説明

エスクレチン誘導体

【課題】
光反応性高分子材料および各種化学製品の原料として有用な新規エスクレチン誘導体を提供すること。
【解決手段】
下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体。
【化1】


(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、アシル基、アラルキル基またはアルコキシカルボニル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は(メタ)アクリロイル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエスクレチン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
クマリン環を有する化合物は、光照射により分子構造が変化することが知られている。そのような特性を応用したものとして、側鎖にクマリン環を有する重合体からなる高分子材料が報告されており、ハイドロゲル(非特許文献1)あるいは偏光膜(特許文献1)として用いられている。
【0003】
非特許文献1における重合体は、長波長光の照射によって高分子鎖中のクマリン環が二量化する。二量化の際、高分子鎖中のクマリン環の含有量が多いと低吸水性樹脂を生成し、含有量が少ないと高吸水性樹脂(ハイドロゲル)を生成する。次に、短波長光を照射すると二量化した部位は単量化し、水溶性ポリマーを生成する。また、特許文献1における重合体は、偏光照射することによって高分子鎖が特定方向に配列した偏光膜となる。
【非特許文献1】Macromolecules 1990, 23, 2693-2697
【特許文献1】特開2000−226415
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記したような光反応性高分子材料の分野において、クマリン環を高分子鎖中に組み込むための新しい方法として、エスクレチン(6,7−ジヒドロキシクマリン)に重合性基を導入しこれを重合させる方法を開発し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明の目的は、光反応性高分子材料として有用な重合体を与える新規エスクレチン誘導体を提供することである。
また、エスクレチン誘導体は、各種化学製品の原料として有用な化合物であるため、新規エスクレチン誘導体の開発は強く要望されており、本発明のもう一つの目的は、各種化学製品の原料として有用な、新規エスクレチン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、アシル基、アラルキル基またはアルコキシカルボニル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は(メタ)アクリロイル基である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光反応性高分子材料および各種化学製品の原料として有用な新規エスクレチン誘導体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、さらに具体的に説明する。
本発明に係るエスクレチン誘導体は、下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、アシル基、アラルキル基またはアルコキシカルボニル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は(メタ)アクリロイル基である。)
すなわち、本発明に係るエスクレチン誘導体は、クマリン環の6位および/または7位に結合している酸素原子に(メタ)アクリロイル基が結合していることを特徴としている。
【0013】
式(I)におけるアルキル基としては、具体的には炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。さらに具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。
【0014】
式(I)におけるアシル基としては、具体的には炭素数1〜7のアシル基が挙げられる。さらに具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
【0015】
式(I)におけるアラルキル基としては、具体的には炭素数6〜12のアラルキル基が挙げられる。さらに具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0016】
式(I)におけるアルコキシカルボニル基としては、具体的には炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基が挙げられる。さらに具体的には、Boc基(tert−ブトキシカルボニル基)、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、ペントキシカルボニル基、ネオペントキシカルボニル基、アミロキシカルボニル基、ヘキトキシカルボニル基、ヘプトキシカルボニル基、オクトキシカルボニル基、2−エチルヘキトキシカルボニル基、ノニノキシカルボニル基、デシロキシカルボニル基、ウンデシロキシカルボニル基、ドデシロキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、3−ブテニルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、などが挙げられる。
【0017】
本発明に係るエスクレチン誘導体は、具体的には、
6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6,7−ジ(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ヒドロキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アルコキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アシルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アラルキルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アルコキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アルコキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アシルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アラルキルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アルコキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、である。
【0018】
7−アルコキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
7−メトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−エトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−n−プロポキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−イソプロポキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−n−ブトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−イソブトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−s−ブトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−t−ブトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0019】
7−アシルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、7−アセチルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−プロピオニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ブチリルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−イソブチリルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ピバロイルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ベンゾイルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0020】
7−アラルキルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
7−ベンジルオキシ6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−フェニルエトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−フェニルプロポキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−フェニルブトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ナフチルメトキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0021】
7−アルコキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
7−Bocオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−メトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−エトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−プロポキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−n−ブトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−イソブトキカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−s−ブトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ペントキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ネオペントキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アミロキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ヘキトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ヘプトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−オクトキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−(2−エチルヘキトキシ)カルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ノニノキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−デシロキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ウンデシロキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ドデシロキシボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−アリルオキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−(3−ブテニル)オキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
7−ベンジルオキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0022】
6−アルコキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
6−メトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−エトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−n−プロポキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−イソプロポキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−n−ブトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−イソブトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−s−ブトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−t−ブトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0023】
6−アシルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、6−アセチルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−プロピオニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ブチリルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−イソブチリルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ピバロイルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ベンゾイルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0024】
6−アラルキルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
6−ベンジルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−フェニルエトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−フェニルプロポキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−フェニルブトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ナフチルメトキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、などが挙げられる。
【0025】
6−アルコキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンとしては、具体的には、
6−Bocオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−メトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−エトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−プロポキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−n−ブトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−イソブトキカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−s−ブトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ペントキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ネオペントキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アミロキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ヘキトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ヘプトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−オクトキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−(2−エチルヘキトキシ)カルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ノニノキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−デシロキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ウンデシロキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ドデシロキシボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−アリルオキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−(3−ブテニル)オキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、
6−ベンジルオキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、が挙げられる。
【0026】
次に、本発明のエスクレチン誘導体の製造方法について説明する。
6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、下記の製造方法(i)
〜(iii)によって得ることができる。
【0027】
製造方法(i)は、エスクレチンと、1倍等量の(メタ)アクリル酸とを、脱水縮合剤
の存在下で反応させる製造方法である。脱水縮合剤としては、たとえばWSC・HClTM(1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)、DCC(N,N'−
ジシクロヘキシルカルボジイミド)、CDI(N,N'−カルボニルジイミダゾール)な
どを用いることができる。脱水縮合剤の使用量は、エスクレチンに対して、好ましくは1.0〜2.0倍当量、より好ましくは1.0〜1.1倍当量である。
【0028】
製造方法(ii)は、エスクレチンと、1倍等量のハロゲン化(メタ)アクリロイルとを、塩基性物質の存在下で反応させる製造方法である。ハロゲン化(メタ)アクリロイルとしては、塩化(メタ)アクリロイル、臭化(メタ)アクリロイルおよびヨウ化(メタ)アクリロイルが挙げられる。化合物の取り扱いおよび入手容易性の観点から塩化(メタ)アクリロイルが好ましく用いられる。塩基性物質としては、たとえばDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、ピリジン、トリエチルアミン、DABCO(1,4−ジアザビシク
ロ[2,2,2]オクテン)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデ
カン)などを用いることができる。塩基性物質は、それ自体を反応溶媒として用いてもよいし、反応溶媒に添加して用いてもよい。
【0029】
製造方法(iii)は、エスクレチンと1倍等量の(メタ)アクリル酸とを、酸の存在下
で反応させる製造方法である。酸としては、たとえば、硫酸、塩酸、リン酸、過塩素酸、硝酸などの無機酸、あるいは、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸を用いることができる。
【0030】
6,7−ジ(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、下記の製造方法(iv)〜(vi)によって得ることができる。
製造方法(iv)は、エスクレチンと、2倍等量もしくは2倍当量よりも過剰の(メタ)アクリル酸とを、脱水縮合剤の存在下で反応させる製造方法である。脱水縮合剤としては、たとえば製造方法(i)において用いるものを同様に用いることができ、脱水縮合剤の
使用量は、エスクレチンに対して、好ましくは2〜4倍当量、より好ましくは2〜2.2倍当量である。
【0031】
製造方法(v)は、エスクレチンと、2倍等量もしくは2倍当量よりも過剰のハロゲン
化(メタ)アクリロイルとを、塩基性物質の存在下で反応させる製造方法である。ハロゲン化(メタ)アクリロイルとしては、製造方法(ii)で用いるものを同様に用いることができる。塩基性物質としては、たとえば製造方法(ii)で用いるものを同様に用いることができる。塩基性物質は、それ自体を反応溶媒として用いてもよいし、反応溶媒に添加して用いてもよい。
【0032】
製造方法(vi)は、エスクレチンと、2倍等量もしくは2倍当量よりも過剰の(メタ)アクリル酸とを、酸の存在下で反応させる製造方法である。酸としては、たとえば製造方法(iii)で用いるものを同様に用いることができる。
【0033】
7−ヒドロキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、7−アルコキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンまたは7−アルコキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンを出発原料とする製造方法によって得ることができる。具体的には、下記の製造方法(vii)および(viii)が挙げられる。
【0034】
製造方法(vii)は、7−アルコキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、
臭化水素、ヨウ化水素、トリフルオロアルミニウム、臭化アルミニウム、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素または三ヨウ化ホウ素などを反応させて、アルキル基を脱離させる製造方法である。
【0035】
製造方法(viii)は、7−アルコキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム等の弱アルカリを反応させるか、または、HF、HCl、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、BF3,メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸など
の酸を反応させて、アルコキシカルボニル基を脱離させる製造方法である。
【0036】
7−アルコキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリン、7−アシルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンおよび7−アラルキルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、上記製造方法(i)〜(iii)において、出発原料としてエスクレチンの代りに、7−アルコキシ−6−ヒドロキシクマリン、7−アシルオキシ−6−ヒドロキシクマリンおよび7−アラルキルオキシ−6−ヒドロキシクマリンを用いることによって、それぞれ製造することができる。
【0037】
7−アルコキシカルボニルオキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、上記製造方法(i)または(ii)において、出発原料としてエスクレチンの代りに7−アルコ
キシカルボニルオキシ−6−ヒドロキシクマリンを用いることによって製造することができる。
【0038】
6−アルコキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、次に示す製造方法(ix)によって得ることができる。
製造方法(ix)は、6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、ヨウ化アルキル、ジアルキル硫酸などのアルキル化剤を反応させて、アルキル基を導入する製造方法である。
【0039】
6−アシルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、次に示す製造方法(x)によって得ることができる。
製造方法(x)は、6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、無水カルボン酸、ハロゲン化アシルなどのアシル化剤を反応させて、アシル基を導入する製造方法である。
【0040】
6−アラルキルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、次に示す製造方法(xi)によって得ることができる。
製造方法(xi)は、6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、ハロゲン化アラルキル(塩化ベンジル、(2−クロロエチル)ベンゼン、ブロモメチルナフタレン、9−(クロロメチル)アントラセン等)などのアラルキル化剤を反応させて、ア
ラルキル基を導入する製造方法である。
【0041】
6−アルコキシカルボニルオキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、次に示す製造方法(xii)によって得ることができる。
製造方法(xii)は、6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンに、DIBOCTM (Di-tert-butyl dicarbonate)、クロロ炭酸エステル類(メチルクロロカルボネート、エチルクロロカルボネート、イソプロピルクロロカルボネート、プロピルクロロカルボネート、n-ブチルクロロカルボネート、イソブチルクロロカルボネート、sec-ブチルクロロカルボネート、ネオペンチルクロロカルボネート、ヘキシルクロロカルボネート、2−エチルヘキシルクロロカルボネート、デシルクロロカルボネート、ドデシルクロロカルボネート、アリルクロロカルボネート、ベンジルクロロカルボネート等)などのアルコキシカルボニル化剤を反応させて、アルコキシカルボニル基を導入する製造方法である。
【0042】
上記の各製造方法において、反応は有機溶媒中で行うことが好ましく、当該有機溶媒としては、たとえばジクロロメタン、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、ニトロベンゼン、ニトロメタンなどが挙げられる。上記の各製造方法において、反応温度および反応時間は反応の進行状態により適宜選択すればよく、たとえば反応時間2〜24時間、反応温度0〜40℃の条件で行うことができる。精製方法としては、抽出、クロマトグラフィー、結晶化、再沈殿等を利用することができる。得られたエスクレチン誘導体の構造は、赤外線吸収スペクトル、紫外線吸収スペクトル、核磁気共鳴吸収スペクトル、元素分析、質量スペクトル等により確認することができる。
【0043】
本発明に係るエスクレチン誘導体は、一般的な(メタ)アクリル酸エステルと同様に、(メタ)アクリロイル基の炭素−炭素二重結合部位を重合させることによって重合体を与える。なお、本発明における重合は、エスクレチン誘導体のみで行う単独重合およびエスクレチン誘導体と当該誘導体と重合し得る任意の単量体((メタ)アクリル酸エステルなど)とを混合して行う共重合の両方を意味する。
【0044】
本発明に係るエスクレチン誘導体からなる重合体は、クマリン環を有しているため、光照射によって分子構造を変化させることができる。具体的に説明すると、長波長光を照射すると高分子鎖中のクマリン環が二量化し、重合体は不溶性になる。また、クマリン環が二量化した重合体に対して短波長光を照射すると、クマリン環は単量化し、可溶性になる。したがって、ネガ・ポジ両用型レジスト材料などの光反応性高分子材料として有用である。
【0045】
ネガ型レジストとして用いる場合は、クマリン環が単量化し可溶性の状態のレジスト膜を形成し、その後特定パターンの長波長光を照射することによって露光部のみを不溶化し、露光部以外の部分を除去することができる。
【0046】
ポジ型レジストとして用いる場合は、クマリン環が二量化して不溶性の状態のレジスト膜を形成し、その後特定パターンの短波長光を照射することによって露光部のみを可溶化し、除去することができる。
【0047】
また、6,7−ジ(メタ)アクリロイルオキシクマリンは分子内に2つの炭素−炭素二重結合を有しているため、クマリン環を有する架橋性モノマーとして特に有用である。
また、本発明におけるアルキル基またはアルコキシカルボニル基を有するエスクレチン誘導体については、重合前もしくは重合後の任意の時期にこれらの保護基を部分的もしくは完全にはずすことが可能であり、これにより水酸基含有モノマー、オリゴマーまたはポリマーを得ることができる。
【0048】
7−ヒドロキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンおよび/または6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンからなる重合体は、クマリン環にヒドロキシル基を有しているため親水性が高い。したがって、高吸水性のハイドロゲルとしての利用が期待できる。
【0049】
本発明のエスクレチン誘導体は、上記のように重合性モノマーとして有用であるが、用途はそれに限定されず、各種化学製品の原料としても有用である。たとえば、7−ヒドロキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシクマリンおよび6−ヒドロキシ−7−(メタ)アクリロイルオキシクマリンは、炭素−炭素二重結合とヒドロキシル基とを兼ね備えているため、多様な誘導体を形成することが可能であり、幅広い分野への応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、光反応性高分子材料および各種化学製品の原料として有用な新規エスクレチン誘導体が提供される。
<実施例>
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1(6−ヒドロキシ−7−メタクリロイルオキシクマリン)
30mL三口フラスコに、エスクレチン1.0g(5.61mmol)を入れ、ジクロロメタン15mlに懸濁させた。そこにジクロロメタン5mLに溶解させたメタクリル酸0.483g(5.61mmol)を滴下し
た。氷冷し、WSC・HClTM(1-Ethyl-3-(dimethylaminopropyl)carbodiimide・hydrochloride)1.13g(5.89mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mLで2回、飽和食塩水20mLで2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、
濃縮した。これをシリカゲルカラムで分離精製(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)し、真空乾燥したところ淡黄色粉体として6−ヒドロキシ−7−メタクリロイルオキシクマリン0.33g(1.34mmol, 23.9%)を得た。1H-NMR(DMSO); δ1.98(s, 3H), 5,89(s, 1H), 6.25(s, 1H), 6.28(d, 1H), 6.87(s, 1H), 7.47(s, 1H), 7.89(d, 1H), 11.0(br, 1H): IR(KBr); 1605 cm-1(C=C), 1690 and 1735 cm-1(C=O), 3110cm-1(OH)
実施例2(6,7−ジメタクリロイルオキシクマリン)
30mL三口フラスコに、エスクレチン1.0g(5.61mmol)を入れ、ジクロロメタン15mLに懸濁させた。そこにジクロロメタン5mLに溶解させたメタクリル酸0.990g(11.5mmol)を滴下し
た。氷冷し、WSC・HClTM(1-Ethyl-3-(dimethylaminopropyl)carbodiimide・hydrochloride)2.26g(11.8mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応液を1N水酸化ナトリウム水溶液20mLで2回、水20mL、飽和水溶液20mLで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮した。これをシリカゲルカラムで分離精製(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)し、真空乾燥したところ白色粉体として6,7−ジメタクリロイルオキシクマリン1.03g(3.28mmol, 58.4%)を得た。1H-NMR(DMSO); δ1.98(s, 6H), 5.93(s, 2H), 6.21(s, 2H), 6.55(d,
1H), 7.56(s, 1H), 7.79(s, 1H), 8.04(d, 1H): IR(KBr); 1610cm-1(C=C), 1735 and 1755cm-1(C=O)
実施例3(6−メタクリロイルオキシ−7−ヒドロキシクマリン)
30 mL フラスコに実施例4で得た6−メタクリロイルオキシ−7−Bocオキシクマリン 0.93 g (2.69 mmol) を入れ、4N HCl/酢酸エチル(国産化学(株)社製) 10 mL
を加え、室温で一晩撹拌した。反応液を濃縮し、シリカゲルカラムにより分離精製 (ヘキサン:酢酸エチル=2:1) し、減圧乾燥したところ、6−メタクリロイルオキシ−7−ヒドロキシクマリン 0.24 g (0.975 mmol, 36.2 %) を薄黄色粉末として得た。1H-NMR (DMSO); δ 2.08 (s, 3H), 5.99 (s, 1H), 6.34 (s, 1H), 6.37 (d, 1H), 6.96 (s, 1H), 7.55 (s, 1H), 7.98 (d, 1H), 11.04 (br, 1H) : IR (KBr); 1605 cm-1 (C=C), 1702 and 1730 cm-1 (C=O), 3250 cm-1 (O-H)
実施例4(6−メタクリロイルオキシ−7−Bocオキシクマリン)
30mL三口フラスコに6−ヒドロキシ−7−Bocオキシクマリン 1.0 g (3.59 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン (DMAP) 0.228 g (1.86 mmol) をジクロロメタン 10 mL に
懸濁させた。そこにジクロロメタン 5 mL に溶解したメタクリル酸 0.340 g (3.95 mmol)
を入れた。氷冷下、WSC・HClTM(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide・hydrochloride) 0.757 g (3.95 mmol) を加え、室温で12時間撹拌した。反応液を10%クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウム、水、飽和食塩水 30 mL で洗浄し、硫酸ナトリウムによ
り乾燥、濃縮、減圧乾燥したところ、6−メタクリロイルオキシ−7−Bocオキシクマリン1.15 g (3.32 mmol, 92.5 %) を薄黄色粉末として得た。1H-NMR (DMSO); δ 1.54 (s, 9H), 2.08 (s, 3H), 6.08 (s, 1H), 6.37 (s, 1H), 6.63 (d, 1H), 7.64 (d, 1H), 7.64 (s, 1H), 7.88 (s, 1H), 8.12 (d, 1H)
: IR (KBr); 1625 cm-1 (C=C), 1730 and 1760 cm-1 (C=O)
実施例5(6−メタクリロイルオキシ−7−ベンジルオキシクマリン)
200 mL 四つ口フラスコに6−ヒドロキシ−7−ベンジルオキシクマリン 10 g (37.3 mmol) をジクロロメタン 100 mL に懸濁させた。そこにジクロロメタン 10 mL に溶解したメタクリル酸 3.37 g (39.2 mmol) を滴下した。氷冷下、WSC・HClTM(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide・hydrochloride) 7.86 g (41.0 mmol) を加え、室温で12時間撹拌した。反応が完全に進行しなかったので 4-ジメチルアミノピリジン (DMAP) 0.228 g (1.86 mmol) を添加し、室温で 3 時間撹拌した。反応後、1N 水酸化ナトリウム
水溶液 50 mL 加え、分液した。有機層を1NHCl、飽和炭酸水素ナトリウム、水、飽
和食塩水 50 mL で洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥、濃縮、減圧乾燥したところ、6
−メタクリロイルオキシ−7−ベンジルオキシクマリン10.7 g (31.4 mmol, 85.3 %) を
白色粉末として得た。 1H-NMR (DMSO); δ 2.10 (s, 6H), 5.34 (s, 2H), 5.99 (s, 1H),
6.37 (s, 1H), 6.44 (d, 1H), 7.39 (s, 1H), 7.40-7.48 (m, 5H), 7.68 (s, 1H), 8.04
(d, 1H) : IR (KBr); 1625 cm-1 (C=C), 1740 cm-1 (C=O)
実施例6(6−アクリロイルオキシ−7−ベンジルオキシクマリン)
300 mL 四つ口フラスコに6−ヒドロキシ−7−ベンジルオキシクマリン 10 g (37.3 mmol) をジクロロメタン 100 mL に懸濁させた。そこにジクロロメタン 10 mL に溶解したアクリル酸 2.82 g (39.2 mmol) を滴下した。更に、4-ジメチルアミノピリジン (DMAP) 0.228 g (1.86 mmol) を入れた。続いて氷冷下、WSC・HClTM(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide・hydrochloride) 7.86 g (41.0 mmol) を加え、室温で12時間撹拌した。反応後、1N 水酸化ナトリウム水溶液 50 mL 加え、分液した。有機層を1NHCl、水、飽和食塩水 50 mL で洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥、濃縮、減圧乾燥した
。得られた黄色粉末をメタノール 100 mL に分散し、ろ別した。これを減圧乾燥したところ、6−アクリロイルオキシ−7−ベンジルオキシクマリン10.2 g (31.6 mmol, 84.8 %)
を白色粉末として得た。 1H-NMR (DMSO); δ 5.34 (s, 2H), 6.24 (d, 1H), 6.45 (d, 1H), 6.54-6.62 (m, 2H), 7.38 (s, 1H), 7.46-7.47 (m, 5H), 7.68 (s, 1H), 8.03 (d, 1H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体。
【化1】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、アシル基、アラルキル基またはアルコキシカルボニル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は(メタ)アクリロイル基である。)

【公開番号】特開2006−104175(P2006−104175A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296720(P2004−296720)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(390033927)アイバイツ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】