形態における制御の流れを示すフローチャートである。本給湯装置が起動されて冷媒の流量制御に入ると、まずはステップS1で低流量制御判定のフラグに0を代入する。そして、次のステップS2〜S4で低流量制御開始判定がなされる。
【0041】
具体的にステップS2では、先のフラグが0であるか否かの判定を行う。その判定結果がYESでフラグが0である場合にはステップS3の次の判定へと進み、判定結果がNOでフラグが1である場合、つまり低流量制御と判定されている場合にはステップS7へと飛んで後述する低流量制御を行うものである。
【0042】
ステップS3では、図示しない外気温センサーで検出される外気温度が所定の閾値Tth(例えば、0℃)以下で低外気温状態であるか否かの判定を行う。ヒートポンプサイクルの運転において、外気温度が低い条件では、外気温度の影響で低圧側の圧力が下がってしまう。
【0043】
このため、弁の開度を小さくすることで、高圧圧力を高くして加熱能力を確保する必要がある。すなわち、低外気温では、必然的に低流量運転となるので、このステップS3は外気温度から低流量運転が必要であるか否かを判定するものである。ステップS3での判定結果がYESで低外気温状態である場合にはステップS4の次の判定へと進み、判定結果がNOで低外気温状態ではない場合にはステップS5へと飛んで通常の中・高流量制御を行い、ステップS2の判定から繰り返すものである。
【0044】
ステップS4では、膨張弁9の開度ステップが所定の閾値Pth(例えば、50ステップ)以下で、弁部B2が閉弁間際の流量特性が立っている領域であるか否かの判定を行う。その判定結果がYESで流量特性の立った領域である場合にはステップS6へと進んで低流量制御を行い、判定結果がNOで流量特性の立った領域ではない場合にはステップS5へと飛んで通常の中・高流量制御を行い、ステップS2の判定から繰り返すものである。
【0045】
つまり、外気温度が低外気温状態で、且つ膨張弁9の開度が閉弁間際の流量特性の立った領域となった場合に低流量制御を行い、この条件に当て嵌まらない場合は通常の中・高流量制御を行うこととなる。
【0046】
次に、ステップS6、S7の低流量制御としての作動を説明する。具体的にステップS6では、低流量制御判定のフラグに1を代入するとともに、初期状態を保存するため、Stepに低流量制御開始時のエジェクタステップを代入して記憶させておく。そしてステップS7では、実際の低流量制御として、膨張弁9は許容しうる最小開度として先の閾値Pthのステップ(例えば、50)で固定し、ニードル弁3hのシート部テーパ角度とノズル部3aのシート部テーパ角度とを同じとしたエジェクタ3の弁部B1で低流量での微調整制御を行うものである。また、フラグの値が1の間は、この低流量制御を継続することとなる。
【0047】
次に、ステップS8、S9の低流量制御解除判定としての作動を説明する。具体的にステップS8では、エジェクタ3の開度ステップが、先のStepに格納してある低流量制御開始時のステップに所定の値ΔPej(低流量制御解除判定用の増分値、例えば、10ステップ)を加えた値よりも大きく開く状態か否かの判定を行う。
【0048】
その判定結果がNOである場合には、このまま低流量制御を継続することとなり、判定結果がYESで、エジェクタ3の開度ステップが上記したように所定の条件よりも開く状態となった場合にはステップS9へと進み、フラグに0を代入するとともに、膨張弁9を閾値Pthよりも所定値ΔPex(低流量制御解除時の増分値、例えば、1ステップ)だけ大きくした開度とし、通常制御としてステップS2の判定から繰り返すものである。
【0049】
次に、本実施形態での特徴と、その効果についてまとめる。まず、両弁部B1、B2のうち、一方は低流量域で操作量に対する流量が部分的に急増する特性を有する弁部であり、他方は低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部であり、ヒートポンプECU20Aは、冷媒を低流量で制御する場合、一方である膨張弁9の弁部B2は許容しうる最小開度(本実施形態では50ステップ)で固定して、他方であるエジェクタ3の弁部B1を駆動して流量制御を行うようになっている。
【0050】
これによれば、低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部で流量制御を行うことより、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することができる。従来のエジェクタと膨張弁との組合せにおいては、両方の弁部のシート部において、弁体のシート部テーパ角度が弁体の制御部テーパ角度よりも大きくなっていた。このため、弁開度を小さくしていくと、流量特性の傾きの立った領域に入って、ヒートポンプの運転が安定しなくなるという問題があった。
【0051】
これは、開弁し始めの流量特性が立った領域では、1ステップの変化に対する流量の変化割合が大きいため、弁の開度を変えた際に圧力が大きく変化してヒートポンプサイクルがハンチングすることが原因である。これに対して従来のヒートポンプサイクルでは、低流量の運転が安定的にできないため、寒冷地などの外気温の低い環境では、充分に加熱能力を発揮することができなかった。
【0052】
また、本発明が対象とするエジェクタ式ヒートポンプサイクルは、電動弁を複数使用している。このため従来は、低流量の限界値が電動弁毎の限界値の和となるため、電動弁が1個のエジェクタ式ヒートポンプサイクルより低流量の限界値が大きくなるという問題点があった。
【0053】
しかし、エジェクタ3のニードル弁33のシート部テーパ角度を小さくしたうえ、ノズル部3aのシート部テーパ角度と同じ角度としたので、低流量制御でのハンチングを回避して、エジェクタ3の弁開度を閉弁まで小さく制御できる。これにより、膨張弁9単独の限界値まで、低流量側の限界を広げることができるので、寒冷地などの外気温の低い環境下でも、充分に加熱能力を発揮できるようになった。
【0054】
また従来、弁体側のシート部テーパ角度の切り替わり位置を管理するために、寸法公差の小さい、精度の高い加工が必要であった。しかし、他方の弁部としてエジェクタ3の弁部B1は、弁体3hのシート部テーパ角度をノズル部3aのシート部テーパ角度と同じとして、この角度の切り替わりを無くすことで加工し易くなり、生産コストを低減することができる。
【0055】
また、当サイクルは、冷媒の圧力が臨界圧力以上となる超臨界サイクルである。これによれば、高圧の超臨界サイクルにも適用することが可能である。また、当サイクルに使用する冷媒は、二酸化炭素(CO)冷媒である。これによれば、具体的に使用する冷媒として、二酸化炭素(CO)冷媒が実施容易である。また、本実施形態では、上述のエジェクタ式ヒートポンプサイクルを、ヒートポンプ装置に適用している。これによれば、冷媒を低流量に絞っても安定的に運転することのできるヒートポンプ装置とすることができる。
【0056】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、膨張弁9をシート部テーパー有りとしてエジェクタ3のシート部テーパーを無くしているが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、エジェクタ3をシート部テーパー有りとして膨張弁9のシート部テーパーを無くしても良い。そして低流量制御時には、シート部テーパーの有るエジェクタ3の弁開度を最小開度で固定して、シート部テーパーを無くした膨張弁9で微調整制御を行うようにしても良い。
【0057】
但し、低流量制御時のハンチング抑制という点で効果は同等であるが、膨張弁9に対してエジェクタ3側の弁開度が大きく運転されるようになって冷媒流路の上流側の第2蒸発器4bが充分に熱交換に寄与しなくなるため、上述した実施形態と比較して本実施例はヒートポンプの加熱能力が劣ることとなる。
【0058】
また、上述の実施形態では、ニードル弁33のシート部テーパ角度をノズル部3aのシート部テーパ角度と同じとしているが、同一角度に限るものではなく、食い付き防止に必要なシート部テーパ角度より小さな違う角度としても良い。また、上述の実施形態では、本発明のエジェクタ式ヒートポンプサイクルをヒートポンプサイクルとして給湯装置に適用しているが、温風暖房や床暖房の暖房装置や乾燥装置、温蔵庫などであっても良いし、冷房装置において除湿運転などの低流量制御に適用しても良い。
【0059】
また、上述の実施形態では、冷媒回路中に可変エジェクタと電動膨張弁との2つの電動弁が並列に構成されているが、冷媒回路中に3つ以上の電動弁が並列に構成されるエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいても、本発明の「シート部テーパのない電動弁で低流量での微調整制御を行う」という技術思想を適用しても良い。
【0060】
また、上述の実施形態では、エジェクタ3の冷媒吐出側に第1蒸発器4aを配設しているが、この第1蒸発器4aの無いエジェクタ式ヒートポンプサイクルであっても良い。また、また、上述の実施形態では、第1蒸発器4aと第2蒸発器4bとを一体として構成しているが別体であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係わるヒートポンプ式給湯装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1中のヒートポンプユニット部10A内の機器構成を示す模式図である。
【図3】図2中の電動式可変エジェクタ3の断面構造図である。
【図4】電動式可変エジェクタ3の弁部B1の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有りのニードル弁3gの場合、(b)はシート部テーパー無しのニードル弁3hの場合である。
【図5】図2中の電動式膨張弁9の断面構造図である。
【図6】電動式膨張弁9の弁部B2の拡大詳細図を示し、(a)はシート部テーパー有りの弁棒9cの場合、(b)はシート部テーパー無しの弁棒9dの場合である。
【図7】エジェクタ3の流量特性を表すグラフである。
【図8】膨張弁9の流量特性を表すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態における流量制御の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1…圧縮機
2…冷媒水熱交換器(高圧側熱交換器)
3…エジェクタ(可変エジェクタ)
3a…ノズル部(孔側)
4b…第2蒸発器(低圧側熱交換器)
9…膨張弁(電気式膨張弁)
9a…オリフィス部(孔側)
20A…ヒートポンプECU(制御手段)
33…ニードル弁(弁体)
93…弁棒(弁体)
B1…エジェクタの弁部(弁部)
B2…膨張弁の弁部(弁部)
R1…主冷媒循環路
R2…冷媒分岐通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機(1)と、
前記圧縮機(1)から吐出される冷媒の放熱を行う高圧側熱交換器(2)と、
前記高圧側熱交換器(2)下流側の冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させるとともに冷媒を吸引し、弁部(B1)の開度を可変する電気式の可変エジェクタ(3)と、
前記圧縮機(1)と前記高圧側熱交換器(2)と前記可変エジェクタ(3)とを含む主冷媒循環路(R1)から分岐して設けられ、循環冷媒の一部を前記可変エジェクタ(3)に導いて吸引させる冷媒分岐通路(R2)と、
前記冷媒分岐通路(R2)に配置されて冷媒を減圧膨張させるとともに、弁部(B2)の開度を可変する電気式膨張弁(9)と、
前記電気式膨張弁(9)で減圧された冷媒を蒸発させる低圧側熱交換器(4b)と、
これら冷凍サイクル機器の作動を制御する制御手段(20A)とを備えたエジェクタ式ヒートポンプサイクルにおいて、
前記両弁部(B1、B2)のうち、一方は低流量域で操作量に対する流量が部分的に急増する特性を有する弁部であり、
他方は低流量域で操作量に対する流量がなだらかな特性を有する弁部であり、
前記制御手段(20A)は、冷媒を低流量で制御する場合、前記一方の弁部は許容しうる最小開度で固定して、前記他方の弁部を駆動して流量制御を行うようになっていることを特徴とするエジェクタ式ヒートポンプサイクル。
【請求項2】
前記一方の弁部は、前記弁体(33、93)のシート部テーパ角度がその弁体(33、93)の制御部テーパ角度よりも大きく、前記他方の弁部は、前記弁体(33、93)のシート部テーパ角度がその弁体(33、93)の制御部テーパ角度と同じであることを特徴とする請求項1に記載のエジェクタ式サイクル。
【請求項3】
前記他方の弁部を前記可変エジェクタ(3)の前記弁部(B1)としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクル。
【請求項4】
前記サイクルは、冷媒の圧力が臨界圧力以上となる超臨界サイクルであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクル。
【請求項5】
前記サイクルに使用する冷媒は、二酸化炭素(CO)冷媒であることを特徴とする請求項4に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクル。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載のエジェクタ式ヒートポンプサイクルを適用したことを特徴とするヒートポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−138971(P2008−138971A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327374(P2006−327374)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】