説明

エスカレータ乗客転倒防止装置

【課題】乗客の身体を支持して転倒を防止するためのエスカレータ乗客転倒防止装置を提供することである。
【解決手段】エスカレータ乗客転倒防止装置は、手摺が斜行する範囲内のみに於いてエスカレータの手摺に固着される固着手段と、固着手段に連結されて乗客の身体を支持する身体支持手段とを備えている。固着手段は、手摺上に置かれる本体部および本体部に設けられて手摺を掴む把持位置および手摺から離れた非把持位置に可動の把持部を有する把持体と、把持体上に設けられて把持体が手摺の斜行部分上に置かれていることを検出する斜行検出装置と、把持体の本体部に設けられ、斜行検出装置により作動されて把持体を把持位置に移動させる作動装置とを備えている。把持体は、本体部と手摺との間に設けられて膨張時に把持位置となって手摺に圧接し、収縮時に非把持位置となって手摺を解放する膨張体を備えている。
【発明の効果】乗客が必要な時にだけ簡単かつ安全に使用でき、小型軽量で携帯が可能。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエスカレータ乗客転倒防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ装置に於ける乗客転倒防止の問題は、従来から認識されていて、乗客がエスカレータ上で転倒しにくくする提案が幾つかあった。例えば、特許文献1には乗り場に移動手摺とは別個の固定手摺を設けて乗り場でも手摺を掴むことができるようにしたものが記載されている。特許文献2には、移動手摺に複数の引っ掛け部を設けて手が滑るのを防ぐものが開示されている。また特許文献3には、手摺が斜行する範囲内のみに於いてエスカレータの手摺に固着される固着手段と、固着手段に連結されて乗客の身体を支持する身体支持手段とを備えていて、例えば乗客側の理由で手摺から手が離れてしまった場合にも乗客の身体を支持して転倒を防止できるようなエスカレータ乗客転倒防止装置が提案されている。更に非特許文献1には、移動手摺を内側に張り出させると共にその側面を大きくして子供でも欄干固定部に触れないようにすることが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−179376号公報
【特許文献2】特開平7−277652号公報
【特許文献3】特開平2007−131369号公報
【非特許文献1】発明協会公開技報91−2356号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のエスカレータ乗客転倒防止装置に於いては、乗客がエスカレータ上で転倒しにくくするのには有効であると考えられるが、いずれも、構造が複雑で重く取り扱いに不便であったり、積極的に乗客の身体を支持して転倒を防止するものではなかったり、乗客個人の専用化ができるものでなかったりして不都合があった。このため、コンパクトで軽量であって、乗客個人が携帯していることもできるような小型で乗客の身体を支持できて転倒を防止できるようなエスカレータ乗客転倒防止装置を開発することが望まれている。
【0005】
従ってこの発明の目的は、乗客の身体を支持して転倒を防止するためのコンパクトで軽量のエスカレータ乗客転倒防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明によれば、エスカレータ上での乗客の転倒を防止するためのエスカレータ乗客転倒防止装置は、手摺が斜行する範囲内のみに於いてエスカレータの手摺に固着される固着手段と、上記固着手段に連結されて乗客の身体を支持する身体支持手段とを備え、上記固着手段が、上記手摺上に置かれる本体部および上記本体部に設けられて手摺を掴む把持位置および手摺から離れた非把持位置に可動の把持部を有する把持体と、上記把持体上に設けられて上記把持体が上記手摺の斜行部分上に置かれていることを検出する斜行検出装置と、上記把持体の上記本体部に設けられ、上記斜行検出装置により作動されて上記把持体を上記把持位置に移動させる作動装置とを備えたエスカレータ乗客転倒防止装置において、上記把持体が、上記本体部と手摺との間に設けられて膨張時に上記把持位置となって手摺に圧接し、収縮時に上記非把持位置となって手摺を解放する膨張体を備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、乗客が必要な時にだけ簡単かつ安全に使用できて、乗客の身体を安全に支持して転倒防止できるエスカレータ乗客転倒防止装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1にはこの発明のエスカレータ乗客転倒防止装置の一例を概略的に示す。図に於いて、エスカレータ乗客転倒防止装置は、エスカレータ上での乗客1の転倒を防止するために、エスカレータの手摺2が斜行する範囲内のみに於いてエスカレータの手摺2に固着される固着手段3と、固着手段3に連結されて乗客1の身体を支持する身体支持手段4とを備えている。
【0009】
図2および図3に良く示されているように、固着手段3は、手摺2上に置かれて手摺2の上面と側面とを部分的に覆うように手摺2に跨ることができるような形状の、全体としてC字型断面を持つ矩形の部材である把持体5を備えている。把持体5は、例えば比較的剛性の高いプラスチック等の材料で作られていて、ほぼ矩形平板状の基板部およびこの基板部から延びた側壁を持つ本体部6と、本体部6の側壁の内面に接着剤等によって取り付けられたエアバッグ等の膨張体7で構成された把持部8とを備えている。
【0010】
図示の例では膨張体7は本体部6の2つの側壁に沿って2つ設けられていて、把持体5を手摺2上に載せたときに、把持部8は、図2および図4に示すように手摺2の湾曲した側部と本体部6の側壁との間に挟まれるように配置されている。膨張体7が膨張すると、図2に示すように手摺2の側面に圧接させられて手摺2を間に挟んで「掴む」ように保持する把持位置となり、膨張体7が収縮すると、図4に示すように手摺2から離れて手摺2に対して相対的な滑動や着脱が自由にできる解放位置となる。膨張体7の内側面には、比較的摩擦が大きく弾性があってエスカレータの手摺2の側面にぴったりと接触させ得る例えば柔軟なプラスチック製の把持パッドを接着しておくことができる。
【0011】
この可動の把持部8を解放位置と把持位置との間で作動させるために、本体部6と把持部8との間に作動装置10が設けられている。作動装置10は、本体部6の下面に設けられたエアポンプ11と、エアポンプ11をエアバッグである膨張体7に接続するパイプ12とを備えている。エアポンプ11は、後に説明する斜行検出装置13(図3にも示されている)からの信号により本体部6に設けられた電源14により附勢され、空気を吸引して圧縮してエアバッグである膨張体7に圧送し、膨張体7を図4の解放位置から図2に示す把持位置に移動させ、手摺2を強い力で掴む。
【0012】
この状態では把持体5は手摺2に摩擦によって強固に固着されることになる。この意味で把持体5、斜行検出装置13および作動装置10は、エスカレータの手摺2に固着される固着手段である。斜行検出装置13からの信号が無くなるとエアポンプ11が消勢されて膨張体7が収縮して図4の解放位置となり、膨張体7と手摺2との間が自由に動けるようになり、把持体5を手摺2の上で摺動させることも、あるいは把持体5を手摺2から完全に取り外すこともできるようになる。
【0013】
斜行検出装置13は、把持体5上に設けられて把持体5が手摺2の斜行部分上に置かれていることを検出する手段である。図5において、エスカレータの無限循環ベルト状の手摺2は、下側乗場(上昇運転の場合の入口)の欄干の下部から現れて半円形の反転部分aを走行して欄干上部の水平部分bとなり、下側遷移部分cを経て斜行部分dに入って踏段とともに移動する。上側乗場(上昇運転の場合の出口)近くなると上側遷移部分eを経て再び水平部分fに入り、反転部分gを通って欄干の下部から戻り経路に入る。この発明で手摺2の斜行部分とは、図5の斜行部分dである。
【0014】
斜行検出装置13は、把持体5の本体部6の内面に設けられ、図6に示すような手摺の傾斜を検出する傾斜感知センサである傾斜スイッチ15を備えている。傾斜スイッチ15は把持体5の長手方向に配置されていて、本体16に互いに離間して設けられた2つの固定接点17および18と、本体16から重力の方向に垂下するように例えば枢着支持されて、固定接点17および18の間に設けられた可動接点19とを備えている。傾斜スイッチ15、従って把持体5が図6に示すように水平姿勢であるときは、垂下した可動接点19は、実線で示すように、2つの固定接点17および18のいずれにも接触しないために導通しない。把持体5がエスカレータの斜行部分dにあって傾斜スイッチ15が傾斜姿勢であるときには、可動接点19が、図6の破線で示すように、重力の方向に相対的に移動するため、2つの固定接点17および18のいずれか(図では左側の固定接点17)に接触してスイッチが導通し、この傾斜スイッチ15の導通状態を知ることにより所定の角度以上の傾斜をしたことが感知できる。
【0015】
斜行検出装置13はまた、把持体5が手摺2上の直線部分上(例えば図5でb、dおよびfの位置)に置かれていることを検出するために、直線部分上では、外部の光が手摺2に遮られて把持体5の内側に届かず暗くなることを利用して、本体部6の中央部内面に設けられたフォトダイオード等の光感知センサ20をも備えている。直線部分以外、例えば遷移部cでは把持体5の中央部と手摺2との間に間隙ができるため把持体5の内側にも光が届くため、把持体5が直線部分上にあるか否かが感知できる。
【0016】
斜行検出装置13は更に、把持体5が手摺2上の直線部分上に置かれていることを検出するために、図3に示すように把持体5の長手方向に離間して複数箇所に設けられ、手摺2により押圧され得て作動するマイクロスイッチ21、22および23をも備えている。図示の例では把持体5の長手方向中心線上に平行に並べて両端と中央に3個のマイクロスイッチ21、22および23が設けられていて、図5の直線部分b、dおよびfの位置に把持体5が置かれているときには、3つのマイクロスイッチ21−23の全てが手摺2の外周面に押圧されて作動し、それ以外の位置では、いずれかが手摺2に押圧されずに作動しないようにされている。従って、3つのマイクロスイッチ21−23のオンオフ状態を監視することにより把持体5が直線部分b、dおよびf上にあるか否かを感知することができる。
【0017】
図示の実施の形態の場合には、斜行検出装置13は、上述の傾斜スイッチ15と、光感知センサ20と、マイクロスイッチ21−23とを備えていて、これらスイッチおよびセンサからの信号が表す把持体5の状態が、傾斜していて、手摺2上に置かれていて、手摺の直線部分上にある場合にだけ、附勢信号を出してエアポンプ11を電源14により駆動し、エアバッグである膨張体7を膨張させて把持部8を図4の解放位置から図2に示す把持位置に移動させて手摺2を掴むようにしてある。それ以外の場合には把持部8は解放位置にあるので手摺2に固着されておらず、手摺2上を摺動させることができ、また手摺2から取り外すこともできる。
【0018】
このような固着手段3は、図示の実施の形態の場合右側の手摺2に一台置かれているが、左右両方の手摺2に一台ずつ配置してもよいし、左右いずれか一本の手摺2に二台の固着手段3を配置することもできる。
【0019】
図示の身体支持手段4は、図1および図2に示されているように、左右いずれかの手摺2に一台取り付けた固着手段3に連結されて乗客1の身体を支持するストラップ24を備えている。ストラップ24は図1に示すように乗客1の手首に巻き付けて使用してもよいし、手首に巻かずに握るようにすることもできる。またこのような固着手段3と身体支持手段4との組合せを各々の手摺2に一つずつ使用することもできる。必要があれば、特許文献3に記載されているような幅の広い帯状の保持体を2つの身体支持手段4と共に使用して、乗客1の腰部分を支持することもできる。ストラップ24には一部を巻き込み固定する長さ調節部25が設けられていて、その長さ調節が可能であるようにしてある。
【0020】
図1に於いて、乗客1が乗り場に立って本発明のエスカレータ乗客転倒防止装置を利用するには、手首あるいは腕にストラップ24を巻き付け、あるいは手でストラップ24を持ちながら、固着手段3を手摺2の水平部分b(図4)に置く。この状態では固着手段3は手摺2に固着されずにその上を滑る。このように滑るのは、固着手段3を進めて遷移部分cに置いても同じである(図4)。
【0021】
乗客1の準備ができたら固着手段3を更に前方に進めて図4で手摺2の斜行部分dに乗せると、先に説明した傾斜スイッチ15と、光感知センサ20と、マイクロスイッチ21−23からの信号が附勢信号となり、エアポンプ11からの空気がパイプ12を通してエアバッグである膨張体7に圧送されて膨張体7が膨張し、把持部8が図4の解放位置から図2に示す把持位置に移動して手摺2を掴む。従って固着手段3は手摺2と共に上昇し、身体支持手段4によって乗客1の身体をストラップ24を介して推進させる。
【0022】
固着手段が上部遷移部に達すると(図4のe)、斜行検出装置13がもはや固着手段3が斜行する範囲内に無いことを検知し、エアポンプ駆動信号が出力されなくなり、把持部8が解放されて再び固着手段3が手摺2上を滑ることができるようになる。必要があれば固着手段3が斜行部分dから出たことを斜行検出装置13が検知したときに、エアポンプ11の作用を逆転させてエアバッグである膨張体7から空気を排出して収縮させることもできる。固着手段3は僅かな摩擦のために手摺2と共に進んで水平部分に至る(図4のf)が、この時点までには乗客1は固着手段3を手摺2上から回収することができる。万一固着手段3が上部の遷移部分(図4の(6))にまで進んで、乗客1がまだエスカレータ上に残っていたとしても、固着手段3は手摺2上を滑るだけであるから何の問題も無い。
【0023】
このように、本発明のエスカレータ乗客転倒防止装置によれば、乗客が必要な時にだけ簡単かつ安全に使用できて、乗客の身体を安全に支持して転倒防止できるエスカレータ乗客転倒防止装置を得ることができる。また固着手段3は手摺2の斜行部分にだけ手摺2に固着され、乗降時には固着手段3が手摺2を解放するので固着手段3がエスカレータの運転を妨げたり、手摺2の移動とともに固着手段3が移動し続けたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】乗客が上昇エスカレータに乗っている場合を示す図であって、この発明のエスカレータ乗客転倒防止装置の実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1のエスカレータ乗客転倒防止装置の固着手段が手摺に装着された状態を示す概略横断面図である。
【図3】図2の固着手段の概略底面図である。
【図4】図2の固着手段の解放位置を示す概略断面図である。
【図5】エスカレータの手摺の様々な部分を固着手段と共に示す動作説明図である。
【図6】固着手段が水平位置の場合の傾斜感知センサを示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 乗客
2 手摺
3 固着手段
4 身体支持手段
5 把持体
6 本体部
7 膨張体
8 把持部
10 作動装置
11 エアポンプ
12 パイプ
13 斜行検出装置
14 電源
15 傾斜スイッチ
16 本体
17、18 固定接点
19 可動接点
20 光感知センサ
21−23 マイクロスイッチ
24 ストラップ
25 調節部
a 反転部分
b 水平部分
c 下側遷移部分
d 斜行部分
e 上側遷移部分
f 水平部分
g 反転部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータ上での乗客の転倒を防止するためのエスカレータ乗客転倒防止装置であって、
手摺が斜行する範囲内のみに於いてエスカレータの手摺に固着される固着手段と、
上記固着手段に連結されて乗客の身体を支持する身体支持手段と、
を備え、
上記固着手段が、
上記手摺上に置かれる本体部および上記本体部に設けられて手摺を掴む把持位置および手摺から離れた非把持位置に可動の把持部を有する把持体と、
上記把持体上に設けられて上記把持体が上記手摺の斜行部分上に置かれていることを検出する斜行検出装置と、
上記把持体の上記本体部に設けられ、上記斜行検出装置により作動されて上記把持体を上記把持位置に移動させる作動装置とを備えたエスカレータ乗客転倒防止装置において、
上記把持体が、上記本体部と手摺との間に設けられて膨張時に上記把持位置となって手摺に圧接し、収縮時に上記非把持位置となって手摺を解放する膨張体を備えたことを特徴とするエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項2】
上記膨張体が、上記本体部の手摺の両側面に対向する面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項3】
上記作動装置が、上記膨張体に流体を圧送するポンプであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項4】
上記ポンプが、逆転可能な空気ポンプであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項5】
上記身体支持手段が、上記固着手段に接続されたストラップであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項6】
上記斜行検出装置が、手摺上の直線部分上に置かれたときに外部の光が手摺に遮られて上記把持体の内側が暗くなることを検出する光感知センサと、手摺の傾斜角度を検出する傾斜感知センサとを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。
【請求項7】
上記斜行検出装置が更に、手摺上の直線部分上に置かれたときに押圧されて作動するマイクロスイッチを備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエスカレータ乗客転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−102119(P2009−102119A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275136(P2007−275136)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】