説明

エスカレータ

【課題】移動手摺をより好適に利用させることを可能とするエスカレータを提供することである。
【解決手段】エスカレータ10は、移動手摺20と、移動手摺20の内部に埋め込まれているテンションバンドと、移動手摺20の外部に設けられ、テンションバンドに流れる渦電流を発生させる渦電流発生装置50と、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度よりも低いときに渦電流発生装置50を作動させ、移動手摺20の表面温度Tが第2の温度よりも高いときに渦電流発生装置50の作動を停止させる制御盤70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータに係り、特に、移動手摺を備えるエスカレータに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、商業施設等の様々な場所において、エスカレータが設置されている。エスカレータを利用する乗客は、移動手摺を掴み、あるいは、移動手摺に手を添えることで安定して乗車することができる。
【0003】
本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、屋外に設置された乗客コンベアにおいて、移動手摺の裏面に所定範囲に渡って冷気を送風する冷却装置と、移動手摺と同じ材質で構成され移動手摺の周辺に同じ環境条件下で設置された擬似切片と、上記擬似切片に埋設された温度検出器と、上記温度検出器の検出した温度が所定温度に達すると上記冷却装置を作動させる制御手段とを備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−347669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エスカレータが、例えば、屋外に設置されている場合には、特に冬場において移動手摺が冷たくなってしまうことがあり、このため乗客が移動手摺を利用しないこともある。
【0006】
本発明の目的は、移動手摺をより好適に利用させることを可能とするエスカレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエスカレータは、移動手摺と、前記移動手摺の内部に埋め込まれている金属部と、前記移動手摺の外部に設けられ、前記金属部に流れる渦電流を発生させる渦電流発生部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記移動手摺の表面温度が第1の温度よりも低いときに前記渦電流発生部を作動させ、前記表面温度が第2の温度よりも高いときに前記作動を停止させる制御部を備えることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記金属部は、平板形状を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記渦電流発生部は、前記金属部の平板面に対して垂直な方向に沿った磁束が変化するように磁束を発生させる磁束発生部を備えることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記金属部は、帯状の薄鋼板であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記渦電流発生部は、前記エスカレータに含まれるトラス内のうち、前記制御部が配置される領域の近傍に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、移動手摺に埋め込まれている金属部に渦電流が発生する。これにより、金属部からの放熱によって移動手摺が温まる。したがって、移動手摺を温かい状態とすることができるため、冬場であっても乗客が移動手摺を利用しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施の形態において、エスカレータの構成図である。
【図2】図1において移動手摺の進行方向(矢印C方向)に垂直な断面図、すなわちA−A線断面図に相当する移動手摺と移動手摺案内レールの関係を示している。
【図3】図1において、移動手摺の進行方向に垂直な断面図、すなわち、B−B線断面図に相当する駆動ローラと加圧ローラとの関係を示したものである。
【図4】本発明に係る実施の形態において、渦電流発生装置とテンションバンドとの関係を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、渦電流発生装置により移動手摺を温める手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。また、以下では、渦電流発生装置は、制御盤の近傍に配置されるものとして説明するが、もちろんその他の場所に配置してもよく、例えば、移動手摺を温めることに適し、かつ、トラス内の空きスペースを有効に活用できる場所に配置してもよい。
【0016】
また、以下では、全ての図面において、同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0017】
図1は、エスカレータ10の構成図である。エスカレータ10は、高低差のある乗場床6と降場床8との間で乗客4を移動させる装置である。エスカレータ10は、乗客4が乗るステップ24と、それぞれのステップ24が連結されるステップチェーン26と、ステップチェーン26を駆動する主駆動装置28と、移動手摺20と、移動手摺案内レール22と、移動手摺20を駆動する手摺駆動装置30とを含んで構成される。手摺駆動装置30は、駆動ローラ32と加圧ローラ34とを含んで構成されるが詳細な説明は後述する。
【0018】
ステップ24は、乗客4が一人または二人乗れる程度の大きさを有する。エスカレータ10が運行している場合には、複数のステップ24は、床面に対して水平な状態を保ちつつ移動する。また、ステップ24には、スリップ防止のための溝が複数設けられている。
【0019】
ステップチェーン26は、図示されていない適当な軸部材を介して、それぞれのステップ24を連結し、主駆動装置28からの駆動力をそれぞれのステップ24に伝達するものである。また、ステップチェーン26は、エスカレータ10のステップ24の長手方向に沿った左右両側に1本ずつ配置されている。
【0020】
主駆動装置28は、制御盤70の制御によりエスカレータ10を駆動する駆動力を出力する装置で、例えば、電動機と減速歯車等から構成される。主駆動装置28により出力された駆動力は、図示されていない駆動伝達手段を介してステップチェーン26及び図示されていない移動手摺チェーンを介して駆動ローラ32に伝達される。また、主駆動装置28は、エスカレータ10のトラス内のうち降場床8付近に配置されるものとして説明するが、その他の場所に配置されてもよく、例えば、乗場床6付近に配置されてもよい。
【0021】
無端状の移動手摺20は、乗客4が手を添え、または掴まる部分であり、移動手摺案内レール22に取り付けられている。移動手摺案内レール22は、移動手摺20の移動を案内するためのレールであり、移動手摺20に沿ってほぼ無端状の形状を有するが、駆動ローラ32の両端近傍において途切れた端部を有している。
【0022】
ここで、移動手摺20と移動手摺案内レール22との関係を詳細に説明する。図2は、図1において移動手摺20の進行方向(矢印C方向)に垂直な断面図、すなわちA−A線断面図に相当する移動手摺20と移動手摺案内レール22の関係を示している。移動手摺20は、最も外側に位置する表層部204と、真ん中に位置する芯地部202と、最も内側に位置するキャンバス部206とが積層される。表層部204の材料としては、手触りが良いもの、例えば生ゴム等を用いることができる。キャンバス部206は、適当な強度を確保するため、例えばキャンバス生地を用いることができる。
【0023】
芯地部202には、テンションバンド203(抗張帯)が包み込まれるように埋め込まれており、テンションバンド203は移動手摺20の延伸方向に沿って延在するように配置される。このテンションバンド203は、例えば、スチールテープ等を用いて構成することができ、高い引張強度を有する。そして、テンションバンド203により移動手摺20の延伸方向における伸びが規制され、また移動手摺20の機械的強度が補強される。
【0024】
芯地部202は、熱可塑性エラストマを用いて構成することができ、例えば、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系の樹脂が使用される。
【0025】
テンションバンド203は、例えばスチールテープ等の帯状の薄鋼板で構成され、平板形状を有する。
【0026】
移動手摺案内レール22は、略C字状断面の移動手摺20の内側に配置され、移動手摺20の内側面形状とほぼ同じ形状の外形を有する。さらに、移動手摺20の内側面に移動手摺案内レール22の外形が接触し、これにより移動手摺20が摺動するときに進路を外すことがないように案内される。
【0027】
再び図1に戻って、手摺駆動装置30について説明する。手摺駆動装置30は、上記のように移動手摺20を駆動する機能を有し、駆動ローラ32と加圧ローラ34とを含んで構成される。
【0028】
手摺駆動装置30においては、移動手摺20を挟んで複数の駆動ローラ32に対向する位置に複数の加圧ローラ34が配置される。これら複数の加圧ローラ34を構成する1つの加圧ローラ34は、複数の駆動ローラ32を構成する1つの駆動ローラ32と対を成すように並んでいる。駆動ローラ32は、主駆動装置28より出力された駆動力により駆動され、また、加圧ローラ34は、対応する駆動ローラ32に向かって、移動手摺20を図示していない加圧手段によって押し付け、駆動ローラ32の駆動に従って回転する。
【0029】
移動手摺20は、移動手摺20の帰路側(トラス内部)において、駆動ローラ32が矢印D方向に回転することにより、加圧ローラ34との間に挟みこまれた移動手摺20が図1の矢印C方向に移動する。
【0030】
図3は、図1において、移動手摺20の進行方向に垂直な断面図、すなわち、B−B線断面図に相当する駆動ローラ32と加圧ローラ34との関係を示したものである。駆動ローラ32及び加圧ローラ34は、例えば、材料がウレタン等で構成されている。駆動ローラ32は、移動手摺20に沿う形で配置され、加圧ローラ34は、図3でWと示される幅方向において、移動手摺20を挟んで駆動ローラ32に対向して配置される。
【0031】
渦電流発生装置50は、移動手摺20の内部に埋め込まれるテンションバンド203に渦電流を発生させるための装置である。図4は、渦電流発生装置50とテンションバンド203との関係を示す図であり、説明を分かりやすくしているため、移動手摺20のうちテンションバンド203以外の図示は省略している。渦電流発生装置50は、コイル部502と、スイッチ回路503と、電源部504とを有する。コイル部502は、巻き数N(Nは整数)のコイルであり、その両端部は電源部504が接続されている。電源部504は、コイル部502に対して交流電流を供給可能な電源である。スイッチ回路503は、電源部504からコイル部502への電流供給経路を遮断/接続する回路である。渦電流発生装置50は、制御盤70と電力線によって接続されているため、抵抗ロスを抑えるべく、制御盤70の近傍(トラス内)に配置されている。
【0032】
温度センサ60は、移動手摺20の表面温度T(表層部204の表面の温度)を検出し、その検出温度を制御盤70に伝送する機能を有する。また、温度センサ60は、制御盤70と電力線によって接続されているため、抵抗ロスを抑えるべく、制御盤70の近傍に配置されている。
【0033】
制御盤70は、主駆動装置28及び渦電流発生装置50の制御を含んだエスカレータ10全体の運行制御を行う制御装置であり、主駆動装置28に隣接するように降場床8の下方(トラス内)に配置されている。ここでは、制御盤70の各機能のうち、特に、温度センサ60によって検出された温度に基づいて渦電流発生装置50を制御する機能について説明する。
【0034】
制御盤70は、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1よりも低いときに、渦電流発生装置50を作動させる機能を有する。具体的には、電源部504からコイル部502に対して交流電流が供給されるようにスイッチ回路503をオン(電流供給経路を接続)する。そして、制御盤70は、移動手摺20の表面温度Tが第2の温度T2よりも高いときに、渦電流発生装置50の作動を停止させる機能を有する。具体的には、電源部504からコイル部502に対する交流電流の供給が停止されるようにスイッチ回路503をオフ(電流供給経路を遮断)する。
【0035】
続いて、上記構成のエスカレータ10の作用について図1〜図5を用いて説明する。図5は、渦電流発生装置50により移動手摺20を温める手順を示すフローチャートである。まず、制御盤70は、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1よりも低いか否かを判断する(S10)。移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1よりも高ければ、再びS10へと戻る。
【0036】
S10の工程において、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1よりも低ければ、スイッチ回路503をオンさせて渦電流発生装置50を作動させる(S12)。これにより、電源部504からコイル部502に交流電流が供給されてテンションバンド203の平板面に対して垂直な方向に沿った磁束(図4参照)が変化し、テンションバンド203には、当該磁束の変化を妨げるような方向で、例えば、図4に示されるように渦電流が発生する。そして、当該渦電流が流れることによる発熱が移動手摺20の芯地部202を介して表層部204に伝わり移動手摺20の表面が温められる。
【0037】
その後、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1よりも高い温度である第2の温度T2よりも高いか否かを判断する(S14)。移動手摺20の表面温度Tが第2の温度T2よりも低ければ、再びS14へと戻る。
【0038】
S14の工程において、移動手摺20の表面温度Tが第2の温度T2よりも高ければ、スイッチ回路503をオフさせて渦電流発生装置50の作動を停止する(S16)。これにより、電源部504からコイル部502への交流電流の供給が停止させるため、テンションバンド203上には渦電流が発生しない。これにより、移動手摺20の表面温度Tが第2の温度T2よりも高くなること、換言すれば、移動手摺20が温まりすぎることを防止することができる。
【0039】
上記のように、エスカレータ10によれば、移動手摺20の表面温度Tが第1の温度T1より低くなれば移動手摺20が冷たくなったと判断して渦電流発生装置50を作動させて移動手摺20を温め、一方、移動手摺20の表面温度Tが第2の温度T2より高くなれば移動手摺20が十分温めされたものとして渦電流発生装置50の作動を停止させて移動手摺20を冷ます。これにより、移動手摺20の表面温度Tを好適に調温する。したがって、エスカレータ10が例えば屋外に設置されている場合の冬場であっても移動手摺20の表面温度Tは適した温度に温められるため、乗客4の移動手摺20の利用促進につなげることができる。
【0040】
なお、上記第1の温度T1と第2の温度T2とは、第1の温度T1<第2の温度T2の関係であるが、それぞれの値は適宜変更することができ、例えば、移動手摺20を乗客4が快適と感じると考えられる温度に設定すればよい。例えば、第1の温度T1を15℃とし第2の温度T2を25℃とすることができる。
【符号の説明】
【0041】
4 乗客、6 乗場床、8 降場床、10 エスカレータ、20 移動手摺、22 移動手摺案内レール、24 ステップ、26 ステップチェーン、28 主駆動装置、30 手摺駆動装置、32 駆動ローラ、34 加圧ローラ、50 渦電流発生装置、60 温度センサ、70 制御盤、202 芯地部、203 テンションバンド、204 表層部、206 キャンバス部、502 コイル部、503 スイッチ回路、504 電源部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動手摺と、
前記移動手摺の内部に埋め込まれている金属部と、
前記移動手摺の外部に設けられ、前記金属部に流れる渦電流を発生させる渦電流発生部と、
を備えることを特徴とするエスカレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のエスカレータにおいて、
前記移動手摺の表面温度が第1の温度よりも低いときに前記渦電流発生部を作動させ、前記表面温度が第2の温度よりも高いときに前記作動を停止させる制御部を備えることを特徴とするエスカレータ。
【請求項3】
請求項2に記載のエスカレータにおいて、
前記金属部は、平板形状を有することを特徴とするエスカレータ。
【請求項4】
請求項3に記載のエスカレータにおいて、
前記渦電流発生部は、
前記金属部の平板面に対して垂直な方向に沿った磁束が変化するように磁束を発生させる磁束発生部を備えることを特徴とするエスカレータ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のエスカレータにおいて、
前記金属部は、帯状の薄鋼板であることを特徴とするエスカレータ。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか1に記載のエスカレータにおいて、
前記渦電流発生部は、
前記エスカレータに含まれるトラス内のうち、前記制御部が配置される領域の近傍に配置されることを特徴とするエスカレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121691(P2012−121691A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273989(P2010−273989)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】