説明

エスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置及びそれを用いたエスカレータ

【課題】エスカレータのハンドレールの殺菌と洗浄を行う。
【解決手段】ハンドレールと、ハンドレールに対してイオン、またはラジカル、またはUV光を照射するためのプラズマ源と、プラズマ源を収納するための筐体と、プラズマを生成するための電源と、筐体内を相対的に負圧にするためのファンと、ラジカルや、除去した菌やウイルスや手あかなどの有機物を除去するためのフィルタユニットと、前記筐体のハンドレール移動方向の前後に、前記ハンドレールに沿ってフィルタプレートを有するプラズマ殺菌・洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いてエスカレータのハンドレールを滅菌、洗浄をする、プラズマ滅菌、洗浄処理装置及びそれを用いたエスカレータに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータのハンドレールは、一般的に、雑巾がけにより定期的に掃除されている。ハンドレール部分に付着した菌や、ウイルス、手あか等の汚れを除去するニーズの高まりに伴い、雑巾がけを自動的に行う装置が提案されている。また、特許文献1によれば、殺菌目的としてUV光を、エスカレータのハンドレールに照射する方法が提案されている。さらに、特許文献2によれば、大気圧雰囲気でプロセスガスを用いて生成されたプラズマを用いて、エスカレータのハンドレールの乾式洗浄若しくは消毒を行う方法及び装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−520402号公報
【特許文献2】特表2010−536131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エスカレータのハンドレールの掃除手段として、雑巾がけを採用した場合、ハンドレールに付着した菌やウイルスを除去しても、雑巾を頻繁に交換しないと、結果的には雑巾に付着した菌やウイルスをハンドレール(手摺)の全周に広げることになりかねない。また、雑巾がけ自体には殺菌効果はないため、可能ならば積極的に殺菌を行う機能があることが望ましい。一方、UV光照射では、ハンドレールの十分な殺菌効果が得られない場合がある。また、手垢などの有機物の完全な除去ができないことも解決すべき課題である。
【0005】
さらに、特許文献2の図21に開示された装置では、プラズマ供給用のガスノズルと、その近傍に配置され塵及びオゾンの吸い出しを行う吸引部とを備え、大気雰囲気でプロセスガスを用いてプラズマを生成し、このプラズマにより生成され飛散した塵及びオゾンを吸引部で回収している。このような方式では、プラズマ照射に伴い大気雰囲気中に飛散するオゾンや窒素酸化物などの人体にとって望ましくない物質を、確実に回収するのが困難である。
【0006】
本発明の目的は、エスカレータのハンドレールの殺菌と洗浄を行うと共に、大気雰囲気中への望ましくない物質の飛散を最小限にとどめることのできる、エスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置及びそれを用いたエスカレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の代表的なものを示すと次のとおりである。本発明のエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置は、エスカレータのハンドレールの表面形状に沿いかつ該ハンドレール移動方向に沿って配置された面状の放電部を有するプラズマ源と、密閉した空間内に該プラズマ源を収納するための筐体と、前記ハンドレールの移動方向に沿って前記密閉した空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして前記筐体に設けられた一対の入口部と、前記一対の入口部に配置され、前記ハンドレールの断面形状に沿った形状を有し、該ハンドレールの表面との間に微小隙間を有するフィルタプレートと、前記プラズマ源の電源とを備えており、前記プラズマ源は、略大気圧雰囲気において前記ハンドレールの表面の近傍にプラズマを生成し、前記フィルタプレートは、前記プラズマにより前記空間内に発生したラジカルや、該プラズマで除去された前記ハンドレールの有機物を除去するための、フィルタを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プラズマで生成されたラジカルによりハンドレールに付着している菌やウイルスの無害化、及び、無害化した菌やウイルス、手垢を除去することができるため、ハンドレールの清浄度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】本発明の第1の実施例になる、エスカレータのハンドレール殺菌・洗浄装置の、全体構成の概要を示す図である。
【図1B】第1の実施例における、ハンドレールの構成例を示す図である。
【図2A】第1の実施例におけるプラズマ源の一例を示す断面図である。
【図2B】図2Aのプラズマ源の、放電面に対して垂直に見た状態の概略図である。
【図3】第1の実施例におけるプラズマ源の配置方法の一例を示す図である。
【図4A】第1の実施例における、ハンドレールの移動方向に対して垂直方向の断面の概要図である。
【図4B】第1の実施例におけるハンドレールの移動方向について示した概略図である。
【図5】第1の実施例における、エスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置の動作状態を示す図である。
【図6A】第1の実施例におけるプラズマ源の放電部の変形例を示すための、ハンドレールの移動方向に対して垂直方向の断面を示す図である。
【図6B】図6Aの放電部の立体構造を示す図である。
【図6C】図6Aの放電部の断面図である。
【図7A】本発明の第2の実施例になる、スリットを付けた場合のプラズマ源の概要の立体図である。
【図7B】第2の実施例における、ハンドレールに照射しているときのイメージを示した図である。
【図8】本発明の第3の実施例になる、エスカレータのハンドレールの殺菌・洗浄装置の全体構成の概要を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施例になる、エスカレータのハンドレールの殺菌・洗浄装置の構成例の概要を示す図である。
【図10】第4の実施例になる、エスカレータのハンドレールの殺菌・洗浄装置の他の構成例の概要を示す図である。
【図11A】本発明の第5の実施例になるハンドレールの構成例を示す図である。
【図11B】第5の実施例におけるマーカー検出器の構成例を示す図である。
【図12】第5の実施例の動作を示すフローチャートである。
【図13A】第5の実施例における、プラズマ制御法を示す図である。
【図13B】第5の実施例における、プラズマ制御法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の代表的な実施例によれば、エスカレータに、ハンドレールと、ハンドレールに対してイオン、またはラジカル、またはUV光を照射するためのプラズマ源と、プラズマ源を収納するための筐体と、プラズマを生成するための電源と、筐体内を相対的に負圧にするためのファンと、ラジカルや、除去した菌やウイルスや手あかなどの有機物を除去するためのフィルタを有するプラズマ殺菌・洗浄装置を設置した。これにより、エスカレータのハンドレールの殺菌と洗浄を行うことができる。
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を具体的にエスカレータのハンドレールに適用したプラズマ除菌・洗浄装置について詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、本発明の第1の実施例について説明する。図1Aは、第1の実施例における、エスカレータのハンドレール(手摺)の殺菌・洗浄装置の全体構成の概要を示している。また、図1Bは、第1の実施例における、ハンドレールの構成例を示す図である。
【0013】
本発明のプラズマ殺菌・洗浄ユニット10は、エスカレータの所定の位置、例えば図1Bに示すように、エスカレータのハンドレール60が下側に潜り込んだ位置に設けられている。プラズマ殺菌・洗浄ユニット10は、面状の放電部を有するプラズマ源1と、このプラズマ源1を内部の密閉された空間に収納する筐体2とを備えている。筐体2内のプラズマ源1は、エスカレータのハンドレールに対向して設置されている。プラズマ源1には、プラズマ生成のための電源3が接続されている。ハンドレールの移動方向61に対して筐体2の両側部には、一対のフィルタプレート57−1と57−2とが設置されている。すなわち、筐体2は、ハンドレール60の移動方向に沿って、密閉された空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして設けられた一対の入口部と、この筐体2の両入口部に、各々、ハンドレールの表面との間に微小隙間58を介して配置された、一対のフィルタプレート57(57−1、57−2)とを有している。さらに、筐体2の内部にはファン42及びフィルタボックス56が設置されている。また、筐体2内にフィルタプレート57−3が設置されている。フィルタボックス56及びフィルタプレート57は、少なくとも活性炭、オゾン分解触媒等の吸収剤を備えている。筐体2は分解可能に構成されており、フィルタボックス56やフィルタプレート57を定期的に交換することができる。
【0014】
なお、本実施例において、エスカレータのハンドレール60は、図1Bに矢印61で示すように、左右いずれの方向にも移動可能なものとする。39は制御コンピューターであり、電動機(図示略)によりハンドレール60及びステップ(図示略)の駆動を制御する。また、エスカレータの運転状況に応じて電源3を制御し、ハンドレールに対するプラズマ放電を制御する。また、ファンの回転も制御コンピューター39によって制御可能となっている。すなわち、制御コンピューター39は、エスカレータが始動したら、プラズマ源1からのプラズマ放電を開始すると共に、ファン42を起動する。そして、エスカレータが停止したら、プラズマ放電を停止し、その後、所定の時間が経過したらファン42を停止する。
【0015】
エスカレータは左右(登り、下り)どちら側にも動くので、フィルタプレート57−1,57−2の長さL1,L2は、概ね同じ程度の長さとなっている。
【0016】
なお、通常運転中はフィルタ56にフィルタとしての主機能を発揮させるため、フィルタプレート57−3は筐体2内において気体の流れが少ない領域に設置し、筐体2内の気体の流れを阻害しないようにするのが望ましい。
【0017】
次に、プラズマ源1について、図2(図2A、図2B)を用いて述べる。図2Aは、プラズマ源の断面、図2Bはプラズマ源の放電面に対して垂直に見た概略を示している。本発明のプラズマ源1は、面状の放電部を有しており、誘電体5内に複数の電極4−1と4−2が交互に配列された櫛歯構造になっている。例えば電極4−1がアンテナ、電極4−2がアースとして1つの電極対として機能するようになっている。
【0018】
プラズマ源1は、面状の放電部を構成する放電プレートと、プラズマ生成のための高周波電源3とを備えている。放電プレートは、例えば、石英ガラス、またはアルミナやイットリアなどのセラミック材料からなる誘電体5と、その内部に配置された一対の電極4―1と4−2で構成されている。
【0019】
一対の電極4―1と4−2は、お互いに絶縁された櫛形状が矩形の領域内に交互に平行に複数本配列された構造となっており、これら一対の電極は、高周波電源3に接続されている。一対の電極4―1と4−2は、ハンドレール60の幅に対応した長さを有している。一対の電極4―1と4−2に、互いに極性が異なるか、あるいは片方が接地電位になるようにして高周波が印加されることにより、誘電体5の表面近傍に、誘電体バリア放電によるプラズマ6を生成する。プラズマは、電極4−1と4−2の間に沿った誘電体膜の表面近傍に生成される。換言すると、ハンドレール60の移動方向に沿って配置された面状の放電プレートにより、ハンドレール60の表面近傍にプラズマ6を生成し、このプラズマでハンドレール60の表面を照射することができる。
【0020】
矩形の領域内において、複数の電極4−1と4−2は、複数の小領域に区分されて高周波電源3に接続されており、高周波電源3から全体もしくは選択された少なくとも1つの小領域の電極対に、電力を供給するよう制御できるようになっている。これにより、ハンドレール60の表面におけるプラズマの放電面積を調整することが可能となっている。
【0021】
なお、電極4―1と4−2の近傍には、着火用の補助プラズマ源として、先端の尖ったコロナ放電用の一対の金属製電極及び高周波電源(図示略)を設けるのが望ましい。この補助プラズマ源により、コロナ放電による補助プラズマが形成される。補助プラズマは、電極4―1と4−2によるプラズマ6を発生させるための放電のトリガーとなるのに足りる、荷電粒子や励起状態の粒子を供給できるものであれば良い。また、プラズマの電源は、直流電源でもよい。
【0022】
図3に、平面型のプラズマ源1の配置方法の一例を示している。62はハンドレールのガイドである。平面型のプラズマ源を用いる場合は、プラズマ源1を1−1〜1−7の複数個に分割設置して、プラズマ源1が、ガイド62の部分を除く、ハンドレール60の外側の表面の全体を覆うように設置するのが望ましい。
【0023】
次に、図4(図4A、図4B)を用いて、筐体2内において、ハンドレール60に沿って、かつ、プラズマ源1に対してその両側に設置されたフィルタプレート57(57―1、57―2)について説明する。図4Aは、ハンドレールの移動方向61に対して垂直方向の断面の概要、図4Bはハンドレールの移動方向について示した概略図である。フィルタプレート57のハンドレール60に対向した側は、ハンドレールの形状に沿った構造となっている。また、フィルタプレートのハンドレールに対向した面は、活性種や、除去して揮発した有機物を吸収するための活性炭、オゾン分解触媒等の吸収剤で構成されている。また、フィルタプレート57は、右側部57−Rと左側部57−Lの2つを組み合わせた構造となっている。この場合、筐体2は、全体として1つの密閉した空間を有するように形成してもよく、あるいは、各密閉した空間に各々フィルタプレート57とプラズマ源1を有する、左右2つの密閉空間を有する筐体2として構成してもよい。
【0024】
また、フィルタプレート57は57−A、57−B、57―Cのように、ハンドレールの移動方向61に対して複数に分割されており、ハンドレールに対向して設置されている吸収剤や触媒の種類や、表面の凹凸、空孔率が異なるように、構成しても良い。
【0025】
図5は、本発明のエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置の動作状態を示す図である。図中の波線は、空気の流れを示している。
【0026】
ファン42が回転することにより、筐体2内の圧力が周りの大気圧雰囲気に対して若干負圧となるように強制換気され、これにより、ハンドレール60との間の微小隙間58(58−1,58−2)に沿って密閉した空間内に周りの大気圧雰囲気から空気が吸い込まれる。この雰囲気で、ハンドレール60の表面の近傍でプラズマ源1によりプラズマが生成される。ファン42によって集められた筐体内の略大気圧の空気には、ハンドレール60に対するプラズマ照射によって発生した酸素ラジカル等の活性種や、その他の揮発物が含まれるか、これらは、フィルタ56を介して除去され、大気中に強制換気される。すなわち、プラズマによって、空気の酸素や窒素、及び水分のラジカル(酸素ラジカルO、Oラジカル、OHラジカル)、電子等が発生し、これらがハンドレール60に照射されることでハンドレール60の表面に付着している菌やウイルスを無害化する。また、プラズマ中で発生したラジカルやUV光やプラズマの熱により、ハンドレールに付着している手垢等の有機物を揮発させる。これに伴い、筐体2内の空気には、オゾン等活性種、窒素酸化物NOx、無害化した菌やウイルス、手垢その他の揮発物も含まれることになる。筐体の空気に含まれるこれらの活性種や揮発物等は、フィルタ56を介して除去され、大気中に排気される。
【0027】
なお、停電等でエスカレータが停止したときに、通常、ファン42も停止する。このとき、筐体2内に残留している酸素ラジカルOや窒素酸化物NOx等の不要な活性種及びその他の揮発物は、フィルタプレート57−3で吸収される。また、ファン42が停止した場合、筐体2内の空気は微小隙間58を介して外部に流出する。このとき、筐体2内に残留している活性種及びその他の揮発物は、フィルタプレート57−1,57−2の活性炭、オゾン分解触媒等の吸収剤により除去される。これにより、大気雰囲気中へオゾン等の望ましくない物質の飛散を抑制することができる。
【0028】
なお、図5は、ハンドレール60が図右方向に移動している状態を示している。この場合、エスカレータの動作中における、ハンドレール60の移動方向と空気の吸入方向とが一致する左側の微小隙間58−1と、ハンドレール60の移動方向と空気の吸入方向とが逆向きの右側の微小隙間58−2とを比較したとき、筐体2内から大気中への活性種の流出の可能性は、右側の微小隙間58−2の方が若干高くなる。この点も考慮して、微小隙間58−1、58−2の長さや隙間の値を設定する必要がある。ハンドレールの移動速度をV,微小隙間58の大きさをGとすると、フィルタプレート57の長さLは、
L∝V・G
の関係にするのが良い。
【0029】
一例を挙げれば、筐体2の全長を1mとし、プラズマ源1は10cmm、その左右のフィルタプレート57−1,57−2の長さL1,L2は各々30cm程度とする。このとき、ハンドレールの移動速度Vを標準的なものとすると、微小隙間58は、例えば1mm〜5mm程度とするのが良い。微小隙間58の大きさGは、フィルタプレートがハンドレール60の表面に実質的に接触せず、かつ、筐体2の内外での空気の流れを許容する最小限の大きさであれば良く、筐体2の全体の大きさに比べるとかなり小さいものである。例えば、上記の例で、微小隙間Gとフィルタプレートの長さLとの比は、0.1/30、すなわち、1/300となる。
【0030】
本実施例によれば、プラズマで生成されたラジカルによりハンドレールに付着している菌やウイルス及び手垢の殺菌、洗浄を行い、これらを除去することができるため、ハンドレールの清浄度を高めることができる。
【実施例】
【0031】
なお、プラズマ源は、実施例1に示した平面型の放電部を持つプラズマ源に限定されるものではない。図6(図6A〜6C)に示すように、平面型のプラズマ放電部と湾曲型のプラズマ放電部を組み合わせ、ハンドレールの形状に沿った放電面を持つプラズマ源として構成してもよい。図6Aは、ハンドレールの移動方向に対して垂直方向の断面を示している。図6Bは、放電部1−2、1−3の立体構造の簡単な図を示している。図6Cは放電部の断面構造を示している。この変形例では、ハンドレール60の断面の湾曲した部分には、湾曲したプラズマ放電部1−2、1−3を設置している。すなわち、ハンドレールの湾曲部に沿って、誘電体内に電極4−1,4−2が設置されている。湾曲したプラズマ源でも、電極4−1と4−2が1つの対となって、プラズマ6を生成するようになっている。これにより、ハンドレール60の表面に沿って、ほぼ均一にプラズマ6を生成することができる。その他の構成、作用、効果は、第1の実施例と同じである。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。プラズマ源1からプラズマを照射することで生成された酸素ラジカル等を用いた殺菌、洗浄は、ハンドレール60の表面の消耗の要因となるため、殺菌効果のあるUV光の量と、殺菌と洗浄の両方に効果のあるイオンやラジカルの量の比率を調整する方が望ましい場合がある。この場合、UV光を通し、イオンやラジカルの照射量を調整するためのスリットを設けるとよい。
【0033】
図7Aは、スリットを付けた場合のプラズマ源の概要の立体図、図7Bは、ハンドレールに照射しているときのイメージを示したものである。プラズマ源のプラズマ側は、筐体2−2で覆われている。プラズマ源1の下方にはUV光を透過する例えば石英ガラスで構成されたスリット19−1が形成されたUV光透過プレート18が設置されている。また、プラズマ源1にエアーを供給するためのスリット19−2が筐体2−2の側面に設置されている。
【0034】
これにより、プラズマで発生したUV光は透過プレート18を通ってハンドレール60に照射されて殺菌処理が行われ、また、スリットから放出されたイオンやラジカルがハンドレールに照射されて滅菌と洗浄処理が行われる。
【実施例3】
【0035】
次に、本発明の第3の実施例について、図8を用いて説明する。この実施例では、実施例1に対して、筐体内の密閉した空間の空気の一部を、フィルタを介して、循環させる機能を付加している。
【0036】
すなわち、ファン42によって集められた筐体の空気は、プラズマ照射によって発生した酸素ラジカル等の活性種や、その他揮発物を除去するためのフィルタ56−1を介して除去される。そして、その一部のエアーは筐体2内の密閉した空間内で循環するようになっている。そして、残りの一部のエアーはフィルタ56−2を介して外部に排気される。このような循環機能により、フィルタ56−1または56−2に必要なフィルタ性能を多少下げることができ、フィルタ全体のコスト低減または寿命向上が可能となる。本実施例は、ハンドレールへの汚損の付着量が多い使用環境手用いるのに適している。
【実施例4】
【0037】
次に、本発明の第4の実施例について、図9、図10を用いて説明する。エスカレータの用途によっては、フィルタをより簡略な構成とし、あるいは、ファンを省略することもできる。
【0038】
まず、図9の例では、第1の実施例におけるファン42とフィルタ56を省略している。ハンドレールの移動方向61に対して筐体2の両側部には、エスカレータのハンドレール60との間に微小隙間58を介して、一対のフィルタプレート57が配置されている。筐体2の密閉した空間には、微小隙間58を介して空気が出入り可能になっている。筐体2では、プラズマによって、空気の酸素や窒素のイオンやラジカルが発生し、これらがハンドレール60に照射されることでハンドレール60の表面に付着している菌やウイルスを無害化する。また、プラズマ中で生成したラジカルやUV光やプラズマの熱により、ハンドレールに付着している手垢等の有機物を揮発させる。これに伴い筐体2内の空気には、活性種、窒素酸化物NOx、無害化した菌やウイルス、手垢その他の揮発物が含まれることになる。筐体の空気に含まれるこれらの活性種や揮発物等は、一対のフィルタプレート57により除去され、大気雰囲気中への望ましくない物質の飛散を最小限に抑えることができる。自然換気方式であるため、第1の実施例の強制換気方式に比べて殺菌、洗浄能力は若干低下する可能性があるが、シンプルな構造でコストを低減できる利点がある。
【0039】
図10の例では、第1実施例における、一対のフィルタプレート57を省略している。ファン42が回転することにより、筐体2内の密閉した空間の圧力が周りの大気圧雰囲気に対して若干負圧となるように制御される。これにより、ハンドレール60との間の微小隙間58(58−1,58−2)に沿って空気が吸い込まれる。強制換気により、筐体の空気に含まれる活性種や揮発物等がフィルタ56により除去され、大気雰囲気中への望ましくない物質の飛散を最小限に抑えることができる。停電等でエスカレータが停止したときに、通常は、ファン42も停止する。本実施例では、ファン42の電源にバッテリーを付加し、停電時でも、若干の時間たとえば1分程度、ファン42を継続運転可能にする。これにより、筐体2内に残留している活性種及びその他の揮発物は、フィルタ56により除去され、大気雰囲気中への望ましくない物質の飛散を最小限に抑えることができる。
【0040】
本実施例でも、プラズマで生成されたラジカルによりハンドレールに付着している菌やウイルス及び手垢の殺菌、洗浄を行い、これらを除去することができるため、ハンドレールの清浄度を高めることができる。
【実施例5】
【0041】
次に、本発明の第5の実施例として、図11Aないし図13を用いて、プラズマのON/OFF制御や強度制御を行う機能を備えたプラズマ滅菌、洗浄処理装置について説明する。
【0042】
本実施例では、図11Aに示すように、ハンドレール60にはこのハンドレールの位置を特定するためのマーカー12が設置されている。このマーカー12は、(図示せず)、現在、ハンドレールのどの部分がプラズマ殺菌・洗浄ユニット10に面しているかを判断できるようになっている。また、図11Bは、プラズマ殺菌・洗浄ユニット10内に設置されたマーカー検出器を示している。マーカー検出器は、制御コンピューターに接続された分光器50、集光部51、及び、光ファイバー52を備えている。
【0043】
図11Aにおいて、汚染部位11で特に汚れがひどくなっていると仮定する。マーカー検出器は、集光部51によってプラズマ光を集めこれを光ファイバー52で分光器50に導き、この分光器50でプラズマの発光スペクトルを分光する。この際、ハンドレールの表面に汚れがない場合は、ハンドレー自体を構成している材質、例えば、炭素、酸素、水素、及び、空気の成分である窒素に起因したスペクトルが主となる。これに対して、汚れが手垢であると、カルシウムやナトリウムをはじめとした生体物質(有機物)の発光スペクトルが観察されるようになる。即ち、ハンドレールが綺麗な状態のスペクトルプロファイルに対して、測定したスペクトルプロファイルを比較することにより、汚れているかを判断することができる。そして、マーカー12の相対位置と発光スペクトルとから、ハンドレール60の汚染部位11を、汚れている位置として、検知することができる。
【0044】
例えば、図12に示したように、汚れのレベルモニタし、汚れ度合いと位置情報から、ハンドレールの移動位置に応じてプラズマの強度を変化させるような制御が可能となる。
【0045】
図12は、制御コンピューターによる処理の概要、すなわち第5の実施例の動作を示すフローチャートである。エスカレータが始動した(S01)、プラズマ源をオンにしてプラズマ放電を開始すると共にファン42を起動させる(S02)。そして、初期設定値に基づき、プラズマの強度を調整する(S03)。さらに、マーカー検出器でハンドレールの汚れのレベルを計測し(S04)、ハンドレールの位置情報を算出する(S05)。汚れが検出されたら(S06)、汚れの情報に応じてプラズマの強度や照射位置を調整する(S07)。例えば、図13Aに示したように、発光スペクトルから汚れの位置情報をデーターとして得た場合、図13Bのように、プラズマの強度や、プラズマの放電の面積を変えるようにする制御が有効である。なお、一般的に、汚れは、エスカレータの乗車人数に応じて変わるので、センサーなどにより乗車人数の情報を別途取得し、乗車人数に応じてプラズマの強度を調整する(S08)。すなわち、汚れが少ない場合は、例えば、エスカレータの乗車人数に応じてプラズマの強度やプラズマの放電面積を変化させるようにする制御も有効である。エスカレータの運転を停止させる条件になったら(S09)、エスカレータを停止させ(S10)、プラズマ源をオフにし(S11)。プラズマ放電の停止から所定の時間(例えば1分)が経過したら、ファン42を停止さる(S12)。
【0046】
本実施例によれば、プラズマで生成されたラジカルによりハンドレールに付着している菌やウイルス及び手垢の殺菌、洗浄を行い、これらを確実に除去することができるため、ハンドレールの清浄度を高めることができる。例えば総合病院のように、患者を含む多数の人が利用し、かつ、かなり高い清浄度が求められる環境に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0047】
1:プラズマ源、2:筐体、3:放電用電源、4:電極、5:誘電体、6:プラズマ、10:プラズマ殺菌・洗浄ユニット、11:汚染部位、12:ハンドレール位置のマーカー、18:UV透過プレート、19:スリット、39:制御コンピューター、50:分光器、51:集光部、52:光ファイバー、56:フィルタボックス、57:フィルタプレート、58:ガスの流れ方向、60:ハンドレール、61:ハンドレール移動方向、62:ハンドレールのガイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータのハンドレールの表面形状に沿いかつ該ハンドレール移動方向に沿って配置された面状の放電部を有するプラズマ源と、
密閉した空間内に該プラズマ源を収納するための筐体と、
前記ハンドレールの移動方向に沿って前記密閉した空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして前記筐体に設けられた一対の入口部と、
前記一対の入口部に配置され、前記ハンドレールの断面形状に沿った形状を有し、該ハンドレールの表面との間に微小隙間を有するフィルタプレートと、
前記プラズマ源の電源とを備えており、
前記プラズマ源は、略大気圧雰囲気において前記ハンドレールの表面の近傍にプラズマを生成し、
前記フィルタプレートは、前記プラズマにより前記空間内に発生したラジカルや、該プラズマで除去された前記ハンドレールの有機物を除去するための、フィルタを有する
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記プラズマ源は、面状の放電部を構成する放電プレートを備えており、
前記放電プレートは、石英ガラス、またはアルミナやイットリアなどのセラミック材料からなる誘電体と、その内部に配置された一対の電極で構成されており、
前記放電プレートは、前記ハンドレールの幅に対応した長さを有しており、
前記一対の電極は、お互いに絶縁された櫛形状が矩形の領域内に交互に平行に複数本配列された構造となっており、
前記一対の電極が前記ハンドレールの幅に対応した長さを有しており、
前記一対の電極間に、互いに極性が異なるようにして高周波が印加されることにより、前記誘電体の表面近傍に、誘電体バリア放電による前記プラズマが生成される
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記プラズマ源は、前記面状の放電部を構成する複数の前記放電プレートからなり、該複数の放電プレートが、ガイドの部分を除く、前記ハンドレールの外側の表面の全体を覆うように設置されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記プラズマ源は、平面型の複数の放電プレートが、ガイドの部分を除く、前記ハンドレールの外側の表面の全体を覆うように設置されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記プラズマ源は、平面型の少なくとも1つの前記プラズマ放電部と、湾曲型の少なくとも1つの前記プラズマ放電部とを組み合わせ、ハンドレールの形状に沿った放電面を持つプラズマ源として構成されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記ハンドレールの移動速度をV,前記微小隙間58の大きさをGとしたとき、前記各フィルタプレートの長さLは、
L∝V・G
の関係にある
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記微小隙間は、1mm〜5mmである
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記フィルタプレートは、活性種や、除去して揮発した有機物を吸収するための活性炭、及びオゾン分解触媒を含む
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記フィルタプレートは、前記ハンドレールの移動方向に対して複数に分割されており、前記ハンドレールに対向して設置されている前記吸収剤や前記触媒の種類や、表面の凹凸もしくは空孔率が異なるように構成されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項10】
エスカレータのハンドレールの表面形状に沿いかつ該ハンドレール移動方向に沿って配置された面状の放電部を有するプラズマ源と、
密閉した空間内に該プラズマ源を収納するための筐体と、
前記ハンドレールの移動方向に沿って前記密閉した空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして前記筐体に設けられた一対の入口部と、
該筐体内を相対的に負圧にするためのファンと、
前記密閉した空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして前記筐体に設けられた排気通路と、
前記一対の入口部に配置され、前記ハンドレールの断面形状に沿った形状を有し、該ハンドレールの表面との間に微小隙間を有するフィルタプレートと、
前記排気通路に配置されたフィルタボックスと、
前記プラズマ源の電源とを備えており、
前記プラズマ源は、略大気圧雰囲気において前記ハンドレールの表面の近傍にプラズマを生成し、
前記フィルタプレート及び前記フィルタボックスは、前記プラズマにより前記空間内に発生したラジカルや、該プラズマで除去された前記ハンドレールの有機物を除去するための、フィルタを有する
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記プラズマ源は、面状の放電部を構成する放電プレートを備えており、
前記放電プレートは、石英ガラス、またはアルミナやイットリアなどのセラミック材料からなる誘電体と、その内部に配置された一対の電極で構成されており、
前記放電プレートは、前記ハンドレールの幅に対応した長さを有しており、
前記プラズマ源は、前記面状の放電部を構成する複数の前記放電プレートからなり、該複数の放電プレートが、ガイドの部分を除く、前記ハンドレールの外側の表面の全体を覆うように設置されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記一対の電極は、お互いに絶縁された櫛形状が矩形の領域内に交互に平行に複数本配列された構造となっており、
前記一対の電極が前記ハンドレールの幅に対応した長さを有しており、
前記一対の電極間に、互いに極性が異なるようにして高周波が印加されることにより、前記誘電体の表面近傍に、誘電体バリア放電による前記プラズマが生成される
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記プラズマ源は、平面型の複数の放電プレートが、ガイドの部分を除く、前記ハンドレールの外側の表面の全体を覆うように設置されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項14】
請求項12において、
前記プラズマ源は、平面型の少なくとも1つの前記プラズマ放電部と、湾曲型の少なくとも1つの前記プラズマ放電部とを組み合わせ、ハンドレールの形状に沿った放電面を持つプラズマ源として構成されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項15】
請求項10において、
前記ハンドレールの移動速度をV,前記微小隙間58の大きさをGとしたとき、前記各フィルタプレートの長さLは、
L∝V・G
の関係にある
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項16】
請求項10において、
前記密閉した空間に、前記ファンで収集した空気に含まれる活性種や揮発物を除去するための第2のフィルタユニットを備えた
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項17】
請求項10において、
前記排気通路でかつ前記フィルタボックスの上流側に、前記ファンで収集した空気に含まれる活性種や揮発物を除去するための第3のフィルタユニットを備え、
該第3のフィルタユニットの下流側で空気の流れを分岐し、該空気の流れ一方は前記プラズマ源近傍に吹き出し、他方は、前記第2のフィルタユニットを介して大気雰囲気に排気されるようにした
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項18】
請求項10において、
前記プラズマ源の下方にUV光を透過するための、石英ガラスで構成されたスリット付のUV光透過プレートが設置されている
ことを特徴とするエスカレータ用のプラズマ滅菌、洗浄処理装置。
【請求項19】
エスカレータ用のハンドレールと、
該ハンドレールのプラズマ滅菌、洗浄処理装置と、
制御コンピューターとを備えており、
前記プラズマ滅菌、洗浄処理装置は、
前記ハンドレールの表面形状に沿いかつ該ハンドレール移動方向に沿って配置された面状の放電部を有するプラズマ源と、
密閉した空間内に該プラズマ源を収納するための筐体と、
前記ハンドレールの移動方向に沿って前記密閉した空間と外部の大気雰囲気とを連通するようにして前記筐体に設けられた一対の入口部と、
前記一対の入口部に配置され、前記ハンドレールの断面形状に沿った形状を有し、該ハンドレールの表面との間に微小隙間を有するフィルタプレートと、
前記プラズマ源の電源と、
前記プラズマ源は、略大気圧雰囲気において前記ハンドレールの表面の近傍にプラズマを生成し、
前記フィルタプレートは、前記プラズマにより前記空間内に発生したラジカルや、該プラズマで除去された前記ハンドレールの有機物を除去するための、フィルタを有する
ことを特徴とするエスカレータ。
【請求項20】
請求項19において、
前記制御コンピューターは、前記ハンドレール汚れのレベルをモニタし、該汚れ度合いと汚れの位置情報とから、前記ハンドレールの汚染部位に対する前記プラズマの強度を増加させるように前記プラズマ源の電源の制御を行う
ことを特徴とするエスカレータ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【公開番号】特開2012−197154(P2012−197154A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63320(P2011−63320)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】