説明

エスカレータ装置

【課題】 平成12年6月に施行された建築基準法施行令とその関連告示によって、エスカレータ装置の急勾配化と高速化が進み、利便性や設置面積の縮小化などが向上され、公共施設や大型ショッピングセンターに導入されている。その一方、幼児や高齢者などには、安全に利用することが難しくなってきていることは明らかである。誰もが安全かつ快適に利用することができ、なおかつ輸送能力を向上させたエスカレータ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
複数のステップが連結されたエスカレータ装置のすべてのステップにおいて、踏み面奥行寸法を約50〜70cm、蹴上げ寸法を約20cm以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステップの踏み面奥行寸法を大きくし、傾斜角度を緩やかにしたことで、安全性・快適性・輸送能力の向上を図ったエスカレータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエスカレータ装置は、蹴上げ寸法約20cm、ステップの踏み面奥行寸法約40cmが一般的である。しかし、利用者は、前記ステップの踏み面奥行寸法では、前の人と接触する、又、大きな荷物を持っていて乗りにくい、又、異性が乗っていることによる心的嫌悪、又、圧迫感(特に上昇時は眼前に前の人の背中がくる)などを理由として、1枚間隔でステップに乗り込む方法が取られていることが多い。そのため、乗り込みに時間がかかり、混雑時にはなかなか乗り込むことが出来ず、乗り口付近で渋滞を引き起こし、輸送能力を低下させる要因となっている。
【0003】
一般に、エスカレータ装置の傾斜角度は、30度が多く用いられているが、平成12年の建築基準法等の改正により、エスカレータ装置の傾斜角度が従前の最大30度から35度にまで急勾配化された。また、運転速度が従前の最大30m/分から45m/分に高速化されている。そのため、急勾配型及び高速型エスカレータ装置での下降時においては、恐怖感を覚えることに加え、もしもの時に大けがのもとになる。
【0004】
また、エスカレータ装置の利用者は、急いでいる利用者のためにステップの片側をあけ、急いでいる利用者は、あいているところを歩行する傾向にある。そのため、多数の利用者がいる時に転倒すると、上記のような急勾配型のエスカレータ装置では将棋倒しになるような大事故を引き起こす恐れがある。
【0005】
また、エスカレータ装置は、利用者が乗り口近くの水平部のステップに乗り込むと、このステップの軌跡が水平部から30度ないし35度の傾斜部へと移行する。その際、段差が変化することから、利用者の体勢が不安定になり転倒、あるいは、けがをする恐れがある。
【0006】
そこで、従来の技術には、利用者の乗ったステップが水平部から傾斜部又は傾斜部から水平部に移行する際のステップ間の段差を緩やかにしたものがある(特許文献1)。
【0007】
あるいは、下降運転する場合の速度を低速度とする運転制御方法や下降運転時少なくとも乗降口から傾斜路に至る範囲においては低速度とし、この範囲以外では高速度とする運転制御方法を行うようにしたものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−162398号公報
【特許文献2】特開2003−20184号公報
【0008】
しかし、これらの従来技術では、安全性を高める効果はあるが、快適性や輸送能力を向上させる効果はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、エスカレータ装置に関する法令の緩和や技術の発展により、急勾配化や高速化が可能となり、利便性や設置面積の縮小化などは向上している。しかし、幼児や高齢者などにとっては、安全に利用することが難しくなってきていることは明らかである。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、誰もが安全で快適に利用することができ、なおかつ輸送能力をも向上させる可能性があるエスカレータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数のステップを無端状に連結して移動させるエスカレータ装置において、すべてのステップの踏み面奥行寸法を約50〜70cm、蹴上げ寸法を約20cm以下にしたことを特徴とするエスカレータ装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ステップの踏み面奥行寸法を約50〜70cmにすることで、利用者が、連続してステップに乗り込んでも、利用者間に充分な距離があり、快適に感じられる。そのため、連続してステップに乗り込む方法が可能となり、混雑時であっても、スムーズにステップに乗り込め、ステップの利用率が高まり、輸送能力が向上することになる。
【0013】
一見、奥行寸法を大きくした場合、同じ水平距離であればステップ数が少なくなり、輸送能力が低下するように考えられる。
【0014】
確かに、通常のエスカレータ装置の公称輸送能力は、ステップ幅1000mm(2人乗り)、定格速度30m/分、ステップ奥行寸法40cmでは、
(30×100)cm×60分×2人÷40cm=9000人/時
であるが、利用者が1枚間隔でしかステップに乗っていないと仮定すると、半分の4500人/時となり、
本発明のステップ奥行寸法60cmと比較した場合、
(30×100)cm×60分×2人÷60cm=6000人/時
となり、実質的な輸送能力はむしろ向上していることがわかる。
【0015】
また、幼児や高齢者などにとって、エスカレータ装置の高速化によって、乗り込み時にタイミングが合わずに、ステップとステップの間に乗ってしまうことがあり、そのままの状態で急勾配化された傾斜部に到達すると段差が発生し、転倒する危険性があった。しかし、本発明の場合、踏み面奥行寸法が大きいため、一つのステップに乗るタイミングが容易となり、ステップの軌跡も水平部から緩やかな傾斜部へ移行するため、体勢を崩すことなく安心して利用することが可能となる。
【0016】
また、エスカレータ装置の利用者は、急いでいると歩行する傾向にあり、多数の利用者がいる混雑時に転倒すると、急勾配のために将棋倒しのような大きな事故が発生する危険性があった。しかし、本発明では、ステップの奥行寸法を大きくしたことで、利用者は、階段のように(一歩間隔では)歩きにくくなるため、足元を注意しながら歩行することになり、又、利用者間に快適に感じられる距離があり、傾斜角度も緩やかにしたため、将棋倒しのような大きな事故が発生する危険性も低減すると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係るエスカレータ装置の全体構成図であり、すべてのステップ2の踏み面奥行寸法を約50cm〜70cm、蹴上げ寸法を約20cm以下になるようにしたものである。また、図2は、図1のA部拡大図で、踏み面奥行寸法を変数X、実質奥行寸法を変数Y、蹴上げ寸法を変数Z、傾斜角度を変数θで表している。
【0018】
実施例1は、図2の変数を、X=50.9、Y=45.2、Z=20.3、θ=24.2にしたものである。
【0019】
実施例2は、図2の変数を、X=60.9、Y=55.2、Z=20.3、θ=20.2にしたものである。
【0020】
実施例3は、図2の変数を、X=70.9、Y=65.2、Z=20.3、θ=17.3にしたものである。
【0021】
実施例4は、図2の変数を、X=50.9、Y=45.2、Z=15.0、θ=18.4にしたものである。
【0022】
実施例5は、図2の変数を、X=60.9、Y=55.2、Z=15.0、θ=15.2にしたものである。
【0023】
実施例6は、図2の変数を、X=70.9、Y=65.2、Z=15.0、θ=13.0にしたものである。
【0024】
前記、代表とする実施例を6通り上げたが、これ以外でもXが約50〜70、Zが約20以下であれば、本発明における同様の効果が得られることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
エスカレータ装置は、大量の乗客を連続して輸送できることから駅や空港、ショッピングセンター等の建物に設置して利用されることが一般的であり、本発明においても同様に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るエスカレータ装置の全体構成図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 エスカレータ装置
2 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のステップを無端状に連結して移動させるエスカレータ装置において、すべてのステップの踏み面奥行寸法を約50〜70cm、蹴上げ寸法を約20cm以下にしたことを特徴とするエスカレータ装置。
【請求項2】
前記ステップの踏み面奥行寸法を50.9cm(実質奥行寸法45.2cm)、蹴上げ寸法を20.3cm、傾斜角度を24.2度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項3】
前記ステップの踏み面奥行寸法を60.9cm(実質奥行寸法55.2cm)、蹴上げ寸法を20.3cm、傾斜角度を20.2度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項4】
前記ステップの踏み面奥行寸法を70.9cm(実質奥行寸法65.2cm)、蹴上げ寸法を20.3cm、傾斜角度を17.3度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項5】
前記ステップの踏み面奥行寸法を50.9cm(実質奥行寸法45.2cm)、蹴上げ寸法を15.0cm、傾斜角度を18.4度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項6】
前記ステップの踏み面奥行寸法を60.9cm(実質奥行寸法55.2cm)、蹴上げ寸法を15.0cm、傾斜角度を15.2度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項7】
前記ステップの踏み面奥行寸法を70.9cm(実質奥行寸法65.2cm)、蹴上げ寸法を15.0cm、傾斜角度を13.0度にしたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−222389(P2008−222389A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64316(P2007−64316)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000112705)フジテック株式会社 (138)
【Fターム(参考)】